Microsoft Word - 運動が自閉症様行動とシナプス変性を改善する

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脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

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4. 発表内容 : 1 研究の背景 先行研究における問題点 正常な脳では 神経細胞が適切な相手と適切な数と強さの結合 ( シナプス ) を作り 機能的な神経回路が作られています このような機能的神経回路は 生まれた時に完成しているので はなく 生後の発達過程において必要なシナプスが残り不要なシナプス

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

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Microsoft Word - 【確定】東大薬佐々木プレスリリース原稿

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

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糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

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界では年間約 2700 万人が敗血症を発症し その多くを発展途上国の乳幼児が占めています 抗菌薬などの発症早期の治療法の進歩が見られるものの 先進国でも高齢者が発症後数ヶ月の 間に新たな感染症にかかって亡くなる例が多いことが知られています 発症早期には 全身に広がった感染によって炎症反応が過剰になり

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

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Microsoft Word - 【広報課確認】プレスリリース原稿(乘本)池谷‗RIKEN最終版

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

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り込みが進まなくなることを明らかにしました つまり 生後 12 日までの刈り込みには強い シナプス結合と弱いシナプス結合の相対的な差が 生後 12 日以降の刈り込みには強いシナプス 結合と弱いシナプス結合の相対的な差だけでなくシナプス結合の絶対的な強さが重要であることを明らかにしました 本研究成果は

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図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

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現し Gasc1 発現低下は多動 固執傾向 様々な学習 記憶障害などの行動異常や 樹状突起スパイン密度の増加と長期増強の亢進というシナプスの異常を引き起こすことを発見し これらの表現型がヒト自閉スペクトラム症 (ASD) など神経発達症の病態と一部類することを見出した しかしながら Gasc1 発現

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( 図 ) 自閉症患者に見られた異常な CADPS2 の局所的 BDNF 分泌への影響

平成24年7月x日

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 2 月 4 日 独立行政法人理化学研究所 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の進行に二つのグリア細胞が関与することを発見 - 神経難病の一つである ALS の治療法の開発につながる新知見 - 原因不明の神経難病 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は 全身の筋

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平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

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著者 : 黒木喜美子 1, 三尾和弘 2, 高橋愛実 1, 松原永季 1, 笠井宣征 1, 間中幸絵 2, 吉川雅英 3, 浜田大三 4, 佐藤主税 5 1, 前仲勝実 ( 1 北海道大学大学院薬学研究院, 2 産総研 - 東大先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ, 3 東京大学大

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

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世界初ミクログリア特異的分子 CX3CR1 の遺伝子変異と精神障害の関連を同定 ポイント ミクログリア特異的分子 CX3CR1 をコードする遺伝子上の稀な変異が統合失調症 自閉スペクトラム症の病態に関与しうることを世界で初めて示しました 統合失調症 自閉スペクトラム症と統計学的に有意な関連を示したア

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研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

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平成14年度研究報告

論文の内容の要旨


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( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

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平成 29 年 8 月 4 日 マウス関節軟骨における Hyaluronidase-2 の発現抑制は変形性関節症を進行させる 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 : 門松健治 ) 整形外科学 ( 担当教授石黒直樹 ) の樋口善俊 ( ひぐちよしとし ) 医員 西田佳弘 ( にしだよしひろ )

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すことが分かりました また 協調運動にも障害があり てんかん発作を起こす薬剤への感受性が高いなど 自閉症の合併症状も見られました 次に このような自閉症様行動がどのような分子機序で起こるのか解析しました 細胞の表面で働くタンパク質 ( 受容体や細胞接着分子など ) は 細胞内で合成された後 ダイニン

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生物時計の安定性の秘密を解明

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結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

染色体微小重複による精神遅滞・自閉症症例

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ごく少量のアレルゲンによるアレルギー性気道炎症の発症機序を解明

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学位論文の要約

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

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運動が自閉症様行動とシナプス変性を改善する 1. 発表者 : 小山隆太 ( 東京大学大学院薬学系研究科薬学専攻准教授 ) 安藤めぐみ ( 東京大学大学院薬学系研究科薬科学専攻博士課程 2 年生 ) 柴田和輝 ( 東京大学大学院薬学系研究科薬科学専攻研究当時 : 博士課程 3 年生 ) 岡本和樹 ( 東京大学大学院薬学系研究科薬科学専攻研究当時 : 博士課程 3 年生 ) 小野寺純也 ( 東京大学大学院薬学系研究科薬科学専攻博士課程 1 年生 ) 森下皓平 ( 東京大学大学院薬学系研究科薬科学専攻研究当時 : 修士課程 2 年生 ) 三浦友樹 ( 東京大学大学院薬学系研究科薬科学専攻研究当時 : 博士課程 3 年生 ) 池谷裕二 ( 東京大学大学院薬学系研究科薬学専攻教授 ) 2. 発表のポイント : 妊娠中に免疫が活性化されたマウス ( 母体免疫活性化 注 1) から生まれた仔マウスでは 自閉症様行動とシナプス密度の増加が生じ それらが自発的な運動により改善されました 母体免疫活性化により 脳内免疫細胞であるマイクログリアによるシナプス貪食 ( 注 2) が不全となることで正常なシナプス刈り込み ( 注 2) がおきず シナプス密度が増加しました 自発的な運動によってマイクログリアのシナプス貪食が促進されました 3. 発表概要 : 東京大学大学院薬学系研究科の小山隆太准教授と安藤めぐみ大学院生らの研究グループは 自閉症モデルマウスを用いて 自閉症の治療における運動の有効性を示しました 自閉症は 社会性障害やコミュニケーション障害を主な症状とする神経発達障害です 自閉症は患者やその家族の生活の質を損ねることが問題となっていました しかしながら その発症メカニズムは十分には解明されておらず 根本的な治療法も確立されておりません 研究グループは 自発的な運動が自閉症モデルマウスにおける自閉症様行動と 脳内シナプス密度の増加を改善させることを発見しました また 自閉症モデルマウスでは脳内免疫細胞であるマイクログリアによるシナプス貪食が不全となっており 運動がシナプス貪食を促進させ シナプス密度を正常化することを明らかにしました 本研究から 自閉症の発症および治療におけるマイクログリアの重要性が明らかとなりました 本研究成果が 自閉症の発症メカニズムのさらなる解明や 新規治療ターゲットの創出に繋がることが期待されます 4. 発表内容 : 研究グループは 自閉症モデルマウスを用いて 運動が自閉症様行動やシナプス変性にもた らす影響を調べました

1) 運動によって 自閉症様行動が改善される運動は記憶や学習といった脳機能の向上に寄与することが示唆されています 研究グループは 神経発達障害である自閉症の治療法として 運動が有効である可能性を検証しました 自閉症のリスク要因の一つに 妊娠中のウィルス感染があります そこで本研究では 母体免疫活性化による自閉症モデルマウスを用いました これは 妊娠マウスに二重鎖 RNAである poly(i:c) を投与し免疫反応を惹起することでウィルス感染を模倣するもので 生まれてきた仔マウスは成長後に自閉症様行動を示します まず 成体期になった自閉症モデルマウスの飼育ケージに回し車を入れ 1か月間 自発的な車輪運動をさせました その後 行動試験を行ったところ 社会性障害や常同行動などの自閉症様行動が改善されました ( 図 1) 2) 運動によって シナプス変性が改善される自閉症の発症にシナプス形態や機能の変性が関与することが示唆されているため 運動がシナプス変性を改善する可能性を検証しました 運動により 歯状回の顆粒神経細胞の活動が上昇しました そこで 顆粒神経細胞と海馬 CA3 野の錐体神経細胞との間に形成されるシナプスに着目したところ 成体期の自閉症モデルマウスでは シナプス密度が増加し これが発達期のシナプス刈り込み不全に由来することが明らかになりました 次に 自閉症モデルマウスに運動をさせたところ 成体期のシナプス密度がコントロール群と同程度にまで低下しました ( 図 2) 3) 運動によって マイクログリアによるシナプス貪食が促進されるマイクログリアは 発達期にシナプスを貪食してシナプス密度を制御し 正常な神経回路の構築に寄与することが示されてきました そこで 自閉症モデルマウスにおいてマイクログリアによるシナプス貪食が不全となっている可能性を検証しました その結果 発達期の自閉症モデルマウスでは マイクログリアによるシナプス貪食量が減少することが明らかになりました また 成体期に運動をさせた自閉症モデルマウスでは マイクログリアによるシナプス貪食量がコントロール群と同程度まで増加しました ( 図 3) 4) 神経細胞の活性化がマイクログリアによるシナプス貪食を促進する発達期のシナプス刈り込みにおいて マイクログリアは神経活動が相対的に弱いシナプスを貪食することが示唆されています そこで 顆粒神経細胞の活動上昇がシナプス貪食を促進させる可能性を検証しました 本研究では designer receptors exclusively activated by designer drugs (DREADD) システムを用いました このシステムは 遺伝子改変型 Gタンパク質共役型受容体を外在性の基質である clozapine N-oxide (CNO) によって特異的に活性化させるものです マウスの顆粒神経細胞の一部に興奮性 DREADD である hm3dq を強制発現させ CNO 投与により神経活動を上昇させたところ マイクログリアによるシナプス貪食が促進しました ( 図 4) この結果から 一部の顆粒神経細胞の活動が上昇したことで シナプス活動に強弱が生じ マイクログリアが活動の弱いシナプスを貪食した可能性が考えられます 以上の結果から 自閉症の発症や治療にマイクログリアによるシナプス貪食が関与することが示唆されました

今後の展開運動が自閉症における行動やシナプス変性を正常化するメカニズムの発見は 自閉症の治療法としての運動が有効である可能性を支持します また 本研究でシナプス変性への関与が示されたマイクログリアは 母体免疫活性化に強く反応する脳内免疫細胞として近年注目を集めています 本研究グループでは 母体免疫活性化により引き起こされるマイクログリアの変異とその脳機能への影響についてさらなる検証を進めています 5. 発表雑誌 : 雑誌名 : Cell Reports (6 月 4 日オンライン版 ) 論文タイトル :Exercise reverses behavioral and synaptic abnormalities after maternal inflammation 著者 :Megumi Andoh, Kazuki Shibata, Kazuki Okamoto, Junya Onodera, Kohei Morishita, Yuki Miura, Yuji Ikegaya, Ryuta Koyama 6. 問い合わせ先東京大学大学院薬学系研究科薬品作用学教室准教授小山隆太 ( コヤマリュウタ ) 113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1 Tel: 03-5841-4782 Fax: 03-5841-478 E-mail: rkoyama@mol.f.u-tokyo.ac.jp 7. 用語解説 : 注 1 母体免疫活性化妊娠期のウィルス感染による母体の免疫反応に伴って放出された炎症性サイトカインが 胎盤を通して胎児に影響する可能性が示唆されています 注 2 シナプス貪食とシナプス刈り込みシナプスは神経細胞が情報伝達を行うための構造です ヒトやげっ歯類において シナプスは発達期に過剰に形成され その後不要なものが除去されます この現象はシナプス刈り込みと呼ばれ 正常な脳発達に必要であるとされています なお マイクログリアによるシナプス貪食が シナプス刈り込みの基盤の一つであることが示されています

8 添付資料 図 1 運動によって 自閉症様行動が改善される (A) 3 チャンバー試験による社会性行動の評 価 ケージメイトまたは新奇マウスを探索した時間を測定し 全体の探索時間における割合を 算出した 自閉症モデルマウスでは新奇マウスの探索時間が減少し社会性の低下が見られたが 運動によりコントロールレベルまで上昇した (B) 毛づくろいの時間の測定による常同行動の 評価 自閉症モデルマウスでは毛づくろいの時間が増加したが 運動によりコントロールレベ ルまで減少した 図 2 運動によって シナプス密度の増加が抑制される (A) 上 海馬 CA3 野におけるプレシ ナプスおよびポストシナプスの免疫染色画像 下 プレシナプスとポストシナプスの共局在部 分をシナプスとした 自閉症モデルマウスではシナプス密度が増加した (B) 発達期から成体 期にかけての海馬 CA3 野におけるシナプス密度 コントロールマウスにおけるシナプス密度 の減少が自閉症モデルマウスでは確認されず 60 日齢までシナプス密度が維持されていた 一 方 運動をさせた自閉症モデルマウスでは 60 日齢におけるシナプス密度の増加が抑制された

図 3 運動によって マイクログリアによるシナプス貪食が促進される (A) マイクログリア リソソーム ポストシナプスの免疫染色画像 マイクログリアがリソソーム内にポストシナプ スを取り込み シナプスを貪食する様子 (B) マイクログリアによるシナプス貪食量 自閉症 マウスではコントロールマウスより少ないが 運動により増加した 一方運動によるシナプス 貪食の促進は マイクログリア活性化阻害作用のあるミノサイクリン投与で抑制された 図 4 神経細胞の活性化がマイクログリアによるシナプス貪食を促進する (A) DREADD 発現度 合とマイクログリアによるシナプス貪食量の関係 CNO 投与により神経活動を促進した群では DREADD 発現度合とシナプス貪食量が正に相関した (B) 本研究の概要 自閉症ではマイクロク ログリアによるシナプス貪食が不全となり過剰なシナプスが残存する そこで 運動により一部の 神経細胞が活性化され神経活動の差が生じると マイクログリアによるシナプス貪食が促進され 神経回路が正常化される