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また 関係省庁等においては 今般の措置も踏まえ 本スキームを前提とした以下のような制度を構築する予定である - 政府系金融機関による 災害対応型劣後ローン の供給 ( 三次補正 ) 政府系金融機関が 旧債務の負担等により新規融資を受けることが困難な被災中小企業に対して 資本性借入金 の条件に合致した

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CAPITAL MARKETS LEGAL UPDATE 2018 年 11 月 カバードボンド発行を可能とした法的スキーム 弁護士梅津立三井住友銀行 (SMBC) は 2018 年 11 月 6 日付で 発行総額 10 億ユーロ 5 年固定利付 0.55% のカバードボンドを欧州市場で発行した こ

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22 特定項目に係る十五パーセント基準超過額 うち その他金融機関等に係る対象資本調達手段のうち普通株式に該当するものに関連するものの額 うち 無形固定資産 ( モーゲージ サービシング ライツに係るものに限る ) に関連するものの額 うち 繰延税金資産 ( 一時差異に係るものに限

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加ドル N3031 カナタ 国債 ( セ ロクーホ ン ) % 2025/06/01 9 年 6 ヶ月 AAA(S&P) Aaa(MDY) ユーロ ( 年 1 回複利 ) Q2132 フランス国債 ( セ ロクーホ ン ) % 2029

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金融規制改革により優位性高める欧州カバード ボンド市場 小島俊郎 要約 1. カバード ボンドとは 主に住宅ローン債権や公共セクター向け債権を担保として金融機関が発行する債券である 多くのカバード ボンドは 特別な法律に基づき発行され 債券保有者が担保 ( カバープール ) に対して優先的な請求権を有していることなどから非常に信用力の高い債券として取引されている リーマンショック後の混乱した市場におけるカバード ボンドの安定性が評価され カナダ アメリカ オーストラリア 韓国などで市場創設の取り組みがみられるなど 多くの国が導入あるいは検討を進めている 2. 発行体からみるカバード ボンドのメリットは 高い信用力と格付けの安定性により低コストで長期の資金が調達できることにある 米国の RMBS のような組成販売型モデル (originate to distribute model) で生じたモラルハザードの問題がないことや発行体に比べて長期にわたって安定的な格付けを維持する可能性が高いことなどから投資家に安心感を与えている 3. 一般的に カバード ボンドへ投資する理由は 高い信用力と流動性に加え 国債に比べて高い利回りにあると考えられる カバード ボンドの最大の投資家は銀行とアセットマネージャーであり 各投資家は基本的に自身の負債の残存期間 ( マチュリティ ) に合致した投資を行っていると考えられる 4. リーマンショックによる金融危機では ECB がカバード ボンドの買取りプログラムを実施したほか EU では一定の基準を満たすカバード ボンドには規制緩和の措置がとられており こうした点も投資家にとっての魅力となっている カバード ボンドは準ソブリン債としての側面と仕組み債としての側面を持ち こうした二つの側面を持つことが個別の投資家のニーズとマッチし 市場の拡大を促しているとも考えられる 5. 我が国では まだ市場創設の動きはみられていないが 今後高齢化等に伴い資金ニーズが逼迫する可能性に備えて 今から導入に向けた検討を始めることも必要であろう 1

Ⅰ. はじめに 2012 年 8 月 カバード ボンド ( 債権担保付社債 ) 発行市場の創設に向けて金融庁が本格的な検討を始めるという報道がなされた 1 その報道に先立ち 2012 年 7 月末に閣議決定された 日本再生戦略 には 民間資金を促すインフラ投資を促進する施策としてカバード ボンド市場の創設が位置づけられている 日本では これまで 2009 年に経済産業省がカバード ボンド検討会を 2011 年には政策投資銀行がカバード ボンド研究会を立ち上げ それぞれ制度化を検討したが具体的な市場創設にはまだ至っていない 一方 世界的にみると リーマンショック後の混乱した市場におけるカバード ボンドの安定性が評価され カナダ アメリカ オーストラリア 韓国などで市場創設の取り組みが見られるなど 多くの国が導入あるいは検討を進めている 2 本稿では カバード ボンドの中心を担う欧州市場を概観し 発行体及び投資家の立場からカバード ボンドの金融規制に対する優位性を含むメリットを検討してみたい Ⅱ. 拡大した欧州カバード ボンド市場 1. カバード ボンドとはカバード ボンドとは 主に住宅ローン債権や公共セクター向け債権を担保として金融機関が発行する債券である 多くのカバード ボンドは カバード ボンド発行のための特別な法律に基づき発行され 債券保有者が担保 ( カバープール ) に対して優先的な請求権を有していることなどから非常に信用力の高い債券として取引されている 3 カバード ボンドの起源は 1770 年にプロシアで発行されたものとされる その後 1797 年にデンマーク 1825 年にポーランド 1852 年にフランスで発行され 19 世紀にはほとんどの欧州の国でカバード ボンドのシステムが導入され 欧州では一般的な金融商品であった とはいえ その仕組みは各国の金融制度や法制の影響を受けたため統一されたものではなかったが 各国それぞれが他国の商品を参考に改良し 金融システムの安定に大きな役割を果たしていた しかし 20 世紀半ばからインターバンク市場が発展するのに伴い住宅ローンの原資に預金が多く使用されるようになると ドイツなど一部の国を除きカバード ボンドの発行が中止され 市場は著しく縮小あるいは廃止されることとなった 1 2012 年 8 月 17 日付 ニッキン 2 諸国のカバード ボンド市場創設については 林宏美 下院金融サービス委員会を通過した米国カバード ボンド法案 野村資本市場クォータリー 2010 年秋号 ( ウェブサイト版 ) 同 カバード ボンド市場のさらなる発展を狙い法整備を進める英国 野村資本市場クォータリー 2011 年春号 同 オーストラリアにおけるカバード ボンド市場の創設 野村資本市場クォータリー 2012 年冬号参照 3 カバード ボンドの法制等については 林宏美 規模の拡大と多様化が進展するカバード ボンド市場 資本市場クォータリー 2008 年春号参照 2

2. 転機となったジャンボ ファンドブリーフ 1995 年にドイツでジャンボ ファンドブリーフ 4 が発行されたのを契機に 再びカバード ボンドが注目を集めるようになった その背景には ユーロが導入されると欧州各国の通貨による分散投資が困難になるため そのリスクを代替するために投資家がより流動性のある商品を求め始めたという需要サイドのニーズと 住宅ローンや公的セクターの資金需要が増加し 銀行が新たな資金調達ソースを求め始めたという供給サイドのニーズが合致したことにある この結果 欧州各国でカバード ボンドが再び発行されるようになり 2012 年 8 月現在では 33 の国 5 でカバード ボンドが発行され ユーロ市場での残高は 2011 年末で 2.68 兆ユーロに達している この流れをさらに加速させたのが 2008 年の金融危機以降のカバード ボンドのパフォーマンスの良さであった スプレッドは一時的に拡大したが他の金融商品に対して早く縮小を見せたからである こうしたことは スプレッドのボラティリティにも現れている ( 図表 1) 高格付け債のボラティリティはソブリン債に比べると大きいが 非金融債や RMBS に比べるとその安定性は群を抜いている これはカバード ボンドが他の手段に比べて安定した資金調達ソースとなる可能性が高いことを示しており このことが各国でカバード ボンドの導入を促している大きな要因と考えられる 3. 多様な発行スキームドイツのファンドブリーフに代表されるように カバード ボンドはオフバランスせずに発行体のバランスシート上に残す方式が一般的である しかし 特別目的会社 (Special Purpose Vehicle: SPV) を用いたカバード ボンドも発行されている 例えばフランスのカバード ボンドであるオブリガシオン フォンシエール (Obligation Foncière) はソシエテ 図表 1 各債券 (AAA) のスプレッド ボラティリティの比較 180 160 140 120 100 80 60 40 20 0 155 104 62 33 AAA 国債 カバード ボンド 非金融債 RMBS( ユーロ内 ) ( 注 ) ボラティリティは 2007 年 7 月 4 日から 2010 年 10 月 20 日までのデータを用い 30 日間におけるスプレッド ワイドニングの 99.5 パーセントタイル値 4 カバード ボンドとは総称であり 各国によって呼称が異なっている ドイツのカバード ボンドはファンド 5 ブリーフと呼ばれる ジャンボ ファンドブリーフとは 発行額が 10 億ユーロ以上のファンドブリーフをいう EU 諸国等で 28 カ国 EU 以外では 5 カ国が発行している 3

ドゥ クレディ フォンシエール (Société de Crédit Foncier: SCF) という特別な金融機関を設立し この SCF にカバープールを移管した上で SCF がオブリガシオン フォンシエールを発行し管理を行うものである フランスはこの他に適格資産を住宅ローンに限定 ( 住宅ローンの証券化商品を含む ) したオブリガシオン ア ラビタ 6 (Obligation à l Habitat) などのカバード ボンドも発行されるなど 2011 年末で残高約 3660 億ユーロ 欧州全体のカバード ボンド発行残高の約 12% を占める重要な市場となっている また 英国やイタリアでは SPC がカバープールを取得し金融機関の発行するカバード ボンドを保証するという仕組みもある Ⅲ. 発行体 投資家からみたカバード ボンドのメリット 1. 発行体のメリット発行体から見るカバード ボンドのメリットは 高い信用力と格付けの安定性により低コストで長期の資金が調達できることにある まず 高い信用力である 担保付債券というだけでは 一般的に債券格付けが発行体格付けを上回ることはないが カバード ボンドは信用力の高いカバープールを担保とすること及び法律で発行体とカバープールに対する二重の請求権やカバープールへの管理 監督体制といった投資家保護が規定されていることから 発行体以上の格付けを取得することが可能となっている 加えて 銀行がポートフォリオで管理するため融資審査等が厳密に行われ 米国の RMBS のような組成販売型モデル (originate to distribute model) で生じたモラルハザードの問題がないことも投資家が好感する要素となっている こうしたことから他の調達手段に比べて低利な調達を可能としている 次に 格付けの安定性である 担保となる住宅ローンや公的セクター向け債権に共通することは長期の融資債権ということにある 従って ALM 上 その原資には短期資金である預金ではなく 出来る限り長期の資金が求められる そのためには 発行体の格付けが長期にわたって安定的であることが投資家の投資判断において重要になると考えられる 図表 2 のようにカバード ボンドの場合 仮に発行体の格下げがあったとしてもその影響をカバープールがプロテクトするため 発行体に比べて長期にわたって安定的な格付けを維持する可能性が高く 投資家の長期投資への安心感の醸成に大きな役割を担っている こうした格付けの安定性によって 長期資金を必要とする発行体にとってカバード ボンドは重要な資金調達手段となっている 6 オブリガシオン ア ラビタは 2006 年にストラクチャード カバード ボンドとして発行されたが 2010 年及び 2011 年の法律により 特定の法律に基づき発行されるカバード ボンドとなった 4

図表 2 格付け変更の比較 (2008 年 1 月 ~2012 年 2 月まで ) 1 ソブリンが安定している国の場合 2 ソブリンが格下げになった国の場合 80 % 90 % 70 60 80 70 国 50 40 30 20 10 0 カバード ボンド 発行体 3 2 1 0-1 -2-3 -4~ 格付け変更 ( ノッチ ) 60 50 40 30 20 10 0 カバード ボンド 発行体 4 3 2 1 0-1 -2-3 -4~ 格付け変更 ( ノッチ ) 2. 投資家の状況図表 3 でカバード ボンドの投資家構成を概観すると ほとんどが機関投資家であり 2012 年における最大の投資家は銀行とアセットマネージャー各 32% 次いで保険会社 年金基金で 21% 中央銀行が 10% のシェアを占めている また 図表 4 で年限別に投資家の動向をみると アセットマネージャーは概ね年限にかかわらず購入しているが 銀行は年限の短いものに 対照的に保険会社 年金基金は 10 年以上の債券を中心に購入している 従って 基本的に各投資家は自身の負債の残存期間 ( マチュリティ ) に合致した投資を行っていると考えられる 一般的に カバード ボンドへ投資する理由は 高い信用力と流動性に加え 国債に比べて高い利回りにあると考えられる 高い信用力については前述のとおりの仕組みが寄与しており 流動性については国債に次ぐ市場規模がその背景となっている 特に グローバルな債券市場において AAA の格付けを有する債券は 国債を除けばほぼカバード ボンドのみで構成されるといっても過言ではない ( 図表 5) また 流動性の高さは実際のビット アスク スプレッドを見ても多くの国で 10 ベーシス程度となっていることからも証明できよう ( 図表 6) 3. リスク分散効果図表 7 のとおり 国債とカバード ボンドとの相関をアセットスワップでみると 欧州のソブリン債務危機の初期である 2010 年のアセットスワップの相関は 0.89 と非常に高かったが ソブリン債務危機が進行するにつれ むしろ相関は弱くなり 2012 年には 0.39 にまで低下している 即ち マーケットが平常時には国債と同じような動きを示すが 特に今回のような国債のマーケットが混乱したときには カバード ボンドが国債とは異なった動きを示すため 国債のみで運用する場合に比べ カバード ボンドに投資をすることでリスク分散を図ることが可能になっている 5

図表 3 プライマリー市場における投資家の割合 100% 90% 80% 5% 3% 3% 4% 5% 4% 11% 13% 13% 11% 15% 21% 70% 60% 50% 40% 25% 26% 12% 15% 39% 10% 32% 29% 13% 12% 32% 10% 30% 20% 10% 48% 43% 35% 40% 40% 32% 0% 2007 年 2008 年 2009 年 2010 年 2011 年 2012 年 (~ 5 月 ) 銀行中央銀行アセットマネージャー保険会社 年金基金その他 図表 4 年限別投資家割合 (2012 年 ) 100% 90% 80% 70% 3% 6% 2% 4% 40% 33% 38% 28% 60% 50% 40% 30% 20% 10% 9% 12% 13% 12% 11% 12% 36% 38% 35% 37% 10% 21% 0% 2-3 年債 4-6 年債 7-9 年債 10 年以上債 銀行中央銀行保険会社 年金基金アセットマネージャーその他 図表 5 発行残高の比較 (2010 年末 ) 10 億ユーロ 2500 2000 1500 2,121 1,604 1000 656 500 0 AAA 2 152 AA 60 国債カバード ボンド非金融債 ( 注 ) カバード ボンドはジャンボ カバードボンドのみ 6

図表 6 ビッド アスク スプレッドの比較 (2011 年 6 月 ) BP 80 70 60 50 40 30 20 10 0 11 9 8 4 6 6 2 1 49 68 12 5 7 1 75 57 29 7 カバード ボンド 国債 図表 7 カバード ボンドと国債のアセットスワップにおける相関 国債のアセットスワップスプレッド (bp) カバード ボンドのアセットスワップスレッド (bp) 4. 規制緩和等によるメリットリーマンショックによる金融危機によりマーケットが混乱した 2009 年 5 月 ECB は 600 億ユーロのカバード ボンド買取りプログラムの実施を公表し 翌 2011 年 10 月には 400 億ユーロの追加策を実施する措置がとられており こうした緊急時の ECB の対応も 流動性の観点から 投資家にとって大きなメリットとなっている さらに EU では 一定の基準を満たすカバード ボンドに対して1~3のように規制を緩和しており こうした措置が投資家にとってカバード ボンドの購入意欲をより高めていると考えられる 1 UCITS とアセットマネージャーアセットマネージャーが購入しているのは 投資信託に関する EC 指令 (Undertakings 7

Investment Transferable Securities Directive:UCITS) による優遇策の影響が考えられる 具体的には UCITS 適格投資信託が同一の発行体の債券を保有する場合総資産の 5% までに制限されているが UCTIS が定める基準を満たすカバード ボンドは総資産の 25% まで保有割合を引上げることが容認されているためである 2 CRD と銀行自己資本比率規制上の優遇的な取扱は 銀行にとってカバード ボンドを購入するインセンティブを高めていると考えられる バーゼルⅡのリスクウェートの標準的手法による計算方法では カバード ボンドと無担保銀行債を区別する規定はないが バーゼルⅡを基に策定された欧州の自己資本に関する EU 指令 (Capital Requirement Directive:CRD) では 一定の要件 7 を満たしたカバード ボンドはリスクウェートを引下げることが認められているためである また バーゼルⅢで導入が予定されている流動性カバレッジ比率でも 一定の基準を満たすカバード ボンドについては優遇される方向性が示されており 日本や米国に比べて流動性カバレッジ比率が平均的に低い欧州の金融機関にとって投資意欲が益々高まることが考えられる 3 ソルベンシー Ⅱと保険会社保険会社にとっては ソルベンシー Ⅱの影響が考えられる ソルベンシー Ⅱとは EU 内の保険会社に 2013 年から適用される統一された監督規制の枠組みであり 最終的なルールの検討が現在行われている これまでは資本の総額が各種リスクをカバーする以上の額を満たせばよかったものが ソルベンシー Ⅱでは区分したリスク毎に資本を区別し 各資本毎にリスクに応じた額の確保と管理が求められる予定である このうちスプレッドリスクについては AAA の社債や ABS では 0.9% の資本チャージが要求されるのに対して AAA のカバード ボンドでは年間 0.7% AA+ から AA-のカバード ボンドでは年間 0.9% の資本チャージにとどまる予定となっている また 従来から一定の基準を満たすカバード ボンドについては 同一発行体のカバード ボンドに総資産の 40% まで投資することが可能であり この方針はソルベンシー Ⅱでも引き継がれる予定である 5. ベイルインの適用除外ベイルイン 8 とは 金融機関の破綻の際に 当局が一定の債務を対象に元本の削減又はエクイティへの転換を講じる措置である 従来の公的資金投入による金融機関救済では預金 7 8 要件は 1UCITS 指令 52 条 4 項の基準を満たすこと 2カバード ボンドの担保資産が 明確に定義されたタイプ クレジットの質に合致した資産のみで構成されていること ( 例 : 信用供与機関へのエクスポージャーは最大 15%) 3ある種の担保資産に関して 別途の制約が確立されていること 4 不動産向けローンを担保とするカバード ボンドの発行体は 不動産評価やモニタリングに関する最低要件を満たすこと の4 点である 詳しくは 小立敬 ベイルインの導入に向けた検討 - 破綻時に債権の損失吸収を図る新たな措置 - 野村資本市場クォータリー 2012 年秋号参照 8

者だけではなく債権者も保護する結果となったことへの反省が背景となっている 2012 年 6 月に欧州委員会が公表した EU 域内の銀行及び投資会社の破たん処理制度に係る EU 指令案では 担保や保険でカバーされた債務にはベイルインは基本的には適用されないため カバード ボンドについてもベイルインの適用除外となることが想定されている ベイルインの適用除外になると 金融機関が破綻した場合 カバード ボンドの投資家は当局からの元本削減要求による損失を回避できることとなる 6. レーベルの導入カバード ボンドは一定の基準を満たす債権担保付債券の総称であり 実際には EU 内で 25 の国で 300 以上の発行体がカバード ボンドを発行している また カバープールの適格資産についても金融機関への貸出債権や MBS など範囲を拡大する国が出現したり 法律に基づかないストラクチャー カバード ボンドが発行されるなど カバード ボンドの定義が広がりつつあった そのため投資家は裏づけとなる法律の有無や内容 発行体の格付けや流動性リスク管理 ( 欧州中央銀行の適格担保債券の保有状況など ) ALM 管理方針 ( カバーアセットとのデュレーションギャップの管理状況など ) の情報 カバープールの内容 ( 住宅ローン債権か公的セクター向け債権かなど ) 超過担保の水準等を個別に調査し投資判断をしなければならなかった こうしたことから 投資家からはカバード ボンドの適格性 情報の透明性を高める要求が強くなった 2012 年 5 月 22 日 ヨーロピアン カバード ボンド協議会 (European Covered Bond Council:ECBC) は 2013 年の初めから ECBC カバード ボンド レーベル (ECBC Covered Bond Label) を導入することを発表した 9 これはカバード ボンドの基準の見直しと更なる透明性の確保に向けた取り組みであり 担保となるアセットクラスの明確化 投資家の視点に立ったカバード ボンドのコアとなる基準や質の明確化 カバープールや発行体の情報へのアクセスや透明性の改善等を行い 更なる流動性の向上を目指そうとするものである 具体的には 適格担保をモーゲージ 公的セクター向け債権 船舶貸付に限定し 専用の法律に基づく発行体とカバープールへの二重請求権の確保 監督体制などの要件を定め 統一のテンプレートの採用による情報公開の提供を行うカバード ボンドに対して一定の基準を満たしている印としてレーベルを付与すると言うものである このレーベルの導入により全ての審査が不要になるわけではないが EU の投資家は勿論のこと EU 以外の投資家にとっても投資判断がより容易になり 各種規制の緩和などと相俟って更なる市場の発展が期待される 9 European Covered Bond Council, Moving Forward with the ECBC Covered Bond Label, May 22, 2012 9

Ⅳ. おわりに カバード ボンドを投資家の視点で捉えるとき 準ソブリン債として捉える投資家と仕組み債として捉える投資家に大別できよう 準ソブリン債として捉える場合 高い信用力と流動性にも拘らず ソブリン債に比べて高い利回りが確保されつつ リスク分散効果が図れる商品として位置づけられるだろう また 仕組み債として捉える場合 例えば仕組み債の代表的な RMBS と比べてみると 資産のキャッシュフローが変動するリスクを RMBS では投資家がとることになるが カバード ボンドの場合は発行体がキャッシュフローの変動リスクを吸収するため 投資家は一般的な債券と変わらない管理体制での運用が可能となっている こうした二つの側面を持つことが個別の投資家のニーズとマッチし 市場の拡大を促しているとも考えられよう さらに 欧州ではリーマンショック後の金融危機を良い教訓として 金融環境が再び悪化しても金融機関が流動性を確保できるような制度 市場をカバード ボンドによって構築しようとしている 翻って我が国の状況をみると 各機関が検討をしている段階で具体的な市場創設の動きはみられていない その理由をカバード ボンド研究会の報告書 10 では発行体として想定される銀行は資金余剰の状況にあることや投資家からは投資環境や商品性などの諸条件が満たされていないことにあると分析している しかし 高齢化の進展に伴い貯蓄率の低下が見込まれることや再度何らかのショックにより資金ニーズが逼迫する可能性はあるだろう カバード ボンド市場創設のために 法制度のあり方 流動性を確保するための仕組み 適格担保資産の要件 発行体の倒産時の取扱などの多くの課題があることを考えれば 今から導入に向けた検討を始めることも必要であろう < 参考文献 > European Covered Bond Council, 2011 ECBC European Covered Bond Fact Book European Covered Bond Council, 2012 ECBC European Covered Bond Fact Book 緒方健太郎 フランスのカバード ボンドについて 季報住宅金融 2010 年度秋号 10 カバード ボンド研究会 カバード ボンド研究会取りまとめ ( 我が国へのカバード ボンド導入に向けた実務者の認識の整理と課題の抽出 ) (2011 年 7 月 ) 10