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補遺 4 医療機関と患者会 患者支援団体での調査結果の比較 問 1 がんと診断されたのはいつですか ( 年代別 ) 診断年齢 医療機関患者会実数 (%) 実数 (%) 1.20 代 81 (1.1%) 29 (4.8%) 2.30 代 334 (4.6%) 101 (16.8%) 3.40 代 98

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Transcription:

57 ICRP2007 年勧告について 放射線医学総合研究所放射線防護研究センター規制科学総合研究グループ米原英典 *. はじめに 2007 年 2 月に約 8 年間の検討の末にようやく ICRP 新勧告がPublication 03として発行された 現在わが国を含め世界の多くの国の放射線防護に関する法令は ICRPの990 年勧告 (Publication60) に適合しているが 今回の改定で放射線防護がどのように変わるか また法令にどのように影響するかを検討しておくことは重要である 勧告の改定作業は RHクラークICRP 前委員長が 2000 年頃に着手した 当初から検討の内容の公開性を高めるために ステークホルダーの意見を聞くための会合が日本を含めていろんな国で開催され Web 上で意見募集が3 回行われるなど幅広い関係者の意見を取り入れた内容となっている また これまで各国で取り入れられた990 年勧告の内容との整合性についても十分配慮されている 検討の期間が長くなり 途中で委員長も交代して LE ホルム博士 ( スウェーデン放射線防護研究所所長 ) の元で発行されることになった 本稿では 新勧告の内容について 990 年勧告からの変更点を中心に解説する 2. 新勧告の改定の要点と基本的な考え方今回の勧告の改定のねらいは 以下の点にあるとしている 最新の科学的知見を考慮し 防護基準と設定の傾向を考慮すること 表現のしかたを改良し 合理化すること 新しい科学的知見との整合性と同様に安定性を維持することを目指すまた 勧告の特徴について以下のように説明している 最新の科学的情報に基づいて 等価線量と実効線量の放射線荷重係数および組織荷重係数を更新するとともに 放射線による損害を更新する 放射線防護の原則( 正当化 最適化 線量限度 ) の適用を維持する 今回の勧告で 行為と介入のようなプロセス重視の防護手法から 計画 緊急時 および現存の被ばく状況のような防護基本原則を適用する状況を重視した手法へ移行する 計画被ばく状況で 全ての規制下にある線源がもたらす個人線量限度を維持するこれらの限度は 任意の計画被ばく状況で規制当局により承認されている最大線量を示すものである 防護の最適化の原則を再度強調する 最適化に関連して 計画被ばく状況においては線量拘束値とリスク拘束値を また緊急および現存の被ばく状況においては参考レベルを適用する 環境の放射線防護を実証するための枠組を開発する手法を含める これまで論争があった低線量における発がんにおける直線しきい値なし (LNT) 仮説については 放射線防護の実際的システムにおいて およそ * 2638555 千葉市稲毛区穴川 49

58 00mSv 以下の低線量域で 線量増加分と発がんや遺伝的影響の放射線起因性増加分が比例する という仮定に基づくことを継続すると表明した この考えはUNSCEAR(2000) や米国科学アカデミー 米国研究審議会 (2006) の見方と一致するが フランス科学アカデミーは放射線誘発癌リスクに実質的いき値があるとの議論を支持している点とくいちがっている 線量 線量率効果 (DDREF) の判断した値と合わせてLNT 仮説を採用することは 低線量の放射線被ばくリスクの管理に対して慎重な基盤を提供するとしている 実効線量と集団線量の適用については 実効線量は主に将来の計画に用い 遡及的な線量評価や疫学には用いない 低線量における疫学調査には 適用するものではないとし 集団線量も 最適化のために用い 疫学的なリスク評価や集団のリスク予想に用いないものとしている 環境の防護については 今回の改訂の重要なポイントであったにもかかわらず 実際に 放射線の環境への影響が問題となっているわけではないこと示した上で 環境が防護されていることを示す枠組みの必要性を勧告しただけで 具体的な防護基準は示していない 3. 実効線量に関する荷重係数における変更線量の定義については変更がないが 実効線量における放射線荷重係数 (w R ) 組織荷重係数(w T ) について 表 表 2のように若干変更された 表 放射線荷重係数の変更 光子 2007 年勧告 990 年勧告 電子 μ 粒子 陽子 荷電パイ中間子 (2007) 陽子 ( エネルギー >2MeV)(990) α 粒子 核分裂断片 重原子核 中性子 2 20 2.5~20 エネルギーの連続関数で設定 5 20 5~20 エネルギー領域ごとに段階で設定 中性子の放射線荷重係数の変更で 低エネルギーと高エネルギーの部分で 係数が半分程度に下がったが これは生物学的な影響の知見からではなく 線量評価の観点から見直された 実際に測定に用いられる実用量は 従来の定義での線量当量を用いるので その線質係数 (Q(L)) には変更がないので 測定値による管理における変更はない 組織荷重係数の変更に伴い 局部的な外部被ばくや内部被ばくの線量評価において多少変更になるが 大きな変化はないと考えられる これらの 荷重係数は確率的影響の知見から決定されている 990 年勧告でも問題となっていたように高 LET 放射線が引き起こす確定的影響 ( 新勧告では組織反応とも呼ばれている ) に関する生物効果比 (RBE) の数値は 低線量における確率的影響に関して求められた値よりも低いことが明らかになっている 高 LET 放射線が引き起こす確定的影響を評価する目的では 等価線量ではなく線量を適切なRBE で荷重した吸収線量を使用すべきであるとしている 2

59 表 2 組織荷重係数の変更 2007 年勧告 990 年勧告 生殖腺 0.08 生殖腺 0.2 骨髄 結腸 肺 胃 乳房 0.2 膀胱 肝臓 食道 甲状腺 0.04 骨表面 脳 唾液腺 皮膚 0.0 残りの組織 0.2 骨髄 結腸 肺 胃 0.2 膀胱 乳房 肝臓 食道 甲状腺 0.05 皮膚 骨表面 0.0 残りの組織 0.05 * 残りの組織 : 副腎 胸腔外 (ET) 領域 胆嚢 心臓 腎臓 リンパ節 筋肉 口腔粘膜 膵臓 前立腺 ( ) 小腸 脾臓 胸腺 子宮 / 頸部 ( ) 残りの組織 臓器 : 副腎 脳 大腸上部 小腸 腎臓 筋肉 膵臓 脾臓 胸腺 子宮 4. 放射線防護体系に関する改定 990 年勧告では 正当化 最適化 個人の線量限度 の放射線防護体系の3 原則について 行為 と 介入 という区分に分けて説明していた 人が何らかの活動をする場合 被ばく線量が増大することや被ばくする人数が増えるときにその活動を 行為 と定義した ある 行為 を導入する場合は 正当化 最適化 個人の線量限度の3 原則が適用され 様々な管理の要件が規定され 厳格な管理が要求される 一方すでに線源や被ばくの経路が存在していて それらがある規準を超えるような被ばくである場合に 介入 により救済措置をとることになるが その 介入 の場合は 公衆の線量限度である年間 msvと比べてかなり高い年間 0mSvから00mSvの間の値で対策レベルを設定し それよりも低い場合は 介入により線量低減措置を講じることが正当化されないとされている 990 年勧告における このような 行為 と 介入 について 線量規準が異なることが一般の人に理解されにくいという問題をなくすために 2007 年勧告では 被ばくの状況について これまでの 行為 に関連する被ばく状況を計画被ばくの状況とし 介入 の対象となる被ばく状況を緊急時被ばくと現存被ばく状況とい う 2つの被ばく状況に分類した 正当化は放射線防護体系において最優先され 勧告は正当化された活動に適用される しかし 従来の勧告では 誰がどのように正当化を判断するかについて明確に示されていなかった 新勧告でもどのように判断するかについて具体的な方法については明解に示されていないが 正当性を判断する責任は 最も広義の意味で社会の総合的利益を保証するため 政府または当局に委ねられ したがって必ずしも個人に委ねるものではないとされている 最適化は 常に継続的かつ反復的な過程を通じて一般的な状況下で 最高水準の防護を達成することを目標としており 次のプロセスを含むとしている 何らかの潜在被ばくを含む被ばく状況の推定 ( プロセスの枠組み作り ) 拘束値または参考レベルについて適正な値を選定する 考えられる複数の防護選択肢を特定する 一般的な状況における最善の選択肢を選定する 選定した選択肢を実行する従来から防護の最適化とは線量を最小化するこ 3

60 とではなく 被ばくがもたらす損害と個人の防護のために利用可能な資源との釣り合いを慎重に取るような評価の成果であるとしている また最適化の全側面を規則として条文化することは不可能であるとし 全関係者による最適化プロセスへの参画が必要であるとしている そのために規制当局と事業管理者の間に開かれた対話の関係を築くべきであり この意思決定プロセスには 放射線防護の専門家だけでなく しばしば該当するステークホルダーの参加を含む場合があろうと述べている 5. 線量制限のレベル新勧告では 最適化のツールとして 線量拘束値の位置づけを重視した 線量拘束値は 線源関連の線量制限のためのレベルであり 線量限度は個人関連の制限値である 従来と同様に線量限度は 計画被ばく状況における職業被ばくと公衆被ばくにのみ適用する 線量拘束値のレベルは 最適化の過程を開始する値として設定するとしている 計画被ばくの場合は 線量限度の値より低いレベルに設定する それぞれの状況と区分において 線量限度 線量拘束値 参考レベルを表 3のように適用する 計画被ばくの線量制限には 線量拘束値を 緊急時と現存被ばく状況には これまでの対策レベルに代えて 参考レベルを用いることにした 線量拘束値と 参考レベルは 表 4のように同じ表で設定の範囲を被ばくの特徴に応じて幅 (Band) で示した 線量拘束値の適用については 以下のような説明をしている 線量拘束値 参考レベルはALARAを確実にするための最適化と関連して用いる 拘束値はそれを超えると防護が最適化されておらず ほとんど常に線量低減するための対策がとらなければならないレベルと定義される 国や現場におけるレベルを 規制者かもしくは事業者 ( 操業者 ) が設定する 公衆被ばくに関しては 一般に各線源が多くの個人への線量分布を引き起こすものであるため より高い線量に被ばくする個人を表す概念としてこれまで用いられてきた決定グループの概念に代えて 新勧告では線量の確率的分布を考慮した代表的個人という概念を用いることにした 参考レベルは 990 年勧告までの対策レベルに相当するが 対策レベルでは それを超えるレベルでは 救済対策をとることにより 対策レベルまで低減し そのレベルになれば それ以降の最適化は必要ないとされていた しかし新勧告での参考レベルは それ以下のレベルでも可能であれば最適化を実施することとしている点で 対策レベルと異なる 表 3 被ばく状況と被ばく区分に関連した防護体系に用いられる線量制限 区分状況 職業被ばく 公衆被ばく 医療被ばく 計画被ばく 線量限度線量拘束値 線量限度線量拘束値 診断参考レベル ( 線量拘束値 * ) 緊急時被ばく 参考レベル 参考レベル 適用しない 現存被ばく 適用しない ** 参考レベル 適用しない * ** 慰撫者 介護者 研究の被験者のボランティアの場合のみ 長期的な改善作業 または影響を受けた区域内での長期的な雇用の結果生じる被ばくは 放射線源 が 現存 であっても計画された職業被ばくの一部として扱うべきである 4

6 表 4 線源関連の線量拘束値と参考レベルの枠組み 拘束値と参考レベルの範囲 a (msv) 20より高く b,c 00 以下 より高く 20 以下 被ばく状況の特徴放射線防護要件例 個人が 制御不能な線源により被ばくするか または線量を低減するための対策がまったく釣合わないような状況における被ばく 通常 被ばく経路に対する対策によって被ばくを制御する 個人は 通常 被ばく状況から直接的な便益を得るが それが必ずしも被ばく自体からとは限らない 被ばくは線源で制御可能であるか あるいは被ばく経路における対策によって制御可能となる場合がある 線量の低減を考慮すべきである 線量が 00mSv に近づいた場合は線量を低減するためになお一層努力すべきである 個人に放射線リスクと線量低減措置に関する情報を提供すべきである 個人線量評価を実施すべきである 可能であれば 個人が自らの線量を低減するために一般情報を利用できる状態にすべきである 計画された状況の場合 個人のモニタリングや訓練を実施すべきである 参考レベルは放射線緊急事態に起因する最高の計画残留線量に対して設定する 拘束値を計画被ばく状況における職業被ばくの値に設定する 拘束値を放射性医薬品を扱う患者の慰撫者および介護者に対して設定する 以下個人には直接的な便益をもたらさないが 社会全体に便益をもたらすような線源により個人が被ばくするような状況 被ばくは通常 放射線防護要件が事前に計画可能な線源に対して直接実施する対策によって制御される 被ばくレベルに関する一般情報を利用できる状態にすべきである 被ばくレベルについては 被ばく経路を定期的にチェックすべきである 参考レベルを住居内のラドンに起因する最も高い計画残留線量に対して設定する 拘束値は 計画被ばく状況における公衆被ばくの値に設定する a 急性線量または年間線量 b 例外的な状況では 救命のため または重篤な放射線誘発健康影響を防止するため あるいは災害条件の進展を防止するため 情報を提供された自発的作業者がこの範囲以上の線量を受ける可能性がある c 該当する臓器または組織内の確定的影響に関する線量しきい値以上になる状況では 常に措置が必要である 5

62 Number of individuals Step Step 2 Step 3 参考レベル Dose constraint Individual dose level 図 現存被ばく状況に参考レベルを適用し 最適化を実施した場合の個人被ばく線量の線量分布の時間的変化 (ICRP2007 年勧告ドラフト版より転写 ) 図 に示すように すでに集団の中にはすでに参考レベルを超えている個人も存在することがある 個人の被ばく線量の分布がはじめ参考レベルを超えている場合は このレベルの設定により時間の経過とともに最適化が進み 被ばく線量のほとんどがこのレベルと下回るようになるように最適化を進める 患者における医療被ばくは計画被ばくでありながら特別なケースとして取り扱われている 患者に関わる線量拘束値は 職業被ばくおよび公衆被ばくにおける場合と異なり 線量限度の適用がない しかし 患者の被ばく最適化の目的で管理する必要があり Publication 73(ICRP 996) で診断参考レベルを用いることを勧告し 補足ガイダンス2(ICRP 200) に更なるガイダンスを提示している 診断参考レベルは 線量限度や線量拘束値とは関係なく助言的なもので もしこのレベ ルをこえるような場合は 防護が十分に最適化されているかを検討すべきであるとしている 患者個人への線量限度は 990 年勧告と同様に適用されない 重点は治療処置の正当化と防護の最適化に置かれることになる 患者以外の医療被ばくの線量拘束値については 990 年勧告と同じ値を示している 990 年勧告では 生物医学研究のボランティアについては 社会にもたらす便益の大きさに応じて 0.mSv 未満 から 0mSv 以上まで 患者の慰撫者や介護者については 回の症状あたり5mSvであった 線量限度に関しては 現行の990 年勧告とほとんど変わらないが 妊娠した女性の被ばくに関する限度は 胎児の線量だけを規定している点が変更点である 表 5に 990 年勧告と我が国の現行法令との比較を示す 6

63 表 5 勧告される線量限度と現行法令との比較 限度のタイプ 職業被ばく 公衆被ばく 990 年勧告 現行法令 ( 障害防止法 ) 線量 20mSv/ 年決められた5 年間にわたる平均 ( いかなる 年においても50mSv を超えない ) 年間 msv/ 年例外的に5 年間の平均が年あたり msvを超えない 新勧告案と同じ 職業被ばく : 新勧告に同じ公衆被ばく : 線量限度の規定はない ( 事業所境界の線量 排気排水の基準は msv/ 年 ) 年間等価線量 目水晶体皮膚手足女子 ( 胎児 ) 50mSv 500mSv 500mSv 妊娠の申告後残りの妊娠期間の胎児に対する等価線量が msv を越えないようにする 5mSv 50mSv 新勧告案と同じ 妊娠の申告後出産まで 腹部表面 2mSv 内部被ばく msv 作業者 50mSv 500mSv 公衆 一般の限度に加えて 5 msv/3 月 妊娠の事実を知った後出産まで 腹部 2mSv 内部被ばく msv ラドン222の影響について 国の規制当局は 防護の最適化を助けるために 国の参考レベルを設定する必要がある 参考レベルは国の経済的 社会情勢により設定するが 上限値について表 6 に示した値を勧告した ラドン被ばくを含めて 現存被ばくの対象に関しては 我が国の法例の適用範囲から外されている 特にラドン被ばくは今後 WHOなどからも指針が出ることが予定されていることから 我が国においても重要課題となる 表 6 ラドン222の参考レベル 状況 参考レベルの上限値 ( 空気中濃度 ) 住居内 600Bqm 3 職場内 500Bqm 3 6. おわりに ICRP2007 年勧告の改定について述べたが ICRP 新勧告の取り入れについては 大幅な法令の改正の必要性は少ないと言える ただし 新勧告との整合性をとるためには 990 年勧告で示された事項で これまでに法体系に取り入れていない事項 の再検討を含めて検討を進める必要がある また 2007 年勧告で示された防護方策の履行に関しては 正当化 最適化の履行や線量拘束値や参考レベルの設定など事業者や作業者が自主的に行う部分も多く含まれているので 勧告の内容を作業者や一般国民により広く理解してもらうために教育訓練や啓蒙活動も重要であると考えられる 7