中央大学商学部久保知一研究室第 3 期卒業論文 患者満足の構成要素の究明 表層サービスによる満足形成の是非 増山絵里 中央大学商学部久保知一研究室第 3 期生 E-mail: t0kageccha@yahoo.co.jp 要約 : 医療機関における顧客 ( 患者 ) 満足は 営利企業以上に重要な概念であり 患者満足に関する研究は盛んに行われている しかし 実態の記述に終わっている傾向が多く見られ より一般化可能な研究が求められる そこで本研究では 医療サービスを 本質サービスと表層サービスとに分け SERVQUAL モデルを用いて 患者満足の構造を解明することを目的とする 潜在ユーザーに対して行った質問票調査のデータをもとに 共分散構造分析を行った 分析の結果 満足に影響を与えるのは 本質サービスではなく 表層サービスであるということが実証された キーワード : 患者満足本質サービス表層サービス SERVQUAL モデル共分散構造分析 1. イントロダクション近年 マーケティング概念は非営利組織である医療機関においても注目されてきており 実際にマーケティングを実行する医療機関は増えている 医療経済学者 Donabedian (1966) は 一般産業界における顧客満足という概念は 企業の収益性を向上させるためのツール すなわち企業の間接的成果目標であるという 一方 医療機関における患者満足概念は それ自体が評価の対象となりうるという 直接的成果目標であると主張している つまり医療機関においては 一般の営利企業以上に 顧客 ( 患者 ) 満足は重要な概念なのである そのため患者満足に関する研究の蓄積は十分にあるが 経験的な検討に基盤をおいた 1
患者満足の構造解明ものが多い またそれらは実態の記述に終わっている傾向が見受けられる そのため 仮説の理論的背景が明らかにされていないという課題がある また 医療に対する満足を高めるためには 医療サービスの中心である診察 治療だけではなく それを取り巻く周辺環境を含んだ総合的なサービスを提供することが重要な要素となってくる これを嶋口 (1994) では本質サービスと表層サービスに分類し 表層サービスこそが満足要因に関与するとしている そこで本研究では 医療サービスの中でも看護師によるサービスに焦点を当て 患者満足の構造の解明を試みる 本研究は以下のように構成される まず第 2 節において 先行研究のレビューを行う 具体的には 患者満足に関する研究 SERVQUAL モデル 顧客満足と再購買意図について検討する 第 3 節においては仮説を提唱し 理論モデルを構築する そして第 4 節では調査方法について言及し 第 5 節では構造方程式モデルの分析結果を検討する 最終節では分析結果の考察を行い 本研究の限界及び今後の研究課題について述べる 2. 先行研究のレビュー本節では 患者満足 SERVQUAL モデル 顧客満足と再購買意図について 先行研究のレビューを行う 患者満足に関する研究の問題点を挙げ 医療サービスにおける満足の構造を考察する 2-1. 患者満足の先行研究 Donabedian (1966) によると 医療の質は 健康の維持と患者の満足水準によって評価されるべきである これは健康の維持はまさに医療機関のもつ本質サービス 1 であり 医療の質を測る上で不可欠であるが 同時に患者の満足が直接的成果として評価の対象となりうるという主張である 一般産業界における顧客満足という概念は 企業の収益性を向上させるためのツールとして考えられるため 間接的なものとして捉えることができる これに対して Donabedian (1966) は 医療機関では満足水準は直接的成果目標であると主張している つまり 医療機関におけるサービスの受け手の満足 つまり患者満足は重要な概念であるといえる 患者満足の意義は 医療サービスを医療従事者からの一方的な評価ではなく 患者の主観的な評価という視点を考慮することによって 双方向的な評価を行うことにあると考えられる すなわち患者満足は 患者と医療従事 1 本質サービスとは 顧客が支払う代価に対して当然受けうると期待しているサービス属性をさす そのため 欠如すると不満を高める効果がある これに対して表層サービスとは 代価に対して必ずしも当然と思わないが あればあるにこしたことはない期待サービスをさす そのため 顧客の満足を直接向上させるための重要なサービス属性と考えられる (Swan & Combs, 1976; 嶋口, 1994) 2
患者満足の構造解明者の相互の関わりを通して 患者の意向が医療の提供に組み込まれていくという使われ方をすることが望まれる 続いて 患者満足に関する研究について細かく見ていく 患者満足に関する研究の蓄積は十分にあり 経験的な検討に基盤を置いた研究が多くなされている それらの研究では 満足を構成する次元を特定化し 総合的な満足度との関連付けを行っており 現場でのサービス エンカウンターに具体的な示唆を提供している点で大きな貢献が見られる 入院患者を対象とした研究では 満足を構成する要素として 職員の接し方 技術水準 物理的環境 治療効果を取り上げ これらに影響を与える管理姿勢についての類型化と 患者の満足度の関連を考察している ( 池上, 河北, 1987) また アメニティが満足度に影響を及ぼすという前提に立って より包括的な医療評価スケールの開発を試みた研究もある ( 大和田, 郡司, 今中, 1995) 堀 (2007) は コミュニケーションを中心とした患者満足度と費用負担感の関係に焦点を当てて分析を行っている 外来患者を対象とした調査では より包括的に設定された 19 の個別の満足度変数の因子分析によって 5 つの個別満足度因子を抽出する 大規模な調査が行われた ( 長谷川, 杉田, 1993) 彼らはさらに 個別満足度因子を構成する 15 の質問項目と 14 のコントロール変数によって総合的満足度との間の回帰分析を行っている また 前田 徳田 (2003) は 患者満足度を 医師に対する満足度 と 職員や待合室に対する満足度 に分け 受付の態度 や 看護師の態度 待ち時間 などは後者の満足度向上において重要な因子であるが 医師の説明のわかりやすさ や 医師が訴えを聞いてくれた といったコミュニケーションが全体の満足度を向上させる上で 最も重要な因子であると指摘している 今中 荒記 村田 信友 (1993) は 医療効果の自覚 医師の技能と説明 医師の専心と思いやり 巷間の評判 看護師 一般職員の対応 事務の対応 費用 建物内の快適性 アクセス の 9 次元を導出し 満足度との関係を調査している 藤村 (1995) は 医師に関連する要因として 患者とのコミュニケーション 患者に対する態度 患者との接触時間 医療能力 医師内での能力 患者対応の同質性 をあげ その他の要因として 病院の管理体制 待ち時間の短さ 医療設備 備品の充実度 の 11 次元を導出している 高 (2002) は 後述するサービス品質の次元を用いて 医療サービス品質次元と顧客満足との関係について 病院利用回数を従属変数に設定し研究を行っている 丸橋 横田 高間 (2001) は 性別 年齢の違いによる満足度の違いを調査している 永井 山本 横山 (2001) は 病院と診療所で調査を行い 病院では 雰囲気 快適性 満足できるサービス が総合満足度に強く影響し 診療所では 施設内の清潔さ 満足できるサービス が総合満足度に強く影響しているとした これらの研究によると 医療効果の自覚や医療能力といった本質サービスに関しては 3
患者満足の構造解明総合満足度の規定因となりうることが明らかであるが 表層サービスに関しては様々な結果が存在している この理由は 患者満足の構造が充分に明らかにされていないためだと考えられる 以上のように 患者満足に関する様々な研究が存在するが その多くが大病院での調査データ中心であり そこでの記述に留まっている また 仮説の理論的背景が明らかにされていないため 実態の記述の域を出ないという課題が存在する より一般化の図れる理論モデルの構築と検証が望まれる 2-2. SERVQUAL モデルサービス 2 は 無形性 生産と消費の同時性 異質性 消滅性などの特徴をもつが そのことがサービスを客観的に評価することを難しくしている モノであれば五感や産地などの製品情報により評価が可能であるが サービスにおいては プロセスを含む体験や経験なので正確に品質を判断することができない つまり サービスは具体的な内容は消費されるまで明らかでない上に 品質に関する判断は消費者が独自に行うものであり 他者の窺い知るところではない しかし サービスを顧客に提供する企業にとって 顧客満足を高めるためにはサービス品質の評価は重要な要素である したがって サービスの質をより向上させようという動きがうまれた サービスの質に関する問題意識の高まりは サービスの質を構成する要素の研究や サービスの質の測定を主眼においた研究を活発にした その一つが SERVQUAL モデルである SERVQUAL とは サービス (Service) と品質 (Quality) を組み合わせた造語で サービスの品質を測定するための尺度のひとつである SERVQUAL モデルは Parasuraman, Zeithaml, & Berry (1988) によって 顧客がサービスに対する期待と実際に体験したサービスの差を計る測定方法として開発された これは有形商品の品質を測定する尺度とは異なり サービス品質固有の抽象性が考慮されている 尺度条件として サービス品質を1 消費者の主観的に知覚した品質で評価する 2 消費者が商品の購買前に抱いた期待 ( 期待値 ) と購買前に知覚された経験 ( 経験値 ) との相対的な比較により決定する という内容があげられる Parasuraman et al. (1988) では サービス品質の決定要因を 10 の要因にまとめている 1 信頼性 : サービス遂行に関して 信頼できて正確に遂行できる 2アクセス : 接触のしやすさ 3 物的要素 : 物的施設 設備 接客員の外見 4 反応性 : 顧客を助けて素早いサービスを提供する意欲 2 サービスとは 一方が他方に対して与える行為やパフォーマンスで 本質的に無形で 結果として何の所有権ももたらさないものをいう (Kotler, 1994) 4
患者満足の構造解明 5 能力 : サービスを遂行するために必要な技能と知識や資格 6 丁寧さ : 顧客への丁寧さ 思慮深さ 尊敬 配慮 親近感 7 安全性 : 危険やリスクや懸念から離れているかどうか 8 信用性 : 信頼でき正直で誠実かどうか 9コミュニケーション : 顧客の要望を聞き 組織に伝達できるか 10 顧客理解 : 顧客のニーズを知ろうとする力 これは後に 1 物的要素 2 信頼性 3 反応性 4 確実性 5 共感性の 5 つの次元に集約された さらに 期待と実績の認知に関する 22 の質問項目に 7 段階評価を加えたものが SERVQUAL とよばれる消費者知覚を測定する方法である SERVQUAL モデルはサービスの差を計る代表的先行事例であるために 多くの研究者により指摘を受けている この中で Parasuraman et al. (1988) によるサービス品質の研究は 概念形成 計測のための基準 手法を生み出したという点で サービスの知覚品質研究に貢献している 同時にサービス戦略という観点からも 多くの議論を促し サービス戦略の形成にも SERVQUAL モデルは貢献していると言える しかし SERVQUAL モデルの期待と知覚を測定する方法 構成要素の妥当性といった問題点がいまだ存在し それらの問題を改善し さらに精度を高めていくことが求められている 2-3. 顧客満足と再購買意図顧客満足の概念は 研究者によってそれを規定する評価基準が異なっている 例えば Oliver (1981) は 満足 を 期待が満たされなかったことにまつわる感情が消費者の消費経験に関する事前の感情と結びついたときに生じる 凝縮された心理状態 と定義し Tse & Wilson (1988) は 事前の期待と消費後に知覚された製品成果との間の知覚された不一致に関する評価に対しての消費者の反応 と定義している また Oliver (1980) は 期待不一致 概念を用いて モデルの定式化を行っている このモデルは 購買経験による満足によって再購買意図が形成されることを示すものである つまり 満足した消費者は再購買意図を形成し 満足しなかった消費者は購買を止める また 再購買意図は顧客満足と正の相関があり その度合いによって規定されると主張されている 3 このように満足は 消費者のロイヤリティを形成し そして保持するための重要な概念であると考えられる サービス消費の場合でも ロイヤリティは重要な役割を果たすと考えられる 顧客が特定のサービスの利用経験において特に大きな問題に直面しないかぎり サービスの特質 ( 無形性 生産と消費の同時性 ) によって 顧客にそのサービスの再利用を促すような構造が備わっていると考えられている 4 3 詳しくは Heskett, Jones, Loveman, Sasser, & Schlesinger (1994) を参照のこと 4 詳しくは 藤村 (2006) を参照のこと 5
患者満足の構造解明 3. 仮説の提唱本節では 前節で行ったレビューをもとに 患者満足の形成要因を明らかにするためにモデルを構築し 仮説を提唱する 先述したように 嶋口 (1994) では表層サービスが満足の形成要因となると述べられている 本研究で取り扱う医療サービスにおいては 看護師のサービスが表層サービスに当たると考えられる 提供されるサービスが本質サービスなのか それとも表層サービスなのかという分類は個人によって異なり 難しい点ではあるが 医療機関を訪れる本来の目的が治療や診察を受けることだと考えると 看護師のサービスは表層サービスに当たると考えられる よって以下の仮説を提唱する 仮説 1: 看護師のサービス品質は 満足に正の影響を与える また 看護師のサービス品質こそが患者満足を形成することを明らかにするために 看護師のサービス品質の他に 3 つの統制変数を組み込む まず 医療における本質サービスである医師のサービス品質である 本質サービスは満足形成に影響を及ぼさないはずではあるが 医療サービスを受ける目的を考慮すると 少なからず影響があると考えられるためである そして 今井 揚 小島 櫻井 武藤 (2001) で述べられている 満足度に影響する要因をもとに 待ち時間の短さ 環境 設備の 2 つを組み込む よって以下の仮説を提唱する 仮説 2: 医師のサービス品質は 満足に正の影響を与える 仮説 3: 待ち時間の短さは 満足に正の影響を与える 仮説 4: 環境 設備は 満足に正の影響を与える 再購買意図は 顧客満足と正の相関があり その度合いによって規定される (Heskett, Jones, Loveman, Sasser & Schlesinger 1994) 本研究においては 再購買意図は再来院意図に置き換えることができる よって以下の仮説を提唱する 仮説 5: 満足は 再来院意図に正の影響を与える 嶋口 (1994) によると 表層サービスは 満足 満足していない という次元に働き 本質サービスは 不満 不満でない という次元に働く また 藤村 (1999) によると 満足の最大化と不満足の最小化は異なる次元であるとしている つまり 本質サービスが備わっていることは顧客にとって当たり前であるため 満足を生じさせる要因ではな 6
患者満足の構造解明 く むしろ欠如した場合に不満を感じる 一方表層サービスは なくても困らないが あれば魅力的で 満足を感じる よって 以下の仮説を提唱する 仮説 6: 医師のサービス品質が満足に与える影響よりも 看護師のサービス品質が満足に与える影響の方が大きい 以上の仮説 1~6 をもとに 以下の理論モデルを導出する 本研究では このモデルを SPS モデル (Structure of Patient s Satisfaction model) と呼ぶ 実証分析を行うことで 仮説の経験的妥当性をテストする 図 1 SPS モデル 看護師のサービス品質 (+) 医師のサービス品質 (+) 満足 (+) 再来院意図 待ち時間の短さ (+) (+) 環境 設備 4. 調査方法 本論では 先に導出した因果モデルの経験的妥当性をテストするために 質問票調査を行う 調査にあたり医療機関へ調査依頼を行ったが アンケートにおける個人情報の取り扱いや研究の倫理審査の関係により 残念ながら医療機関での調査は不可能であった よって今回は 都内私立大学の学生を中心に調査を行った 測定尺度の作成にあたっては 看護師のサービス品質 と 医師のサービス品質 については Parasuraman, Zeithaml, & Berry (1985; 1988) 宮城 (2009) を 再来院意図 については Baker & Churchill (1977) を参考にして開発した 満足 については Oliver (1980) を参考にした 7
患者満足の構造解明 待ち時間の短さ と 環境 設備 については独自で設定した 今回 潜在ユーザーを対象として調査を行ったため 場面想定法を用いて質問票を作成した このような内容で調査を行ったところ 回答数 124 有効回答率 100% を得た 5. 分析結果図 1 に示された因果モデルを 統計ソフト SPSS Inc PASW Statistics 18 および Amos 18 を用いて共分散構造分析によって経験的にテストした まず 潜在変数の信頼性分析を行ったところ クロンバックの 係数は以下の表 1 のような結果となった 看護師のサービス品質と医師のサービス品質の 係数はやや低かったが その他の潜在変数の 係数は十分に高かった 表 1 観測変数と信頼性係数 (n=124) 潜在変数観測変数 ( 質問項目 : 全て 1-7 の 7 点尺度 ) クロンバックの 係数 患者ひとりひとりに対して 正確に対応するべきだ 看護師のサービス品質医師のサービス品質待ち時間の短さ環境 設備満足再来院意図 いつでも進んで患者を手助けするべきだ 安心して任せられる対応がされるべきだ 患者ひとりひとりの要求を理解するべきだ 身なり ( 髪型も含む ) はきちんとされているべきだ 患者ひとりひとりに対して 正確に対応するべきだ 必要な知識 技能が身に付いているべきだ 常に患者ひとりひとりに注意を向けるべきだ 受付を済ませてから診察までの時間は 適切だ 十分に我慢できるものだ 雰囲気は良いと思う 清潔だと思う このような病院であれば 満足だ このような病院であれば 来て良かったと感じると思う 医者に掛かることがあったら このような病院を利用したい このような病院を掛かりつけにしようと思う.615.565.849.764.843.902 妥当性のチェックのため 確認的因子分析を行った 2 値は 147.873 で 自由度は 89 有意確率は.000 であった 適合度指標 GFI および自由度調整適合度指標 AGFI は各々.875 および.810 で 適合度は既存研究の推奨値をわずかに下回った ただし このことはサンプルサイズの小ささに依存しているものと考えられる おおむね満足できる適合度を 8
患者満足の構造解明得た 平均二乗誤差平方根 RMSEA は.073 であり データがこのモデルに適していることを示している 続いて 構造方程式を共分散構造分析によって推定した まず モデルの全体的評価を行うと このモデルに対する 2 値は 208.331 自由度は 94 有意確率は.000 であった 適合度指標 GFI および自由度調整適合度指標 AGFI は各々.844 および.774 で やや低い適合度となった これも確認的因子分析と同様に 小さなサンプルサイズに起因していると解釈できる 平均二乗誤差平方根 RMSEA は.099 であり データがこのモデルに適合していると解釈できる 続いてモデルの部分的評価を行う 看護師のサービス品質は満足に対して有意かつ正の影響を与えており ( =.218, t=1.949, p<.10) 仮説 1 は支持された つぎに 医師のサービス品質は満足に対して有意かつ負の影響を与えており ( =-.202, t=-1.780, p<.10) 仮説 2 とは逆の結果が得られた つぎに 待ち時間の短さは満足に対して有意かつ正の影響を与えており ( =.414, t=3.466, p<.01) 仮説 3 は支持された つぎに 環境 設備から満足へのパスは非有意となり ( =.144, t=1.203, p>.10) 仮説 4 は棄却された つぎに 満足は再来院意図に対して有意かつ正の影響を与えており ( =.951, t=12.860, p<.01) 仮説 5 は支持された 最後に仮説 6 に関しての評価を行う 医師のサービス品質から満足へのパスと 看護師のサービス品質から満足へのパスの標準化係数を比較すると 医師のサービス品質よりも 看護師のサービス品質の方が満足に強い影響を与えていることがわかる これは 仮説 6 を支持する結果である 表 2 構造方程式モデルの推定結果 H1 看護師のサービス品質 満足 (+).218 (t= 1.949)* H2 医師のサービス品質 満足 (+) -.202 (t= - 1.780)* H3 待ち時間の短さ 満足 (+).414 (t= 3.466)*** H4 環境 設備 満足 (+).144 (t= 1.203) H5 満足 再来院意図 (+).951 (t= 12.860)*** ** : 10% 水準で有意 *** : 1% 水準で有意 9
患者満足の構造解明 図 2 SPS モデル分析結果 看護師のサービス品質.218* 医師のサービス品質 待ち時間の短さ -.202*.414*** 満足.951*** 再来院意図 環境 設備.144 ***:1% 水準で有意 *:10% 水準で有意 実線 : 有意 破線 : 非有意 2 =208.331 (d.f.=94), p<.001 GFI=.844, AGFI=.774 RMR=.165, RMSEA=.099 以上の分析結果から まず有意になった仮説について考える 満足に影響を与える 3 つの潜在変数のうち 待ち時間の短さが最も強い影響を与えていた また 医師のサービス品質は満足に負の影響を与えており 仮説 2 は支持されなかったが 本質サービスである医師のサービス品質と 表層サービスである看護師のサービス品質という違いが 標準化係数に表れたと考えられる 次に 非有意になった仮説について考える 環境 設備は満足に対して影響を与えていなかった これは 医療サービスを受けるうえで 医師や看護師のサービス品質 待ち時間の短さといった直接的な要素とは異なり 副次的な要素であるため 満足形成に影響を与えていないのではないかと考えられる 6. 本論の知見と今後の課題先述の通り 患者満足に関する研究の蓄積は多く 様々な結果を提示してきているが 理論的背景がはっきりとしていない点や現実の記述に留まっている点など 問題点が存在していた そこで より一般化された研究結果を導き出すことを目的に 患者満足の構造を解明しようと試みてきた 10
患者満足の構造解明満足に影響を与える要因を順に見ていくと 最も強い影響を与えているのは 待ち時間の短さである これについては ネコの目システム 5 という 混雑状況を携帯電話やパソコンで知ることができるシステムを導入している医療機関も すでに存在している 待ち時間の短さの次に 満足に強い影響を与えているのは 看護師のサービス品質である 医師に診てもらうという医療サービスを受けるために医療機関を訪れるのであるが 医師ではなく 看護師のサービス品質が満足形成に影響を及ぼすことが 仮説通り見いだされた 最も興味深い結果が得られたのが 本質サービスである医師のサービス品質が 表層サービスである看護師のサービス品質よりも 満足に与える影響が小さいだけでなく マイナスの影響を与えていることが実証された点である この要因については 2 点考えられる 第 1 に 本質サービスが不満足形成に関わっている可能性があるという点である 表層サービスは 顧客に不可欠だと期待されているわけではないため このサービス属性がゼロであっても 不満足 にはならず 単に 満足していない 状態になる 一方本質サービスは そのサービス属性をある最低許容水準以下のレベルにしてしまうと 不満足 になってしまう また 最低許容水準以上にサービス充実度を上げても 満足度はある程度の充実点以上には上昇しない つまり 本研究において医師のサービス品質が満足にマイナスの影響を与えていたことは 本質サービスが不満足形成に関わっているということが示唆されたことになる 第 2 に 質問票でサービス品質について問う際に ~すべきだ という理想的水準による表現をした点である 場面想定法での医療機関の細かい描写は限界があり 特定の医療機関の知覚サービス水準ではなく 回答者の理想的なサービス水準を測定することになったため このような結果が得られたと考えられる 本研究には次のような課題がある 第 1 に 調査にあたり本質サービスと表層サービスの分類を研究者自身で行ったが 先述の通り判断する人によって分類が異なるという点である 分析を行う前に 何が医療サービスにおける本質サービスであり表層サービスであるのか 潜在ユーザーにアンケートをとるという方法も考えられる それにより 患者満足の構造をより明確に計り知ることができるであろう 第 2 に 本質サービスと不満足の関係である 本研究において 表層サービスである看護師のサービス品質が 医師のサービスよりも満足に強い影響を与えていることが分かった しかし 本質サービスである医師のサービス品質が不満足の形成要因として影響を与えることは 可能性として示唆されるのみであった 本質サービスが不満足の解消にどのような影響を与えているのか さらなる研究が必要であろう 以上のような課題を残したが 本研究は実地の記述に留まることなく 提言を導き出せたという点で 意義あるものと主張できるであろう 5 詳しくは (http://neco.riprice.co.jp/advertise/advertise.html) を参照のこと 11
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患者満足の構造解明 病院でのサービスに関するアンケート 中央大学商学部久保知一研究室第 3 期増山絵里 ごあいさつ現在 病院に対する満足度についての研究を行っております 回答結果はコンピュータで統計的に処理され プライバシーは保護されます また 学術研究以外の目的で使用されることもございません 大変お手数ではございますが なにとぞご協力のほど よろしくお願いいたします 以下のような病院を訪れたと想定して 質問にお答えください 風邪をひいてしまったため 近所の病院に行くことにしました 風邪が流行っている時期ということもあり 待合室の席はすすでにほとんど埋まってしまっています 看護師さんもとても忙しそうに働いています ( しっかり予約をするべきだったかな ) と思いつつ 受付を済ませて空いている椅子に座りました 掃除の行き届いた待合室には テレビが 1 台 新聞や雑誌 子供用の絵本が置いてあり ドリンクサーバーも設置されているので水やお茶が自由に飲めます 渡された体温計で熱を測り 紙コップでお茶を飲みながら テレビを眺めたり雑誌を読んだりして待ち時間を過ごしました 看護師さんに名前を呼ばれ 診察室に通されました 時計を見てみると 受付を済ませてから約 30 分が経っていました 診察室では 医師に症状を聞かれ丁寧に診察をしてもらい 処方される薬の説明を受け 全部で 5 分ほど診てもらいました 看護師さんからは しばらく安静にしていてくださいと言われ 診察室を出ました もう一度待合室で待っていると 3 分ほどで名前を呼ばれ 会計を済まして処方箋をもらい 病院を出ました あてはまる番号に 印をお付けください 7 6 5 4 3 2 1 そう思う どちらでも そう思わない ない 問 1: 看護師について どう思いますか? 0101: 身なり ( 髪型も含む ) は きちんとされているべきだ 7-6-5-4-3-2-1 0102: 患者ひとりひとりに対して 正確に対応するべきだ 7-6-5-4-3-2-1 0103: 信頼に足るサービスを提供している 7-6-5-4-3-2-1 15
患者満足の構造解明 0104: 忙しいので患者の注文に迅速に応えられなくてもよい 7-6-5-4-3-2-1 0105: いつでも進んで患者を手助けするべきだ 7-6-5-4-3-2-1 0106: 患者思いであるべきだ 7-6-5-4-3-2-1 0107: 安心して任せられる対応がされるべきだ 7-6-5-4-3-2-1 0108: 必要な知識 技能が身に付いているべきだ 7-6-5-4-3-2-1 0109: 常に患者ひとりひとりに注意を向けるべきだ 7-6-5-4-3-2-1 0110: 患者ひとりひとりの要求を理解するべきだ 7-6-5-4-3-2-1 問 2: 医師について どう思いますか? 0201: 身なり ( 髪型も含む ) は きちんとされているべきだ 7-6-5-4-3-2-1 0202: 患者ひとりひとりに対して 正確に対応するべきだ 7-6-5-4-3-2-1 0203: 信頼に足るサービスを提供している 7-6-5-4-3-2-1 0204: 忙しいので患者の注文に迅速に応えられなくてもよい 7-6-5-4-3-2-1 0205: いつでも進んで患者を手助けするべきだ 7-6-5-4-3-2-1 0206: 患者思いであるべきだ 7-6-5-4-3-2-1 0207: 安心して任せられる対応がされるべきだ 7-6-5-4-3-2-1 0208: 必要な知識 技能が身に付いているべきだ 7-6-5-4-3-2-1 0209: 常に患者ひとりひとりに注意を向けるべきだ 7-6-5-4-3-2-1 0210: 患者ひとりひとりの要求を理解するべきだ 7-6-5-4-3-2-1 問 3: 待ち時間について どう思いますか? 0301: 受付を済ませてから診察までの時間は 適切だ 7-6-5-4-3-2-1 0302: 十分に我慢できるものだ 7-6-5-4-3-2-1 問 4: 病院内はどうですか? 0401: 快適だと思う 7-6-5-4-3-2-1 0402: 雰囲気は良いと思う 7-6-5-4-3-2-1 0403: 清潔だと思う 7-6-5-4-3-2-1 問 5: 以上の事をふまえて お答えください 0501: このような病院であれば 満足だ 7-6-5-4-3-2-1 0502: このような病院であれば 来て良かったと感じると思う 7-6-5-4-3-2-1 0601: 医者に掛かることがあったら このような病院を利用したい 7-6-5-4-3-2-1 0602: このような病院を掛かりつけにしようと思う 7-6-5-4-3-2-1 ご協力ありがとうございました 16