学習のライフサイクルを支援する史跡学習システムの開発 松江工業高等専門学校 藤井諭後田真希南葉恵美子
屋外学習や観光で史跡を見学し, 歴史について学ぶ機会は多い しかし 現地でリアルタイムに史跡の案内を行うシステムは少ない 見学中の手書きスケッチでの記録作成を支援するといった発想も少ない
従来の観光ガイドシステム ホームページに写真や図は使われるが 3D グラフィックスを使った史跡案内はほとんどない 見学の記録を手書きでできるシステムは見当たらない GPS と音声を使ってその場所の案内情報をリアルタイムに提供するシステムは少ない 従来のシステムには 予習 実習 復習の学習ライフサイクルで学習効果を上げるという取り組みはない
今までの取組み これらの問題を解決するため 我々の地元観光地である松江城とその周辺の史跡を素材として 3D グラフィックスを用いた予習 PDA と携帯電話を組み合せた実習 クイズによる復習 を組み合わせた 史跡学習システム の開発を行ってきた
技術的背景 ゲームソフトを中心とする 3D グラフィックスが進化してきている フルブラウザで使えるスマートフォンが急速に普及してきている タブレット型のスマートフォンでパソコン並みの使い方ができるようになってきた GPS カメラ 音声 タッチペンと 3D を組み合わせると様々な応用が考えられる
学習のライフサイクルを支援する 史跡学習システム 1. 予習 実習 復習の学習ライフサイクルを支援 2.3D グラフィックスによる仮想空間による予習 全体イメージと個々の史跡の概要を学習 3.GPS タッチペン付きのスマートフォンを使い現地で実習 GPS で学習の軌跡を記録 4. 復習時に 3D 空間に再現して学習ルートを復習し クイズで理解度をチェック
史跡学習システム構成図
3D グラフィックスを用いた予習 13D で史跡のイメージをつかむ 2 史跡の特徴や豆知識などを学ぶ 3 史跡説明ページ 音声によるガイドを受ける
スマートフォンを用いた実習 ユーザの位置に応じて適切な史跡情報を提供 GPS を使い史跡の音声 Web ガイド 記録作成を支援 学習記録作成 ( キーボード ) スケッチ ( タッチペン ) 現在位置確認 (Google Map) 見学軌跡の記録 (GPS) サーバに送り Web ページを作成 他端末からも閲覧可能とする メニュー画面
スケッチ機能 タッチペンを用いて撮影禁止の歴史遺産などをスケッチし 保存する機能 写真にメモを書き込むことも可能 JPEG 形式で端末内 サーバの両方に保存できる 線種の選択 現在の色 直前の色の表示 消しゴムなどの編集機能 スケッチ画像
学習軌跡の作成 史跡学習システムがスタートした時点から 10 秒おきに緯度 経度を数値で保存 システム終了と同時に軌跡ファイルをサーバに送信 実地学習の軌跡を 3D 仮想空間で再現
学習軌跡を用いた復習 実地学習で一定時間毎に得た緯度 経度を経路曲線に変換し 3D 空間に射影 GPS 軌跡 3D 空間への射影
チェッククイズ 理解度チェック 基本問題 ( 選択式 ) マウスで解答 応用問題 ( 穴埋め式 ) キーボード入力で解答
(po[0].x,po[0].y ) (po[1].x,po[1].y ) 始点 (startx,starty) 終点 (e.x, e.y ) (po[3].x,po[3].y ) (po[2].x,po[2].y ) Point[] po = new Point[4]; double r = Math.Sqrt(Math.Pow(startX - e.x, 2.0) + Math.Pow(startY - e.y, 2.0)); double cos = (e.y - starty) / r; double sin = (e.x - startx) / r; po[0].x = startx + (int)math.round(cos * (-width / 2.0)); po[0].y = starty + (int)math.round(-sin * (-width / 2.0)); po[1].x = e.x + (int)math.round(cos * (-width / 2.0)); po[1].y = e.y + (int)math.round(-sin * (-width / 2.0)); po[2].x = e.x + (int)math.round(cos * (width / 2.0)); po[2].y = e.y + (int)math.round(-sin * (width / 2.0)); po[3].x = startx + (int)math.round(cos * (width / 2.0)); po[3].y = starty + (int)math.round(-sin * (width / 2.0)); // 始点と終点には円を描画 grfx.fillellipse(brush, startx - (int)math.round(width / 2), starty - (int)math.round(width / 2), (int)width, (int)width); grfx.fillellipse(brush, e.x - (int)math.round(width / 2), e.y - (int)math.round(width / 2), (int)width, (int)width); // 変換した座標を用いて線を多角形で描画 grfx.fillpolygon(brush, po); 円と多角形によって線を描画することによって滑らかな線を描くことができる 線に幅を持たせるために始点 終点座標を変換
システム Virtools 4.0 3D 開発環境 史跡オブジェクト MetasequoiaLE R2.4 LightWave3D 8.0 Virtools による開発 位置情報変換プログラム PHP LightWave3D による開発
緯度 経度の平面座標変換 地球を球体と仮定する. 緯度が変化した場合地球の半径 R = 6378137m とすると, 円周 2πR 40075020m. 1 度変化すると, 2πR/360 = 111319.5m. したがって 1 秒では, 2πR/(360*60*60) 30.92208m.
緯度 経度の平面座標変換 経度が変化した場合同じ 1 度でも緯度によって移動距離が変わる. 緯度が高くなるとその緯線で切断した面の円の半径は小さくなる. 切断面の半径を r = R*cosθ とする. 島根県は北緯 35 度であるので, 1 度変化すると, 2πr/360 = 2π*R*cos(π*35/180)/360 111313.2m. したがって 1 秒では, 2πr/(360*60*60) 30.92032m.
BB を用いたアバター制御 スタート位置設定 アバターの移動 曲線の作成
スマートフォンによる評価 Q1. システムの操作は分かりやすかったですか Q2. 端末は持ち運びやすかったですか Q3. タッチペンによる操作は快適でしたか Q4. ガイド機能は快適に使えましたか Q5. 記録の作成は快適に使えましたか Q6. 史跡情報ページは役に立ちましたか Q7. 現在位置表示機能は役に立ちましたか Q8. 手書きのスケッチ画面は扱いやすかったですか Q9. 実際の観光にこのシステムを利用してみたいと思いますか Q10. 改善して欲しい点や欲しい機能はありますか Q11. その他お気づきのことがあればお書きください 全員が実際の観光に使ってみたいと評価 学生 10 名による試用評価
3D グラフィックスによる評価 Q 1:3D 空間は実際の環境と近いと感じたか 事前学習 Q 2: バーチャルツアーでのキーボード マウス操作は快適か Q 3: ボタンによる補助機能 ( 地図機能, 視点変更等 ) は十分か Q 4: 事前学習機能での, 改善すべき点や欲しい機能 Q 5: クイズの内容は復習に適していたか Q 6: 問題数 レベル分けは十分であったか Q 7: キーボードによるクイズの回答はどうか Q 8: 経路再現機能におけるアバターのアニメーションはどうか Q 9: 経路再現機能での, 改善すべき点や欲しい機能 Q10:3Dを用いた本システムを史跡学習に役立てたいと思うか Q11: 意見 感想 クイズ 経路再現
予習 復習の評価 Q 1:3D 空間は実際の環境に近い 90% Q 5: クイズの内容は復習に適していた 80% Q10: 本システムを史跡学習に役立てたい 100% Q1 Q2 Q3 Q5 Q6 Q7 Q8 Q1 0 大変良い良い普通悪い大変悪い Q11: ゲーム感覚で楽しめる楽しく事前学習ができるなどの良い評価が得られた 0 % 2 0 % 4 0 % 6 0 % 8 0 % 1 0 0 % Q 4: アバターの移動速度を速めたい Q 9: 経路データの選択再生などの改善点 新しい機能の提案
高い評価が得られた項目 端末の持ち運びやすさ PDA と携帯電話を使用していた従来の実地学習システムに比べ スマートフォン 1 台のみで持ち運びが容易 手書きスケッチ機能 ユーザが違和感なくスケッチできる 予習機能 楽しく予習ができる 復習機能 見学の軌跡が再現できる
研究の技術的特徴 1. 予習 実習 復習のライフサイクルを支援し 学習効果の向上をはかる 2.3D グラフィックスとスマートフォンを組み合せることにより 空間 時間に適合したユビキタスな学習サポートを実現
今後の課題 スマートフォンの操作 デザインの改良 ヘルプ機能を追加 スタートページに戻るボタンを追加 経路再現の改良 経路データの選択再生機能 通過可能経路の限定 システム全体 予習 実習 復習を通した試用評価
まとめ 試用評価を行い 史跡学習システムとしての有用性を確認した 3Dとスマートフォンを用いることで より興味を持って学習ができる 予習 実習 復習を組み合わせることによって より効果的に学習できる 史跡学習だけでなく 動植物園見学 修学旅行 ハイキングなど屋外学習全般への応用が考えられる