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別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

11 月 16 日午前 9 時 ( 米国東部時間 ) にオンライン版で発表されます なお 本研究開発領域は 平成 27 年 4 月の日本医療研究開発機構の発足に伴い 国立研究開発法人科学 技術振興機構 (JST) より移管されたものです 研究の背景 近年 わが国においても NASH が急増しています

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のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

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化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

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Microsoft Word - 【最終】Sirt7 プレス原稿

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平成24年7月x日

解禁日時 :2018 年 8 月 24 日 ( 金 ) 午前 0 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2018 年 8 月 17 日国立大学法人東京医科歯科大学学校法人日本医科大学国立研究開発法人産業技術総合研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 軟骨遺伝子疾患

統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異の同定と病態メカニズムの解明 ポイント 統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異 (CNV) が 患者全体の約 9% で同定され 難病として医療費助成の対象になっている疾患も含まれることが分かった 発症に関連した CNV を持つ患者では その 40%

研究の背景社会生活を送る上では 衝動的な行動や不必要な行動を抑制できることがとても重要です ところが注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などの精神 神経疾患をもつ患者さんの多くでは この行動抑制の能力が低下しています これまでの先行研究により 行動抑制では 脳の中の前頭前野や大脳基底核と呼ばれる領域が

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今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

Microsoft Word CREST中山(確定版)

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法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

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「飢餓により誘導されるオートファジーに伴う“細胞内”アミロイドの増加を発見」【岡澤均 教授】

平成24年7月x日

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(Microsoft Word \203v\203\214\203X\203\212\203\212\201[\203X\216\221\227\2772.doc)

平成14年度研究報告

化学の力で見たい細胞だけを光らせる - 遺伝学 脳科学に有用な画期的技術の開発 - 1. 発表者 : 浦野泰照 ( 東京大学大学院薬学系研究科薬品代謝化学教室教授 / 大学院医学系研究科生体物理医学専攻生体情報学分野 ( 兼担 )) 神谷真子 ( 東京大学大学院医学系研究科生体物理医学専攻生体情報学

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら


研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

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別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

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研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

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界では年間約 2700 万人が敗血症を発症し その多くを発展途上国の乳幼児が占めています 抗菌薬などの発症早期の治療法の進歩が見られるものの 先進国でも高齢者が発症後数ヶ月の 間に新たな感染症にかかって亡くなる例が多いことが知られています 発症早期には 全身に広がった感染によって炎症反応が過剰になり

Microsoft Word - 運動が自閉症様行動とシナプス変性を改善する

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

第6号-2/8)最前線(大矢)

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

ストレスが高尿酸血症の発症に関与するメカニズムを解明 ポイント これまで マウス拘束ストレスモデルの解析で ストレスは内臓脂肪に慢性炎症を引き起こし インスリン抵抗性 血栓症の原因となることを示してきました マウス拘束ストレスモデルの解析を行ったところ ストレスは xanthine oxidored

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記 者 発 表(予 定)

Microsoft Word - 【広報課確認】 _プレス原稿(最終版)_東大医科研 河岡先生_miClear

研究内容 心不全は 心臓の筋肉が障害されることにより心臓のポンプ機能が低下し 肺や全身の臓器に必要な血液量を送り出すことができない病態です 心不全患者の一部において 左心房の血圧の上昇が肺に血液を送り出す動脈 ( 肺動脈系 ) に影響し 肺動脈の収縮や肥厚 ( リモデリング ) が引き起こされ 肺高

4. 発表内容 : 1 研究の背景 先行研究における問題点 正常な脳では 神経細胞が適切な相手と適切な数と強さの結合 ( シナプス ) を作り 機能的な神経回路が作られています このような機能的神経回路は 生まれた時に完成しているので はなく 生後の発達過程において必要なシナプスが残り不要なシナプス

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報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

背景 近年, コンピューター, タブレット, コンタクトレンズなどの使用増加に伴い, 国民の約 10 人に 1 人がドライアイだと言われています ドライアイの防止に必要な涙 ( 涙液 ) は水だけでできていると思われがちですが, 実は脂質層 ( 油層 ), 水層, ムチン層の三層で形成されています

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Microsoft Word osumi-1Ositorrr.doc

No. 2 2 型糖尿病では 病態の一つであるインスリンが作用する臓器の慢性炎症が問題となっており これには腸内フローラの乱れや腸内から血液中に移行した腸内細菌がリスクとなります そのため 腸内フローラを適切に維持し 血液中への細菌の移行を抑えることが慢性炎症の予防には必要です プロバイオティクス飲

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

Microsoft Word - 最終:【広報課】Dectin-2発表資料0519.doc

名古屋教育記者会各社御中本リリースは文部科学記者会 科学記者会 宮城県政記者会 名古屋教育記者会各社に配布しております 膠芽腫に対する新たな治療法の開発 ポドプラニンに対するキメラ遺伝子改変 T 細胞受容体 T 細胞療法 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 脳神経外科学の夏目敦

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

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論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

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Microsoft Word - プレスリリース最終版

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

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平成 28 年 2 月 1 日 膠芽腫に対する新たな治療法の開発 ポドプラニンに対するキメラ遺伝子改変 T 細胞受容体 T 細胞療法 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 脳神経外科学の夏目敦至 ( なつめあつし ) 准教授 及び東北大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 下瀬川徹

背景 歯はエナメル質 象牙質 セメント質の3つの硬い組織から構成されます この中でエナメル質は 生体内で最も硬い組織であり 人が食生活を営む上できわめて重要な役割を持ちます これまでエナメル質は 一旦齲蝕 ( むし歯 ) などで破壊されると 再生させることは不可能であり 人工物による修復しかできませ

60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

神経細胞での脂質ラフトを介した新たなシグナル伝達制御を発見

疫学研究の病院HPによる情報公開 様式の作成について

報道関係者各位 平成 29 年 2 月 23 日 国立大学法人筑波大学 高効率植物形質転換が可能に ~ 新規アグロバクテリウムの分子育種に成功 ~ 研究成果のポイント 1. 植物への形質転換効率向上を目指し 新規のアグロバクテリウム菌株の分子育種に成功しました 2. アグロバクテリウムを介した植物へ

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2017 年 2 月 20 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人東北大学東北メディカル メガバンク機構国立大学法人筑波大学国立研究開発法人日本医療研究開発機構 酸化ストレスが糖尿病を引き起こすメカニズムを解明 酸化ストレス防御機構による肥満および糖尿病の改善作用 研究概要 東北大学大学院医学系研究科の宇留野晃 ( うるのあきら ) 講師 ( 医化学分野 ) 柳下陽子 ( やぎしたようこ ) 研究員 ( 医化学分野 ) 山本雅之 ( やまもとまさゆき ) 教授 ( 医化学分野 兼東北メディカル メガバンク機構機構長 ) らは 筑波大学医学医療系の高橋智 ( たかはしさとる ) 教授らと協力して 脳の酸化ストレスが糖尿病を発症することを見出し そのメカニズムを解明するとともに 治療へのアプローチに繋がる知見を得ました これまで 脳における代謝調節の破綻が肥満や糖尿病を引き起こすことが知られていましたが その際に酸化ストレスが果たす役割は不明でした 今回の研究成果により 脳に酸化ストレスが蓄積すると 特に 全身の代謝調節に重要な視床下部領域の神経細胞数を減少させ 血糖降下ホルモンであるインスリンや肥満抑制ホルモンであるレプチンの作用を減弱させること それらを通して全身に肥満や糖尿病を引き起こすことがわかりました さらに 脳の酸化ストレスを抑制することで 肥満や糖尿病を防ぐことが可能であることを明らかにしました ( 図 1) 本研究成果から 脳の視床下部領域における酸化ストレス抑制が 糖尿病の治療標的として有用であることが示されました 本研究成果は 2017 年 2 月 21 日 ( 日本時間 22 日午前 2 時 ) 以降に米国科学雑誌 Cell Reports のオンライン版で公開されます 本研究の背景 糖尿病は患者数が多く 重篤な合併症をひきおこす重要な代謝性疾患です 以前から 糖尿病では酸化ストレスが増加することが知られてきましたが それがどのような役割を演じているかについては解明されていませんでした 特に 脳の視床下部は代謝調節の司令塔として重要な機能を果たしていることから 糖尿病との関連が注目されていましたが 視床下部での酸化ストレス増加の検討はそれを解明するアプローチの難しさもあって 十分な知見が得られていませんでした 本研究では 酸化ストレスを増加させるための方法として 酸化ストレスを抑えるために重要なセレンを含有する一群のタンパク質 ( セレノプロテイン群 ) に着目し 以前に私たちが遺伝子組換え法により作出し

た セレノプロテイン群合成に必須のセレノシステイン転移 RNA(Trsp) 遺伝子の発現を Cre リコンビナーゼにより特異的に低下させることのできるマウスを利用しました また Cre リコンビナーゼを 1) 視床下部と膵臓ランゲルハンス島に同時に発現するマウスと 2) 膵臓ランゲルハンス島のみに発現するマウスを使い分ける手法を新たに開発して 視床下部特異的な Trsp 遺伝子欠失による影響を解析しました この視床下部領域で酸化ストレスを増加させたマウスは 酸化ストレスと肥満 糖尿病との関係の検討にたいへん貴重な情報を提供します 本研究の成果 本研究では 上記の 2 種類の Cre リコンビナーゼ発現マウスを利用してセレノシステイン転移 RNA(Trsp) 遺伝子の発現を低下させたマウスを比較することにより マウスの視床下部領域における酸化ストレスの役割の解明に成功しました このマウスの代謝様式を解析したところ 肥満と糖尿病を発症していることを発見しました さらに 本マウスのホルモンの詳細な解析を行うと インスリン抵抗性と肥満抑制ホルモンであるレプチンへの抵抗性が生じていました すなわち 酸化ストレスが増加したマウスの脳では 視床下部領域での神経細胞死が増加した結果 代謝調節に重要なプロオピオメラノコルチン (POMC) 陽性神経 1 が減少していました ここまでの解析により 視床下部領域における酸化ストレスの増加が肥満や糖尿病を引き起こすことがわかりました そこで 逆に 酸化ストレスを抑制することで 肥満や糖尿病が抑制できるか否かを検討しました この仮説を検証するため 酸化ストレスから我々の体を守るための転写因子 2 である Nrf2 に着目し 酸化ストレスに曝露したマウスの視床下部領域で Nrf2 を活性化したところ 酸化ストレスは低下し 肥満や糖尿病の発症を予防することができました ( 図 2) これらの結果から 視床下部領域における酸化ストレスが増加すると 神経細胞の細胞死が増加し 代謝調節に重要な POMC 陽性神経が減少して 肥満や糖尿病を引き起すことがわかりました 一方 転写因子 Nrf2 を活性化することで 視床下部領域の酸化ストレスを抑制し 肥満や糖尿病の発症が抑制できることも明らかになりました 今後の展望 肥満や糖尿病には複数の原因が関与すると考えられていますが 酸化ストレスがどのように糖尿病の発症や悪化に関わるか詳しくわかっていませんでした 本研究成果は脳神経細胞の保護作用を介して 肥満や糖尿病の発症や増悪を防ぐことができることを示しています このことから Nrf2 を標的とした脳の酸化ストレス抑制に基づく 新しい予防 治療方法の開発が可能になるものと期待されます 研究について 本研究は 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED) の革新的先端研究開発支援事業 (AMED-CREST) 炎症の慢性化機構の解明と制御に向けた基盤技術の創出 研究開発領域 ( 研究開発総括 : 宮坂昌之 ) における研究開発課題 環境応答破綻がもたらす炎症の慢性化機構と治療戦略 ( 研究開発代表者 : 山本雅之 ) AMED の創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業 ( 創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業 ) 文部科学省科

学研究費補助金 公益財団法人三菱財団 公益財団法人武田科学振興財団 公益財団法人日本応用酵素協会の支援を受けて行われました なお AMED-CREST における本研究開発領域は 2015 年 4 月の日本医療研究開発機構の発足に伴い 国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST) より移管されたものです 参加研究者名 本研究は 7 研究施設に所属する 10 名の研究者による 共同研究として実施されました 東北大学大学院医学系研究科医化学分野柳下陽子 宇留野晃 齋藤律水 山本雅之東北大学東北メディカル メガバンク機構三枝大輔 山本雅之東北大学大学院医学系研究科先端外科学分野福富俊明筑波大学大学院医学医療系解剖学 発生学分野高橋智筑波大学生命科学動物資源センター杉山文博筑波大学生命領域学際研究センター深水昭吉中国医科大学 Jingbo Pi 用語解説 1 プロオピオメラノコルチン (POMC) 陽性神経ホルモンの前駆物質であるプロオピオメラノコルチンを産生する神経細胞 肥満抑制ホルモンであるレプチンの作用に重要な役割を果たしている 2 転写因子 DNA に結合して遺伝子の発現を制御するタンパク質

図 1 脳視床下部領域の酸化ストレスによる肥満 糖尿病発症のメカニズムと視床下部領域の Nrf2 を標的とした肥満 糖尿病の発症予防および改善作用 図 2 脳視床下部領域における Nrf2 活性化による糖尿病発症予防作用 TrspF/F および Keap1-TrspF/F は対照群 Trsp RIP KO は視床下部における酸化ストレス増加群 Keap1-Trsp RIP KO は視床下部における Nrf2 活性化群を示している **P<0.01 ***P<0.001 視床下部の酸化ストレスにより発症した糖尿病 (Trsp RIP KO) は Nrf2 活性化で予防することができた (Keap1-Trsp RIP KO)

論文名 Nrf2 improves leptin and insulin resistance provoked by hypothalamic oxidative stress Yoko Yagishita, Akira Uruno, Toshiaki Fukutomi, Ritsumi Saito, Daisuke Saigusa, Jingbo Pi, Akiyoshi Fukamizu, Fumihiro Sugiyama, Satoru Takahashi and Masayuki Yamamoto 転写因子 Nrf2 は視床下部の酸化ストレスで引き起こされるレプチンおよびインスリン抵抗性を改善する 柳下陽子 宇留野晃 福富俊明 齋藤律水 三枝大輔 Jingbo Pi 深水昭吉 杉山文博 高橋智 山本雅之 掲載予定誌 :Cell Reports お問い合わせ先 ( 研究に関すること ) 東北大学大学院医学系研究科医化学分野東北メディカル メガバンク機構長教授山本雅之 ( やまもとまさゆき ) 電話番号 :022-717-8084 E メール :masiyamamoto@med.tohoku.ac.jp ( 報道に関すること ) 東北大学東北メディカル メガバンク機構広報戦略室大学院医学系研究科医学部広報室長神風二 ( ながみふうじ ) 電話番号 :022-717-7908 FAX 番号 :022-717-7923 E メール :f-nagami@med.tohoku.ac.jp (AMED に関すること ) 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED) 戦略推進部研究企画課電話番号 :03-6870-2224 FAX 番号 :03-6870-2243 E メール :kenkyuk-ask@amed.go.jp