概要 214 心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症 215 ファロー四徴症 216 両大血管右室起始症 1. 概要ファロー四徴症類縁疾患とは ファロー四徴症に類似の血行動態をとる疾患群であり ファロー四徴症 心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖 両大血管右室起始症が含まれる 心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症は ファ

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ファロー四徴症修復では流入部心室中隔と漏斗部中隔は malalign しているので内側 ( 心室 漏斗部皺壁 VIF) で心室中隔パッチのリークがおきやすい また右室切開 筋束切除 VSD パッ チ閉鎖時の刺激伝導系の損傷などにより不完全 / 完全右脚ブロックを伴いやすい 右室切開法肺動脈弁輪径が正

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330 先天性気管狭窄症 概要 1. 概要気道は上気道 ( 鼻咽頭腔から声門 ) と狭義の気道 ( 声門下腔 気管 気管支 ) に大別される 呼吸障害を来し外科的治療の対象となるものは主に狭窄や閉塞症状を来す疾患で その中でも気管狭窄症が代表的であり 多くが緊急の診断 処置 治療を要する 外科治療を

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概要 214 心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症 215 ファロー四徴症 216 両大血管右室起始症 1. 概要ファロー四徴症類縁疾患とは ファロー四徴症に類似の血行動態をとる疾患群であり ファロー四徴症 心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖 両大血管右室起始症が含まれる 心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症は ファロー四徴症における肺動脈狭窄が重症化して肺動脈閉鎖となった型であり 別名 極型ファロー四徴症とも呼称される 両大血管右室起始症は 大動脈と肺動脈の2つの大血管のうち どちらか一方の大血管が完全に 他方の大血管が 50% 以上 右心室から起始する疾患である 共通する特徴として 1 心室中隔欠損 2 肺動脈狭窄ないし閉鎖 3 大血管と心室の解剖学的連続性の異常 4 右室肥大が存在する 肺動脈弁が閉鎖していたり 肺動脈が低形成であったりする場合には 肺血流は動脈管に依存することが多い 原因は不明である ファロー四徴症類縁疾患には 1) 高度肺動脈低形成のため心内修復術ができない場合 2) 心内修復術後だが 成人期以降に 右室不全 左室不全が存在する場合がある 外科治療をしなければ 1 年生存率は 75% 3 年生存率は 60% 10 年生存率は 30% といわれる 肺動脈低形成で心内修復術ができない例では 成人期の死亡原因は低酸素血症 脳梗塞 脳膿瘍 心不全 腎不全などである ラステリ (Rastelli) 手術など心内修復術が施行された例では 成人期以降に 右室不全 左室不全が進行する例があり 肺動脈弁閉鎖不全や右心機能不全となる 2. 原因 心臓発生異常の起因となる原因は不明である 3. 症状低酸素血症と心不全に由来する 低酸素血症によりチアノーゼ 成長障害 ばち状指 易疲労 運動能低下がおこる 心室から肺動脈への通路が狭いほど 肺動脈閉鎖の場合では大動脈から肺動脈への血流が少ないほどチアノーゼは強い 心臓手術後でも 思春期 成人期になると右心不全や左心不全が起こることが多く 易疲労 乏尿 運動能低下などを来す 4. 治療法肺動脈が低形成で外科的治療ができない場合には姑息的な内科的治療 ( 鉄剤投与 酸素投与など ) のみとなる 新生児期 乳児期にチアノーゼが重度の状態や 肺動脈血流が動脈管に依存しているプロスタグランジン E1 使用例ではブラロック-タウジッヒ (Blalock-Taussing:BT) 短絡術をおこなう また 低酸素血症の改善目的で 右室流出路形成術と心室中隔閉鎖術を行う 右室流出路形成術やラステリ手術を行う

こともある ラステリ手術など心内修復術が施行された例では 成人期以降になると 右室不全 左室不全 が進行することが多い 5. 予後外科治療未施行の場合は 1 年生存率が 75% 3 年生存率が 60% 10 年生存率が 30% と言われる 成人期以降も死亡が増加し 死亡原因としては低酸素血症 脳梗塞 脳膿瘍 心不全 腎不全などである ラステリ手術の成人期以降には 肺動脈弁閉鎖不全や右心機能不全で 再手術が必要になったり 心不全になったりする可能性がある 要件の判定に必要な事項 1. 患者数約 5,500 人 ( ファロー四徴症類縁疾患の総数 ) 2. 発病の機構不明 3. 効果的な治療方法未確立 ( 手術療法も含め根治療法はない ) 4. 長期の療養必要 5. 診断基準あり ( 学会作成の診断基準あり ) 6. 重症度分類 NYHA 心機能分類 II 度以上を対象とする 情報提供元 日本循環器学会 日本小児循環器学会 日本成人先天性心疾患学会

< 診断基準 > ファロー四徴症類縁疾患は 心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症 ファロー四徴症 両大血管右室起始症の総 称である 以下のいずれかに診断された場合を対象とする 1. 心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症ファロー四徴症の肺動脈狭窄の最重症型で 肺動脈弁閉鎖となった場合をいう 極型ファロー四徴症とも呼称することがある 診断基準は ファロー四徴症にほぼ準じるが 右室から肺動脈への血流を認めず 動脈管ないし大動脈から起始する主要大動脈肺動脈側副動脈 (MAPCA) から肺動脈への血流を認める MAPCA 合併例では 肺動脈全体が低形成であることが多く 最終手術までたどり着かない例も多い [ 診断 ] 心エコー又は心臓カテーテル検査で 心室中隔欠損 大動脈騎乗 肺動脈閉鎖の全てを認める場合に 心室中隔欠損を伴う肺動脈閉鎖症と診断する 2. ファロー四徴症心室中隔欠損 右室流出路狭窄 大動脈騎乗 右室肥大を呈する先天性心疾患である 僧帽弁と大動脈弁は線維性に連続している 肺動脈狭窄の程度により幅広い臨床像を示すが 不安定かつ進行性低酸素血症を特徴とする 心エコー図 心エコー図にて心室中隔欠損とともに大動脈騎乗を認め 大動脈は右室に騎乗している さらに大動脈後壁と僧帽弁前尖の線維性連続は保たれている 漏斗部 肺動脈弁 肺動脈主幹部の狭窄を認める 基本病態である右室流出路狭窄には種々の程度があり これにより重症度も異なる すなわち 狭窄が軽度の場合には心室中隔欠損レベルでの右左短絡 ( 右室の静脈血が左室の動脈血に混じる状態 ) は少なくチアノーゼも目立たない ( いわゆるピンクファロー ) しかし 狭窄が強度だと右左短絡が顕著であるばかりか肺血流そのものが少ないためにチアノーゼは強くなる 心臓カテーテル 造影所見 収縮期右室圧は 左室 大動脈圧と等しい 肺動脈圧は正常ないしより低圧である [ 診断 ] 心エコー又は 心臓カテーテル検査で 心室中隔欠損 大動脈騎乗 右室流出路狭窄の全てを認める場 合をファロー四徴症と診断する 3. 両大血管右室起始症

肺動脈と大動脈の両大血管のうち 1つは右室から完全に起始しており 他の1つが 50% 以上右室から起始している先天性心疾患である 大動脈弁は僧帽弁と線維性結合がないのが普通である 心室中隔欠損が存在する 肺動脈狭窄を合併すると肺血流が減少しチアノーゼを呈する 心エコー図 心エコー図にて心室中隔欠損とともに 肺動脈と大動脈の両大血管のうち どちらか一方の大血管が右室から完全に起始しており 他方の大血管が 50% 以上右室から起始している所見を認める 心室中隔欠損が存在する 僧帽弁と半月弁は線維性結合がないことが普通である 肺動脈狭窄がある 心臓カテーテル 造影所見 造影所見で 心室中隔欠損とともに 肺動脈と大動脈の両大血管のうち 1つは右室から完全に起始しており 他の1つが 50% 以上右室から起始している所見を認める 心室中隔欠損が存在する 僧帽弁と半月弁は線維性結合がないのが普通である 肺動脈狭窄を伴う場合には右室と肺動脈間に圧較差を認める [ 診断 ] 心エコー又は 心臓カテーテル検査で 両大血管のうち どちらか一方の大血管が右室から完全に起始しており 他方の大血管が 50% 以上右室から起始している所見を認める場合を両大血管右室起始症と診断する

< 重症度分類 > NYHA 心機能分類 II 度以上を対象とする NYHA 分類 I 度 II 度 III 度 IV 度 心疾患はあるが身体活動に制限はない 日常的な身体活動では疲労 動悸 呼吸困難 失神あるいは狭心痛 ( 胸痛 ) を生じない 軽度から中等度の身体活動の制限がある 安静時又は軽労作時には無症状 日常労作のうち 比較的強い労作 ( 例えば 階段上昇 坂道歩行など ) で疲労 動悸 呼吸困難 失神あるいは狭心痛 ( 胸痛 ) を生ずる 高度の身体活動の制限がある 安静時には無症状 日常労作のうち 軽労作 ( 例えば 平地歩行など ) で疲労 動悸 呼吸困難 失神あるいは狭心痛 ( 胸痛 ) を生ずる 心疾患のためいかなる身体活動も制限される 心不全症状や狭心痛 ( 胸痛 ) が安静時にも存在する わずかな身体活動でこれらが増悪する NYHA: New York Heart Association NYHA 分類については 以下の指標を参考に判断することとする NYHA 分類 身体活動能力 (Specific Activity Scale; SAS) 最大酸素摂取量 (peakvo 2) I 6METs 以上 基準値の 80% 以上 II 3.5~5.9 METs 基準値の 60~80% III 2~3.4 METs 基準値の 40~60% IV 1~1.9 METs 以下 施行不能あるいは基準値の 40% 未満 NYHA 分類に厳密に対応する SAS はないが 室内歩行 2METs 通常歩行 3.5METs ラジオ体操 ストレッチ体操 4METs 速歩 5~6METs 階段 6~7 METs をおおよその目安として分類した 診断基準及び重症度分類の適応における留意事項

1. 病名診断に用いる臨床症状 検査所見等に関して 診断基準上に特段の規定がない場合には いずれの時期のものを用いても差し支えない ( ただし 当該疾病の経過を示す臨床症状等であって 確認可能なものに限る ) 2. 治療開始後における重症度分類については 適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって 直近 6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする 3. なお 症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが 高額な医療を継続することが必要なものについては 医療費助成の対象とする