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Transcription:

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CD はキャパシティを構築 強化維持する継続的なプロセスである点が相違点である アマルティア センのケイパビリティ アプローチと CD の違いは 結果の捉え方である CD は個人 組織 そして制度や社会といった複数の層からキャパシティを捉えて 最終的には援助受け入れ国の能力の持続可能性を引き出すことを目的としている 一方 ケイパビリティ アプローチは複数の層に対して支援をすることは CD と同様であるが その効果を個々人の実質的な生活の質で捉えている点が異なる点である 次に エンパワーメントと CD は非常に類似した概念であるが 支援対象が大きく異なる点である エンパワーメントの対象者は その国や地域 組織の中における対 人間 で 特に社会的弱者を対象としている それに対して CD は人間個人を対象とするのではなく 個人 組織 社会を包括的に捉えて支援の対象としている 上記の 3 つのアプローチ以外にも ソーシャル キャピタルや CDF とも比較を行っている それらの比較の結果 CD と他のアプローチには相違点があるものの 多くの類似点がある 視点の組み合わせが CD とは異なるため新しい概念であると言えるが どの視点も特段に新しいものではない CD は特別な手法というよりは 包括的に捉える目標に向かって これまで行われてきたアプローチや手法を用いて実施している手法である これまでの代表的な手法の代替ではなく 捉える視点が異なる 個人 組織 社会を包括的に捉えて支援をし 評価をする CD の手法は 具体的な取り組み方法は従来の手法と同様であるが 捉え方が新しいと言えよう 以上のように CD の新しさを見出した 次に CD の有効性を計るために 障害者 特に障害女性の歴史変遷を辿る (3) 国際社会の障害者施策障害女性の歴史変遷を辿るには 障害者及び障害分野の歴史変遷を辿る必要がある 本論文では 国際社会 アジア太平洋地域 日本の三つに分類して概説する まず国際社会に関しては 国連や国連機関が中心となって障害分野に取り組むことは 地域間や各国の取り組みに大きな影響を及ぼすため非常に重要である 国連が初めて障害者に対する取り組みを始めた 1971 年の 知的障害者の権利宣言 から 2006 年に採択された 障害者権利条約 までのすべての取り組みが アジア太平洋地域や各国政府に影響を及ぼしている 特に障害者権利条約の採択は 近年最も重要な事柄である その条約の中に 障害女性が条文の一つとして設けられたことは障害女性の問題が重要であることが示されている証拠であり 今後の国際社会の障害女性への取り組みが期待できよう アジア太平洋地域では 1992 年に終了した 国連 障害者の十年 以降 国連 ESCAP によって アジア太平洋障害者の十年 が採択され 行動計画等が作成された アジア太平洋地域は世界の他地域と比較して 障害分野への取り組みが早かったため 他地域と比較して地域内各国の法制度等の整備が進みつつあり モデルともなっている 現在 2003 年からの第 2 次アジア太平洋障害者の十年の最中であるが 2012 年に最終年を迎 2

えるため 2013 年以降の新たな十年の発足に向けて ESCAP と障害当事者団体が協力し合っている 続いて日本の障害分野の施策は 国連を始めとする国際社会やアジア太平洋地域の取り組みに影響を受けて 新たな法制度が構築されることが多い 政府は障害分野への取組みの表明は国際社会でしているものの 実際の法制度が整っているとは言い難い しかし 2009 年の政権交代後 内閣府に障がい者制度改革推進本部が設置され 障害当事者が中心となって障がい者制度改革推進会議が設置された 本会議は委員の半数以上が障害当事者で構成されており 非常に画期的である 経済的に発展している国として またロールモデルとなる障害当事者が多く存在する国として どのような施策が取られ どのような課題が残っているのかを考察する またそれぞれの障害分野の施策の中で 障害女性についての具体的な方策が取られ始めている しかし 障害女性の不可視化されている状況 無性の存在として扱われる状況 そして一方で性的暴力の対象となってしまっている状況は未だ変わりがないため 引き続きより障害女性への配慮を行う必要がある (4) 開発協力における障害分野支援障害分野の中でも開発協力に焦点を当てる それは障害者権利条約第 32 条で 国際協力 が掲げられ 国際協力での障害分野への配慮の必要性が示されたからである また途上国は経済基盤が不安定なため 障害者への保障等は皆無に等しい状況であり 開発協力での障害分野支援が重要な役割を果たしている 障害女性への支援に焦点を当ててみると アメリカ国際開発省 ( 以下 USAID) が非常に充実した支援を実施している USAID は Mobility International USA(MIUSA) という障害当事者団体と契約を結び 障害分野の支援を委託している つまり USAID の障害分野支援は 障害者が主体となって実施されている 障害者に対する支援 そして USAID 職員への職員研修用のマニュアルも MIUSA へ委託している 日本の政府開発援助 ( 以下 ODA) 実施機関である国際協力機構 ( 以下 JICA) では 2003 年以降障害分野への取り組みが強化され始めている JICA では 障害者支援の目標達成のために 障害者のエンパワーメント と 障害者のメインストリーミング という 2 本の柱を立て 支援を実施している 2003 年以前は医療リハビリテーションの専門家が主体となる支援がほとんどであったが 2002 年から始まったアジア太平洋障害者センター ( 以下 APCD) プロジェクト以降 障害当事者が主体となる支援が増加している なお APCD プロジェクトは障害分野の支援の中でも非常に評価が高く また CD の取り組みに対しても評価が高いプロジェクトである その APCD において 2009 年に初めてジェンダー研修が行われた その研修を事例研究として用い APCD の独自性であるネットワーク型支援 フォローアップ体制 そして障害者主体で事業を実施する重要性を見出した 特に障害女性の抱える問題は 当事者でないと把握しづらい繊細な問題 3

であるため 障害女性が研修を計画立案の段階から関わる必要がある 開発協力において障害女性にエンパワーすることを目的として支援を行うにあたり APCD の試みから得られた教訓をもとに CD の視点から以下の 3 点が今後の障害女性への支援に重要であることがわかる 第 1 に 裨益対象の役割として オーナーシップを確保するという CD の要素から見ると 支援の案件形成段階から実行 評価という全ての段階において障害者が主体的に参画とすることが必要である APCD プロジェクトは障害者に対する支援を障害者が主体となって実施することにより 当事者だからこそわかる問題を見出し より効果的に障害者の抱えている問題を解決する方策を見出している これは CD の特徴である内発性にも当てはまる 障害女性の抱える問題についても 障害女性が主体となって参画することによって 支援の必要性のより高い状況を見出すことが可能になるだろう 第 2 に CD の支援対象を包括的に捉えるという要素から見ると 障害当事者のみならず障害当事者の家族や近隣の人々や地域社会 そして社会の差別構造を同時に変革させる支援を行なう必要がある 障害女性の支援も 障害女性の抱える問題を認識して障害女性個人をエンパワーすることのみならず 彼女らを取り巻く環境の変革を同時に支援していく必要があると考える また 社会の重層構造を変革していくためにも障害者を取り巻く狭い環境から国レベルの広い環境まで包括的な変化を支援が求められる 第 3 に 支援は長期的視野から行なうという要素から見ると 2 週間程度の研修では個人の効果も乏しく限定され 帰国後の波及効果は見込まれない そのため研修終了後のフォローアップが非常に重要な役割を果たすことがわかる 上記のような支援を行なっていく中で 女性 であることを 障害者が抱える一つの特殊性として捉えることが必要となる 障害には身体 知的 精神など様々な特殊性がある また 障害者自身も民族や社会的な地位により置かれている状況は一様ではない 障害女性の抱える問題は 一つの特殊性の問題として捉えることが必要である したがって 障害 ( 者 ) を一括りにして捉えるのではなく 障害者が抱える特殊性に起因するニーズに合わせて支援の内容や対象者 方法を考えていく必要がある 障害女性に参加促進をするといった配慮もその一環で考えていくべきである (5) 援助効果向上のための CD の有効性障害女性をエンパワーするという視点から CD 導入が効果的であるかどうかを検討してきた結果 日本の ODA や日本の社会構造の変革が必要であることが明確となった CD 概念を援助の枠組みに入れる場合 それは自然と ODA に対して変化を求めているといえる その第一は 要請主義といった理念や協力期間など既存の ODA 概念を変化させる必要がある 更に CD を新に理解し その手法を用いて援助をする援助機関の職員育成は重要な項目といえよう しかし CD で重要とされているオーナーシップはすでに日本の援助の中には存在している 途上国側がインセンティブを持つような支援をすることや 知識をつけることは これまで日本の ODA 政策の中で敢えて文章化 4

されてこなかったが これまでの援助の中で当然に行われてきたことである もちろん 途上国の主体を包括的に捉えることや ドナーがファシリテーターとしての役割を担うことなどは 日本の援助にとっても新しい概念であるが 他のドナー国や国際機関が CD という概念を大きく取り上げるように 日本が CD を援助方法の中に取り上げる必要はなかったとも言えるが 日本は 1 支援方法の改革 2 横のつながりの強化 3ドナー機関の意識改革 という 3 点を実施することにより CD が援助効果の向上に有効である可能性が高くなるといえよう 5