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1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

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考えられている 一部の痒疹反応は, 長時間持続する蕁麻疹様の反応から始まり, 持続性の丘疹や結節を形成するに至る マウスでは IgE 存在下に抗原を投与すると, 即時型アレルギー反応, 遅発型アレルギー反応に引き続いて, 好塩基球依存性の第 3 相反応 (IgE-CAI: IgE-dependent

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結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

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能性を示した < 方法 > M-CSF RANKL VEGF-C Ds-Red それぞれの全長 cdnaを レトロウイルスを用いてHeLa 細胞に遺伝子導入した これによりM-CSFとDs-Redを発現するHeLa 細胞 (HeLa-M) RANKLと Ds-Redを発現するHeLa 細胞 (HeL

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Mincle は死細胞由来の内因性リガンドを認識し 炎症応答を誘導することが報告されているが 非感染性炎症における Mincle の意義は全く不明である 最近 肥満の脂肪組織で生じる線維化により 脂肪組織の脂肪蓄積量が制限され 肝臓などの非脂肪組織に脂肪が沈着し ( 異所性脂肪蓄積 ) 全身のインス

( 様式甲 5) 氏 名 渡辺綾子 ( ふりがな ) ( わたなべあやこ ) 学 位 の 種 類 博士 ( 医学 ) 学位授与番号 甲 第 号 学位審査年月日 平成 27 年 7 月 8 日 学位授与の要件 学位規則第 4 条第 1 項該当 学位論文題名 Fibrates protect again

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博士の学位論文審査結果の要旨

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Wnt3 positively and negatively regu Title differentiation of human periodonta Author(s) 吉澤, 佑世 Journal, (): - URL Rig

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抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

長期/島本1

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ルグリセロールと脂肪酸に分解され吸収される それらは腸上皮細胞に吸収されたのちに再び中性脂肪へと生合成されカイロミクロンとなる DGAT1 は腸管で脂質の再合成 吸収に関与していることから DGAT1 KO マウスで認められているフェノタイプが腸 DGAT1 欠如に由来していることが考えられる 実際

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平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

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ASC は 8 週齢 ICR メスマウスの皮下脂肪組織をコラゲナーゼ処理後 遠心分離で得たペレットとして単離し BMSC は同じマウスの大腿骨からフラッシュアウトにより獲得した 10%FBS 1% 抗生剤を含む DMEM にて それぞれ培養を行った FACS Passage 2 (P2) の ASC

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脂肪滴周囲蛋白Perilipin 1の機能解析 [全文の要約]

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令和元年 10 月 18 日 がん免疫療法時の最適なステロイド剤投与により生存率アップへ! 名古屋大学大学院医学系研究科分子細胞免疫学 ( 国立がん研究センター研究所腫瘍免疫研究分野分野長兼任 ) の西川博嘉教授 杉山大介特任助教らの研究グループは ステロイド剤が免疫関連有害事象 1 に関連するよう

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博士学位申請論文内容の要旨

学位論文の要約

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RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

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骨形成における LIPUS と HSP の関係性が明らかとなった さらに BMP シグナリングが阻害されたような症例にも効果的な LIPUS を用いた骨治癒法の提案に繋がる可能性が示唆された < 方法 > 10%FBS と 抗生剤を添加した α-mem 培地を作製し 新生児マウス頭蓋骨採取骨芽細胞を

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

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抗菌薬の殺菌作用抗菌薬の殺菌作用には濃度依存性と時間依存性の 2 種類があり 抗菌薬の効果および用法 用量の設定に大きな影響を与えます 濃度依存性タイプでは 濃度を高めると濃度依存的に殺菌作用を示します 濃度依存性タイプの抗菌薬としては キノロン系薬やアミノ配糖体系薬が挙げられます 一方 時間依存性

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( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 森脇真一 井上善博 副査副査 東 治 人 上 田 晃 一 副査 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independent rejection of D d -, K d -, or D d K d -transgened mouse skin or tumor cells from C57BL/6 (D b K b ) mice (C57BL/6 (D b K b ) マウスは D d K d や D d K d 遺伝子を移入したマウスの皮膚や腫瘍細胞を 移入した遺伝子の発現量ではなく 移入した遺伝子の数に依存して拒絶する ) 背景 学位論文内容の要旨 機能不全に陥った細胞 組織 臓器を持つ患者への究極の医療の一つに移植があ る しかし 移植部に浸潤するレシピエントの免疫担当細胞が 移植片の主要組織 適合性抗原 (MHC: ヒト HLA マウス H-2) を非自己 ( 同種異型 ) と識別し 拒絶する MHC にはクラス I とクラス II が知られ 前者は有核細胞が 後者は抗原 提示細胞が発現している したがって 移植拒絶反応は 移植片上のクラス I 分子 をレシピエントの免疫担当細胞が非自己と認識し移植片を傷害することである ヒ ト HLA は A B C の 3 領域 それぞれ約 30 種類 60 種類および 10 種類からなり マウスでは D および K 領域のそれぞれに 10 数種類が知られている マウスでは K b 分子が突然変異を起こした bm1 bm10 や bm11 マウスの皮膚を野生型 (D b K b ) マウス に移植すると 全例 12~14 日で急性拒絶されることが報告されている しかし MHC の遺伝子多型や複雑性のために移植拒絶反応のメカニズム ( クラス I 分子の発 現量の拒絶反応への影響 2~3 領域の拒絶反応への貢献度およびリガンドと受容体 の相互作用の様式など ) には不明な点が多い - 1 -

目的 BALB/c (D d K d ) マウスとC57BL/6 (D b K b ) マウスは黄金ペアーとして知られ MHCの多型性も両系統を中心に調べられている また 移植部に浸潤するマクロファージ (D b K b ) が 移植片 (D d K d ) 上のH-2D d とH-2K d 分子をMacrophage MHC receptor 1 (MMR1) とMMR2によって それぞれ非自己と識別し拒絶することが見いだされている 本研究では 移植拒絶反応におけるH-2D d およびH-2K d 分子の役割を調べることを目的とした 方法 マウス :C57BL/6 (D b K b ) マウスにD d, K d やD d K d 遺伝子を移入したトランスジェニックマウスは理研と共同で作製し 同種同系のC57BL/6マウスと同種異系の BALB/c (D d K d ) マウス等は日本 SLCより購入した マウスはすべて雌を使用した 腫瘍細胞 :EL-4 (D b K b ) リンパ腫細胞にD d, K d やD d K d 遺伝子を移入した腫瘍細胞を作製した 同種同系細胞としてEL-4 (D b K b ) リンパ腫細胞 同種異系細胞として Meth A (D d K d ) 線維肉腫細胞を使用した 移植 : マウスの背部を麻酔下に剃毛後 種々のマウスの皮膚 ( 約 2 cm 角 ) を同じ大きさの皮膚を切除した野生型 C57BL/6マウスの背部に移植した 腫瘍細胞 (5 x 10 5 細胞 /50 l 燐酸緩衝液 ) は マウスの背部を麻酔下に剃毛後 皮内注射した 拒絶反応の判定 : 皮膚の大きさが保たれ白い毛が生える場合は 生着 移植片が消失し黒い毛が生える場合は 拒絶 と判定した 腫瘍細胞の場合は 腫瘍の増大 増大の遅延 消失を それぞれ 生着 部分拒絶 ( 遅延 ) 拒絶 と判定した 移入した遺伝子の発現量 : 移入した遺伝子の発現量は 腫瘍細胞と皮膚の蛋白分解酵素処理で得た遊離皮膚細胞を蛍光標識されたD d, K d 分子に対する抗体を用いてセルソーターで解析し mean fluorescence intensity (MFI) として定量化した - 2 -

結果 D d, K d や D d K d 遺伝子を移入したトランスジェニックマウスと D d, K d や D d K d 遺伝子を移入した EL-4 (D b K b ) リンパ腫細胞を樹立し 皮膚細胞や腫瘍細胞における D d, K d や D d K d 遺伝子の発現量を定量した 野生型 C57BL/6 (D b K b ) マウスへの BALB/c (D d K d ), B10.D2 (D d K d ) や BDF1 (D b D d K b K d ) マウスの非自己 ( 同種異型 ) 皮膚移植片は移植後 12~14 日で 全例 拒絶されたが 同種同系 (D b K b ) マウスの皮膚移植片は 全例 生着した 生着群と拒絶群において D d, K d や D d K d 遺伝子の発現量に有意差は無く C57BL/6 (D b K b ) マウスに D d, K d や D d K d 遺伝子を移入したマウスの皮膚移植片は クラス I 遺伝子の発現量非依存的に それぞれ 9/19 (47%), 20/39 (51%), 12/17 (71%) が拒絶された 同様に C57BL/6 マウスへ皮内注射した同種異型 Meth A (D d K d ) 線維肉腫細胞は 全例 拒絶され 同種同系 EL-4 リンパ腫細胞は 全例 移植部で増殖した D d K d や D d K d 遺伝子を移入した EL-4 細胞は それぞれ2 種類のクローンで移入した遺伝子の発現量が異なるが 1 種類の遺伝子の移入では同種同系の場合より 10~13 日遅れて皮内で増殖し始め 2 種類の遺伝子の移入では さらに 1 週間増殖が遅れ その内の 40% が拒絶された 結語 1)MHC クラス I 分子が 1 種類異なる同種異型の皮膚移植片は 約半数が拒絶され 従来の報告 ( 全例拒絶 ) とは異なり拒絶反応は軽度である 2)D d と K d 遺伝子は非自己 MHC クラス I 分子をコードする遺伝子として等価である 3)C57BL/6 (D b K b ) マウスに D d, K d やD d K d 遺伝子を移入したマウスの皮膚や腫瘍細胞は 移入した遺伝子の発現量ではなく 移入した遺伝子の数に依存して拒絶された 4) 移植後 2 週間以降には 移植片の生着と腫瘍細胞の増殖が見られたことから 移植拒絶反応が 移植後 約 2 週間で終わることが推測された これらの結果は 移植後 1~ 2 週間に MHC クラス I 分子と受容体との結合の特異的な阻害剤を患者に投与することによる免疫抑制などの副作用のない テーラーメイド移植医療の可能性を示唆するものである - 3 -

( 様式 6) 審査結果の要旨および担当者 報告番号甲第号氏名井上善博 主査 森脇真一 論文審査担当者 副査副査 東 治 人 上 田 晃 一 副査 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independent rejection of D d -, K d -, or D d K d -transgened mouse skin or tumor cells from C57BL/6 (D b K b ) mice (C57BL/6 (D b K b ) マウスは D d K d や D d K d 遺伝子を移入したマウスの皮膚や腫瘍細胞を 移入した遺伝子の発現量ではなく 移入した遺伝子の数に依存して拒絶する ) 論文審査結果の要旨 移植拒絶反応は 非自己とみなされる非感染性の細胞に対して起きる反応であ る 臨床的に問題となる非自己は 同種異型の移植片であり 移植部位へ集まる宿 主細胞は 移植片の主要組織適合性抗原 (MHC: ヒト HLA マウス H-2) を認識 し 傷害する MHC にはクラス I とクラス II が知られ 前者は有核細胞が 後者 は抗原提示細胞が発現している したがって 移植拒絶反応は 移植片上のクラス I 分子をレシピエントの免疫担当細胞が非自己と認識し移植片を傷害することであ る ヒト HLA は A B C の 3 領域 それぞれに数 10 種類からなり マウスで は D および K 領域のそれぞれ 10 数種類が知られている マウスでは K b 分子が 突然変異を起こした bm1 bm10 や bm11 マウスの皮膚を野生型 (D b K b ) マウスに移 植すると 全例 急性拒絶されたと報告されている しかし 同種異型の移植片に 対する免疫反応は MHC の遺伝子多型や複雑性のために移植拒絶反応のメカニズ ムには不明な点が多い BALB/c (D d K d ) マウスと C57BL/6 (D b K b ) マウスは黄金ペ アーとして知られ マクロファージ上の受容体が移植片上の H-2D d や H-2K d 分子 を非自己と識別し 傷害する ( 移植拒絶反応 ) ことが報告されている 本研究では - 4 -

C57BL/6 (D b K b ) マウスにとって同種異型である BALB/c (D d K d ) マウスの D d, K d および D d K d 遺伝子を C57BL/6 マウスや EL-4 細胞に移入し それらを野生型マウスに皮膚移植して 移植拒絶反応における H-2D d および H-2K d 分子の役割を調べることを目的とした その結果 (1) C57BL/6 (D b K b ) マウスへのBALB/c (D d K d ), B10.D2 (D d K d ) や BDF1 (D b D d K b K d ) マウスなどの非自己 ( 同種異型 ) 皮膚移植片は移植後 12~14 日で 全例 拒絶されたが 同種同系 (D b K b ) マウスの皮膚移植片は 全例 生着し 実験系が正しいことが確認された (2) D d, K d およびD d K d 遺伝子を移入した C57BL/6 (D b K b ) マウスの皮膚移植片は これらの遺伝子の発現量非依存的に それぞれ9/19 (47%), 20/39 (51%), 12/17 (71%) が拒絶されることを見出した 同様に (3) C57BL/6マウスへ皮内注射した同種異型 Meth A (D d K d ) 線維肉腫細胞は 全例 拒絶され 同種同系 EL-4リンパ腫細胞は 全例 移植部で増殖することを確認した また (4) D d やK d 遺伝子を移入したEL-4 細胞は同種同系の場合より 10~13 日遅れて皮内で増殖し始め D d K d 遺伝子を移入したEL-4 細胞の4/10 (40%) が拒絶されることを見出した これらの結果より申請者らは 以下のように結論している 1) MHC クラス I 分子が 1 種類異なる同種異型移植片に対する拒絶反応は 従来の報告とは異なり軽度である 2) D d とK d は非自己 MHC クラス I 分子をコードする遺伝子として等価であり 3) トランスジェニックマウスの皮膚や細胞は 移入された D d や K d 遺伝子の発現量ではなく遺伝子の数に依存して非自己と認識され 拒絶された 今後 MHC クラス I 分子と受容体との結合阻害薬が開発されれば 副作用の強い非特異的免疫抑制剤とは異なる機序での 拒絶反応のテーラーメイド制御が可能である 従って 本研究の結果は 移植医療における今後の創薬の開発に役立つものと期待される 以上により 本論文は本学大学院学則第 11 条に定めるところの博士 ( 医学 ) の学位を授与するに値するものと認める ( 主論文公表誌 ) Microbiology and Immunology 55(6): 446-453, 2011-5 -