平成 2 9 年 3 月 9 日 NOK 株式会社 Tel: ( 広報部 ) 産業技術総合研究所 Tel: ( 報道室 ) 科学技術振興機構 (JST) Tel: ( 広報課 ) 水素分離用高性能大型炭素膜モジュールの開発に成功 ~

Similar documents
< 開発の社会的背景 > 化石燃料の枯渇に伴うエネルギー問題 大量のエネルギー消費による環境汚染問題を解決するため 燃焼後に水しか出ない水素がクリーンエネルギー源として期待されています 常温では気体である水素は その効率的な貯蔵 輸送技術の開発が大きな課題となってきました 常温 10 気圧程度の条件

(= 処理速度 ) とのトレードオフの関係を超える高い分離性能が実現できるものとして大きな注目を集めている 欧州で始まった無機膜の研究開発は現在では日本が世界を大きくリードしているが その実用化はまだ一部の用途に留まっている 近年中国等の追い上げも激しく 今後 研究開発を一層進展させるとともに 実用

Microsoft PowerPoint - 4講演2_革新シンポ2016_無機膜C_ _提出.pptx

Microsoft PowerPoint - RITE-N-膜-岡崎

水素の 利用 輸送 貯蔵 製造2030 年頃 2040 年頃庭用海外 水素 燃料電池戦略ロードマップ概要 (2) ~ 全分野一覧 ~ 海外の未利用エネルキ ー ( 副生水素 原油随伴カ ス 褐炭等 ) 水素の製造 輸送 貯蔵の本格化現状ナフサや天然カ ス等フェーズ3: トータルでのCO2フリー水素供

柔軟で耐熱性に優れたポリイミド=シリカナノコンポジット多孔体

新技術説明会 様式例

平成 21 年度資源エネルギー関連概算要求について 21 年度概算要求の考え方 1. 資源 エネルギー政策の重要性の加速度的高まり 2. 歳出 歳入一体改革の推進 予算の効率化と重点化の徹底 エネルギー安全保障の強化 資源の安定供給確保 低炭素社会の実現 Cool Earth -1-

高効率窒素プラント導入 工場 事業場間一体 省エネルギー事業 山陽エア ケミカルズ株式会社 ( 岩谷産業グループ ) 三井化学株式会社

資料1:地球温暖化対策基本法案(環境大臣案の概要)

A4パンフ

機械学習により熱電変換性能を最大にするナノ構造の設計を実現

<4D F736F F D A C5817A8E59918D8CA B8BBB89BB8A778D488BC B8BBB F A2E646F63>

SPERA 水素技術の紹介 - 技術概要 - 有機ケミカルハイドライド (OCH) 法 CH 3 メチルシクロヘキサン (MCH) 輸送 水素 CH 3 水素 水素化 貯蔵 トルエン 貯蔵 脱水素 CH 3 CH 3 輸送 CH 3 CH 3 + 3H 2 ΔH= -205kJ/mol トルエン M

スライド 1

Gifu University Faculty of Engineering

AMOLEA yd

プレスリリース 2017 年 3 月 21 日国立大学法人岐阜大学 世界初 常温 常圧 無触媒 プラズマで % の高純度を達成 アンモニアを原料とする低コスト 低環境負荷 高効率の水素製造装置を開発 燃料電池等への応用が可能 岐阜大学工学部神原信志教授が澤藤電機と共同開発 国立大学法人岐

<4D F736F F F696E74202D AC89CA95F18D9089EF975C8D658F F43945A A CC8A4A94AD298F4390B394C5205B8CDD8AB B83685D>

(2) 技術開発計画 1 実施体制 環境省 明和工業株式会社 ( 共同実施者 ) 国立大学法人東京工業大学 (2) ガス利用システムの技術開発エンジン発電機の試験運転における稼働状況の確認 評価 (3) 軽質タール利用技術開発エンジン発電機を用いた燃焼試験 (4) トータルシステムの技術開発物質 熱

site_17(日本語版).xls

木村の理論化学小ネタ 熱化学方程式と反応熱の分類発熱反応と吸熱反応化学反応は, 反応の前後の物質のエネルギーが異なるため, エネルギーの出入りを伴い, それが, 熱 光 電気などのエネルギーの形で現れる とくに, 化学変化と熱エネルギーの関

本田.indb

スライド タイトルなし

「蛋白質発現・相互作用解析技術開発」産業科学技術研究開発基本計画

海外における 水素導入の現状調査

第3類危険物の物質別詳細 練習問題

9 燃料電池 苛性ソーダ水溶液や希硫酸に2 枚の白金電極を浸し 両電極間におよそ2V 以上の電圧を加えると電流が流れ 電位の高い方の電極 : 酸素極 ( 陽極 アノード ( 注 1)) に酸素が 低い方の電極 : 水素極 ( 陰極 カソード ) に水素ガスが発生する 外部回路から供給された電子を水素

「エネルギーキャリアとしてのアンモニア、 その実力と課題」

研究報告58巻通し.indd

各社宛資料等作成依頼

水素エネルギーに関するNEDOの取り組み

e - カーボンブラック Pt 触媒 プロトン導電膜 H 2 厚さ = 数 10μm H + O 2 H 2 O 拡散層 触媒層 高分子 電解質 触媒層 拡散層 マイクロポーラス層 マイクロポーラス層 ガス拡散電極バイポーラープレート ガス拡散電極バイポーラープレート 1 1~ 50nm 0.1~1

有機薄膜太陽電池用材料の新しい合成法を開発

site_18(日本語版).xls

スライド 0

お知らせ

Microsoft PowerPoint - 宮岡(先進機能).ppt [互換モード]

Microsoft PowerPoint - 第12回PCB講演会 ppt [互換モード]

第 2 章各論 1. フェーズ 1( 水素利用の飛躍的拡大 ) 1.2. 運輸分野における水素の利活用 FCV は 水素ステーションから車載タンクに充填された水素と 空気中の酸素の電気化学反応によって発生する電気を使ってモーターを駆動させる自動車であり 一般ユーザーが初めて水素を直接取り扱うことにな

報道関係者各位 平成 24 年 4 月 13 日 筑波大学 ナノ材料で Cs( セシウム ) イオンを結晶中に捕獲 研究成果のポイント : 放射性セシウム除染の切り札になりうる成果セシウムイオンを効率的にナノ空間 ナノの檻にぴったり収容して捕獲 除去 国立大学法人筑波大学 学長山田信博 ( 以下 筑

ICH Q8, Q9, Q10ガイドライン 運用実務研修会 討論会の概略及び結果

例題 1 表は, 分圧 Pa, 温度 0 および 20 において, 水 1.00L に溶解する二酸化炭素と 窒素の物質量を表している 二酸化炭素窒素 mol mol mol mol 温度, 圧力, 体積を変えられる容器を用意し,

ポイント 太陽電池用の高性能な酸化チタン極薄膜の詳細な構造が解明できていなかったため 高性能化への指針が不十分であった 非常に微小な領域が観察できる顕微鏡と化学的な結合の状態を調査可能な解析手法を組み合わせることにより 太陽電池応用に有望な酸化チタンの詳細構造を明らかにした 詳細な構造の解明により

MAX N2 R PSA LCD

新技術説明会 様式例

高 1 化学冬期課題試験 1 月 11 日 ( 水 ) 実施 [1] 以下の問題に答えよ 1)200g 溶液中に溶質が20g 溶けている この溶液の質量 % はいくらか ( 整数 ) 2)200g 溶媒中に溶質が20g 溶けている この溶液の質量 % はいくらか ( 有効数字 2 桁 ) 3) 同じ

化学 1( 応用生物 生命健康科 現代教育学部 ) ( 解答番号 1 ~ 29 ) Ⅰ 化学結合に関する ⑴~⑶ の文章を読み, 下の問い ( 問 1~5) に答えよ ⑴ 塩化ナトリウム中では, ナトリウムイオン Na + と塩化物イオン Cl - が静電気的な引力で結び ついている このような陽イ

CHIYODA PowerPoint Format

untitled

産総研プレス発表資料

1 Q A 82% 89% 88% 82% 88% 82%

畜産環境情報 < 第 63 号 > 1. 畜産の汚水から窒素を除去するということはどういうことか 2. 家畜排せつ物のエネルギー高度利用 南国興産を例に 3. 岡山県の畜産と畜産環境対策 4. 兵庫県の畜産と畜産環境対策について

北杜市新エネルギービジョン

Microsoft Word - basic_15.doc


3M TM Dyneon TM Fluoroelastomers フッ素ゴム Advantage Fluoroelastomer Technology

平成 30 年 8 月 6 日 報道機関各位 東京工業大学 東北大学 日本工業大学 高出力な全固体電池で超高速充放電を実現全固体電池の実用化に向けて大きな一歩 要点 5V 程度の高電圧を発生する全固体電池で極めて低い界面抵抗を実現 14 ma/cm 2 の高い電流密度での超高速充放電が可能に 界面形


目次 1. 策定の趣旨 2 2. 水素利活用による効果 3 3. 能代市で水素エネルギーに取り組む意義 5 4. 基本方針 7 5. 水素利活用に向けた取り組みの方向性 8 6. のしろ水素プロジェクト 10 1

<4D F736F F F696E74202D A E90B6979D89C8816B91E63195AA96EC816C82DC82C682DF8D758DC03189BB8A7795CF89BB82C68CB48E AA8E E9197BF2E >

機関 燃料電池実用化戦略研究会平成 13 年度 WE-NET 第 Ⅱ 期研究開発タスク1 表 1 政府目標 (2020 年 500 万台 ) 達成時の水素需要 2020 年 水素需要 ( 億 Nm 3 / 年 ) ( 参考 ) 水素消費原単位 / 年 オンボード車

水素供給設備整備事業費補助金平成 28 年度概算要求額 62.0 億円 ( 新規 ) 省エネルギー 新エネルギー部燃料電池推進室 事業の内容 事業イメージ 事業目的 概要 燃料電池自動車 (FCV) は 水素を燃料とする自動車で 内外の自動車メーカーによって 開発競争が進め

CERT化学2013前期_問題

平成 2 9 年 3 月 2 8 日 公立大学法人首都大学東京科学技術振興機構 (JST) 高機能な導電性ポリマーの精密合成法を開発 ~ 有機エレクトロニクスの発展に貢献する光機能材料の開発に期待 ~ ポイント π( パイ ) 共役ポリマーの特性制御には 末端に特定の官能基を導入することが重要だが

<4D F736F F D DC58F4994C5816A8C9A8DDE E9197BF88EA8EAE2E646F6378>

生理学 1章 生理学の基礎 1-1. 細胞の主要な構成成分はどれか 1 タンパク質 2 ビタミン 3 無機塩類 4 ATP 第5回 按マ指 (1279) 1-2. 細胞膜の構成成分はどれか 1 無機りん酸 2 リボ核酸 3 りん脂質 4 乳酸 第6回 鍼灸 (1734) E L 1-3. 細胞膜につ

記 者 発 表(予 定)

開発の社会的背景 再生可能エネルギーの大量導入時代を見据えて 光 熱 振動などを利用する発電技術の研究開発が盛んに行われている その一つである熱電発電は 熱電材料 ( 固体 ) を用いて自然熱や未利用廃熱 分散した微小熱を電力として回収する技術であり 省スペース 無振動 長寿命などの長所がある 高効

目 次 1. タムラグループの環境活動 1 2. グリーン調達基準 1 第 1 章総則 1 第 2 章取引先様への要求事項 3 第 3 章材料 部品等の選定基準 3 第 4 章取引先様への調査内容 4 附則 5

CHIYODA PowerPoint Format

< 研究の背景と経緯 > 水素は排気ガスが一切出ない次世代エネルギー源として注目されています また 水素はすぐに使用しなければならない電力と違って貯蔵 運搬が可能なエネルギーキャリアでもあり 燃料電池等を用いれば電力需要が高い時期に水素から再度電気を取り出すことが可能です 現在 水素は化石燃料と高温

Xamテスト作成用テンプレート

平成27年度 前期日程 化学 解答例

住友化学レポート2018

スライド 1

本日の内容 HbA1c 測定方法別原理と特徴 HPLC 法 免疫法 酵素法 原理差による測定値の乖離要因

QOBU1011_40.pdf

電解水素製造の経済性 再エネからの水素製造 - 余剰電力の特定 - 再エネの水素製造への利用方法 エネルギー貯蔵としての再エネ水素 まとめ Copyright 215, IEEJ, All rights reserved 2

Microsoft PowerPoint - 数学教室2.pptx

技術ロードマップから見る2030年の社会

酢酸エチルの合成

PEC News 2004_3....PDF00

研究の背景有機薄膜太陽電池は フレキシブル 低コストで環境に優しいことから 次世代太陽電池として着目されています 最近では エネルギー変換効率が % を超える報告もあり 実用化が期待されています 有機薄膜太陽電池デバイスの内部では 図 に示すように (I) 励起子の生成 (II) 分子界面での電荷生

indd

平成 24 年度維持管理記録 ( 更新日平成 25 年 4 月 26 日 ) 1. ごみ焼却処理施設 (1) 可燃ごみ焼却量項目単位年度合計 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月 1 月 2 月 3 月 A B 炉合計焼却量 t 33, ,972

Microsoft PowerPoint - 公募説明会資料_「セルロースナノファイバーの市場及び技術動向調査」

<4D F736F F F696E74202D F C838B834D815B8ED089EF8C6090AC8CA48B8689EF E937891E63289F E791E BB8D A957A A205B8CDD8AB B83685D>

.C.O \..1_4

Microsoft PowerPoint - 薬学会2009新技術2シラノール基.ppt

<93FA92F6955C2E6D6364>

高価な金属錯体触媒の革新的再利用技術を確立~医薬品などの製造コストを低減~

< D834F E8F48816A2D8AAE90AC2E6D6364>

(Microsoft PowerPoint _4_25.ppt [\214\335\212\267\203\202\201[\203h])

地球温暖化対策計画書

国土技術政策総合研究所 研究資料

PowerPoint プレゼンテーション

水素社会へ向けた次世代大型燃料電池SOFCの展開,三菱重工技報 Vol.52 No.2(2015)

53nenkaiTemplate

スライド 0

Transcription:

平成 2 9 年 3 月 9 日 NOK 株式会社 Tel:03-3434-1736( 広報部 ) 産業技術総合研究所 Tel:029-862-6216( 報道室 ) 科学技術振興機構 (JST) Tel:03-5214-8404( 広報課 ) 水素分離用高性能大型炭素膜モジュールの開発に成功 ~ 有機ハイドライド型水素ステーションのコスト低減に貢献 ~ ポイント 有機ハイドライドからの高純度水素精製が可能な高性能炭素膜を開発 分離性能を維持したまま 炭素膜の大型モジュール化に成功 燃料電池自動車用水素精製のみならず 多様なガスの分離精製への応用も可能 NOK 株式会社 代表取締役社長鶴正登 ( 以下 NOK という ) 技術本部機能膜開発部 国立研究開発法人産業技術総合研究所 理事長中鉢良治 ( 以下 産総研 という ) 化学プロセス研究部門 研究部門長濱川聡 膜分離プロセスグループ吉宗美紀主任研究員は 有機ハイドライドから燃料電池自動車 (FCV) 用超高純度水素を分離精製する新規分離技術として 高性能炭素膜に関する共同研究を実施し この度非常に優れた水素選択性を有する炭素膜の開発および大型モジュール化に成功しました 開発した大型炭素膜モジュールは 1m 3 /h 規模の水素精製能力を有し 一度の分離操作で FCV 用超高純度水素の ISO 規格純度 ( 精製水素中の残存炭化水素濃度が C1 換算で 2ppm 以下 ) の達成が可能な分離性能とトルエン存在下での長期安定性を示します また 本モジュールは各種水素精製のみならず 二酸化炭素やメタンなど多様なガスの分離精製への応用も可能です 本開発成果は 以下の事業 課題によって実施されました 事業名 : 内閣府総合科学技術 イノベーション会議戦略的イノベーション創造プログラム (SIP) エネルギーキャリア ( 管理法人 : 国立研究開発法人科学技術振興機構 理事長濵口道成 ) 委託研究課題名 : 有機ハイドライドを用いた水素供給技術の開発 研究責任者 : 壱岐英 (JX エネルギー株式会社 )

< 開発の社会的背景 > 現在 FCV 用水素にかかるコストの約 6 割が 水素ステーション整備 運営費であると言われています ( 経済産業省 水素 燃料電池戦略ロードマップ ) 本研究では FCV の本格普及と水素社会の実現を目指し コストの低減に向けた水素供給技術として 有機ハイドライド注 1) であるメチルシクロヘキサンをエネルギーキャリアとする有機ハイドライド型水素ステーションの開発を行っています ( 図 1) その実用化においては 高効率 コンパクト 低コスト な脱水素システムの実現が求められており 課題の一つとして メチルシクロヘキサンを脱水素して生成する水素とトルエンの混合物から FCV 用水素規格注 2) を満足する超高純度水素を精製する技術の開発が必要となっていました 従来の精製技術である圧力スイング吸着法 (PSA 法 ) では 超高純度水素精製に多大なエネルギーを必要とし 設備規模や起動時間 水素回収率等に課題があります これに対して 革新的技術として期待されるのが 省エネ性に優れる膜分離法です しかし 水素とトルエンの分離は 既存の有機膜では水素選択性やトルエンへの耐薬品性が十分ではなく 高性能無機膜の開発が望まれていました < 研究の経緯 > 注 3) 本研究では 新規分離技術として無機膜の一種である炭素膜を採用し NOKは産総研と共同で 高性能炭素膜の開発を進めてきました その結果 一度の分離でF CV 用水素規格を達成可能な非常に高い水素選択性 ( 水素 / メタン選択性は3,00 0 以上 水素 / トルエン選択性は30 万以上 ) を有する炭素膜の開発に成功しました ( 図 2) この高性能炭素膜は 図 3に示すように水素だけが選択的に透過できる均質な細孔を有しています また 有機ハイドライド型水素ステーションでの運用条件として想定する90 での水素 / トルエン混合ガス供給時においても優れた選択性を維持し 500 時間以上にわたる安定した分離性能を確認しています さらに 膜分離システム計算の結果 従来精製技術に比べて大幅な省エネ化が実現できる見通しです また 注 4) パラジウム膜等の既存の水素分離用無機膜と比較すると この炭素膜は中空糸型で支持膜が不要の自立膜であるため 膜コストが安く かつコンパクトな精製装置の実現が可能です 続いて 本研究ではこの炭素膜の大型モジュール化を実施しました 一般的に無機膜の大型モジュール化では 膜性能のばらつきや欠陥 ( ピンホール ) の発生等により スケールが大きくなるほど分離性能が低下することが知られており 無機膜の実用化における大きな課題となっていました 本研究では 炭素膜製造方法の改善 シール方法の開発 モジュール構造の最適化等に取り組んだ結果 1m 3 /h 規模の水素精製能力を有する大型炭素膜モジュールを開発することに成功しました ( 図 4) この大型モジュールは 図 5に示すように 非常に優れた水素分離性能を有しており スケールアップしても欠陥を生じず 炭素膜本来の優れたガス分離性能が維持されています また JXエネルギー株式会社で実施した実運転条件による水素 / トルエン分離試験で FCV 用水素規格を満足する高純度水素を安定的に製造できることを確認しました さらに 本モジュールは各種水素精製のみならず 二酸化炭素回収やメタン濃縮 ガスの除湿 ( 脱水 ) など多様なガス ( 蒸気 ) の分離精製への応用も可能です

< 今後の予定 > 今後 NOK では 炭素膜の水素精製能力の向上 中空糸の量産化 さらなる大型モジュール化開発を推進し モジュールの市場展開を目指しています < 参考図 > H 2 製油所 CH 3 燃料電池自動車 CH 3 メチルシクロヘキサン H 2 トルエン 脱水素反応 H 2 の精製 水素ステーション 炭素膜の適応 図 1 有機ハイドライド型水素ステーションの概念図 図 2 開発した中空糸炭素膜

水素 (0.3 nm) トルエン (0.6 nm) 中空糸型分子ふるい炭素膜 水素 / トルエン混合ガス 分子の小さい水素が選択的に透過 シンプル コンパクト 省エネ分離が可能に 図 3 炭素膜を用いた水素分離のしくみ 超高純度水素 図 4 大型炭素膜モジュールの外観 ( 右は 500mL 容量のペットボトル ) 図 5 大型炭素膜モジュールの分離性能

< 用語解説 > 注 1) 有機ハイドライド水素エネルギーキャリアの一種で メチルシクロヘキサンなどのナフテン化合物を指す 常温常圧で液体であることが特徴で 水素を化学反応により固定し 貯蔵 輸送を行い 利用時に脱水素反応によって水素を取り出して利用する 有機ハイドライドは体積当たりの水素密度が高く 既存の石油流通インフラの活用が可能な化学物質であることから 水素の大量貯蔵や長距離輸送 供給に利点を有する 注 2)FCV 用水素規格国際規格 ISO14687-2(2012 年発行 ) で制定されている FCV 用水素燃料の仕様 水素純度 (99.97% 以上 ) と 13 項目の不純物について許容濃度が定められており 特に燃料電池に影響の大きい一酸化炭素 (0.2ppm 以下 ) 硫黄 (0.004ppm 以下 ) アンモニア (0.1ppm 以下 ) 炭化水素類 (C1 換算で 2ppm 以下 ) 等の物質については厳しい規制値が示されている 有機ハイドライド由来水素においては メタンとトルエンが主な分離対象であり トルエンは C7 分子であることから 0.28ppm 以下を達成する必要がある 注 3) 炭素膜物質の分離が行われる層が炭素あるいは炭化物により形成される分離膜の一種 その中で 0.3~0.5nm のマイクロ孔を有する分子ふるい炭素膜は 特有の分子ふるい能によってガス分離膜として優れた分離性能を示すことが知られている 炭素膜の一般的な製法としては まず炭素源となる高分子膜を製膜し 乾燥後 必要に応じて酸化処理等の前処理を加え 窒素ガスなどの不活性雰囲気下において 5 00~1000 で炭化させる 注 4) 中空糸 ( 膜 ) 膜の形状の一種で 外径がおよそ直径 2mm 以下のストロー状の膜を指す 単位容積中の膜面積を広く取れるため 高分子膜では家庭用浄水器のフィルター等の水処理や脱気処理などの分離用途で幅広く使用されている < お問い合わせ先 > < 研究に関すること > NOK 株式会社経営企画室広報部 105-8585 東京都港区芝大門 1-12-15 Tel:03-3434-1736 Fax:03-3436-5874 E-mail:ssato@nok.co.jp 産業技術総合研究所化学プロセス研究部門膜分離プロセスグループ主任研究員吉宗美紀 305-8565 茨城県つくば市東 1-1-1 つくば中央第 5 事業所 Tel:029-861-3245 Fax:029-861-4732 E-mail:m-yoshimune@aist.go.jp

<JST の事業に関すること > 科学技術振興機構環境エネルギー研究開発推進部 102-0076 東京都千代田区五番町 7 K s 五番町 Tel:03-3512-3543 Fax:03-3512-3533 E-mail:sip_energycarrier@jst.go.jp < 報道担当 > NOK 株式会社経営企画室広報部 105-8585 東京都港区芝大門 1-12-15 Tel:03-3434-1736 Fax:03-3436-5874 E-mail:ssato@nok.co.jp 産業技術総合研究所企画本部報道室 305-8560 茨城県つくば市梅園 1-1-1 つくば本部 情報技術共同研究棟 8F Tel:029-862-6216 Fax:029-862-6212 E-mail:press-ml@aist.go.jp 科学技術振興機構広報課 102-8666 東京都千代田区四番町 5 番地 3 Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432 E-mail:jstkoho@jst.go.jp