1 根酸構成成分を用いた土壌からの セシウムの抽出とその減量方法 国立大学法人秋田大学 大学院工学資源学研究科附属環境資源学研究センター 講師村上英樹
2 新技術の概要 1 福島第一原子力発電所の事故に伴い放出された放射性セシウムの農産物への影響を最小化するために 人工的に根酸と同等の物質 ( 各種有機酸 ) で汚染土壌の洗浄を行う 2 さらに 洗浄で生じた放射性廃液の減量を効果的に実施する方法を提供する 3 本技術で使用する凝縮剤 ( ゲル化剤 ) は セシウムやストロンチウムと強く結び付き 吸水性も持つため 処分後の安全性も担保される
3 新技術の特徴 1 植物が吸収可能なセシウムやストロンチウムを予め 土壌から除去して農産物の汚染を防ぐ 2 セシウムまたはストロンチウム抽出廃液から安全に 水分のみを除去できる 3 本処理工程で生じたセシウムおよびストロンチウム含 有廃棄物を減量できる
研究背景 々放射性セシウムやストロンチウムは 広く土壌に浸透して土壌中の粘土鉱物に吸着固定されるため 長期に亘って農地を汚染することが懸念されている 汚染された農産物の価格の下落 農業の衰退 TPP への対応がより困難々土壌に含まれる粘土鉱物はセシウムを固定し易い 々ゼオライトを散布してセシウムを吸着させた場合 ゼオライトからセシウムを化学的に抽出することは困難 除染コストの高騰 或いは必要以上の処置 農地が放棄される懸念 必要なコストで必要な除染 即ち 植物が吸収可能な放射性物質のみの除去を実施する 4
5 新技術の基となる研究成果々技術 1 有機酸が吸着性鉱物からイオンを抽出できることを確認 2 有機酸が可溶性セシウムを抽出できることを確認 3 本処理工程で生じたセシウム含有廃棄物を減量できるこ とを確認
6 酢酸によるゼオライトからのイオン抽出試験 ( ゼオライトが土壌から吸着したイオンの酢酸による抽出 ) 写真 1 左から酢酸 クエン酸 蒸留水に浸けたイオン吸着ゼオライト試料 色合いから 酢酸が最も吸着イオンを抽出していることが分かる ゼオライトの水溶性イオン吸着効果を確認するため ゼオライトを水田土壌中に埋設して イオン吸着実験を行った 水田から引き上げたゼオライトを酢酸とクエン酸溶液に浸け 有機酸による溶解とキレート作用により 吸着イオンを抽出した また イオン吸着ゼオライトを蒸留水にも浸け 水でイオンが抽出されないかどうかを ICP 発光分析の定性分析で確認した
7 定性分析結果 -1 実験の結果 土壌とイオン吸着ゼオライトには 強いイオンの発光ピークが現れたが 同じ試料を蒸留水に浸けた溶液からは イオンの発光ピークが見られなかった 以下の表は 抽出されたイオンの定性分析結果で 一列目は Li~Zr 二列目は Nb~U の有無を表す 検出された元素のうち 元々ゼオライトに在る主要元素を除いて選択し 定量分析を行った
定量分析結果 -2 8
定量分析結果 -3 土壌から抽出されたイオンの濃度を 100 として 各イオン吸着ゼオライトの分析結果をグラフにプロットしたところ 軽元素のリチウムは土壌よりも抽出濃度が高い これは ゼオライトが土壌中のリチウムを選択的に吸着していることを示している 以上のことは 有機酸を用いて 土壌や鉱物に吸着されているイオンの回収が可能であることを示唆している この結果を基に 次のステップでは セシウムの抽出を試みる 図 1 土壌試料から抽出した各イオンの濃度を 100 として カドミウムとハフニウム 亜鉛 リチウムのゼオライトからの抽出率を示したグラフ 9
実験手順 1 赤玉土 鹿沼土 バーミキュライト 珪藻土 ゼオライトの 5 種類の土々鉱物に 5% 塩化セシウム溶液を 50ml 加え 一日静置 2 その後 水 酢酸 酒石酸又はリンゴ酸を添加し さらに一日静置してセシウムを抽出 3 抽出量の測定には プラズマ発光分光分析装置 (ICP) を用いた 表 2 有機酸が可溶性セシウムを抽出できることを確認 赤球土 鹿沼土 バーミキュライト 珪藻土 ゼオライト 水 52.3 56.1 34.7 72.5 - 酢酸 52.3 66.4 34.3 31.8 1.8 酒石酸 70.7 84.1 49 93.7 2.9 リンゴ酸 72.5 75.8 44.9 83.9 3.3 - 〆検出限界以下 有機酸を用いて 土壌や鉱物に吸着されているセシウムを効率的に抽出々回収可能であることが分かる 10
11 セシウム含有廃棄物の減量を確認 写真 2 カラギーナンでゲル化させた飽和セシウム溶液完全に乾燥させるとフィルム状になり 剥離する
12 新技術で使用する資材と抽出条件 1 有機酸〆リンゴ酸 酒石酸 クエン酸 酢酸 蓚酸 フマル酸 コハク酸 ムギネ酸 グリコール酸 ( 乳酸 ) 等 2 凝縮剤〆カラギーナン アルギン酸塩 ペクチン等 3 抽出条件〆常温で可能 使用する資材は天然物質であり 環境への影響が少ない
13 汚染水の脱水過程 排気々脱水 20 で 17 536mmHg 30 で 31 827mmHg 程度に減圧して脱水 珪藻土やゼオライト ゲル化した汚染水 洗浄された汚染土壌 乾燥してフィルム化した廃棄物 洗浄された汚染土壌
14 農地に適用する場合 除染のフローチャート 水田に適用する場合汚染水に適用する場合
15 従来技術とその問題点 汚染土壌から放射性物質を除去する方法について は 過去 様々な検討がなされているが 現状では 1 土壌の表土を剥ぎ取ること 2 植物中に放射性物質を取り込ませて除去すること 3 ゼオライトで放射性物質を吸着除去すること の三種類の方法が検討されている
16 従来技術とその問題点 々土壌の表土を剥ぎ取る方法 剥ぎ取った表土をどのように処理して放射性物質を分離回収するかが問題となる 本技術の採用で廃棄物の減量が可能 々植物によって放射性物質を除去する方法 植物の育成期間中に放射性物質を徐々に植物中に取り込ませて除去するものであり効率が悪く 吸着後の植物体の処分も問題となる 最近の結果から ほとんど効果が無いことが判明 々ゼオライトによる放射性物質の吸着除去 一度吸着した放射性物質をゼオライトから分離回収することが困難となる 本技術で セシウム以外のイオンを回収できる
17 新技術の特徴々類似技術との比較 2011 年 8 月 24 日に独立行政法人産業技術総合研究所から本技術と類似の技術が発表された 産総研〆薄い硝酸または硫酸水溶液で土壌を洗浄 粘土に対応 本技術〆植物の根酸と同等の有機酸で土壌を洗浄 環境に優しい 産総研〆プルシアンブルーや紺青でセシウムを捕獲 本技術〆カラギーナンやアルギン酸塩でセシウムやストロンチウムを 捕獲 アルカリ金属やアルカリ土類金属にも対応可能 産総研プルシアンブルーや紺青を取り出して廃棄物の減量を行う 本技術凝縮剤をゲル化 脱水で廃棄物の減量を行う 扱い易い
18 想定される用途 1 セシウムまたはストロンチウム汚染土壌の除染 食の安全の確保と低コストでの除染を達成するには 植物が吸収できる形態の放射性物質のみを除去すれば良い 2 液体放射性廃棄物の減量 放射性物質でゲル化が達成される凝集剤を使用することで 汚染水から安全に水分を除去することができる 3 放射性セシウム汚染溶液からのカリウムの回収 必要に応じて ゲルに含まれる有用元素を 質量の違いを利用して分離することも可能である
19 想定される業界 々利用対象 放射性セシウムまたはストロンチウムに汚染された農地 や水田 放射性汚染水 ( 例えば 学校のプール等 ) 住宅地や公園等の緑地から撤去された土壌の洗浄
20 実用化に向けた課題 々現在 有機酸で可溶性セシウムやストロンチウム等の土壌からの除去が可能なところまで開発済み しかし さらなる低コスト化のための 有機酸回収々再利用技術の確立が未解決である 々上記課題を解決するため 効率的な有機酸回収方法について実験データを取得し プラント化に必要な条件設定を行っていく 々さらなる処分後の安全性を高めるため 凝集剤 ( ゲル化剤 ) の放射線に対する耐性限界 ( 放射線強度 耐用年数 ) を確認する必要もあり
企業への期待 々低レベル放射性廃棄物の最終処分に関する国の方針が未確定であるが 本手法で排出される廃棄物は 処分後に地下水と接触しても 再ゲル化が起こり セシウムの漏出を防げるメリットがあるので 他の放射性廃棄物よりも管理が容易であると考えている 々土壌汚染除去技術を持つ 或いは 除染への参入を検討している企業との共同研究を希望 々低コストでの農地除染の実施を考えている団体に は 本技術の導入が有効と思われる 21
22 本技術に関する知的財産権 々発明の名称〆放射性アルカリ金属及び / 又は放射性アルカリ土類金属の分離回収方法々出願番号〆特願 2011-227811 々出願人〆国立大学法人秋田大学々発明者〆村上英樹
23 産学連携の経歴 々 2002 年 - 現在中央シリカ株式会社と共同研究実施々 2003 年 - 現在ジークライト株式会社と共同研究実施々 2005 年 -2007 年 JST 実用化のための可能性試験(FS) 事業 に採択 ( 珪藻土及びゼオライトを活用した放射線遮蔽材 ) 々 2005 年 - 現在昭和化学工業株式会社と共同研究実施々 2007 年 -2010 年 JSTシーズ発掘試験事業に採択 ( 珪藻土からの金属シリコンの作製 珪藻土およびゼオライトを活用したヤマビル忌避材の作製 珪藻土屋上緑化システムの構築 )
24 お問い合わせ先 国立大学法人秋田大学 産学連携コーディネーター伊藤慎一 TEL FAX 018-889-2712 018-837-5356 e-mail staff@crc.akita-u.ac.jp