平成 28 年 10 月 25 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 熱ふく射スペクトル制御に基づく高効率な太陽熱光起電力発電システムを開発 世界トップレベルの発電効率を達成 概要 東北大学大学院工学研究科の湯上浩雄 ( 機械機能創成専攻教授 ) 清水信 ( 同専攻助教 ) および小桧山朝華

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04.プレゼン資料(豊橋技科大_伊﨑先生)

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詳細な説明 研究の背景 フラッシュメモリの限界を凌駕する 次世代不揮発性メモリ注 1 として 相変化メモリ (PCRAM) 注 2 が注目されています PCRAM の記録層には 相変化材料 と呼ばれる アモルファス相と結晶相の可逆的な変化が可能な材料が用いられます 通常 アモルファス相は高い電気抵抗

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3.4 結晶系以外の太陽電池単結晶シリコン及び多結晶シリコン以外の材料を用いた太陽電池の総称である 3.5 結晶系太陽電池半導体材料として単結晶シリコン又は多結晶シリコンを用いた太陽電池をいう 3.6 太陽光発電設備光起電力効果によって太陽エネルギーを電気エネルギーに変換し 負荷に適した電力を供給す

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フォトニック結晶の現状と今後の展開可能性について

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No.2 < 研究発表 ( 口頭 ポスター 誌上別 )> 口頭発表 Hiroshi Sugimoto, Minoru Fujii "Colloidal Silicon Nanoantenna for Low-Loss Dielectric Nanophotonics Platform" Abstra

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集光型太陽光発電システムの高日射地域における性能優位性

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平成 27 年 12 月 11 日 報道機関各位 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (AIMR) 東北大学大学院理学研究科東北大学学際科学フロンティア研究所 電子 正孔対が作る原子層半導体の作製に成功 - グラフェンを超える電子デバイス応用へ道 - 概要 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (

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背景 金ナノ微粒子は通常の物質とは異なり, サイズによって色が赤や黄などに変化します この現象は局在プラズモンと呼ばれ, あまり聞き慣れない言葉ですが, 実はステンドグラスはこの局在プラズモンを利用してガラスを発色させています 局在プラズモンは, 光が金ナノ微粒子に当たると微粒子表面の電子が光と共鳴

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子どもが獲得する見方や考え方 教師が持つ指導ポイント <エネルギー教育の視点 > 鏡を使って太陽の光を反射させて集光すると, 熱も集めることができ, その熱を利用することができる 太陽光のエネルギーを利用することで, 省エネにつながる < 理科の視点 > 直径の大きい凸レンズで太陽光を集めるほど,

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報道機関各位 平成 27 年 3 月 20 日 ( 同時提供資料 ) 栃木県政記者クラブ 国立大学法人宇都宮大学 埼玉県政記者クラブ 学校法人 埼玉医科大学 文部科学記者会, 科学記者会 学校法人 早稲田大学 任意の偏光を持つテラヘルツ光の解析法を開発 ( 報道解禁日 :3 月 24 日午後 7 時

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研究の背景これまで, アルペンスキー競技の競技者にかかる空気抵抗 ( 抗力 ) に関する研究では, 実際のレーサーを対象に実験風洞 (Wind tunnel) を用いて, 滑走フォームと空気抵抗の関係や, スーツを含むスキー用具のデザインが検討されてきました. しかし, 風洞を用いた実験では, レー

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平成 28 年 10 月 25 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 熱ふく射スペクトル制御に基づく高効率な太陽熱光起電力発電システムを開発 世界トップレベルの発電効率を達成 概要 東北大学大学院工学研究科の湯上浩雄 ( 機械機能創成専攻教授 ) 清水信 ( 同専攻助教 ) および小桧山朝華 ( 同専攻博士課程学生 ) の研究グループは 幅広い波長の光を含む太陽光を 太陽電池に最適な波長の熱ふく射 1 に変換し発電する太陽熱光起電力発電 (Solar-thermophotovoltaic: Solar-TPV) システム 2 において世界トップレベルの発電効率を達成しました 本研究では 熱ふく射のスペクトル制御 と 熱ふく射の一方向への輸送 という概念に基づいた熱ふく射の変換 輸送効率を新たに提案し この概念に基づき Solar-TPV システムの全体設計を行いました これにより 高い熱ふく射変換 輸送効率を得るための基盤技術を開発し 5.1% の世界トップレベルの発電効率を達成しました この研究成果は 多接合太陽電池とは異なる概念による高効率太陽光発電の実現につながるものと期待されます また 熱ふく射のスペクトル制御 や 熱ふく射の一方向への輸送 は Solar-TPV のみならず 未利用エネルギーの有効利用に関連して様々な分野への適用が可能な概念であると考えられます 本研究の一部は 科学技術振興機構 先端的低炭素化技術開発 (ALCA) のプロジェクトの一環として実施されました また 本研究は科研費 (No.16H02117) の助成を受けております なお 本研究成果は 2016 年 10 月 25 日付で Applied Physics Express に掲載され 同誌 Spotlights 論文に選出されました 問い合わせ先東北大学大学院工学研究科機械機能創成専攻教授湯上浩雄 TEL:022-795-6924 E-mail:yugami@tohoku.ac.jp 東北大学大学院工学研究科情報広報室 TEL/FAX :022-795-5898 E-mail:eng-pr@eng.tohoku.ac.jp

背景 太陽から放射される光 ( 熱ふく射 ) は 図 1 に示すように幅広い波長分布 (= スペクトル ) を持っています 単接合太陽電池は 使用される半導体材料のバンドギャップ 3 より短波長の光しか電気に変換できないため バンドギャップより長波長の光は電気に変換されず損失となります 一方で 太陽電池を複数枚重ね合わせた多接合太陽電池は 吸収できる波長域を拡げることで幅広い波長分布を持つ太陽光スペクトルを無駄なく電気に変換することができます しかしながら 多接合太陽電池は作製が難しく 単接合太陽電池に比べ生産コストが高いといった課題があります Solar-TPV システムの特徴と概要図を図 1 と図 2 にそれぞれ示します このシステムでは まず集光太陽光により太陽光選択材料 波長選択エミッタが加熱された後 波長選択エミッタからの感度波長域に合わせた熱ふく射により光電変換セルが発電を行います 太陽光をいったん熱に変換することにより 太陽光のもつ光子エネルギー総量を保存したまま 別波長の光 ( 熱ふく射 ) へ変換することが特徴です これにより 安価な単接合太陽電池を用いても高効率な発電が可能になります 本研究グループは Solar-TPV システムにおいて 新たに提案した熱ふく射輸送効率の概念に基づき 世界トップレベルの発電効率 5.1% を達成しました 研究成果概要と本成果の意義 本研究では 熱ふく射のスペクトル制御 と 熱ふく射の一方向への輸送 という概念に基づいた熱ふく射の変換 輸送効率を新たに提案しました Solar-TPV システムでは 太陽光が太陽光選択吸収材料においていったん熱に変換された後 波長選択エミッタからの熱ふく射に変換されます つまり Solar-TPV は光子から光子への波長変換システムであり 同様に太陽光を熱に変換する従来の集光型太陽熱発電とは異なります そのため Solar-TPV システムでは吸収した太陽光のエネルギーを損失なく波長選択エミッタのみに輸送すること つまり 高い熱ふく射の変換 輸送効率を達成することが重要となります さらに 高効率な Solar-TPV システムを達成するためには 波長選択エミッタからの熱ふく射スペクトルが光電変換セルの感度波長域にマッチングしていること つまり高い光電変換効率を達成することが重要となります この 2 つの効率は太陽光選択吸収材料と波長選択エミッタの光学設計と幾何学設計により高めることが可能です 理想的には 太陽光選択吸収材料は太陽光スペクトルの強度が強い短波長域で高い吸収率を持ち 長波長域では低い放射率 ( 吸収率 ) を持つことが求められます これにより 放射損失が小さく高い熱輸送効率が期待できます 一方で 波長選択エミッタは光電変換セルの感度波長域において高い放射率を持ち それ以外の波長域では低い放射率を持つことが求められます これにより高い光電変換効率が期待できます 図 3(a)(b) にそれぞれ本研究で設計 作製した太陽光選択吸収材料と波長選択エミッタの光学特性を示します 新たに提案した熱ふく射の変換 輸送効率に基づき 光学設計と幾何学設計を行いました 作製した太陽光選択吸収材料と波長選択エミッタでは より高い熱ふく射の変換 輸送効率を得るため面積比を持たせ 太陽光選択吸収材料からの反射 放射損失を抑制しました その結果 熱ふく射輸送効率 54% 光電変換効率 28% が期待できる太陽光選択吸収材料と波長選択エミッタの設計と作製に成功しました 作製した太陽光選択吸収材料 波長選択エミッタ ガリウムアンチモン光電変換セルを用いた発電試験において 世界トップレベルの発電効率 5.1% を達成しました 本研究は 熱ふく射のスペクトル制御 と 熱ふく射の一方向への輸送 の概念に基づいた高い熱ふく射の変換 輸送効率が高効率な Solar-TPV システムに寄与することを明らかにするとともに 世界トップレベルの発電効率 5.1% を達成しました 熱ふく射の変換 輸送効率をさらに向上させることで Solar-TPV システムのさらなる高効率化が期待でき

ます また 熱ふく射のスペクトル制御 や 熱ふく射の一方向への輸送 は Solar-TPV のみならず 未利用エネルギーの有効利用に関連して様々な分野への適用が可能な概念であると考えられます 論文情報 [DOI] Asaka Kohiyama, Makoto Shimizu, Hiroo Yugami Unidirectional radiative heat transfer with a spectrally selective planar absorber/emitter for high-efficiency solar thermophotovoltaic systems Applied Physics Express, DOI:10.7567/APEX.9.112302. 謝辞 本研究の一部は 科学技術振興機構 先端的低炭素化技術開発 (ALCA) の支援を受けて行われました また 本研究は科研費 (No.16H02117) の助成を受けております 用語説明 1 熱ふく射高温物体から放射される光のこと 熱ふく射の強度は物体の温度の 4 乗に比例して強くなる また 温度上昇とともに熱ふく射のピークは短波長側に移動する 太陽光強度のピークは約 500 ナノメートルにあり これは約 6000K の黒体からの熱ふく射に相当する 各波長の熱ふく射の強度は その波長における物質の放射率にも依存することから 放射率を制御することで 高温物体からの熱ふく射スペクトルを制御できる 2 太陽熱光起電力発電 (Solar-thermophotovoltaic: Solar-TPV) システム太陽光スペクトルを太陽光選択吸収材料で受光して熱に変換して波長選択エミッタから太陽電池の最適な波長の光 ( ふく射 ) に変換して発電するシステム 太陽光を効率よく波長変換することで 最大 40% 程度の効率が期待できる 3 バンドギャップ結晶のバンド構造において電子が存在できないエネルギー領域 物質固有のものであり 絶縁体や半導体において バンドギャップエネルギー以下のエネルギーを有する光は吸収しない 太陽電池ではバンドギャップ以上のエネルギーをもつ光子が入射することで電力を発生するが 変換効率はバンドギャップ近傍の波長帯で最も高くなる 多接合型太陽電池では バンドギャップの異なる太陽電池を積層することで 太陽光スぺクトル全体を利用できるようにして高効率化を行う

GaSb 光電変換セルの外部量子効率 波長変換 感度波長域に合わせた熱ふく射 太陽光スペクトル 波長 紫外 ~ 可視域可視 ~ 近赤外域近赤外域 多接合型太陽電池 バンドギャップの異なる太陽電池を重ね合わせて高効率化 近赤外域 太陽熱光起電力発電 (Solar-TPV) 太陽光スペクトルを太陽電池の最適な波長に変換して高効率化 図 1 多接合太陽電池と Solar-TPV システムの特徴 感度波長域に合わせた熱ふく射 太陽からの熱ふく射 電力 太陽 太陽光選択吸収材料 波長選択エミッタ 光電変換セル 図 2 Solar-TPV システムの概要図

吸収率 太陽光スペクトル 0 0.5 1.5 2.0 2.5 3.0 波長 ( m) (a) 1500 1000 500 放射強度 (W/m 2 / m) 放射率 GaSb 光電変換セルの外部量子効率 0.5 1.5 2.0 2.5 3.0 波長 ( m) (b) 光電変換セルの外部量子効率 図 3 試験に用いた (a) 太陽光選択吸収材料と (b) 波長選択エミッタの光学特性 図中の写真は耐熱金属基板 ( 直径 9mm) の両面に作製した太陽光選択吸収材料 ( 直径 6mm) と波長選択エミッタ ( 直径 9mm) である