クワガタムシの大顎を形作る遺伝子を特定 名古屋大学大学院生命農学研究科 ( 研究科長 : 川北一人 ) の後藤寛貴 ( ごとうひろき ) 特任助教 ( 名古屋大学高等研究院兼任 ) らの研究グループは 北海道大学 ワシントン州立大学 モンタナ大学との共同研究で クワガタムシの発達した大顎の形態形成に

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化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

生物時計の安定性の秘密を解明

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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

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細胞膜由来活性酸素による寿命延長メカニズムを世界で初めて発見 - 新規食品素材 PQQ がもたらす寿命延長のしくみを解明 名古屋大学大学院理学研究科 ( 研究科長 : 杉山直 ) 附属ニューロサイエンス研究セ ンターセンター長の森郁恵 ( もりいくえ ) 教授 笹倉寛之 ( ささくらひろゆき ) 研

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( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

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統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

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脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

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2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

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平成14年度研究報告

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図 : と の花粉管の先端 の花粉管は伸長途中で破裂してしまう 研究の背景 被子植物は花粉を介した有性生殖を行います めしべの柱頭に受粉した花粉は 柱頭から水や養分を吸収し 花粉管という細長い管状の構造を発芽 伸長させます 花粉管は花柱を通過し 伝達組織内を伸長し 胚珠からの誘導を受けて胚珠へ到達し

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

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図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル


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図 1 マイクロ RNA の標的遺伝 への結合の仕 antimir はマイクロ RNA に対するデコイ! antimirとは マイクロRNAと相補的なオリゴヌクレオチドである マイクロRNAに対するデコイとして働くことにより 標的遺伝 とマイクロRNAの結合を競合的に阻害する このためには 標的遺伝

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糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

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研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素

結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

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小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

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遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

2. 看護に必要な栄養と代謝について説明できる 栄養素としての糖質 脂質 蛋白質 核酸 ビタミンなどの性質と役割 およびこれらの栄養素に関連する生命活動について具体例を挙げて説明できる 生体内では常に物質が交代していることを説明できる 代謝とは エネルギーを生み出し 生体成分を作り出す反応であること

れており 世界的にも重要課題とされています それらの中で 非常に高い完全長 cdna のカバー率を誇るマウスエンサイクロペディア計画は極めて重要です ゲノム科学総合研究センター (GSC) 遺伝子構造 機能研究グループでは これまでマウス完全長 cdna100 万クローン以上の末端塩基配列データを

みどりの葉緑体で新しいタンパク質合成の分子機構を発見ー遺伝子の中央から合成が始まるー

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本成果は 主に以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 日本医療研究開発機構 (AMED) 脳科学研究戦略推進プログラム ( 平成 27 年度より文部科学省より移管 ) 研究課題名 : 遺伝子改変マーモセットの汎用性拡大および作出技術の高度化とその脳科学への応用 研究代表者 : 佐々木えり

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スライド 1

カイコで働く約1万個の遺伝子配列解読に成功

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平成18年3月17日

平成16年6月  日

平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

世界初! 細胞内の線維を切るハサミの機構を解明 この度 名古屋大学大学院理学研究科の成田哲博准教授らの研究グループは 大阪大学 東海学院大学 豊田理化学研究所との共同研究で 細胞内で最もメジャーな線維であるアクチン線維を切断 分解する機構をクライオ電子顕微鏡法注 1) による構造解析によって解明する

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今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

論文の内容の要旨

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報道関係各位 日本人の肺腺がん約 300 例の全エクソン解析から 間質性肺炎を合併した肺腺がんに特徴的な遺伝子変異を発見 新たな発がんメカニズムの解明やバイオマーカーとしての応用に期待 2018 年 8 月 21 日国立研究開発法人国立がん研究センター国立大学法人東京医科歯科大学学校法人関西医科大学

図 1. 微小管 ( 赤線 ) は細胞分裂 伸長の方向を規定する本瀬准教授らは NIMA 関連キナーゼ 6 (NEK6) というタンパク質の機能を手がかりとして 微小管が整列するメカニズムを調べました NEK6 を欠損したシロイヌナズナ変異体では微小管が整列しないため 細胞と器官が異常な方向に伸長し

報道発表資料 2001 年 12 月 29 日 独立行政法人理化学研究所 生きた細胞を詳細に観察できる新しい蛍光タンパク質を開発 - とらえられなかった細胞内現象を可視化 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 生きた細胞内における現象を詳細に観察することができる新しい蛍光タンパク質の開発に成

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第 20 講遺伝 3 伴性遺伝遺伝子がX 染色体上にあるときの遺伝のこと 次代 ( 子供 ) の雄 雌の表現型の比が異なるとき その遺伝子はX 染色体上にあると判断できる (Y 染色体上にあるとき その形質は雄にしか現れないため これを限性遺伝という ) このとき X 染色体に存在する遺伝子を右肩に

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統合失調症に関連する遺伝子変異を 22q11.2 欠失領域の RTN4R 遺伝子に世界で初めて同定 ポイント 統合失調症発症の最大のリスクである 22q11.2 欠失領域に含まれる神経発達障害関連遺伝子 RTN4R に存在する稀な一塩基変異が 統計学的に統合失調症の発症に関与することを確認しました

統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異の同定と病態メカニズムの解明 ポイント 統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異 (CNV) が 患者全体の約 9% で同定され 難病として医療費助成の対象になっている疾患も含まれることが分かった 発症に関連した CNV を持つ患者では その 40%

_PressRelease_Reactive OFF-ON type alkylating agents for higher-ordered structures of nucleic acids

細胞外情報を集積 統合し 適切な転写応答へと変換する 細胞内 ロジックボード 分子の発見 1. 発表者 : 畠山昌則 ( 東京大学大学院医学系研究科病因 病理学専攻微生物学分野教授 ) 2. 発表のポイント : 多細胞生物の個体発生および維持に必須の役割を担う多彩な形態形成シグナルを細胞内で集積 統

1 巡目調査 ( 平成 3~7 年度 ) 2 巡目調査 ( 平成 8~12 年度 ) ゲンジボタルの確認された調査地区 (1 巡目調査 2 巡目調査 ) 6-61

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

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共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

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クワガタムシの大顎を形作る遺伝子を特定 名古屋大学大学院生命農学研究科 ( 研究科長 : 川北一人 ) の後藤寛貴 ( ごとうひろき ) 特任助教 ( 名古屋大学高等研究院兼任 ) らの研究グループは 北海道大学 ワシントン州立大学 モンタナ大学との共同研究で クワガタムシの発達した大顎の形態形成に関わる遺伝子群を特定しました 同研究グループは 昆虫一般で 肢 の発生に関わる遺伝子群に注目し その中の dachshund という遺伝子がクワガタムシの大顎の形態形成と発達に大きく関与すること また aristaless と homothorax という遺伝子が 大型のオスだけが有する特徴的な大顎形態の形成に関与すること実験的に示しました 今回の発見は 我々にもなじみのあるクワガタムシの大きな大顎を作るメカニズムの一端を明らかにしただけでなく 多様な形態を示す昆虫の形態形成のしくみを明らかにするうえでも重要な発見と言えます 本研究成果は 米国の国際専門誌 Developmental Biology の 2017 年 2 月号 ( 公表日 : 日本時間 2017 年 2 月 2 日 ( 現地時間 2017 年 2 月 1 日 ) に掲載されました ポイント クワガタムシの大顎の形成に関与する遺伝子を特定した 今回特定された遺伝子群は 様々な昆虫で見られる多様な大顎形態の進化にも関与している可能性がある 研究背景 昆虫の口 ( くち ) の形態は非常に多様です 昆虫の口は 複数の異なるパーツから成り立ち その基本的な構成要素は昆虫全体で共通しています しかしながら バッタのようにすべてのパーツが原始的な基本形態を留めている種類 ( 図 1A B) も数多く存在している一方で 異なる食物やその他の用途に適応して それぞれのパーツが特殊な形態へと進化した例も様々な種類で見られます 例えば 花の蜜を吸うことに適応しストロー状に変化したチョウの口 ( 図 1C) が 我々には馴染み深いですし ヤゴが獲物を捕らえるための把握器も 口の一部が変形したものです ( 図 1D) このように昆虫では口器の形態 機能的改変により 様々な食物の利用が可能にな

ったことのみならず 様々な用途への転用すら可能としてきました このことは 現在の昆虫の繁栄と放散の一因と考えられており古くから生物学者に注目されてきました 我々が注目したクワガタムシ ( 以下クワガタ ) では 口のパーツの中でも 大顎 と呼ばれる部分が極端に発達しています ( 図 1E) この大顎の発達は オスだけで見られるもので メスや餌場を巡ったオス同士の闘争に用いられることが広く知られています 我々のグループではこれまで クワガタの大顎に関して 大顎発達を引き起こす内分泌メカニズム (Gotoh et al. 2011) や オスとメスの大顎のサイズ差を生み出す性決定遺伝子の機能等を解明してきました (Gotoh et al. 2014, 2016) しかし一方で その下流で大顎形成や発達に関わる遺伝子群に関しては ほとんどわかっていませんでした そこで本研究では昆虫に見られる 口器形態の改変機構 の一端を明らかにするため 大顎の形成とそのサイズ増大に関与する遺伝子群の同定を目指しました 材料としては インドネシア原産の世界で最も長い大顎を持つ昆虫であるメタリフェルホソアカクワガタ Cyclommatus metallifer を用いました ( 図 2)

本種は 研究室での飼育が容易で世代時間も短い 大型オスと小型オスの誘導系が確立している また これまでの研究でも材料として使われ知見が多く 発現遺伝子カタログが完成しているなど 他のクワガタ種に比べて実験材料としてのアドバンテージを有しています 研究内容 大顎は 解剖学的には肢 ( あし ) が変化した器官と考えられているため 大顎の形態形成と発達には 肢形成に関わる遺伝子群が関与している可能性が高いと考え 昆虫一般で肢形成に関わることが知られる遺伝子群リストアップしました これらの遺伝子群について RNA 干渉 (RNAi) という遺伝子の機能を一時的に失わせることができる手法を用いて解析を行いました その結果 dachshund という遺伝子の機能を失わせたオス個体では 本来大きく発達するはずの大顎が小さく歪な形態となっており ( 図 3) この dachshund 遺伝子が 正常な大顎の形成と発達に必要であることが明らかになりました また 大型のオスでは 大顎の中央に 内歯 ( ないし ) と呼ばれる構造を有しますが この構造も dachshund 遺伝子の機能を失わせた個体では消失しました ( 図 3) 大型オスに特徴的な構造で

ある内歯の形成に関しては dachshund 遺伝子のほかにも aristaless または homothorax という遺伝子の機能を失わせると消失してしまうことがわかりました ( 図 4, 5) つまりこれら遺伝子も 内歯の形成に関わっていると考えられます 今回の研究で大顎形成への関与が明らかとなった 3 つの遺伝子は いずれも昆虫で一般的に肢の形成に関わることが知られ aristaless は肢の先端部 dachshund は中間部 homothorax は基部の形成に必要です 実際 肢におけるこれらの遺伝子の働きは クワガタにおいても他の昆虫と同じでした つまり クワガタではこれらの遺伝子の肢における働きは変えないまま 発達した大顎の形成にも 使いまわしている 可能性が考えられます 成果の意義 昆虫の大顎形成メカニズムに関する重要な知見これまで昆虫の大顎の形成に関わる遺伝子はあまり知られていませんでした これは モデル昆虫として用いられているショウジョウバエでは 大顎が消失 ( 退化 ) しているため大顎形成に関する研究には用いることが困難であったことが挙げられます 本研究はこれまであまり良くわかっていなかった昆虫の大顎形成メカニズムを解明する手掛かりになる成果と言えます クワガタの多様な大顎形態の発生機構を理解できるクワガタの大顎は種類ごとに様々な形態をしています そのような多様な形態を形作るメカニズムは全く分かっていませんでしたが 今回見つかった遺伝子に着目することで 明らかにすることができるかもしれません 用語説明 大顎 ( おおあご ): 昆虫の口を構成する 3 つのパーツの一つ 基本的にすべての昆虫が有する 主に食

物を噛むための用途に使われるが 昆虫の種類によっては退化していたり 大幅に形態が変化していたりする 大顎の極端な発達は クワガタの他にも ヘビトンボや シロアリ アリ コガネムシなど様々な種類で見られる なお 他の 2 つのパーツは小顎 ( こあご ) と下唇 ( かしん )( 図 1B 参照 ) RNA 干渉 (RNA かんしょう ;RNAi): 二本鎖 RNA と相補的な配列を持つ mrna が特異的に分解される現象 この現象を利用することで 任意の遺伝子について 生体内にその遺伝子配列の二重鎖 RNA を導入によって 一時的にその遺伝子機能が阻害することができる dachshund 遺伝子 ( ダックスフンドいでんし ;dac): ショウジョウバエにおいて肢形成に関わる遺伝子として同定された遺伝子 その後 多くの昆虫でショウジョウバエと同じように肢形成に関わることが明らかになった 名前の由来は この遺伝子の機能が失われると肢の中間部が欠失してしまい 犬のダックスフンドように短い肢をもつ表現型を示すことから 論文情報 タイトル : The function of appendage patterning genes in mandible development of the sexually dimorphic stag beetle( 訳 : 性的二型を有するクワガタムシの大顎発生における 付属肢パターニング遺伝子群の機能 ) 著者 : Hiroki GOTOH, Robert A. Zinna, Yuki ISHIKAWA, Hitoshi MIYAKAWA, Asano ISHIKAWA, Yasuhiro SUGIME, Douglas J. EMLEN, Laura C. LAVINE, Toru MIURA 掲載誌 :Developmental Biology, 422: 24-32 (2017). DOI:10.1016/j.ydbio.2016.12.011.