PTM 12 ( 2 ) OCT., 2009 最新眼科屈折矯正医療の現状 The Latest Trends in Refractive Surgery 品川近視クリニック東京本院 副院長冨田 実 Tomita Minoru
最新眼科屈折矯正医療の現状 The Latest Trends in Refractive Surgery 品川近視クリニック東京本院副院長 冨田実 はじめに屈折矯正異常 ( 近視 遠視 乱視 ) を治療する試みは はるか昔から行われてきた 屈折矯正の観点から最初に行われた外科手術は水晶体摘出で 1746 年にBoerhaaveが強度近視症例に対して 水晶体摘出手術が有効であることを示したのが最初である その後過去 250 年以上の間に多様な屈折矯正手術法が報告され 現在に至っている ( 表 ) 1) エキシマレーザーが角膜手術に応用され 1990 年にPallikarisがLASIK (Laser in situ keratomileusis) を初めて考案した これによってより正確な屈折矯正が可能となり 多くの人々に屈折矯正手術が普及していった 屈折矯正手術の種類現在 屈折矯正手術の中ではLASIKが最も主流で 2008 年には約 30 万症例のLASIKが日本で施術されたといわれている 当院の実績でも 2008 年には 20 万症例以上のLASIKを施術した実績がある その手術を受けた人の99% 以上の人が 1.0 以上に裸眼視力が回復しており 患者の満足度が高く 合併症のリスクがほとんどないこともこの手術がここまで普及してきた原因の一つであると考えられる 屈折矯正手術の第一選択は LASIKであるが 角膜形状不整や角膜厚不足によりLASIKができない患者には Phakic IOL( 有水晶体眼内レンズ ) で矯正できる 老眼に対してはモノビジョンLASIKやCK (Conductive Keratotomy) カメラ TM (KAMRA TM ) 多焦点眼内レンズなどがある LASIK(Laser in situ keratomileusis) LASIK とはマイクロケラトームやフェムト セカンドレーザーで一定厚の角膜フラップを作成し 露出角膜実質面にエキシマレーザーを照射して角膜形状を変化させた後に 角膜片を戻す術式で 1990 年にPallikarisによって発表された 2) その後 LASIKは世界中で急速に広がり 現在では年間約 400 万件の手術が行われるまでになった LASIKでは手術による合併症が他の外科手術より少なく 非常に安全ではあるが 1 角膜フラップ作成に関わる術中 術後の合併症や 2 角膜拡張症 (keratectasia) と呼ばれる角膜形状異常を来すことがあることなども大きな問題ではあった 近年 フェムトセカンドレーザーでフラップを作成できる最新機種が発売された AMO(Abbott Medical Optics) の製品であるIntraLase TM ( 図 1) がその代表であり 日本でも最も多く導入されている IntraLase TM がLASIKのフラップ作成に使用されるようになってから 角膜フラップの厚みを正確にコントロールすることが可能になり フラップの術後位置変異やLASIK 後の重症ドライアイの症例頻度も劇的に減少した また 現在でもフェムトセカンドレーザーの技術は進歩しており 最新フェムトセカンドレーザーのZiemer 社製 (Ziemer Group AG) の FEMTO LDV TM ( 図 2) は照射エネルギーが IntraLase TM の50 分の1のエネルギーでフラップが作成でき 角膜により侵襲が少なく 術後炎症やドライアイなどの合併症がIntraLase TM を使用した場合と比較して少ないといわれている さらに レーザーを通しにくい角膜混濁を伴う症例にも最新のFEMTO LDV TM は通常通りのフラップ厚で対応ができるようになった エキシマレーザーに関しては多くの会社が発売をしており 厚生労働省が初めて認可した2000 年に発売されていたエキシマレーザーに比べて近年のエキシマレーザーは照射スピードが早く PTM 12 ( 2 ) OCT., 2009
なり 瞳孔中心に照射を狙うアイトラッカーもスキャンスピードが増加してより正確に目標とする部位に照射できるようになった 人間は手術の時など緊張すると眼が上転してしまう傾向があり 今までのX 軸 Y 軸方向の追尾だけでは軽度の上転の際には偏心照射を生じてしまう可能性があった 最新型の次世代エキシマレーザーの SCHWIND 社製 (SCHWIND eye-techsolutions) の AMARIS TM ( 図 3-a) には上転などあらゆる眼の動きにも対応するアイトラッカーが搭載されており 全世界の屈折矯正を専門とする眼科医を驚かせた ( 図 3-b) また LASIK などの角膜屈折矯正手術によって 発生する不正乱視を抑えたり 不正乱視を減少させる術式としてwavefront guided treatment が多くの施設で行われている 個別の角膜の形状を測定してそれに合わせて照射を行うものであるが データに信頼性が低い場合に使用すると結果が良くない可能性が出てくる 最近の研究では収差はwavefront guided treatmentでとればいいというものではなく 元の収差と LASIK 術後も変わらないAberration Neutral (Aberration-Free TM ) という状態が患者にとって最も自然でいい見え方であるという報告もある 3) 最新機種のAMARIS TM はこのAberration Neutralという状態を作り出すことをコンセプ 1) 表屈折矯正手術の主な歴史 in situ
トにしている エキシマレーザーやフェムトセカンドレーザーは3 年も経てば新しい世代の最新機種 ( より安全でより結果も良いもの ) が開発 発売されるため 常に最新の機種を導入している施設で手術は受けるべきであると思われる Phakic IOL( 有水晶体眼内レンズ ) 挿入術円錐角膜の疑いなど角膜の形状が悪かったり 角膜厚が不足していてLASIKなどの角膜屈折手術を受けることのできない患者のために最近注目を集めている治療がPhakic IOLである ( 図 4) Phakic IOLには虹彩支持型 後房型 隅角支持型の3 通りのものが発売されている どの部位にIOLを支持するかはどの方法も一長一短で どれが最も優れているとは言い難い しかし 角膜を削ることなく屈折矯正効果が得られるため LASIKなどの角膜屈折矯正手術に比べると術後の不正乱視の発生率が低く 見え方の質はLASIKのそれを上回っていると報告する人も多い ただ LASIKなどの角膜手術よりも眼内手術は感染やその他の合併症の頻 図 3-a SCHWIND 社製の最新型エキシマレーザー AMARIS TM SCHWIND 社提供 図 1 AMO 社製の最新型フェムトセカンドレーザー ifs TM AMO 社提供 図 3-b AMARIS TM に搭載されている 5 次元眼球追尾照射システム冨田実, 2009 図 2 Ziemer 社製の最新型フェムトセカンドレーザー FEMTO LDV TM Ziemer 社提供図 4 Phakic IOL 挿入眼冨田実, 2009
図 5 老眼治療の CK 施術眼冨田実, 2009 図 7 カメラ TM (KAMRA TM ) のピンホール効果冨田実, 2009 図 6 カメラ TM (KAMRA TM ) 挿入眼 AcuFocus 社提供度も上がるため LASIK 不適応の患者に対して行う治療であると考える CK(Conductive Keratotomy) この手術は老眼の治療としては初めてFDA に認可された治療である 非優位眼の角膜にラジオ波を当てて 角膜のカーブをスティープ化させることにより 近視を作成し 遠方の視力を落として 近方の視力を上げる治療である ( 図 5) 施術は5 分で終了し 術直後から効果は得られるが 長期的に観測するとだんだんとその効果は弱まってくる 治療のoptical zone が大きく LASIKのモノビジョンに比べると遠方の視力の低下が少ないが 術前に近方視力を上げる代わりに遠方視力が低下することを十分理解していただいた上で 手術施行すべきである 4) カメラ TM (KAMRA TM ) 最も新しい老眼治療で 直径 4mm の厚さ 8μm の中心に 1.6mmの穴が空いているシートに 8,000 個の穴が開いており グルコースを通すようになっている ( 図 6) このピンホールを通して見ることによって 焦点深度が深くなり 近方視力を上げることができる ( 図 7) この治療は前述した CK とは異なり 遠方視力 をほとんど低下させることなく 近方視力を増 加させることができる画期的な治療である 5) この治療は患者の術後トレーニングを必要とす る トレーニングをしない患者は近方視力の獲 得に 6 カ月から 1 年かかるが トレーニングを すると術後 1 カ月で裸眼近方視力が大幅に回復 する また この治療は近視矯正施術と併用す ることで 40 歳以上の患者が近視矯正手術後 に老眼鏡を使う必要がなくなる可能性がある また 白内障術後の患者にも有効であると考え られている 現在では日本人の約 6 割が近視 乱視などの 屈折異常が認められるといわれている 屈折 矯正施術の代表である LASIK 手術は成功率が 99% 以上とあらゆる手術の中で成功率が高く 結果も非常に良い この手術を通じて多くの人 の QOL 向上に寄与できれば 眼科医としてこ の上ない幸せである ( 文献 ) 1) 増田寛次郎監, 水流忠彦編著 :THE LASIK 最新屈折矯正手術の実際. ライフ サイエンス ( 東京 ):2009, 12-18. 2)Pallikaris IG, et al.:a corneal flap technique for laser in situ keratomileusis. Human studies. Arch Ophthalmol 145:1699-1702, 1991. 3)de Ortueta D, et al.:comparison of standard and aberrationneutral profiles for myopic LASIK with the SCHWIND ESIRIS platform. J Refract Surg 25:339-349, 2009. 4) 冨田実, 他 :CK の LASIK 術後眼と非 LASIK 眼における効果の比較検討. 第 24 回日本眼内レンズ屈折手術学会 :2009. 5)Yilmaz OF, et al.:intracorneal inlay for the surgical correction of presbyopia. J Cataract Refract Surg 34:1921-1927, 2008.
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