責任ある農業投資 - 原則の策定に向けた背景と概要 年 7 月 外務省

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責任ある農業投資 - 原則の策定に向けた背景と概要 - 2018 年 7 月 外務省

一度に解決すべき 2 つの課題 主要な産業や労働市場が農業である途上国は, 競合する 2 つの課題に直面 課題 1: 農業投資の増加の必要性 数十年に亘る農業分野の投資の停滞により, 多くの途上国において低い生産性及び生産量の低迷が続いたことで, 多数の貧しい農村部の人々は, さらに深刻な貧困状況にある 国際社会は, 持続可能で包括的かつ貧困削減につながるような経済成長を達成するために, 官民 国内外を問わず, 途上国における農業投資を促進すべき 課題 2: 農業投資に伴う意図せざる負の影響への対応 投資が稚拙に計画 実施された場合, 投資受入国の人々に対し, 政治安定性, 人権, 持続可能な食料生産や環境保護について, 意図せざる負の影響を与え得る 国際社会は, これら意図せざる負の影響, 特に大規模な土地取引 ( 土地収奪とも呼ばれる ) に関わる問題への対応を支援すべき 国際社会は, 農業投資の利益を最大化しつつ ( 課題 1), 投資の増加に伴うリスクを最小化する ( 課題 2) ことが求められている 出典 : 世界食料安全保障委員会 (CFS) PRINCIPLES FOR RESPONSIBLE INVESTMENT IN AGRICULTURE AND FOOD SYSTEMS (2014) 2

2 つの課題を解決するための 責任ある農業投資 1. 責任ある農業投資原則 (PRAI) 策定までの経緯 (4 国際機関による採択 ) 2009 年のラクイラ サミットの機会に, 投資受入国, 小農を含めた現地の人々, 投資家という 3 者の利益を調和し, 最大化することを目的として, 我が国が 責任ある農業投資 イニシアティブを提唱 国連食糧農業機関 (FAO), 国際農業開発基金 (IFAD), 国連貿易開発会議 (UNCTAD), 世界銀行の 4 国際機関が,7 つの原則からなる 責任ある農業投資原則 (PRAI) を策定 ( 以下,4 頁参照 ) さらに, 日本の資金援助のもと, 関連の調査研究を実施 G8/G7 G20 APEC TICAD を含む国際フォーラムにおいても, PRAI や関連の調査研究が支持 歓迎されてきた 7 原則は,20 頁に亘る詳細な内容 2. 農業及びフードシステムにおける責任ある投資のための原則 採択までの経緯 ( 世界食料安全保障委員会 (CFS) による採択 ) 第 39 回 CFS(2012 年 10 月開催 ): 一部の途上国や市民団体 (CSO) 等からの 原則は, より幅広いステークホルダーの関与及びオーナーシップのもと策定されるべき との声を受けて, 農業及びフードシステムにおける責任ある投資のための原則 を策定する協議プロセス ( 加盟国 CSO 民間企業が参加 ) が立ち上げられた 第 41 回 CFS(2014 年 10 月開催 ): 農業及びフードシステムにおける責任ある投資のための原則 を採択 ( 以下,5 頁参照 ) この原則は, 上記 1. の我が国が提唱した 責任ある農業投資 のコンセプトの下,4 国際機関が策定した 責任ある農業投資に関する原則 が考慮されつつ議論が進められ, 包括的な合意文書として採択に至ったもの ( 世界的な食料安全保障への我が国の貢献 ) 3

PRAI の 7 原則 原則 1: 土地及び資源に関する権利の尊重土地及び付随する天然資源に関する既存の権利は認識 尊重されるべき 1 所有者を特定し,2 区画整理 登記等の方法を通じて法的に所有権を認知し,3 利用に際して所有者に公平 適当な支払いを行い,4 独立した訴訟制度をつくるべき 原則 2: 食料安全保障の確保投資は食料安全保障を脅かすのではなく, 強化するものであるべき 食料安全保障への負の影響に備えて, 政府は,1 これまでと同等の食料アクセスを確保し,2 契約栽培への関与や農場外の雇用を創出し,3 現地の栄養面の嗜好に配慮し,4 供給の不安定性を減らすべく, 必要な法制度の整備を行うべき 原則 3: 透明性, グッド ガバナンス及び投資を促進する環境の確保農業投資の実施過程は, 適切なビジネス 法規制の枠組みの中で, 透明で, モニターされ, 説明責任が確保されるべき 国際的に受入れられたベスト プラクティスに沿って, 投資関連の環境, 政策, 法規制を整備すべき 具体的には,1 関連情報の公開,2 これら投資環境整備を担当する当局の能力向上及び監査,3 独立した監視システムの構築等が必要 原則 4: 協議と参加投資によって物理的に影響を被る人々とは協議を行い, 合意事項は記録し実行されるべき 投資プロジェクトは, 現地の人々の参加を得て, 彼らの開発ビジョンに沿う形で進められるべき 具体的には,1 参加に関する要件 ( 定足数等 ) 手順を明確にし, 2 合意事項は記録 署名され,3 遵守されない場合の強制方法や懲罰について明確化するべき 原則 5: 責任ある農業企業投資投資家はプロジェクトが法律を尊重し, 業界のベスト プラクティスを反映し, 経済的に実行可能で, 永続的な共通の価値をもたらすものと保証すべき 投資家は,1 投資受入国の政策 法規制を遵守し,2 透明性 説明責任 企業の社会的責任に関する国際的なベストプラクティスに倣い,3 投資案件の関係地域 関係者に相当かつ有形な利益をもたらすべき 原則 6: 社会的持続可能性投資は望ましい社会的 分配的な影響を生むべきであり, 脆弱性を増すものであってはならない 投資プロジェクトの準備段階から,1 社会的リスク, それを最小化する戦略を特定し,2 脆弱な人々の利益をしっかりと考慮し, 3 現地の人々の雇用, 技術移転, 直接的 間接的な地域公共財の提供を盛り込むべき 原則 7: 環境持続可能性プロジェクトによる環境面の影響は計量化され, リスクや負の影響の最小化 緩和を図り, 持続可能な資源利用を促進する方策が採られるべき 投資家と政府は協力して,1 独立した環境影響評価を行い, 未利用の土地よりも開発済みの土地を優先的に活用し,3 資源の効率的 持続可能な利用に最適な生産システムを選択し,4 環境管理の監視や環境破壊への保障を行うべき 4

農業及びフードシステムにおける責任ある投資のための原則 Principles for Responsible Investment in Agriculture and Food Systems 原則 1: 食料安全保障及び栄養への貢献持続可能な食料の生産と生産性の向上, 所得向上と貧困削減, 市場の平等性 透明性 効率性 機能の向上等 原則 2: 持続可能で包括的な経済発展と貧困撲滅への貢献基礎的な労働原則や権利の尊重, 雇用創出と適切な仕事の育成, 農村開発への貢献, 持続的な消費 生産の促進等 原則 3: 男女平等と女性への権限委譲の促進全ての人が平等に扱われることの確保, 男女間の権利差別の撤廃, 女性の参画の促進 原則 4: 若者の参加と権限委譲土地, 天然資源, 金融サービス意思決定等への若者のアクセスの促進, 適切な人材育成や教育の提供等 原則 5: 土地, 漁業, 森林の保有, 水へのアクセスの尊重 国家の食料安全保障の文脈における土地, 漁業, 森林の保有に関する責任あるガバナンスのための任意ガイドライン (VGGT) に沿った権利の尊重等 原則 6: 天然資源の保全及び持続的な管理, 強靱性の向上並びに災害リスクの減少空気, 土地, 水等の負の影響の防止, 最小化, 改善, 生物多様性や遺伝資源の保全, 生産における廃棄, ポストハーベストロス等の削減, 伝統的知識と科学的知識の統合等 原則 7: 文化遺産と伝統的知識の尊重, 多様性と技術革新の支援文化遺産の尊重, 先住民や現地コミュニティの役割の認識, 遺伝資源の保全や改良における農家の貢献の認識, 遺伝資源の利用に伴う公正な利益の共有等 原則 8: 安全で健康に配慮した農業とフードシステム安全で質が高く, 栄養価の高い食料の促進, 動植物の健全さの支援, 公衆衛生のリスク管理 削減, 食品安全等に関する知識の普及等 原則 9: 包括的で透明性のある統治構造, 手続, 苦情処理メカニズムの具現化規則の尊重, 法の適用, 先住民との効果的な協議, 透明で効果的な調停や苦情の解決手段へのアクセスの促進等 原則 10: 影響の評価と対処, 説明責任の促進独立性, 透明性のある評価機構の適用, 適切で効果的な是正措置や補償行為の実施等

責任ある農業投資の推進に向けた取組 取組 1: 責任ある農業投資 に関する 地域レベルの意識向上と理解促進 FAO,IFAD,UNCTAD, 世界銀行の 4 国際機関が, 我が国の資金援助で, 約 30 のアジア アフリカ諸国における農業投資の傾向と影響を調査し, 過去の農業投資案件における PRAI の有用性を遡及的に分析 この調査研究の結果は,2013 年 6 月に横浜で開催された TICADⅤ の公式サイドイベントで発表 我が国は,4 国際機関の協力のもと,2013 年 7 月にインドネシアで,APEC2013の第 3 回高級実務者会合 (SOM3) の機会を捉えて, 上記調査研究の結果に関する国際セミナーを開催 取組 2: 責任ある農業投資 のための未来志向の調査研究 ( 米, 尼, 比, 韓と共催 ) 2013 年の G8 ロックアーン サミットの機会を捉え, ニュー アライアンスにおけるコミットメントを踏まえ, 我が国の資金援助のもと,4 国際機関が 2014 年より,CFS における原則の協議やその将来的な運用に向けて, 実用的かつ有益なインプットを行うための調査研究を実施 世界銀行と UNCTAD は, 既存及び新規の農業プロジェクトで PRAI をテストし, 現場のエビデンス ( ベストプラクティスや教訓等 ) の収集 分析を通じて, 農業投資における利益の最大化とリスクの最小化に関する報告書を 2015 年に作成 FAO は 2016 年に, 責任ある農業投資を推進する投資国ルールに関して,OECD の選抜国からデータを収集 分析 我が国の資金援助のもと, 世界銀行と UNCTAD は, 大規模農業投資が地域社会に与える影響に関する追加調査を 2017 年に発表 また, 責任ある農業投資の実践に向け,2018 年には 24 分野に亘る Knowledge Into Action Notes を取り纏めた これら取組を通じ,CFS における 責任ある農業投資原則 策定協議や, その将来的な実用化に貢献することで, 責任ある農業投資を推進