先進企業の自然エネルギー利用計画 ( 第 11 回 ) 富士フイルムホールディングス電力と蒸気を自然エネルギー由来 100% に工場では風力 太陽光発電も拡大中
1. 自然エネルギーの利用方針と導入計画 富士フイルムグループは名称が示すように 写真用のフィルムの製造 販売から事業が始まった 創業は 85 年前の 1934 年 ( 昭和 9 年 ) である 現在はフィルムやカメラの事業 ( イメージング ) の売上高は全体の 2 割以下になった フィルムやカメラの製造で培った材料化学 光学 電子分野の技術を生かして 太陽電池や液晶ディスプレイといった高機能材料 さらに医療用の画像診断システムや化粧品を含むヘルスケア分野へ事業範囲が広がっている ( 図 1) 図 1. 富士フイルムグループの事業セグメントと売上高 (2017 年度 ) 一方で米国ゼロックスと合弁の富士ゼロックスの売上比率がグループ全体の 4 割を超える 電子技術を基盤とする富士ゼロックスが事業で使用するエネルギーは電力が主体だ そのほかのグループ会社では中核の富士フイルムを中心に化学系の製品が多く 製造工程では電力のほかに蒸気 ( 熱 ) を大量に使用する グループ全体で CO2( 二酸化炭素 ) の排出量を削減するために 当面は電力を自然エネルギーに切り替えて その後に蒸気も CO2 フリーで供給できるようにする方針を打ち出した 1
企業名 富士フイルムホールディングス株式会社 ( 富士フイルムグループの持株会社 ) 拠点数グループ 279 社 ( 連結対象 2019 年 3 月 31 日 ) 電力使用量 11 億 6700 万キロワット時 (2017 年度 グループ全体 ) 自然エネルギー電力の利用率 売上高 実績 :9% (2017 年度 ) 目標 :50% (2030 年度 ) 100% (2050 年度 ) 2 兆 4315 億円 (2018 年度 連結 ) 日本 :1 兆 65 億円 米州 :4628 億円 欧州 :3153 億円 アジアほか :6488 億円 ( うち中国 :2961 億円 ) 社員数 7 万 2332 人 ( 連結対象 2019 年 3 月 31 日 ) 主要事業 ドキュメント デジタルイメージング グラフィックシステム ヘルスケア 高機能材料 記録メディア 表 1. 富士フイルムグループの概要 富士フイルムグループは 2017 年に Sustainable Value Plan 2030(SVP2030) を策定して 2030 年度までに CO2 排出量を 30% 削減 (2013 年度比 ) する目標を掲げた CO2 排出量の約 3 割はエネルギーの使用に伴うものだ 工場を中心に省エネ対策を進めてエネルギーの使用量を低減しながら CO2 を排出しない自然エネルギーの電力の使用率を高めていく 目標達成に向けて 自然エネルギーの利用拡大を目指す国際イニシアチブの RE100 に 2019 年 4 月に加盟した グループ全体で購入する電力の 50% を 2030 年度までに自然エネルギーに切り替え さらに 2050 年度までに 100% へ引き上げる計画だ ( 図 2) それと並行してガスを主体にしたコージェネレーション ( 熱電併給 ) システムで供給している自家発電の電力と蒸気についても CO2 を排出しない水素などに転換していく 図 2.CO2 排出量の削減に向けたエネルギー転換イメージ 自家発電 ( 蒸気 電力 ) と購入電力の利用比率はほぼ上図のとおり 2
富士フイルムグループが全世界で年間に使用する電力のうち すでに 1 億 kwh( キロワット時 ) 以上 が自然エネルギーに切り替わっている ( 図 3) 2017 年度の電力使用量の 9% に相当する このうちオラ ンダの南部にある工場で使用する風力発電が大半を占める ( 写真 1) 図 3. 富士フイルムグループの自然エネルギー電力使用量の推移 MWh: メガワット時 (=1000 キロワット時 ) 写真 1. オランダのチルバーグにある工場に導入した風力発電設備 3
チルバーグにある工場は欧州における基幹工場の 1 つで 1982 年に操業を開始した 長年にわたって写真用の印画紙や印刷用の刷版を製造している 2011 年に 5 基の風車を設置して 工場で使用する電力の 15% を自家発電に切り替えた 1 基の発電規模は最大 2MW( メガワット ) で 合計 10MW になる さらに 2016 年 9 月にはオランダ南西部の北海に面した場所にある風力発電所と PPA( 電力購入契約 ) を結び 自家発電分と合わせて工場で使用する電力の 100% を風力発電で供給できる体制になった 富士フイルムグループでは自然エネルギーを利用するにあたって 経済合理性と環境面の両立を基本方針にしている 自然エネルギーは国や地域で導入コストに差があり 政府の補助などの違いもある そうした点を考慮して 経済合理性が成り立つ場所から自然エネルギーを導入していく ( 富士フイルム ESG 推進部環境 品質マネジメント部統括マネージャー兼富士フイルムホールディングス ESG 推進部マネージャーの岩間秀司氏 ) この方針のもと 中国の東部にある工場の屋上に太陽光発電設備を 2018 年に導入した ( 写真 2) 発電規模は 1.4MW である この工場では地域の補助制度の活用などにより 投資回収を短縮できる見込み ( 岩間氏 ) 今後も経済合理性を判断しながら 世界各地で自然エネルギーの利用を拡大していく 特に工場を新設 増設する時には 最初から屋上に太陽光発電設備を導入すればコストを抑制できる 写真 2. 中国の工場の屋上に設置した太陽光発電設備 日本国内では 熊本県にあるグループ会社の富士フイルム九州が 2006 年にいち早く太陽光発電を導入した 液晶ディスプレイの部材を製造する工場の建設に合わせて 管理棟の屋上に約 100kW( キロワット ) の太陽光発電設備を設置した ( 次ページの写真 3) 管理棟の照明が使用する年間の電力量とほぼ同量を太陽光発電で供給している 4
写真 3. 富士フイルム九州の本社管理棟の屋上に設置した太陽光発電設備 富士フイルムグループでは 2013 年から 事業場で自家発電した電力をグループ内で活用する取り組み も実施している 静岡県にある X 線用のフィルムなどを製造する富士宮事業場では 天然ガスを利用し たコージェネレーションシステムを導入して 電力と蒸気を自家消費している このコージェネレーションで発電した余力をグループの拠点にも供給する 電力会社の送電網を利用 してグループ会社に電力を送ることができる 自己託送 の制度を活用した 当初は東京電力の管内に限 定していたが ( 図 4) 現在は北陸や九州の拠点にも電力を供給している 図 4. 自家発電の電力をグループの各拠点に供給 (2013 年の開始当時 ) 5
富士宮事業場の発電余力を利用することによって 各拠点の電力需要のピークを抑制できる その結果 契約電力を合計で 30% 以上も低減できた 合わせて地域全体の電力の安定供給にも貢献できている 富士宮事業場から どの拠点に電力を送ると 需要を抑制するうえで最も効果的か 毎年見直している もともと夏の昼間に発生する電力需要のピークを抑えるために始めたことで 効果の高い工場を選んで電力を供給するようにしている ( 岩間氏 ) 自己託送の仕組みは太陽光発電の余剰電力にも応用できる 工場に設置した太陽光発電設備で日中に余剰電力が生じたら 自己託送で他の拠点に供給すれば ピーク電力を自然エネルギーで抑制することが可能になる 富士フイルムグループにはグループ全体の電力供給を一括で管理するシステムがある グループ全体で最適化を図り 電力の使用量を削減しながら自然エネルギーを拡大する狙いである 富士フイルムグループが全世界で使用するエネルギーの量は年々減っている 特に日本国内では石油 ( 重油など ) の使用量が 2013 年度から 2017 年度の 5 年間で半分近くまで減少した ( 図 5) 工場で使用するコージェネレーションの燃料を CO2 排出量の多い重油から排出量の少ない天然ガスに移行した効果である 図 5. 富士フイルムグループのエネルギー使用量の推移 TJ: テラジュール 電力の使用量を見ると 国内では最近の 5 年間で 9% 少なくなった 海外の電力使用量は横ばいだが そのうち 15% が自然エネルギーに切り替わっている 今後さらに国内 海外ともに省エネ対策を進めて 電力使用量を削減しながら 購入する電力を自然エネルギーに切り替えて CO2 排出量を減らしていく 6
国内でも自然エネルギー 100% の電力の価格を調査し具体的な検討に入った 自然エネルギーの電力を 調達する手段として証書を購入する方法もあるが 最終的な手段にとどめる方針だ 可能な限り自家発電 と購入電力を自然エネルギーに転換して 実際に排出する CO2 を削減していく さらに省エネに関しても手を緩めない LED 照明などエネルギー効率の高い機器を導入する対策だけにとどまらず 事業場の生産計画まで見直す 事業場で生産計画を立てる時に エネルギーの担当部門も加わって エネルギー効率も考慮した高効率生産を推進している できるだけ多くの生産ラインを同時に稼働 停止させれば コージェネレーションの運転時間を短縮できて エネルギーの消費量を減らせる 製造 生産管理 エネルギーの各部門が一体となって 全体最適の視点で高効率生産を目指す CO2 排出量の点では コージェネレーションで使用するガスも重要な課題だ 化学系の工場では大量の蒸気を必要とするため 今後もコージェネレーションを使ってエネルギーの効率を高めていく コージェネレーションに伴う CO2 排出量を削減するには 自然エネルギー由来のガスに転換する方法が最適である その有力な候補として CO2 フリーの水素などに期待をかけている 当社はこれまでに蓄積した自家発電のノウハウがある 産業界でも水素をコージェネレーションに 利用できる技術は確立しつつある 現時点で CO2 フリーの水素はコストとインフラが実用レベルになっ ていないが 国やエネルギー供給会社などにも働きかけて実用化を推進していきたい ( 岩間氏 ) 7
2. 期待する効果と今後の課題 富士フイルムグループが持続可能な社会を目指して 2017 年に策定した SVP2030 では 事業活動で排出する CO2 を削減するだけではなく 製品やサービスを通じて社会全体の CO2 削減に貢献していく方針を掲げた グループ全体の事業活動で排出する CO2 の累積量と 製品やサービスで削減できる CO2 の累積量を 2030 年度までに同等にする ( 図 6) 累積の排出量を累積の貢献量で相殺することによって気候変動の抑制に寄与する考え方である 図 6. 富士フイルムグループの CO2 貢献量 排出量の長期目標 2030 年度までに累積で 5000 万トンの貢献量を達成して 累積の排出量と同程度にすることが目標だ この長期目標に対して 2017 年度までの累積貢献量は 463 万トンになり 進捗率は 9% である 今後 2030 年度に向けて取り組みを加速させなくてはならない 社会全体の CO2 削減に貢献する代表的な例として 富士ゼロックスが提供するコピー機などの出力機器を対象にした 次世代型マネージド プリント サービス がある ( 次ページの図 7) 顧客の事業所におけるコピーや印刷の利用状況を専門スタッフが分析して 機器の配置や種類を最適化する 印刷枚数の削減と電力使用量の削減を通じて CO2 排出量の削減に貢献する 2015 年度と 2016 年度の 2 年間の実績では 出力機器の設置台数を 23% 削減して 印刷枚数を合計で 8 億 1000 万枚も減らすことができた CO2 排出量は 2 年間で 1 万トン以上を削減した さらに使用済みの出力機器を再生することによって 廃棄物の削減 資源の節約 製造時のエネルギー使用量の抑制につながる 再生した機器の導入率は現在までに 40% を超えた 8
図 7. 次世代型マネージド プリント サービス の提供イメージ 富士フイルムグループ全体の CO2 排出量を製品のライフサイクル全体で見ると 2017 年度には 46% が素材などの調達段階で発生している このほかには製造段階で 28% 輸送段階で 9% 使用段階で 15% 廃棄段階で 3% である 2013 年度と比べると すべての段階で CO2 排出量の削減が進んでいる ( 図 8) SVP2030 で掲げた 2030 年度の目標 (2013 年度比で 30% 削減 ) の達成は十分に可能な状況にある 図 8. 製品ライフサイクル全体の CO2 排出量の実績と目標 ライフサイクルの各段階における主な CO2 排出源は 調達段階ではアルミニウム 製造段階では電気やガスなどのエネルギー 使用段階ではコピー機やプリンターなどの出力機器である ( 次ページの図 9) このうちエネルギーの使用に伴う排出量は省エネと自然エネルギーで削減し 出力機器による排出量は次世代型マネージド プリント サービスなどで削減していく 9
図 9.CO2 排出量の内訳 (2017 年度 ) PET: ポリエチレンテレフタレート TAC: トリアセテート このほかに残っている CO2 の主な排出源はアルミニウムである 富士フイルムが印刷会社や新聞社に供給する刷版の材料にアルミニウムを使う コンピュータの出力データから印刷機の刷版 ( プレート ) を作る CTP(Computer To Plate) と呼ぶ製品だ 富士フイルムでは CTP の材料として欠かせないアルミニウムを再生して利用する クローズドループサイクル を実施している ( 図 10) 図 10. アルミニウムを再生して利用する クローズドループリサイクル CTP 版 /PS 版 : オフセット印刷用の刷版材料 通常アルミニウムは原材料のボーキサイトを精錬して製造するが その過程で大量の電力を消費する これに対してクローズドループサイクルでは 印刷会社などで使用済みの CTP を回収してアルミニウム を再生し 新しい CTP を製造する 10
アルミニウムの回収 再生に必要なエネルギーは従来の精錬と比べて少なくて済み CO2 排出量を削 減できる 新たにボーキサイトからアルミニウムを作る必要がなくなり 貴重な資源の節約にもなる 富士フイルムグループでは原材料の削減 再生や省エネによる経済効果を年度ごとに算出して 対策にかかったコストと比較する これを重要な指標として経営レベルの意思決定に生かす 経済効果は社内だけではなくて 産業廃棄物や CO2 排出量の削減といった社外の経済効果も加味する そうするとコストをはるかに上回る経済効果を得られることがわかる ( 図 11) 特に 2011 年度以降は コストに対して約 2.5~5 倍の経済効果を上げている 図 11. 富士フイルムグループの環境保全活動におけるコストと経済効果 ( 環境会計ガイドラインに基づいて算出 ) * 本レポートの内容はヒアリング実施日 ( 下記 ) の時点の情報です * 図と写真は富士フイルムホールディングスの提供によるものです ( 表 1 を除く ) ヒアリング実施日 :2019 年 6 月 26 日 レポート作成者 : 石田雅也 ( 自然エネルギー財団シニアマネージャー ) 自然エネルギー財団 Renewable Energy Institute 2019 11