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sample リチウムイオン電池の 電気化学測定の基礎と測定 解析事例 右京良雄著 本書の購入は 下記 URL よりお願い致します http://www.johokiko.co.jp/ebook/bc140202.php 情報機構 sample

はじめに リチウムイオン電池は エネルギー密度や出力密度が大きいことなどから ノートパソコンや携帯電話などの電源として あるいは HV や EV などの自動車用動力源として用いられるようになってきている リチウムイオン電池を安全かつ最大限に利用するためには その電池性能を理解し 電池内で生じている現象をできるだけ正確に把握 理解することが重要である そのために 電気化学的測定は最も重要な方法であると考えられる ここでは 主な電気化学的測定法の原理とリチウムイオン電池への適用について基礎的な観点から述べることにする 1. リチウム電池の原理 構造 リチウムイオン電池 ( 正確にはリチウムイオン二次電池 ) は それまでの負極に金属リチウムを用いたリチウム電池 ( リチウム一次電池 ) とは異なり 正極負極ともにリチウムイオンを吸放出 ( インターカレーション ) できる活物質が用いられている 正極活物質としては主に LiCoO 2, LiMn 2 O 4 あるいは Li(NiCo) 2 などのリチウムを含む遷移金属酸化物が 負極活物質には 天然黒鉛あるいは人造黒鉛などが用いられている 電池内の反応を最も簡単な形で考えると次のようになる リチウムイオン電池が充電されると 正極活物質中のリチウムがリチウムイオン ( ) として電解液中に入る そして 電解液中を負極に向かって移動して 負極活物質中に取り込まれる これをリチウムに着目して化学反応式のように表すと次のようになる 正極 : Li( 正極活物質 ) ( 電解液 ) + e ( 正極活物質 ) (1) 負極 : ( 電解液 ) + e ( 活物質 ) Li( 負極活物質 ) (2) 全反応 : Li( 正極活物質 ) Li( 負極活物質 ) (3) すなわち 充電時には正極で Li の酸化反応 負極で Li の還元反応が生じる ( 正確にはアノードあるいはカソードという単語を用いなければならないが ここでは分かりやすくするために正極 負極を用いる ) 全電池反応は 正極活物質中の Li が電池反応により負極活物質中に移動する という単純な形になる 放電時には正極 負極ではこの逆の反応が生じる 電池の電圧は正極活物質と負極活物質内の Li の電気化学ポテンシャルが異なることによって発生する いずれにしても 式 (1) および式 (2) からもわかるように 式 (3) の電池反応を 01

工夫はしているけれども 実際の電極作成プロセスにおいては必ずしもそうはならないということである 上述したようにリチウムイオン電池の場合 電極は種々の粒状粒子あるいはバインダーからなっており これらを均一に分散させることが非常に難しく 電極が均一な構造にならない ( なりにくい ) また 活物質も真の球状ではなく 粒径も一定でない さらには ポアーの大きさも不均一である このようなことから 図 3 あるいは図 4 に示したリチウムイオン電池の多孔体電極を電気化学的に取り扱う場合には 理想的な挙動から大きくずれるようになり理論的な取り扱いが非常に難しくなる 多孔体電極の理論的な取り扱いに関する研究もかなり行われているが 粒子が完全な球状であるとか 粒径が均一であるなどの制約条件も多い 17-20) このようなことを十分に考慮して得られた結果を考察する必要がある 集電体活物質電解液 e e e e e 図 2 リチウムイオン電池の電極模式図 導電助剤により電子の移動を促進し 活物質表面での反応を促進する 05

E t (V) E (V) 図 3 6 液絡のある場合とない場合の濃淡電池の起電力の測定例 濃淡電池 :Li LiX(m 1 ) LiX(m 2 ) Li 電解液 : 1.0(mol/L)-LiPF 6 を含む EC-DEC(3/7) 4 6 ) 5. 5 電解質 ( 電解液 ) の安定性リチウムイオン電池では LiPF 6, LiBF 4 などの無機塩が EC DEC や EMC などの有機溶媒に溶解して電解液として用いられる 従って 電解液の安定性は これらの電解質 ( 無機塩 ) と有機溶媒の安定性に分けて考慮する必要がある リチウムイオン電池の場合には 特に電極電位に対する安定性 いわゆる電位窓が重要になる この電位窓を測定するためには主として CV 法が用いられる 1,56) CV 測定では 電位を制御した電極で電解質あるいは有機溶媒の酸化 還元分解が試験され それに対応する分解電流が電位の関数として測定される 分解電流が測定される電位 ( 酸化あるいは還元分解電位 ) がいわゆる電位窓として求められ 電解質あるいは有機溶媒の安定性の尺度として利用される 注意しなければならないことは 分解電圧は熱力学的因子に支配されるはずであるが 実際には速度論的因子 ( 例えば 電位スキャン速度 電極材質あるいは電極表面粗さ 塩濃度など ) の影響を強く受けるということである 従って 報告されているデーターは相矛盾する場合も多く そのデーターが測定された条件を正確に把握しておくことが極めて重要である 特に 作用極として不活性電極 ( 例えばグラッシーカーボン 白金 金あるいはニッケルな ど ) を用いるか あるいは実際の電極 (LiCoO 2, LiMn 2 O 4 や LiNiO 2 などの活物質を含む電極 ) 37

6. 電気化学測定の電池解析例 上述した種々の電気学測定法は 基本的にはそのまま電池にも適用できる しかし 電池の場合には 基準となる参照極を用いることが難しいことが大きな問題になる また 電池の電圧が同じであっても 正極あるいは負極活物質の実際の状態 ( 例えば リチウムなどの基準局に対する電位 ) が同じであるとは言えない なぜならば 正極と負極の容量比が異なれば たとえ電池電圧が同じであっても 正負極それぞれのリチウム金属基準に対する電位が異なるからである 正極あるいは負極活物質の特性 ( 拡散係数 反応抵抗など ) が異なるため ひいては同じ活物質を用いた電池であってその特性が異なってくることも十分にある 以下に正負極からなる電池系の電気化学測定の 2 3 の例を挙げる 6. 1 3 極式電池による解析実際の正極負極からなる電池に 参照極となるリチウム金属を用いた 3 極式電池による充放電挙動が解析された 42) 電極の構造を図 38 に示す 正極 (LiCoO 2 ) と負極 ( 人造黒鉛 MCMB) 電極シートの間に 参照極としてリチウム金属 ( 銅線の先端についている ) が参照極として挿入されている 図 39 はこの電池の充放電曲線を示したものである (a) が正極と負極間の電位であり 通常測定される電池電圧である 図中の A/C は負極と正極の容量比である この電池は 2.75-4.2V の間で充放電された 図 39a の正極と負極間の電位変化は容量比が異なっていても大きな差は見られない しかし 図 39b の正極 負極の金属リチウムに対する電位変化をみると 容量比 A/C が 0.90 すなわち正極の容量が負極に比べて大きいと 充放電中に負極の電位が 0V 以下に下がっているのが観察される ( 金属リチウムの電位以下に下がるのは過電圧の影響による ) このような状態になると 負極において金属リチウムが析出しやすくなる 容量比が 1.05 の場合にはそのような現象は観察されていない 一方 電池は 4.2V まで充電されるが A/C が 1.05 の電池では正極の電圧は 金属リチウム基準に対して 4.2V を超えてしまう これ以上電位が高くなると LiCoO 2 の構造が破壊される恐れも出てくる 43) 39

-0.10 Z'' / Ω -0.05 耐久後 耐久前 0.00 0.05 Z' / Ω 0.10 図 4 3 高温耐久前後の円筒型電池の A C インピーダンススペクトル L1 Rs C1 R1 C2 R2 W2 図 4 4 図 4 3 に示した A C インピーダンススペクトル解析のための等価回路 6. 2. 充放電サイクル劣化挙動とその解析例すでに述べたように リチウム二次電池はそのエネルギー密度 出力密度が高いことから 種々の用途に対して大きな注目を集めている 現在一般的に使用されている正極材料はコバルト酸リチウム (LiCoO 2 ) であるが さらなる大容量化 高出力化のニーズに対し ニッケル酸リチウム (LiNiO 2 ) を基本組成とする正極材料が検討されている 二次電池において 寿命は最も重要な特性の一つである 電池特性の低下 すなわち劣化は高温環境下での使用による容量減少と抵抗増加という形で現れる ニッケル酸リチウムを正極に 黒鉛を負極に用いたリチウム二次電池は 容量の観点において優れているが 抵抗増加は顕著であることが明らかになっている 70-71) その原因究明のために正極にニッケル酸リチウム 負極に黒鉛を用いた円筒型のモデル電池を試作し 耐久試験及び劣化解析を行ってきている 71-73) 作製 44