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脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

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4. 発表内容 : 1 研究の背景 先行研究における問題点 正常な脳では 神経細胞が適切な相手と適切な数と強さの結合 ( シナプス ) を作り 機能的な神経回路が作られています このような機能的神経回路は 生まれた時に完成しているので はなく 生後の発達過程において必要なシナプスが残り不要なシナプス

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

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別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

研究の背景社会生活を送る上では 衝動的な行動や不必要な行動を抑制できることがとても重要です ところが注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などの精神 神経疾患をもつ患者さんの多くでは この行動抑制の能力が低下しています これまでの先行研究により 行動抑制では 脳の中の前頭前野や大脳基底核と呼ばれる領域が

サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

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( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

報道発表資料 2004 年 9 月 6 日 独立行政法人理化学研究所 記憶形成における神経回路の形態変化の観察に成功 - クラゲの蛍光蛋白で神経細胞のつなぎ目を色づけ - 独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事長 ) マサチューセッツ工科大学 (Charles M. Vest 総長 ) は記憶形

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図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

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統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

論文の内容の要旨

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PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

4. 発表内容 : 研究の背景 イヌに お手 を新しく教える場合 お手 ができた時に餌を与えるとイヌはまた お手 をして餌をもらおうとする このように動物が行動を起こした直後に報酬 ( 餌 ) を与えると そ の行動が強化され 繰り返し行動するようになる ( 図 1 左 ) このことは 100 年以

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60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 10 月 22 日 独立行政法人理化学研究所 脳内のグリア細胞が分泌する S100B タンパク質が神経活動を調節 - グリア細胞からニューロンへの分泌タンパク質を介したシグナル経路が活躍 - 記憶や学習などわたしたち高等生物に必要不可欠な高次機能は脳によ

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

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Microsoft Word - 【確定】東大薬佐々木プレスリリース原稿

現し Gasc1 発現低下は多動 固執傾向 様々な学習 記憶障害などの行動異常や 樹状突起スパイン密度の増加と長期増強の亢進というシナプスの異常を引き起こすことを発見し これらの表現型がヒト自閉スペクトラム症 (ASD) など神経発達症の病態と一部類することを見出した しかしながら Gasc1 発現

生物 第39講~第47講 テキスト

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1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

図 : と の花粉管の先端 の花粉管は伸長途中で破裂してしまう 研究の背景 被子植物は花粉を介した有性生殖を行います めしべの柱頭に受粉した花粉は 柱頭から水や養分を吸収し 花粉管という細長い管状の構造を発芽 伸長させます 花粉管は花柱を通過し 伝達組織内を伸長し 胚珠からの誘導を受けて胚珠へ到達し

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

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り込みが進まなくなることを明らかにしました つまり 生後 12 日までの刈り込みには強い シナプス結合と弱いシナプス結合の相対的な差が 生後 12 日以降の刈り込みには強いシナプス 結合と弱いシナプス結合の相対的な差だけでなくシナプス結合の絶対的な強さが重要であることを明らかにしました 本研究成果は

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長期/島本1

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報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

世界初! 細胞内の線維を切るハサミの機構を解明 この度 名古屋大学大学院理学研究科の成田哲博准教授らの研究グループは 大阪大学 東海学院大学 豊田理化学研究所との共同研究で 細胞内で最もメジャーな線維であるアクチン線維を切断 分解する機構をクライオ電子顕微鏡法注 1) による構造解析によって解明する

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報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

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記者クラブ各位 平成 28 年 8 月 24 日大学共同利用機関法人自然科学研究機構生理学研究所国立大学法人山梨大学国立研究開発法人日本医療研究開発機構 免疫細胞が発達期の脳回路を造る 発達期の脳内免疫状態の重要性を提唱 お世話になっております 今回 自然科学研究機構生理学研究所の鍋倉淳一教授 吉村

PRESS RELEASE (2016/11/22) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

統合失調症といった精神疾患では シナプス形成やシナプス機能の調節の異常が発症の原因の一つであると考えられています これまでの研究で シナプスの形を作り出す細胞骨格系のタンパク質 細胞同士をつないでシナプス形成に関与する細胞接着分子群 あるいはグルタミン酸やドーパミン 2 系分子といったシナプス伝達を

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( 図 ) 自閉症患者に見られた異常な CADPS2 の局所的 BDNF 分泌への影響

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新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

本成果は 以下の研究助成金によって得られました JSPS 科研費 ( 井上由紀子 ) JSPS 科研費 , 16H06528( 井上高良 ) 精神 神経疾患研究開発費 24-12, 26-9, 27-

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Microsoft Word - 【広報課確認】プレスリリース原稿(乘本)池谷‗RIKEN最終版

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報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

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報道機関各位 平成 27 年 8 月 18 日 東京工業大学広報センター長大谷清 鰭から四肢への進化はどうして起ったか サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす 要点 四肢への進化過程で 位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定 サメ鰭の前

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による傷害 ( 二次的な傷害 ) によって誘導されると考えられています TBI による二次性の神経傷害が 問題となっていましたが その詳細な分子メカニズムはこれまで不明のままでした 研究成果研究チームはマウス大脳皮質の TBI モデルを使って ミクログリア及びアストロサイトの応答を詳細に検討しました

マスコミへの訃報送信における注意事項

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胞運命が背側に運命変換することを見いだしました ( 図 1-1) この成果は IP3-Ca 2+ シグナルが腹側のシグナルとして働くことを示すもので 研究チームの粂昭苑研究員によって米国の科学雑誌 サイエンス に発表されました (Kume et al., 1997) この結果によって 初期胚には背腹

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解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

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学位論文の要約

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

報道発表資料 2007 年 4 月 11 日 独立行政法人理化学研究所 傷害を受けた網膜細胞を薬で再生する手法を発見 - 移植治療と異なる薬物による新たな再生治療への第一歩 - ポイント マウス サルの網膜の再生を促進することに成功 網膜だけでなく 難治性神経変性疾患の再生治療にも期待できる 神経回

シナプスの情報量を決める超分子ナノ構造 1. 発表者 : 廣瀬謙造 ( 東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻神経生物学分野教授 ) 2. 発表のポイント : 脳の神経伝達物質であるグルタミン酸が シナプスで放出されている様子を個別のシナプス で直接観測することに成功しました 観測結果の解析により

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60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 2 月 4 日 独立行政法人理化学研究所 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の進行に二つのグリア細胞が関与することを発見 - 神経難病の一つである ALS の治療法の開発につながる新知見 - 原因不明の神経難病 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は 全身の筋

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

いて認知 社会機能障害は日々の生活に大きな支障をきたしますが その病態は未だに明らかになっていません 近年の統合失調症の脳構造に関する研究では 健常者との比較で 前頭前野 ( 注 4) などの前頭葉や側頭葉を中心とした大脳皮質の体積減少 海馬 扁桃体 視床 側坐核などの大脳皮質下領域の体積減少が報告

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Transcription:

報道解禁日時ラジオ テレビ WEB: 平成 20 年 4 月 16 日 ( 水 ) 9 時新聞 : 平成 20 年 4 月 16 日付け夕刊 PRESS RELEASE (2008/04/08) 国立大学法人九州大学電話 092-642-2106( 広報室 ) 自然科学研究機構生理学研究所電話 0564-55-7722( 広報展開推進室 ) 科学技術振興機構 (JST) 電話 03-5214-8404( 広報課 ) 脳の左も右も 右脳 なマウスを発見 ( 脳の左右差を決めるメカニズム解明へ一歩 ) 概要九州大学大学院理学研究院の伊藤功准教授と自然科学研究機構生理学研究所の重本隆一教授の研究グループは 脳の左も右も 右脳 の性質を持つマウスを発見しました 今後 脳の左右差を決めるメカニズムの解明に役立つものと考えられます 研究グループが注目したのは ダイニンというたんぱく質に異常がある iv マウスと呼ばれる突然変異マウス このマウスの赤ちゃんは 50% の確率で体の中身が全て逆転していますが ( 心臓が右にあるなど ) 残りの半分は体の中身が左右正常に生まれてきます しかし この iv マウスの体の左右が正常であろうと反対であろうと 記憶に重要な脳の神経回路は 左も右も 右脳 の性質を持っていることがわかりました これによって 脳の左右差が体の中身とは異なる独自のメカニズムでつくられていることもわかりました 本研究成果は on line 科学誌 PLoS ONE に平成 20 年 4 月 16 日付け ( 米国 : 太平洋標準時 ) で掲載され 広く一般公開されます (URL:http://www.plosone.org/doi/pone.0001945) 本研究は JST 戦略的創造研究推進事業発展研究 (SORST) の研究課題 記憶の脳内表現と長期定着のメカニズム ( 研究代表者 : 重本隆一 ) および生理学研究所一般共同研究 脳の左右差に関する統合的研究 ( 研究代表者 : 伊藤功 ) の一環として行われました 1

背景私たちの身体は左右非対称に形成されています 例えば 心臓や胃は身体の左側にあり 左右の肺はその大きさや形が異なります また 私たちの脳は左右の半球に分かれており 左半球は言語や論理的思考において 右半球は音楽や直感的思考において重要な働きをすることなどがよく知られています 最近の研究によって 内臓器官を身体の左右適切な位置へ非対称に配置する分子機構が詳しくわかってきました しかし 脳の構造や機能に左右差を生み出すメカニズムに関してはまだほとんど知られておらず それを分子レベルで研究すること自体 非常に困難だと考えられていました 1) 本研究グループは最近 マウスの海馬 ( 図 2) を用いた研究から その神経回路には記憶の形成に重要な働きをする分子 (NMDA 受容体 NR2B サブユニット 2) ) が左右非対称に分布することによって 神経回路の構造や機能が左右非対称になることを明らかにしました ( 図 5) これを手がかりとして 脳の左右差を生み出す機構を分子レベルで研究することが可能になりました 研究成果今回本研究グループは 突然変異によって内臓の配置が正しいもの ( 内臓正位 ) と配置が逆転しているもの ( 内臓逆位 ) とが1 対 1の割合で生まれるマウス (iv マウス 3) )( 図 4) を用い その海馬神経回路における NR2B サブユニットの分布や NMDA 受容体の特徴を分析しました その結果 内臓正位 逆位に関係なく iv マウスの海馬では左右の非対称性が消失し 左右の海馬がともに右海馬の性質を示すように変化 ( 右側異性 4) ) していることがわかりました ( 図 6) 同じマウスにおいて 突然変異の影響が脳と内臓とで異なるということは 左右の非対称性を生み出すメカニズムが脳と内臓で異なっていることを意味しています また この研究によって本研究グループが示した NR2B サブユニットのシナプス 5) 分布や NMDA 受容体の機能特性などが 脳の左右差に関する異常を調べる上で 鋭敏で定量性のある指標として有用であることもわかりました 今後の展開 iv マウスの脳がどのようにして右側異性を示すようになるのか その詳しいメカニズムはまだ明らかになっていません しかし 次のような可能性は考えられます 受精後 発生のごく初期のころ マウスの胚 ( 胎児 ) は左右対称で 体の両側がともに 右 の性質を持っています その後 左右差の形成機構が起動することによって 胚の左側に右側とは異なる性質が出現し 身体の左右が確定します すなわち マウスの胚が初期値 ( デフォルト ) として持っている性質は 右 なのです 従って iv マウスでは左脳を表す性質を発現できなくなったために すべての神経細胞が初期値である 右 の性質を維持し続けており その結果左右の脳半球がともに右脳の性質を示している と考えることができるかもしれません 今後 このような解釈が正しいかどうかも含め 脳の左右差形成機構に関する分子レベルの研究が盛んになるでしょう また 脳の左右差が維持される機構の解明も大切です 左右差の形成機構と維持機構は同じであるのか 異なるのかも興味深い問題です これらの研究が進展すれば 内蔵と脳で非対称性の形成機構が異なることの意味も明らかになっていくでしょう 2

( 掲載論文名 ) Right isomerism of the brain in inversus viscerum mutant mice ( 内臓逆位の変異マウスにおける脳の右側異性 ) ( 用語解説 ) 1) 海馬 : 左右脳半球に一対存在する脳領域 ヒトやマウスが新しいことを記憶する時に重要な働きをする ( 図 1,2) 2)NMDA 受容体 NR2B サブユニット : NMDA 受容体は神経伝達物質受容体の一種であり 記憶の形成に重要な働きをすることが知られている NR2B サブユニットは NMDA 受容体の重要な構成タンパク分子である NMDA 受容体はシナプスに存在している 3)iv マウス : ダイニンというモーターたんぱく質分子をつくる遺伝子に変異を持つ自然突然変異マウス ( 図 4) 4) 右側異性 : 形態形成の異常の一種 左が消失し 左右が共に右となること 5) シナプス : 神経細胞同士の接合部位 シナプス前細胞から放出された神経伝達物質はシナプス後細胞の受容体と結合し情報を伝える ( 図 3) ( お問い合わせ ) 伊藤功 ( いとういさお ) 九州大学大学院理学研究院生物科学部門統合生物学講座生体物理化学研究室 812-8581 福岡県福岡市東区箱崎 6-10-1 TEL:092-642-2631 FAX:092-642-2645 E-mail: isitoscb@mbox.nc.kyushu-u.ac.jp 重本隆一 ( しげもとりゅういち ) 自然科学研究機構生理学研究所大脳皮質研究系脳形態解析研究部門 444-8787 愛知県岡崎市明大寺町字東山 5-1 TEL: 0564-59-5279 FAX: 0564-59-5275 E-mail: shigemoto@nips.ac.jp 3

図 1 図 2

図 3 図 4 内臓正位 内臓逆位

A 左右 海馬馬神経回路路の非対称称性模式図 B 左 図 5 右 頂上突起 細胞体 基底突起 NR2 2B が多いシナププス NR2B が少ないいシナプス 可塑的的性質の発達がが早い可塑的性質の発発達が遅い A: シナプ示した B: 入力をに黒で プス後細胞を中心た 直線は同側入を中心とした表現で表した この表 心とした表現 入力を 波線は現 シナプス後表現では同側入 左の錐体細胞は反対側入力を表後細胞は左右ど入力 反対側入力 とその軸索を赤表している ちらにあっても力の区別もない 赤で 右のそれれらを青で もかまわないのい その他は A で 真ん中と同様

iv マウス脳脳の右側異異性模式図 図 6 左右左右 頂上突起 細胞体 基底突起 NR R2B が多いシナ 可塑塑的性質の発達 プス NR2B が少ないいシナプス が早い可塑的性質の発発達が遅い iv マウウスでは左脳をを表す性質が消失失し 両側の海海馬がともに右のの性質を示してている