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2. PQQ を利用する酵素 AAS 脱水素酵素 クローニングした遺伝子からタンパク質の一次構造を推測したところ AAS 脱水素酵素の前半部分 (N 末端側 ) にはアミノ酸を捕捉するための構造があり 後半部分 (C 末端側 ) には PQQ 結合配列 が 7 つ連続して存在していました ( 図 3

のとなっています 特に てんかん患者の大部分を占める 特発性てんかん では 現在までに 9 個が報告されているにすぎません わが国でも 早くから全国レベルでの研究グループを組織し 日本人の熱性痙攣 てんかんの原因遺伝子の探求を進めてきましたが 大家系を必要とするこの分野では今まで海外に遅れをとること

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を確認しました 本装置を用いて 血栓形成には血液中のどのような成分 ( 白血球 赤血球 血小板など ) が関与しているかを調べ 血液の凝固を引き起こす トリガー が何であるかをレオロジー ( 流れと変形に関わるサイエンス ) 的および生化学的に明らかにすることとしました 2. 研究手法と成果 1)

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化学の力で見たい細胞だけを光らせる - 遺伝学 脳科学に有用な画期的技術の開発 - 1. 発表者 : 浦野泰照 ( 東京大学大学院薬学系研究科薬品代謝化学教室教授 / 大学院医学系研究科生体物理医学専攻生体情報学分野 ( 兼担 )) 神谷真子 ( 東京大学大学院医学系研究科生体物理医学専攻生体情報学

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PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

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抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

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植物が花粉管の誘引を停止するメカニズムを発見

さらにのどや気管の粘膜に広く分布しているマスト細胞の表面に付着します IgE 抗体にスギ花粉が結合すると マスト細胞がヒスタミン ロイコトリエンという化学伝達物質を放出します このヒスタミン ロイコトリエンが鼻やのどの粘膜細胞や血管を刺激し 鼻水やくしゃみ 鼻づまりなどの花粉症の症状を引き起こします

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かし この技術に必要となる遺伝子改変技術は ヒトの組織細胞ではこれまで実現できず ヒトがん組織の細胞系譜解析は困難でした 正常の大腸上皮の組織には幹細胞が存在し 自分自身と同じ幹細胞を永続的に産み出す ( 自己複製 ) とともに 寿命が短く自己複製できない分化した細胞を次々と産み出すことで組織構造を

STAP現象の検証結果

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難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

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解禁時間:(テレビ、ラジオ)平成16年11月19日午前3時(新聞)     平成16年11月19日付け朝刊

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1. 背景先に述べた通り 炎症は古くから知られる免疫応答の一つであり 放っておいても自然に治まるような軽いものであれば 多くの人が経験しているので 割りと身近であり 深刻には感じられていないかもしれません ただ一方で 炎症がずっと続いてしまうアトピー性皮膚炎や喘息 関節リウマチなどの難病に苦しむ人も

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報道発表資料 2001 年 12 月 29 日 独立行政法人理化学研究所 生きた細胞を詳細に観察できる新しい蛍光タンパク質を開発 - とらえられなかった細胞内現象を可視化 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 生きた細胞内における現象を詳細に観察することができる新しい蛍光タンパク質の開発に成功しました 理研脳科学総合研究センター ( 伊藤正男所長 ) 細胞機能探索技術開発チームの宮脇敦史チームリーダー 永井健治研究員 ( 現 科学技術振興事業団さきがけ研究 21 研究員 ) らの研究グループによる研究成果です 細胞生物学 分子生物学などの研究分野では 生きた細胞内で特定の場所や機能タンパク質を蛍光標識して観察することが非常に重要です 蛍光標識に使用される物質の中でも 発光クラゲに由来する緑色蛍光タンパク質 (GFP:Green Fluorescent Protein) は 自ら発色団 1 を形成することができるために 遺伝子発現のレポーターやタンパク質の標識として多用されてきました しかし 発光の効率 ( 発色団形成効率 ) が低く 発光するまでの速度が遅いなどの技術的制約があるため これらを克服できる新しい改変 GFP の誕生が望まれていました 新しく開発した改変 GFP は より早く 明るく蛍光を発することができ その効果は 殊にほ乳類の生体内温度 (37 ) で顕著です この改変 GFP を使用することによって 従来生きた細胞内で見ることができなかった現象を 蛍光観察することが可能になりました 本技術を活用することによって 脳機能研究の解明に大きく貢献するほか 広くは発生過程や疾病などのメカニズムの理解にもつながります 本研究成果は 米国の科学雑誌 Nature Biotechnology 2002 年 1 月号に掲載されます 1. 背景外界の刺激を受けて 細胞内では特定の反応経路にそって 細胞の分化 移動 分裂などの現象が現れます こうした細胞内のシグナル伝達にかかわる機能分子は 生化学的 あるいは遺伝学的に数多く同定されています しかしシグナル伝達系などを包括的に理解するためには 細胞内の事象を生きた細胞一個一個において観察することが必要です そのためには 目的とする遺伝子や細胞内の部位にさまざまな物質で蛍光標識を行い 観察が可能となるようにデザインすることが求められます 蛍光標識物質の 1 つである緑色蛍光タンパク質 (GFP) は 1960 年代に下村脩博士によってオワンクラゲ 2 から発見されました 1992 年には GFP 遺伝子が単離され 自ら発色団を形成して発光するタンパク質であることが明らかになりました それ以前は あるタンパク質を蛍光ラベル ( 標識 ) する際 そのタンパク質を精製し 化学修飾法によって蛍光物質を付加させたり 蛍光ラベルしたタンパク質を生きた細胞内へ注入するという煩雑な作業が必要でした この点 GFP は 他のタンパク質の遺伝子に融合させて細胞に導入すると 細胞内の任意の場所に蛍光をつくり出すことができるため 生きた細胞において特定の構造体 あるいは機能分子を

蛍光ラベルするのに威力を発揮し 現在非常に多くの研究場面で用いられています しかし 従来の GFP は発色団を形成する効率が低く タンパク質として存在していても光る能力のない GFP すなわち未成熟な GFP ができてしまうことが多々ありました 明るさを求めて過剰にタンパク質融合 GFP を細胞内に導入すると 今度は過剰なタンパク質が細胞に毒性をもたらすという状況に陥ります また 発色団が形成される速度が遅いため 遺伝子が導入されてから GFP の蛍光が検出されるまでの時間が長いなどの問題点がありました 研究の現場では 細胞内小器官など局所的な部分で起こる微妙な蛍光変化を観察する必要性が求められており 非常に多くの研究者が光る能力 ( 発色団形成効率 ) が向上した改変 GFP を求めていました 2. 新たに開発した改変 GFP について研究チームでは オワンクラゲ由来の改変 GFP( 約 240 アミノ酸 ) に ランダムにさまざまなアミノ酸置換を導入し 発色団形成効率などに対して効果を持つアミノ酸置換を探し出しました 特に GFP の発色団形成にかかわる反応の中で最も重要と思われる酸化反応に注目 46 番目のフェニルアラニンをロイシンに置換すると その発色団形成反応が ほ乳類細胞の最適培養条件である 37 で飛躍的に促進されることが分かりました さらに タンパク質のフォールディング 3 の効率を高めるアミノ酸置換も同定し それらが GFP タンパク質の成熟を高めることを明らかにしました これらのアミノ酸置換を導入して作製した 世界でもっとも明るい改変 GFP を 金星 にちなんで Venus( ヴィーナス ) と命名しました Venus は成熟の効率が非常に高いため 少量で効果的に蛍光を発することができます 従来の改変 GFP と比較して 大腸菌内で 30~100 倍 ほ乳類の細胞内で 3~100 倍の明るさを達成し 通常の装置でも十分検出可能な蛍光を提供できます したがって 細胞内に毒性をもたらすことなく より効率のよい蛍光観察が可能になりました また GFP 遺伝子を導入してから蛍光が出現するまでの時間が 半日 ~1 日程度から数時間以内に短縮されました これによって 従来不可能とされていた 調製したばかりの脳のスライスを迅速に蛍光ラベルして観察することが可能となります 3. Venus で得られた成果作製した Venus がいかに実用的な明るさを発揮できるのか その威力を神経芽細胞株 PC12 を用いた実験で証明しました PC12 細胞は 神経伝達物質の放出に関する研究においては非常によいモデルとなってきました しかし従来は 電気生理学的手法やアイソトープによるラベルが必要であったため その放出量や放出過程の解析は大変困難なものでした この PC12 における分泌顆粒を Venus で蛍光ラベルしたところ ほぼ 100% の分泌顆粒が正確に これまでに比べて 10 倍以上の明るさでラベルされていることが確認できました この結果 脱分極や細胞刺激によって起こる顆粒分泌の素過程を 実時間で観察することが可能になりました また 細胞からの分泌量を培養液に放出される蛍光で定量することもできるようになりました

4. 今後への期待現在 遺伝子の発現を生体内で可視化することが非常に重要とされています Venus はタンパク質が作られてから蛍光を発するまでの時間が非常に早く 目的とする遺伝子の活性化を忠実に反映する 遺伝子の レポーター 4 としての役割が期待できます さらに 今まで市販の改変 GFP を使っても明るい蛍光が得られず 断念せざるを得なかった蛍光観察実験は非常に多くありました これらの実験の中には 市販の GFP を Venus に置きかえただけで目的のシグナルが十分に得られ 研究プロジェクトが再スタートした例が多々あります 必要最小限の分量で細胞内の生理的条件を保ったまま より定量的で信頼性の高い蛍光観察ができるため Venus は今後世界中の研究室で活躍するものと考えられます 今回のような蛍光タンパク質の改善 改良は 細胞内現象を生きた状態でとらえる強力な技術の革新をもたらし 細胞内現象 特にシグナル伝達への理解がより一層深まるとともに 発生過程 脳機能の解明や疾病などのメカニズムの解明にも大きな手がかりを与えることが期待されます ( 問い合わせ先 ) 独立行政法人理化学研究所脳科学総合研究センター細胞機能探索技術開発チームチームリーダー宮脇敦史 Fax : 048-467-5924 脳科学総合研究センター脳科学研究推進部田中朗彦 Tel : 048-467-9596 / Fax : 048-462-4914 ( 報道担当 ) 独立行政法人理化学研究所広報室嶋田庸嗣仁尾明日香 Tel : 048-467-9271 / Fax : 048-462-4715 < 補足説明 > 1 発色団ある特定の色の光を吸収するのに必要な構造単位 GFP に関して発色団形成効率とは たとえば 100 個の GFP タンパク質のうち何個が発色団を形成して光ることができるか を意味する この効率は GFP タンパク質を設置する細胞内部位 融合する相手のタンパク質などによって様々である 2 オワンクラゲ発光クラゲの一種 扁平な おわん型 の傘を持ち 縁には 100 本の触手がある 刺

激を与えると傘の縁や生殖腺が青緑色に光る その発光器官から 1960 年代に下村脩博士によって GFP が発見 精製された 3 フォールディングペプチド鎖からタンパク質が 3 次元的に折りたたまれる過程 GFP タンパク質が発色団を形成して成熟するためには まずフォールディングすることが必要 4 遺伝子のレポーター遺伝子の発現量 特に転写量を知らせるタンパク質 その遺伝子を 注目する遺伝子の発現 ( 転写 ) 調節領域に連結させて用いる