(DVIOUT-\227v)

Similar documents
従業員の融通を許した シフトスケジューリング問題

スライド 1

Microsoft Word - H14‰IŠv‘¬’´’–.doc

Microsoft PowerPoint - mp11-06.pptx

0 21 カラー反射率 slope aspect 図 2.9: 復元結果例 2.4 画像生成技術としての計算フォトグラフィ 3 次元情報を復元することにより, 画像生成 ( レンダリング ) に応用することが可能である. 近年, コンピュータにより, カメラで直接得られない画像を生成する技術分野が生

三者ミーティング

Probit , Mixed logit

情報システム評価学 ー整数計画法ー

リソース制約下における組込みソフトウェアの性能検証および最適化方法

技術開発懇談会-感性工学.ppt

Microsoft Word - lec_student-chp3_1-representative

Microsoft Word - 11 進化ゲーム

Microsoft PowerPoint - 01-yagiura.ppt

Microsoft PowerPoint - mp13-07.pptx

ビッグデータ分析を高速化する 分散処理技術を開発 日本電気株式会社

と 測定を繰り返した時のばらつき の和が 全体のばらつき () に対して どれくらいの割合となるかがわかり 測定システムを評価することができる MSA 第 4 版スタディガイド ジャパン プレクサス (010)p.104 では % GRR の値が10% 未満であれば 一般に受容れられる測定システムと

研究報告書レイアウト例(当該年度が最終年度ではない研究班の場合)


Microsoft Word - NumericalComputation.docx

ンパ浮腫外来業務および乳腺外来業務で全日および半日をそれぞれ週に 2 日に変更する さくら 9 は現状の外来業務として平日の全日に 4 名を助勤しているが これに加え さらに輸血業務として 1 名を助勤し 計 5 名を助勤していきたいと考えている さくら 8 は新たに児童精神科外来業務として全日を週

プロジェクトマネジメント知識体系ガイド (PMBOK ガイド ) 第 6 版 訂正表 - 第 3 刷り 注 : 次の正誤表は PMBOK ガイド第 6 版 の第 1 刷りと第 2 刷りに関するものです 本 ( または PDF) の印刷部数を確認するには 著作権ページ ( 通知ページおよび目次の前 )

豚における簡便法を用いた産子数の遺伝的改良量予測 ( 独 ) 農業 食品産業技術総合研究機構畜産草地研究所 石井和雄 豚の改良には ある形質に対し 優れた個体を選抜してその個体を交配に用 いることで より優れた個体を生産することが必要である 年あたりの遺伝的改良量は以下に示す式で表すことができる 年

Microsoft Word - thesis.doc

ÿþ

ボルツマンマシンの高速化

Microsoft Word - 博士論文概要.docx

博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文

回答者のうち 68% がこの一年間にクラウドソーシングを利用したと回答しており クラウドソーシングがかなり普及していることがわかる ( 表 2) また 利用したと回答した人(34 人 ) のうち 59%(20 人 ) が前年に比べて発注件数を増やすとともに 利用したことのない人 (11 人 ) のう

改正要綱 第 1 国家公務員の育児休業等に関する法律に関する事項 育児休業等に係る職員が養育する子の範囲の拡大 1 職員が民法の規定による特別養子縁組の成立に係る監護を現に行う者 児童福祉法の規定により里親である職員に委託されている児童であって当該職員が養子縁組によって養親となることを希望しているも

平成18年度教員勤務実態調査報告書(第1部 調査の目的および設計)

2015 TRON Symposium セッション 組込み機器のための機能安全対応 TRON Safe Kernel TRON Safe Kernel の紹介 2015/12/10 株式会社日立超 LSIシステムズ製品ソリューション設計部トロンフォーラム TRON Safe Kernel WG 幹事

JMP による 2 群間の比較 SAS Institute Japan 株式会社 JMP ジャパン事業部 2008 年 3 月 JMP で t 検定や Wilcoxon 検定はどのメニューで実行できるのか または検定を行う際の前提条件の評価 ( 正規性 等分散性 ) はどのメニューで実行できるのかと

Kumamoto University Center for Multimedia and Information Technologies Lab. 熊本大学アプリケーション実験 ~ 実環境における無線 LAN 受信電波強度を用いた位置推定手法の検討 ~ InKIAI 宮崎県美郷

東邦大学理学部情報科学科 2014 年度 卒業研究論文 コラッツ予想の変形について 提出日 2015 年 1 月 30 日 ( 金 ) 指導教員白柳潔 提出者 山中陽子

PowerPoint プレゼンテーション

1.民営化

コンピュータ応用・演習 情報処理システム

ポイント 〇等価尺度法を用いた日本の子育て費用の計測〇 1993 年 年までの期間から 2003 年 年までの期間にかけて,2 歳以下の子育て費用が大幅に上昇していることを発見〇就学前の子供を持つ世帯に対する手当てを優先的に拡充するべきであるという政策的含意 研究背景 日本に

早稲田大学大学院日本語教育研究科 修士論文概要書 論文題目 ネパール人日本語学習者による日本語のリズム生成 大熊伊宗 2018 年 3 月

情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report 基板生産ラインの部品装着順序を考慮したラインバランシング問題に対するヒューリスティックな解法 戸崎博重 太田秀典 中森眞理雄 電子基板生産において部品を基板に装着する工程では, 部品装着機を複数台直列に連結することによってライ

日本機械学会 生産システム部門研究発表講演会 2015 資料

040402.ユニットテスト

データ構造

布に従う しかし サイコロが均質でなく偏っていて の出る確率がひとつひとつ異なっているならば 二項分布でなくなる そこで このような場合に の出る確率が同じであるサイコロをもっている対象者をひとつのグループにまとめてしまえば このグループの中では回数分布は二項分布になる 全グループの合計の分布を求め

届出上の注意 1 届出前 1 ヶ月の各病棟の勤務計画表 ( 勤務実績 ) 及び 2 つの勤務帯が重複する各勤務帯の申し送りの時間が分かる書類を添付すること 2 7 対 1 特別入院基本料及び 10 対 1 特別入院基本料を算定する場合には 看護職員の採用活動状況等に関する書類を添付すること

Microsoft PowerPoint - 13.ppt [互換モード]

特殊なケースでの定式化技法

Microsoft PowerPoint - 05.pptx

PowerPoint プレゼンテーション

PowerPoint Presentation

Using VectorCAST/C++ with Test Driven Development

自動車感性評価学 1. 二項検定 内容 2 3. 質的データの解析方法 1 ( 名義尺度 ) 2.χ 2 検定 タイプ 1. 二項検定 官能検査における分類データの解析法 識別できるかを調べる 嗜好に差があるかを調べる 2 点比較法 2 点識別法 2 点嗜好法 3 点比較法 3 点識別法 3 点嗜好

周期時系列の統計解析 (3) 移動平均とフーリエ変換 nino 2017 年 12 月 18 日 移動平均は, 周期時系列における特定の周期成分の消去や不規則変動 ( ノイズ ) の低減に汎用されている統計手法である. ここでは, 周期時系列をコサイン関数で近似し, その移動平均により周期成分の振幅

パラダイムシフトブック.indb

厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業)

別紙 常勤医師等の取扱いについて 1. 一日平均患者数の計算における診療日数 (1) 入院患者数ア通常の年は 365 日である イ病院に休止した期間がある場合は その期間を除く (2) 外来患者数ア実外来診療日数 ( 各科別の年間の外来診療日数で除すのではなく 病院の実外来診療日数で除すこと ) イ

chap03.indd

画像類似度測定の初歩的な手法の検証

Microsoft PowerPoint - 09-search.ppt [互換モード]

オートマトン 形式言語及び演習 3. 正規表現 酒井正彦 正規表現とは 正規表現 ( 正則表現, Regular Expression) オートマトン : 言語を定義する機械正規表現 : 言語

JUSE-StatWorks/V5 活用ガイドブック

講義「○○○○」

Microsoft Word - 19-d代 試é¨fi 解ç�fl.docx

C プログラミング演習 1( 再 ) 2 講義では C プログラミングの基本を学び 演習では やや実践的なプログラミングを通して学ぶ

Excel表の活用及び入院料等の届出に関して良くある質問(FAQ)


講義「○○○○」

Microsoft Word - 補論3.2

様々なミクロ計量モデル†

平成 27 年度 ICT とくしま創造戦略 重点戦略の推進に向けた調査 研究事業 アクティブラーニングを支援する ユーザインターフェースシステムの開発 ( 報告書 ) 平成 28 年 1 月 国立高等専門学校機構阿南工業高等専門学校

Chapter カスタムテーブルの概要 カスタムテーブル Custom Tables は 複数の変数に基づいた多重クロス集計テーブルや スケール変数を用いた集計テーブルなど より複雑な集計表を自由に設計することができるIBM SPSS Statisticsのオプション製品です テーブ

ミクロ経済学Ⅰ

CAEシミュレーションツールを用いた統計の基礎教育 | (株)日科技研

データ構造

行列、ベクトル

【NEM】発表資料(web掲載用).pptx

Microsoft Word - Chap17

お問い合わせは、病院所在地の厚生(支)局又は都道府県事務所あてにお願いします

Microsoft PowerPoint - algo ppt [互換モード]

2 概要 市場で不具合が発生にした時 修正箇所は正常に動作するようにしたけど将来のことを考えるとメンテナンス性を向上させたいと考えた リファクタリングを実施して改善しようと考えた レガシーコードなのでどこから手をつけて良いものかわからない メトリクスを使ってリファクタリング対象を自動抽出する仕組みを

ITスキル標準に準拠した      大学カリキュラムの改善

改正労働基準法

Oracle Business Rules

<4D F736F F F696E74202D208CA48B868FD089EE288FDA82B582A294C5292E B8CDD8AB B83685D>

説明項目 1. 審査で注目すべき要求事項の変化点 2. 変化点に対応した審査はどうあるべきか 文書化した情報 外部 内部の課題の特定 リスク 機会 関連する利害関係者の特定 プロセスの計画 実施 3. ISO 14001:2015への移行 EMS 適用範囲 リーダーシップ パフォーマンス その他 (

Taro-再帰関数Ⅲ(公開版).jtd

Microsoft PowerPoint - ICD2011TakadaSlides.pptx

因子分析

isai indd

Microsoft PowerPoint SIGAL.ppt

PowerPoint プレゼンテーション

2013 年度 統合実習 [ 表紙 2] 提出記録用紙 5 実習計画表 6 問題リスト 7 看護過程展開用紙 8 ( アセスメント用紙 1) 9 ( アセスメント用紙 2) 学生証番号 : KF 学生氏名 : 実習期間 : 月 日 ~ 月 日 実習施設名 : 担当教員名 : 指導者名 : 看護学科

C3 データ可視化とツール

Excelによる統計分析検定_知識編_小塚明_5_9章.indd

Microsoft Word - 【6.5.4】特許スコア情報の活用

各資産のリスク 相関の検証 分析に使用した期間 現行のポートフォリオ策定時 :1973 年 ~2003 年 (31 年間 ) 今回 :1973 年 ~2006 年 (34 年間 ) 使用データ 短期資産 : コールレート ( 有担保翌日 ) 年次リターン 国内債券 : NOMURA-BPI 総合指数

学習指導要領


Office Amenity Series 医師の勤務表 勤怠入力 病院様の多種多様な職種 形態に対して 社員毎に異なる勤務表の設定が可能です 勤務表入力項目もユーザー様で自由に設定を行うことができます また 月表示を 1 日から月末のほかに給与締め日に合わせた 16 日から翌 15 日までなどの表

構想 とは 都市の郊外化を抑制し 都市機能の中心部への集積の推進と 都市機能の中心部集積に伴う中心市街地活性化を図るものである この構想の中では 基本的な考え方として 自家用自動車に過度に依存することのないコンパクトシティの形成を図る交通体系の確立 が定められている このことからも 公共交通機関を主

Transcription:

勤務表作成者による修正作業を考慮したナーススケジューリングツールの構築プロフィットエンジニアリング研究 5211F001-5 指導教員 阿部傑大野裕 ABE Takashi 1. 研究目的ナーススケジューリングとは看護師の勤務表を作成する業務である. 提供する看護の質を担保しつつ, 看護師の希望や健康状態を考慮する必要があるため, ナーススケジューリングには多くの制約条件が存在する. しかし多くの医療機関においてナーススケジューリングは手作業で行なわれており,1 勤務表の作成に 5,6 時間程度必要であると言われている. この作業は作成者にとって大きな負担であるため, ナーススケジューリングの自動化ツールへのニーズは高まっている. ナーススケジューリングの自動化に関する従来研究として池上 [1] があり, 現場で用いる上で考慮すべき制約条件のうち, 定式化可能な条件は全て考慮した手法とされている. また, 川中ら [2] は, 絶対条件を考慮した遺伝的アルゴリズムを用いることで, より計算時間が短く実用的なナーススケジューリングツールを構築している. しかし, これらの研究の医療機関における実用化や普及は進んでいない. その原因として修正が困難であることが挙げられる. ナーススケジューリングは制約条件が多く, 全ての制約条件を満たすことは困難であるため, 勤務表が生成された後に, 作成者の判断により制約条件を緩和, 修正する必要がある. また, 個別の能力評価や嗜好性, 個人間の相性など詳細な部分については作成者が修正する必要がある. しかし, 勤務表の修正を行なう場合, 修正の影響が全体に波及するため, 完成した勤務表の修正は, 勤務表作成よりも困難であると述べられている. そこで本研究では, 従来のナーススケジューリング研究における問題点を改善し, 勤務表作成者による修正作業を考慮したナーススケジューリングツールの構築を目的とする. 2. 従来研究 2.1. 池上 [1] 池上 [1] は勤務表作成時に考慮すべき制約条件について調査を行なっている. 対象は東京女子医科大学付属病院において勤務表作成を行なう看護師 40 名である. その結果として制約条件を, ナース拘束条件とシフト拘束条件の大きく 2 つに分類している. ナース拘束条件とは各看護師における勤務や休暇の回数, シフトの並びや休暇希 望に関する条件であり, 各ナースの 1 ヵ月を通じた労働負荷を考慮する制約である. シフト拘束条件とは各勤務帯における看護師数や看護師のスキルレベルに関する制約であり, 各勤務帯において提供する看護の質を守る制約である. なお, どちらの拘束条件にも優先順位があり, 池上 [1] では 絶対守るべき条件, できれば守りたい条件 に分類している. また, 勤務表作成のアルゴリズムとして, 部分問題軸アプローチを提案している. これは個々のナースのシフトを部分問題として解くことで, 各ナースにおけるナース拘束条件を満たした実行可能パターンを生成し, それらを組合わせ, 入替える事により, シフト拘束条件の違反を最小化した全体の勤務表を作成する手法である. 2.2. 川中ら [2] 従来の遺伝的アルゴリズム (GA) 1 は, 交叉を行なう際に実行不可能な解が大量に生成されるため, 探索の効率が低い欠点がある. そこで川中ら [2] は制約条件を優先度に基づいて絶対制約条件と考慮制約条件に分け, 優先度の高い絶対条件を満たしつつ遺伝的演算を行なうことによって, 実行可能解のみを探索範囲とする方法を提案している. これにより探索範囲が縮小されるため, 解探索の効率化, 作成時間の短縮が実現される. 具体的には以下のプロセスで勤務表を作成する. 1. 制約条件を絶対制約と考慮制約に分類 2. 絶対制約を満たすようコーディングを行ない初期解を生成 3. 生成された初期解を個体として, 遺伝的演算を実行 4. 3 で生成された個体を親世代として規定世代数まで遺伝的演算を繰り返し実行なお, 遺伝的演算の際の適応度は, 各考慮制約を満たしている比率と各考慮制約に対する重み係数 ( 重視度 ) の積をとり, それらの総和とする. 交叉は多点交叉を行ない, 生成された 2 つの遺伝子からランダムに 1 遺伝子を選択し, これを増殖した個体とする. また, 個体を淘汰する際, 子世代だけでなく親世代も含めた全個体の中か 1 GeneticAlgorithm の略を指す. 近似解を探索するメタヒューリスティックアルゴリズムの一つである. 解の候補を遺伝子で表現した個体を複数用意し, 適応度の高い個体を優先的に選択, 他の個体を淘汰しつつ, 交叉, 増殖, 突然変異等の操作を繰り返すことで解を探索する手法である. 適応度は関数によって与えられる.

表 1. 本研究の制約条件 シフト制約ナース制約絶対制約各シフトの必要人数禁止シフトパターンの制約 ( 平日, 休日別 ) 週勤務時間 40 時間以内各シフトにリーダーが存在月平均夜勤時間 72 時間以内各看護師の上限夜勤回数考慮制約看護師能力の組み合わせ各看護師の休暇 勤務希望 ( ツール評価 ) 各看護師の休暇回数平準化各看護師の夜勤回数平準化考慮制約看護師個別の相性 ( 作成者評価 ) 看護師個別の勤務への嗜好 ら適応度の高い個体を選択する. これにより淘汰される個体も次世代に遺伝子情報を残しつつ, エリート個体を保存する事が可能である. なお, 突然変異として, 絶対制約を満たすよう勤務の入替えを行なう. 3. 本研究の提案 3.1. 本研究の概要本研究では川中ら [2] に作成者による修正作業を考慮したアルゴリズムを加えることで, より実用的なナーススケジューリングツールを提案する. まず, 制約条件を絶対制約と考慮制約に分類する. 次に, 絶対制約を満たすようにコーディングを行ない, 絶対制約を満たす初期解を生成する. その後, 遺伝的演算により, 考慮制約違反を最小化した準最適解を生成する. そして, 作成者により評価および修正個所の指摘を行なう. 指摘された修正個所と近傍の入替えるアルゴリズムの実行により修正された解を生成する. 作成者による修正個所の指摘, 入替アルゴリズムの実行を繰り返すことにより, 実用に足る勤務表を作成するツールを構築する. 3.2. 制約条件本研究で考慮する制約条件は従来研究および共同研究病院へのヒアリングを基に設定を行なう. 詳細を表 1 に示す. 制約条件は大きく絶対制約および考慮制約に分類する. また, 考慮制約条件のうち, 簡略な条件はツールを用いて評価し, より詳細な条件は作成者によって評価を行なう. 3.3. 定式化勤務表作成問題を penalty 最小化問題として定式化する. 考慮制約を式 1 のように目的関数 (penalty) として表し, 絶対制約を式 6~ 式 12 のように制約条件として表す. これらに基づいて遺伝的演算を行ない, 準最適解を生成する. 以下に定式化と記号の定義を示す. f3= 表 2. 禁止シフトパターン準 日深 深 深準 深準 準 準日 深 min penalty=w 1 f 1 +w 2 f 2 +w 3 f 3 +w 4 f 4 (1) f1= i d ihd/d ih (2) i j x i ij4 f2= j x ij4 i j x ij1 i j x ij1 i 1 + j x ij3 i j x ij3 3 1 (3) 3 (4) f 4 =0.1 d v (5) ここで,f 1 は希望休暇 勤務が満たされていない比率, f 2 は休暇回数の偏り,f 3 は夜勤回数の偏り,f 4 は看護師の組み合わせによる能力不足を示す.w l は各目的関数への重みづけである. また,d ih は勤務 休暇希望日数, d ihd は d ih のうち達成できていない日数である.d v は勤務する看護師能力合計が一定に満たない日数である. なお,x ijk は看護師 i の j 日, 勤務帯 k に, 勤務する場合 1, しない場合 0 となる変数である. 勤務帯 k はそれぞれ 1: 深夜勤,2: 日勤,3: 準夜勤,4: 休暇を示す. は総看護師数, k は各勤務帯の対象看護師数を示す. s.t. i J+7 x ij4 2 i (6) j=j { 8 ( 平日 ) x ij2 5 ( 休日 ) i (7) x ij1 2, x ij3 2 j i i (8) j (x ij1+x ij3 ) 8.5 72 y (9) x ijk +x i(j+1)k <2 i,j (10) x ijk +x i(j+1)k +x i(j+2)k <3 i,j (11) x ijk (1,0), 4 x ijk =1 i,j (12) k=1 ここで, 式 6 は週勤務時間数, 式 7,8 はシフト当たりの必要人数, 式 9 は平均夜勤時間を示す. ただし, y は月に 2 回以上夜勤を行なう看護師数, 式中の 8.5 は 1 勤務当たりの勤務時間でを示す. また, 式 10,11 は禁止シフトパターンの制約を表す. 禁止シフトパターンを表 2 に示す.

図 1. 初期解生成フロー 3.4. 準最適解の生成上述の制約条件および定式化に基づき, 初期解生成および遺伝的演算による準最適解の生成を行なう. 初期解は, 絶対制約を満たすようにコーディングを行ない生成する. 生成フローを図 1 に示す. 遺伝的演算は初期解 20 パターンを個体とし実行する. 交叉方法は 2 点交叉を用い, 突然変異として, 絶対制約を満たすよう勤務の入替えを行なう. 交叉 突然変異により生成した個体および親個体のうち,Penalty の小さい 20 個体を残し残りを淘汰する. 上記のプロセスを規定世代数繰り返し準最適解を得る. 3.5. 修正方法遺伝的演算により生成された準最適解を実用に足るものにするため, 作成者による評価 修正を行なう. 修正作業のフローを図 2 に示す. まず, ツールにより生成された準最適解を勤務表のベースとして利用可能か作成者が判断する. 次に, 修正が必要な箇所を指摘する. その後, 指摘箇所をアルゴリズムによって近傍と入替えることにより, 解の修正を行なう. さらに修正が必要な場合は上記のプロセスを繰り返す. ただし, 指摘箇所の近傍と入替えを実行する際には, 絶対制約を満たし,Penalty を最小化する近傍との入替えを行なう. なお近傍とは同日 他看護師の勤務を指す. 4. 検証 4.1. 実験方法 2012 年 10 月における福島県 A 病院外科病棟の勤務表及び休暇 勤務希望表を用いて, 勤務表の作成実験を行なう. 期間は 31 日, 看護師数は 19 名である. 準最適解の生成では, 規定世代数を 50 とし, 遺伝的演 図 2. 修正フロー 表 3. 目的関数への重みづけ w 1 w 2 w 3 w 4 ウェイト 5.1 3.2 1.2 0.5 算を 1,000 回実行する. その際の適応度 ( 目的関数 ) の重みづけを表 3 に示す. 決定方法は以下の通りである. 作成者である看護師長にヒアリングを行ない, 目的関数の各項目の重視度を一対比較する. 一対比較の結果に階層的意思決定法を用い, ウェイトを決定する. また, 修正作業は実際の作成者によって勤務表の評価修正を行なう. 該当病棟で勤務する看護師の嗜好や特性を考慮した上で, 修正箇所を指摘してもらう. その際, パソコン操作は筆者が行なう. なお, 修正作業にかかる所要時間をストップウォッチを用いて計測する. 4.2. 結果現状の手作業による勤務表作成, 修正を考慮しない自動作成モデル, 本研究の提案モデルを比較対象とする. それらに対して絶対制約違反数, 目的関数値, 作成時間, 実際に行なった修正および作成者による主観評価を比較することにより, 提案モデルの有用性を検証する. 結果を表 4, 表 5, 表 6 に示す. に示す. ただし手作業の作成時間は勤務表作成者らへのヒアリングによる推定値である. 次に, 絶対制約違反に伴いペナルティが発生するとして評価した際の, 各モデルにおける目的関数値の比較を図 3 に示す. なお, 目的関数値は以下の式で表す. 目的関数値 =w a 絶対制約違反数 +Penalty (13) ここで,w a は絶対制約違反に対する重みである.w a を 0.1,0.3,0.5 とした場合の結果を示す. 2 2 Penalty 内の f 4 において, 考慮制約違反 1 箇所につき 0.1 のペナルティを設定しているため, 絶対制約違反については, 同程度以上の Penalty が発生するように設定する.

表 4. 絶対制約違反数 月平均夜勤 週勤務 禁止シフト 作成時間 72 時間以内 40 時間以内 パターン 手作業 16 9 5,6 時間 本研究 ( 修正前 ) 0 0 5 分 本研究 ( 修正後 ) 0 0 57 分 表 5. 目的関数値 f 1 f 2 f 3 f 4 Penalty 休暇 勤務休暇回数夜勤回数能力考慮重みづけ後 希望 平準化 平準化 合計 手作業 0.0 0.5 4.5 0.0 7.1 本研究 ( 修正前 ) 0.9 0.6 3.2 0.0 10.2 本研究 ( 修正後 ) 1.8 0.0 3.8 0.0 13.5 5. 考察表 4, 表 5 より, 作成時間は, 修正作業を考慮することにより増加している. これは, 作成者が生成された準最適解の勤務の並びを確認する必要があるためである. しかし, 現状の手作業による作成時間 5,6 時間に対して, 本研究における作成時間は 57 分であるため,80 % 程度の作成時間削減が達成されている. これにより作成者の業務負担は大幅に削減されると考えられる. また, 目的関数の各項目を見ると, 休暇勤務希望においては本研究よりも手作業が優れている. これは手作業では勤務表作成プロセスとして最初に, 指定勤務を入力するためである. しかし, この作成手順を取ることにより, 手作業では禁止シフトパターン, 週勤務時間に関する絶対制約違反が発生していると考えられる. 図 3 より, 絶対制約違反への重みづけ w a を 0.3 とした時, 本研究と手作業の目的関数値がほぼ等しくなる. したがって, 絶対制約の順守を重視する場合には本研究の勤務表の方が優れていると考えられる. また, 修正を行なうことにより, 目的関数値が増加してしいるが, これは修正作業の際には主に定式化に含まれない条件を考慮し勤務表を完成するためであると考えられる. 表 6 より, 修正作業をツールに組み込むことによって, 夜勤はできるだけ 2 回連続させたい 年齢の高い看護師への大変な勤務の組み合わせは避けたい 同期同士 2 人による夜勤は避けたい と言った, 目的関数に組み込まれていない詳細な条件を考慮した勤務表が作成できたと考えられる. これらの条件は実用の際には考慮が必要である条件であり, より現実に即した勤務の並びが実現可能となると言える. 作成者も 自動で制約違反の内容に修正が行なわれる点は非常に便利である と評価しており, 本研究により修正作業が容易になっていると考えられる. 以上より, 本研究では修正作業を加えることにより, 絶対制約を満たしつつ, 作成者の詳細な希望に沿った勤務 図 3. 目的関数値の比較 表 6. 実行された修正 修正内容 修正対象 修正 1 回目 夜勤が1 日置きに配置されている看護師の修正 看護師 5,7,9,11,15 修正 2 回目 同期同士 2 名による夜勤の修正 看護師 9,10 ベテラン看護師の連続夜勤の修正 看護師 3 修正 3 回目能力組み合わせを考慮し能力の不足している勤務帯に看護師を追加 - 表を作成出来たと言える. これは, 作成者から, 修正を組み込むことにより, 現実に即した勤務の並びを実現できた との評価を得たことからも示される. 6. 結論および今後の課題本研究では, ナーススケジューリングにおける修正作業を考慮することにより, より実用性の高い勤務表作成ツールを構築した. 勤務表作成実験および作成者の主観評価から, 修正作業を考慮する事により現場で用いる際に考慮される詳細な条件も迅速に組み込むことが可能となり, 実用性向上に対して有用である事が示された. また, 今後の課題として他病院における適用, 作成者自身により容易に利用可能なインターフェースの開発が挙げられる. なお, 本研究では, 主観評価は作成者である看護師長のみからヒアリングを行なったが, 現場で働く看護師の評価や要望を踏まえた勤務表の作成も課題として挙げられる. 参考文献 [1] 池上敦子 : ナース スケジューリング - 調査 モデル化 アルゴリズム -, 統計数理,Vol.53,o2,pp.231 259 (2005) [2] 川中普晴, 山本康高, 吉川大弘, 篠木剛, 鶴岡信治 : 遺伝的アルゴリズムを用いた看護婦勤務表の自動作成, 電気学会論文誌 C, 電子 情報 システム部門誌, Vol.122,

o.6, pp.1023 1032(2002)