営 V iewpoint 相 談自己株式の取得に係る会計と税務について 宮澤正彦部東京室 自己株式の取得については 平成 18 年に資産の取得から資本の控除項目へと会計基準が変更されました この改正に伴い 税法も取扱いが変更されました 自己株式の取得についての手続きや留意点などについては別に解説しました ( ) が 今回は会計と税務について発行会社と株主の取扱いや留意点などについて解説します 2009 年 4 月 27 日発行 特定の株主からの自己株式の取得について をご参照 ( なお 本文中 ( 会 ) は会社法 条 ( 法法 ) は法人税法 条 ( 法令 ) は法人税法施行令 ( 措法 ) は租税特別措置法 条 ( 措令 ) は租税特別措置法施行令 条 ( 会計 ) は 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 の番号を表記しています ) 自己株式の取得については 従来他の有価証券と同様に換金性のある会社財産として資産として取り扱っていましたが 平成 18 年に 自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 が改定され資本の控除項目とされました この理由は自己株式の取得は株主との間の資本取引であり 株式所有者に対する会社財産の払戻しの性格を有することを主な論拠としています これに伴い 自己株式の取得や処分にかかる付随費用は 従来取得価額として加算していたものを損益計算書の営業外費用に計上することとなりました 税法上もこの変更に関連して18 年度の改正で 取扱いが変更されました 取引価格については 当事者間で任意に決めることができますが 税法上の時価以外で取得する場合は 受贈益等の課税問題が生じる可能性があるとされています ここでは 自己株式の取得と消却について解説し 処分については割愛します なお 紙幅の都合上 税法上の時価による取得を前提に改正後の会計と税務について解説します 1. 発行会社の処理 ( 取得 ) [1] 取得に関する財源上の制約 自己株式は無制限に取得できるものではなく 株主に交付する自己株式の対価の総額は その取得が効力を生じる日における分配可能額を超えることはできません ( 会 4611 二 三 ) 1
分配可能額とは原則として 最終の決算期に係る貸借対照表から算出される剰余金の額から1 最終の決算期後その日までの剰余金の減少額 ( 現に剰余金の配当 自己株式の取得等をした額をいい 決算しなければ確定できない期間損益による変動を含みません ) を控除し 2 最終の決算期後その日までに生じた債権者保護手続きをた剰余金の増加額を加算した額をいいます なお 最終の決算期後その日までに臨時計算書類による決算を行った場合には その期間損益を反映させた額をいいます ( 会 4612 446) [2] 会計処理 1 自己株式として取得原価で計上します 2 付随費用は 損益計算書の営業外費用に計上します ( 借方 ) 自己株式 / ( 貸方 ) 現預金 ( 純資産の部の控除項目 ) 自己株式取得手数料 ( 営業外費用 ) [3] 税務処理 自己株式を取得した場合 その取得のために株主に支払った金銭等の額のうち その取得した株式に対応した資本金等の額を超える金額は みなし配当とされ源泉徴収の対象となります ( 法 241 四 ) この際の取得のために要した付随費用は 取得価額ではなく損金に算入します なお 金融商品取引所の開設する市場における購入や 合併に反対する被合併法人の株主等の買取請求に基づく買取りなどの一定の事由による自己株式の取得は みなし配当の対象から除かれます 税務上の仕訳 資本金等 ( 注 1) 現金預金 利益積立金 ( 注 2) 源泉所得税預り金 ( 注 3) 注 1: 算出方法 ( 法令 820イ ) 資本金等の減少額 = 資本金等の額 ( 1) 取得する自己株式数 / 発行済株式総数 ( 2) 1: 資本金等の額とは 株主の出資財産分に相当し 法人税の申告書別表五 ( 一 )Ⅱ 資本金等の額の計算に関する明細書の差引合計額が該当します 2: 発行済株式数からは 既に保有している自己株式数は控除します なお 取得のために支払った金銭等の額を限度とする 2 以上の種類株式を発行している場合は 種類株式ごとに対応する資本金等に応じて計算します 注 2: みなし配当の額となる部分であり 算出方法は次のとおりです 利益積立金の減少額 = 自己株式取得のために支払った金銭等の額 資本金等の減少額 ( 注 1 の金額 ) 注 3: 算出方法利益積立金の減少額 ( 注 2 の金額 ) 源泉徴収税率 ( 原則 20%) 2
[4] 会計と税務との調整 会計上は 自己株式の取得のために支払った対価は純資産の部の株主資本の減少として取り扱いますが 税務上は 資本金等の額の減少と利益積立金の減少に区分して扱います したがって この差異を確定申告書の別表上で調整します 以上を具体例で解説します 設例 当社は 資本金 1 億円 ( 発行済株式数 2,000 株 ( 自己株式は保有していない ) です 株主との相対取引で 当社の株式 100 株を 9,000,000 円 (1 株当たり 90,000 円 ) で取得しました 株式取得直前の資本金等の額は 120,000,000 円 ( 資本金の額 1 億円 資本準備金 2,000 万円 ) です 取得に際しての購入手数料は 0 円で みなし配当に係る所得税の源泉徴収税率は 20% とします ( 会計上の仕訳 ) 自己株式 9,000,000 現金預金 8,400,000 源泉所得税預り金 600,000( 1) 1: 税務上の仕訳 ( 4) を参照のこと ( 税務上の仕訳 ) 資本金等 6,000,000( 2) 現金預金 8,400,000 利益積立金 3,000,000( 3) 源泉所得税預り金 600,000( 4) 2:(100,000,000+20,000,000) 100/2,000=6,000,000 3:9,000,000-6,000,000=3,000,000 4:3,000,000 20%=600,000 ( 別表調整の仕訳 ) 資本金等 6,000,000 自己株式 6,000,000 利益積立金 3,000,000 自己株式 3,000,000 [5] 計算書類 決算書類への記載は次のとおりです 1 貸借対照表への記載 Ⅰ. 株主資本 1. 資本金 ( 新株式申込証拠金 ) 2. 資本剰余金資本準備金その他資本剰余金 3. 利益剰余金利益準備金その他利益剰余金 4. 自己株式 ( 自己株式申込証拠金 ) Ⅱ. 評価 換算差額等 1. その他有価証券評価差額金 2. 繰延ヘッジ損益 3. 土地評価差額金 Ⅲ. 新株予約権 3
交付金銭交付金銭 2 株主資本等変動計算書への記載 自己株式の取得は 当期中の株主資本の変動額 ( 減少額 ) として記載します 2. 発行会社の処理 ( 消却 ) 取得した自己株式は 期限の定めなく保有し続けることが可能ですが 消却することもできます 旧商法では会社による取得をず 株主が保有した株式を強制消却する方式もありましたが この方式は廃止され 会社法では株式の消却は取得した株式についてのみ行うことができることとされました 消却については 取締役会設置会社では 消却する自己株式の数を 取締役会が決議することで行い ( 会 178) それ以外の会社では株主総会の決議によります( 会 309) 株式の消却により発行済株式数が減少するため 登記を行う必要があります ( 会 911) なお 発行済株式総数が減少しても 発行可能株式総数は影響を受けない ( 相澤哲他 論点解説新 会社法 ( 商事法務 )) ため 発行可能株式総数について変更登記は不要です 会計上は 純資産の部に控除項目として計上された自己株式の帳簿価額相当額だけその他資本剰余金を減少させます ( 会計 473) 控除不足額が生じる場合は その他利益剰余金から控除します( 会計 523) ( 会計上の仕訳 ) その他資本剰余金 自己株式 ( その他利益剰余金 ) 法人税法上は 自己株式を消却しても資本金等の額を構成するものの中での振替えのため 税務上の仕訳は生じません ただし 貸借対照表上の自己株式がなくなることから 別表五 ( 一 ) 資本金等の額の計算に関する明細書 上の自己株式を消却させる必要があり 別表調整が必要となります 3. 株主の処理 自己株式の取得に応じた売却株主の課税関係を図解すると次のようになります 自己株式取得に応じた売却株主の課税関係 [ 取得価額が低い場合 ] [ 取得価額が高い場合 ] 資本金等の額 上記以外 資本金資本準備金利益準備金剰余金 取得価額譲渡益みなし配当 取得価額 みなし配当 この部分は 譲渡損とみなし配当が両建てとなります 4
[1] 法人株主の場合 1 会計処理株主が金銭等の支払いを受けた場合 その金銭等の額の合計額が 自己株式の取得会社 ( 発行会社 ) の資本金等の額のうち一定額を超えるときは その超える部分の金額はみなし配当とされます 支払われた金銭等の額のうち みなし配当とみなされた金額を控除した額が 譲渡対価とされます この譲渡対価と帳簿価額の差額は 通常の有価証券譲渡と同様 有価証券譲渡損益として計上します [ 売却益が生じる場合 ] ( 借方 ) 現預金 / ( 貸方 ) 有価証券 公租公課 有価証券譲渡益 受取配当金 [ 売却損が生じる場合 ] ( 借方 ) 現預金 / ( 貸方 ) 有価証券 有価証券譲渡損 受取配当金 公租公課 2 税務処理配当とみなされる額は 発行会社から通知されます この額は 発行会社の資本金等の額の減少額の算出方法に準じ 前述の発行会社の税務処理の金額 (2ページ注 1) を参照してください みなし配当額 = 交付金銭等の額 - 自己株式対応資本金等の額なお 配当金とみなされた金額は 益金不算入の適用を受けます この場合 発行会社への出資の割合に応じ 特定株式等又は特定株式等以外の株式として扱います 特定株式等の場合 ( 注 ) みなし配当金額から負債利子を控除した全額が 益金に不算入となります 注 : 特定株式とは 自己株式の取得の場合は 支払義務が確定する日の前日以前 6 月以上の期間 25% 以上所有していた法人の株式をいいます 特定株式等以外の株式の場合みなし配当金額から負債利子を控除した金額の50% が 益金に不算入となります なお この判定日は 効力の生じる日の前日です したがって 25% 以上保有していた会社が 自己株式の取得に応じる結果として保有比率が25% 未満となる場合には 特定株式等の適用を受けることができます ( 法令 22の21 一 ) [2] 個人株主の場合 1 会計処理個人株主が金銭等の支払いを受けた場合も 交付を受けた金銭等の額の合計額が 自己株式の取得会社 ( 発行会社 ) の資本金等の額のうち一定額を超えるときは その超える部分の金額は原則と 5
してみなし配当とされます この配当所得は総合課税であり 税率はこの所得を合算した合計所得金額に応じ15%( 所得税 5% 住民税 10%) から最高税率 50%( 所得税 40% 住民税 10%) となります 配当控除の適用はありますが 所得次第では 非常に重い税負担となります このみなし配当としての税負担を軽減するため 一定の要件を満たす相続株式を 発行会社に譲渡した場合は 売却収入の全額が譲渡収入とされ 取得価額との差額が株式の譲渡課税の対象となる特例があります この場合は その他の所得とは区分して この譲渡益に対し 申告分離課税で税率 20%( 所得税 15% 住民税 5%) が課税されます さらに 上場株式等の公開買付けに際し 個人株主が応じやすくするため 同様の特例措置があります 原則配当所得とみなされる金額 ( 発行会社の税務処理の金額 (2ページ注 1)) は 発行会社から通知されます ( みなし ) 配当所得 = 交付金銭等の額 - 自己株式対応資本金等の額ただし この場合 上記受取配当金は 所得区分に応じ 次の配当控除の適用があります ⅰ. 課税総所得金額 1,000 万円配当控除 = 配当所得 10% ⅱ. 課税総所得金額 >1,000 万円かつ ( 課税総所得金額 - 配当所得 )<1,000 万円配当控除 =イ+ロイ :( 配当所得 - 課税総所得金額のうち 1,000 万円を超える額 ) 10% ロ : 課税総所得金額のうち 1,000 万円を超える額 5% ⅲ. 課税総所得金額 >1,000 万円かつ ( 課税総所得金額 - 配当所得 )>1,000 万円配当控除 = 配当所得 5% 相続等による非上場株式譲渡の特例非上場株式 ( 金融商品取引所に上場されている株式及び店頭登録銘柄として登録されている株式以外の株式をいいます ) を その株式の発行会社に譲渡した場合で 次の要件を満たすときは 売却収入の全額が譲渡収入とされ 取得価額との差額が株式の譲渡課税の対象となります ( 措法 9の7) この場合は その他の所得とは区分して この譲渡益に対し 申告分離課税で税率 20% ( 所得税 15% 住民税 5%) が課税されます ( 措法 37の10) さらに この場合は その相続人に課された相続税額のうち 譲渡株式に対応する部分の一定額を その株式の取得費に加算して譲渡所得の金額を計算することができます ( 措法 39 措令 25の16) 相続または遺贈により財産を取得した個人で相続税を納付すべき株主である 相続税の申告書の提出期限の翌日以後 3 年を過する日までに譲渡するしたがって 1 相続した株式でも買取時期が要件を満たしていない場合 ( 一般的には 被相続人である株主の死亡後 3 年 10ヶ月過後 ) や 2 期間内であっても配偶者が相続した株式で 配 6
偶者の相続税の軽減特例の適用 を受けたため相続税が課されていない場合や 3 相続人が相続開始以前から所有していた株式は この特例を受けることはできません この適用を受けようとする個人は その会社に譲渡する時までに 適用を受けようとする者の氏名 住所 被相続人の氏名 死亡時の住所 死亡年月日 相続した株式数と譲渡株式数 など所定の事項を記載した書面を その会社を由してその会社の本店所在地の所轄税務署長に提出しなければなりません ( 措法 9の7 措令 5の2) 株式公開買付による特例金融商品取引所に上場されている株式を公開買付けに応じて売却した場合は 売却収入の全額が譲渡収入とされ 取得価額との差額が株式の譲渡課税の対象となります ( 措法 9の6 措法 37の 10) 保有株式を譲渡する場合の相手先 ( 発行会社かその他 ) による有利 不利上述のように 譲渡する相手先により株主が得る差益が 配当とされるか 売却益とされるか異なるため 株主の受け取る税引き後の手取りが異なることとなります 法人株主は 受取配当を税務上の益金としない受取配当益金不算入が適用される発行会社に譲渡するほうが有利といえます 他方 個人株主は 相手先が発行会社の場合 一般的には配当所得となるため 金額にもよりますが配当所得控除後の実質税率は譲渡所得に係る申告分離の税率 20% を超える場合が多いと思われます したがって 発行会社以外への譲渡が一般的には有利といえます なお 一定要件の相続株式で譲渡所得課税の特例の適用がある場合は 発行会社以外への譲渡と同じ扱いとなります 内容は 2008 年 8 月 12 日時点の情報に基づいて作成されたものです 本情報は 法律 会計 税務等の一般的な説明です 個別具体的な法律上 会計上 税務上等の判断や対策などについては専門家 ( 弁護士 公認会計士 税理士等 ) にごください また 本情報の全部または一部を無断で複写 ( コピー ) することは著作権法上での例外を除き 禁じられています みずほ総合研究所部東京室 03-3591-7077 / 大阪室 06-6226-1701 http://www.mizuho-ri.co.jp/service/membership/advice/ 7