平成 30 年 11 月 5 日京都府立大学生命環境科学研究科九州大学熊本大学 植物の根毛側面を硬くするしくみの解明に成功 ~ 根の毛はなぜまっすぐに伸びる?~ これまで根毛側面の伸長抑制メカニズムの分子機構は全く明らかになっていませんでしたが, この度, 熊本大 学の檜垣匠准教授は, 京都府立大学

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ポイント 先端成長をする植物細胞が 狭くて小さい空間に進入した際の反応を調べる または観察するためのツールはこれまでになかった 微細加工技術によって最小で1マイクロメートルの隙間を持つマイクロ流体デバイスを作製し 3 種類の先端成長をする植物細胞 ( 花粉管細胞 根毛細胞 原糸体細胞 ) に試験した

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今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

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論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

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平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

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2. PQQ を利用する酵素 AAS 脱水素酵素 クローニングした遺伝子からタンパク質の一次構造を推測したところ AAS 脱水素酵素の前半部分 (N 末端側 ) にはアミノ酸を捕捉するための構造があり 後半部分 (C 末端側 ) には PQQ 結合配列 が 7 つ連続して存在していました ( 図 3

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抵抗性遺伝子によりつくられた蛋白質が 細胞内に留まる例も知られています その場 合 細胞内の抵抗性遺伝子産物と細胞膜を貫通する植物因子が結合した状態で存在し 細胞膜貫通因子で病原菌のavr 蛋白質を認識します Avr 蛋白質が認識されると 抵抗性遺伝子産物と細胞膜貫通因子は解離し 遊離した抵抗性遺伝

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平成 30 年 11 月 5 日京都府立大学生命環境科学研究科九州大学熊本大学 植物の根毛側面を硬くするしくみの解明に成功 ~ 根の毛はなぜまっすぐに伸びる?~ これまで根毛側面の伸長抑制メカニズムの分子機構は全く明らかになっていませんでしたが, この度, 熊本大 学の檜垣匠准教授は, 京都府立大学の佐藤雅彦准教授を中心とする国際共同研究グループ * に参画し, モデル植 物シロイヌナズナを用いて, 根毛の微小管を制御し, 側面の細胞壁を硬くすることで, 根毛が細長く真っ直ぐ伸 びながら, その形を維持する仕組みを解明しました 今後, この仕組みを活用して, 側面強度を増強した根毛を持つ植物体を作出することで, 栄養源が乏しい土壌 中から効率よく栄養を吸収できる植物体を開発できる可能性があります 本研究成果は, 国際学術誌 NaturePlants ( ネイチャー プランツ ) に11 月 2 日午後 4 時 (GMT ) にオンライン掲載される予定です 論文タイトル :PI(3,5)P 2 mediatesroothairshankhard eningin Arabidopsis 著者 :Tomoko Hirano, okikonno, Seiji Takeda 1,Liam Dolan,Mariko Kat o,takashi Aoyama, Takumi Higaki, Hisako Takigaw a- Imamura,and sa MaH. o Sat doi.10.1038/s41 477-018-027 7-8 研究概要 植物の表皮細胞の一部が管状に外側に伸びた構造体である 根毛 は, 根の表面積を大きくして土壌中の水や養分を吸収する役割があります 根毛の細長い管状構造を作るためには, 先端部分が伸びると同時に根毛の側面部分の伸長を抑制しないと, 風船上に膨らんで細長い管状構造を形成できません また, 土の抵抗に逆らって細長く伸びるためには側面の硬さが必要です 根毛は, 膨圧という内部からの圧 のはたらきなどにより伸 するが, 根 の硬さが一様だと, 風船状に膨らんでしまう これを防ぐために, 根毛の側面には, 硬い細胞壁が作られる 今回, 檜垣准教授が参画した国際共同研究グループは, モデル植物シロイヌナズナを用いて, 1. リン脂質の一種, ホスファチジルイノシトール 3,5- 二リン酸 [PI(3,5)P 2] を作る酵素である FAB1 と低分子量 GTPaseROP10 という分子が, 根毛側面の細胞膜上で複合体を形成することで, 根毛側面の細胞膜直下の表層微小管の構造を安定化すること, 2. さらに PI(3,5)P 2 が目印になり, 細胞壁を硬くす 研究成果の概略図シロイヌナズナ根毛側面の細胞膜上では,FAB1 が ROP10 と共同で, PI(3,5)P2 を合成する 合成された根毛側面の PI(3,5)P2 は, 表層微小管の伸 と細胞側 の細胞壁を硬くする成分の分泌を制御することで, 根 の側 を硬くしている る成分を根毛側面の細胞壁に運ぶことで, 根毛の細長く, 真っ直ぐな構造を形成することを明らかにしました

問合せ先京都府立大学 取材 事務局企画課 075-703-5212 九州大学広報室 ( 電話 092-802-2130) 研究 生命環境学部細胞動態学研究室准教授佐藤雅彦 TEL/FAX:075-703-548 E-mail:mhsato@kpu.ac.jp 熊本大学 国際先端科学技術研究機構檜垣匠 ( 電話 096-342-3975 E-mail thigaki@kumamoto-u.ac.jp) * 国際共同研究グループ 京都府立大学大学院生命環境科学研究科細胞動態学研究室 特任助教平野朋子 准教授佐藤雅彦 京都府立大学大学院生命環境科学研究科細胞工学研究室 准教授武田征士 金沢大学ナノ生命科学研究所 准教授紺野宏記 京都大学化学研究所生体分子情報研究室 助教加藤真理子 教授 卓史 九州大学大学院医学研究院系統解剖学分野 助教今村寿子 熊本大学国際先端科学技術研究機構 准教授檜垣匠 オックスフォード大学植物科学部 (Univers ity of XFOR O DDepa rtment fo Pl ant Scie nces) 教授 Liam Dolan

研究の詳細 研究の背景 植物の根には, 根毛と呼ばれる表皮細胞の一部が管状に外側に伸びた構造体が密生しています 根毛には, 根の 表 積を きくすることで, 壌中の や養分を吸収する役割があります 根 は, 先端部分が特異的に伸 す る先端成 という成 様式で伸びることが知られており, この根毛先端が伸びる仕組みについては, 数多くの研 究がありました しかしながら, 土壌中で根 の細 い構造を作るためには, 先端部分が伸びると同時に根 の側 部分の伸 を抑制しながら, 側面部分を硬くしないと, 細 い管状の構造を作ることはできません ところが, 現在までに根毛側面の伸 抑制メカニズムの分 機構は全く明らかになってはいませんでした 研究の成果 平野特任助教, 佐藤准教授らの研究グループは, 最初に, 伸 中の根 側 の細胞膜にホスファチジルイノシト ール 3 リン酸 5- キナーゼ,FAB1 とその生成産物ホスファチジルイノシトール 3,5 二リン酸 [PI(3,5)P 2] 注 1 が局 在することを見出しました 教授, 加藤助教らの先行研究により根 の先端成 時の根 先端には, ホスフ ァチジルイノシトール 4 リン酸 5- キナーゼ,PIP5K3 とその生成産物ホスファチジルイノシトール 4,5 二リン酸 [PI(4,5)P 2] 注 2 が存在することが明らかになっていたので,PI(3,5)P 2 と PI(4,5)P 2 を蛍光標識するマーカータンパク質を同時発現するシロイヌナ ズナ形質転換体を作成して両者の局在性を伸 中の根 で同時観察した ところ, PI(3,5)P 2 は, 根毛の側面に, そして,PI(4,5)P 2 は, 根毛の先端 図 1 シロイヌナズナ根毛細胞膜上には, FAB1,PI(3,5)P 2 と PI5K3,PI(4,5)P 2 が存在する二種類の領域がある にそれぞれ分かれて存在することが明らかになりました ( 図 1) このこと は, 伸 中の根 の細胞膜に PI(3,5)P 2 と PI(4,5)P 2 で標識される明確に異なった領域が存在することを意味して います 次に, 根毛の側面に存在する PI(3,5)P 2 が根毛の形つくりにどの ように働いているかを, PI(3,5)P 2 量を人為的に減少させること で調べました その結果, 寒天中で伸 させた根 の形態は, PI(3,5)P 2 量が低下するとともに, 太く, 波打った形態になり, 最 図 2 PI(3,5)P 2 量の減少による根毛形態の変化

終的にはぷっくりと膨らんだような状態に変化しました ( 図 2) PI(3,5)P 2 量が低下した状態の根毛側面の機械的強度を平野特任助 教, 紺野准教授が原子間力顕微鏡注 3 で直接測定したところ, 通常の根 毛の半分程度の硬さしかありませんでした ( 図 3) つぎに根毛側面の 硬さが低下した原因を調べるために, 平野特任助教, 檜垣准教授が, 根毛の形態形成に関与する表層微小管注 4 の構造を調べたところ, その 図 3 PI(3,5)P 2 量を減少させると根毛側面が弱くなる 繊維状構造が極度に断片化していることが明らかになりました ( 図 4) さらに, 細胞壁に硬さを与えるはたらきのある二次細胞壁の成分で あるキシラン注 5 の存在量が PI(3,5)P 2 量の低下に応じて, 極度に減少 することも明らかになりました ( 図 5) さらに Dolan 教授, 武田准 教授が, 細胞骨格の制御に関わる低分子量 G タンパク質の一種であ る ROP(Rho-relatedGTPasesfrom plants) ファミリータンパク質注 6 の発現を調べたところ,ROP2 と ROP10 が根毛特異的に発現してい ることがわかりました そこで, 平野特任助教, 佐藤准教授が,PIP5K3 図 4 PI(3,5)P 2 量を減少させると表層微小管の繊維構造が破壊される と FAB1 との相互作用を調べたところ,PIP5PK3 は ROP2 と FAB 1 は ROP10 とそれぞれ特異的に相互作用していることがわかりました これらの結果を踏まえて, 今村助教が, 根毛側面の PI(3,5)P 2 量が表層微小管の構築と細胞壁の硬さを制御 しているという仮定を導入した数理モデルを構築し, 計算機シミュ レーションしたところ, 寒天の抵抗で根毛の伸 向とは逆の がかかるとき,PI(3,5)P 2 量の低下により側面の硬さが低下した根毛 は, 側面の細胞壁に抵抗による応力とひずみが不均等に生じること によって根毛の側面が歪む座屈注 7 と呼ばれる現象がおこる つま り,PI(3,5)P 2 量の低下がおこると, 根 が伸 向にひしゃげるこ とで根毛の波打つ形態が発生する ということが明らかとなりま した ( 図 6) これらの結果より, 植物は,PI(3,5)P 2 の作用により, 図 5 キシラン抗体による蛍光免疫染色 PI(3,5)P 2 量を減少させると細胞壁のキシラン量が低下する

根毛側面を強固にすることで, 土中などで根毛をまっすぐ伸 ばすことができることがわかりました 今後の展望 PI(3,5)P 2 量を人為的に操作することにより, 側面強度を増 強した根毛を持つ植物体を作出することで, 栄養源が乏しい 土壌中から効率よく栄養を吸収できる植物体を開発できる 可能性があります 図 6 PI(3,5)P 2 量の減少に従って, 根毛の側面部分の硬さが減少することにより, 根毛基部が座屈することによって, 寒天中での根毛の形態が変化する 用語説明 注 1: ホスファチジルイノシトール 3,5- 二リン酸 [PI(3,5)P 2] ホスファチジルイノシトールは, リン酸基にイノシトールが結合しているリン脂質の一種である ホスファチジルイノシトールのイノシトール環の3 位と5 位の水酸基がリン酸化されたものが, ホスファチジルイノシトール 3,5- 二リン酸 [PI(3,5)P2] である PI(3,5)P2 は, ホスファチジルイノシトール-3 リン酸 5- キナーゼ,FAB1 によりホスファチジルイノシトール 3- リン酸 (PI3P) の 5 位の水酸基をリン酸化することで, 合成される 注 2: ホスファチジルイノシトール 4,5- 二リン酸ホスファチジルイノシトールは, リン酸基にイノシトールが結合しているリン脂質の一種である ホスファチジルイノシトールのイノシトール環の 4 位と5 位の水酸基がリン酸化されたものが, ホスファチジルイノシトール 4,5- 二リン酸 [PI(4,5)P2] である PI(3,5)P2 は, ホスファチジルイノシトール-4 リン酸 5- キナーゼ,PIP5K によりホスファチジルイノシトール 4- リン酸 (PI4P) の 5 位の水酸基をリン酸化することで, 合成される 注 3: 原子間力顕微鏡 [AtomicForceMicroscope(AFM)] 走査プローブ顕微鏡の一種であり, 試料と探針の原子間に働く力を検出して, 試料を走査することにより画像を得たり, 試料の 硬さを直接測定できる 注 4: 表層微小管 微小管は,α チューブリンと β チューブリンが構成単位となって形成される中空の繊維状構造であり, 微小管の中でも, 細胞分 裂していない細胞の細胞膜直下に存在する微小管のことを表層微小管と呼ぶ 表層微小管は, ある特定の方向に配向することにより, 細胞壁に付加されるセルロース微繊維の方向を制御することで, 細胞の伸 向を決定する役割がある 注 5: キシラン β1 4 結合したキシロースの主鎖に様々な側鎖が結合した分子式 (C5H8O4)n の構造を持つ多糖類である 植物の二次細胞壁に多く含まれる 注 6:ROP(Rho-relatedGTPasesfrom plants) ファミリータンパク質 Ras スーパーファミリー低分子量 GTPase は,GTP 結合型と GDP 結合型の ROP が存在し, 両者が相互変換することで, シ グナル伝達など様々な細胞内制御機構の分子スイッチとして働く ROP ファミリータンパク質は,Ras スーパーファミリーに属するタンパク質ファミリーで, 主にアクチンや微小管などの細胞骨格の形成制御の分子スイッチとして機能している

注 7: 座屈 圧縮力を受けた物体がその力の軸の横方向に折れ曲がること 発表雑誌 NaturePlants*doi.10.1038/s4147-018-0277-8 論文タイトル :PI(3,5)P 2 mediates root hair shank hardening in Arabidopsis 著者 :Tomoko Hirano, Hiroki Konno, Seiji Takeda 1, Liam Dolan, Mariko Kato, Takashi Aoyama, Takumi Higaki, Hisako Takigawa-Imamura, and Masa H. Sato 研究サポート 本研究は科学研究費補助金 ( 新学術領域研究 学術研究支援基盤形成 先端バイオイメージ ング支援プラットフォーム (ABiS) を含む ), 京都府立大学重点戦略研究などの支援のもとに行われました