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三菱日立パワーシステムズ特集技術論文 67 石炭焚きボイラ向け燃焼装置開発に寄与する精度燃焼シミュレーションの取り組み High-fidelity Combustion Simulation for Pulverized Coal Combustion Boilers *1 山本研二 *2 藤村皓太郎 Kenji Yamamoto Koutaro Fujimura *3 岡崎輝幸 *4 湯浅厚志 Teruyuki Okazaki Atsushi Yuasa *5 一ノ瀬利光 *6 松本啓吾 Toshimitsu Ichinose Keigo Matsumoto 石炭焚きボイラにおいて, 多種燃料に対応した低 NOx, 低未燃分燃焼方法を効率的に開発するためには, 微粉炭燃焼, ガス燃焼, ふく射伝熱等のマルチフィジックスをい精度で予測できるシミュレーション技術が必要である 三菱日立パワーシステムズ ( 株 )(MHPS) では, 小型の基礎燃焼実験から大型の燃焼試験までの計測結果を活用し, 実機性能との整合を取りつつ, モデル開発と検証を実施してきた 結果, 各種バーナの開発に燃焼シミュレーション技術の適用が可能になってきた 1. はじめに MHPS では, 石炭焚きボイラへの環境規制強化や燃料費低減のニーズに対応するため, 多種燃料に対応した低 NOx, 低未燃分燃焼方法を開発してきた 特に, 対向燃焼と旋回燃焼の両方式に対応した燃焼装置を有するため, お客様の様々なご要望に対応可能である これらの燃焼システムを効率的に開発するには, 事前の数値シミュレーションによる最適なバーナ形状 バーナ配置 ボイラ体格の選定が不可欠である このため,MHPS は統合前の両者 ( 三菱重工業 ( 株 ), ( 株 ) 日立製作所 ) 火力部門において,NOx 濃度や未燃分等のボイラ性能を精度に予測可能な燃焼シミュレーション技術をそれぞれ開発してきた 現在, これらの技術の融合により, 更なる製品の性能 信頼性向上に寄与する精度燃焼シミュレーションが可能になってきた 本稿では, 燃焼シミュレーション技術の概要とバーナへの適用事例について紹介する 2. シミュレーションの概要 2.1 シミュレーション技術の開発戦略さ数十 mの巨大な石炭焚きボイラ火炉内では, 石炭を粉砕した微粉炭 ( 平均粒径 40 ミクロン程度 ) を含むガスの複雑な流れ, 微粉炭の燃焼, 燃焼ガスから水管への輻射伝熱などの現象が同時に起こるため, マルチスケール マルチフィジックスな解析技術が必要となる 特に, 微粉炭の燃焼では, 昇温の過程での微粉炭からの水分蒸発, 揮発分からの可燃性ガス発生と燃焼, 固定炭素 ( チャー ) の燃焼というプロセスがあることや, 炭種ごとに組成が異なり燃え方が違うため, 解析で燃焼状態を予測するのは一般的に難しい そこで,MHPS 及び技術統括本部総合研究所 *1 三菱日立パワーシステムズ ( 株 ) 研究所火力システム研究部部長博士 ( 工学 ) *2 技術統括本部総合研究所燃焼研究部部長 *3 三菱日立パワーシステムズ ( 株 ) 研究所火力システム研究部グループ長博士 ( 工学 ) *4 技術統括本部総合研究所燃焼研究部主席研究員 *5 三菱日立パワーシステムズ ( 株 ) ボイラ技術本部ボイラ開発部部長博士 ( 工学 ) *6 技術統括本部総合研究所燃焼研究部

68 では多数の石炭の反応速度を, 図 1に示すボイラ火炉内部の温環境を模擬した二段電気炉 (DTF) (1) で計測し, 解析プログラムに組み込むことで精度な解析を実現している また, 図 2に示すような大型燃焼試験装置を用いて, 解析プログラムの精度を検証し, 信頼性を向上している 次節以降では, 微粉炭焚きボイラの性能予測に重要なチャー燃焼モデル,NOx 反応モデル, 気相反応モデルについて説明する 図 1 二段電気炉 (DTF) 図 2 大型燃焼試験装置の例 (2014 年運用開始 ) 2.2 チャー燃焼モデル微粉炭が加熱されると, 揮発分と呼ばれる可燃性ガスを放出する熱分解反応を生じる その後, 固体として残った成分であるチャーが周囲の酸素等のガスと反応する この反応のことをチャー燃焼と呼ぶ チャー燃焼の反応時間は秒のオーダであり, 熱分解反応の時間 50 ミリ秒程度に比べると長く, ボイラ火炉の後流での固体燃焼を支配しているのはチャー燃焼である ボイラでの未燃損失を減らして燃焼効率を向上するためには, このチャー燃焼を正確に予測しなければならない また, 使用される石炭性状にマッチした必要な反応時間が確保できるような, 最適なボイラ体格を設計することが重要である 図 3 褐炭の未燃分予測精度 燃料費削減のために亜瀝青炭や褐炭などの低品位炭燃焼へのニーズがまっており, 瀝青炭だけでなく幅広い炭種性状に対応したチャー燃焼モデルが必要となっている そこで, 多種燃料に対応して, 空気比, 温度, 粒子径, 滞留時間等のボイラ運転条件の変化を考慮したチャー燃焼モデルを開発している このモデルは, チャーと酸素との反応である酸化反応だけでなく, 二酸

69 化炭素や水蒸気との反応であるガス化反応を考慮すること, 含有水分の影響をモデル化することに特徴がある 本モデルを開発するために,DTF を用いて様々な燃焼条件で燃焼特性を計測し, 燃焼実験データベースを構築した 図 3に褐炭燃焼時の未燃分を予測した結果を示す 瀝青炭のモデルで褐炭の反応速度を予測すると, 未燃分が過小評価されるが, 燃焼データベースを元に反応速度を決めることで, 予測精度が向上した 2.3 NOx 反応モデル微粉炭焚きボイラでは, 低 NOx バーナや二段燃焼法を採用して NOx 排出量を低減している NOx を低減するには, 火炉のバーナ部から二段燃焼空気投入までの低酸素領域での,NOx の還元反応促進が重要となる 図 4に示すように,MHPS での基礎研究から,NOx 低減には炭化水素ラジカルによる NOx の還元反応が重要であることが分かっている 炭化水素ラジカルの濃度は, 石炭の種類により大きく変化するので,DTF による基礎試験を元にこれを予測するモデルを開発した 図 5に DTF 体系における NOx モデルの精度を示す 温度, 空気比, 石炭種, 石炭粒子径の異なる試験データで解析の精度がいことを確認した 開発した NOx モデルを使用し, 実機ボイラの NOx 低減方法の検討を行っている 図 4 NOx 反応モデル 図 5 NOx モデルの予測精度 2.4 気相反応モデル微粉炭から放出された可燃性ガスの反応は, 気相における反応現象として計算される MHPS では, 気相反応の二種類のモデルを, 以下のように使い分けている 主に定常状態の機器の設計や運用方針を決めるためには実績の多い渦消散モデルを, 非定常状態で着火や失火などの現象を検討するためには石炭フレームレットモデル (2) を採用している ここで石炭フレームレットモデルとは, 図 6に示すように, 複数の燃料成分 ( 揮発分 チャーなど ) から放出された可燃性ガスの放出割合に応じて決まる多様な燃焼状態を, 組成データベースを参照して計算するモデルである 本モデルを使用し, 褐炭や亜瀝青炭など水分含有率のい低品質炭について着火性の検討を行っている

70 図 6 石炭フレームレットモデルの概要 3. バーナ開発への適用事例 3.1 M-PM バーナ開発石炭はガスや油に比べて燃料中のN 分が多く NOx 発生量も多いことから 環境負荷の低い運用が求められる 低 NOx 燃焼により脱硝装置用のアンモニア消費量低減も可能となる MHPS では, 従来 A-PM バーナにおける NOx 発生箇所の特定のために燃焼シミュレーションを活用してきた (3) 今回さらに,M-PM バーナについてもシミュレーションを実施した 図 7にM-PMバーナの温度分布,O 2 分布,NOx 分布を示す 各分布の左側中央にバーナが設置されている NOx 発生の原因となる火炎外周の温かつ酸素となる領域が減少し, 火炎外周での NOx 発生量が低減した また, 火炎中央で発生した NOx が火炎内で迅速に還元されている 本結果から M-PM バーナの NOx 発生量低減に関する新コンセプトが実現されていることを確認できた このように, バーナ形状の選定の際には, 燃焼試験を行う前に燃焼解析を活用して開発期間の短縮を図っている 試験炉の NOx 解析精度は A-PM バーナ,M-PM バーナともに 15% 以内を達成している 図 7 M-PM バーナ解析結果 3.2 褐炭バーナ開発褐炭は埋蔵量が多く安価であることから, 近年, 全世界的に褐炭の利用が進められている しかしながら, 褐炭は水分含有率が多いため, 着火性が悪く, 安定に燃焼させることに課題がある そこで, 燃焼シミュレーションにより褐炭バーナの安定燃焼範囲を求めた 図 8に褐炭バーナの安定燃焼範囲を示す また同図中に, 安定燃焼と不安定燃焼状態に対する解析結果 ( 温度分布 ) と燃焼試験での火炎写真を示す バーナの負荷率が低い場合, 燃焼が不安定になるという試験結果を, 燃焼解析で再現することができた

71 安定燃焼 不安定燃焼 バーナ負荷 (%) 試験 解析 低低 低 温度 石炭中の水分含有率 (wt%) 図 8 褐炭バーナの安定燃焼範囲 4. まとめ 微粉炭焚きボイラの燃焼状態をい精度で予測する燃焼シミュレーション技術を開発し, 実験データと比較した 未燃分の予測精度は, チャーと二酸化炭素や水蒸気との反応であるガス化反応や含有水分による影響をモデル化することで向上した また,NOx 濃度は燃焼により発生する炭化水素による NOx 還元反応をモデル化することでい精度で予測可能となった さらに, 精度フレームレットガス燃焼モデルを微粉炭燃焼場用に拡張し, 従来の解析技術では難しかった燃焼不安定性も予測できることを示した 本シミュレーション技術を低 NOx M-PM バーナ及び水分褐炭用バーナ開発へ適用した事例について説明し, 燃焼性能改善の方法をシミュレーションにより予測することでバーナ開発を効率化できることを示した 今後, これまでの基礎試験や実機データの統合による膨大なデータベースの構築, 更なる燃焼基礎データの取得と 2014 年に運用を開始した大型燃焼試験装置による検証を実施するとともに, 統合前の両者でのシミュレーション技術の融合を進め, 更に度な技術に進化させる予定である 参考文献 (1) Taniguchi, M. et al., Staged Combustion Properties for Pulverized Coals at High Temperature, Combustion and Flame, Vol. 158, Issue 11(2011) p.2261-2271 (2) Watanabe, J. et al., Flamelet model for pulverized coal combustion, Proceedings of the Combustion Institute, Vol. 35, Issue 2 (2015) p.2315-2322 (3) 松本啓吾ほか, 超低 NOx 石炭焚き M-PM バーナの開発, 三菱重工技報,Vol.50 No.3 (2013) p.18-23