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2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

胞運命が背側に運命変換することを見いだしました ( 図 1-1) この成果は IP3-Ca 2+ シグナルが腹側のシグナルとして働くことを示すもので 研究チームの粂昭苑研究員によって米国の科学雑誌 サイエンス に発表されました (Kume et al., 1997) この結果によって 初期胚には背腹

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

れており 世界的にも重要課題とされています それらの中で 非常に高い完全長 cdna のカバー率を誇るマウスエンサイクロペディア計画は極めて重要です ゲノム科学総合研究センター (GSC) 遺伝子構造 機能研究グループでは これまでマウス完全長 cdna100 万クローン以上の末端塩基配列データを

報道発表資料 2007 年 4 月 11 日 独立行政法人理化学研究所 傷害を受けた網膜細胞を薬で再生する手法を発見 - 移植治療と異なる薬物による新たな再生治療への第一歩 - ポイント マウス サルの網膜の再生を促進することに成功 網膜だけでなく 難治性神経変性疾患の再生治療にも期待できる 神経回

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研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

報道発表資料 2001 年 12 月 29 日 独立行政法人理化学研究所 生きた細胞を詳細に観察できる新しい蛍光タンパク質を開発 - とらえられなかった細胞内現象を可視化 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 生きた細胞内における現象を詳細に観察することができる新しい蛍光タンパク質の開発に成

平成18年3月17日

2. PQQ を利用する酵素 AAS 脱水素酵素 クローニングした遺伝子からタンパク質の一次構造を推測したところ AAS 脱水素酵素の前半部分 (N 末端側 ) にはアミノ酸を捕捉するための構造があり 後半部分 (C 末端側 ) には PQQ 結合配列 が 7 つ連続して存在していました ( 図 3

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

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報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血


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今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

を行った 2.iPS 細胞の由来の探索 3.MEF および TTF 以外の細胞からの ips 細胞誘導 4.Fbx15 以外の遺伝子発現を指標とした ips 細胞の樹立 ips 細胞はこれまでのところレトロウイルスを用いた場合しか樹立できていない また 4 因子を導入した線維芽細胞の中で ips 細

報道発表資料 2005 年 8 月 2 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人京都大学 ES 細胞からの神経網膜前駆細胞と視細胞の分化誘導に世界で初めて成功 - 網膜疾患治療法開発への応用に大きな期待 - ポイント ES 細胞の細胞塊を浮遊培養し 16% の高効率で神経網膜前駆細胞に分化させる系

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く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

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遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

報道発表資料 2007 年 8 月 1 日 独立行政法人理化学研究所 マイクロ RNA によるタンパク質合成阻害の仕組みを解明 - mrna の翻訳が抑制される過程を試験管内で再現することに成功 - ポイント マイクロ RNA が翻訳の開始段階を阻害 標的 mrna の尻尾 ポリ A テール を短縮

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のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

長期/島本1

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報道発表資料 2001 年 3 月 8 日 独立行政法人理化学研究所 脳内の食欲をつかさどるメカニズムの一端を解明 - ムスカリン性受容体欠損マウスはいつでも腹八分目 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 脳の食欲をつかさどる情報伝達にはムスカリン性受容体が必須であることを世界で初めて発見し

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

論文の内容の要旨

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 2 月 4 日 独立行政法人理化学研究所 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の進行に二つのグリア細胞が関与することを発見 - 神経難病の一つである ALS の治療法の開発につながる新知見 - 原因不明の神経難病 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は 全身の筋

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

報道発表資料 2004 年 9 月 6 日 独立行政法人理化学研究所 記憶形成における神経回路の形態変化の観察に成功 - クラゲの蛍光蛋白で神経細胞のつなぎ目を色づけ - 独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事長 ) マサチューセッツ工科大学 (Charles M. Vest 総長 ) は記憶形

サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

図 : と の花粉管の先端 の花粉管は伸長途中で破裂してしまう 研究の背景 被子植物は花粉を介した有性生殖を行います めしべの柱頭に受粉した花粉は 柱頭から水や養分を吸収し 花粉管という細長い管状の構造を発芽 伸長させます 花粉管は花柱を通過し 伝達組織内を伸長し 胚珠からの誘導を受けて胚珠へ到達し

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

物学的現象をはっきりと掌握することに成功した論文である との高い評価を得ています 2. 研究成果ブフネラゲノムの全塩基配列の決定に当たっては 全ゲノムショットガンシークエンス法 4 を用いました 今回ゲノム解析に成功したのは エンドウヒゲナガアブラムシ (Acyrthosiphon pisum) の

核内受容体遺伝子の分子生物学

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 7 月 12 日 独立行政法人理化学研究所 生殖細胞の誕生に必須な遺伝子 Prdm14 の発見 - Prdm14 の欠損は 精子 卵子がまったく形成しない成体に - 種の保存 をつかさどる生殖細胞には 幾世代にもわたり遺伝情報を理想な状態で維持し 個体を

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 10 月 22 日 独立行政法人理化学研究所 脳内のグリア細胞が分泌する S100B タンパク質が神経活動を調節 - グリア細胞からニューロンへの分泌タンパク質を介したシグナル経路が活躍 - 記憶や学習などわたしたち高等生物に必要不可欠な高次機能は脳によ

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

博士学位論文審査報告書

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共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

細胞老化による発がん抑制作用を個体レベルで解明 ~ 細胞老化の仕組みを利用した新たながん治療法開発に向けて ~ 1. ポイント : 明細胞肉腫 (Clear Cell Sarcoma : CCS 注 1) の細胞株から ips 細胞 (CCS-iPSCs) を作製し がん細胞である CCS と同じ遺

( 図 ) 自閉症患者に見られた異常な CADPS2 の局所的 BDNF 分泌への影響

学位論文の要約

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

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結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

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平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

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るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

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難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

を確認しました 本装置を用いて 血栓形成には血液中のどのような成分 ( 白血球 赤血球 血小板など ) が関与しているかを調べ 血液の凝固を引き起こす トリガー が何であるかをレオロジー ( 流れと変形に関わるサイエンス ) 的および生化学的に明らかにすることとしました 2. 研究手法と成果 1)

背景 歯はエナメル質 象牙質 セメント質の3つの硬い組織から構成されます この中でエナメル質は 生体内で最も硬い組織であり 人が食生活を営む上できわめて重要な役割を持ちます これまでエナメル質は 一旦齲蝕 ( むし歯 ) などで破壊されると 再生させることは不可能であり 人工物による修復しかできませ

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

( 図 ) 顕微受精の様子

ASC は 8 週齢 ICR メスマウスの皮下脂肪組織をコラゲナーゼ処理後 遠心分離で得たペレットとして単離し BMSC は同じマウスの大腿骨からフラッシュアウトにより獲得した 10%FBS 1% 抗生剤を含む DMEM にて それぞれ培養を行った FACS Passage 2 (P2) の ASC

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

報道機関各位 平成 27 年 8 月 18 日 東京工業大学広報センター長大谷清 鰭から四肢への進化はどうして起ったか サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす 要点 四肢への進化過程で 位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定 サメ鰭の前

のとなっています 特に てんかん患者の大部分を占める 特発性てんかん では 現在までに 9 個が報告されているにすぎません わが国でも 早くから全国レベルでの研究グループを組織し 日本人の熱性痙攣 てんかんの原因遺伝子の探求を進めてきましたが 大家系を必要とするこの分野では今まで海外に遅れをとること

かし この技術に必要となる遺伝子改変技術は ヒトの組織細胞ではこれまで実現できず ヒトがん組織の細胞系譜解析は困難でした 正常の大腸上皮の組織には幹細胞が存在し 自分自身と同じ幹細胞を永続的に産み出す ( 自己複製 ) とともに 寿命が短く自己複製できない分化した細胞を次々と産み出すことで組織構造を

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

博第265号

植物が花粉管の誘引を停止するメカニズムを発見

平成 31 年 4 月 24 日 発表機関 基礎生物学研究所 鳥取大学 琉球大学 広島大学 中央大学 産業技術総合研究所 学習院大学 イモリの再生能力の謎に迫る遺伝子カタログの作成 新規の器官再生研究モデル生物イベリアトゲイモリ 本研究成果のポイント 1. 新規モデル生物 #1 イベリアトゲイモリ

子として同定され 前立腺癌をはじめとした癌細胞や不死化細胞で著しい発現低下が認められ 癌抑制遺伝子として発見された Dkk-3 は前立腺癌以外にも膵臓癌 乳癌 子宮内膜癌 大腸癌 脳腫瘍 子宮頸癌など様々な癌で発現が低下し 癌抑制遺伝子としてアポトーシス促進的に働くと考えられている 先行研究では ヒ

世界初! 細胞内の線維を切るハサミの機構を解明 この度 名古屋大学大学院理学研究科の成田哲博准教授らの研究グループは 大阪大学 東海学院大学 豊田理化学研究所との共同研究で 細胞内で最もメジャーな線維であるアクチン線維を切断 分解する機構をクライオ電子顕微鏡法注 1) による構造解析によって解明する

平成14年度研究報告

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

多様なモノクロナル抗体分子を 迅速に作製するペプチドバーコード手法を確立 動物を使わずに試験管内で多様な抗体を調製することが可能に 概要 京都大学大学院農学研究科応用生命科学専攻 植田充美 教授 青木航 同助教 宮本佳奈 同修士課程学生 現 小野薬品工業株式会社 らの研究グループは ペプチドバーコー

細胞老化による発がん抑制作用を個体レベルで解明 ~ 細胞老化の仕組みを利用した新たながん治療法開発に向けて ~ 1. 発表者 : 山田泰広 ( 東京大学医科学研究所システム疾患モテ ル研究センター先進病態モテ ル研究分野教授 ) 河村真吾 ( 研究当時 : 京都大学 ips 細胞研究所 / 岐阜大学

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報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳の神経細胞に分化しないように制御している遺伝子を発見しました 発生 再生科学総合研究センター ( 竹市雅俊センター長 ) 進化再生研究グループの阿形清和グループディレクターらの研究グループによる研究成果です 今回の研究では 研究グループのメンバーである国立遺伝学研究所の遺伝情報分析研究室 ( 五條堀孝教授 ) の中澤真澄博士らが単離した プラナリアの頭部に特異的に発現する遺伝子 (ndk 遺伝子 ) に注目し 解析を行いました その結果 ndk 遺伝子が未知の脳の誘導因子を捕まえては万能細胞に提供していることが分かり 万能細胞を脳の神経細胞に積極的に導く新しい遺伝子であることが判明しました すなわち ndk 遺伝子の産物は 頭部の万能細胞に脳の神経細胞になることを促進するとともに 脳の誘導因子が頭部以外の部分には拡散しないようにする一人二役の働きを持っており プラナリアは 頭部に必ず脳を再生するよう制御していることを世界で初めて明らかにしました さらに 科学技術振興事業団 東京大学の平良眞規助教授らによって プラナリア ndk 遺伝子は カエルの初期胚においても似たような働きをすることが証明されました これらの成果は 全能性幹細胞を用いた再生医療の重要な基礎研究成果であり 今後の研究の展開次第によっては ヒトの万能細胞から脳の神経細胞を作り出せる可能性を秘めており 再生科学に多大な貢献をもたらすものと期待されます 本研究成果は 英国の科学雑誌 nature ( 10 月 10 日号 ) に掲載されます 1. 背景原始的な動物であるプラナリアは 体をいくつかに切り離されても その一つ一つの断片が完全な 1 個体に再生してしまうという高い再生能力を持つことが古くから知られています ( 図 1 図 2) これは プラナリアには どんな細胞にも分化できる全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が全身に分布していて この万能細胞を自由自在に操ることによって高い再生能力を発揮しているから と考えられています そこで 進化再生研究グループでは 再生医療の中核をなす万能細胞の増殖 分化をコントロールする方法を このプラナリアから学ぶというスタンスで研究を進めています 今回の研究は 共同研究を行っている国立遺伝学研究所 遺伝情報分析研究室 ( 五條堀孝教授 ) の中澤真澄博士らによって単離された プラナリアの頭部に特異的に発現する遺伝子の発見に始まります この遺伝子の機能を阻害すると プラナリアの全身に分布している万能細胞が脳の神経細胞に分化し 全身 脳だらけ のプラナリアができてしまいます ( 図 3) 阿形グループディレクターらは この遺伝子を nou-darake(ndk 遺伝子 ) と命名し なぜ ndk 遺伝子の機能阻害をすると全身の万能細胞が脳の神経細胞に分化してしまうかの仕組みの解明を行いました

2. 研究手法と成果研究グループでは プラナリアの頭部で働いている遺伝子 1 万個についてシークエンスを行い 約 3,300 種類の遺伝子を同定し その中から DNA チップを作成して頭部に特異的な遺伝子をスクリーニングしました こうやってスクリーニングされた 30 個の遺伝子について RNA 干渉法で遺伝子ノックダウン プラナリアを作成し その遺伝子機能を調べました その中で 一番頭部に特異的な発現パータンを示した #721 遺伝子については 正常な頭部が再生された後に胴体部に異所的な眼が形成されることが観察されました さらに詳しく調べると眼だけではなく 脳までが胴体部に異所的に形成されていることが判明し この #721 遺伝子を nou-darake 遺伝子 (ndk 遺伝子 ) と命名しました また この ndk 遺伝子産物の構造解析をしてみると ヒトの FGF( 線維芽細胞成長因子 ) 受容体と高い相同性を示す分子であることが分かりました ただし 高い相同性は FGF と結合する細胞外ドメインのみに見い出され 結合後に細胞内にシグナルを送る細胞内の構造が存在しません そこで FGF 受容体との関係を調べるため すでにプラナリアから単離されていた 2 種類の FGF 受容体を同時にノックダウンしたところ 脳だらけ の表現型が発現されなくなりました このことは ndk 遺伝子がプラナリアにおいて FGF シグナルを制御する機能があることを示唆しています 頭部で発現する遺伝子の機能阻害をすると なぜ頭部以外のところにも脳が場所を選ばずにできるのでしょうか? 当初は 昔から存在が仮定されていた脳自身が分泌する脳形成の阻害因子 ( 脳以外のところに脳ができないようにする ) が作用すると考えられました しかしながら研究を進めていた結果 阻害因子ではなく 実は 頭部で生産されると考えられる脳の誘導因子 ( 現在のところ未知 ) を捕まえては 万能細胞の表面にある FGF 受容体に提供し 万能細胞を脳の神経細胞に積極的に導くという 新しい遺伝子であることが分かりました すなわち ndk 遺伝子産物は 脳の誘導因子を捕まえて頭部の万能細胞に提供することで 頭部の万能細胞が脳の神経細胞になることを促進しています さらに 脳の誘導因子を捕まえることで頭部以外の部分には誘導因子が拡散しないようにもしており プラナリアは 頭部に必ず脳を再生するように制御していることが世界で初めて明らかになりました ( 図 4) また 科学技術振興事業団の戦略的創造研究推進事業 (CREST 研究領域 : 脳を知る 研究テーマ : 脳の初期発生制御遺伝子群の体系的収集と機能解析 ) の一環として平良眞規東京大学理学部助教授らによってなされた プラナリア ndk 遺伝子のアフリカツメガエル胚への導入によっても FGF シグナルを捕まえる機能があることが分かりました このことは ndk 遺伝子は カエル初期胚においても誘導因子と思われる物質を捕まえるという似たような働きをしていることを示しています 3. 今後の展開現在 万能細胞から必要な細胞を作り出すことが再生医療の重要な課題となっています しかし 現在までのところ 培養している万能細胞にいろいろな薬を入れたりして錬金術的に各種の細胞を作り出しているのが現実です 本研究では 万能細胞を自在に扱っているプラナリアを使って 万能細胞の制御機構を分子レベルで

明らかにし 万能細胞から各種の細胞を体系的に作り出すことを目指しています これらの基礎的な研究の積み重ねによって はじめて安心して移植に用いることのできる各種幹細胞が 万能細胞から創出されるようになると期待されます 特に 今後の展開によっては 万能細胞から脳の神経細胞を誘導する因子の同定と その制御機構の解明につながり ヒトの万能細胞から脳の神経細胞を体系的に作り出すことに多大な貢献をするものと期待されます ( 問い合わせ先 ) 独立行政法人理化学研究所発生 再生科学総合研究センター進化再生研究グループグループディレクター阿形清和 Tel : 078-306-3085 / Fax : 078-306-3085 研究推進部今泉洋 Tel : 078-306-3005 / Fax : 078-306-3039 ( 報道担当 ) 独立行政法人理化学研究所広報室嶋田庸嗣 Tel : 048-467-9271 / Fax : 048-462-4715 < 補足説明 > 繊維芽細胞成長因子 (FGF) 刺胞動物 花虫類 六方サンゴ類に属するイシサンゴ 色彩は 黄 ( 褐色 ) 緑 赤やそれが混じる場合が多い 日本近海を含め インド洋 太平洋に分布する

図 1 プラナリアの写真 体長は 1~2cm 綺麗な川の石の下などに棲む 頭部と胴体部があり 頭部には眼が 胴体部の腹側には咽頭 ( 口 ) がある 体の内部は脳 神経 消化管 筋肉等の構造があり これらの構造を持つ動物の中では一番原始的な扁形動物門に分類される

図 2 プラナリアは身体を細かく切られても ( 左 ) それぞれの断片が 1 週間ほどでそれぞれ 1 個体に再生する ( 右 )

図 3 プラナリアの脳を染めたもの ( 黒く染まっているところが脳 ) 左 : 正常なプラナリア 頭の部分に脳がある 右 :ndk 遺伝子の機能を阻害したプラナリア 頭以外にも体のあちこちに脳ができている

図 4 ndk 遺伝子による脳の分化の制御モデル a)ndk 遺伝子の産物 ( 赤 ) が脳の誘導因子 ( 緑 ) を捕まえて万能細胞 ( 灰色 ) に提供することにより 頭部の万能細胞が脳に分化する ( 青い斜線 ) 誘導因子は胴体部には拡散していかないので 胴体部の万能細胞は脳に分化しない b)ndk 遺伝子の機能を阻害すると 誘導因子は ndk 遺伝子の産物に捕まらずに胴体部の方にも拡散していくため 胴体部の万能細胞も脳に分化する