平成18年度厚生労働科学研究費補助金(労働安全衛生総合研究事業)

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( 様式乙 8) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 米田博 藤原眞也 副査副査 教授教授 黒岩敏彦千原精志郎 副査 教授 佐浦隆一 主論文題名 Anhedonia in Japanese patients with Parkinson s disease ( 日本人パー

別添 1 抗不安薬 睡眠薬の処方実態についての報告 平成 23 年 11 月 1 日厚生労働省社会 援護局障害保健福祉部精神 障害保健課 平成 22 年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業 向精神薬の処方実態に関する国内外の比較研究 ( 研究代表者 : 中川敦夫国立精神 神経医療研究センタートラン

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博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文

微小粒子状物質曝露影響調査報告書

セッション 6 / ホールセッション されてきました しかしながら これらの薬物療法の治療費が比較的高くなっていることから この薬物療法の臨床的有用性の評価 ( 臨床的に有用と評価されています ) とともに医療経済学的評価を受けることが必要ではないかと思いまして この医療経済学的評価を行うことを本研

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12_モニタリングの実施に関する手順書 

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する 研究実施施設の環境 ( プライバシーの保護状態 ) について記載する < 実施方法 > どのような手順で研究を実施するのかを具体的に記載する アンケート等を用いる場合は 事前にそれらに要する時間を測定し 調査による患者への負担の度合いがわかるように記載する 調査手順で担当が複数名いる場合には

のつながりは重要であると考える 最近の研究では不眠と抑うつや倦怠感などは互いに関連し, 同時に発現する症状, つまりクラスターとして捉え, 不眠のみならず抑うつや倦怠感へ総合的に介入することで不眠を軽減することが期待されている このようなことから睡眠障害と密接に関わりをもつ患者の身体的 QOL( 痛

機能分類や左室駆出率, 脳性ナトリウム利尿ペプチド (Brain Natriuretic peptide, BNP) などの心不全重症度とは独立した死亡や入院の予測因子であることが多くの研究で示されているものの, このような関連が示されなかったものもある. これらは, 抑うつと心不全重症度との密接な

概要 特別養護老人ホーム大原ホーム 社会福祉法人行風会 平成 9 年開設 長期入所 :100 床 短期入所 : 20 床 併設大原ホーム老人デイサービスセンター大原地域包括支援センター 隣接京都大原記念病院


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助成研究演題 - 平成 23 年度国内共同研究 (39 歳以下 ) 重症心不全の集学的治療確立のための QOL 研究 東京大学医学系研究科重症心不全治療開発講座客員研究員 ( 助成時 : 東京大学医学部附属病院循環器内科日本学術振興会特別研究員 PD) 加藤尚子 私は 重症心不全の集学的治療確立のた

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同意説明文書(見本)

4 研修について考慮する事項 1. 研修の対象者 a. 職種横断的な研修か 限定した職種への研修か b. 部署 部門を横断する研修か 部署及び部門別か c. 職種別の研修か 2. 研修内容とプログラム a. 研修の企画においては 対象者や研修内容に応じて開催時刻を考慮する b. 全員への周知が必要な

臨床研究に参加される研究対象者の方へ 皮膚症状を呈する膠原病における炎症性サイトカインの病態への関与について に関する研究の説明 これは臨床研究への参加についての説明文書です 本臨床研究についてわかりやすく説明しますので 内容を十分ご理解されたうえで 参加するかどうか患者さんご自身の意思でお決め下さ

様式 3 論文内容の要旨 氏名 ( 神﨑光子 ) 論文題名 周産期における家族機能が母親の抑うつ 育児自己効力感 育児関連のストレス反応に及ぼす影響 論文内容の要旨 緒言 女性にとって周産期は 妊娠 分娩 産褥各期の身体的変化だけでなく 心理的 社会的にも変化が著しいため うつ病を中心とした気分障害

休職・復職に対する支援~後編:復職時の対応~

4 身体活動量カロリズム内に記憶されているデータを表計算ソフトに入力し, 身体活動量の分析を行った 身体活動量の測定結果から, 連続した 7 日間の平均, 学校に通っている平日平均, 学校が休みである土日平均について, 総エネルギー消費量, 活動エネルギー量, 歩数, エクササイズ量から分析を行った

帯振動を伴う有声音であり 多くの場合 母音 /a/ が含まれる周期的に発声音が繰り返される しかし 同図 (b) の会話音声の中でも音節の間隔のバラツキが小さい場合 笑いと誤識別される 日常生活下での口腔咽喉音には両方が混在することから 本研究では 会話と笑いを識別するために この有声音である特徴を

ただし 対象となることを希望されないご連絡が 2016 年 5 月 31 日以降にな った場合には 研究に使用される可能性があることをご了承ください 研究期間 研究を行う期間は医学部長承認日より 2019 年 3 月 31 日までです 研究に用いる試料 情報の項目群馬大学医学部附属病院産科婦人科で行

平成13-15年度厚生労働科学研究費補助金

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C. 研究結果 考察 1, 全国統計にみた自殺の次推移 ( 表 1 図 1) 1899~23 以降の全国人口動態統計からの推移をみてみると 第二次世界大戦前の自殺死亡率は 12~22 前後で大戦後よりも低値であった 一方 毎の全 人当たりのについても大戦前は 6~13 と大戦後に比較して低かった 全

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No. 1 愛知学院大学 Ⅰ. 緒言 咀嚼行為による自律神経系への活動は 1 咀嚼筋が活動する時の交感神 経の興奮 2 唾液分泌や消化管刺激を生ずる副交感神経の活動 3 味覚や 匂いによる唾液分泌の条件反射があり その複雑性のために咀嚼行為が自 律神経のどの方向に働くかについては 異なった報告がある

実習指導に携わる病棟看護師の思い ‐ クリニカルラダーのレベル別にみた語りの分析 ‐

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)各 職場復帰前 受入方針の検討 () 主治医等による 職場復帰可能 との判断 主治医又はにより 職員の職場復帰が可能となる時期が近いとの判断がなされる ( 職員本人に職場復帰医師があることが前提 ) 職員は健康管理に対して 主治医からの診断書を提出する 健康管理は 職員の職場復帰の時期 勤務内容

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産業保健の目的 働く人々すべての身体的 精神的および社会的健康を最高度に維持増進させる 労働条件に起因する健康障害を防止し 健康に不利な諸条件から雇用中の労働者を保護する 労働者の生理学的および心理学的特徴に適合する職業環境に労働者を配置し 健康を維持する 仕事と人との適合を図る ( 国際連合の W

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自動車感性評価学 1. 二項検定 内容 2 3. 質的データの解析方法 1 ( 名義尺度 ) 2.χ 2 検定 タイプ 1. 二項検定 官能検査における分類データの解析法 識別できるかを調べる 嗜好に差があるかを調べる 2 点比較法 2 点識別法 2 点嗜好法 3 点比較法 3 点識別法 3 点嗜好

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3) 適切な薬物療法ができる 4) 支持的関係を確立し 個人精神療法を適切に用い 集団精神療法を学ぶ 5) 心理社会的療法 精神科リハビリテーションを行い 早期に地域に復帰させる方法を学ぶ 10. 気分障害 : 2) 病歴を聴取し 精神症状を把握し 病型の把握 診断 鑑別診断ができる 3) 人格特徴

< 方法 > 被験者は心身ともに健康で歯科医療関係者以外の歯科受診経験のある成人男女 15 名 ( 男 6 名 女 9 名 22.67±2.89 歳 ) とした 安静な状態で椅子に腰掛け 歯科治療に関する質問紙への回答により歯科受診経験の有無 実験前のカフェインやアルコールの摂取がないことを確認した

人にやさしい空間

精神医学研究 教育と精神医療を繋ぐ 双方向の対話 10:00 11:00 特別講演 3 司会 尾崎 紀夫 JSL3 名古屋大学大学院医学系研究科精神医学 親と子どもの心療学分野 AMED のミッション 情報共有と分散統合 末松 誠 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 11:10 12:10 特別講

平成20年度厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業)

論文内容の要旨

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化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

A. 研究目的近年 メンタルヘルス疾患による休職者の増加等 働く人の健康問題が企業の生産性に直接 大きな影響を及ぼしている 企業は 働く人の健康を維持 増進していく活動 ( 産業保健活動 ) を行っているが その活動の効果を評価する取り組みは不十分である その理由の1つは 評価指標が確立されていない

日本職業・災害医学会会誌第56巻第4号

自殺意識調査(結果概要)

6. 研究対象者として選定された理由 当科を受診された各種慢性肝疾患の方が研究対象者に含まれます 7. 研究対象者に生じる利益 負担および予想されるリスクノベルジン錠の国内臨床試験に置ける安全性評価対象例 74 例中 23 例 (31.1%) に副作用が認められ 主な自覚症状では悪心 4 例 (5.

表 5-1 機器 設備 説明変数のカテゴリースコア, 偏相関係数, 判別的中率 属性 カテゴリー カテゴリースコア レンジ 偏相関係数 性別 女性 男性 ~20 歳台 歳台 年齢 40 歳台

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ファーストケアチーム 事業実施マニュアル 阿南市保健福祉部福祉事務所 介護 ながいき課 平成 28 年 6 月作成

す しかし 日本での検討はいまだに少なく 比較的小規模の参加者での検討や 個別の要因との関連を報告したものが殆どでした 本研究では うつ病患者と対照者を含む 1 万人以上の日本人を対象とした大規模ウェブ調査で うつ病と体格 メタボリック症候群 生活習慣の関連について総合的に検討しました 研究の内容

臨床研究許可申請書の提出に際しての留意事項

料 情報の提供に関する記録 を作成する方法 ( 作成する時期 記録の媒体 作成する研究者等の氏名 別に作成する書類による代用の有無等 ) 及び保管する方法 ( 場所 第 12 の1⑴の解説 5に規定する提供元の機関における義務 8 個人情報等の取扱い ( 匿名化する場合にはその方法等を含む ) 9

平成 28 年 10 月 17 日 平成 28 年度の認定看護師教育基準カリキュラムから排尿自立指導料の所定の研修として認めら れることとなりました 平成 28 年度研修生から 排泄自立指導料 算定要件 施設基準を満たすことができます 下部尿路機能障害を有する患者に対して 病棟でのケアや多職種チーム

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2017 年 3 月臨時増刊号 [No.165] 平成 28 年のトピックス 1 新たに報告された HIV 感染者 AIDS 患者を合わせた数は 464 件で 前年から 29 件増加した HIV 感染者は前年から 3 件 AIDS 患者は前年から 26 件増加した ( 図 -1) 2 HIV 感染者

診療情報を利用した臨床研究について 虎の門病院肝臓内科では 以下の臨床研究を実施しております この研究は 通常の診療で得られた記録をまとめるものです この案内をお読みになり ご自身がこの研究の対象者にあたると思われる方の中で ご質問がある場合 またはこの研究に 自分の診療情報を使ってほしくない とお

研究組織 研究代表者西山哲成 日本体育大学身体動作学研究室 共同研究者野村一路 日本体育大学レクリエーション学研究室 菅伸江 日本体育大学レクリエーション学研究室 佐藤孝之 日本体育大学身体動作学研究室 大石健二 日本体育大学大学院後期博士課程院生

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当院人工透析室における看護必要度調査 佐藤幸子 木村房子 大館市立総合病院人工透析室 The Evaluation of the Grade of Nursing Requirement in Hemodialysis Patients in Odate Municipal Hospital < 諸

血液 尿を用いたライソゾーム病のスクリーニング検査法の検討 に関する説明書 一般財団法人脳神経疾患研究所先端医療研究センター 所属長衞藤義勝 この説明書は 血液 尿を用いたライソゾーム病のスクリーニング検査法の検討 の内容について説明したものです この研究についてご理解 ご賛同いただける場合は, 被

ータについては Table 3 に示した 両製剤とも投与後血漿中ロスバスタチン濃度が上昇し 試験製剤で 4.7±.7 時間 標準製剤で 4.6±1. 時間に Tmaxに達した また Cmaxは試験製剤で 6.3±3.13 標準製剤で 6.8±2.49 であった AUCt は試験製剤で 62.24±2

発表雑誌 PLOS ONE 論文名 Association between oor glycemic control, imaired slee quality, and increased arterial thickening in tye 2 diabetic atients 2 型糖尿病患者

ポイント 〇等価尺度法を用いた日本の子育て費用の計測〇 1993 年 年までの期間から 2003 年 年までの期間にかけて,2 歳以下の子育て費用が大幅に上昇していることを発見〇就学前の子供を持つ世帯に対する手当てを優先的に拡充するべきであるという政策的含意 研究背景 日本に

学位論文審査結果報告書

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第 32 回 1 級 ( 特許専門業務 ) 実技試験 一般財団法人知的財産研究教育財団知的財産教育協会 ( はじめに ) すべての問題文の条件設定において, 特に断りのない限り, 他に特殊な事情がないものとします また, 各問題の選択枝における条件設定は独立したものと考え, 同一問題内における他の選

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要旨健常者では何事もなく日常行われる体位変換動作が 脳血管障害や頸髄損傷においては起立性低血圧などの調節異常を引き起こす 血圧変動を評価するだけではなく簡便かつ有効な手段で自律神経機能を評価することができれば起立性低血圧のリスクをより管理できるのはないかと考えられる 本研究は 立位訓練時の起立性低血

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支援マニュアル No.10 発達障害者のためのリラクゼーション技能トレーニング ~ ストレス 疲労のセルフモニタリングと対処方法 ~ 別添 1 支援マニュアルの構成 1 トレーニングの概要 2 トレーニングの進め方 3 トレーニングの解説 資料集トレーニングのガイドブックアセスメントツール集講座用ス

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平成 22 年度厚生労働科学研究費補助金 ( こころの健康科学研究事業 ) リワークプログラムを中心とするうつ病の早期発見から職場復帰に至る包括的治療に関する研究 分担研究報告書 復職前の夜間睡眠と復職後の経過との関連に関する研究 分担研究者田中克俊 北里大学大学院医療系研究科産業精神保健学教授 研究協力者鎌田直樹 北里大学医学部精神神経科 川島正敏 三菱重工業 ( 株 ) 汎用機 特車事業本部診療所 高野知樹 北里大学大学院医療系研究科産業精神保健学 加来明希子北里大学大学院医療系研究科産業精神保健学 西埜植直北里大学大学院医療系研究科産業精神保健学 研究要旨うつ病で休業した労働者の復職前の睡眠状態を評価することが 復職後の経過を予測するのに役立つかを調べるため アクチグラフおよび脈派解析を用いて測定された睡眠指標 ( 睡眠時間 入眠潜時 睡眠効率 中途覚醒回数 HF 値 LF 値 LF/HF 値 ) と復職 3 ヵ月後の勤務状況 ( 再休職 何らかの就業制限付で就業している制限勤務 ほとんど就業制限のない通常勤務 ) との関連を調べた 本年度は 昨年度の参加者よりもより多くの研究参加者 30 名 ( 男性 23 名 女性 7 名 ) を解析対象に加え また夜間の自律神経モニタリングの結果も解析に加えた 年齢 性別 過去の休業回数で調整した解析の結果 再休業者群の復職前の就寝時間は制限勤務群および通常勤務群に対して有意に長く 睡眠効率も再休業者群が制限勤務群および通常勤務群に対して有意に低かった また 夜間睡眠中の副交感神経活動を反映する HF 値は 再休業者群に対して 通常勤務群が有意に高かった 夜間睡眠中の交感神経活動を反映する LF/HF 比は再休業者群が制限勤務群および通常勤務群よりも有意に高かった 本研究の結果 休職前の中途覚醒時間 睡眠効率 睡眠中の HF 値 IF/HF 比は 復職後の経過の有意な予測因子であることが示唆された リワーク活動においては睡眠にも十分な注意を払い 適切な睡眠指導を行うことが重要と考えられる A. 研究目的うつ病等の精神疾患により 休業する労働者の数が増加している また 休業から復職した後 再び症状が悪化し 再度休業となる事例も少 なくない 再度休業となるケースにおいては 職場による支援の問題や職場環境や早すぎる薬物治療の中止等の他に そもそも症状の改善が十分ではなく復職の判断が早すぎたと

思われるケースも少なくない こころの健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き では 精神症状の回復の様子を評価する際には 十分な睡眠が確保できているかの評価が重要なポイントであるとしている また 労働者の復職にかかわる多く臨床家も 適切な睡眠の確保を復職可否判断の重要なポイントとしてあげている しかしながら 睡眠についての評価は 労働者の主観的な評価に頼らざるを得ないため 正確な判断は困難である 客観的な睡眠状態の評価にはポリソムノグラフィーを用いた検査が必要だが 産業保健現場での利用は現実的ではない 本研究では 光電脈波センサと 3 軸加速度センサを内蔵する腕時計式の携帯型センサを用いて 復職前の労働者の夜間睡眠の状態を評価し 復職後の経過との関連について検討した B. 研究方法製造業 サービス業 機械製作関連の研究所に勤務する労働者で うつ病の診断で休業し 2009 年 4 月 1 日から 2010 年 1 月 31 日の期間に復職した労働者を対象とした 復職の可否を判断する事前面談の際に 研究の目的や方法について説明し同意がえられた労働者に 夜間睡眠時の運動量および自律神経モニタリングを行うための腕時計式の携帯型センサ (NEM-T1: 東芝製 ) の夜間 3 日間 ( 連続 ) の装着を依頼した NEM-T1 は, 指先に装着する光電脈波センサと 3 軸加速度センサを内蔵している ( 体動 :0.05 以上をカウント 脈波間隔 :35~135bpm 相当 連 続計測時間 :40 時間 データ記憶容量 :112 時間分 ) 光電脈波は,LED( 発光ダイオード ) 光源と皮膚からの反射光計測のための光電センサを一体化したヘッドを装着する簡便なものであり 装着によって睡眠を障害する等の不利益は生じない NEM-T1 で計測できる項目は下記の通りである - 入眠 / 覚醒時刻 睡眠時間 睡眠効率 睡眠潜時 中途覚醒回数及び時間 - 体動頻度 - 脈波間隔平均 - LF 値 HF 値 LF/HF 比復職後の経過に関する評価は 復職 3 ヵ月後の勤務状況を調査して行った 評価は 再休職 何らかの就業制限付で就業している制限勤務 ほとんど就業制限のない通常勤務の 3 段階で行った 統計解析は 復職 3 ヶ月後の状態と上記睡眠指標 (3 日間の平均値 ) との関連を 一般化推定方程式による順位 logistic 回帰モデルを用いて調べた 本研究は 北里大学医学部倫理委員会の審査を受け実施許可を受けたのち実施された C. 結果 2011 年 1 月 31 日時点で復職 3 ヶ月後のフォローが終了した 30 名 ( 男性 23 名 女性 7 名 ) を解析対象とした 対象者の属性及び復職前の睡眠指標 ( 全対象者 ) を表 1 に示す 対象者の平均年齢 (SD) は 38.2 (7.9) であった 復職 3 カ月後の経過は 8 名 (26.7%) が再休業となっていた 15 名 (50.0%) が残業制限等の就業制限を受

けながら勤務を継続中であり 7 名 (23.3%) が特別な就業制限を受けない通常勤務を行っていた 表 2 に 復職後の経過と休職前の睡眠指標との関連を示す ここで示す推定平均値は年齢 性別 過去の休業回数で調整されている 解析の結果 再休業者群の復職前の就寝時間は制限勤務群および通常勤務群に対して有意に長く 睡眠効率も再休業者群が制限勤務群および通常勤務群に対して有意に低かった また LF/HF 比は再休業者群が制限勤務群および通常勤務群よりも有意に高かった HF 値は 再休業者群に対して通常勤務群が有意に高かった 復職後の経過と休職前の就床時間 睡眠潜時 中途覚醒回数 睡眠中の LF 値においては有意な関連は認めなかった D. 考察休職前の中途覚醒時間が長いこと 睡眠効率が低いこと 睡眠中の LF/HF 比が高いことが 復職後の再休業率の高さと関連することが示唆された また 復職前の睡眠中の HF 値が高いことは 復職 3 ヵ月後に就業制限のない通常勤務を行うことの予測因子であることが示唆された 再休業群で中途覚醒時間が長くなり 睡眠効率が低下していたことは これらを生じさせる何らかの睡眠の質的な問題を抱えたまま復職した可能性が示唆される また 睡眠中の交感神経活動の高さと復職後の再休業率も有意に関連しており さらに睡眠中の副交感神経活動の高さと復職後の回復の早さが関連していたことは やはり復職前の睡眠の質が 復職後の重要な予測因子であることを伺わせる これらのことから 復職後の再 休業を防ぎ 通常勤務に復する可能性を高めるためには 復職前の睡眠状態にも注意し リワーク活動の中で 適宜睡眠に対する必要な介入 ( リラクセーションや睡眠時間制限法などの睡眠の認知行動療法も含めて ) を行う必要性があると考えられた E. 結論復職前の睡眠の質は 復職後の経過の有意な予測因子であることが示唆された リワーク活動においては 睡眠に対する注意と適切な介入が必要である F. 健康危機情報該当せず G. 研究発表該当なし H. 知的財産権の出願 登録状況 1. 特許取得該当なし 2. 実用新案登録該当なし 3. その他該当なし

表 1. 参加者属性 人数 パーセント 復職後の経過 再休業 8 26.7% 制限勤務 15 50.0% 通常勤務 7 23.3% 性別 男性 23 76.7% 女性 7 23.3% 平均 SD 年齢 38.2 7.9 過去休業回数 0.3 0.6 表 2. 復職後の経過と復職前の睡眠指標との関連 1) 復職後の経過と復職前の就床時間 ( 分 ) 平均値の 95% 信頼区間 復職後の経過推定平均値標準偏差 再休業 447.3 113.1 360.4 534.3 制限勤務 388.8 86.9 340.7 436.9 通常勤務 404.6 64.7 350.5 458.7 差 p 値 再休業 vs 制限勤務 58.5-38.4 155.5 0.41 再休業 vs 通常勤務 42.7-69.0 154.4 1.00 制限勤務 vs 通常勤務 -15.8-116.5 84.8 1.00 2) 復職後の経過と復職前の睡眠潜時 ( 分 ) 再休業 12.0 7.6 6.1 17.9 制限勤務 9.1 2.9 7.6 10.7 通常勤務 9.4 1.8 7.8 10.9

差 p 値 再休業 vs 制限勤務 2.9-2.0 7.8 0.44 再休業 vs 通常勤務 2.6-3.0 8.3 0.74 制限勤務 vs 通常勤務 -0.2-5.3 4.8 1.00 3) 復職後の経過と復職前の中途覚醒時間 ( 分 ) 再休業 174.9 161.9 50.4 299.4 制限勤務 41.4 39.1 19.7 63.1 通常勤務 23.3 48.9-17.7 64.2 差 p 値 再休業 vs 制限勤務 133.5 34.4 232.6 0.01 再休業 vs 通常勤務 151.6 37.5 265.8 0.01 制限勤務 vs 通常勤務 18.2-84.7 121.0 1.00 4) 復職後の経過と復職前の睡眠効率 (%) 再休業 0.603 0.292 0.379 0.828 制限勤務 0.873 0.106 0.814 0.932 通常勤務 0.913 0.142 0.794 1.031 差 p 値 再休業 vs 制限勤務 -0.270-0.466-0.072 0.00 再休業 vs 通常勤務 -0.310-0.537-0.082 0.01 制限勤務 vs 通常勤務 -0.040-0.245 0.164 1.00

5) 復職後の経過と復職前の中途覚醒回数 ( 回 ) 再休業 2.1 1.1 1.3 2.9 制限勤務 2.1 1.2 1.5 2.8 通常勤務 1.3 0.5 0.9 1.6 差 p 値 再休業 vs 制限勤務 0.0-1.1 1.1 1.00 再休業 vs 通常勤務 0.9-0.4 2.1 0.28 制限勤務 vs 通常勤務 0.9-0.3 2.0 0.17 6) 復職後の経過と復職前の HF(ms 2 ) 再休業 24.2 6.2 19.4 29.0 制限勤務 34.8 14.4 26.8 42.7 通常勤務 42.8 11.5 33.2 52.4 差 p 値 再休業 vs 制限勤務 -10.6-23.4 2.2 0.13 再休業 vs 通常勤務 -18.6-33.4-3.9 0.01 制限勤務 vs 通常勤務 -8.0-21.3 5.3 0.41 7) 復職後の経過と復職前の LF(ms 2 ) 再休業 40.5 14.5 29.3 51.6 制限勤務 42.6 20.9 31.0 54.2 通常勤務 50.0 28.0 26.6 73.3

差 p 値 再休業 vs 制限勤務 -2.2-25.1 20.8 1.00 再休業 vs 通常勤務 -9.5-35.9 16.9 1.00 制限勤務 vs 通常勤務 -7.3-31.1 16.5 1.00 8) 復職後の経過と復職前の LF/HF 比 再休業 2.1 0.6 1.6 2.6 制限勤務 1.5 0.5 1.2 1.7 通常勤務 1.2 0.4 0.9 1.5 差 p 値 再休業 vs 制限勤務 0.6 0.1 1.2 0.01 再休業 vs 通常勤務 0.9 0.3 1.5 0.00 制限勤務 vs 通常勤務 0.3-0.3 0.8 0.74