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博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文

目次 はじめに第一章診断横断的なメタ認知モデルに関する研究動向 1. 診断横断的な観点から心理的症状のメカニズムを検討する重要性 2 2. 反復思考 (RNT) 研究の歴史的経緯 4 3. RNT の高まりを予測することが期待されるメタ認知モデル 9 4. ポジティブ信念の限界を二面性から検討する 心配の二面性の観点から 13 5. ポジティブ信念よりも RNT の予測力が強いことが期待される新たなメタ認知的信念 考え続ける義務感 16 6. 診断横断的なメタ認知モデル内での考え続ける義務感の位置づけ 19 7. RNT に対するメタ認知的信念の機能 23 8. メタ認知に焦点をあてた治療法 メタ認知療法 26 9. 本研究の目的 期待される意義 構成 32 要約 39 第二章心配に関するポジティブなメタ認知的信念と適応的な問題解決スタイルの関連 特性不安と注意制御を調整変数として ( 研究 1) 問題と目的 40 方法 41 結果 ( 仮説 1) 42 結果 ( 仮説 2) 44 考察 46 要約 49 第三章考え続ける義務感と様々な心理的症状の関連 RNT を媒介変数として ( 研究 2) 問題と目的 51 方法 54 結果 56 考察 59 要約 61

第四章考え続ける義務感の役割を考慮した診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 研究 3) 問題と目的 62 方法 64 結果 67 考察 70 要約 73 第五章考え続ける義務感を中心とした診断横断的なメタ認知モデルの臨床的適用性の検討 考え続ける義務感の低減をターゲットとしたメタ認知療法の実施 ( 研究 4) 問題と目的 74 方法 78 結果 ( 分析 1) 84 結果 ( 分析 2) 89 考察 92 要約 96 第六章総合考察 1. 研究背景の振り返りと検討結果の総括 97 2. RNT の診断横断性の妥当性 101 3. 考え続ける義務感を取り入れた診断横断的なメタ認知モデルと介入の妥当性 102 4. 理論的な貢献 104 5. 実践的な貢献 105 6. 本研究の限界と今後の展望 107 要約 111 本論文の要約 112 引用文献 116 付録 126

第一章診断横断的なメタ認知モデルに関する研究動向近年, 多くの心理的症状の診断横断的な要因の一つとされる RNT に関する研究は急速に増加している Wells により提起されているメタ認知モデルは,RNT がどのようにもたらされ, どのように様々な心理的症状を引き起こすのかといった一連のプロセスについて説明しうるものである つまり, 診断横断的なモデルといえる 当該モデルでは, ポジティブ信念とネガティブ信念といった二種類のメタ認知的信念が様々な心理的症状を予測するだけでなく, 特に, それら二種類のメタ認知的信念が,RNT の形成に寄与し, そのことによって, 様々な心理的症状を予測するプロセスを重視している しかし, 上記のモデルに基づいて得られたこれまでの知見は,RNT の種類を問わず測定する尺度を用いていなかった すなわち, 心配や反芻といったように, これまでは各心理的症状に特有とされる RNT を測定する尺度と, それに対応する心理的症状との関連が検討されてきた経緯がある このことから, 診断横断的な RNT を測定する尺度を用いて, メタ認知的信念や様々な心理的症状との関連を検討し,RNT の診断横断性を確立することが重要な課題であることを指摘した また,RNT の一部である心配をもたらす要因の一つであるポジティブ信念は, メタ認知理論の中での重要性が高いにも関わらず, 実際にはその予測力が弱いことが報告されている このことから, 診断横断的なメタ認知モデルの説明力を高めるためにも, ポジティブ信念の予測力の弱さの背景について検討した上で, ポジティブ信念よりも RNT の予測力が高い可能性がある考え続ける義務感の役割を検討し, 考え続ける義務感の役割を考慮した診断横断的なメタ認知モデルを構築することの必要性を論じた そして, そのようなモデルを構築したうえで, 考え続ける義務感の低減をターゲットとした介入が可能になれば, 介入期間の短縮や介入ターゲットのアセスメントの簡略化による, クライエントとスタッフ双方に利益をもたらす可能性があることを述べた 第二章心配に関するポジティブなメタ認知的信念と適応的な問題解決スタイルの関連 特性不安と注意制御を調整変数として ( 研究 1) ポジティブ信念の予測力の低さを説明する要因を探し, 新たな予測力の高いメタ認知的信念を明らかにするために, ポジティブ信念と適応的な問題解決スタイルの関連について検討した その際, ポジティブ信念によってもたらされる心配自体は, 特性不安や注意制御に調整されて, 適応的な問題解決スタイルと関連するといった実証研究の知見に基づいて, 心配の背後にあるポジティブ信念にも同様のプロセスがあることを想定した その結果, 特性不安が低い場合, および, 注意制御が高い場合, ポジティブ信念の高さは適応的

な問題解決スタイルと関連することが明らかとなった これらの結果から, ポジティブ信念には適応的な側面が混在していることによって, 様々な心理的症状に対する予測力が弱くなった可能性が示唆された 二つの条件下でポジティブ信念が適応的な問題解決スタイルと関連する理由に関しては, タイプ 1 の心配といった, 誰もが有するレベルの心配の予測にとどまっている可能性があることが述べられた 病的水準の不安症状がもたらされるのは, そのようなタイプ 1 の心配が持続し, 心配が制御不能性となる場合であった これらのことから, ポジティブ信念では, 心配の開始の段階から心配の制御不能性に至るまでの, 心配の持続性といった側面をとらえることが出来ていないことが指摘された したがって, 心配の持続性といった側面も捉えることが可能なメタ認知的信念を用いて, 既存のメタ認知モデルの中に位置づけていくことが望まれることも指摘された 第三章考え続ける義務感と様々な心理的症状の関連 RNT を媒介変数として ( 研究 2) 考え続ける義務感と様々な心理的症状の関連に対する RNT の媒介効果の検討を行った また, 様々な心理的症状に対する考え続ける義務感の予測力を相対的に判断するために, 既存のメタ認知モデルにおいて,RNT や様々な心理的症状に対する予測力が強いことで知られている, ネガティブ信念と様々な心理的症状に対する RNT の媒介効果の検討も行った その結果, 考え続ける義務感, およびネガティブ信念と様々な心理的症状の関連は,RNT に媒介されることが明らかとなった また, 様々な心理的症状に対する考え続ける義務感と RNT の説明力はネガティブ信念と RNT の説明力と同等レベルの予測力を有することも明らかとなった RNT や様々な心理的症状に対する考え続ける義務感の予測力が強かった理由に関しては, 考え続ける義務感がポジティブ信念とは異なり, 問題解決に向けて RNT の生起頻度を高める役割にとどまらず,RNT の持続性にも焦点を当てた信念であることが指摘された したがって, 既存のメタ認知モデルにおいて, 考え続ける義務感の役割を考慮することで, メタ認知モデルの説明力を高めうる可能性があることも指摘された 以上から, 研究 2 では, 考え続ける義務感の役割を考慮した診断横断的なメタ認知モデルを構築し, モデルの妥当性を検証することには意義があると結論づけた 第四章考え続ける義務感の役割を考慮した診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 研究 3)

考え続ける義務感を既存のメタ認知的信念と統合した診断横断的なメタ認知モデルを構築し, モデルの妥当性の検証を行った 具体的には, 既存のメタ認知モデルにおけるポジティブ信念を考え続ける義務感に置き換えたモデルを構築した その際, 考え続ける義務感やネガティブ信念によって形成される RNT が様々な心理的症状を予測するかといった診断横断的な側面を明確にするために,2 時点での縦断調査を行い, 症状は 2 時点目で測定した その結果,(a) 考え続ける義務感とネガティブ信念の高まりは, 様々な心理的症状を直接的に予測する,(b) 考え続ける義務感の高まりがネガティブ信念の高まりに寄与する,(c) 考え続ける義務感とネガティブ信念の高まりが RNT の高まりに寄与する,(d) RNT の高まりが様々な心理的症状を予測する, といった仮説モデルは妥当であることが示された また, 考え続ける義務感がネガティブ信念,RNT, そして, 様々な心理的症状すべての変数を予測することも明らかとなった このことから, 考え続ける義務感の低減をターゲットとした介入が, 既存のメタ認知療法の効果を高める可能性があることが指摘された さらに, 考え続ける義務感が RNT を駆動する初期段階の信念でありながら, 様々な不適応指標に対する予測力が強いことを踏まえると, これまで個別に実施されてきた, ポジティブ信念やネガティブ信念への介入を統合することが可能となり, 介入の効率化といった利益をもたらしうることも示唆された 第五章考え続ける義務感を中心とした診断横断的なメタ認知モデルの臨床的適用性の検討 考え続ける義務感の低減をターゲットとしたメタ認知療法の実施 ( 研究 4) 既存のメタ認知療法を修正し, 考え続ける義務感の低減をターゲットとした介入を実施し, 効果検証を行った 介入群と統制群に群分けを行い, 介入効果の検証を行った結果, 介入群においてのみ, 考え続ける義務感やネガティブ信念,RNT, そして, 様々な心理的症状の得点が, 介入前の時点からフォローアップの時点にかけて, 概ね低下することが示された また, 統制群への介入後のデータを, 介入群のデータに追加して介入効果を再度検証した結果, すべての指標の得点が介入前の時点からフォローアップの時点にかけて有意に低下することが示された また, 効果量に関しても, 中程度から非常に大きな効果量が認められた これらの結果から, 考え続ける義務感の低減をターゲットとしたメタ認知療法は, 様々な心理的症状を予測する諸要因や, 様々な心理的症状の低減に有用な治療技法であることが明らかとなった また, 考え続ける義務感を直接的に操作することによって, ネガティブ信念や RNT, そして, 様々な心理的症状の得点が低下した本研究の結果は, 研究 3 で構築した考え続ける義務感の役割を考慮した診断横断的なメタ認知モデルの

妥当性を因果関係のレベルで支持する知見となった そして, このことから, 考え続ける 義務感の役割を考慮した診断横断的なメタ認知モデルの臨床的適用性についても支持され た 第六章総合考察研究 1 から研究 4 で得られた知見の総括を行い, 考え続ける義務感の役割を考慮した診断横断的なメタ認知モデルの妥当性, および, 考え続ける義務感の低減をターゲットとしたメタ認知療法の有効性について論じた その際, メタ認知的信念と RNT, そして, 様々な心理的症状との関連についての先行研究の知見, および, 既存のメタ認知モデルとの対比を通して, 本論文を通して得られた知見の理論的, 実践的な有用性について議論した 具体的には, 考え続ける義務感は, 既存のメタ認知モデルにおいて使用されていたポジティブ信念では説明できていなかった RNT の持続をもたらすことによって, メタ認知モデルの説明力を高めうること, そして, そのことによって, 考え続ける義務感の低減をターゲットとした介入が心理的症状の低減に有効であること, が指摘された 以上の議論を踏まえ, 本研究の限界として, 調査対象者の特性や調査方法に起因する, 本研究において提起されたメタ認知モデルの検証の不十分さ, 同様に, 調査対象者の特性に起因する考え続ける義務感の低減をターゲットとしたメタ認知療法の有効性の一般化可能性に関する問題が論じられた したがって, 今後の展望としては, 臨床群を対象とした調査や介入を行い, 知見を積み重ねていくことによって, 診断横断的なメタ認知モデルやメタ認知療法の有効性の一般化可能性を拡張していくことの必要性について指摘した

論文目録 参考論文 Ⅰ 関係論文 1 著者名 : 向井秀文 杉浦義典論文題目 : 心配に関するポジティブなメタ認知的信念と問題解決スタイルの関連に対する注意制御の調整効果雑誌名 : パーソナリティ研究 ( 査読制度あり ), 受理済み (2017 年 9 月 5 日 ) 2 著者名 : 向井秀文 高岸幸弘 杉浦義典論文題目 : 考え続ける義務感と様々な心理的症状の関連の検討 反復思考を媒介変数と捉えて雑誌名 : パーソナリティ研究 ( 査読制度あり ), 受理済み (2017 年 10 月 23 日 ) Ⅱその他 3 著者名 : 向井秀文 柴山謙二論文題目 : 注意訓練の自己注目と不安および自尊感情への効果 : 個人介入と小グループ介入の比較を通して雑誌名 : 熊本大学教育学部紀要巻 ( 号 ), 頁, 発行年 :Vol.62,121-127, 2013 4 著者名 : 向井秀文 高岸幸弘 杉浦義典 柴山謙二論文題目 : 自己注目と不安の関連に対する自尊心の媒介効果の検討 Wells の S-REF モデルの視点から雑誌名 : パーソナリティ研究 ( 査読制度あり ) 巻 ( 号 ), 頁, 発行年 :Vol. 26 (2), 129-139, 2017