第 4 節富士山 父島 南鳥島の気候変化 4.1 富士山 父島 南鳥島の地勢富士山 ( 標高 3776m) は 日本一の名山として万葉集などの古歌にもうたわれる日本の最高峰で 山梨県と静岡県にまたがる成層火山である 昭和 7 年 (1932 年 ) に 中央気象台 ( 現気象庁 ) が臨時富士山頂観測所を開設した その後 富士山測候所が山頂の剣が峰に設置され 平成 20 年 10 月 1 日からは特別地域気象観測所に移行して気象観測が続けられている 東京都に属する小笠原諸島の父島は 東京の南約 981km 北緯 27 度 05 分 東経 142 度 11 分に位置する太平洋上の面積約 24km 2 の海洋島である ( 参考 : 山手線の内側 63km 2 ) 同じく東京都に属する南鳥島は珊瑚礁でできた小さな島で 東京からは南東へ約 1862km 北緯 24 度 17 分 東経 153 度 59 分に位置し日本の最東端として知られている 南鳥島はほぼ正三角形で その一辺の長さはおよそ 2km 標高は最高地点でも約 9m である 気象庁では父島と南鳥島に気象観測所を設置して気象観測を行なっている なお 南鳥島には気象庁と海上自衛隊南鳥島航空派遣隊及び関東地方整備局東京港湾事務所南鳥島港湾保全管理所の職員が常駐している 麓と山頂の年平均気温を比較すると 麓 ( 御殿場 : 標高 472m) では 12.8 山頂では-6.2 で差は 19 にもなる また これまでに山頂では最高気温 17.8 (1942 年 8 月 13 日 ) 最低気温 -38.0 (1981 年 2 月 27 日 ) を記録している なお 日最大風速は西南西 72.5m/s(1942 年 4 月 5 日 ) 日最大瞬間風速は南南西 91.0m/s(1966 年 9 月 25 日 ) がこれまでの記録である 父島と南鳥島は周囲が海であることから 最高気温と最低気温の平年値の差がそれぞれ 4.4 4.8 と小さいという特徴を持つ ( 東京 ( 千代田区 ) の差は 8.2 ) 富士山 父島 南鳥島と東京 ( 千代田区 ) のそれぞれの年平均気温 年降水量 相対湿度 日照時間の一覧は次の表のとおりである 平均気温年降水量相対湿度日照時間地点 ( ) (mm) (%) ( 時間 ) 富士山 -6.2 /// /// /// 父島 23.2 1292.5 77 2038.5 南鳥島 25.6 1053.6 76 2805.3 東京 15.4 1528.8 65 1876.7 4.2 富士山 父島 南鳥島の気候富士山は独立峰であることから 麓と山頂の気温や風向 風速が相違するほかに 1 日の中でも気象の変化が大きいことが知られている 南鳥島 ( 東京都 ) の全景 富士山 ( 山梨県 静岡県 ) 父島 南鳥島と東京の位置 114
4.3 富士山 1 富士山特別地域気象観測所における平均気温の長期変化富士山特別地域気象観測所で観測された年平均気温の経年変化を図 4.3.1 に 季節ごとの平均気温の経年変化を図 4.3.2 に示す ( 統計期間 :1932 ~2014 年 ) 年平均気温には上昇傾向がみられる 季節別に見ると 春には変化傾向がみられないが 夏 秋 冬の平均気温は上昇傾向がみられる 冬の上昇幅は他の季節に比べて大きい 長期変化傾向 :+1.1( /100 年 ) 平年値 :-6.2 図 4.3.1 富士山特別地域気象観測所の年平均気温の経年変化 長期変化傾向 :+0.8( /100 年 ) 平年値 :-8.8 平年値 :4.1 春 (3~5 月 ) 夏 (6~8 月 ) 長期変化傾向 :+1.5( /100 年 ) 長期変化傾向 :+1.2( /100 年 ) 平年値 :-3.0 平年値 :-17.2 秋 (9~11 月 ) 冬 (12~2 月 ) 図 4.3.2 富士山特別地域気象観測所の季節ごとの平均気温の経年変化 115
2 富士山特別地域気象観測所における最高気温と最低気温の長期変化富士山特別地域気象観測所で観測された日最高気温と日最低気温の年平均値の経年変化を 図 4.3.3 と図 4.3.4 に示す ( 統計期間 :1932~2014 年 ) 最高気温 最低気温ともに上昇傾向がみられる 冬の上昇幅は他の季節に比べて大きい ( 季節ごとの経年変化のグラフは掲載略 ) 3 富士山特別地域気象観測所における冬日の長期変化富士山特別地域気象観測所で観測された冬日の年間日数の経年変化を図 4.3.5 に示す ( 統計期間 :1933~2014 年 ) 冬日日数には変化傾向はみられない 長期変化傾向 :+1.1( /100 年 ) 平年値 :-3.4 図 4.3.3 富士山特別地域気象観測所の日最高気温の年平均の経年変化 平年値 :276.7 日 図 4.3.5 富士山特別地域気象観測所の冬日日数の経年変化 長期変化傾向 :+0.8( /100 年 ) 平年値 :-9.3 図 4.3.4 富士山特別地域気象観測所の日最低気温の年平均の経年変化 116
4.4 父島 1 父島気象観測所 ( 小笠原村父島 ) における平均気温の長期変化父島気象観測所で観測された年平均気温の経年変化を図 4.4.1 に 季節ごとの平均気温の経年変化を図 4.4.2 に示す ( 統計期間 :1968~2014 年 ) 年平均気温には上昇傾向がみられる 季節別に見ると 夏と秋の平均気温には上昇傾向がみられるが 春と冬には変化傾向がみられない 2 父島気象観測所 ( 小笠原村父島 ) における降水量の長期変化父島気象観測所で観測された年降水量の経年変化を図 4.4.3 に示す ( 統計期間 :1969~2014 年 ) 年降水量には変化傾向はみられない 長期変化傾向 :+0.6( /50 年 ) 図 4.4.1 父島気象観測所の年平均気温の経年変化 平年値 :23.2 図 4.4.3 父島気象観測所の年降水量の経年変化 平年値 :1292.5mm 長期変化傾向 :+0.5( /50 年 ) 平年値 :21.1 平年値 :27.0 春 (3~5 月 ) 夏 (6~8 月 ) 長期変化傾向 :+0.9( /50 年 ) 平年値 :25.7 平年値 :18.8 秋 (9~11 月 ) 冬 (12~2 月 ) 図 4.4.2 父島気象観測所の季節ごとの平均気温の経年変化 117
3 父島気象観測所 ( 小笠原村父島 ) における最高気温と最低気温の長期変化父島気象観測所で観測された日最高気温と日最低気温の年平均の経年変化を 図 4.4.4 と図 4.4.5 に示す ( 統計期間 :1969~2014 年 ) 最高気温 最低気温ともに上昇傾向がみられる 冬の上昇幅は他の季節に比べて大きい ( 季節ごとの経年変化のグラフは掲載略 ) 4 父島気象観測所 ( 小笠原村父島 ) における真夏日と熱帯夜の日数の長期変化父島気象観測所で観測された真夏日 熱帯夜の年間日数の経年変化を 図 4.4.6 と図 4.4.7 に示す ( 統計期間 :1969~2014 年 ) 真夏日日数 熱帯夜日数ともに増加傾向がみられる 長期変化傾向 :+0.6( /50 年 ) 長期変化傾向 :+21( 日 /50 年 ) 平年値 :25.4 図 4.4.4 父島気象観測所の日最高気温の年平均の経年変化 平年値 :52.9 日 図 4.4.6 父島気象観測所の真夏日日数の経年変化 長期変化傾向 :+0.8( /50 年 ) 長期変化傾向 :+42( 日 /50 年 ) 平年値 :21.0 図 4.4.5 父島気象観測所の日最低気温の年平均の経年変化 図 4.4.7 父島気象観測所の熱帯夜日数の経年変化 平年値 :85.5 日 118
4.5 南鳥島 1 南鳥島気象観測所 ( 小笠原村南鳥島 ) における気温の長期変化南鳥島気象観測所で観測された年平均気温の経年変化を図 4.5.1 に 季節ごとの平均気温の経年変化を図 4.5.2 に示す ( 統計期間 :1951~2014 年 ) 年平均気温と春と夏の平均気温には上昇傾向がみられるが 秋と冬の平均気温には変化傾向がみられない 1963~1968 年には観測が中止されていた期間がある 2 南鳥島気象観測所 ( 小笠原村南鳥島 ) における降水量の長期変化南鳥島気象観測所で観測された年降水量の経年変化を図 4.5.3 に示す ( 統計期間 :1970~2014 年 ) 年降水量には変化傾向はみられない 長期変化傾向 :+0.3( /50 年 ) 図 4.5.1 南鳥島気象観測所の年平均気温の経年変化 平年値 :25.6 平年値 :1053.6mm 図 4.5.3 南鳥島気象観測所の年降水量の経年変化 長期変化傾向 :+0.5( /50 年 ) 長期変化傾向 :+0.3( /50 年 ) 平年値 :24.2 平年値 :28.1 春 (3~5 月 ) 夏 (6~8 月 ) 平年値 :27.5 平年値 :22.7 秋 (9~11 月 ) 冬 (12~2 月 ) 図 4.5.2 南鳥島気象観測所の季節ごとの平均気温の経年変化 119
3 南鳥島気象観測所 ( 小笠原村南鳥島 ) における最高気温と最低気温の長期変化南鳥島気象観測所で観測された日最高気温と日最低気温の年平均の経年変化を 図 4.5.4 と図 4.5.5 に示す ( 統計期間 :1952~2014 年 ) 最高気温には上昇傾向がみられるが 最低気温には変化傾向はみられない 4 南鳥島気象観測所 ( 小笠原村南鳥島 ) における真夏日と熱帯夜の日数の長期変化南鳥島気象観測所で観測された真夏日 熱帯夜の年間日数の経年変化を 図 4.5.6 と図 4.5.7 に示す ( 統計期間 : 真夏日日数 1970~2014 年 熱帯夜日数 1952~2014 年 ) 真夏日日数には増加傾向がみられるが 熱帯夜日数には変化傾向はみられない 1963~1968 年には観測が中止されていた期間がある 長期変化傾向 :+0.4( /50 年 ) 長期変化傾向 :+37( 日 /50 年 ) 平年値 :28.3 図 4.5.4 南鳥島気象観測所の日最高気温の年平均の経年変化 平年値 :137.7 日 図 4.5.6 南鳥島気象観測所の真夏日日数の経年変化 平年値 :23.5 図 4.5.5 南鳥島気象観測所の日最低気温の年平均の経年変化 平年値 :142.7 日 図 4.5.7 南鳥島気象観測所の熱帯夜日数の経年変化 120
トピック 気候変化予測と RCP シナリオ気候モデルを用いて気候変化を予測するためには 人間活動によって将来の大気中の温室効果ガスの排出量などがどのように変化するかを仮定する必要がある IPCC の第 4 次評価報告書までは 温室効果ガスの排出シナリオとして SRES(Special Report on Emissions Scenarios) というシナリオを用いていた SRES シナリオは 今後の社会 経済動向がどうなるかを複数想定した上で ( 図 1) 仮定した将来像ではどれくらいの温室効果ガスが排出されるのかを導き出すという手法を採っている 図 2 RCP シナリオに基づく放射強制力 RCP シナリオで定める 4 つの放射強制力の経路を実線で示す 破線は SRES シナリオに基づいて求めた放射強制力である 異常気象レポート 2014 から引用 図 1 SRES シナリオの概念図 SRES シナリオでは 経済発展とグローバル化の 2 つの方向性で世界の将来像を表す IPCC 第 3 次評価報告書から引用 IPCC 第 5 次評価報告書では 排出シナリオは RCP シナリオという方法に変更された RCP とは Representative Concentration Pathways の略称であり 代表的濃度経路 と訳されている RCP シナリオでは 代表的な将来の放射強制力の経路に基づいて 気候モデルによる気候予測を行う ( 図 2) 放射強制力に対応 比較できる社会 経済的シナリオは 気候モデルの計算とは別途に用意をする RCP シナリオでは RCP2.6( 低位安定化シナリオ : 気温上昇を 2 に抑えることを想定 ) RCP8.5( 高位参照シナリオ : 政策的な緩和策を行わないことを想定 ) 及びそれらの間に位置する RCP4.5( 中位安定化シナリオ ) と RCP6.0( 高位安定化シナリオ ) の 4 シナリオが選択された なお 本書の将来予測で用いている SRES の A1B シナリオは RCP6.0 シナリオにほぼ相当する 放射強制力 とは 人間活動の影響でどれだけ大気を暖めるかを示す指標のこと 放射強制力が正の場合には地球を暖める効果を持ち 値が大きいほど暖める効果が大きい事をしめす 社会 経済的な将来像と将来予測が 1 対 1 で対応する SRES シナリオと比べて RCP シナリオでは各シナリオに複数の社会経済の将来像を対応 比較させることが出来る ( 図 3) 気候モデルによる予測には大量の計算機資源を要するが RCP シナリオでは気候予測と社会 経済的な将来像の想定を別途に行なうため 多様な将来像を仮定して 様々な手段がある緩和策の効果やその結果現れる気候変化による影響を見ることができる これにより 例えば 気温上昇を に抑えるためには といった目標主導型の社会経済シナリオを複数作成して検討することが可能となる 図 3 気候予測と将来像の対応の違い SRES シナリオ ( 上段 ) と RCP シナリオ ( 下段 ) で仮定する将来像の違いを示す SRES シナリオでは気候予測と将来像が同数だが RCP シナリオでは気候予測に対して複数の将来像を対応させることが出来る 異常気象レポート 2014 から引用 121
トピック 最近の気温上昇の停滞図 1 上段に示すように 世界の年平均気温は長期的に上昇しており その上昇率は 100 年あたり 0.71 (1891~2015 年 ) となっている しかし 最近 15 年程度の期間に注目してみると 2013 年までは 1998 年に観測した年平均気温偏差の +0.22 という高温の記録を更新することがなく 気温は横ばい傾向となっていた 一方 CO 2 などの温室効果ガスの濃度はこの間も増加を続けており IPCC 第 4 次 第 5 次評価報告書で用いられていた気候モデルの計算結果では 気温上昇が持続することを予測していた ( 第 1 図下段 ) このような最近の世界平均気温の横ばい傾向 ( 停滞 を意味する英語から hiatus( ハイエイタス ) と呼ばれる ) と 温室効果ガスの増加や気 候モデルが予測する気温上昇との乖離についての研究が 近年は盛んに行われている その成果によると 1 火山噴火や約 11 年周期の太陽活動の下降位相の時期であったことによる太陽放射の減少 2 気候システムの内部変動による影響 の 2 つが主な要因と考えられている 後者の2の影響については 1998 年以降 太平洋熱帯域中部 ~ 東部の海面水温が低い状態が持続しやすい位相にあり この間の地球温暖化により蓄積された熱エネルギーの多くが深海を含む海洋内部に再配分されていたため 大気の温度上昇として現れていなかったと考えられている 図 2 は 気候システムの中で蓄えられた熱量の経年変化である 大気に比べて海洋は膨大な熱量を蓄える力を持っている これまでに地球の気候システムが蓄積してきた熱量の 90% 以上は 海水の温度上昇に使われていることが分かる 海洋の温暖化は近年の hiatus の期間でも続いており 大気の温度上昇は海洋内部の変動のわずかな揺らぎが大きく影響しているとみることも出来る なお 2014 年や 2015 年の世界の年平均気温はエルニーニョ現象の影響も要因となって高温となった 地球温暖化の進行を適確に検出するには 大気だけでなく 海洋を含めた気候システム全体を長期的な観点で監視していくことが不可欠である 図 1 世界の年平均気温の経年変化と気候モデルによる予測結果 ( 上 )1891 年以降 長期的には 100 年あたり 0.71 の割合で上昇しているが 近年に着目すると 1998 年に統計開始からの 1 位の高温となって以降 横ばいの傾向となっている ( 赤枠囲み部分 ) ( 下 )IPCC 第 4 次評価報告書 第 5 次評価報告書における予測等の根拠になった気候モデルによる過去から 2020 年までの再現 予測実験を観測値と比較したもの 緑と黄色の細線は個々の気候モデルによる予測値 文部科学省 気象庁 環境省 (2013) より 一部改変し引用 図 2 気候システムの各要素に蓄えられた熱量の経年変化 1971 年を基準とした変化量で示している IPCC(2013) より引用 122