事業事前評価表 ( 地球規模課題対応国際科学技術協力 (SATREPS)) 国際協力機構地球環境部防災第一チーム 1. 案件名国名 : フィリピン共和国案件名 : 和名 フィリピンにおける極端気象の監視 情報提供システムの開発 英名 The Project for Development of Ex

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事業事前評価表 国際協力機構農村開発部農業 農村開発第一グループ第二チーム 1. 案件名国名 : インドネシア共和国案件名 : 和名農業保険実施能力向上プロジェクト英名 The Project of Capacity Development for the Implementation of Agr

政府説明資料

は Blue Print for Air Transportation にて民間航空長期計画を作成 アクションプラン DGCA 5-Year Strategic Plan を作成した上 航空安全に係る総合的な対策の強化を図っており 本事業はこれに寄与するもので

事業事前評価表 国際協力機構産業開発 公共政策部法 司法チーム 1. 案件名国名 : ブラジル連邦共和国案件名 : ( 和文 ) 地域警察活動普及プロジェクト ( 英文 )Project on Nationwide Dissemination of Community Policing 2. 事業の

(2) 当該国における地震防災分野の開発政策と本事業の位置づけネパール政府は 2009 年に災害リスク国家管理戦略を制定し 対象災害の一つとして地震を上げている 地震防災分野は 2009 年に設置された National Platform for Disaster Risk Reduction にお

事業事前評価表

事業事前評価表

ログラムの審査に産業界からも参画を得ることで 大学がエンジニア予備軍である学部学生に対し社会のニーズに即した教育を実践できるよう 促進する役割を果たしている かかる状況の下 エンジニアの量的拡大が質を伴う形で実現されるよう インドネシア政府は我が国に対し LAM-PS としての インドネシアエンジニ

事業事前評価表

事業事前評価表 1. 案件名国名 : ラオス人民民主共和国案件名 : ルアンパバーン世界遺産の持続可能な管理保全能力向上プロジェクト Project for Capacity Enhancement for Sustainable World Heritage Management and Pres

事業事前評価表

護ディプロマ課程を 3 年制看護ディプロマ課程に変更したのに加え ディプロマ課程看護師の現任研修により学士が取得できる 2 年制ポスト ベーシック課程とは別に大学教育として看護学士課程制度 (4 年制 ) を導入することを定めた 学術的に高度な 4 年制看護学士課程の卒業生は輩出されたばかりであるが

事業事前評価表 国際協力機構産業開発 公共政策部資源 エネルギーグループ第二チーム 1. 案件名国名 : ザンビア共和国案件名 : 和名ザンビアにおける鉛汚染のメカニズムの解明と健康 経済リスク評価手法および予防 修復技術の開発英名 The Project for Visualization of

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援 GHGインベントリ策定にかかる技術移転等 気候変動対策を推し進めるための包括的な支援を実施した 同プロジェクトの成果として 国家気候変動緩和行動計画 (RAN-GRK) に基づき州気候変動緩和行動計画 (RAD-GRK) の策定が進められるとともに 国家気候変動適応行動計画 (RAN-API)

欠であり 運輸交通分野を中心に膨大なインフラ投資が必要になると見込まれる これらのインフラ整備にあたっては 案件ごとにマスタープランから工事まで段階を踏んで検討 建設が進められるが 対象地の地形などを確認 把握するため 検討段階に応じた精度の地図が必要となる 現在 同国では基本的な測地基準点網が整備

事業事前評価表

事業事前評価表 国際協力機構地球環境部環境管理第一チーム 1. 案件名 国名 : パキスタン国案件名 : 和名パンジャブ州上下水道管理能力強化プロジェクト英名 Project for Improving the Capacity of WASAs in Punjab Province 2. 事業の背

番号 : 国名 : フィリピン担当 : 地球環境部防災グループ防災第一チーム案件名 : 高品質な気象観測 予報 警報能力強化プロジェクト詳細計画策定調査 ( 気象観測 / 予警報 ) 1. 担当業務 格付等 (1) 担当業務 : 気象観測 / 予警報 (2) 格付 :3 号 (3) 業務

事業事前評価表 国際協力機構社会基盤 平和構築部運輸交通 情報通信グループ 1. 案件名国名 : バングラデシュ国案件名 : 和名橋梁維持管理プロジェクト 有償勘定技術支援 英名 Bridge Management Capacity Development Project 2. 事業の背景と必要性

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新JICAにおける事前評価(技協・無償)について

4

令 (2006 年 5 号 ) では 2025 年までの国家エネルギー政策の数値目標を設定し エネルギー供給量に対する新 再生可能エネルギーの目標値を 17%( うち地熱エネルギーは 5 %) に定めた また 2010 年の Vision 25/25 において 新 再生可能エネルギーの目標値を 25

研究は重要項目とされている 本事業は CERMEL と長崎大学の共同研究を通じて 1 対象地域におけるウイルス感染症の流行状況の解明 2 新規に同定されたウイルスの性状解析 3 公衆衛生対策上優先度の高いウイルスに対する診断法の開発を行い ガボン側研究機関のウイルス感染症研究開発の能力向上に貢献する

事業事前評価表 ( 地球規模課題対応国際科学技術協力 (SATREPS)) 農村開発部農業 農村開発部第二グループ 1. 案件名国名 : スーダン共和国案件名 : 和名ストライガ防除による食料安全保障と貧困克服英名 The project for development of counter mea

政府説明資料

と衝突して沈没し 147 人が死亡 2014 年 8 月にはパドマ川で約 250 人を乗せたフェリーが荒天のため転覆し 110 人が死亡等の大事故が発生している また 同国は 雨季には大型サイクロンが度々ベンガル湾から来襲し 沿岸部で遭難事故が多発するなど 地理的に自然災害の影響を受けやすい地域であ

新JICAにおける事前評価(技協・無償)について

事業事前評価表

(Microsoft Word - \216\226\221O\225]\211\277\225\\ doc)

事業事前評価表

Rodrigo Domingues UNDP Borja Santos Porras/UNDP Ecuador UNDP Kazakhstan 2

2008年6月XX日

事業事前評価表

布 ) の提供を開始するとともに 国民に対し分かりやすい説明を行い普及に努めること 図った 複数地震の同時発生時においても緊急地震速報の精度を維持するための手法を導入するとともに 緊急地震速報の迅速化を進める 特に 日本海溝沿いで発生する地震については 緊急地震速報 ( 予報 ) の第 1 報を発表

政府説明資料

事業事前評価表

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事業事前評価表

Microsoft Word - MMR事業事前評価表.doc

資料6 (気象庁提出資料)

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架鉄道三路線 ( うち 二路線は軽量 ) の総延長は 50km にとどまっている 首都圏南方については マニラ市ツツバンからカブヤオ市ママティッドまでの区間を頻度の低い通勤線が非電化路線として運行しているのみである 首都圏北方は 居住エリアが拡大しているものの 十分な公共交通手段が確保されていないた

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区間を頻度の低い通勤線が非電化路線として運行しているのみであり 十分な公共交通手段が確保されていないため 同エリアと周辺に住む住民はバスや自動車等により通勤しているが 道路の混雑により 通勤に大きな支障が出ている 加えて 南北鉄道事業南線 ( 通勤線 ) ( 以下 本事業 という ) の対象区間には


ジャカルタ大都市圏空港整備計画調査の必要性については JICA が 2008 年 1 月に実施した 次世代航空保安システム整備に係るフィージビリティー調査 でも提言がなされており 既存空港の拡張及び効率的運用を含めたジャカルタ首都圏周辺の適切な空港整備に係る長期的な計画を策定する必要性は高い インド

JICA 事業評価ガイドライン ( 第 2 版 ) 独立行政法人国際協力機構 評価部 2014 年 5 月 1

率 九州 ( 工 -エネルギー科学) 新潟 ( 工 - 力学 ) 神戸 ( 海事科学 ) 60.0 ( 工 - 化学材料 ) 岡山 ( 工 - 機械システム系 ) 北海道 ( 総合理系 - 化学重点 ) 57.5 名古屋工業 ( 工 - 電気 機械工 ) 首都大学東京

政府説明資料

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(CANACINTRA) 等と連携を図りつつ設置する案を有しており 国家中小企業コンサルタント養成 認定制度を具現化するためにいかにして事業を進めていくかが課題となっている (2) 相手国政府国家政策上の位置づけカルデロン大統領は 近代的かつ競争力のある経済の強化及び雇用の創出 を 治安 貧困撲滅

のような事象でさえ わずか数分前の警告によって生命を救えることもある リスクの発生を定期的に再検討することが重要である たとえば 気候変動やその他の変化の結果として極端な気象現象 ( 暴風雨 熱波 野火など ) の発生頻度や激しさが高まる可能性があり 新たな地球物理学的データやその他のデータによって

Microsoft Word - 事前評価

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評価調査結果要約表 1. 案件概要 国名 : メキシコ合衆国案件名 : メキシコ国電子分野における研究 教育手法の開発分野 : 中小企業振興援助形態 : 技術プロジェクト所轄部署 : 中南米部中米 カリブチーム協力金額 ( 評価時点 ):20,375 千円協力期間 (R/D):2003 年 11 月

<4D F736F F D208E968BC68E96914F955D89BF955C F8BC F91BA8A4A94AD B D815B83938E968BC6816A2E646F63>

支援 及び 不均衡の是正と安全な社会造りへの支援 の中で重点分野として掲げており また JICA も国別分析ペーパーの協力プログラムにおいて 首都圏の都市基盤整備プログラム や 地方開発 拠点都市圏整備プログラム の中で開発課題として位置づけている 上水道セクターにおいては 日本は下記 3.(9)

火山防災対策会議の充実と火山活動が活発化した際の協議会の枠組み等の活用について(報告)【参考資料】

(2) 当該国における保健医療セクターおよび科学技術セクターの開発政策と本事業の位置づけ インドネシア保健省は 国家長期保健開発計画 およびその具体的な施策となる 保健セクター戦略計画 において感染症対策を重点項目の一つに位置づけている また インドネシア研究

事業事前評価表

津波情報に活用する観測地点の追加について 別紙 津波情報への活用を開始する海底津波計の分布図 活用を開始する海底津波計沿岸の津波観測点 GPS 波浪計海底津波計 活用を開始する海底津波計の地点名称は 沖 を省略して記載しています ( 宮城牡鹿沖 及び 茨城神栖沖 を除く)

先行的評価の対象とするユースケース 整理中. 災害対応に関するユースケース. 健康に関するユースケース. 移動に関するユースケース. 教育に関するユースケース. 小売 物流に関するユースケース 6. 製造 ( 提供した製品の保守を含む ) に関するユースケース 7. 農業に関するユースケース 8.

事業事前評価表

構築等 相手国の意思決定が必要な政策面で懸念される点がある 今後 全体設計の実現に向け た強固な活動が期待される 4-1. 国際共同研究の進捗状況について本プロジェクトは統合データベースと観測評価システムの開発を第一段階とし 物理モデルの構築 シナリオ解析に基づく評価 システムと技術の開発へと順次進

橡Ⅰ.企業の天候リスクマネジメントと中長期気象情

Microsoft Word - 事前評価表最終版0623final.doc

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豪雨災害対策のための情報提供の推進について

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Microsoft PowerPoint - 【XML気象データ】VLEDご紹介資料 ppt [互換モード]

0528事業事前評価表(円借款+附帯技プロ)final.doc

(Microsoft Word - \216\226\213\306\216\226\221O\225]\211\277\225\\Fin.doc)

気象庁 札幌管区気象台 資料 -6 Sapporo Regional Headquarters Japan Meteorological Agency 平成 29 年度防災気象情報の改善 5 日先までの 警報級の可能性 について 危険度を色分けした時系列で分かりやすく提供 大雨警報 ( 浸水害 )

The Consultative Group of GFDRR

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PowerPoint プレゼンテーション

Title2011 年タイ洪水とその被害 : 実地調査に基づく報告 Author(s) 木口, 雅司 ; 中村, 晋一郎 ; 小森, 大輔 ; 沖, 一雄 ; 沖, 治, 光一郎 第 7 回南アジアにおける自然環境と人間活動に関する研 Citation 究集会 : インド亜大陸 インドシナの自然災害

事業事前評価表 1. 案件名 ( 国名 ) 国際協力機構南アジア部南アジア第四課 国名 : バングラデシュ人民共和国案件名 : 貧困削減戦略支援無償 ( 教育 ) (Poverty reduction efforts) 2. 事業の背景と必要性 (1) 当該国における初等教育セクターの現状と課題バン

日本海溝海底地震津波観測網の整備と緊急津波速報 ( 仮称 ) システムの現状と将来像 < 日本海溝海底地震津波観測網の整備 > 地震情報 津波情報 その他 ( 研究活動に必要な情報等 ) 海底観測網の整備及び活用の現状 陸域と比べ海域の観測点 ( 地震計 ) は少ない ( 陸上 : 1378 点海域

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Microsoft Word - JPN_2007DB_chapter3_ doc

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SATREPS 公募説明会資料 2018 年 9 月独立行政法人国際協力機構 (JICA) 社会基盤 平和構築部国際科学技術協力室 1

無償資金協力 案件概要書 2017 年 8 月 29 日 1. 基本情報 (1) 国名 : カンボジア王国 (2) プロジェクトサイト / 対象地域名 : シハヌークビル特別市 プノンペン (3) 案件名 : 港湾近代化のための電子情報処理システム整備計画 (The Project for Port

防災 減災への民間情報の活用の必要性 東日本大震災において 明らかになった課題 従来の情報収集の取組 職員による現地調査 報道機関からの情報 通報 検知器 ( センサー ) 課題 対応できる人員の限界 小さな地域に関する情報の不足 紙情報が多い 情報の整理 管理が困難 設備 維持費用が大きい 上記課

政府説明資料

政府説明資料

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2 1 図 2 連邦政府と地方との役割分担 ( 出典 :FEMA) 2 2. 米国の危機管理システムの変遷 1950 Disaster Relief Act Civil Defense Act National Flood Insurance Act

資料 - 5 討議議事録 (M/D)

あおぞら彩時記 2017 第 5 号今号の話題 トリオ : 地方勤務の先輩記者からの質問です 気象庁は今年度 (H 29 年度 )7 月 4 日から これまで発表していた土砂災害警戒判定メッシュ情報に加え 浸水害や洪水害の危険度の高まりが一目で分かる 危険度分布 の提供を開始したというのは本当ですか

付録2 第26号科学衛星(ASTRO-H)プロジェクトについて

DIAS COMMUNITY FORUM 2018 東南アジアにおける 農業マーケットでの取り組み ( 天候インデックス保険 次世代型農業保険 ) 2018 年 3 月 9 日 企業商品業務部リスクソリューショングループ郷原健 2017 Sompo Japan Nipponkoa Insurance

地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム (SATREPS) JST 中間評価 1 の実施要領 平成 29 年 6 月改定 JST 国際部 SATREPS グループ 1. 地球規模課題国際科学技術協力 (SATREPS) プロジェクトの中間評価について SATREPS は JST による研究支援お

Transcription:

事業事前評価表 ( 地球規模課題対応国際科学技術協力 (SATREPS)) 国際協力機構地球環境部防災第一チーム 1. 案件名国名 : フィリピン共和国案件名 : 和名 フィリピンにおける極端気象の監視 情報提供システムの開発 英名 The Project for Development of Extreme Weather Monitoring and Information Sharing System 2. 事業の背景と必要性 (1) 当該国における防災セクターの開発実績 ( 現状 ) と課題フィリピン共和国 ( 以下 フィリピン国 とする ) は台風の経路である太平洋西縁の亜熱帯モンスーン地域に位置しており 1 年を通じて熱帯低気圧 南西 北東モンスーン及び激しい雷雨などの様々な気象災害に見舞われ 洪水 地滑りにより過去多くの尊い人命が失われてきた世界でも有数の気象災害の被災国である 近年では 2011 年の熱帯暴風雨センドンにより被災者数約 117 万人 死者約 1,250 人 2012 年の台風パブロにより被災者数約 540 万人 死者約 540 人 2014 年の台風ヨランダにより被災者数約 1,600 万人 死者約 6,200 人という大きな被害をもたらしている このように毎年発生する台風災害による人的 経済的被害は甚大であり 農業生産 物流等の社会資本への度重なる被害は経済活動へ深刻かつ長期的な影響を与えている また国の基幹産業の一つである農業を支えている貧困層の生活をより苦しめており 貧困削減の観点からも貧困層の災害リスクを緩和するための効果的な対策が急務となっている 社会資本及び首都機能が集中するマニラ首都圏では 経済被害の軽減 緩和のためにも特に災害対策が急務となっている マニラ首都圏においては 台風や積乱雲の急激な発達による集中豪雨による洪水や土砂災害 それによる家屋や建築物の損壊 流出 交通マヒ 人命被害などが懸念されるが こうした極端気象による被害を軽減するためにはあらゆる角度からの気象観測密度及び精度の充実と予測技術の向上が必要となる フィリピン国は東南アジア諸国の中では比較的気象業務体制やインフラが整っているが 極端気象の観測 予測 中でも局所的で短時間に急変する積乱雲に起因する極端気象 ( 豪雨 雷 ) の予測は難しい フィリピン国では科学技術省 (Department of Science and Technology: DOST) が科学技術政策の策定及び実施を担っており その傘下のフィリピン先端科学技術研究所 (Advanced Science and Technology Institute: ASTI) は科学技術開発を担っている

防災関連機関としては フィリピン気象天文庁 (Philippine Atmospheric, Geophysical and Astronomical Services Administration: PAGASA) は国家気象機関として 災害を引き起こす気象現象を監視し 国の防災管理体制の中で気象に関する情報を提供する役割を担っている また メトロマニラへの災害情報の提供は 市民防衛局 (Office of Civil Defense (OCD) やマニラ首都圏開発庁 ( Metro Manila Development Authority :MMDA) が担っている こうした状況の中 DOST より ASTI を実施機関として マニラ首都圏における極端気象 ( 豪雨 雷 ) 及び台風強度の短時間予報技術の開発を通じて マニラ首都圏の極端気象による被害軽減を図ることを目的として フィリピンにおける極端気象の監視 情報提供システムの開発 ( 地球規模課題対応国際科学技術協力 ) が要請された (2) 当該国における防災セクターの開発政策と本事業の位置づけ フィリピン開発計画(2011 年 -2016 年 ) では 自然災害分野における戦略枠組みの一つとして モニタリング 予報 早期警報 リスク評価 リスク管理に関わる国及び地域レベルの能力を向上させる という項目を設定している また 2010 年の共和国法 10121 号 災害リスク軽減 管理法 では 国及び地域レベルの災害対応組織や一般の広報メディアに正確かつタイムリーに情報を提供する国家レベルでの早期警報 緊急警戒システムの構築の必要性が言及されており 災害に関わる予報や警報の伝達が重要であるとしている このように 自然災害に関わる予報 警報能力の向上はフィリピン国の国家政策 共和国法において明確に位置づけられており マニラ首都圏における極端気象及び台風強度の短時間予報技術の開発を目的とした本事業は国家開発政策と合致する (3) 防災セクターに対する我が国及び JICA の援助方針と実績対フィリピン共和国国別援助方針 ( 平成 24 年 ) では 脆弱性の克服と生活 生産基盤の安定 ( 中目標 ): 災害リスク軽減 管理 ( 小目標 ) が重点分野の一部として位置づけられており マニラ首都圏における極端気象及び台風強度の短時間予報技術の開発を目指す本事業は 当該計画の方針に即したものである また 本事業と関連する我が国の援助は 技術協力プロジェクト 気象観測 予報 警報能力向上プロジェクト を実施中であり (2014 年 ~2017 年 ) また 無償資金協力 気象レーダーシステム整備計画 (2009 年 11 月 ~2013 年 ) でビラク アパリ ギウアンの 3 か所で気象観測レーダーの整備を行った 更にギウアンの気象観測レーダーが台風ヨランダで被災したことから 無償資金協力 台風ヨランダ災害復旧 復興計画 (2014 年 ~2016 年 ( 気象観測レーダーのコンポーネント )) により復旧を行った (4) 他の援助機関の対応韓国国際協力団 (KOICA) が自動気象観測装置の全国展開と PAGASA 本部にお

けるデータ収集整理に必要なコンピュータ機材関連の支援を行っている KOICA は 2013 年から 2015 年の間 気象情報における ICT の応用 数値予報 1 および海上予報などについて韓国気象庁にて研修を行っている 本プロジェクトとの重複はない 3. 事業概要 (1) 事業目的 ( 協力プログラムにおける位置づけを含む ) 本事業は 稠密及び全国規模観測網による雷及び気象の準リアルタイム (10 分間隔程度 ) での監視システムの構築 人工衛星データによる準リアルタイム (10 分間隔程度 ) での雲立体構造の監視システムの構築 外挿手法 2 による極端気象 ( 豪雨 雷 ) 及び台風強度の短時間予報技術の開発 短時間予報を防災関係機関に情報提供するためのソフトウェアの開発を行うことにより 先端科学技術研究所によって マニラ首都圏における外挿手法による極端気象 ( 豪雨 雷 ) 及び台風強度の短時間予報技術の開発を図り もってマニラ首都圏の防災関係機関が提供された情報を警報発出などの防災活動に活用することに寄与するものである (2) 事業スケジュール ( 協力期間 ) 2017 年 4 月 ~2022 年 3 月を予定 ( 計 60 ヶ月 ) (3) 本事業の受益者 ( ターゲットグループ ) 直接受益者 : 先端科学技術研究所 (ASTI) 研究者 18 名 フィリピン大学ディリマン校 ( 環境科学 気象研究所 国家地質科学研究所 電気電子工学研究所 ) 研究者 26 名 (4) 総事業費 ( 日本側 ) 約 3.0 億円 (5) 相手国側実施機関研究代表機関 : 先端科学技術研究所 (ASTI) 共同研究機関 : フィリピン大学ディリマン校 ( 環境科学 気象研究所 国家地質科学研究所 電気電子工学研究所 ) (6) 国内協力機関研究代表機関 : 北海道大学共同研究機関 : 東北大学 首都大学東京 東京大学 海洋研究開発機構 サレジオ工業高等専門学校 群馬大学 千葉大学 東京学芸大学 滋賀医科大学 横浜国立大学 琉球大学 名古屋 1 物理学の方程式により 風や気温などの時間変化をコンピュータで計算して将来の大気の状態を予測する方法 2 既知の数値データを基にして そのデータの範囲の外側で予想される数値を求める手法

大学 専修大学 大阪大学 防災科学技術研究所 茨城大学 苫小牧高等専門学校 北海道情報大学 高知工科大学 高知大学 (7) 投入 ( インプット ) 1) 日本側長期専門家 ( 業務調整員 )60M/M 短期専門家 ( 在外研究員派遣 : 総括 / 研究代表 稠密観測 雷放電 雷 雲観測データ解析 地上気象観測 雷 降水データ長期変動解析 雷 降水稠密観測データ解析 全国規模雷観測システム構築及びデータ解析 衛星データ解析 衛星運用 業務調整供与機材マニラ首都圏観測用雷 気象センサー約 50 セット 全国規模観測用雷 気象センサー約 10 セット ELF 観測システム 1 セット 雷 雲観測データ処理装置 1 セット 衛星運用地上観測設備 1 セット 衛星データ処理システム 1 セット ラジオゾンデ及び風船 124 セット 雲粒子ゾンデ観測装置 1 セット ドロップゾンデ 20 セット 情報提供ソフトウェア開発のためのコンピュータシステム 1 セット研修員受入 ( 長期外国人研究員受入 : 衛星データ解析及び地上運用 雷 降水データ解析 短期外国人研究員受入 : 雷観測 衛星データ解析及び地上運用 雷 降水データ解析 ) 2) フィリピン国側カウンターパートの配置 プロジェクトディレクター プロジェクトマネージャー 研究員 執務スペース プロジェクト運営管理費( 国内出張旅費など ) プロジェクト活動に必要となる機材の運用 維持管理経費 (8) 環境社会配慮 貧困削減 社会開発 1) 環境に対する影響 / 用地取得 住民移転 1 カテゴリ分類 (A,B,C を記載 ):C 2 カテゴリ分類の根拠 : 本事業は 国際協力機構環境社会配慮ガイドライン (2010 年 4 月公布 ) 上 環境への望ましくない影響は最小限であると判断されるため 2) ジェンダー平等推進 平和構築 貧困削減特になし

3) その他 特になし (9) 関連する援助活動 1) 我が国の援助活動 既述のとおり 無償資金協力 気象レーダーシステム整備計画 でビラク アパ リ ギウアンの 3 か所で気象観測レーダーの整備を行った 更にギウアンの気象観 測レーダーが台風ヨランダで被災したことから 無償資金協力 台風ヨランダ災害 復旧 復興計画 で復旧を行った また 技術協力プロジェクト 気象観測 予報 警 報能力向上プロジェクト を実施中 適宜 情報交換や成果 教訓の活用を行う 2) 他ドナー等の援助活動 ASTI に関しては 他ドナーからの援助実績はない マニラ首都圏の気象分野に関係する最近のドナーの援助事業は PAGASA を対象としており 以下の通り 3 ドナー 事業名 事業期間 韓国国際協力団 (KOICA) マニラ首都圏の災害被害軽減のための洪水早期警報自動化 (Automation of Flood Early Warning System for Disaster Mitigation in Greater Metro Manila) 2014-2015 オーストラリア開発庁 国連開発計画 (UNDP)/ オーストラリア開発庁 宇宙航空研究開発機構 (JAXA) / センティネルアジア米国国際開発庁 (USAID) マニラ首都圏リスクアセスメントプロジェクト (Greater Metro Manila (GGMA) Risk Assessment Project) マニラ首都圏における 持続的な開発を可能にする効果的な災害 気象リスク管理のための組織的能力強化 (Enhancing Greater Metro Manila s Institutional Capacities for Effective Disaster / Climate Risk Management towards Sustainable Development) センティネルアジア (Sentinel Asia): 衛星による気象情報の収集 回復力のある経済成長と安定のための 水の安全 (Water Security for Resilient Economic Growth and Stability: BE SECURE) 2010-2015 2010-2014 2013- 継続中 2014-2017 3 PAGASA ウェブサイトより http://www.pagasa.dost.gov.ph/index.php/floods/foreign-local-assisted-projects

4. 協力の枠組み (1) 協力概要 1) 上位目標と指標 先端科学技術研究所によるマニラ首都圏における外挿手法による極端気 象 ( 豪雨 雷 ) 及び台風強度の短時間予報の精度が向上し マニラ首都 圏の関係機関が 提供された情報を警報発出などの防災活動に活用する ( 指標 ) 4 1. 極端気象 ( 豪雨 雷 ) 及び台風強度の短時間予報の精度の向上 2. プロジェクトで開発されたシステムから提供される情報を気象予報 5 や警報発出に活用した機関の数 2) プロジェクト目標と指標 先端科学技術研究所において マニラ首都圏における外挿手法による極 端気象 ( 豪雨 雷 ) 及び台風強度の短時間予報技術が開発される ( 指標 ) 3) 成果 1. 地上観測網と衛星観測による開発された新規の観測システム 2. 開発されたマニラ首都圏における外挿手法による極端気象 ( 豪雨 雷 ) 及び台風強度の短時間予報技術 成果 1 稠密及び全国規模観測網による雷及び気象の準リアルタイム (10 分間 隔程度 ) での監視システムが構築される 成果 2 人工衛星データによる準リアルタイム (10 分間隔程度 ) での雲立体 構造の監視システムが構築される 成果 3 雷及び気象の稠密及び全国規模での地上観測データと人工衛星によ る雲画像データを基にしたマニラ首都圏における外挿手法による極 端気象 ( 豪雨 雷 ) 及び台風強度の短時間予報技術が開発される 成果 4 マニラ首都圏における外挿手法による極端気象 ( 豪雨 雷 ) 及び台風 強度の短時間予報について マニラ首都圏の防災関係機関への情報 提供を行うためのソフトウェアが開発される 5. 前提条件 外部条件 (1) 前提条件 フィリピンの防災政策が大きく変更しない 4 プロジェクト実施中にベースラインを設定する 5 プロジェクト実施中に目標値を設定する

(2) 外部条件 ( リスクコントロール ) なし 6. 評価結果 本事業は フィリピン国の開発政策 開発ニーズ 日本の援助政策と十分に 合致しており また計画の適切性が認められることから 実施の意義は高い 7. 過去の類似案件の教訓と本事業への活用 (1) 類似案件の評価結果フィリピン地球規模課題対応国際科学技術協力 地震火山監視能力強化と防災情報の利活用推進プロジェクト の終了時評価では 成果品のターゲットグループ ( ユーザー ) の特定とそれに応じた内容の検討が遅れてプロジェクトの進捗管理に影響があったが その原因は プロジェクトの開始当初で最終成果品のイメージに関する検討が十分行われなかったことであると指摘されている 詳細計画策定時やプロジェクト開始当初に 関係機関を交えてプロジェクトの最終的な成果品と社会実装のイメージについて プロジェクトで目指すレベルについて意見交換を行い そして その社会実装イメージにより適切に関係機関を設定して協力を開始することが重要との教訓が得られている (2) 本事業への教訓詳細計画策定調査及びプロジェクト開始の初期段階で 成果品のユーザーのニーズの把握を行いつつ 最終的な成果品と社会実装のイメージ プロジェクトで目指すレベルについて共通認識を持つ 8. 今後の評価計画 (1) 今後の評価に用いる主な指標 4.(1) のとおり (2) 今後の評価計画事業終了 3 年後事後評価 以上