プレスリリース原稿案_final

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安静状態の脳活動パターンが自閉症スペクトラム傾向に関与している

いて認知 社会機能障害は日々の生活に大きな支障をきたしますが その病態は未だに明らかになっていません 近年の統合失調症の脳構造に関する研究では 健常者との比較で 前頭前野 ( 注 4) などの前頭葉や側頭葉を中心とした大脳皮質の体積減少 海馬 扁桃体 視床 側坐核などの大脳皮質下領域の体積減少が報告

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研究の背景社会生活を送る上では 衝動的な行動や不必要な行動を抑制できることがとても重要です ところが注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などの精神 神経疾患をもつ患者さんの多くでは この行動抑制の能力が低下しています これまでの先行研究により 行動抑制では 脳の中の前頭前野や大脳基底核と呼ばれる領域が

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

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神経発達障害診療ノート

疫学研究の病院HPによる情報公開 様式の作成について

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的な記憶を使って素早く学習しますが 練習時間が長くなると長期的な記憶を使い 長く記憶を残せるようになります 例えば いちど練習してできるようになった運動のやり方を忘れてしまっても 2 回目に練習するときは 1 回目より早くできるようになります これは 短期の記憶が失われても 長期の記憶が残っているか

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

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博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

4. 発表内容 : 1 研究の背景 先行研究における問題点 正常な脳では 神経細胞が適切な相手と適切な数と強さの結合 ( シナプス ) を作り 機能的な神経回路が作られています このような機能的神経回路は 生まれた時に完成しているので はなく 生後の発達過程において必要なシナプスが残り不要なシナプス

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別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異の同定と病態メカニズムの解明 ポイント 統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異 (CNV) が 患者全体の約 9% で同定され 難病として医療費助成の対象になっている疾患も含まれることが分かった 発症に関連した CNV を持つ患者では その 40%

助成研究演題 - 平成 23 年度国内共同研究 (39 歳以下 ) 重症心不全の集学的治療確立のための QOL 研究 東京大学医学系研究科重症心不全治療開発講座客員研究員 ( 助成時 : 東京大学医学部附属病院循環器内科日本学術振興会特別研究員 PD) 加藤尚子 私は 重症心不全の集学的治療確立のた

Microsoft Word - 【確定】東大薬佐々木プレスリリース原稿

ただし 対象となることを希望されないご連絡が 2016 年 5 月 31 日以降にな った場合には 研究に使用される可能性があることをご了承ください 研究期間 研究を行う期間は医学部長承認日より 2019 年 3 月 31 日までです 研究に用いる試料 情報の項目群馬大学医学部附属病院産科婦人科で行

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

< 研究の背景 > 運動に疲労はつきもので その原因や予防策は多くの研究者や競技者 そしてスポーツ愛好者の興味を引く古くて新しいテーマです 運動時の疲労は 必要な力を発揮できなくなった状態 と定義され 疲労の原因が起こる身体部位によって末梢性疲労と中枢性疲労に分けることができます 末梢性疲労の原因の

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

生物時計の安定性の秘密を解明

本成果は 以下の研究助成金によって得られました JSPS 科研費 ( 井上由紀子 ) JSPS 科研費 , 16H06528( 井上高良 ) 精神 神経疾患研究開発費 24-12, 26-9, 27-

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報道関係者各位 平成 29 年 11 月 8 日国立大学法人筑波大学国立大学法人京都大学国立研究開発法人理化学研究所 自閉スペクトラム症者のコミュニケーション障害に関する新たな視点 ~ 最新の脳波技術を用いた科学的根拠による理解の促進 ~ 研究成果のポイント 1. 自閉スペクトラム症者 (1) の二

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共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

Human Developmental Research 2014.Vol.28, 注意欠陥 / 多動性障害, 広汎性発達障害, 及び合併症例の前頭葉機能評価 ( 中間報告 ) 福井大学子どものこころの発達研究センター 浅野みずき Frontal lobe functions in a

統合失調症の病名変更が新聞報道に与えた影響過去約 30 年の網羅的な調査 1. 発表者 : 小池進介 ( 東京大学学生相談ネットワーク本部 / 保健 健康推進本部講師 ) 2. 発表のポイント : 過去約 30 年間の新聞記事 2,200 万件の調査から 病名を 精神分裂病 から 統合失調症 に変更

研究の背景と目的 人の脳が外界の情報を認識するプロセスを認知と呼びます 認知においては それより先行して持っている概念的な記憶との照合が行われます 例えば水に接した人が視覚 聴覚 触覚などを通じて知覚した情報は すでにその人が脳内に持っている水というものの概念的な記憶と照合され どうやらこれも (

アトモキセチン ニプロ を服用される皆様とご家族の方へ 注意欠如 多動症 (ADHD) について 監修 : 岩波明先生 ( 昭和大学医学部精神医学講座主任教授 )

Microsoft Word - 運動が自閉症様行動とシナプス変性を改善する

2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

図 1. 微小管 ( 赤線 ) は細胞分裂 伸長の方向を規定する本瀬准教授らは NIMA 関連キナーゼ 6 (NEK6) というタンパク質の機能を手がかりとして 微小管が整列するメカニズムを調べました NEK6 を欠損したシロイヌナズナ変異体では微小管が整列しないため 細胞と器官が異常な方向に伸長し

神経細胞での脂質ラフトを介した新たなシグナル伝達制御を発見

(1) ビフィズス菌および乳酸桿菌の菌数とうつ病リスク被験者の便を採取して ビフィズス菌と乳酸桿菌 ( ラクトバチルス ) の菌量を 16S rrna 遺伝子の逆転写定量的 PCR 法によって測定し比較しました 菌数の測定はそれぞれの検体が患者のものか健常者のものかについて測定者に知らされない状態で

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

平成 26 年 8 月 21 日 チンパンジーもヒトも瞳の変化に敏感 -ヒトとチンパンジーに共通の情動認知過程を非侵襲の視線追従装置で解明- 概要マリスカ クレット (Mariska Kret) アムステルダム大学心理学部研究員( 元日本学術振興会外国人特別研究員 ) 友永雅己( ともながまさき )

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

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( 様式乙 8) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 米田博 藤原眞也 副査副査 教授教授 黒岩敏彦千原精志郎 副査 教授 佐浦隆一 主論文題名 Anhedonia in Japanese patients with Parkinson s disease ( 日本人パー

平成14年度研究報告

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遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

1. 背景 NAFLD は非飲酒者 ( エタノール換算で男性一日 30g 女性で 20g 以下 ) で肝炎ウイルス感染など他の要因がなく 肝臓に脂肪が蓄積する病気の総称であり 国内に約 1,000~1,500 万人の患者が存在すると推定されています NAFLD には良性の経過をたどる単純性脂肪肝と

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

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Microsoft Word - 【変更済】プレスリリース要旨_飯島・関谷H29_R6.docx

第四問 : パーキンソン病で問題となる運動障害の症状について 以下の ( 言葉を記入してください ) に当てはまる 症状 特徴 手や足がふるえる パーキンソン病において最初に気づくことの多い症状 筋肉がこわばる( 筋肉が固くなる ) 関節を動かすと 歯車のように カクカク と軋む 全ての動きが遅くな

精神医学研究 教育と精神医療を繋ぐ 双方向の対話 10:00 11:00 特別講演 3 司会 尾崎 紀夫 JSL3 名古屋大学大学院医学系研究科精神医学 親と子どもの心療学分野 AMED のミッション 情報共有と分散統合 末松 誠 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 11:10 12:10 特別講

NIRS は安価かつ低侵襲に脳活動を測定することが可能な検査で 統合失調症の精神病症状との関連が示唆されてきました そこで NIRS で測定される脳活動が tdcs による統合失調症の症状変化を予測し得るという仮説を立てました そして治療介入の予測における NIRS の活用にもつながると考えられまし

平成24年7月x日

報道機関各位 平成 27 年 8 月 18 日 東京工業大学広報センター長大谷清 鰭から四肢への進化はどうして起ったか サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす 要点 四肢への進化過程で 位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定 サメ鰭の前


II III I ~ 2 ~

中堅中小企業向け秘密保持マニュアル


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糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

Taro13-04.ガイドライン【1部~

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た 18 歳以上の AD/HD 患者を対象に 日本人を含むアジア人によるプラセボ対照二重盲検比較試験及びその長期継続投与試験が現在実施されており 本剤の製造販売者によれば これらの試験成績に基づき 本剤の成人期 AD/HD 患者への追加適応に関する承認事項一部変更承認申請が行われる予定とされている

Microsoft Word - 研究報告書(崇城大-岡).doc

1. 背景コンピュータが目覚ましく進歩し 演算速度や記憶容量の大きさでは人の脳を凌駕するスーパーコンピュータも出現してきました しかし 言語を用い 直観を働かせ 抽象や概念を形成し 問題への解答を見いだし 自分自身を改善する 人間のような思考能力を持つ人工知能の実現にはまだ遠い道のりがあるように見え

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

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( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

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平成 29 年 8 月 4 日 マウス関節軟骨における Hyaluronidase-2 の発現抑制は変形性関節症を進行させる 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 : 門松健治 ) 整形外科学 ( 担当教授石黒直樹 ) の樋口善俊 ( ひぐちよしとし ) 医員 西田佳弘 ( にしだよしひろ )

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本件リリース先 文部科学記者会 科学記者会広島大学関係報道機関 広島大学学術 社会産学連携室広報グループ 東広島市鏡山 TEL: FAX: 平成 2

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

平成30年度精神保健に関する技術研修過程(自治体推薦による申込研修)

資料5 親の会が主体となって構築した発達障害児のための教材・教具データベース

Transcription:

報道解禁日時 : ( テレビ ラジオ ウェブ ) 平成 29 年 7 月 7 日 ( 金 ) 午前 5 時 ( 日本時間 ) ( 新聞 ) 平成 29 年 7 月 7 日 ( 金 ) 付朝刊 平成 29 年 7 月 4 日 子どものこころの発達研究センターの研究成果に係る 記者発表について ( ご案内 ) 本学子どものこころの発達研究センターの研究成果が 7 月 7 日 19 時 ( 日本時 間 ) に 英国科学雑誌 Scientific Reports に掲載されますので 記者発表を 行います 内容 記 5 大学連合小児発達学研究科福井校水野賀史院生 子どものこころの発達研究センター友田明美教授らが発表した論文 Catechol-O-methyltransferase polymorphism is associated with the cortico-cerebellar functional connectivity of executive function in children with attention-deficit/hyperactivity disorder ( 日本語タイトル : ADHD 児の COMT 遺伝子多型は大脳皮質 - 小脳の実行機能ネッ トワークに関連している ) が 英国科学雑誌 Scientific Reports 7 月 7 日 ( 金 ) ( 日本時間 :7 月 7 日 19 時 ) 電子版に掲載 著者 Website: http://www.nature.com/articles/articles/ DOI: 10.1038/s41598-017-04579-8 みずの水野 ともだ友田 よしふみ賀史 あけみ明美 (37) 5 大学連合小児発達学研究科福井校院生 子どものこころ診療部特命助教 (56) 子どものこころの発達研究センター教授 記者発表に関するお問合せ 広報センター TEL:0776-27-9733 FAX:0776-27-8518

平成 29 年 7 月 4 日 国立大学法人福井大学 TEL:0776-27-9733( 広報室 ) ADHD の要因に関係する遺伝子と脳内ネットワークの関連を解明 本研究成果のポイント 注意欠如 多動症 (ADHD) 児は小脳と前頭前野の機能的結合が弱く さらにその機能的結合にはCOMT 遺伝子多型が関連していることを明らかにしました COMT 遺伝子多型が前頭前野 小脳の実行機能ネットワークに作用することで ADHD の症状に影響を与えていることが示唆されました 脳画像と遺伝子を関連させた研究の推進によって ADHDの病態を標的とした先進的治療の開発へつながることが期待されます 注意欠如 多動症 (ADHD) ( 注 1) の要因として 課題の遂行に必要な思考や行動を制御する認知システム 実行機能 に問題が生じる 実行機能障害 が最も広く知られています この神経基盤は 大脳皮質の前頭前野に集中していると考えられています 一方 運動機能を担うと考えられてきた小脳は 近年では前頭前野との間で神経ネットワークを作り 実行機能 に関係していることがわかってきました この実行機能には COMT ( 注 2) が深く関与しています COMT は 脳内の神経伝達物質であるドパミンを分解する代謝酵素として重要な役目を果たしています その遺伝子多型である COMT 遺伝子多型 ( 注 3) (COMT Val158Met) は 活性 (Val 型 ) と不活性 (Met 型 ) の 2 種類の型を持ち ドパミンの濃度に作用し 実行機能にも関連していることが報告されています しかしながら ADHD において 前頭前野 - 小脳の実行機能ネットワークに異常を認めるかどうか また COMT 遺伝子多型がそのネットワークに関連するかどうかは はっきりしていませんでした 本研究では 安静時 fmri ( 注 4) を用いて ADHD 児と定型発達児の神経ネットワークを比較検討することで ADHD 児では前頭前野 - 小脳の機能的な結合が弱くなる異常がみられ COMT 遺伝子多型がその機能的結合に関連していることを明らかにしました これらのことから ドパミン濃度を変化させる COMT 遺伝子多型が前頭前野 小脳の神経ネットワークに作用することで ADHD の要因である 実行機能障害 に影響を与えていることが示唆されました 今後 脳画像と遺伝子を関連させた研究の推進によって ADHD の病態を解明することで その病態を標的とした先進的治療の開発へつながることが期待されます 1

研究の背景と経緯 ADHD は 不注意 ( 気が散りやすい 忘れ物が多い 不注意な間違いが多い ) 多動性 衝動性 ( 落ち着きがない 我慢するのが苦手 ) を特徴とした神経発達症 ( 発達障がい ) の一つです 最近の有病率は約 7% で 30 人クラスに 2 3 人は いると言われています ADHD 児はこれらの症状があるために学校生活や友人と の関係などに問題が生じ 二次的に様々な精神疾患 ( うつ病や不安障害など ) を発症するリスクが高いことがわかっており 社会的な問題となっています ADHD の要因として実行機能障害が最も広く知られています 実行機能とは 課題の遂行に必要な思考 行動を制御する認知システムの総称で 衝動を抑制 したり 計画を立てたり 短期的に記憶を保持して同時に処理をするための能 力などのことを指します 大脳皮質の前頭前野は実行機能に重要な役割を果た しており ADHD 患者は前頭前野に問題があることが報告されています これま で小脳は運動機能を担うと考えられてきましたが 近年では実行機能を調整す る役割を持つことがわかってきました 特に小脳の Crus I/II 図 1 という部 位は前頭前野との間で神経ネットワークを作り 実行機能に関係しています 一方で catechol-o-methyltransferase(comt) は 脳内の神経伝達物質であ るドパミン分解に関連する酵素で その遺伝子多型 COMT Val158Met(rs4680) はドパミン濃度に作用し 実行機能に関係することが報告されています そこ で我々は ADHD 児では実行機能に関係する前頭前野 - 小脳ネットワークに異常が みられ さらに COMT 遺伝子多型がそのネットワークに関連しているのではな いかという仮説をたて その検証を行いました 研究の内容 精神疾患の診断 統計マニュアル第 5 版 (DSM-5) ( 注 5) に基づいて診断された 7 14 歳の ADHD 児 31 名と年齢 IQ( 知能指数 ) がマッチした定型発達児 30 名 に対して安静時 fmri を撮像し さらに ADHD 児から COMT Val158Met 遺伝子多 型データ (Met-carriers 群 :16 名, Val/Val 群 :15 名 ) を得ました 安静時 fmri では MRI 装置内で課題を行う必要がなく 神経発達症 ( 発達障がい ) を含む精 神疾患の原因と考えられている神経ネットワークの解析が可能なため 近年注 目がされています また 測定時間も 5 10 分と短く 被験者への負担も少な いために子どもや精神疾患患者にも適用がしやすく 臨床への応用が期待され ています 解析の結果 ( 図 2) ADHD 児は定型発達児に比べて 右小脳 Crus I/II と左背 外側前頭前野の機能的結合が弱いことが明らかになりました さらに ADHD 児 においてその機能的結合は COMT 遺伝子多型と関連しており Met-carriers 群は Val/Val 群に比べて弱い ということが明らかになりました これらの結果は COMT 遺伝子多型が前頭前野 小脳の神経ネットワークに影響 し ADHD の要因である実行機能に影響することを示唆します 2

今後の展開 DSM の分類は主に臨床症状に基づいて判断されるカテゴリカルな診断ですが 必ずしも疾患のメカニズムを捉えておらず 診断が病態に応じた治療に結びついていかない側面があります この問題を解決するため アメリカ国立精神衛生研究所 (NIMH) では RDoC (Research Domain Criteria) という考えを提唱しています これは 臨床症状のみで診断するのではなく 遺伝子や神経科学などの病態生理学研究に基づいて診断のフレームワークを新たに組み直そう という考え方です この考えに基づいて病態を解明することこそが ガンや心臓病 感染症と同じように精神疾患の予後の改善につながると期待されています 病態解明に関して 脳と遺伝子との関連を検討する脳画像 - 遺伝子関連解析 (Imaging genetics study) が盛んに行われるようになってきています ADHD を対象とした Imaging genetics study はいくつか報告されていますが 安静時 fmri を用いて COMT 遺伝子多型の神経ネットワークへの影響を検討した報告は世界で初めてです ADHD を含む神経発達症は神経ネットワークの疾患と考えられており 本研究のような Imaging genetics study が病態を明らかにし その病態に基づいて診断のフレームワークを組み直すことに役立つと考えられます 将来的には脳画像と遺伝子を関連させた研究を推進することで 一人一人の病態を捉え その病態に応じた治療が行われるようになることが期待されます ( 本研究の一部は 科学研究費補助金若手研究 (B) 基盤研究 (B) 挑戦的萌芽研究 JST/RISTEX 養育者支援によって子どもの虐待を低減するシステムの構築 プロジェクト ダノン健康栄養財団からの助成 先端バイオイメージング支援プラットフォーム (ABiS) からの支援を受けて行われました ) 3

用語解説 ( 注 1) 注意欠如 多動症 (attention deficit/hyperactivity disorder: ADHD) 不注意 ( 気が散りやすい 忘れ物が多い 不注意な間違いが多い ) 多動性- 衝動性 ( 落ち着きがない 我慢するのが苦手 ) を特徴とした神経発達症 ( 発達障がい ) の一つです 最近の有病率は約 7% で 30 人クラスに 2 3 人はいると言われています ADHD 児はこれらの症状があるために学校生活や友人との関係などに問題が生じ 二次的に様々な精神疾患 ( うつ病や不安障害など ) を発症するリスクが高いことがわかっており 社会的な問題となっています ( 注 2)catechol-O-methyltransferase(COMT ) COMT はドパミンやノルエピネフリンのようなカテコラミンと呼ばれる脳内の神 経伝達物質を分解する酵素の一つです ( 注 3)COMT 遺伝子多型 COMT 遺伝子多型 (COMT Val158Met) は 活性 (Val 型 ) と不活性 (Met 型 ) の 2 種類の型を持ち ドパミンの濃度に作用して ADHD の要因の一つである実行機能に関連していることが報告されています Met-carrier は不活性の Met 型をもつもので Val/Met 型と Met/Met 型があります ( 注 4) 安静時機能的磁気共鳴画像 (resting state functional Magnetic Resonance Imaging: 安静時 fmri) 機能的磁気共鳴画像 (functional Magnetic Resonance Imaging: fmri) は MRI 装置内で様々な認知課題を行い その課題処理に関連して活動する脳領域を特定する手法です 一方 安静時 fmri では MRI 装置内で課題を行わずに安静状態の脳画像を撮像することで 神経発達症 ( 発達障がい ) を含む精神疾患の原因と考えられている神経ネットワークの解析が可能なため 近年注目がされています また 測定時間も 5 10 分と短く 被験者への負担も少ないために子どもや精神疾患患者にも適用がしやすく 臨床への応用が期待されています ( 注 5) 精神疾患の診断 統計マニュアル第 5 版 (Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders fifth edition:dsm-5) アメリカ精神医学会によって出版され 精神疾患の分類のための共通言語と標準的な基準を提示するものです 2013 年に第 5 版が出版され 診断名やその基準に変更が見られました 4

図 1 小脳 Crus I/II Crus I /II 図は右の Crus I /II のみを示す は小脳の後方外側に位置す る 前頭前野と神経ネットワークを形成し 実行機能に関与している 図 2 0.5 FC eigenvariates 左背外側前頭前野 0.4 機 能 0.3 的 結 0.2 合 右小脳Crus I/II 0.1 0 MetTD Met Val 定型発達 Val/Val carriers ADHD ADHD 児では右小脳 Crus I/II と左背外側前頭前野の機能的結合が弱く さらに その機能的結合は COMT 遺伝子多型と関連しており Met-carriers 群は Val/Val 群に比べて弱かった ( p < 0.05) 5

論文タイトル Catechol-O-methyltransferase polymorphism is associated with the cortico-cerebellar functional connectivity of executive function in children with attention-deficit/hyperactivity disorder ( 日本語タイトル : ADHD 児の COMT 遺伝子多型は大脳皮質 - 小脳の実行機能ネットワークに関連している ) 著者 Yoshifumi Mizuno, Minyoung Jung, Takashi X. Fujisawa, Shinichiro Takiguchi, Koji Shimada, Daisuke N. Saito, Hirotaka Kosaka, Akemi Tomoda. 水野賀史 (5 大学連合小児発達学研究科福井校大学院生 福井大学医学部附属病院子どものこころ診療部特命助教 ) ジョンミンヨン ( ハーバード大学医学大学院精神科研究員 ) 藤澤隆史 ( 福井大学子どものこころの発達研究センター特命講師 ) 滝口慎一郎 ( 福井大学医学部附属病院子どものこころ診療部特命助教 ) 島田浩二 ( 福井大学子どものこころの発達研究センター特命助教 ) 齋藤大輔 ( 金沢大学子どものこころの発達研究センター特任准教授 ) 小坂浩隆 ( 福井大学子どものこころの発達研究センター教授 ) 友田明美 ( 福井大学子どものこころの発達研究センター教授 ) 掲載雑誌 Scientific Reports ( 日本時間 :2017 年 7 月 7 日 19 時に電子版掲載 ) DOI: 10.1038/s41598-017-04579-8 お問い合わせ先 研究に関すること水野賀史 ( みずのよしふみ ) 友田明美 ( ともだあけみ ) 国立大学法人福井大学子どものこころの発達研究センター発達支援研究部門 910-1193 吉田郡永平寺町松岡下合月 23-3 TEL:0776-61-8677 E-Mail:atomoda@u-fukui.ac.jp 報道担当国立大学法人福井大学総合戦略部門広報室山岸理恵 ( やまぎしりえ ) 910-8507 福井市文京 3-9-1 TEL:0776-27-9733 E-mail:sskoho-k@ad.u-fukui.ac.jp 6