Microsoft Word - 【変更済】プレスリリース要旨_飯島・関谷H29_R6.docx

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共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

本成果は 以下の研究助成金によって得られました JSPS 科研費 ( 井上由紀子 ) JSPS 科研費 , 16H06528( 井上高良 ) 精神 神経疾患研究開発費 24-12, 26-9, 27-

平成24年7月x日

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

Microsoft Word - (最終版)170428松坂_脂肪酸バランス.docx

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

概要 名古屋大学環境医学研究所の渡邊征爾助教 山中宏二教授 医学系研究科の玉田宏美研究員 木山博資教授らの国際共同研究グループは 神経細胞の維持に重要な役割を担う小胞体とミトコンドリアの接触部 (MAM) が崩壊することが神経難病 ALS( 筋萎縮性側索硬化症 ) の発症に重要であることを発見しまし

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( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 2 月 4 日 独立行政法人理化学研究所 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の進行に二つのグリア細胞が関与することを発見 - 神経難病の一つである ALS の治療法の開発につながる新知見 - 原因不明の神経難病 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は 全身の筋

神経細胞での脂質ラフトを介した新たなシグナル伝達制御を発見

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

研究の背景社会生活を送る上では 衝動的な行動や不必要な行動を抑制できることがとても重要です ところが注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などの精神 神経疾患をもつ患者さんの多くでは この行動抑制の能力が低下しています これまでの先行研究により 行動抑制では 脳の中の前頭前野や大脳基底核と呼ばれる領域が

上原記念生命科学財団研究報告集, 30 (2016)

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

Microsoft Word - 01.doc

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「飢餓により誘導されるオートファジーに伴う“細胞内”アミロイドの増加を発見」【岡澤均 教授】

NIRS は安価かつ低侵襲に脳活動を測定することが可能な検査で 統合失調症の精神病症状との関連が示唆されてきました そこで NIRS で測定される脳活動が tdcs による統合失調症の症状変化を予測し得るという仮説を立てました そして治療介入の予測における NIRS の活用にもつながると考えられまし

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

記 者 発 表(予 定)

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

スライド 1

サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

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プレスリリース 報道関係者各位 2019 年 10 月 24 日慶應義塾大学医学部大日本住友製薬株式会社名古屋大学大学院医学系研究科 ips 細胞を用いた研究により 精神疾患に共通する病態を発見 - 双極性障害 統合失調症の病態解明 治療薬開発への応用に期待 - 慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄

論文の内容の要旨

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

< 用語解説 > 注 1 ゲノムの安定性ゲノムの持つ情報に変化が起こらない安定な状態 つまり ゲノムを担う DNA が切れて一部が失われたり 組み換わり場所が変化たり コピー数が変動したり 変異が入ったりしない状態 注 2 リボソーム RNA 遺伝子 タンパク質の製造工場であるリボソームの構成成分の

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遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

11 月 16 日午前 9 時 ( 米国東部時間 ) にオンライン版で発表されます なお 本研究開発領域は 平成 27 年 4 月の日本医療研究開発機構の発足に伴い 国立研究開発法人科学 技術振興機構 (JST) より移管されたものです 研究の背景 近年 わが国においても NASH が急増しています

PRESS RELEASE (2012/9/27) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

報道発表資料 2007 年 11 月 16 日 独立行政法人理化学研究所 過剰にリン酸化したタウタンパク質が脳老化の記憶障害に関与 - モデルマウスと機能的マンガン増強 MRI 法を使って世界に先駆けて実証 - ポイント モデルマウスを使い ヒト老化に伴う学習記憶機能の低下を解明 過剰リン酸化タウタ

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

Microsoft Word - 日本語解説.doc

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

平成24年7月x日

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

平成14年度研究報告

研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

Microsoft Word CREST中山(確定版)

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

報道発表資料 2007 年 4 月 11 日 独立行政法人理化学研究所 傷害を受けた網膜細胞を薬で再生する手法を発見 - 移植治療と異なる薬物による新たな再生治療への第一歩 - ポイント マウス サルの網膜の再生を促進することに成功 網膜だけでなく 難治性神経変性疾患の再生治療にも期待できる 神経回

背景 私たちの体はたくさんの細胞からできていますが そのそれぞれに遺伝情報が受け継がれるためには 細胞が分裂するときに染色体を正確に分配しなければいけません 染色体の分配は紡錘体という装置によって行われ この際にまず染色体が紡錘体の中央に集まって整列し その後 2 つの極の方向に引っ張られて分配され

報道解禁日 : 日本時間 2017 年 2 月 14 日午後 7 時 15 日朝刊 PRESS RELEASE 2017 年 2 月 10 日理化学研究所大阪市立大学 炎症から脳神経を保護するグリア細胞 - 中枢神経疾患の予防 治療法の開発に期待 - 要旨理化学研究所 ( 理研 ) ライフサイエンス

東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

Microsoft Word - tohokuuniv-press _02.docx

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし


解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

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Microsoft Word - Ⅲ-11. VE-1 修正後 3.14.doc

H29年報 12 組織恒常性MO

研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります


るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

図 1 マイクロ RNA の標的遺伝 への結合の仕 antimir はマイクロ RNA に対するデコイ! antimirとは マイクロRNAと相補的なオリゴヌクレオチドである マイクロRNAに対するデコイとして働くことにより 標的遺伝 とマイクロRNAの結合を競合的に阻害する このためには 標的遺伝

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

第6号-2/8)最前線(大矢)

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 8 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 GABA 抑制の促進がアルツハイマー病の記憶障害に関与 - GABA 受容体阻害剤が モデルマウスの記憶を改善 - 物忘れに始まり認知障害へと徐々に進行していくアルツハイマー病は 発症すると究極的には介護が欠か

Microsoft Word - HP用.doc

記 者 発 表(予 定)

統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異の同定と病態メカニズムの解明 ポイント 統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異 (CNV) が 患者全体の約 9% で同定され 難病として医療費助成の対象になっている疾患も含まれることが分かった 発症に関連した CNV を持つ患者では その 40%

Microsoft Word - 運動が自閉症様行動とシナプス変性を改善する

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Microsoft Word - 3.No._別紙.docx

ランゲルハンス細胞の過去まず LC の過去についてお話しします LC は 1868 年に 当時ドイツのベルリン大学の医学生であった Paul Langerhans により発見されました しかしながら 当初は 細胞の形状から神経のように見えたため 神経細胞と勘違いされていました その後 約 100 年

報道発表資料 2007 年 8 月 1 日 独立行政法人理化学研究所 マイクロ RNA によるタンパク質合成阻害の仕組みを解明 - mrna の翻訳が抑制される過程を試験管内で再現することに成功 - ポイント マイクロ RNA が翻訳の開始段階を阻害 標的 mrna の尻尾 ポリ A テール を短縮

Microsoft PowerPoint - 分子生物学-6 [互換モード]

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ビジネスパーソン外飲み事情

たんぱく質の構造 機能と発現メカニズム 平成 13 年度採択研究代表者 永田和宏 ( 京都大学再生医科学研究所教授 ) 小胞体におけるタンパク質の品質管理機構 1. 研究実施の概要細胞は異常な蛋白質が生じた場合 それらを監視して再生ないしは分解処分する品質管理機構を備えている 本研究では小胞体におけ

60 秒でわかるプレスリリース 2007 年 1 月 18 日 独立行政法人理化学研究所 植物の形を自由に小さくする新しい酵素を発見 - 植物生長ホルモンの作用を止め ミニ植物を作る - 種無しブドウ と聞いて植物成長ホルモンの ジベレリン を思い浮かべるあなたは知識人といって良いでしょう このジベ

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1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

共同研究報告書

介護における尊厳の保持 自立支援 9 時間 介護職が 利用者の尊厳のある暮らしを支える専門職であることを自覚し 自立支援 介 護予防という介護 福祉サービスを提供するにあたっての基本的視点及びやってはいけ ない行動例を理解している 1 人権と尊厳を支える介護 人権と尊厳の保持 ICF QOL ノーマ

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図 1. 微小管 ( 赤線 ) は細胞分裂 伸長の方向を規定する本瀬准教授らは NIMA 関連キナーゼ 6 (NEK6) というタンパク質の機能を手がかりとして 微小管が整列するメカニズムを調べました NEK6 を欠損したシロイヌナズナ変異体では微小管が整列しないため 細胞と器官が異常な方向に伸長し

Transcription:

解禁日時 : 平成 29 年 6 月 20 日午前 1 時 ( 日本時間 ) 資料配布先 : 厚生労働記者会 厚生日比谷クラブ 文部科学記者会会見場所 日時 : 厚生労働記者会 6 月 14 日 15 時から ( 厚生日比谷クラブと合同 ) 神経変性疾患治療法開発への期待 = 国立長寿医療センター認知症先進医療開発センター = ストレス応答系を 制御する 2017 年 6 月 20 日 要旨 ( 理事長 : 鳥羽研二 以下 国立長寿医療研究センター という ) 認知症先進医療開発センターアルツハイマー病研究部の関谷倫子研究員と飯島浩一発症機序解析研究室長らは, 国立遺伝学研究所及び首都大学東京との共同研究で,EDEM (ER degradation enhancing α-mannosidase-like protein) というタンパク質の量を増加させて異常なタンパク質の蓄積を防ぐことが, 認知症を始めとする老年性の神経変性疾患の新たな治療戦略になる可能性を見出した 生体を構成するタンパク質のおよそ 1/3 は, 細胞中の小胞体という袋状の器官で作られる この小胞体内で, 上手く折りたたまれずに異常な形をとったタンパク質が検出されると, 小胞体でのタンパク質の合成を一時的に止め, 異常なタンパク質を速やかに分解することで, 小胞体に異常なタンパク質が溜まるのを防ぐ小胞体ストレス応答と呼ばれる仕組みが誘導される アルツハイマー病をはじめとする多くの神経変性疾患の患者脳では, この小胞体ストレス応答の活性化が認められる 小胞体ストレス応答自体は異常なタンパク質が蓄積するのを防ぐ, 生体の持つ強力な防御機構である しかし一方で, 小胞体ストレス応答の過剰な活性化は, 細胞機能の低下や細胞死を引き起こすことから, それらが神経変性疾患の発症にも関係していると考えられている 今回の研究では, 小胞体から異常タンパク質を抜き取って分解する, 小胞体関連分解 (Endoplasmic reticulum associated degradation: ERAD) という仕組みに着目した 神経変性疾患モデルショウジョウバエを用いた実験から, 小胞体関連分解に関係する EDEM というタンパク質のみを増加させることで, 小胞

国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 体関連分解の活性が上昇し 異常タンパク質の蓄積と神経変性が抑えられるこ とを発見した 一方で 小胞体ストレス応答を活性化させた場合や 他の小胞 体分解関連タンパク質では副作用等が起こり EDEM が示したような保護的効 果は再現できなかった さらに この EDEM というタンパク質の量を増加させるのみで 正常な老化 の過程を遅らせることができるかも調べた ショウジョウバエの脳神経細胞や 筋肉細胞 さらに腸の細胞で EDEM タンパク質の量を増加させたところ 老化 に伴う運動能力の低下を抑え さらに寿命を延ばす効果があることも見出した 本研究は 本来備わっている防御機構であるストレス応答系を制御すること が 神経変性疾患をはじめとする老化関連疾患への治療法開発の重要なターゲ ットになることを示唆している この成果は米国科学誌 Developmental Cell 誌に 平成 29 年 6 月 19 日付 で掲載される また本研究は 国立長寿医療研究センターの長寿医療研究開発費 米国 NIH 及び米国 American Federation for Aging Research 財団からの補助を受けて行 われた 老化 神経変性疾患 異常タンパク質の蓄積 若年期 正常 小胞体ストレス応答 老年期 神経変性など EDEMタンパク質の量を増加させる 神経変性疾患モデル ショウジョウバエ 異常タンパク質の蓄積を抑制 神経変性 老化に伴う運動機能低下の改善 寿命が延びる 神経変性を 抑制

背景 生体を構成するタンパク質の約 1/3 は, 小胞体と呼ばれる細胞内の袋状の器官で作られる 小胞体は正しく作られたタンパク質のみを生体に送り出すために, タンパク質の正しい形成を促す, あるいは正しく形成されなかった不良タンパク質や異常タンパク質を選別し除去する仕組みを備えている しかしながら, 疾患やウイルス感染, 有害物質など, さまざまな要因によって小胞体に異常タンパク質の蓄積が起こることがある そこで, 小胞体は小胞体ストレス応答という仕組みを活性化し, タンパク質の合成を減らす, タンパク質の形成 修復を促す, 不良 異常タンパク質を除去する, という方法で小胞体にかかるストレスを軽減しようとする この小胞体ストレス応答は, 生体の持つ強力な防御機構である一方で, 過剰な活性化は細胞機能の低下や細胞死を引き起こすことが知られている アルツハイマー病やパーキンソン病, 筋萎縮性側索硬化症といった神経変性疾患でも, 慢性的な小胞体ストレス応答の上昇が認められており, その副作用が疾患の発症に関与している可能性がある 今回の研究では, 神経細胞の小胞体に異常タンパク質を蓄積するショウジョウバエ神経変性疾患モデルを作製し, 異常タンパク質の蓄積を減少させる方法を探索した 研究手法と成果 ショウジョウバエ脳の神経細胞特異的にその小胞体で異常タンパク質を蓄積させると, 経時的に運動機能の低下が起こり, 神経細胞の脱落が認められる この神経変性疾患モデルショウジョウバエを用い, 異常タンパク質の蓄積量と運動機能低下, さらに神経細胞死を指標として, それらを軽減させる効果を持つ遺伝子の探索を行った その結果,EDEM ( Endoplasmic reticulum degradation-enhancing α-mannosidase-like protein) というタンパク質の量を増加させると, 異常タンパク質を減らし, さらに副作用を起こすことなく運動機能の低下と神経細胞死を抑えることを発見した ( 図 1) EDEM は, 小胞体で正しく形成されなかった不良タンパク質や異常タンパク質を選別し除去する, 小胞体関連分解 (Endoplasmic reticulum associated degradation: ERAD) という仕組みに関係するタンパク質である 一方で, 小胞体ストレス応答を活性化させた場合や, 他の小胞体分解関連タンパク質を増加させると副作用が見られ,EDEM が示したような保護的効果を再現できなかった さらに, この EDEM というタンパク質の量を増加させるのみで, 正常な老化

の過程を遅らせることができるかも検討した その結果, ショウジョウバエの 脳神経細胞や筋肉細胞, さらに腸の細胞で EDEM タンパク質の量を増加させた ところ, 老化に伴う運動能力の低下が抑えられ, さらに寿命を延ばす効果があ ることも発見した ( 図 2) 今後の期待 小胞体ストレス応答の慢性的な活性化は, 神経変性疾患のみならす,1 型, 2 型糖尿病の発症機序にも関わることが知られている 本研究により, 生体に対して副作用を伴う小胞体ストレス応答の活性化を通さず,EDEM の増加のみを生じさせることが, 小胞体関連分解を誘導するための一つの治療戦略になる可能性が示された また本研究により, 本来備わっている防御機構であるストレス応答系を制御することが, 神経変性疾患をはじめとする老化関連疾患への治療法開発の重要なターゲットになることが示唆された 原著論文情報 Sekiya, M., Maruko-Otake, A., Hearn, S., Fujisaki, N., Sakakibara, Y., Suzuki, E., Ando, K. & Iijima, K.M. (2017) EDEM function in ERAD protects against chronic ER proteinopathy and age-related physiological decline in Drosophila. Developmental Cell, in press リリースの内容に関するお問い合わせ { 部署名 } アルツハイマー病研究部飯島浩一 E-mail iijimakm@ncgg.go.jp 報道対応 国立長寿医療研究センター総務部総務課広報担当電話 0562(46)2311( 代表 ) E-mail: terada-h@ncgg.go.jp 474-8511 愛知県大府市森岡町 7 丁目 430 番地

補足説明 EDEM A 1.2 1. 0.8 0.6 0.4 0.2 * *p<0.001 B 図 1 EDEM タンパク質の量を神経細胞で増加させると, ショウジョウバエ神 経変性疾患モデル脳における異常タンパク質の蓄積量が減少し (A), 神経細胞 死も抑えられる (B) A EDEM B EDEM 10 8 6 4 2 21 42 10 8 6 4 2 図 2 EDEM タンパク質の量を筋肉細胞で増加させると, 老化に伴う運動機能 の低下が改善し (A), 腸の細胞で増加させると寿命が延びる (B)