課題探求科目 / 特別講義 20161129 危機管理論 8 危機管理の実際 (1) 担当 安川文朗
危機管理の実際 リスク アセスメントにより客観的で専門的なリスク情報が与えられることは必須である しかし それによってリスクが十分理解されるとは限らない リスクコミュニケーションがリスクマネジメントにつがなるためには リスクの伝達 共有とともに 正しい理解が必要 どのように リスクマネジメント あるいは 危機管理 が実行されていくのか
グループでの討議 1. グループづくり 学生番号の下 1 桁が 1~3 グループ1 4~6 グループ2 7~9 グループ3 0 各グループに任意ではいる 2. 討議の方法 はじめに教員から 事例について簡単な解説を行うので その後グループで 1 当該事例における リスクマネジメントの概要 ( 何がマネジメントの対象か リスクマネジメントプロセスはどう構成されているか キーワードやキーコンセプトは何か など ) を抽出し 2 事例のリスクマネジメントは どういう点が有効で どういう点で問題があるかを検討し 3 問題 課題についてどう改善すればよいか 提案する
子宮頸がんワクチン接種問題 風疹の流行と妊婦の風疹予防について
子宮頸がんワクチン接種 : 何が問題なのか http://qnet.nishinippon.co.jp/medical/news/kyushu/post_443.shtml
子宮頸がんとは子宮頸がん ( または 子宮頚がん ) には 子宮頸がんと子宮体がんがあります 子宮体がんは子宮内膜がんとも呼ばれ 胎児を育てる子宮体部の内側にある子宮内膜から発生します 一方 子宮頸がんは 子宮の入り口の子宮頸部と呼ばれる部分から発生します 子宮の入り口付近に発生することが多いので 普通の婦人科の診察で観察や検査がしやすいため 発見されやすいがんです また 早期に発見すれば比較的治療しやすく予後のよいがんです 一方 進行すると治療が難しいことから 早期発見が極めて重要といえます 子宮頸がんとヒトパピローマウイルス (HPV) 子宮頸がんの発生には その多くにヒトパピローマウイルス (Human Papillomavirus : HPV) の感染が関連しています HPV は 性交渉で感染することが知られているウイルスです 子宮頸がんの患者さんの 90% 以上から HPV が検出されることが知られています HPV 感染そのものはまれではなく 感染しても 多くの場合 症状のないうちに HPV が排除されると考えられています HPV が排除されず感染が続くと 一部に子宮頸がんの前がん病変や子宮頸がんが発生すると考えられています また喫煙も 子宮頸がんの危険因子であることがわかっています HPV には複数の型がありますが 最近 一部の型の HPV 感染を予防できるワクチンが使用可能になっています しかしたとえ ワクチン接種を受けた場合であっても 定期的に子宮頸がん検診を受けることが大切です 国立がん研究センターがん対策情報センターの HP より
何が起こったのか 子宮頸 ( けい ) がんのワクチンで接種後の健康被害が報告されている問題で 厚生労働省の検討会は 16 日 医療機関などから報告されていない例も含めて調査を進めることを確認した 因果関係を判断するための情報が不足しているためという 接種の一時中止などは必要ないとの意見で一致した 厚労省が検討会に示した資料によると 販売が開始された 2009 年 12 月以降 3 月末時点の副作用報告は 1968 件 接種者数でみると 1 万人に 1 人から 2 万 5 千人に 1 人の割合になる 同省によると 製薬会社のグラクソ スミスクライン製造のワクチンでは 医療機関から 1001 件 製造販売会社から 704 件 別の製薬会社 MSD 製造のワクチンは医療機関から 195 件 製造販売会社から 68 件の報告があった 接種者数に対する報告の割合は 0.004~0.014% これまで報告されていた割合と 違いはなかった 医療機関側が接種との関連があるとした例は 733 件だった http://apital.asahi.com/article/news/2013051600007.html
厚生労働省が子宮頸 ( けい ) がん予防ワクチン接種の積極的な勧奨を一時中止するよう 全国自治体に勧告した ---- 症例数は少ないものの接種後に激しい痛みを訴える事例が相次いでおり 同省の専門部会が 実態解明が進み適切な情報が提供できるまで積極的に勧めるべきではないと結論付けたのを受けた措置だ 同ワクチンは 小学 6 年生から高校 1 年生相当の女子を対象に 国がこの 4 月から全額公費で賄う定期接種に加えたばかり 予防効果に対する期待も大きいため 今回の対応でも定期接種からは外さないという 因果関係を否定できず治療法も未確立の重症例がある以上 不安に配慮し慎重に対応するのは当然といえよう ただ接種を中止もしないが 勧めもしないというのは分かりにくい ---- 厚労省は副作用の重症例発生頻度などを詳しく調べたうえで 勧奨再開の是非を判断するという 子宮頸がんは 性交渉によるヒトパピローマウイルス感染が主な原因とされ 20 ~30 代の若い患者が急増している 厚労省によると国内で年間 9 千人近くがこのがんにかかり 約 2700 人が亡くなっている ワクチンの副作用報告は 2009 年 12 月の国内販売開始から今年 3 月までで約 2 千件あり 約 100 件が重篤な症例だった 重篤な副作用の発生頻度はインフルエンザワクチンを上回るものの 特別に高いとは言えないという 一方で重い健康被害を受けた子どもの保護者らが 接種中止を求めている ---- 勧奨中止に伴い県保健衛生課には県民から問い合わせが寄せられている 3 回の接種のうち 1 回は済ませたが 2 回目はどうしたらいいか - との相談が多いという 医療的な対応は県が厚労省に照会中で 分かり次第周知する方針だ 東奥日報 (2013 年 6 月 19 日付 ) 社説より
子宮頸がんのリスクとは何か 1 子宮頸がんそのもののリスク ( 罹患率は低下傾向だが死亡者数は変化していない ) 2 ワクチン接種の副作用による事故リスク ( ただし死亡例はほとんどなし ) 3 ワクチン接種の副作用によるワクチン忌避感情の伝播による実質的ながん発症の増加の可能性 子宮頸がんをめぐる危機管理上の問題点は何か 1 早期発見につながる検診をどう向上させるか 2 政府と医療者との見解の不一致が引き起こすリスク認知上の影響 3 がん予防政策に対する信頼の失墜と国民の予防に対する消極的態度の醸成
風疹のリスクマネジメント 東京都感染症情報センター HP より
風疹は子供よりもむしろ 大人 がかかる病気! 東京都感染症情報センター HP より
東京都感染症情報センター HP より
風疹発症後の妊娠について 風疹ウイルスに感染しますと 一旦体の中で風疹ウイルスが増えます 増えたウイルスは血液を介して全身に広がり 2~3 週間の潜伏期を経て 発病します 発熱 発疹 リンパ節の腫れが主な症状ですが すべての症状がそろわないこともあります 症状が出ない場合もあり これを不顕性感染と呼びます そのため症状のみから風疹と診断することはとても難しい病気です 先天性風疹症候群は 妊娠初期の妊婦さんの血液中にある風疹ウイルスが胎内の赤ちゃんにも感染して起こる病気です 体の中に免疫がしっかりできあがっていれば 血液中で風疹ウイルスが増えることもありませんので 胎内の赤ちゃんに感染することもありません 風疹を発病して 治ってからの妊娠については心配は要らないことになります お母さんの体の中にできあがった免疫 ( 抗体 ) は 妊娠の後期に胎盤を通して胎児に移行します ( 移行抗体 ) そのため お母さんがしっかり抗体を持っていれば 出生直後の赤ちゃんもしっかり抗体を持って生まれてきます 出生後約 6 カ月程度は赤ちゃんも風疹に罹らずに予防できることになります
風疹に罹ったことがない人がワクチンを接種すると 妊娠中にしっかり免疫をもつので 妊婦さん自身の予防にも繋がり 胎内の赤ちゃんの予防にも繋がり 更には 生まれてしばらくの間 赤ちゃんにお母さんからの免疫が残ることから ワクチンを受けていない赤ちゃんであっても生後半年くらいはその病気から守られるということになります ワクチン接種後 2 カ月の避妊期間をお願いしているのは 風疹含有ワクチン ( 麻疹風疹混合ワクチンで受ける人が多いと思います ) は 生ワクチンの種類に分類されますので 接種後は一旦 体の中でワクチン用に弱められた風疹ウイルスが増えます その時に妊娠していると胎内の赤ちゃんに感染する可能性があるから 2 カ月間の避妊をお願いしています なお 妊娠していることに気づかずにワクチンを接種してしまった方から先天性風疹症候群の赤ちゃんが生まれたという報告はこれまでにありませんが 理論的なリスクを考えて 妊娠していない時にワクチンを接種した場合 その後 2 カ月間の避妊をお願いしています 国立感染症研究所感染症情報センター HP より抜粋
風疹の予防接種における医師のマニュアル 1 予診 ( 患者から予診票を受け取る ) * 問診等により 接種を受ける人の体調をチェック 予防接種不適当者 ( 予防接種実施規則第 6 条に規定 ) 1 明らかな発熱を呈している者 2 重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな者 3 当該疾病に係る予防接種の接種液の成分によって アナフィラキシーを呈したことが明らかな者 4 急性灰白髄炎 ( ポリオ ) 麻疹及び風疹に係る予防接種の対象者にあっては 妊娠していることが明らかな者 5 その他 予防接種を行うことが不適当な状態にある者接種要注意者 ( 予防接種実施要領に規定 ) 1 心臓血管系疾患 腎臓疾患 肝臓疾患 血液疾患及び発育障害等の基礎疾患を有することが明らかな者 2 前回の予防接種で 2 日以内に発熱のみられた者 又は全身性発疹などのアレルギーを疑う症状を呈したことがある者 3 過去にけいれんの既往のある者 4 過去に免疫不全の診断がなされている者 5 接種しようとする接種液の成分に対してアレルギーを呈するおそれのある者
2 接種不適当および接種要注意者の見極めと説明 * いくつかの基準を見落とさず 不適当となった場合はきちんと説明し同意を受ける 3 他のワクチンとの接種間隔の確認 * あらかじめ混合されていない 2 種以上のワクチンを接種する場合には 通常不活化ワクチン及びトキソイド接種の後は接種後 6 日以上あける これは 1 週間経てばワクチンによる反応がほとんどなくなるため また 生ワクチン接種の場合はウイルス同士の干渉を防止するため あるいは副反応が起こるかもしれない時期を外すため接種後 27 日以上あけて次のワクチンを接種する ただし あらかじめ混合されていない 2 種以上のワクチンについて 医師が必要と認めた場合には同時に接種を行うことができる 国立感染研究所感染症情報センター編 風疹予防接種に関するガイドライン より抜粋
風疹予防および予防接種における問題点は何か 1 医療者にとっても 風疹かどうかの同定が難しい 2 予防接種のリスクが 患者 ( 特に妊婦 ) が自分の症状を正しく申告できるかに大きく依存している 3 特に妊婦にとって 予防接種による胎児への影響の不確実性が大きく 安心して予防接種に踏みきれない 風疹予防に関する情報は市民に十分伝わりうるか 1 理論的リスクと実際のリスクとの違いが分かりにくい 2 リスクの発現対象が胎児や妊婦に集中しているという認識が強く 実際の疫学的情報が正しく認識されない 3 ワクチン接種状況が年齢によって異なることのイメージが持ちにくい 4 風疹の流行と妊婦の予防接種におけるリスクとが混同されて 問題を正しく認識しにくい ( 伝染病であるという事実と 予防接種のリスク )