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情報通信 10G-EPON 用小型光トランシーバの開発 船 田 知 之 * 湯 田 秀 逸 岩 田 章 人 田 中 成 斗 曽 根 秀 己 梅 田 大 助 川 西 康 之 田 中 悠 也 Development of 10G-EPON Small Transceiver by Tomoyuki Funada, Shuitsu Yuda, Akihito Iwata, Naruto Tanaka, Hidemi Sone, Daisuke Umeda, Yasuyuki Kawanishi and Yuuya Tanaka As the amount of Internet traffic increases every year, expectation is growing for 10 Gigabit Ethernet passive optical network (10G-EPON) technology that enables high-speed data transmission. For a smooth replacement of the currently-used GE-PON, 10G-EPON needs to support a maximum channel insertion loss of 29 db and to coexist with GE-PON in the same optical network. In addition, reduction in capital and operating expenditures is required. To meet these demands, optical transceivers can be a key component. The authors have developed small pluggable optical transceivers for 10G-EPON systems and confirmed their efficiency and power-saving operation. Keywords: FTTH, 10G-EPON, optical transceiver, OLT, ONU 1. 緒言 国内のブロードバンドサービス契約者数は 2011 年 12 月末の時点で 3770 万件となり 現在も増加が続いている 中でも光ファイバを利用した Fiber To The Home (FTTH) サービスは 2189 万件とブロードバンドサービス全体の 58 % を占めるまでに成長し 今後も契約者数が増加していくと予想されている ( 図 1) (1) 国内の FTTH サービスで主に使用されているのは IEEE 802.3 で 2004 年 6 月に標準化された Gigabit Ethernet Passive Optical Network(GE-PON) である しかしながら FTTH を利用した映像配信サービスの提供 スマートフォンの普及によるオフロードトラフィックの増加 クラウドコンピューティングの進展によって 1Gb/s である GE-PON の帯域不足が懸念されており 10 倍の高速大容量が実現可能な 10G-EPON( 10Gigabit Ethernet Passive Optical 4000 3000 2000 1000 0 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 図 1 ブロードバンド契約者数 Network) への期待が高まっている IEEE 802.3 で 2006 年 3 月から標準化が始まった 10G- EPON は 2009 年 9 月に標準化が完了し 各研究機関で積極的に開発が行われてきた結果 商用レベルの完成度に到達してきている 当社は 10G-EPON システムを支える重要部品である光トランシーバの小型化と省電力化を進めてきた 本稿では 筆者らが開発した局側装置 (OLT) 用 宅側装置 (ONU) 用の小型 プラガブル光トランシーバについて報告する 2. 10G-EPON システム 2 1 要求条件国内では GE-PON システムを使用した FTTH サービスが大規模に展開されている 光アクセス網の構築には多大な投資が必要なため 10G-EPON システムは 敷設済みの光アクセス網を利用できるよう 既存の光アクセス網の最大線路損失 29dB をサポートすることが要求されている また GE-PON から 10G-EPON へのスムーズな移行を実現するため GE-PONと 10G-EPON が同一光アクセス網で共存可能になることも要求されている ( 図 2) 2 2 標準化 IEEE 802.3av (2) では上記 10G- EPON への要求条件を考慮に入れ標準化作業が行われ 非対称用に PRX30 対称用に PR30 というハイパワーバジェットクラスが定義された 表 1にその仕様概略を示す 光送信部の高出力化 光受信部の高感度化 電気デジタル受信回路部の誤り訂正符号 (FEC) の 3 つの要素技術により 最大線路損失条件 29dBを実現している 非対称の ( 84 ) 10G-EPON 用小型光トランシーバの開発

パラメータ 図 2 表 1 10G-EPON 標準 10G-EPON システム構成と波長配置 下り上り PR30/PRX30 PR30 PRX30 Unit ラインレート 10.3125 10.3125 1.25 GBd 波長 1575 ~ 1580 1260 ~ 1280 1260 ~ 1360 nm 最大距離 20 20 20 km 最大線路挿入損失 29 29 29 db Tx Rx 平均光出力パワー 2 ~ 5 * 4 ~ 9 ** 0.62 ~ 5.62 ** dbm 消光比 6 6 6 db TDP 1.5 3.0 1.4 db ビット誤り率 10-3 10-3 10-12 ー 平均光受信パワー -10 ~-28.5-6 ~-28-9.38 ~-29.78 dbm * 消光比 9dB ** 消光比 6dB 占める ONU の省電力機能の実現についても SIEPON で議論されている (4) また 線路損失を 29dBから増やした PMD 層を標準化する検討が 2011 年の 7 月より IEEE 802.3 の Extended EPON と呼ばれる Study Group で行われ 2012 年 3 月に IEEE 802.3bk として Task Force となることが決まった これは システムの導入コスト低減の観点から 1 つの局側設備でより多くの加入者を収容するための多分岐化 長延化に対する要望に応じたものである 3. 10G-EPON 用光トランシーバ 図 3に当社における 10G-EPON 用光トランシーバの変遷を示す 当初 10G 光送信部 1G 光送信部 10G/1G 光受信部は個別の光部品を組み合わせていたため大きなサイズであった その後 光部品の複合化を進め 駆動 IC や受信 IC の集積化と省電力化も進展した結果 小型化が可能となった また 最近ではシステム稼働後に増設や交換が可能な活線挿抜対応 ( ホットプラガブル ) に対する要求が強いこともあり 今回 OLT 用は XFP(10Gbit/s Small Form Factor Pluggable) (5) ONU 用光は SFP+(Small Form Factor Pluggable Plus) (6) と呼ばれる業界標準サイズの光トランシーバの開発を行った PRX30 の上り (1Gb/s) に関しては 29dB の線路損失を満たす国内の GE-PON システムの仕様が反映された また GE-PON との共存を実現可能とするよう図 2に示す波長配置が決められた 1 一方 IEEE 802.3 での標準化は伝送仕様 (PHY 層と 2 MAC 層 ) が対象であり より上位のシステムレベルでの標準化は対象外であったため 通信事業者やベンダ間での相互接続に問題が生じることがあった そこで システムレベルでの相互接続性の実現を目的として IEEE P1904.1 WG が形成され 2012 年 12 月に標準化完了を目指して標準化が行われている (3) この規格は SIEPON (Service Interoperability in Ethernet Passive Optical Networks) と呼ばれている 近年の省電力化に対する社会的意識の高まりから PON システムで多くの消費電力を 図 3 10G-EPON 用光トランシーバの小型化 3 1 OLT 用光トランシーバの構成と特性 10G- EPON は GE-PON からスムーズに移行できるよう 局舎側に設置される OLT は GE-PON の下り信号である 1490nm 帯の 1Gb/s 信号光と 1577nm 帯の 10Gb/s 下り信号光を合わせて送信する必要がある また 加入者側に設置される ONU からの上り信号光は G-EPON ONU からの 1310nm 帯の 1Gb/s 信号光と 10G- 2012 年 7 月 SEI テクニカルレビュー 第 181 号 ( 85 )

EPON ONU からの 1270nm 帯の 10Gb/s 信号光があるため 10G-EPON OLT の受信器では 1Gb/s と 10Gb/s の信号光を受信できる受信器が必要となる 今回開発した OLT 用光トランシーバの概略ブロック構成とトライポートの一心双方向デバイス (Bi-D: Bi-Directional optical module) を図 4に示す 分波器を経て送信される 図 5に光出力波形を示す ここでは 10G 光出力は全温度範囲で光出力 +4dBm 消光比 10dB に 1G 光出力は +5dBm 消光比 11dB に設定している (2) 受信部光受信信号は下り信号との分波器を経て アバランシェ フォトダイオード (APD) で光電変換され 同じキャンパッケージ内のプリアンプで増幅される このプリアンプは 1Gb/s と 10Gb/s のバースト信号光を受信できるデュアルレートバースト受信 IC で 1G と 10Gで受信帯域を切り替える機能を有している 図 6と図 7にバースト信号の受信例を示す この測定では 1310nm 帯の 1G ダミー光を最大入力規格である-6dBm の強度で入力した直後に ガードタイムな 図 4 OLT 用光トランシーバのブロック構成 (1) 送信部 10G 送信部には 1577nmで発振する単一モードの DFB レーザと電界吸収型光変調器を 1 チップに集積化した変調器集積型レーザ (EML) を温度制御して使用し EML 駆動 IC で変調している 省電力化のため EML の駆動方式は低電圧動作を実現できる AC 駆動型を採用した 1G 送信部には 1490nm 帯で発振する単一モードの DFB レーザを温度制御素子なしで使用して LD 駆動 IC で変調している 10G 送信部から出た下り 1577nm 帯の光と 1G 送信部から出た下り 1490nm 帯の光は合波された後 上り信号との Bit Error Ratio 10-2 10-3 10-4 10-6 10-8 10-10 図 6 バースト受信信号 Bit error curve, Dual-rate burst mode GE-PON PRBS 2^7-1 10G 0C 10G 25C 10G 70C 1G 0C 1G 25C 1G 70C 10G-EPON PRBS 2^31-1 10-12 -40-38 -36-34 -32-30 -28-26 -24-22 -20 Average received power (dbm) 図 5 光出力波形 図 7 バースト受信特性 ( 86 ) 10G-EPON 用小型光トランシーバの開発

しで 1G または 10G で変調された 1270nm 帯の信号光を入 力している 測定系の都合上 1G のダミー光と 1G の信号 光には 10.3Gb/s を 8 分周した 1.29Gb/s の変調信号を用い た また Payload 3us の前には 400ns の Sync pattern を配置した この条件で 10G の信号光に対するバースト モードでの最小受信感度は約 -30dBm 1G の信号光に対す る最小受信感度は約 -34dBm と 規格に対して十分余裕を持った値が得られている 3 2 ONU 用光トランシーバの構成と特性図 8に今回開発した 10G 対称 ONU 用光トランシーバの概略ブロック構成を示す 光受信信号は 1550nm 帯のビデオ信号や 1490nm 帯の 1G 下り信号をフィルタリングして 1577nm 帯の 10G 下り連続信号のみ通過された後 10G 上り光信号と分波され APD 受信器で光電変換されてプリアンプとポストアンプで増幅される (1) 送信部送信部には 1270nmで発振する単一モードの DFBレーザが使用されている 各 ONU からの送信データが衝突しないように送信タイミングを制御する時分割多重アクセス方式を実現するため バースト ON/OFF 制御機能を持った LD 駆動 IC で DFB レーザを直接変調している 10Gb/s の直接変調では 所望の消光比を維持しつつ高速変調を実現するため 温度変化に対してレーザバイアス 電流 (Ib) とレーザ変調電流 (Imod) を精度よく制御する必要がある レーザ電流を制御する方式には 一般的には 環境温度をモニタして Ib と Imod をあらかじめメモリされた値に設定する温度フィードフォーワード方式と バースト送信中の光出力パワーをモニタして モニタ値が所定の値になるように Ib と Imod を制御するフィードバック APC 方式がある 今回の光トランシーバではその両者を組み合わせ レーザの経年劣化に対応し なおかつ高速のバースト応答を実現した またバースト送信開始時においては バースト送信オン時の過渡発光を防ぐため レーザの発振遅延を考慮して 変調開始前にバイアス電流のみを与える期間を設けている 図 10 に光送信器の光出力波形のバースト応答波形を示す バースト送信のオンタイムは 65ns オフタイムは 8ns を実現している また光出力パワーは +7dBm 消光比 7.5dBで 全温度で 30% 以上のアイマスクマージンを得ている (2) 省電力機能 ONU の省電力化のため 通信トラフィックが少ない場合に ONU の PON 送信 受信部を一時的に停止 ( スリープ ) させるプロトコルが SIEPON で規定されている ONU のスリープモードには送信部のみを停止させる Tx スリープモードと送受信共に停止させる TRxスリープモードがあり これを実現するための機能を光トランシーバに組み込んでいる 図 10 にスリープ応答波形を 表 2にその時の消費電力とスリープ応答時間の評価結果を示す 光トランシーバの消費電力は Tx スリープにより約 4 割に低減 TRx スリープにより約 2 ~ 3 割に低減する結果を得ている 70ns 510ns 図 8 ONU 用光トランシーバのブロック構成 図 10 ONU 用光トランシーバのスリープ応答 図 9 バースト光出力波形 (Tc 35deg.C) 消費電力 (Tc 35C) 消費電力 (Tc 70C) 表 2 スリープ時の消費電力 通常時通常時 ( 連続送信 )( 送信無し ) Tx スリープ時 TRx スリープ時 1.1W 0.9W 0.5W 0.3W 1.3W 1.0W 0.5W 0.3W 2012 年 7 月 SEI テクニカルレビュー 第 181 号 ( 87 )

(3) 受信特性 今回開発した ONU 用光トランシーバを ONU に組み込 み 受信信号のリタイミング機能と誤り訂正復号機能を有する通信 LSI と組み合わせて受信特性を評価した結果を図 11 に示す この測定では 通信トラフィックにはペイロード部にランダムパターンを挿入したスループット 900Mbit/sのイーサネットフレームを用い フレームエラー率からビットエラー率を換算している 光トランシーバ内にリタイミング機能を持たない 2R 構成で 良好な受信特性を確認した Estimated bit Error Ratio 10-2 10-3 10-4 10-6 10-8 10-10 4. 結言 ONU estimated bit error curve, 25deg.C 2R, 300mVpp_diff 3R, 600mVpp_diff 2R, 600mVpp_diff 10-12 -40-38 -36-34 -32-30 -28-26 -24-22 -20 Average received power (dbm) 図 11 ONU の受信特性 (With 誤り訂正符号 ) Ethernet\ イーサネットは 富士ゼロックス の登録商標です 参考文献 (1) 総務省報道資料 電気通信サービスの契約数及びシェアに関する四半期データの公表 ( 平成 23 年度第 3 四半期 (12 月末 )) (2) IEEE 802.3av, http://www.ieee802.org/3/av/ (3) IEEE 1904.1, http://www.ieee1904.org/1/ (4) 大道他 10G-EPON 用通信 LSI の開発 SEI テクニカルレビュー第 180 号 pp.43-48(2012) (5) SFF Committee, INF-8077i 10 Gigabit Small Form Factor Pluggable Module, Revision 4.5, August(2005) (6) SFF Committee, SFF-8431 Specifications for Enhanced Small Form Factor Pluggable Module SFP+, Revision 4.1, July(2009) 執 筆 者 ---------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 船田 知之 * : 情報通信研究所 光伝送システム研究部 グループ長 光送受信モジュールの開発に従事 湯田 秀逸 : 情報通信研究所 光伝送システム研究部 岩田 章人 : 情報通信研究所 光伝送システム研究部 田中 成斗 : 情報通信研究所 光伝送システム研究部 曽根 秀己 : 情報通信研究所 光伝送システム研究部 主席 梅田 大助 : 情報通信研究所 光伝送システム研究部 主席 川西 康之 : 情報通信研究所 光伝送システム研究部 主席 田中 悠也 : 住友電工ネットワークス 第一技術本部 FTTH 機器部 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- * 主執筆者 10G-EPON システムに使用する小型 プラガブル光トランシーバを開発した OLT 用は XFP 形態 ONU 用は SFP 形態を採用し 上り下り共に IEEE 802.3av の 10G 対称規格である PR30を満足する良好な特性を確認した 特に ONU 用光トランシーバについては スリープ機能を実装することで大幅な省電力化を実現できることを実証した 用語集ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 1 PHY 層 Physical 層 : 通信機能の階層構造を規定する OSI 参照モデルの最下層 ( 第 1 層 ) を示し 物理的な仕様や伝送路符号化などの仕様が定義されている 2 MAC 層 Media Access Control 層 : OSI 参照モデルの第 2 層 ( データリンク層 ) の副層を示し フレームのフォーマットやフレームの送受信処理などが定義されている ( 88 ) 10G-EPON 用小型光トランシーバの開発