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海洋深層水による海域肥沃化効果の検討 The effect of ocean fertilization by deep sea water 2011/2/3 学籍番号 096648 塩苅恵指導教員多部田茂准教授

1. 序論

研究背景 世界人口の増加 日本 : 低い食料自給率世界的な食糧難となった場合, 圧倒的に不利な状況となることが予測される 資源 エネルギー問題 食糧 水問題 地球温暖化, 砂漠化等の環境問題 深刻化 陸域の利用だけでは限界これらの問題を解決するためには, 海洋利用が不可欠 海洋深層水を利用した肥沃化により, 食糧を増産する方法が検討されている

海域肥沃化の仕組み 無機栄養塩の豊富な深層水を汲み上げ, 表層の貧栄養な有光層に放水する 光合成が活発化し, 植物プランクトンが増殖する 植物プランクトン 動物プランクトン 小型魚 大型魚と, 食物連鎖が進み, 水産資源が増加する Outline of Ocean Nutrient Enhancer (Ouchi, Fukumiya et al., 2002) 東大の深層水汲み上げ施設がある伊豆大島を対象海域とし, シミュレーションによって海域肥沃化の効果を検討する

先行研究との比較 研究の目的 大内 (2004) 相模湾での拓海プロジェクト 海洋深層水を汲み上げ 放水 放水後の深層水の挙動と一次生産の増加の様子を観測 Mizumukai et al.(2008) 沖ノ鳥島付近での肥沃化効果を数値シミュレーションで検討 一次生産の増加は認められたが, 増加率で見れば微々たるものであった 先行研究 : それぞれ実験, シミュレーションのみを行ったもの一次生産の増殖効果のみに注目 本研究 : 実際の深層水を用いた実験とシミュレーションを合わせて行う二次生産まで考慮した生態系モデルを使用プランクトンの種組成まで考慮 海域肥沃化の効果を検討する上で重要となる要素や生態系プロセス, パラメータを感度解析等によって抽出, それらの要素やパラメータの決定の仕方などのポイントをまとめ, 肥沃化効果の評価手法を構築する

研究手法 < 実験 > 表層水のみのタンクと, 深層水を混ぜたタンクを用意 タンク内でのプランクトン, 無機栄養塩, 有機物の濃度変化を観測 < 比較 モデルの検証 > < パラメータ調査 > プランクトンの光合成, 枯死等に関するパラメータを推定する < 実験の再現 > 推定されたパラメータを生態系モデルに設定し, 実験と同じ条件でシミュレーションを行う 比較結果が合わない 比較結果が良好 < パラメータ調整 > 実験結果と計算結果を合わせるため, パラメータ等の調整を行う < 肥沃化効果の検討 > 深層水を放水する場合としない場合の計算結果を比較, 肥沃化効果の検討を行う

2. 生態系モデル

参考にした生態系モデル NEMURO(Kishi et al., 2007): 2 種の植物プランクトン (PS, PL), 3 種の動物プランクトン (ZS, ZL, ZP), 懸濁態有機窒素 (PON), 溶存態有機窒素 (DON), アンモニウム塩 (NH 4 ), 硝酸塩 (NO 3 ), 懸濁態有機ケイ素 (Opal), ケイ酸塩 (Si(OH) 4 ) の 11 のコンパートメントからなる one- box モデル PL は大型珪藻類,PS はその他の小型植物プランクトンを想定 窒素とケイ素の循環を別々に扱う 中田 (1993): 任意の種数の植物プランクトン, 動物プランクトン, 懸濁態有機物 (POM), 溶存態有機物 (DOM), アンモニウム塩 (NH 4 ), 硝酸塩 (NO 3 ), 亜硝酸塩 (NO 2 ), リン酸塩 (PO 4 ) から構成される one- box モデル セルクオタ ( 植物プランクトンの細胞内栄養塩保持量 ) を考慮 NEMURO をベースに, 中田 (1993) によるセルクオタを導入

使用する生態系モデル SchemaSc view of the ecosystem model. (For Nitrogen flows.) (Kishi et al.(2007) を基に, 中田 (1993) を参考にセルクオタを加えて作成, 末尾に n の記号が付加されているコンパートメントは, それらの量を窒素量で表現することを意味する )

使用する生態系モデル SchemaSc view of the ecosystem model. (For Silicon flows.) (Kishi et al.(2007) を基に, 中田 (1993) を参考にセルクオタを加えて作成, 末尾に si の記号が付加されているコンパートメントは, それらの量をケイ素量で表現することを意味する )

3. 実験

大小 2 つのタンクを用意実験期間 :10 月 14 日から 11 月 12 日 深層水 実験内容 光量子計 約 41cm 表層水 約 35cm 約 23cm 約 17cm 流速計 ( 水温計付 ) クロロフィル計 約 20cm <タンク大 > The outline of the experiment. 約 13cm < タンク小 > 約 37cm 測定項目 : 1 水温 2 日照量 3 クロロフィル a 濃度 4 プランクトン濃度 5 無機栄養塩, 有機物濃度 1 タンク大 : クロロフィル計により 10 分ごとに計測, タンク小 : 流速計により 10 分ごとに計測 2 光量子計により 10 分ごとに計測 ( タンク大のみ ) 3 両タンクに設置したクロロフィル計により 10 分ごとに計測 410 月 14 日から 10 月 19 日までは毎日, その後は 10 月 28 日及び 11 月 12 日に各 1L 採水を行い, すぐにルゴール液 5% を加えて固定 プランクトン種の同定 計数, 体積 重量の推定 ( 外注 ) 5 10 月 14 日から 10 月 19 日までは毎日, その後は 10 月 28 日及び 11 月 12 日に各 50ml 程度採水し, フィルターにかけて濾過後, 冷凍保存して持ち帰り, オートアナライザーによって分析

実験データ水温 日照量 <temperature> これらのデータは生態系モデルの input データとして使用 深層水を加える <light intensity>

実験データ無機物 プランクトン濃度 <inorganic materials> これらのデータは実験開始時の値を初期値に使用 残りは生態系モデルの output と比較 深層水を加える NO 3_ tank L NH 4_ tank S NO 3_ tank S Si(OH) 4_ tank L NH 4_ tank L Si(OH) 4_ tank S <planktons by chlorophyll meter> 深層水を加える

実験データ採水によるプランクトン濃度 PS に分類されるプランクトン種の内訳を下表に示す PL 48 種,ZS 11 種についても同様に求められた ZL, ZP については, 今回の実験タンク中にはほとんど存在しなかった No. 門綱目科種名学名 1 藍藻植物藍藻ユレモユレモ藍藻類 Oscillatoria sp. 2 クリプト植物クリプト藻不明不明 クÿリÃフfl ƒト 藻類 Cryptophyceae 3 渦鞭毛植物渦鞭毛藻 Ãフfl ロ ロπケ ンƒトŸル ム Ãフfl ロ ロπケ ンƒトŸル ム 渦鞭毛藻類 Prorocentrum micans 4 渦鞭毛藻類 Prorocentrum minimum 5 テfi ィ ノÃフ ィºシΩス テfi ィ ノÃフ ィºシΩス 渦鞭毛藻類 Dinophysis caudata 6 渦鞭毛藻類 Dinophysis sp. 7 ノ ク テ ィŸル カ ノ ク テ ィŸル カ 渦鞭毛藻類 Pronoctiluca spinifera 8 キfi ム ノ テfi ィ ニ ウ ム 不明渦鞭毛藻類 Gymnodiniales 9 渦鞭毛藻類 Gymnodiniales(Gyrodinium?) 10 コfi ニµオ ラØッ クΩス πケ ラ チ ウ ム 渦鞭毛藻類 Ceratium furca 11 渦鞭毛藻類 Ceratium fusus 12 µオ キºシƒトªサ ム 渦鞭毛藻類 Oxytoxum sp. 13 Õヘfl ÿリ テfi ィ ニ ウ ム カŸル キµオ テfi ィ»ネ ラ 渦鞭毛藻類 Scrippsiella spp. 14 Õヘfl ÿリ テfi ィ ニ ウ ム 渦鞭毛藻類 Heterocapsa triquetra 15 Ãフfl ロƒトÕヘfl ÿリ テfi ィ ニ ウ ム 渦鞭毛藻類 Protoperidinium bipes 16 渦鞭毛藻類 Protoperidinium oblongum 17 渦鞭毛藻類 Protoperidinium pallidum 18 渦鞭毛藻類 Protoperidinium pellucidum 19 渦鞭毛藻類 Protoperidinium spp. 20 不明渦鞭毛藻類 Peridiniales(Heterocapsa sircuriscuama?) 21 渦鞭毛藻類 Peridiniales 22 不明不明不明不明不明不明微小鞭毛藻

プランクトン種別濃度の変化 the numbers and concentrasons of the planktons by boaling 上 : タンク大, 下 : タンク小,n[cell/L]: 個体数,N[μmol/L]: 窒素量 time PS PL ZS n N n N n N 10/14 16:50 20 1.89 10 4 490 2.65 10 2 13 4.85 10 4 10/15 13:00 50 2.38 10 5 800 2.97 10 3 16 2.82 10 4 10/16 9:00 10 5.77 10 6 2460 9.92 10 3 42 1.18 10 3 10/16 15:00 10 2.58 10 5 4450 6.12 10 3 55 1.48 10 3 10/17 13:00 500 1.00 10 3 12960 7.35 10 3 75 1.91 10 3 10/18 13:00 11760 2.15 10 2 35370 1.97 10 2 138 4.06 10 3 10/19 13:00 8160 2.28 10 2 95270 5.69 10 2 476 1.52 10 2 10/28 13:00 885250 1.42 34650 2.24 10 2 77766 2.50 11/12 13:00 1259250 2.25 450 2.37 10 3 7368 1.16 10 1 time PS PL ZS n N n N n N 10/14 16:50 20 1.89 10 4 490 2.65 10 2 13 4.85 10 4 PS, PL の濃度が逆転 10/15 13:00 20 1.27 10 4 420 1.43 10 3 11 2.39 10 4 10/16 9:00 30 5.16 10 5 1400 7.73 10 3 23 6.06 10 4 10/16 15:00 30 6.69 10 5 3610 4.96 10 3 51 1.27 10 3 10/17 13:00 600 1.01 10 3 6360 2.35 10 3 56 1.59 10 3 10/18 13:00 3600 7.82 10 3 12460 9.73 10 3 432 7.73 10 3 10/19 13:00 5180 1.86 10 2 49210 2.22 10 2 1428 4.04 10 2 10/28 13:00 89240 2.35 10 1 102420 2.58 10 2 69764 2.24 11/12 13:00 1253780 2.26 9540 2.23 10 2 9608 3.09 10 1

4. パラメータ調査

パラメータ調査結果 The values of the parameters used in the model. PS PL symbol value unit symbol value unit 0.534 * 1 [/day] 1.58 * 1 [/day] 2.61 * 1 [µmoln/l] 1.38 * 1 [µmoln/l] 0.790 * 1 [µmoln/l] 1.33 * 1 [µmoln/l] 1.50 [L/µmolN] 0.888 * 1 [µmolsi/l] 6.93 10-2 [/ ] 1.50 [L/µmolN] 5.85 10-2 [/day] 6.93 10-2 [/ ] 6.93 10-2 [/ ] 5.85 10-2 [/day] 9.40 10-2 * 2 [/day] 6.93 10-2 [/ ] 5.19 10-2 [/ ] 9.40 10-2 * 1 [/day] 0.135 5.19 10-2 [/ ] 10.0 0.135 10.0 [/day] 10.0 7.00 10-2 [ly/min] 10.0 both PS and PL 10.0 [/day] symbol value unit 10.0 [/day] 3.50 10-2 [/m] 7.00 10-2 [ly/min] 2.81 10-2 [µmoln/m] 1.00 [molsi/moln] * 1 ECOTOX(Jørgensen et al., 2000) より,* 2 データがないので PL のデータを使用その他は Kishi et al. (2007) より, ただし窒素のセルクオタに関するパラメータは中田 (1993) によるパラメータを引用し, ケイ素のセルクオタに関するものは Si/N = 1.0 より窒素と同じ値を用いた

5. 実験の再現

実験の再現 - 計算条件 - condisons of the calculasons. タンク大 タンク小 水温 タンク大における観測値 タンク小における観測値 日照量 タンク大における観測値 タンク大における観測値 プランクトン濃度初期値 植物 : タンク大におけるクロロフィル計データの窒素換算値動物 :10/14 の採水による観測値 植物 : タンク大におけるクロロフィル計データの窒素換算値動物 :10/14 の採水による観測値 無機栄養塩濃度初期値 10/14 の採水による観測値 10/14 の採水による観測値 有機物濃度初期値 窒素 : 有機窒素濃度を懸濁態と溶存態に 2 分割して使用ケイ素 : 窒素の [ 有機 : 無機 ] 比を用いて, 無機ケイ素量から推算 窒素 : 有機窒素濃度を懸濁態と溶存態に 2 分割して使用ケイ素 : 窒素の [ 有機 : 無機 ] 比を用いて, 無機ケイ素量から推算 深層水投入の影響 深層水投入時刻に, プランクトン濃度, 有機物濃度を 8 割に減じ, 無機栄養塩濃度については, タンク大における深層水投入後の観測値を使用 初期値変更なしで最後まで計算 パラメータ文献調査の結果文献調査の結果

実験の再現 - タンク大 パラメータ調整前 - <planktons in the larger tank> (the lines of PS, PL, ZS and PS+PL are calculated, and the points of PS+PL and ZS are observed.) <inorganic materials in the larger tank> (the lines of NO 3, NH 4 and Si(OH) 4 are calculated, and the points of them are observed.) NO 3 NH 4 Si(OH) 4 NO 3 NH 4 Si(OH) 4

パラメータの感度解析と調整結果 プランクトン濃度の変化に対する影響 V max を大きく プランクトン濃度が増加 k GppS を大きく プランクトン濃度が増加,V max よりも影響大, 水温の違いによる差が拡大 Mor を大きく プランクトン濃度が減少 k Mor を大きく プランクトン濃度が減少,Mor よりも影響大, 水温の違いによる差が拡大 無機栄養塩濃度, 有機物濃度の変化に対する影響 VP2N0, VD2N0, VP2Si0 を大きく 無機栄養塩濃度増加, 有機物濃度減少 KP2N, KD2N, KP2Si を大きく 無機栄養塩濃度増加, 有機物濃度減少, VP2N0, VD2N0, VP2Si0 よりも影響小 これらの結果を基に調整 [/day]( 前後比 0.4 倍 ), ( 前後比 1.7 倍 ) [/day]( 前後比 2.0 倍 ), ( 前後比 1.6 倍 ), [/day]( 前後比 1.2 倍 ), ( 前後比 1.4 倍 ), [/day]( 前後比 0.1 倍 ), [/day]( 前後比 0.1 倍 ), [/day]( 前後比 0.1 倍 )

実験の再現 - タンク大 パラメータ調整後 - <planktons in the larger tank> (the lines of PS, PL, ZS and PS+PL are calculated, and the points of PS+PL and ZS are observed.) <inorganic materials in the larger tank> (the lines of NO 3, NH 4 and Si(OH) 4 are calculated, and the points of them are observed.) NO 3 NH 4 Si(OH) 4 NO 3 NH 4 Si(OH) 4

実験結果に対する仮説とその検証 <by chlorophyll meter> 深層水を加える タンク大 小のプランクトン濃度の変化を比較 < 仮説 > 今回の実験では, 植物プランクトンの光合成に対して, 無機栄養塩濃度による制限がかかっていなかったと考えられる 深層水を加える 深層水添加による栄養塩濃度の上昇にもかかわらず, プランクトン濃度はそれほど上昇していない <by calculason> では制限になっていたのは日照量? 水温?

日照量 水温の変化に対する応答 <default> <3 Smes light intensity> <1.3 Smes temperature> < 3 Smes light intensity, 1.3 Smes temperature>

栄養塩濃度の変化に対する応答 (1) <default> < inisal organic and inorganic materials 1/2 > <inisal organic and inorganic materials 1/3 >

栄養塩摂取に関する式 GppNPSn GppNPLn GppAPSn GppAPLn (1) (2) (3) (4) (5) (6) : PS Half saturason constant for Nitrate, Ammonium : PL Half saturason constant for Nitrate, Ammonium : PS and PL Ammonium InhibiSon Coefficient : PS Maximum Uptake rate for Nitrogen : PL Maximum Uptake rate for Nitrogen : PS Maximum Quota for Nitrogen : PL Maximum Quota for Nitrogen : PS Nitrogen Cell Quota : PL Nitrogen Cell Quota = PS = PL

栄養塩濃度の変化に対する応答 (2) <default> <inisal organic and inorganic materials 1/2> <inisal organic and inorganic materials 1/3 > GppNPSn_L GppAPSn_L GppNPSn+GppAPSn_L GppNPSn_S GppAPSn_S GppNPSn+GppAPSn_L

6. 生態系モデルによる肥沃化 効果の検討

深層水の添加 深層水の添加による影響は次の式 (7) によって表現した C i+1 = ( C i V + C d V d ) / (V + V d ) (7) ここで, C i+1 : 次タイムステップのボックス内濃度 (μmol/l) C i : 現在のボックス内濃度 (μmol/l) C d : 深層水中の濃度 (μmol/l) V: 計算ボックスの海水体積 (L) V d : 加える深層水の体積 (L/dt) である ただし,dt は深層水を加える時間間隔 実際の計算では,V を 1.0 とし,V d を V に対する比で表現した

深層水を 1 日 1 回加える場合の検討 <default> <V d = 0.4 [/day] の場合 > <V d = 0.03 [/day] の場合 > total 深層水添加率 0.4/day の場合の PS 濃度を見ると,1 月から 8 月の期間においてほとんど存在しない また,total のプランクトン濃度を default と比較すると, 夏季には default より増加しているが, 冬季はむしろ減少しており, 年隔差が拡大している 年隔差が拡大するだけでは, 魚類の餌量が季節によって大きく変動することになり, 食糧の安定供給の面では望ましくない 深層水添加率 0.03/day の場合には, ほとんどのプランクトン濃度が増加しており, 肥沃化効果が認められる 深層水を対象海域に与えすぎると, 無機栄養塩濃度の上昇による植物プランクトンの光合成活発化の効果よりも, 深層水による希釈の方が優越してしまうためと考えられる

深層水を加える時間間隔による差 <default> <1 日に1 回添加の場合 > < 連続添加の場合 > total ( どちらも 1 日に与える深層水の total 量は V d = 0.03/day) 深層水を 1 日に 1 回, 断続的に添加する場合 ( 中央図 ) と, 連続的に添加する場合 ( 右図 ) を比較すると,1 日に加える total の深層水量としてはほとんど変わらないにもかかわらず, 前者の方が高い肥沃化効果が認められる 後者は夏季にはプランクトン濃度が増加しているが, 冬季は default より減少しており, 年隔差が拡大している 深層水を連続的に与えると, 植物プランクトンの光合成活発化の効果よりも, 深層水による希釈の方が優越してしまうためと考えられる 今回検証したものより肥沃化効果が高い時間間隔がある可能性もある

7. 物理モデルとの結合

物理モデル MEC- NEST < ナビエ ストークス式 > < 連続の式 > < 水温 > < 塩分濃度 > < 海水密度 >

計算格子 計算領域は 10000 m 10000 m 400 m 500 m 500 m ( 深度 ) の格子 深度は表層ほど浅く, 深層に行くほど深い 図の点 1 において深層水を 10t/h の割合で加える 点 1 及び点 2 において水温, 塩分, プランクトン濃度, 無機栄養塩濃度, 有機物濃度をモニタリング 1 2

計算条件 気象条件として, 大島における 2009 年 8 月から 9 月の気温, 気圧, 全天日射量, 雲量, 相対湿度, 降水量を設定 水温, 塩分, 無機栄養塩濃度, 有機物濃度の境界条件は,JODC のデータより深度ごとに設定 プランクトン濃度は深度 100 m までは一定, それ以深では存在しない設定 水温, 塩分, プランクトン濃度, 無機栄養塩濃度, 有機物濃度の初期条件は, 境界条件と同じ値を使用 生態系モデルについては, 結合前の生態系モデル内の設定と同様

[μmoln/l] 計算結果深層水を加えない場合 < 格子 1> [μmoln/l] < 格子 2>

[μmoln/l] 計算結果深層水を加えた場合 < 格子 1> [μmoln/l] < 格子 2>

8. 結論

結論 (1) 実験と文献調査, 種の構成を考慮した生態系モデルによるシミュレーションにより, 対象海域に存在するプランクトンのタンク内での増減を再現できた 実験の再現によって, これらプランクトンの増殖に関するポイントを明らかにした 今回の実験の条件下では, 日照量は十分であり, 光合成速度に対して制限にはなっていない 水温の上昇は光合成速度を速めるが, 同時に枯死速度も速めるため, プランクトン濃度の日隔差を拡大させるが, 必ずしも全体量を上昇させるわけではない 深層水の添加は, 植物プランクトンの全窒素摂取速度に対する NO 3 摂取速度と NH 4 摂取速度の関係の影響により, 必ずしも植物プランクトンを増殖させるとは限らない

結論 (2) 深層水による肥沃化を行う場合, 深層水の対象海域への添加率が高すぎると, 無機栄養塩濃度の上昇による植物プランクトンの増殖効果よりも, 深層水による希釈の影響が大きく現れる 深層水を加える時間間隔が小さい場合も希釈効果が大きく, 連続的に加える場合よりも 1 日に 1 回加える場合の方が, 肥沃化効果が高い

今後の課題 動物プランクトンの増減を詳細に再現できるようにすること ZL が表層に存在する季節に実験を行うこと 実際の海域を物理モデルで計算できるようにすること 物理 生態系結合モデルで, 放水した深層水がどのような挙動をするのかを考慮に入れて評価すること 深層水の密度調整等の効果を, そのまま深層水を放水する場合と比べて評価すること これらの課題を克服することで, より正確な検証が可能となる

ご清聴ありがとうございました