太陽光発電の導入行動における世帯の環境条件の影響評価 ~ 横浜市を事例として ~ Assessing the Impacts of Consumer s Environmental Conditions for Photovoltaic System Installation Behavior ~ A Case Study in Yokohama City~ 研究代表者 厳網林 / 慶應義塾大学環境情報学部 共同研究者小林知記 / 慶應義塾大学政策 メディア研究科秋山祐樹 / 東京大学地球観測データ統融合連携研究機構仙石裕明 / 東京大学新領域創成科学研究科社会文化環境学専攻 1. 背景太陽光エネルギーは広く分布し アクセシビリティの高いエネルギーとして分散型電源の基盤としての利用が高く期待されている 日本では FIT 制度の導入により太陽光発電の普及促進が期待されているが 家庭における意識と行動との間には未だにギャプが見られている こうした人間の複雑な消費行動を理解するための代表的なモデルとして 従来の S (stimulus)- R(response) モデルに 消費者の内的要因 (organism) を加えた S-O-R モデルがあり 太陽光発電のような環境配慮製品に対する消費者行動のモデル化に応用した研究は数々行われているが 理論的な枠組みから現実レベルに落とし込むためのデータ不足が課題となっていた 消費者の内部要因に着目した研究として 太陽光発電に対する意識調査が行われており 一般的に資本力が少ない地元企業や地域住民では初期費用の壁が大きく 普及を妨げている事が明らかになっている 例えば明城 大橋 (2009) の研究においては 太陽光発電の普及には補助金等による初期費用の壁を軽減する事が導入を促進に効果的であると示されている また 黒澤 大岡 (2010) は意識調査により住民の太陽光発電に対する価格感度を調査し 100~150 万円が適正価格 50~100 万円で普及が拡大する可能性を指摘している 一方で 非経済的な要因による意識変化を対象とした研究事例も展開されており 伊藤ら (2012) は日射気候区分を用いて日射量という環境条件の違いが太陽光発電の導入意識に与える影響を調査している しかしながら 非経済的インセンティブとして消費者の環境条件を客観的に評価し 設置行動との結びつきに関わる要因を明らかにするためには 詳細なデータの不足が問題として挙げられている
2. 目的本研究では 環境条件に関する意識調査により 消費者の導入行動に関わる環境条件の特定を行う また建物属性 築年数 日照条件などの家庭レベルのマイクロジオデータを作成し 太陽光発電の普及過程における消費者環境条件のダイナミクスに着目した消費者行動のモデル化を試みる 本研究は 消費者行動モデルにマイクロジオデータを用いた応用研究として位置づけられ 意識と行動の乖離問題に対する太陽光発電の普及政策において 経済的インセンティブだけでなく 非経済的インセンティブに主眼を置いた政策的アプローチを示す事が期待される 3. 研究方法消費者の意識と行動の乖離に対して Ajzen(1991) の計画的行動理論 (TPB: Theory of Planned Behavior) のような社会心理学的アプローチが有効である事が示されている ( 本藤 馬場, 2007) TPB では 個人の態度 ( その行動が自分にとって好ましいか否か ) 主観的規範( 重要な他人がどの程度その行動を期待しているか ) 行動の容易さ( その行動がどの程度容易か ) の3つの要素によって行動意図が決定される 本研究において TPB モデルを用いる事で 太陽光発電の導入の意思決定に至るまでの規定要因を特定する事が可能となり 意識調査と客観的なデータを基に 消費者の環境条件が行動の容易さにどのように影響しているのかを特定する 3.1 意識調査 意識調査では 関東地方 ( 東京 神奈川 千葉 埼玉 栃木 群馬 茨城 ) の住民を 対象とし 個人属性 パーソナリティ ( 環境意識等 ) 環境条件の 3 つの要因を基にして 太陽光発電の導入に対する規定要因を特定する 調査対象 : 公募型インターネットリサーチモニタ (20 歳 ~69 歳の男女 ) 調査地域 : 東京 神奈川 千葉 埼玉 栃木 群馬 茨城 調査方法 : インターネットリサーチ 調査日時 : 2012 年 11 月 7 日 ( 水 ) ~ 11 月 8 日 ( 木 ) 有効回答 : 958 サンプル ( 男女 20 代 30 代 40 代 50 代 60 代の 10 グループの均等回収を実施 ) 3.2 消費者の環境条件データの作成本研究では 消費者の環境条件データの作成のため 太陽光発電の導入に関わる要因として築年数の推計と日射量の推計を行う 築年数の推計では 複数年の建物データ ( 住宅地図の建物形状 ) の同定を行い 建物の築年数を推定する また 日射量は ArcGIS による日射量解析を行う
3.2.1 建物築年数の推計株式会社ゼンリンの発行する住宅地図 (ZmapTownII 2008/09 年度 (Shape 版 ) 神奈川県データセット ) に登録されている建物データを用いて 1995 年から 2008 年にかけて推定を行う 建物の存続は 複数年度における建物データの形状 階数 ビル名 居住者名といった建物の個別情報がそれぞれ一致していることを確認して同定する また 住宅地図は 1990 年代から利用可能であるが それ以前は現在提供されていない そのため 国土地理院が発行する細密数値情報の 10m メッシュ土地利用情報を用いる事で このなかにある住宅に該当する土地利用データを用いてさらなる築年数の推定を行う 3.2.1 建物別日射量の推計建物日射量の推計では 住宅地図に加え 地形データを使用する 地形データ (DEM) は 国土地理院の国土基盤地図情報ダウンロードサービスを利用し 5m メッシュの基盤地図情報数値標高モデルを使用する 本研究では 地形データと建物の高さ ( 建物階数のデータ 3m) を含めた数値表層モデル (DSM) を作成し ArcGIS の Spatial Analyst の日射量解析ツールによる日射量解析を行う 4. 結果 4.1 意識調査結果震災後の意識調査の結果より 震災を機にエネルギー問題に対する関心が国民全体で高まったものの 実際に行動に結びついたのは節電行動など身近な取り組みに留まり 太陽光発電を導入した家庭は非常に少なかった ( 図 1) その理由として 行動の容易さ が関係していることが考えられる 震災後の原発の停止により電力不足となり 節電を行わなければいけないという認識が国民全体に広まった つまり 節電という比較的容易な行動が社会の中で期待され 各個人の節電行動の実施しに結びついたと考えられる 一方で 太陽光発電の導入に関しては 震災後の固定価格制度により経済的インセンティブは高まったものの 依然として太陽光発電を導入するにはハードルが高いという認識が強い こうしたハードルが消費者の共通認識となっており 各消費者自身が行動を起こさなければならないという規範の結びつきが薄いという事が考えられる また図 2 より 導入意図から行動にかけて導入時期を待っているという消費者も多い事が見て取れる
図 1 震災後の意識変化と行動との乖離 図 2 消費者の太陽光発電導入時期の選好
4.2 築 年 数 と 日 射 量 の 推 計 結 果 図 3 神奈川県横浜市港北区の築年数推定 2008 年を基準に築年数を推定 図 4 神奈川県横浜市港北区の日射量推定
5. 今後の展開今後 本研究において行った意識調査の結果から共分散構造分析による解析を行い 太陽光発電の導入の意思決定に至るまでの規定要因を特定する さらに GIS で作成したデータを基に地域の環境条件と太陽光発電普及率との関係性を調べ 環境条件の視点から地域の太陽光普及ポテンシャルを評価する予定である 参考文献 1. 明城聡 大橋弘 (2009). 住宅用太陽光発電の普及に向けた公的補助金の定量分析, 文部科学省科学技術政策研究所第 1 研究グループ 2009.11, Discussion paper No.56 2. 黒澤徹也 大岡龍三 (2010). 省エネルギー住宅設備の導入促進に向けた最終消費者の意識に関する研究, 日本建築学会環境系論文集 Vol.75, No.651, p.474 3. 伊藤雅一 小田拓也 宮崎隆彦ら (2012). 全国アンケート調査による太陽光発電システムに関する導入意識とコンジョイント分析, エネルギー 資源学会 33-6. 4. Ajzen Isec (1991). The theory of planned behavior. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 50, 179-211 5. 本藤祐樹 馬場健司 (2010). エネルギー技術導入の社会心理的な影響 : 太陽光発電システムの設置世帯における環境行動の変化, Journal of Japan Society of Energy and Resources Vol.31, No.1, 38-44