小児 AYA 世代のがん罹患 国立がん研究センター がん対策情報センター がん統計 総合解析研究部 1
背景 小児がんは 一般に 0 歳から 14 歳のがんを指す AYA (adolescent and young adult) 世代は 15 歳から 20 歳代 30 歳代を指すことが多い ( ここでは 15 歳から 39 歳 ) 小児がんは成人とは異なる種類のがんが多く 毎年がんの罹患データとして公表されているのとは別の集計が必要 人口集団に基づく小児がんの罹患率は 2007 年に報告されていたが 対象地域が 15 府県と少なく 診断年が 1993 年から 2001 年と古いデータだった 今回 より最近かつより多くの地域をカバーする人口集団ベースのデータで 対象年齢を AYA 世代に拡大して集計を行った 2
方法 全国がん罹患モニタリング集計 (MCIJ) によって集められた都道府県単位の地域がん登録データを使用 精度基準を満たした 27 府県 ( 青森 秋田 山形 福島 茨城 栃木 群馬 新潟 石川 福井 山梨 長野 岐阜 愛知 滋賀 京都 和歌山 島根 岡山 広島 徳島 愛媛 高知 佐賀 長崎 熊本 大分 ) のデータ ( 人口カバー率 36.8%) 2009-2011 年の診断例 対象年齢は 0-39 歳 国際小児がん分類第 3 版 (2008 年更新版 ) で分類 3
施設ベース がん登録の種類 地域ベース (Population-based) 院内がん登録地域がん登録全国がん登録 実施主体医療機関都道府県国 都道府県 集計対象 集計結果 主たる集計目的 がん診療連携拠点病院等で診断したがん ( 指定要件 ) 拠点病院の診療実績 拠点病院の実態把握と医療の質向上 医療機関選択 全国 47 都道府県内の病院及び診療所で診断したがん 都道府県及び全国での推計罹患数 率 (MCIJ) 罹患数の把握国及び都道府県のがん対策 全国の病院及び指定された診療所で診断したがん ( 義務 ) 都道府県及び全国での実測罹患数 率 罹患数の把握国及び都道府県のがん対策 集計開始 2007 年 1951 年 2016 年 最新集計 2015 年診断 427 施設 702,866 例 ( 重複登録あり ) 2013 年診断 47 都道府県 862,452 例 (2018 年末予定 ) 4
国際小児がん分類 (International Classification of Childhood Cancer) 成人のがんは癌腫 (carcinoma) と呼ばれる上皮性のがんが多く 解剖学的な部位 ( 体の場所 ) で分類されることが多いが 小児がんは肉腫 (sarcoma) や血液腫瘍など上皮性以外のがんが多い そこで小児がんの分類のために国際ルールが作られている (ICCC 第 3 版 2008 update が最新 ) 組織型と呼ばれるがんのタイプと部位の組み合わせにより 12 の診断群 (group; I~XII) 48 の主分類 (main) 114 の拡張分類 (extended) に分類される https://seer.cancer.gov/iccc/iccc-who2008.html 5
150 100 小児 AYA がんの年齢階級別罹患率 (0-39 歳 ) [ 男女計 2009-2011 年 ] 人口 10 万人対 12.3 14.2 31.1 91.1 50 0 0-4 歳 5-9 歳 10-14 歳 15-19 歳 20-24 歳 25-29 歳 30-34 歳 35-39 歳 * 脳腫瘍は良性 良悪不詳を含む AYA: adolescent and young adult 資料 : 国立がん研究センターがん対策情報センター Source : Center for Cancer Control and Information Services, National Cancer Center, Japan 6
年齢階級別のがん種順位 1 位 2 位 3 位 4 位 5 位 0~14 歳 ( 小児 ) 白血病 [38%] 脳腫瘍 [16%] リンパ腫 [9%] 胚細胞腫瘍 性腺腫瘍 [8%] 神経芽腫 [7%] 15~19 歳 白血病 [24%] 胚細胞腫瘍 性腺腫瘍 [17%] リンパ腫 [13%] 脳腫瘍 [10%] 骨腫瘍 [9%] 20~29 歳 胚細胞腫瘍 性腺腫瘍 [16%] 甲状腺がん [12%] 白血病 [11%] リンパ腫 [10%] 子宮頸がん [9%] 30~39 歳 女性乳がん [22%] 子宮頸がん [13%] 胚細胞腫瘍 性腺腫瘍 [8%] 甲状腺がん [8%] 大腸がん [8%] * 悪性腫瘍のみの順位 7
100% 80% 60% 40% 小児 AYA がんのがん種の内訳 (0-39 歳 ) [ 男女計 2009-2011 年 ] X. 胚細胞腫瘍 性腺腫瘍 IX. 軟部肉腫 VIII. 骨腫瘍 VII. 肝腫瘍 VI. 腎腫瘍 V. 網膜芽腫 IV. 神経芽腫 III. 脳腫瘍 II. リンパ腫 XII. その他 他部位 胃 子宮頸部 女性乳房 肺 大腸皮膚甲状腺 Ⅺ. その他の癌 20% I. 白血病 0% 0-14 歳 15-19 歳 20-29 歳 30-39 歳 * 悪性腫瘍のみを表示 AYA: adolescent and young adult 資料 : 国立がん研究センターがん対策情報センター Source:Center for Cancer Control and Information Services, National Cancer Center, Japan 8
100% 80% 60% 40% 小児 AYA がんのがん種の内訳 (0-39 歳 ) [ 男性 2009-2011 年 ] X. 胚細胞腫瘍 性腺腫瘍 IX. 軟部肉腫 VIII. 骨腫瘍 VII. 肝腫瘍 VI. 腎腫瘍 V. 網膜芽腫 IV. 神経芽腫 III. 脳腫瘍 II. リンパ腫 XII. その他 他部位 胃 肺 大腸 皮膚甲状腺 Ⅺ. その他の癌 20% I. 白血病 0% 0-14 歳 15-19 歳 20-29 歳 30-39 歳 * 悪性腫瘍のみを表示 AYA: adolescent and young adult 資料 : 国立がん研究センターがん対策情報センター Source:Center for Cancer Control and Information Services, National Cancer Center, Japan
小児 AYA がんのがん種の内訳 (0-39 歳 ) [ 女性 2009-2011 年 ] 100% 80% 60% 40% 20% X. 胚細胞腫瘍 性腺腫瘍 IX. 軟部肉腫 VIII. 骨腫瘍 VII. 肝腫瘍 VI. 腎腫瘍 V. 網膜芽腫 IV. 神経芽腫 III. 脳腫瘍 II. リンパ腫 I. 白血病 XII. その他他部位 胃 子宮頸部 女性乳房 肺大腸皮膚甲状腺 Ⅺ. その他の癌 0% 0-14 歳 15-19 歳 20-29 歳 30-39 歳 * 悪性腫瘍のみを表示 AYA: adolescent and young adult 資料 : 国立がん研究センターがん対策情報センター Source:Center for Cancer Control and Information Services, National Cancer Center, Japan 10
結果のまとめ 2009 年から 2011 年の小児がん (0 歳から 14 歳 ) の罹患率は 12.3( 人口 10 万人あたり ) AYA 世代のがん罹患率は 15 歳から 19 歳で 14.2 20 歳代で 31.1 30 歳代で 91.1( 人口 10 万人あたり ) これらの罹患率を日本全体の人口に当てはめると 1 年間にがんと診断される症例数は小児 (0 歳から 14 歳 ) で約 2,100 例 ( 男性 1,100 例 女性 900 例 ) 15 歳から 19 歳で約 900 例 ( 男性 500 例 女性 400 例 ) 20 歳代で約 4,200 例 ( 男性 1,700 例 女性 2,500 例 ) 30 歳代で約 16,300 例 ( 男性 5,100 例 女性 11,200 例 )* 四捨五入のため合計が合わないことがある がん種別順位では 0 歳から 19 歳で白血病が 1 位 20 歳代では胚細胞腫瘍 性腺腫瘍が 1 位 30 歳代では女性の乳がんが 1 位 11
考察と今後の展望 これまで院内がん登録や小児血液 がん学会等より報告されてきた知見が人口集団ベースで改めて確認された 2007 年の先行研究の結果と比べると 全体的に今回の罹患率の方が高い ( がん登録の精度が向上したことが原因と考えられる ) 人口集団に基づく罹患率を各地域の人口に当てはめることで 小児 AYA 世代のがんの発生状況の推定と医療需要の予測に有用 今後は全国がん登録に基づくデータに引き継がれる形で拡充してゆく 12
参考資料 公開ウェブサイト がん情報サービス URL:http://ganjoho.jp 医療関係者向け元データを Excel にてダウンロードできます 集計表のダウンロード 4. 罹患データ ( 小児 AYA がん ) http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/dl/index.html 一般向け がん統計小児 AYA 世代のがん罹患 http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/child_aya.html 研究費 平成 29 年度厚生労働科学研究費補助金がん対策推進総合研究事業 都道府県がん登録の全国集計データと診療情報等の併用 突合によるがん統計整備及び活用促進の研究 参考文献 Katanoda K, Shibata A, Matsuda T, Hori M, Nakata K, Narita Y, Ogawa C, Munakata W, Kawai A, Nishimoto H. Childhood, adolescent and young adult cancer incidence in Japan in 2009-2011. Jpn J Clin Oncol. 2017; 47(8):762-771. doi: 10.1093/jjco/hyx070. ダウンロード URL: https://academic.oup.com/jjco/article/47/8/762/3852037 13
参考 : がん種別に見た罹患率の年齢変化 血液腫瘍 50 罹患率 ( 人口 100 万対 ) 40 30 20 10 0 急性骨髄性白血病 Acute myeloid leukemia リンパ性白血病 Lymphoid leukemia 骨髄異形成症候群など MDS etc. ノンホジキンリンパ腫 Non- Hodgkin ホジキンリンパ腫 Hodgkin バーキットリンパ腫 Burkitt 0-4 5-9 10-14 15-19 20-24 25-29 30-34 35-39 診断時年齢 出典 : Jpn J Clin Oncol. 2017; 47(8): 762-771 ( データは http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/dl/index.html 4. 罹患データ ( 小児 AYA がん ) に掲載 ) 14
参考 : がん種別に見た罹患率の年齢変化 悪性胎児性腫瘍 50 40 神経芽腫 Neuroblastoma 罹患率 ( 人口 100 万対 ) 30 網膜芽腫 Retinoblastoma 20 肝芽腫 Hepatoblastoma 10 0 腎芽腫 Nephroblastoma 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 診断時年齢 出典 : Jpn J Clin Oncol. 2017; 47(8): 762-771 ( データは http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/dl/index.html 4. 罹患データ ( 小児 AYA がん ) に掲載 ) 15
参考 : がん種別に見た罹患率の年齢変化 脳 中枢神経腫瘍 ( 良性 / 良悪不詳含む ) 5 罹患率 ( 人口 100 万対 ) 髄芽腫 Medulloblastoma 星状細胞腫 ( 毛様細胞性 ) Pilocytic astrocytoma 上衣腫 Ependymoma AT/RT PNET 膠芽腫 Glioblastoma 星状細胞腫 ( びまん性 ) Diffuse astrocytoma 0 0-9 10-19 20-29 30-39 診断時年齢 16 Katanoda et al. Jpn J Clin Oncol 2017; 47: 762-71
参考 : がん種別に見た罹患率の年齢変化 悪性骨腫瘍 10 骨肉腫 Osteosarcoma 罹患率 ( 人口 100 万対 ) ユーイング肉腫など Ewing sarcoma etc. 0 軟骨肉腫 Chondrosarcoma 0-4 5-9 10-14 15-19 20-24 25-29 30-34 35-39 診断時年齢 17
参考 : がん種別に見た罹患率の年齢変化 軟部肉腫 5 罹患率 ( 人口 100 万対 ) 横紋筋肉腫 Rhabdomyosarcoma 神経鞘腫瘍 NST 脂肪肉腫 Liposarcoma 平滑筋肉腫 Leiomyosarcoma 滑膜肉腫 Synovial sarcoma 0 0-9 10-19 20-29 30-39 診断時年齢 出典 : Jpn J Clin Oncol. 2017; 47(8): 762-771 ( データは http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/dl/index.html 4. 罹患データ ( 小児 AYA がん ) に掲載 ) 18
参考 : がん種別に見た罹患率の年齢変化 悪性胚細胞 性腺腫瘍 罹患率 ( 人口 100 万対 ) 80 70 60 50 40 30 20 10 0 卵巣胚細胞腫瘍 Ovarian germ cell 精巣胚細胞腫瘍 Testicular germ cell 頭蓋内 / 脊髄内胚細胞腫瘍 Intracranial/spinal germ cell 卵巣上皮性腫瘍 Ovarian epithelial 0-4 5-9 10-14 15-19 20-24 25-29 30-34 35-39 診断時年齢 出典 : Jpn J Clin Oncol. 2017; 47(8): 762-771 ( データは http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/dl/index.html 4. 罹患データ ( 小児 AYA がん ) に掲載 ) 19
参考 : がん種別に見た罹患率の年齢変化 600 500 悪性上皮性腫瘍 女性乳房 Female breast 罹患率 ( 人口 100 万対 ) 400 300 200 100 0 甲状腺 ( 男性 ) Thyroid (male) 子宮頸部 Cervix 甲状腺 ( 女性 ) Thyroid (female) 胃 Stomach 大腸 Colon/rectum 肺 Lung 皮膚 Skin 0-4 5-9 10-14 15-19 20-24 25-29 30-34 35-39 診断時年齢 出典 : Jpn J Clin Oncol. 2017; 47(8): 762-771 ( データは http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/dl/index.html 4. 罹患データ ( 小児 AYA がん ) に掲載 ) 20
参考 : 希少がんと主要がんの罹患率の変化 希少がん : 罹患率が6 未満 ( 人口 10 万対 ) 主要がん: 希少がん以外のがん出典 : Cancer Epidemiology 2014; 38: 490-5 21
用語集 罹患数 ( りかんすう ) 対象とする人口集団から 一定の期間に 新たにがんと診断された数 対象とする人口集団 : 人口の大きさを計測することができる集団であることが必須条件 そのため 都道府県 市区町村などを単位とすることがほとんどです 一定の期間 : 通常は 年単位 ( 年度ではありません ) 罹患数が少ない場合 ( 発生がまれな部位 人口規模が小さい場合 など ) では 偶然変動による影響を抑えるために 複数年のデータをあわせて集計する場合もよくあります がんの数 : がんと診断された患者の数ではなく 同じ人に複数のがん ( 多重がん ) が診断された場合には それぞれの診断年で 集計に含まれます 罹患率 ( りかんりつ ) ある集団で新たに診断されたがんの数を その集団のその期間の人口で割った値 通常 1 年単位で算出され ( 本集計では 3 年間の年平均値 ) 人口 10 万人のうち何例罹患したか で表現されます 200X 年の罹患率 ( 粗罹患率 )= 200X 年に新たに診断されたがんの数 /200X 年の人口 100000 罹患率と混同されやすい用語に 有病率 があります これはある時点のある病気の患者数を人口で割った値です 粗罹患率 ( そりかんりつ ) 一定期間の罹患数 ( ある病気と新たに診断された数 ) を単純にその期間の人口で割った罹患率で 年齢調整をしていない罹患率という意味で 粗 という語が付いています 日本人全体の罹患率の場合 通常 1 年単位で算出され 人口 10 万人のうち何例罹患したか で表現されます 年齢調整罹患率 ( ねんれいちょうせいりかんりつ ) 年齢調整死亡率と同様の方法で算出した 年齢構成の影響を除去した罹患率です 22