平成 28 年度筑波大学教員免許状更新講習シンポジウム 子どもたちの心は今 ~ 発達障害と愛着障害 :2 つのキーワードから ~ 筑波大学宮本信也 ( つくば 2017.2.11) 気になる子? 集団行動が取れない子 乱暴で加減ができない子 他児と全く遊ぼうとしない子 落ち着きなく動き回る子 周囲が困るほどの場合 非定型発達特性 ( 発達障害 ) 愛着形成の問題 ( 愛着障害 ) この 2 つの視点から考えると理解できることが少なくない 発達障害における発達問題とは 発達障害とは 発達の遅れ 同じ年齢のみんなができることができない 成績 (performance) の問題として現れる 発達の偏り 他の人でも見られる状態と頻度 程度が違う 行動の程度が超えた問題として現れる 発達の歪み 他の人には見られないやり方 理解の仕方 理解できない行動として表れる 発達の遅れ 偏り 歪み 定型発達児とは異なる発達特性 非定型発達特性 1
非定型発達特性から見た発達障害の分類 発達全般の 遅れ : 知的発達症成績 > 行動 歪み : 自閉スペクトラム症成績 < 行動 発達のある側面の遅れ 偏り 歪み ADHD( 注意欠如 多動症 ) 成績 < 行動 限局性学習症成績 > 行動 コミュニケーション症群成績 > 行動 発達性協調運動症成績 > 行動 自閉スペクトラム症自閉症スペクトラム障害 Autism Spectrum Disorder, ASD ( 広汎性発達障害 ;Pervasive Developmental Disorders, PDD) かつての自閉症のイメージ 目と目が合わない 名前を呼んでも振り向かない ことばが遅い おうむ返しが多い 会話になりにくい 独り言が多い ことばの指示が入りにくい 友だちと遊ばない 家でも 一人で好きなことをしている こだわりが強い 約 3/4は 知能障害を伴う 知能障害のない ASD の特徴 他の人と一緒の行動をするが 自分の都合を優先する 自分のやりたいことを主張する 言いたいことを一方的に話す 自己主張が強い ( ああ言えば こう言うタイプ ) 相手が年長 教師だろうが 関係なく意見を言う 直截的な表現が多い ときに 難しいことば 漢字表現を好む ことばを表面的に受け取りやすい 言外の意味が理解できない 冗談 皮肉が通じない 注意 叱責に対して混乱したり 反論したりすることが多い 被害的な受け止め方が多い 融通性がない 0 か 1 式の考え方が多い 規則 決まりを守ることの強要 2
ASD の特徴は 自閉症のイメージの変化 会話もするし 友だちとも遊ぶし 集団行動も行う では どんなことが特徴? 状況にあった適切なやりとり行動ができるようになるのがかなり遅い 話題に沿った会話ができるときとできないときがある 一度気にいると 気になると そればっかり マイペース 話が通じにくい しつこい 何か話が通じない 話がかみ合わない 話がずれる こちらが話した言葉の意味を分かってるの? そのことばの使い方 ちょっと違うんじゃない? 想像することの苦手さから考えると理解しやすい 想像することの苦手さ 目の前に示されていない事柄を考えるのが苦手 示されている事柄だけを手がかりに反応 とんちんかん な応答 表面的理解 抽象的 象徴的事柄の理解が苦手 言語の意味理解が困難 ことばを自分が体験した範囲で理解し使用 思いがけないようなことばの使い方 ことばの 意味 ことばを本当に理解するためには そのことばのコアイメージを理解できなければいけない ことばのコアイメージ そのことばの本質的意味を示すもの そのことばが表す全ての状態に共通するもの 3
ASD の人たちとの会話の落とし穴 通じている 分かり合えているようで 実は お互い違う意味で理解していて 実は 通じていない 非定型発達特性への配慮例 しかも そのことに気がついていない ということがある! 話が通じにくい 省略をしない完全な文章で話す 主語と目的語をつける 具体的用語 表現を用いる 冗談は控える 皮肉は言わない 代名詞は指示する名詞を付けて使う それ ではなく そのコップ この前 ではなく 先週の水曜日 9 月 21 日 キーワードに留意 その人にだけ通じる言葉 その人が興味を持っているものと関連する言葉が多い 注意されると反発しやすい 命令形 大声を避ける ~ しなさい ではなく しよう 肯定的表現 用語で話す 否定的表現は使わない : だめ 違う 変だ おかしい など 間違ってる ではなく そこをこんな風にしてみたらいい など 基本 穏やかに丁寧に話す ですます調 で話すのもよい 4
当たり前のことが分からない 当たり前のことをきちんと説明 当たり前 常識的 見れば分かるだろう と思われることでも その都度説明 その場の状況をことばで説明 目に付く事柄 一つ一つについて ( 字幕のように ) 愛着障害 愛着形成の問題と生じる心の問題 説明は繰り返し行う 10 回は繰り返し説明するつもりで 親と子のきずな 愛着 子ども ( 人 ) と特定の人との間に形成される強い親和性 選択制 : その人でないとだめ 相互性 : やりとり関係 情緒的 : 気持ちのつながり感 身体的 : 身体のつながり感 愛着形成が阻害される背景 軽度 環境要因による親子の物理的関係の阻害 親 : 種々の要因による長期不在 子 : 長期入院など 親子の心理的距離の拡大 親 : 自分を優先するライフスタイル 子 : 愛着行動を乏しくさせる特性 (ASDなど) 中等度 不適切な養育行動 親の感情を優先させた養育行動など 重度 ネグレクト 子ども虐待 5
愛着形成に問題のある幼児の行動特徴 落ち着きがない : 多動 注意転導性 集団逸脱行動 : 集団から外れる 入ってこない 乱暴 : すぐに手が出る 加減をしない 年齢不相応の対人行動 大人にまとわりつく 同年代と遊ばない 強い警戒心 不自然な愛着行動 保護者がいるときはまとわりつき後追いもするが いなくなると態度が急変 食行動問題 : 過食 盗食 異食 反芻 痛みがあると思われる状況なのに平気 身辺の衛生に無頓着 ( 失禁しても平気など ) 愛着形成に問題のある思春期少年の行動特徴 学校内での問題行動 離席 抜け出し 集団行動をとらない 怠学 不登校 教師 大人への態度の問題 指示に従わない 反抗的 虚言 衝動的 攻撃的な言動 多動 突発的行動 暴力 友人とのトラブル 器物破壊 動植物への残酷な行為 非行行為 盗み 徘徊 家出 喫煙 飲酒 抑うつ的言動 希死的ことば 希死的行動 性的虐待に特に認められやすい問題 非行 性的逸脱行為 不定愁訴 無気力 不活発 成績低下 障害のある子どもで生じやすい虐待教育的虐待 Educational Abuse 子どもの年齢 能力 学習スタイルに合わない教育 子どもの気持ちや思いを考えない教育 子どもが自信をなくするような教育 子どもを叱りながら行う教育 学習を阻害する状況にある子どもを支援しない 子どもが自信を持てるような働きかけをしない 障害のある子どもの場合 保護者の 熱意 どんな障害でも起こりうる 保護者の無理解 発達障害で起こりやすい 愛着障害のある発達障害児 既存の発達障害の状態 + 愛着障害による行動 精神問題の状態 低年齢からの自発的で加減をしない攻撃 過剰な接近 接触対人行動 単独での反社会的行動の反復 解離症状 感覚知覚の喪失 鈍麻 注意の減弱 現実感の喪失 離人体験 健忘 6
子どもたちの心の陰に潜むもの 存在感の喪失 子どもたちの心に寄り添う 自己の存在感を実感できる体験の欠如 与えること で満足している大人達 できすぎた満足からは不満が生まれる 子どもは 自分が何をしたいのか 何をしてよいのか分からなくなる ( 宮川 ) 与える 他に子どもと接する術を知らない 自己の満足感と子どもの満足感の混同 自己の価値観を優先する親達 親のありよう 普通 の親 子どもを愛し ほめたり叱ったり 悩んだり ちょっと勘違いしている親 与えることで満足 自己の満足感を子どもの満足感と混同 少し気をつけなければいけない親 個人的自己実現が常に優先 ( 仕事主義など ) 危ない親 自分の楽しみが子どもより優先 不適切な対応をする親 自分の感情が優先 虐待する親 自分のことしか考えられない ( 体罰肯定 ) 大切なこと 自分が話すことを黙って聞いてもらえる場 何を話しても 否定も肯定も 励ましも 注意も 指導も ましてや叱責もなく ただ淡々と聞いてもらえること 大人は 子どもが何かを言うと つい一言 言いたくなる それが激励や慰めや助言などの肯定的な内容であっても 心が本当にくじけているときには 重たく感じられやすい あれこれ言わず 自分の気持ちにより添ってくれているという状態は 気持ちがホッとするもの いわゆるカウンセリングではない 今の辛い気持ちの横にいてあげるだけ 学校の教師は カウンセラーや心理の役割を考えなくてもよいのでは 7
子どもの心の問題を理解する重要な視点 3 つの視点 発達障害 発達障害特性は 子どもの心の発達さらには人格形成に大きな影響を与え 結果として行動 精神面の多彩な問題が生じるリスクを一定程度高める 愛着障害 愛着形成の問題は 子どもの成長発達に大きな影響を与え 結果として身体 発達 行動 精神面の多彩な問題が生じるリスクを著しく高める いじめ 子どもの心に大きな影響を与えるが 気がつかれにくい 子どもの心の問題は この3つに留意すると理解しやすいことが少なくない しかも この3つはリンクしていることも少なくない 8