アラブ首長国連邦 (UAE) の労働法 - 雇用契約の法的強制力 ほか 2012 年 6 月 独立行政法人日本貿易振興機構 ( ジェトロ )
本報告書の利用についての注意 免責事項 本報告書は 日本貿易振興機構 ( ジェトロ ) ドバイ事務所がリテイン契約に基づき現地法律コンサルティング事務所 Herbert Smith Freehills LLP Dubai より提供を受けた 中東エクスチェンジ ニュースレター 2012 年 7 月号 に基づくものであり その後の法律改正等によって変わる場合があります 掲載した情報 コメントは筆者およびジェトロの判断によるものですが 一般的な情報 解釈がこのとおりであることを保証するものではありません また 本稿はあくまでも参考情報の提供を目的としており 法的助言を構成するものではなく 法的助言として依拠すべきものではありません 本稿にてご提供する情報に基づいて行為をされる場合には 必ず個別の事案に沿った具体的な法的助言を別途お求めください ジェトロおよび Herbert Smith Freehills LLP Dubai は 本報告書の記載内容に関して生じた直接的 間接的 派生的 特別の 付随的 あるいは懲罰的損害および利益の喪失については それが契約 不法行為 無過失責任 あるいはその他の原因に基づき生じたか否かにかかわらず 一切の責任を負いません これは たとえジェトロおよび Herbert Smith Freehills LLP Dubai がかかる損害の可能性を知らされていても同様とします 本報告書にかかる問い合わせ先 : 本報告書作成委託先 : 独立行政法人日本貿易振興機構 ( ジェトロ ) Herbert Smith LLP Dubai 進出企業支援 知的財産部進出企業支援課 Dubai International Financial Centre 107 6006 Gate Village 7, Level 4 東京都港区赤坂 1-12-32 P.O. Box 506631 Tel:03-3582-5017 Dubai, UAE Tel: +971-4-428-6300 Fax: +971-4-365-3171
アラブ首長国連邦 (UAE) の労働法 - 雇用契約の法的強制力 最近 雇用契約の法的強制力に関連して UAE の労働法に大きな影響を及ぼす出来事が二つあった より有利な内容のみ - ドバイ破毀院 (Court of Cassation) は 雇用主が 雇用契約に基づいて 雇用者に対し UAE 連邦労働法に定められたもの を上回る利益を提供することは適法であり その場合 このより有利な契 約の条項が優先する との判決を下した これは 以下に引用する UAE 連邦労働法第 7 条の規定に則っている 本法の規定に反する条件はすべて 雇用者により多くの利益を供与するものでない限り 無効とする 裏を返すと 雇用主が 雇用契約に労働法に定められた条件よりも不利な内容を定めた場合 当該契約は UAE の裁判所において法的強制力を持たない ということにもなる ( さらに 当該契約を労働省に届け出ることもできない - 以下参照 ) ドバイ破毀院で争われた裁判では 雇用主と雇用者が UAE 労働法に定められている 30 日間の解雇予告期間ではなく 3 カ月間の解雇予告期間について合意していた 雇用主は 当該雇用者の雇用契約を解除するにあたって 労働法の規定を根拠に解雇予告期間を 30 日間に限ることは適法である と主張したところ ドバイ破毀院は これを雇用主による契約上の解雇予告期間の違反であるとした上で 雇用者に対するしかるべき賠償を認めた 付帯的合意の禁止 - 労働省の高官より 労働紛争において審理対象となる 雇用契約は労働省に届け出られた雇用契約のみである との発言があった と伝えられている つまり 雇用主と雇用者との間にある 雇用に関する いかなる付帯的合意や 社内 契約もその条件が一切考慮されない とい うことになる この原則は今後 労働省において紛争が解決されないまま それが最終的に UAE 裁判所に持ち込まれた場合にも UAE で認められ るのは労働省に提出されている雇用契約のみであるということを理由に 引き続き尊重される可能性がある ただし 現時点ではこの点についての 判例を確認できていない 労働省は一般的に 自ら作成している標準書式による契約が届け出られることを想定しているため 実務においては 労働省の標準書式契約と大きく異なる契約を届け出ることは難しいかもしれない なお 標準書式契約において追加の雇用条件を記載するための欄は限られているが 内容が 1
合理的でかつ労働法に順じたものである限り 労働省が補足条件を記載した別用紙の添付を認める可能性はある 雇用契約の様式に関するこれらの進展を踏まえて 今後実務において留意するべきであろうと思われる点を以下にまとめた 雇用者から見て UAE 労働法に定められた条件よりも不利な ( すなわち その点において労働法に反する ) 雇用条件は 契約に定められた準拠法お よび裁判管轄にかかわらず いずれの当事者も UAE において強制執行す ることができない 両当事者が 雇用者から見て労働法に定められた条件よりも多くの利益を 提供する および / または労働法を補足する雇用条件について合意しよう とする場合には 当該条件を労働省に提出する契約に盛り込む必要がある UAE の裁判所が管轄権を有する地域でこのような条項を法的強制力を持 たせるには これが唯一の方法である 例えば 雇用主は 制限的約款に ついては届出対象となる契約に盛り込み これにより当該条項が UAE の 国内行為に適用されることを確保したい と考えるかもしれない 各当事者が互いに法的強制力を有する より細かい規定を望む場合 両当 事者は その内容を外国法に準拠するおよび / または仲裁に関する合意が ある補足契約に盛り込むことを検討すべきである ただし この方法を選 んだ場合には その他の法律上および税務上の問題が ( とりわけ 該当す る外国の法域において ) 生じる可能性があるので 契約の具体的な内容や 条件については十分な検討が必要である サウジアラビアの新仲裁法の公布 サウジアラビアの新しい仲裁法が 6 月 8 日付で官報に掲載されており 30 日後に施行されることとなっている 新法の内容については 近日中に別の電子速報でご紹介する予定 ドバイ調停センターによる紛争処理の開始 2009 年 10 月の電子速報 ( 英文のみ ) にてお伝えしたとおり ドバイ政府は最近 ドバイの裁判所において訴訟手続きを開始する前に 調停による紛争解決を当事者に勧奨する という取り組みを行っている ドバイ裁判所は この度 ドバイ経済開発庁 (Dubai Department of Economic Development) の協力を得て この取り組みを実現するための新施設を Business Village に開設した 2
友好的紛争解決センター (Amicable Settlement of Disputes Centre) に関する 2009 年法第 16 号は 紛争をまず同センターに付託し そこでドバイ裁判所長官 (Chief of Dubai Courts) により和解命令 (settlement order) が発出されていない限り ( 裁判管轄権を有する ) ドバイの裁判所による審理を禁止する旨を定めている その後 裁判所長官は 同センターの管轄権が以下に該当する場合に限られる旨を明確にした決定を発表した 紛争の目的の価格が 2 万 UAE ディルハム以下である紛争 共有財産の分割をめぐる紛争 両当事者間で同センターへの付託を明示的に合意している紛争 上記に該当する紛争は ドバイ裁判所への申立て前に自動的に同センターに付託される ただし 以下の場合は除く 緊急性を要する紛争 一方当事者が政府である紛争 ドバイ裁判所の裁判管轄権が及ばない紛争 ( 紛争を仲裁に付託する合意が 当事者間で有効になされている場合を含む ) 労働法および家族法関連の紛争 同センターが完全に機能するようになった今 ドバイ裁判所を管轄裁判所とすることについて合意する民間当事者らは 紛争の潜在的規模にかかわらず 同センターでの調停を紛争解決条項に組み込むことを検討すべきであろう 調停を利用すれば 独立した第三者の支援の下 当事者間で協議を行う体制が整うため コスト効果の高い効率の良い方法での紛争の解決に期待することができる ( 報告書作成委託先現地法律コンサルティング事務所 :Herbert Smith Freehills LLP Dubai) 3