資料報告

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試験中 試験中 試験中 12 月下旬 試験中 試験中 試験中 12 月下旬 試験中 試験中 試験中 1 月中旬 試験中 試験中 試験終了 12 月中旬 試験中 試験中 試験中 1 月上旬 試験中 試験中 試験中 1

Ⅰ 収穫量及び作柄概況 - 7 -

元高虫防第 139 号令和元年 7 月 4 日 各関係機関長様 高知県病害虫防除所長 病害虫発生予察情報について 令和元年度病害虫発生予察 6 月月報及び令和元年度予報 4 号 (7 月 ) を送付します 令和元年度病害虫発生予察 6 月月報 Ⅰ. 気象概況半旬 (6 月 ) 平均気温最高気温最低気

山形県における 水稲直播栽培の実施状況 平成 28 年 8 月 26 日 ( 金 ) 山形県農業総合研究センター 1 1 山形県における水稲直播栽培の現状 1 (ha) 2,500 2,000 1,500 1, 乾田直播 湛水 ( 点播 ) 湛水 ( 条播 ) 湛水 ( 散播 )

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仙台稲作情報令和元年 7 月 22 日 管内でいもち病の発生が確認されています低温 日照不足によりいもち病の発生が懸念されます 水面施用剤による予防と病斑発見時の茎葉散布による防除を行いましょう 1. 気象概況 仙台稲作情報 2019( 第 5 号 ) 宮城県仙台農業改良普及センター TEL:022

目次 1. やまだわら の特性 _ 1 収量特性 1 2 品質 炊飯米特性 2 3 用途別適性 3 2. 生育の特徴 4 3. 収量 品質の目標 5 4. 各地域での主な作付スケジュール 6 5. 栽植密度 7 6. 肥培管理 1 施肥量 施肥時期 8 2 生育診断 9 7. 収穫適期

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研究成果報告書

Microsoft Word - ⑦内容C【完成版】生物育成に関する技術.doc

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麦 類 生 育 情 報

資料 2 農業データ連携基盤の構築について 農業データ連携基盤 (WAGRI) WAGRI とは 農業データプラットフォームが 様々なデータやサービスを連環させる 輪 となり 様々なコミュニティのさらなる調和を促す 和 となることで 農業分野にイノベーションを引き起こすことへの期待から生まれた造語

圃場試験場所 : 県農業研究センター 作物残留試験 ( C-N ) 圃場試験明細書 1/6 圃場試験明細書 1. 分析対象物質 およびその代謝物 2. 被験物質 (1) 名称 液剤 (2) 有効成分名および含有率 :10% (3) ロット番号 ABC 試験作物名オクラ品種名アーリーファ

コシヒカリの上手な施肥

水稲調査結果の主な利活用 主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律 ( 平成 6 年法律第 113 号 ) に基づき毎年定めることとされている米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針及び米穀の需給見通しのための資料 食料 農業 農村基本計画における生産努力目標の策定及び達成状況検証のための資料 米

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スプレーストック採花時期 採花物調査の結果を表 2 に示した スプレーストックは主軸だけでなく 主軸の下部から発生する側枝も採花できるため 主軸と側枝を分けて調査を行った 主軸と側枝では 側枝の方が先に採花が始まった 側枝について 1 区は春彼岸前に採花が終了した 3 区 4 区は春彼岸の期間中に採

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第 41 巻 13 号 大分県農業気象速報令和元年 5 月上旬 大分県大分地方気象台令和元年 5 月 1 3 日

1 はじめに北海道の麦作には 二つの大きな目標があった 一つは 秋まき小麦の全道平均反収を一〇俵の大台に乗せること もう一つは E U 並みの反収一トンどりをめざすことである この数字は 決して夢のような話ではなかった 麦作農家のなかには 圃場の一部ではあるが一トンどりを実現したとの声があったし 実

主要産地における平成 29 年産水稲の収穫量及び作柄概況等について第 1 報 (8 月 31 日現在 ) 全国 道府県 全国 予想収穫量 (29 年 8 月 15 日現在 )1 収穫量 ( 早期栽培等 ) 予想収穫量 (28 年 8 月 15 日現在 )2 前年産との比較 (1-2) 作況 ( 早期

目次第一章背景と目的 近代農業の課題 自然栽培の意義と可能性 自然栽培稲作の課題 作物生産における窒素の重要性 水田における窒素循環 本研究の目的... 9 第二章自然栽培水田における収量の地

窒素吸収量 (kg/10a) 目標窒素吸収量 土壌由来窒素吸収量 肥料由来 0 5/15 5/30 6/14 6/29 7/14 7/29 8/13 8/28 9/12 9/ 生育時期 ( 月日 ) 図 -1 あきたこまちの目標収量確保するための理想的窒素吸収パターン (

あら

附則この要領は 平成 4 年 1 月 16 日より施行する この要領は 平成 12 年 4 月 3 日より施行する この要領は 平成 30 年 4 月 1 日より施行する 2

第 41 巻 21 号 大分県農業気象速報令和元年 7 月下旬 大分県大分地方気象台令和元年 8 月 1 日

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メラレウカ苗生産技術の検討 供試品種は レッドジェム, レボリューションゴールド を用い, 挿し木を行う前日に枝を採取し, 直ちに水につけ持ち帰り, 挿し穂の基部径を 0.8~1.2mm,1.8~2.2mm,2.8~3.3mm で切り分けた後, 長さ約 8cm, 基部から 3cm の葉を除いた状態に

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失敗しない堆肥の使い方と施用効果

 


秋植え花壇の楽しみ方

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北病防第 平成 23 年 142 号 2 月 18 日 関係総合振興局産業振興部長 関係振興局産業振興部長 様 様 技術普及課長 病害虫防除所長 水稲いもち病防除の徹底について 水稲の重要病害であるいもち病は 平成 20 年以降 3 年連続して多発生し 平成 22 年の 葉いもち と 穂いもち の発

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50年後の生育環境でイネを栽培「高CO2 濃度の影響評価」(長谷川利拡)

2018 年 12 月の天候 ( 福島県 ) 月の特徴 4 日の最高気温が記録的に高い 下旬後半の会津と中通り北部の大雪 平成 31 年 1 月 8 日福島地方気象台 1 天候経過 概況この期間 会津では低気圧や寒気の影響で曇りや雪または雨の日が多かった 中通りと浜通りでは天気は数日の周期で変わった

緑化計画作成の手引き 26年4月版

石川県白山自然保護センター研究報告第27集

予報 岡病防第16号

中国では 長江中 下流域で夏季に暴風雨による洪水 日照不足に見舞われるとともに 北部でも収穫期に降雨 降雪に見舞われたこと等により 収穫面積が減少するとともに単収も低下したことから 生産量は前年度より減少 ( 0.6%) し 百万トンとなる見込みである なお 国家発展改革委員会 (NDR

Ⅱ 今後の管理について 1 水管理について (1) 気象変動に対応した水管理 幼穂形成期に入ったら間断かん水 出穂期から開花期にかけては湛水管理 その後は間断 かん水が水管理の基本になりますが 気象変動に対応した水管理を心がけましょう 1 減数分裂期の低温 減数分裂期 ( 葉耳間長 ±0cm 出穂期

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低濃度エタノールを用いた新規土壌消毒技術の開発

AI IoTを活用したスマート農業の加速化 人手不足への対応や生産性の向上を進めるためには ICTを活用したスマート農業の推進が重要 今後人工知能やIoT等の先進技術により 生産現場のみならずサプライチェーン全体にイノ ベーションを起こし 生産性向上や新たな価値創出を推進 1

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水田メタン発生抑制のための新たな水管理技術マニュアル(改訂版)

1. 天候の特徴 2013 年の夏は 全国で暑夏となりました 特に 西日本の夏平均気温平年差は +1.2 となり 統計を開始した 1946 年以降で最も高くなりました ( 表 1) 8 月上旬後半 ~ 中旬前半の高温ピーク時には 東 西日本太平洋側を中心に気温が著しく高くなりました ( 図 1) 特

Microsoft Word - 【最終版】2012年花粉傾向まとめ.doc

平成 26 年度補正予算 :200 億円 1

平成 30 年 2 月の気象概況 2 月は 中旬まで冬型の気圧配置が多く 強い寒気の影響を受け雪や雨の日があった 下旬は短い周期で天気が変化した 県内アメタ スの月降水量は 18.5~88.5 ミリ ( 平年比 29~106%) で 大分 佐賀関 臼杵 竹田 県南部で平年並の他は少ないかかなり少なか

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表 30m の長さの簡易ハウス ( 約 1a) の設置に要する経費 資材名 規格 単価 数量 金額 キュウリ用支柱 アーチパイプ ,690 直管 5.5m 19mm ,700 クロスワン 19mm 19mm ,525 天ビニル 農 PO 0.1mm

目 的 大豆は他作物と比較して カドミウムを吸収しやすい作物であることから 米のカドミウム濃度が相対的に高いと判断される地域では 大豆のカドミウム濃度も高くなることが予想されます 現在 大豆中のカドミウムに関する食品衛生法の規格基準は設定されていませんが 食品を経由したカドミウムの摂取量を可能な限り

Microsoft Word - cap4-2013chugoku-hirosima

本文(横組)2/YAX334AU

1. 取組の背景射水市大門地域は 10a 区画の未整備な湿田が多く 営農上の大きな障害となっていた 昭和 62 年に下条地区で県内初の大区画圃場整備が実施されたのを皮切りに 順次圃場整備が進んでいる 大区画圃場整備事業が現在の 経営体育成基盤整備事業 になってからは 農地集積に加えて法人化等の担い手

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スライド 1

5 事務局 審査会の事務局は 福島県農林水産部農業振興課におく 第 5 奨励品種決定調査の実施県は 奨励品種の決定に当たっては 奨励品種決定調査を行うものとする 1 奨励品種決定調査の種類 (1) 基本調査供試される品種について 県内での普及に適するか否かについて 栽培試験等によりその特性の概略を明

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cm H.11.3 P

p1_10月月報用グラフ

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スーパーマーケット販売統計調査資料 2017 年 12 月実績速報版 ( パネル 270) 11 月実績確報版 ( パネル 270) 2017 年年間集計速報版 (2018 年 1 月 23 日公表 ) 調査資料概要 パネル 270 社集計 食品を中心に取り扱うスーパーマーケットを対象に同一企業を集

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Microsoft Word - 615_07k【07月】01_概況

新品種育成の背景 経緯一般の良食味米 ( 中アミロース ) で作成した麺は ゆで麺の表面の粘りが強く 麺離れが悪いのに対し 高アミロース米は麺離れが良く 製麺適性が高いことから 北陸地域向けの 越のかおり 北海道向けの 北瑞穂 などがこれまでに育成され 米粉麺が製品化されています しかしながら これ

<2014年の花粉飛散傾向発表。2月上旬から花粉シーズン到来、対策は1月から>

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水稲有機栽培における米ぬかの雑草抑制メカニズムと水稲の生育 収量 宇都宮大学大学院農学研究科 生物生産科学専攻 堀内宜彦

電気使用量集計 年 月 kw 平均気温冷暖平均 基準比 基準比半期集計年間集計 , , ,

1 試験分類  効率的農業生産技術確立対策試験

隔年結果

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2 穂の発育過程 (1) 穂の形態 イネの穂は 穂軸が枝分かれして し 1 次枝こう 2 次枝こうがつき それ にえい 花 ( 小穂 ) がつく 1 つのえい花 ( 小穂 ) は 1 花から成 っており その数は 1 次枝こうの先に 5~6 個 2 次枝こうに 2~4 個つき 1 穂全体では 80

水稲いもち病当面の対策                   

水稲無農薬栽培継続水田における収量の年次変動と要因 発展がうたわれ環境保全型農業や有機農業が推進されており, 当研究所では耕地生態系農法確立試験に引き続き,2009 年から愛媛県有機農業推進計画に基づいて有機栽培技術確立実証試験を実施した. これら試験は, 同一ほ場で無農薬栽培を 28 年間継続実施

「そらゆき」栽培マニュアル

研究報告 (2) 地球温暖化の道内農作物への影響は?~2030 年代の予測と対応方向 ~ 北海道立総合研究機構中央農業試験場農業環境部 中辻敏朗 北海道は日本の食料供給にとって重要な役割を担っていますが この役割を将来においても果たすためには 温暖化で本道の主要作物がどのような影響を受けるかを予測し

【WNI】第二回花粉飛散傾向2018

総籾数 ( 千 / m2 ) 1 穂籾数 ( 粒 / 穂 ) わら重 (kg/a) 精籾重 (kg/a) 柴田ほか : 水稲新品種 ゆめおばこ の栽培特性 (2) 結果 ゆめおばこ と あきたこまち を比較すると ゆめおばこ は あきたこまち より全重 わら 重 精籾重 玄米重が多く 玄米千粒重が大

(c) (d) (e) 図 及び付表地域別の平均気温の変化 ( 将来気候の現在気候との差 ) 棒グラフが現在気候との差 縦棒は年々変動の標準偏差 ( 左 : 現在気候 右 : 将来気候 ) を示す : 年間 : 春 (3~5 月 ) (c): 夏 (6~8 月 ) (d): 秋 (9~1

三重県の気象概況 ( 平成 30 年 9 月 ) 表紙 目次気象概況 1P 旬別気象表 2P 気象経過図 5P 気象分布図 8P 資料の説明 9P 情報の閲覧 検索のご案内 10P 津地方気象台 2018 年本資料は津地方気象台ホームページ利用規約 (

平成 2 4 年産 農作物の作柄 東北農政局福島地域センター 平成 2 5 年 6 月

取組の詳細 作期の異なる品種導入による作期分散 記載例 品種名や収穫時期等について 26 年度に比べ作期が分散することが確認できるよう記載 主食用米について 新たに導入する品種 継続使用する品種全てを記載 26 年度と 27 年度の品種ごとの作付面積を記載し 下に合計作付面積を記載 ( 行が足りない

技術名

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より高い平均気温であったが,2 月に入ってからは降雪等の影響により平年よりも気温が低い日が続き, 飛散開始が遅れたと推測された 29 年の飛散開始日は過去 18 年間 (1988 年 ~27 年 ) の中で 3 番目に早く, 気温が平年よりも高かったことが影響し, 予測よりも早まったと思われた 予測

スライド 1

委託試験成績 ( 平成 25 年度 ) 担当機関名 部 室名 実施期間 大課題名 課題名 目的 担当者名 山口県農林総合技術センター 農業技術部土地利用作物研究室 資源循環研究室 平成 24~26 年度 Ⅰ 大規模水田営農を支える省力 低コスト技術の確立 うね立て同時条施肥機を利用した被覆尿素の深層

Transcription:

資料報告 異なる水田における無施肥無農薬栽培水稲の玄米収量の経年変化 小林正幸 ( 無肥研 ) 現在 本会が認証する無施肥無農薬栽培圃場は全国に点在し さまざまな立地条件で それぞれの環境に適した作物を生産している その中で無肥研が継続的に調査している福井県 滋賀県および京都府に位置する無施肥無農薬栽培水田における 2016 年の収量結果をまとめた 参考として 水稲栽培期間中の気象庁発表の京都市気象データ ( 表 1) と京都府亀岡市 宇治市小倉 滋賀県野洲市の無肥研管理水田に設置した自記温湿度計 (K-N ラボラトリーズ製ハイグロクロン ) のデータ ( 図 1) を示した 水稲収量は (1) 坪刈り法によるもの 6 圃場 ( 表 2) (2) 株刈り法によるもの 15 圃場 ( 収量要素を含む )( 表 3) (3) 全刈り法によるもの 20 か所 23 圃場 ( 表 4) について 2016 年の収穫時に常法にしたがって調査した その中で収量を経年で記録しているものは 坪刈り法については 6 圃場 18 年間 ( 図 2) 株刈り法については 6 圃場 12 年間であった 気象概要作物の生育と収量に影響を及ぼす要因の一つである天候について 2016 年の水稲栽培期間中 (3 月 ~10 月 ) の記録をまとめると以下のようになる 降水量は時期により多い少ないの幅が大きな年となった 4 月上旬 6 月中 ~ 下旬 8 月下旬 ~9 月に多く 特に 8 月下旬 ~9 月にかけて台風の影響もあり 平年の 2.5 倍ほどであった 一方で 3 月と 7 月 ~8 月上旬にかけては平年の 1/2 程度しかなく 特に 8 月上旬の降水量は 0mm であった 3 月 ~10 月の総雨量は平年の 1253mm に対して 1490mm と約 20% 多かった 平均気温は 育苗から本田移植ごろまでの 4 月から 5 月はそれぞれ平年よりも +1.9 と高く推移した 本田移植から最高分げつ期ごろの 6 月は平年並であったが 7 月上旬 (+2.7 )~ 中旬 (+0.8 ) は高めに推移した コシヒカリの出穂ごろである 7 月下旬はやや低かったが 秋の詩が出穂する 8 月中旬にかけて 8 月上旬 ~ 中旬は平年よりも 1 以上高かった ベニアサヒが出穂する 8 月下旬は平年並かやや低い日があった またベニアサヒの登熟期にあたる 9 月は +1.2 と高く 10 月上旬が +3.4 と高かったが中旬は平年並みであった 日照時間では 5 月中旬に好天が続き 日照時間は平年よりも 65% 長かった 6 月後半の日照時間は短く 6 月下旬は 18.2 時間と平年の 57% しかなかった 7 月は前半は好天が多く 8 月も前半は好天が続き 特に 8 月上旬 (92.9h) は平年よりも 50% ほど日照時間が長かった 9 月中旬 ~10 月上旬にかけては 台風などの影響で平年の半分程度であった 本年の天候は 本田移植 (5 月中 ~ 下旬ごろ ) から収穫期 (10 月中旬ごろ ) までを通算すると 降水量で平年比 +20% 気温で +1.1 日照時間は平年並であったが 時期別にみると 6 月下旬の悪天 7 月 ~8 月上旬の好天 9 月後半の悪天と 変化の大きな年であった 栽培する品種によって 栄養成長期 生殖成長期 登熟期がそれぞれ異なるため 天候か

ら受ける影響はそれぞれの品種によってかなり異なっていると思われた 表 1 2016 年京都市気象データ 降水量 ( mm ) 平均気温 ( ) 日照時間 (h) 上旬 28.5 (30.9) 10.4 (6.8) 44.1 (45.3) 3 月 中旬 39.5 (39.4) 9.2 (8.5) 47.0 (48.8) 下旬 1.0 (43.0) 10.2 (9.8) 82.2 (52.7) 上旬 104.0 (39.6) 15.9 (12.2) 30.0 (56.1) 4 月 中旬 37.5 (42.4) 15.2 (14.4) 78.5 (56.4) 下旬 39.0 (33.7) 17.1 (16.1) 53.0 (62.9) 上旬 48.0 (49.4) 19.1 (18.2) 55.6 (59.5) 5 月 中旬 66.5 (67.5) 20.7 (18.6) 89.1 (53.7) 下旬 33.0 (43.9) 23.0 (20.2) 68.9 (67.7) 上旬 22.5 (44.2) 21.7 (21.9) 65.4 (58.8) 6 月 中旬 95.0 (65.6) 24.3 (23.0) 30.8 (47.8) 下旬 166.5 (104.2) 23.6 (24.0) 18.2 (31.9) 上旬 41.0 (77.6) 28.3 (25.6) 48.2 (39.6) 7 月 中旬 28.5 (91.0) 27.5 (26.7) 49.7 (37.9) 下旬 33.0 (51.8) 27.7 (28.2) 61.2 (64.9) 上旬 0.0 (36.0) 29.8 (28.6) 92.9 (62.3) 8 月 中旬 53.0 (48.9) 29.3 (28.3) 68.3 (56.7) 下旬 95.5 (47.2) 27.9 (27.7) 65.7 (63.7) 上旬 88.5 (44.9) 27.1 (26.2) 57.6 (52.4) 9 月 中旬 215.0 (61.4) 25.1 (24.2) 13.4 (43.6) 下旬 155.0 (70.0) 23.8 (21.9) 19.6 (40.9) 10 月 上旬 41.0 (49.4) 23.3 (19.9) 36.9 (46.1) 中旬 39.5 (42.1) 19.6 (18.2) 56.5 (52.4) 下旬 19.0 (29.4) 16.5 (15.7) 34.7 (59.0) 気象庁発表の京都市の気象データをもとに作成 ( ) は平年値

水稲収量 2016 年の無施肥無農薬栽培水田収量を調査法別に以下にまとめた 坪刈り法 ( 表 2) で調査を行った 6 水田は除草作業などの栽培管理が徹底されており これらの水田で見られる生育 収量の差異は 主に栽培品種 気象条件および立地条件の違いによるものと考えられる 品種は 4 種類 ( ベニアサヒ 農林 16 号 秋の詩 コシヒカリ ) であった 対象水田の中で最も収量が多かったのは福井 F 水田 (332.4kg/10a) であり コシヒカリを栽培している ここは過去 10 年間の平均収量が 404±41 kg/10a(± 以下は標準偏差 以下同じ ) と 比較的に多収な水田である 一方山科 Y-I 水田 (2016 年は 229.3kg/10a 10 年間の平均収量 263±31kg/10a 以下同じ ) では農林 16 号を Y-Ⅱ 水田 (241.7kg/10a 233± 38kg/10a) ではベニアサヒを それぞれ栽培しているが これらの圃場の土壌は小石混じりで しかも比較的作土層が浅く 市街地にあるなど立地条件が栽培に適しているとは言い難く 収量が上がっていない ベニアサヒを栽培している小倉 R 水田 (2006 年に栗東より 55 年間無施肥栽培を継続した水田土壌の上層耕土 15cm を移設した水田 ) と小倉 O 水田 (2003 年より無施肥栽培 ) の収量は それぞれ 326.7kg/10a と 281.4kg/10a であった 小倉 R 水田および O 水田の過去 10 年間の平均収量はそれぞれ 305±44kg/10a および 348± 40kg/10a であった 秋の詩を栽培している亀岡 K-I 水田 (173.0kg/10a) では 除草などの栽培管理は適切に行われているにもかかわらず 過去 10 年間の平均収量は 264±55kg/10a に止まっている K-I 水田は 10m 100m と細長い圃場であり 坪刈した 5 か所の収量が 本年は 221~113kg/10a と場所によって大きな差異がみられたことから 圃場内の水位や耕土深などの位置変動も含めて 土壌の供給可能な養分量や 灌漑に使われる井戸水の影響など 収量におよぼす要因について 多面的に検討する必要があると思われた 表 2 2016 年水稲収量調査 ( 坪刈り法 ) 生産者 実施場所 実施 自家採種 品種 全乾重 藁乾重 精籾重 推定玄米重 備考 開始年 年数 (g/ m2 ) (g/ m2 ) (g/ m2 ) (kg/10a) 無肥研 宇治市小倉 R (1951) 64 ベニアサヒ 961 565 396 326.7 注 1 無肥研 宇治市小倉 O 2003 64 ベニアサヒ 849 503 346 281.4 上田修一 京都市山科区 Y-Ⅰ 1965 44 農林 16 号 633 352 282 229.3 注 2 上田修一 京都市山科区 Y-Ⅱ 1965 64 ベニアサヒ 647 352 295 241.7 注 2 無肥研 京都府亀岡市 K-Ⅰ 1993 12 秋の詩 645 421 225 173.0 丸山茂子福井県越前市 F 1997 12 コシヒカリ 804 397 407 332.4 推定玄米重は水分 15% で補正した 注 1 2003 年より無施肥栽培していた水田の表層土約 15cmをスキ取り そこへ1951 年より無施肥栽培を継続していた水田 ( 栗東市辻 ) の表層土約 15cmを2006 年 12 月に移設した 注 2 市街地にあり生育期間中 住宅の陰になることが多い 収量の経年推移 ( 図 2) を見ると 総じて多収と低収を繰り返しているようにみられるが 年次間の傾向がそれぞれの圃場で異なっており 天候よりも それぞれの圃場の特性が収 量の増減に関与しているのではないかと思われた

株刈り法 ( 表 3) に供した水田間には 収量に大きな差 (166~464g/ m2 ) が見られた その 差は品種の違いに起因するだけでなく 同じ品種であっても たとえばコシヒカリの場合 237~464g/ m2と大きな差異がみられた その原因として 気温や日照などの環境要因だけ でなく 除草などの栽培管理 耕土の深さなどによる活用可能な土壌の質と量 灌漑水を 含めた養分の天然供給量の違い などが考えられる 収量の低い亀岡 K-I 水田 (166 g/ m2 ) で は 雑草はほとんど見られないものの 圃場内変動が大きいことから 水位や土壌の圃場 内での均一化が安定した収量を得る課題になると思われる 2014~15 年に 生育初期から 雑草が繁茂し 茎数が確保できず 稲体が小型化 ( 全乾物重 22.5g/ 株 ) して収量が 150g/ m2 以下であった牧野水田では 2016 年に生育初期の除草作業に労力を注いだことで 地上部 表 3 2016 年水稲収量要素調査結果 ( 株刈り法 ) 生産者 栽培場所 品種 株数穂数 1 穂籾数登熟歩合 1000 粒重玄米重桿長穂長全乾重 ( 株 / m2 ) ( 穂 / 株 ) ( 粒 / 穂 ) (%) (g/1000 粒 ) (g/ m2 ) (cm) (cm) (g/ 株 ) 無肥研 京都府宇治市 O ベニアサヒ 16.7 8.8 84.4 86.3% 24.2 213.1 78.2 17.1 50.5 無肥研 京都府宇治市 R ベニアサヒ 17.1 10.0 91.6 87.0% 23.6 319.1 80.7 18.9 56.1 無肥研 京都府亀岡市 K-I 秋の詩 17.1 9.1 81.8 62.6% 23.4 165.7 67.6 15.3 37.2 無肥研 京都府亀岡市 K-II コシヒカリ 16.3 12.6 76.4 82.5% 20.2 272.6 69.4 16.3 45.1 上田修一 京都市山科区 Y-I 農林 16 号 18.3 6.5 96.3 84.1% 23.2 236.1 77.9 18.9 34.3 上田修一 京都市山科区 Y-II ベニアサヒ 17.8 7.4 104.0 88.2% 23.7 260.0 83.7 20.3 36.8 黒瀬修 京都府綾部市 コシヒカリ 16.1 11.3 91.0 74.1% 20.8 281.1 65.1 17.1 39.2 木戸口利雄 滋賀県東近江市 コシヒカリ 19.5 13.6 74.4 82.9% 20.5 342.4 70.7 15.8 46.9 井上正人 滋賀県東近江市 コシヒカリ 22.9 13.5 84.2 70.9% 21.2 411.1 75.6 16.9 50.6 沢昌弘 滋賀県東近江市 コシヒカリ 18.3 15.3 101.9 50.5% 20.6 318.4 80.9 18.5 60.3 中道忠幸 滋賀県野洲市 I コシヒカリ 18.4 12.9 75.2 81.8% 21.7 344.9 72.6 16.7 47.7 中道忠幸 滋賀県野洲市 II コシヒカリ 17.7 11.2 83.5 83.8% 21.8 295.1 73.0 17.1 41.9 丸山茂子 福井県越前市 コシヒカリ 15.9 10.4 95.9 87.3% 22.9 314.4 73.9 18.5 46.6 中村孝太郎 福井県大野市 コシヒカリ 14.8 14.7 113.4 79.1% 22.6 464.2 77.3 19.1 68.3 牧野太平 福井県福井市 コシヒカリ 14.2 12.3 79.5 82.5% 20.6 236.9 67.0 17.3 46.7 玄米は1.8mmふるいにかけ 水分 15% で補正した

玄米収量 (kg/10a) 乾物重は過去 2 年の平均よりも 2 倍以上増加し 玄米収量も 240g/ m2と 70% ほど増収した 雑草防除などの栽培管理が十分にできていた丸山水田 (314g/ m2 ) では過去 10 年間の平均収量が 424±60kg/ m2と相応の収量があった 一方で栽培期間中に圃場に雑草がかなり多く見られたものの 中村水田 (464g/ m2 ) や中道水田 (320g/ m2 ) などではある程度の収量があったのが これは水田土壌の養分供給力の大きさが関与しているのではないかと思われた これまでの雑草管理の調査からも 無施肥栽培において安定な生産を継続するためには適切な雑草管理は必要であることはわかっているが それが土壌やかんがい水などの圃場環境と比較して 収量に及ぼす影響は限定的なものかもしれない 収量の経年変動を見ると 坪刈り法と同じく株刈り法でも 年次間の収量変動が大きく 収量の増減を繰り返していた 無施肥栽培を継続していくと 全乾物重に対する子実収量の割合が増加する傾向があることを生産者が指摘している 図 3 にコシヒカリを栽培している農家圃場の 12 年間の株刈データから 無施肥栽培の継続年数別に 地上部乾物重と玄米収量との関係をまとめた 無施肥栽培を継続して 1-5 年目では 地上部乾物重に対する玄米収量を線形回帰で表すと 傾きが 5.8 切片が 41( 以下同じ ) であったが 6-10 年目では それぞれ 6.2 58 11-20 年目では 4.7 121 となり 無施肥栽培の継続が 植物体に効率的な生産を促すようになっていることが示唆された r 2 も 0.64 から 0.73 と年数を重ねるごとに線形回帰に当てはまるように収束しているようにも見受けられた 無施肥栽培では利用できる養分量が限られており 生産の効率化をはかることは 植物体の生長にとって必要なことだと思われる カブなどの根菜類において 無施肥栽培の生産物の地上部 / 地下部の比が小さいことが認められており クワにおいても葉身部と条梢部との比が無施肥栽培と施肥栽培との間で異なることが報告されていることから考えると 効率的な子実生産が 水稲においても行われているものと思われる これらの点についても 今後の調査課題になると思われる 600 500 400 300 200 100 0 y = 5.7943x + 41.246 R² = 0.6385 0 20 40 60 80 100 地上部乾物重 (g/ 株 ) 無施肥栽培継続 1-5 年 y = 6.2278x + 58.395 R² = 0.7079 0 20 40 60 80 100 地上部乾物重 (g/ 株 ) 無施肥栽培継続 6-10 年 y = 4.7336x + 120.72 R² = 0.7251 0 20 40 60 80 100 地上部乾物重 (g/ 株 ) 無施肥栽培継続 11-20 年 図 3 コシヒカリの無施肥栽培継続年数別玄米収量と地上部乾物重との関係 全刈り法 ( 表 4) では品種 地域 無施肥継続年数の違いなどが異なる 22 圃場の収量を参 考資料としてまとめた 2016 年も圃場によってかなりの収量差が見られた

表 4 2014-2016 年無施肥無農薬栽培水田収量 ( 全刈り法 ) (kg/10a) 栽培面積生産者産地栽培品種実施開始年 No ( m2 ) 2014 年 2015 年 2016 年 1 無肥研 滋賀県野洲市 Ⅶ 新羽二重 2003 8.0 304.1 2 無肥研 京都府亀岡市 K1 秋の詩 1993 8.5 239.0 233.1 201.2 3 無肥研 京都府亀岡市 K2 コシヒカリ 2009 9.1 306.2 218.8 245.1 4 無肥研 京都府宇治市 ベニアサヒ 2003 27.7 359.4 386.4 286.2 5 上田修一 京都市山科区 農林 16 号 1965 2.8 260.0 264.4 214.8 6 上田修一 京都市山科区 ベニアサヒ 1965 2.1 270.4 234.1 261.0 7 丸山茂子 福井県越前市 コシヒカリ 1997 7.0 434.0 436.5 357.2 8 黒瀬修 京都府綾部市 コシヒカリ 1998 23.0 200.0 182.7 228.5 9 井上正人 滋賀県近江八幡市 コシヒカリ 2009 29.0 289.7 372.4 309.9 10 坪田宗隆 滋賀県近江八幡市 コシヒカリ 2000 50.0 456.0 258.1 96.0 11 沢昌弘 滋賀県東近江市 コシヒカリ 2010 80.0 243.8 240.0 341.3 12 木戸口利雄滋賀県東近江市コシヒカリ 2003~06 56.0 289.3 324.6 319.9 13 木戸口利雄滋賀県東近江市コシヒカリ 2010 26.0 334.6 413.8 14 牧野太平福井県福井市コシヒカリ 2009 32.9 15 牧野太平福井県福井市コシヒカリ 2010 49.5 154.2 150.5 222.1 16 中村孝太郎 福井県大野市 コシヒカリ 2003~11 420.6 342.4 未確定 未確定 17 平田守京都府南丹市園部日本晴 2012 13.0 18 平田守京都府南丹市園部日本晴 2013 13.0 323.1 403.8 321.4 19 中道唯幸 滋賀県野洲市 コシヒカリ 2007 32.0 275.9 243.9 309.3 20 中道唯幸 滋賀県野洲市 コシヒカリ 2010 57.0 294.0 336.8 315.9 No.9 2016 年は未栽培面積を除外して計算した No.19 2014 2015 年の品種は夢ごこち まとめ無施肥無農薬水稲栽培において その収量に影響を及ぼす要因として 同一品種間では天候 土壌 かんがい水及び圃場管理の違いなどが考えられてきた 経年的に収量の推移を見た場合 年毎の収量差が大きく 収量の増減が繰り返される水田が見られるものの それが同一年でどの水田も同じように増減していることはまれであった つまり極端な天候の変化でない限り水稲の生育および収量に気象条件の影響は少なく むしろ除草管理や水管理を主とする圃場管理に収量の増減の要因があるように思われた また養分の供給 吸収の時期など 栽培する圃場 品種の特性などを生かして より効率的な生産をするように それぞれの環境に適した栽培技術の確立が 今後の実際的で興味ある課題になると思われる