厚生年金の適用拡大を進めよ|第一生命経済研究所|星野卓也

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<本調査研究の要旨>

被用者保険の被保険者の配偶者の位置付け 被用者保険の被保険者の配偶者が社会保険制度上どのような位置付けになるかは 1 まず 通常の労働者のおおむね 4 分の 3 以上就労している場合は 自ら被用者保険の被保険者となり 2 1 に該当しない年収 130 万円未満の者で 1 に扶養される配偶者が被用者保

1 / 5 発表日 :2019 年 6 月 18 日 ( 火 ) テーマ : 貯蓄額から見たシニアの平均生活可能年数 ~ 平均値や中央値で見れば 今のシニアは人生 100 年時代に十分な貯蓄を保有 ~ 第一生命経済研究所調査研究本部経済調査部首席エコノミスト永濱利廣 ( : )

資料1 短時間労働者への私学共済の適用拡大について

2. 改正の趣旨 背景税制面では 配偶者のパート収入が103 万円を超えても世帯の手取りが逆転しないよう控除額を段階的に減少させる 配偶者特別控除 の導入により 103 万円の壁 は解消されている 他方 企業の配偶者手当の支給基準の援用や心理的な壁として 103 万円の壁 が作用し パート収入を10

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目次 問 1 労使合意による適用拡大とはどのようなものか 問 2 労使合意に必要となる働いている方々の 2 分の 1 以上の同意とは具体的にどのようなものか 問 3 事業主の合意は必要か 問 4 短時間労働者が 1 名でも社会保険の加入を希望した場合 合意に向けての労使の協議は必ず行う必要があるのか

29 歳以下 3~39 歳 4~49 歳 5~59 歳 6~69 歳 7 歳以上 2 万円未満 2 万円以 22 年度 23 年度 24 年度 25 年度 26 年度 27 年度 28 年度 29 年度 21 年度 211 年度 212 年度 213 年度 214 年度 215 年度 216 年度

Microsoft PowerPoint - 02 別添 パンフレット (3)

2. 年金額改定の仕組み 年金額はその実質的な価値を維持するため 毎年度 物価や賃金の変動率に応じて改定される 具体的には 既に年金を受給している 既裁定者 は物価変動率に応じて改定され 年金を受給し始める 新規裁定者 は名目手取り賃金変動率に応じて改定される ( 図表 2 上 ) また 現在は 少

米国の給付建て制度の終了と受給権保護の現状

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< 参考資料 目次 > 1. 平成 16 年年金制度改正における給付と負担の見直し 1 2. 財政再計算と実績の比較 ( 収支差引残 ) 3 3. 実質的な運用利回り ( 厚生年金 ) の財政再計算と実績の比較 4 4. 厚生年金被保険者数の推移 5 5. 厚生年金保険の適用状況の推移 6 6. 基

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退職後の健康保険の任意継続ってなに?

資料9

平成16年年金制度改正 ~年金の昔・今・未来を考える~

2 / 6 不安が生じたため 景気は腰折れをしてしまった 確かに 97 年度は消費増税以外の負担増もあったため 消費増税の影響だけで景気が腰折れしたとは判断できない しかし 前回 2014 年の消費税率 3% の引き上げは それだけで8 兆円以上の負担増になり 家計にも相当大きな負担がのしかかった

このジニ係数は 所得等の格差を示すときに用いられる指標であり 所得等が完全に平等に分配されている場合に比べて どれだけ分配が偏っているかを数値で示す ジニ係数は 0~1の値をとり 0 に近づくほど格差が小さく 1に近づくほど格差が大きいことを表す したがって 年間収入のジニ係数が上昇しているというこ

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短時間労働者への厚生年金 国民年金の適用について 1 日又は 1 週間の所定労働時間 1 カ月の所定労働日数がそれぞれ当該事業所 において同種の業務に従事する通常の就労者のおおむね 4 分の 3 以上であるか 4 分の 3 以上である 4 分の 3 未満である 被用者年金制度の被保険者の 配偶者であ

第 50 号 2016 年 10 月 4 日 企業年金業務室 短時間労働者に対する厚生年金の適用拡大及び厚生年金の標準報酬月額の下限拡大に伴う厚生年金基金への影響について 平成 28 年 9 月 30 日付で厚生労働省年金局から発出された通知 公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能

社会保障 税一体改革大綱(平成24 年2月17 日閣議決定)社会保障 税一体改革における年金制度改革と残された課題 < 一体改革で成立した法律 > 年金機能強化法 ( 平成 24 年 8 月 10 日成立 ) 基礎年金国庫負担 2 分の1の恒久化 : 平成 26 年 4 月 ~ 受給資格期間の短縮

2. 年金改定率の推移 2005 年度以降の年金改定率の推移をみると 2015 年度を除き 改定率はゼロかマイナスである ( 図表 2) 2015 年度の年金改定率がプラスとなったのは 2014 年 4 月の消費税率 8% への引き上げにより年金改定率の基準となる2014 年の物価上昇率が大きかった

製造業の雇用削減が本格化し 失業率は5.4% に上昇 雇用情勢の悪化が足元で鮮明になっている 急激な減産局面に突入した昨年 11 月あたりから 派遣切り と言われるような非正規労働者を中心とした解雇に注目が集まったが 実際には今年 2 月まで雇用者数はほぼ横ばいで推移しており (2008 年平均は前

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この改正は 1 企業に勤務していながら厚生年金 健康保険の恩恵を受けられない非正規労働者に厚生年金 健康保険を適用し セーフティネットを強化することで 社会保険における 格差 を是正することや 2 社会保険制度における 働かない方が有利になるような仕組みを除去することで 特に女性の就業を促進して 今

公的年金制度について 制度の持続可能性を高め 将来の世代の給付水準の確保等を図るため 持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律に基づく社会経済情勢の変化に対応した保障機能の強化 より安全で効率的な年金積立金の管理及び運用のための年金積立金管理運用独立行政法人の組織等の見直し等の

2. 特例水準解消後の年金額以下では 特例水準の段階的な解消による年金額の変化を確認する なお 特例水準の解消により実際に引き下げられる額については 法律で定められた計算方法により年金額を計算することに加え 端数処理等の理由により203 年 9 月の年金額に所定の減額率を乗じた額と完全に一致するもの

企業 メリット : 1 労働者が社内では得られない知識 スキルを獲得することができる 2 優秀な人材の獲得 流出の防止ができ 競争力が向上する 3 労働者が社外から新たな知識 情報や人脈を入れることで 事業機会の拡大につながる 留意点 : 1 必要な就業時間の把握 管理や健康管理への対応 労働者の職

第3回税制調査会 総3-2

年の家族 2-1 世帯モデル設定本章では 3 つの社会変化をもとに世帯モデルを以下のように設定する 1 専業主婦世帯 ( 標準モデル世帯 ) 平均的な男性賃金で 45 年間厚生年金に加入した夫と 45 年間専業主婦の夫婦 2 生涯単身男性世帯 平均的な男性賃金で 45 年間厚生年金に加

図表 1 人口と高齢化率の推移と見通し ( 億人 ) 歳以上人口 推計 高齢化率 ( 右目盛 ) ~64 歳人口 ~14 歳人口 212 年推計 217 年推計

年金改革の骨格に関する方向性と論点について

本日のテーマ

少子高齢化班後期総括

日韓比較(10):非正規雇用-その4 なぜ雇用形態により人件費は異なるのか?―賃金水準や社会保険の適用率に差があるのが主な原因―

PowerPoint プレゼンテーション

(2) 国民年金の保険料 国民年金の第 1 号被保険者および任意加入者は, 保険料を納めなければなりません また, より高い老齢給付を望む第 1 号被保険者 任意加入者は, 希望により付加保険料を納めることができます 定額保険料月額 16,490 円 ( 平成 29 年度 ) 付加保険料月額 400

厚生年金 健康保険の強制適用となる者の推計 粗い推計 民間給与実態統計調査 ( 平成 22 年 ) 国税庁 5,479 万人 ( 年間平均 ) 厚生年金 健康保険の強制被保険者の可能性が高い者の総数は 5,479 万人 - 約 681 万人 - 約 120 万人 = 約 4,678 万人 従業員五人

女性が働きやすい制度等への見直しについて

( 参考 ) 平成 29 年度予算編成にあたっての財務大臣 厚生労働大臣の合意事項 ( 平成 29 年 12 月 19 日大臣折衝事項の別紙 ) < 医療制度改革 > 別紙 (1) 高額療養費制度の見直し 1 現役並み所得者 - 外来上限特例の上限額を 44,400 円から 57,600 円に引き上

質問 1 11 月 30 日は厚生労働省が制定した 年金の日 だとご存じですか? あなたは 毎年届く ねんきん定期便 を確認していますか? ( 回答者数 :10,442 名 ) 知っている と回答した方は 8.3% 約 9 割は 知らない と回答 毎年の ねんきん定期便 を確認している方は約 7 割

40,000 人 36,000 人 32,000 人 被保険者 被保険者数の年間推移 [ 年齢階層別 ] ( 5 カ年比較 / 平成 25 年 ~ ) 被保険者数が多い年齢層は 25~49 歳で 中でも最も多いのは 40~44 歳の階層となっています 28,000 人 24,000 人 20,000

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(2) 国民年金の保険料 国民年金の第 1 号被保険者および任意加入者は, 保険料を納めなければなりません また, より高い老齢給付を望む第 1 号被保険者 任意加入者は, 希望により付加保険料を納めることができます 定額保険料月額 15,250 円 ( 平成 26 年度 ) 付加保険料月額 400

2019年度はマクロ経済スライド実施見込み

平成16年年金制度改正における年金財政のフレームワーク

いずれも 賃金上昇率により保険料負担額や年金給付額を65 歳時点の価格に換算し 年金給付総額を保険料負担総額で除した 給付負担倍率 の試算結果である なお 厚生年金保険料は労使折半であるが 以下では 全ての試算で負担額に事業主負担は含んでいない 図表 年財政検証の経済前提 将来の経済状

2 社会保障 2.1 社会保障 2.2 医療保険 2.3 年金保険 2.4 介護保険 2.5 労災保険 2.6 雇用保険 医療保険は社会保険を構成する1つです 医療保険制度の仕組みや給付について説明していきます 医療保険制度 医療保険制度は すべての国民に医療を提供することを目的とした制

強制加入被保険者(法7) ケース1

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あえて年収を抑える559万人

150130【物価2.7%版】プレス案(年金+0.9%)

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目次 1. 被保険者資格の取得要件 ( 総論 ) 問 1 被用者保険の適用拡大の実施により 厚生年金保険 健康保険の被保険者資格の取得要件はどのようになるのか 問 2 施行日以降は 4 分の 3 基準をどのように判断するのか 問 2 の 2 就業規則や雇用契約書等で定められた所定労働時間又は所定労働

1. 改革の方向性 女性の働き方に中立的な制度整備に当たっては 可処分所得の大幅な減少が生じないよう 負担を最小化 負担増減を円滑化するとともに こうした見直しが 負担増の生じる世帯 個人に ベネフィットとして戻ってくる制度改革とすることが不可欠 改革の進め方についての方針を明示し できるものから早

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Web 版 Vol.70( 通巻 715 号 ) 国民年金 基礎年金制度の2017 年度財政状況 2017 年度の収支は 収入総額 244,768 億円 支出総額 235,998 億円で 収支残 8,770 億円の黒字収支となった 2016 年度と比較すると 収入総額はプ

年金制度のポイント

第28回介護福祉士国家試験 試験問題「社会の理解」

2 職務専念義務 秘密保持義務 競業避止義務を意識することが必要である 3 1 週間の所定労働時間が短い業務を複数行う場合には 雇用保険等の適用がな い場合があることに留意が必要である 企業 メリット : 1 労働者が社内では得られない知識 スキルを獲得することができる 2 労働者の自律性 自主性を

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2. 繰上げ受給と繰下げ受給 65 歳から支給される老齢厚生年金と老齢基礎年金は 本人の選択により6~64 歳に受給を開始する 繰上げ受給 と 66 歳以降に受給を開始する 繰下げ受給 が可能である 繰上げ受給 を選択した場合には 繰上げ1カ月につき年金額が.5% 減額される 例えば 支給 開始年齢

再任用と年金加入の関係をまとめると次のようになる ( 都道府県によって勤務形態は異なる ) 再任用の勤務形態フルタイム勤務 3/4 1/2 週の勤務時間 38 時間 45 分 29 時間 19 時間 15 分 共済年金 厚生年金 (2016 年 9 月 30 日まで ) 加入する年金 (2015 年

新規裁定当該期間 ( 月又は年度 ) 中に新たに裁定され 年金受給権を得た者が対象であり 年金額については裁定された時点で決定された年金額 ( 年額 ) となっている なお 特別支給の老齢厚生年金の受給権者が65 歳に到達した以降 老齢基礎年金及び老齢厚生年金 ( 本来支給もしくは繰下げ支給 ) を

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政策課題分析シリーズ16(付注)

例 言 厚生年金保険被保険者厚生年金保険被保険者については 平成 27 年 10 月 1 日から被用者年金制度の一元化等を図るための厚生年金保険法等の一部を改正する法律が施行されたことに伴い 厚生年金保険法第 2 条の5の規定に基づき 以下のように分類している 1 第 1 号厚生年金被保険者第 2

Microsoft Word 年度評価シート.docx

要 旨 被用者年金一元化法案では パート労働者に対する厚生年金の適用拡大が盛り込まれた 厚生年金の適用拡大は 労使ともに保険料負担増となるため これまで実現してこなかったが 昨今の正社員とパート労働者 ( 非正社員 ) の処遇格差が社会問題化するなかで 年金制度における格差是正対策として実施される見

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「学び直し」のための教育訓練給付制度の活用状況|第一生命経済研究所|的場康子

労災年金のスライド

短時間労働者の適用拡大 新しい 4 分の 3 基準 に満たない場合であっても 平成 28 年 10 月 1 日以降 次のすべての要件に該当した場合は 短時間労働者の適用拡大の対象となります 週労働時間 20 時間以上 勤務期間 1 年以上 月額賃金 8.8 万円以上 学生でない 従業員 501 人

タイトル

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Microsoft PowerPoint - 020_改正高齢法リーフレット<240914_雇用指導・

平成 30 年 1 月末の国民年金 厚生年金保険 ( 第 1 号 ) 及び福祉年金の受給者の 年金総額は 49 兆円であり 前年同月に比べて 6 千億円 (1.3%) 増加している 注. 厚生年金保険 ( 第 1 号 ) 受給 ( 権 ) 者の年金総額は 老齢給付及び遺族年金 ( 長期要件 ) につ

平成 30 年 2 月末の国民年金 厚生年金保険 ( 第 1 号 ) 及び福祉年金の受給者の 年金総額は 49 兆円であり 前年同月に比べて 7 千億円 (1.4%) 増加している 注. 厚生年金保険 ( 第 1 号 ) 受給 ( 権 ) 者の年金総額は 老齢給付及び遺族年金 ( 長期要件 ) につ

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予想されうる、投資家からの質問・関心事項(1)

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質問 1 企業 団体にお勤めの方への質問 あなたの職場では定年は何歳ですか?( 回答者数 :3,741 名 ) 定年は 60 歳 と回答した方が 63.9% と最も多かった 従業員数の少ない職場ほど 定年は 65 歳 70 歳 と回答した方の割合が多く シニア活用 が進んでいる 定年の年齢 < 従業

4-1 育児関連 育児休業の対象者 ( 第 5 条 第 6 条第 1 項 ) 育児休業は 男女労働者とも事業主に申し出ることにより取得することができます 対象となる労働者から育児休業の申し出があったときには 事業主は これを拒むことはできません ただし 日々雇用される労働者 は対象から除外されます

税・社会保障等を通じた受益と負担について

特定健康診査等実施計画 ( 第二期 ) 三重交通健康保険組合 平成 25 年 7 月

事業活動の縮小に伴い雇用調整を行った事業主の方への給付金

中小企業が見直すべき福利厚生とは

Transcription:

1 / 5 発表日 :19 年 4 月 19 日 ( 金 ) 厚生年金の適用拡大を進めよ ~ 社会保障格差是正と年金水準向上のために ~ ( 要旨 ) 第一生命経済研究所調査研究本部経済調査部 副主任エコノミスト星野卓也 ( :3-5221-4547) 6 月にも公表される見込みの財政検証ののち 厚生年金保険の短時間労働者への適用拡大を巡る 議論が進む見込みだ 1 雇用者の社会保障格差の是正 2 老後の公的年金水準を高めることので きる枠組み作り のために進めるべき施策だと考える 16 年に適用拡大を実施した際には 被扶養者が社会保険加入を回避して労働時間を減らす動きが生じると懸念されていた しかし 実際にはそうした動きは限定的で 厚生年金に加入する短時間労働者が増加した パート アルバイトの時給が上昇傾向にある点 将来の年金水準向上のメリットが 社会保険料負担を上回る結果になったと言えよう 企業側にとっては労使折半の社会保険料相当分の人件費負担が生じることになる しかし 高齢の短時間労働者が増加する中 労働者にとっては適用拡大によって将来の年金水準を拡充できることは大きなメリットだ それによって労働供給が拡大すれば 人手不足に悩む企業にとってはプラスにもなる 中長期の視座に立った大局観のある議論が望まれる 適用拡大が年金改革の焦点今年 6 月にも公表される見込みの財政検証の後 年金改革の議論が本格化することになる その焦点の一つが 健康 厚生年金保険の短時間労働者への適用拡大だ 3 月に行われた社会保障審議会の年金部会では 財政検証の際のオプション試算の内容案として 被用者保険の更なる拡大 を行った場合の年金財政などへの影響を試算することが盛り込まれている 企業に雇用される人に適用される健康 厚生年金保険には 労働者 企業それぞれに労働時間の長さや事業規模に応じた適用要件が存在し それを満たさない場合は加入することができない 国民年金に加入しながら働く人にとっては 厚生年金に加入することで社会保険料が労使折半になる 将来の年金水準が増加するというメリットがある 政府は短時間労働者の要件を緩和することで 厚生年金者の加入者を拡大することを目指している 16 年の適用拡大時には厚生年金への移行がスムーズに進んだ短時間労働者の適用拡大は 16 年にも行われている この際には当初週 3 時間以上の労働者に限っていた健康 厚生年金保険の適用範囲について 2 雇用期間 1 年以上 3 賃金月額 8.8 万円以上 4 学生でない 5 常時 51 人以上の企業といった条件のもと 週 ~3 時間労働者も社会保険を適用する改正が実施された この実施前に懸念されていた点は 適用拡大によって配偶者の扶養に入っている働き手 ( 社会保険料負担がない第三号被保険者等 ) が健康 厚生年金保険への加入に伴う社会保険料の負担を避けるた

2 / 5 め 労働時間を削減する可能性だ しかし実際に蓋を開けてみると 16 年 1 月の適用拡大を契機に第一号被保険者 第三号被保険者の減少とともに第二号被保険者は増加する形となっており 適用拡大によって厚生年金保険へのシフトが起こった ( 資料 1) その後も政府の当初見込み(25 万人 ) を上回り 厚生年金に加入する短時間労働者は着実に増加 18 年 11 月末時点で 42.8 万人に上っている ( 資料 2) 適用拡大が順調に進んだ背景には 1 人手不足の状況下でアルバイトやパートタイム労働者の時給が上昇する中 社会保険料負担による手取り減のデメリットが薄れている点が挙げられるだろう また 2 老後の年金充実に対するニーズの高まりが考えられる 将来的に年金水準の低下が予想されている中において 働き手にとっては目先の手取り減よりも将来の年金増が魅力的に移っている可能性がある 資料 1. 適用拡大前後の種別毎 被保険者数の推移 (16 年 4 月との差 ) 1 8 6 - - -6 (16 年 4 月との差 万人 ) 第一号第二号うち短時間労働者第二号うちそれ以外第三号 適用拡大 -8 4 5 6 7 8 9 1 11 12 1 2 3 16 17 ( 注 ) 主に 第一号 : 国民年金加入者 第二号 : 厚生年金保険加入者 第三号 : 厚生年金保険加入者の配偶者など 資料 2. 厚生年金保険に加入する短時間労働者数の推移 45 ( 万人 ) 35 3 25 15 1 5 1 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 11 16 17 18

~24 歳 3~34 歳 ~44 歳 5~54 歳 6~64 歳 ~24 歳 3~34 歳 ~44 歳 5~54 歳 6~64 歳 3 / 5 月額 6.8 万円 と 事業規模要件撤廃 で対象は最大 万人に報道等によれば 政府は1 標準報酬月額の最低ラインを月額 6.8 万円まで引き下げる 2 強制適用となる事業規模要件 ( 常時 51 人以上 ) を撤廃し 中小企業も適用範囲に加えるという要件緩和を目指しているようだ これにより 新たに厚生年金の対象となる短時間労働者の人数は 万人程度に上ると想定されている 足元の厚生年金に加入する短時間労働者数が 万人強である点を踏まえると 政府想定通りに実現すれば 16 年改正と比べて相当大きな規模の改正になる 変容する短時間労働者 : 5 代女性から高齢者へ見逃すべきでないのは短時間労働者の属性が徐々に変化していることだ 資料 3では 週 3 時間未満の就業者数について 性 年齢階層別に 年 18 年を比較している 一見してわかるように 過去には 代 5 代の女性がその中心を占めていた 現在もこの層は 3 時間未満労働者の中心だが 男性を含めた高齢者の働き手が明確に増加していることがわかる 資料 3. 年齢階層別 月末 1 週間の労働時間が週 3 時間未満の就業者数 ( 非農林業 ) ( 万人 ) 18 16 1 1 1 8 6 年 18 年 男 女 ( 出所 ) 総務省 労働力調査 現行の公的年金制度では 任意加入被保険者など一部を除き 6 歳を超えた人が加入することができるのは厚生年金となる ( 厚生年金は現行制度で 7 歳まで加入可 ) これは 国民年金が 歳から 6 歳までを対象としているためである 6 歳を超えた人がより長く働き 社会保険料を納めることで公的年金水準の充実を図る場合 厚生年金に加入する必要がある そして 厚生年金保険の加入要件を満たすには一定の労働時間が必要になる しかし 実際には年を重ねれば 健康 体力面からも労働時間が短くなるのが自然だ 総務省統計をみると 男女ともに 6 歳を超えると週 3 時間未満の就業者割合が上昇する傾向が見て取れる しかし現行の年金制度では 週 3 時間未満の労働時間では適用要件を満たせず ( 大企業は 時間 ) 厚生年金が非適用となる 社会保険料の納付を増やすことで将来の公的年金水準を充実させることはできない 1 1 年金の増額を図る手段は 1 年金の繰り下げ受給 ( 受給開始年齢を遅らせれば法定の増額率を乗じた年金が生涯にわたって得られる 2 社会保険料の追加納付の 2 経路がある ここで論じているのは 2 の経路

~24 歳 3~34 歳 ~44 歳 5~54 歳 6~64 歳 4 / 5 高齢者の就労長期化 それによって年金財政のバランスを保ちながら将来の年金水準の低下を防ぐことは 今後高齢化が深まるにつれて 個々人のミクロのレベルでも 経済全体のマクロのレベルでも重要な課題となる 拙稿 若い世代こそ支給開始年齢引き上げを訴えるべき理由 ~ 年金制度の 持続 だけでは将来世代が困る~ や 生涯現役 を日本経済再生の切り札に~ 3つの将来不安 の払拭に向けた新たな 一体改革 を~ では 高齢者の就労長期化が団塊ジュニア世代が高齢期に達する 年に向けて重要な課題である点を述べた こうした中で 高齢者が老後の公的年金の充実を図る際の障壁は 極力取り除いていくことが望ましい 短時間労働者への適用拡大はそれに資するものとなろう 資料 4. 就業者数に占める月末一週間の労働時間が週 3 時間未満の就業者数の割合 (18 年 非農林業 ) 8% 7% 6% 女 5% % 3% % 男 1% % ( 出所 ) 総務省 労働力調査 企業も社会保険加入を労働条件改善のアピールポイントに今回の適用拡大が実施された場合 中小事業者で働く短時間労働者も適用の対象となる 課題となるのは労使折半の社会保険料負担が生じる企業側だ 労働者側は加入によって将来の年金増額を受けられるが 企業側にとっては人件費増の負担のみが掛かる そして 短時間労働者を雇用している業種は 小売業や飲食サービス業など 人手不足度合いの高い一部業種に集中している これらの業種に属する企業の負担は大きくなるだろう しかし 適用拡大は労働時間や賃金で社会保障に格差が生じる現状を是正するため また高齢者の就労を年金増額に反映させやすくするために必要な施策である 激変緩和措置はあって然るべきだが 制度改正のスケジュールを明確にして段階的に進めていくべきであろう また 企業側も社会保険への加入を単なるコストとしてみるのではなく 労働待遇の改善 人手確保の一手段として前向きに捉えるべき部分もあるのではないか 先に見たように 短時間労働者は高齢期ないしそれを控えた年齢層が相当多くを占めるようになっている これらの年齢層の就業理由の一つは 老後の生活を賄うことであろう 働くことで将来の年金水準を増やすことができるようになる という点はこのニーズに応えることになる 労働市場に新たな労働供給を引き出すことにつながれば 人手不足に悩む業態に

5 / 5 とってはプラスに働く部分もあろう 17 年 4 月からは 16 年に導入された短時間労働者について任意適用事業者の規定が設けられている これにより 常時 5 人以下の企業でも労使協定の締結を条件に 短時間労働者を健康 厚生年金保険の対象とすることができるようになった 任意加入を実際に行っている事業所数は 4 千事業所程度と一部にとどまるものの増加傾向にある これは労働者側の社会保険加入に対するニーズが強いこと それを受け入れる企業が拡大している可能性を示唆するものである 政府は 19 年 9 月末までに適用範囲について検討を加えることとしている 6 月の財政検証を経て 短時間労働者の適用拡大をめぐる議論が政府内でも本格化するだろう 中長期の視点に立った大局観のある議論を期待したい 資料 5. 短時間労働者の任意加入事業所数の推移 ( 事業所 ) 4,5 4, 3,5 3, 2,5 2, 1,5 1, 5 1 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 11 16 17 18 ( 注 ) 短時間労働者を厚生年金保険等の適用対象とすることについて労使合意を行い 保険加入した事業所数 以上 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり 投資勧誘を目的としたものではありません 作成時点で 第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが その正確性 完全性に対する責任は負いません 見通しは予告なく変更されることがあります また 記載された内容は 第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません