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娠中の母親に卵や牛乳などを食べないようにする群と制限しない群とで前向きに比較するランダム化比較試験が行われました その結果 食物制限をした群としなかった群では生まれてきた児の食物アレルゲン感作もアトピー性皮膚炎の発症率にも差はないという結果でした 授乳中の母親に食物制限をした場合も同様で 制限しなか

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

乾癬などの炎症性皮膚疾患が悪化するメカニズムを解明

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

本研究成果は 2015 年 7 月 21 日正午 ( 米国東部時間 ) 米国科学雑誌 Immunity で 公開されます 4. 発表内容 : < 研究の背景 > 現在世界で 3 億人以上いるとされる気管支喘息患者は年々増加の一途を辿っています ステロイドやβ-アドレナリン受容体選択的刺激薬の吸入によ

膚炎における皮膚バリア機能異常の存在を強く支持する結果が得られています ダニアレルゲンの性質即ちドライスキンの状態では 皮脂膜や角層 角層間物質に不都合があるため アレルゲンや化学物質が容易に表皮深部ないし真皮に侵入し炎症を惹起し得るうえ 経表皮水分喪失量も増加することが容易に想像されます ではダニ

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ランゲルハンス細胞の過去まず LC の過去についてお話しします LC は 1868 年に 当時ドイツのベルリン大学の医学生であった Paul Langerhans により発見されました しかしながら 当初は 細胞の形状から神経のように見えたため 神経細胞と勘違いされていました その後 約 100 年

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報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

< 研究の背景と経緯 > ヒトの腸管内には 500 種類以上 総計 100 兆個以上の腸内細菌が共生しており 腸管からの栄養吸収 腸の免疫 病原体の感染の予防などに働いています 一方 遺伝的要因 食餌などを含むライフスタイル 病原体の侵入などや種々の医療的処置などによって腸内細菌のバランスが乱れると

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

考えられている 一部の痒疹反応は, 長時間持続する蕁麻疹様の反応から始まり, 持続性の丘疹や結節を形成するに至る マウスでは IgE 存在下に抗原を投与すると, 即時型アレルギー反応, 遅発型アレルギー反応に引き続いて, 好塩基球依存性の第 3 相反応 (IgE-CAI: IgE-dependent

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汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

2019 年 3 月 28 日放送 第 67 回日本アレルギー学会 6 シンポジウム 17-3 かゆみのメカニズムと最近のかゆみ研究の進歩 九州大学大学院皮膚科 診療講師中原真希子 はじめにかゆみは かきたいとの衝動を起こす不快な感覚と定義されます 皮膚疾患の多くはかゆみを伴い アトピー性皮膚炎にお

Powered by TCPDF ( Title フィラグリン変異マウスを用いた新規アトピー性皮膚炎マウスモデルの作製 Sub Title Development of a new model for atopic dermatitis using filaggrin m

八村敏志 TCR が発現しない. 抗原の経口投与 DO11.1 TCR トランスジェニックマウスに経口免疫寛容を誘導するために 粗精製 OVA を mg/ml の濃度で溶解した水溶液を作製し 7 日間自由摂取させた また Foxp3 の発現を検討する実験では RAG / OVA3 3 マウスおよび

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

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汎発性膿庖性乾癬の解明

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統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

図アレルギーぜんそくの初期反応の分子メカニズム

アトピー性皮膚炎におけるバリア異常と易湿疹化アトピー性皮膚炎における最近の話題に 角層のバリア障害があります アトピー性皮膚炎の 15-25% くらい あるいはそれ以上の患者で フィラグリンというタンパク質をコードする遺伝子に異常があることが明らかになりました フィラグラインは 角層の天然保湿因子の

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

ず一見蕁麻疹様の浮腫性紅斑が初発疹である点です この蕁麻疹様の紅斑は赤みが強く境界が鮮明であることが特徴です このような特異疹の病型で発症するのは 若い女性に多いと考えられています また スギ花粉がアトピー性皮膚炎の増悪因子として働いた時には 蕁麻疹様の紅斑のみではなく全身の多彩な紅斑 丘疹が出現し

医薬品タンパク質は 安全性の面からヒト型が常識です ではなぜ 肌につける化粧品用コラーゲンは ヒト型でなくても良いのでしょうか? アレルギーは皮膚から 最近の学説では 皮膚から侵入したアレルゲンが 食物アレルギー アトピー性皮膚炎 喘息 アレルギー性鼻炎などのアレルギー症状を引き起こすきっかけになる

博士学位論文 内容の要旨及び論文審査結果の要旨 第 11 号 2015 年 3 月 武蔵野大学大学院

No. 2 2 型糖尿病では 病態の一つであるインスリンが作用する臓器の慢性炎症が問題となっており これには腸内フローラの乱れや腸内から血液中に移行した腸内細菌がリスクとなります そのため 腸内フローラを適切に維持し 血液中への細菌の移行を抑えることが慢性炎症の予防には必要です プロバイオティクス飲

鳥居薬品株式会社 ( 本社 : 東京都 代表取締役社長 : 髙木正一郎 ) は 全国の通年性アレルギー性鼻炎 花粉症のいずれかの症状を自己申告いただいた本人 (15~64 歳 )4,692 名 ( 各都道府県 100 名 山梨県のみ 92 名 ) と 子ども (5 歳 ~15 歳 ) が両疾患のいず

アトピー性皮膚炎の治療目標 アトピー性皮膚炎の治療では 以下のような状態になることを目指します 1 症状がない状態 あるいはあっても日常生活に支障がなく 薬物療法もあまり必要としない状態 2 軽い症状はあっても 急に悪化することはなく 悪化してもそれが続かない状態 2 3

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

第3章 調査のまとめ

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

平成24年7月x日

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界では年間約 2700 万人が敗血症を発症し その多くを発展途上国の乳幼児が占めています 抗菌薬などの発症早期の治療法の進歩が見られるものの 先進国でも高齢者が発症後数ヶ月の 間に新たな感染症にかかって亡くなる例が多いことが知られています 発症早期には 全身に広がった感染によって炎症反応が過剰になり

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

さらにのどや気管の粘膜に広く分布しているマスト細胞の表面に付着します IgE 抗体にスギ花粉が結合すると マスト細胞がヒスタミン ロイコトリエンという化学伝達物質を放出します このヒスタミン ロイコトリエンが鼻やのどの粘膜細胞や血管を刺激し 鼻水やくしゃみ 鼻づまりなどの花粉症の症状を引き起こします


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新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

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研究成果の概要 今回発表した研究では 独自に開発した B 細胞初代培養法 ( 誘導性胚中心様 B (igb) 細胞培養法 ; 野嶋ら, Nat. Commun. 2011) を用いて 膜型 IgE と他のクラスの抗原受容体を培養した B 細胞に発現させ それらの機能を比較しました その結果 他のクラ

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

通常の単純化学物質による薬剤の約 2 倍の分子量をもちます. 当初, 移植時の拒絶反応抑制薬として認可され, 後にアトピー性皮膚炎, 重症筋無力症, 関節リウマチ, ループス腎炎へも適用が拡大しました. タクロリムスの効果機序は, 当初,T 細胞のサイトカイン産生を抑制するということで説明されました

るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

報道発表資料 2007 年 4 月 30 日 独立行政法人理化学研究所 炎症反応を制御する新たなメカニズムを解明 - アレルギー 炎症性疾患の病態解明に新たな手掛かり - ポイント 免疫反応を正常に終息させる必須の分子は核内タンパク質 PDLIM2 炎症反応にかかわる転写因子を分解に導く新制御メカニ

研究目的 1. 電波ばく露による免疫細胞への影響に関する研究 我々の体には 恒常性を保つために 生体内に侵入した異物を生体外に排除する 免疫と呼ばれる防御システムが存在する 免疫力の低下は感染を引き起こしやすくなり 健康を損ないやすくなる そこで 2 10W/kgのSARで電波ばく露を行い 免疫細胞

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

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研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

●アレルギー疾患対策基本法案

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

平成14年度研究報告

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血


平成24年7月x日

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

デュピクセントを使用される患者さんへ

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第11回 化学物質の環境リスクに関する国際シンポジウム 発表資料

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られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

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記 者 発 表(予 定)

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なお本研究は 東京大学 米国ウィスコンシン大学 国立感染症研究所 米国スクリプス研 究所 米国農務省 ニュージーランドオークランド大学 日本中央競馬会が共同で行ったもの です 本研究成果は 日本医療研究開発機構 (AMED) 新興 再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業 文部科学省新学術領

を余儀なくされ 時には成長の各段階で過ごす学校や職場等において 適切な理解 支援が得られず 長期にわたり生活の質を著しく損なうことがある また アレルギー疾患の中には アナフィラキシーショックなど 突然症状が増悪することにより 致死的な転帰をたどる例もある 近年 医療の進歩に伴い 科学的知見に基づく

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日本内科学会雑誌第98巻第12号

ルス薬の開発の基盤となる重要な発見です 本研究は 京都府立医科大学 大阪大学 エジプト国 Damanhour 大学 国際医療福祉 大学病院 中部大学と共同研究で行ったものです 2 研究内容 < 研究の背景と経緯 > H5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスは 1996 年頃中国で出現し 現在までに

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ROCKY NOTE 食物アレルギー ( ) 症例目を追加記載 食物アレルギー関連の 2 例をもとに考察 1 例目 30 代男性 アレルギーについて調べてほしいというこ

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難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

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アトピーとは ( アトピー性皮膚炎 ) アトピーとは 奇妙 異常 という意味で 通常では見られない過敏な反応 と して名付けられました アトピー と アレルギー の違いは アレルギー = 特定のアレルゲンにより 症状が出る ( 乳製品 小麦など ) アトピー = アレルゲンが見当たらず不特定とされて

背景 近年, コンピューター, タブレット, コンタクトレンズなどの使用増加に伴い, 国民の約 10 人に 1 人がドライアイだと言われています ドライアイの防止に必要な涙 ( 涙液 ) は水だけでできていると思われがちですが, 実は脂質層 ( 油層 ), 水層, ムチン層の三層で形成されています

年219 番 生体防御のしくみとその破綻 (Immunity in Host Defense and Disease) 責任者: 黒田悦史主任教授 免疫学 黒田悦史主任教授 安田好文講師 2中平雅清講師 松下一史講師 目的 (1) 病原体や異物の侵入から宿主を守る 免疫系を中心とした生体防御機構を理

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

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( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

背景 私たちの体はたくさんの細胞からできていますが そのそれぞれに遺伝情報が受け継がれるためには 細胞が分裂するときに染色体を正確に分配しなければいけません 染色体の分配は紡錘体という装置によって行われ この際にまず染色体が紡錘体の中央に集まって整列し その後 2 つの極の方向に引っ張られて分配され

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

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順天堂大学 医療 健康 No. 1 アレルゲン皮膚感作の新しい型を発見 ~ アレルゲンに触れて引っ掻くとアレルギーが重症化する ~ 概要順天堂大学大学院医学研究科 アトピー疾患研究センターの高井敏朗准教授らの研究グループは ダニ 花粉などの抗原に含有されるタンパク質分解活性 ( プロテアーゼ活性 ) と引っ掻きなどによる機械的な皮膚バリア障害 * 1 の組み合わせが アレルギー感作 * 2 と皮膚炎症を悪化させ 喘息などのアレルギーマーチ *3 の進展に重大な影響を及ぼすことを明らかにしました これは 呼吸器を介した吸入感作とは異なる新たなメカニズムによるもので アトピー性皮膚炎や経皮感作を起点とするアレルギーマーチの予防や治療法の開発につながると期待されます 本研究成果は米国研究皮膚科学会発行の科学雑誌 Journal of Investigative Dermatologyのオンライン版で公開されました 本研究成果のポイント プロテアーゼ抗原は経皮感作において強いアレルギー感作と皮膚炎症を引き起こす 経皮感作と機械的皮膚バリア障害の組み合わせがアレルギーの重症化につながる 吸入感作とは異なるメカニズムの解明により アトピー性皮膚炎やアレルギーマーチの予防 治療戦略へ 背景増悪 寛解を繰り返すアトピー性皮膚炎は激しい掻痒を伴い患者のQOLを著しく低下させます またアトピー性皮膚炎が起点となり喘息や食物アレルギーなどが発症し いわゆるアレルギーマーチに発展することが知られています アレルギーの予防 治療において保湿による皮膚バリア機能の保持の重要性は認識されていますが アレルゲンによる皮膚を介した刺激 感作の現場で何が起きているのかはよくわかっていませんでした 通常生活におけるアレルゲンであるダニ 花粉 カビなどにはタンパク質分解酵素 ( プロテアーゼ活性 ) が含有されていますが 多くの実験モデルでは酵素活性を持たない卵白アルブミンを抗原とした解析が行われていました そこで 私たちの研究グループは 実際の環境下で何が起こっているのかを明らかにするため プロテアーゼ活性をもつ抗原を使用して そのアレルギー感作能や皮膚炎症誘導能を調べました

No. 2 内容私たち研究グループは まずダニ主要アレルゲンと構造が類似したパパイヤ由来のプロテアーゼ ( パパイン : 食肉加工に用いられ職業性アレルゲンとしても知られる ) をモデル抗原として選択しました これをマウスの皮膚に塗布すると皮膚炎症とIgE 産生が誘導されることがわかりました 実際のアトピー性皮膚炎の患者さんでは皮膚の掻き壊しによる皮膚バリア機能障害が生じていることから 次に 患者さんにおける現実の状況を想定した実験を行いました マウスの皮膚にセロハンテープを貼ってはがす操作のテープストリッピングにより引っ掻きを模し プロテアーゼ抗原を塗布しました すると 皮膚炎症とIgE 産生が劇的に増強して誘導されることがわかりました この反応は抗原のプロテアーゼ活性を阻害すると消失したことから 抗原の構造ではなくプロテアーゼ活性が原因であることが証明されました ( 図 1) 一方 呼吸器を介したアレルゲン感作に重要なサイトカインであるインターロイキン33の遺伝子欠損マウスを用いてもプロテアーゼ抗原に対する経皮感作への影響はまったく見られませんでした すなわち 呼吸器を介した吸入感作とは異なるメカニズムであることが明らかになりました さらに 経皮感作されたマウスでは非常に少量のプロテアーゼ抗原の吸入だけで気道炎症が誘導され アレルギーマーチへの進展に重大な影響を及ぼすことがわかりました 今後の展開本研究により プロテアーゼ抗原は経皮感作において強いアレルギー感作と炎症誘導を引き起こし さらに機械的な皮膚バリア障害を組み合わせると劇的に増悪することを明らかにしました また 経皮感作のメカニズムは吸入感作と異なることも発見しました これらの結果は 今までわかっていなかった経皮感作におけるアレルゲンに含有されるプロテアーゼ活性の重要性を明らかにし 実際の環境下の状態に即した予防 治療標的を示した点に意義があります ( 図 2) 今後は アレルゲンのプロテアーゼ活性の阻止や様々な要因による皮膚バリア障害の下流の経路などを標的とし 新しい予防 治療戦略の策定に向けて研究を進めていきます

No. 3 テープストリッピング後対照液を塗布 テープストリッピング後プロテアーゼ抗原液を塗布 テープストリッピング後プロテアーゼ活性失活抗原液を塗布 対照液を塗布プロテアーゼ抗原液を塗布プロテアーゼ活性失活抗原液を塗布 図 1. 塗布抗原のプロテアーゼ活性とテープストリッピングの組み合わせによる皮膚炎症の悪化 ( マウスの耳介組織のヘマトキシリン - エオジンによる組織染色写真 ) プロテアーゼ抗原塗布のみでも弱い応答はあるが ( 下段中央 ) テープストリッピング ( 引っ掻きを模して実験的にバリア機能不全を誘導する方法 ) を組み合わせると顕著な増強 ( 表皮の肥厚 および真皮の腫脹と炎症細胞浸潤 ) を認めた ( 上段中央 赤枠 ) 一方 プロテアーゼ活性を阻害剤を用いて失活させておくと 応答はおきない

No. 4 プロテアーゼアレルゲン ( ダニ 花粉など ) 機械的刺激 ( 引っ掻きなど ) 環境 皮膚 バリア機能不全激化! 皮膚炎症! 感作! 自然免疫応答 細胞機能の修飾 Th2 分化 IgE クラススイッチ アレルゲン特異的 Th2 細胞アレルゲン特異的 IgE アレルギー応答 炎症 経皮感作後に異所へのアレルゲン侵入の場合にはアレルギーマーチ発生 図 2. 経皮的なアレルゲン感作からアレルギー悪化に至る過程の概念図 ダニ 花粉などにはタンパク質分解酵素 ( プロテアーゼ ) が含有されており それ自体がアレルゲンとなる ( プロテアーゼアレルゲン ) 皮膚のバリア機能不全は経皮感作を促進すると考えられるが 本研究では機械的刺激によるバリア障害について検討し プロテアーゼアレルゲンとの組み合わせが 強力にアレルギー感作を増悪させることを明らかにした

113-8421 東京都文京区本郷 2-1-1 順天堂大学医学部 医学研究科 用語解説 No. 5 *1 皮膚バリア障害 皮膚には水分の保持や異物の侵入を防ぐバリアとしての役割があります 引っ掻きやスキンケア不足は皮膚のバリア機能を低下させます 遺伝的な要因も影響します このような皮膚バリア障害が起きると皮膚からの抗原侵入が容易になるのでアトピー性皮膚炎やアレルギーマーチへの進展につながると考えられています *2 感作 異物である外来の抗原が侵入するとこれを認識する T 細胞や抗体が体内で生産されるようになります この過程を感作と呼びます 感作の成立後に再び同じ抗原が侵入すると T 細胞や抗体が反応して アレルギーなどの免疫応答が誘導されます *3 アレルギーマーチ アトピー素因のある人にアレルギー疾患が次々に発症することをアレルギーマーチと呼びます 典型的には 皮膚症状から始まり 消化器症状や気管支喘息へと進展します 近年 皮膚を介した抗原感作が起点であるとする説が有力になっています 原著論文 雑誌名 : Journal of Investigative Dermatology タイトル : Epicutaneous Allergic Sensitization by Cooperation between Allergen Protease Activity and Mechanical Skin Barrier Damage in Mice 著者 : Sakiko Shimura, Toshiro Takai, Hideo Iida, Natsuko Maruyama, Hirono Ochi, Seiji Kamijo, Izumi Nishioka, Mutsuko Hara, Akira Matsuda, Hirohisa Saito, Susumu Nakae, Hideoki Ogawa, Ko Okumura, Shigaku Ikeda リンク先 : http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/s0022202x16308739 doi: 10.1016/j.jid.2016.02.810 研究助成先 : 本研究は 文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業 文部科学省科学研究費基盤研究 (C) 武田科学振興財団の支援により実施されました 共同研究機関 : 本研究は順天堂大学大学院医学研究科アトピー疾患研究センター 皮膚科学講座 眼科学講座 東京大学医科学研究所 国立成育医療研究センターの共同研究として実施されました 研究内容に関するお問い合せ先 順天堂大学大学院医学研究科アトピー疾患研究センター 准教授高井敏朗 ( たかいとしろう ) TEL: 03-5802-1591 FAX: 03-3813-5512 E-mail: t-takai@juntendo.ac.jp http://www.juntendo.ac.jp/graduate/laboratory/labo/atopy _center/k4.html 取材に関するお問い合せ先順天堂大学総務局総務部文書 広報課担当 : 植村剛士 ( うえむらつよし ) TEL:03-5802-1006 FAX:03-3814-9100 E-mail: pr@juntendo.ac.jp http://www.juntendo.ac.jp