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化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

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統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

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Microsoft Word - 運動が自閉症様行動とシナプス変性を改善する

統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異の同定と病態メカニズムの解明 ポイント 統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異 (CNV) が 患者全体の約 9% で同定され 難病として医療費助成の対象になっている疾患も含まれることが分かった 発症に関連した CNV を持つ患者では その 40%

平成14年度研究報告

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

現し Gasc1 発現低下は多動 固執傾向 様々な学習 記憶障害などの行動異常や 樹状突起スパイン密度の増加と長期増強の亢進というシナプスの異常を引き起こすことを発見し これらの表現型がヒト自閉スペクトラム症 (ASD) など神経発達症の病態と一部類することを見出した しかしながら Gasc1 発現

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4. 発表内容 : 1 研究の背景 先行研究における問題点 正常な脳では 神経細胞が適切な相手と適切な数と強さの結合 ( シナプス ) を作り 機能的な神経回路が作られています このような機能的神経回路は 生まれた時に完成しているので はなく 生後の発達過程において必要なシナプスが残り不要なシナプス

Microsoft Word - 【広報課確認】 _プレス原稿(最終版)_東大医科研 河岡先生_miClear

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報道機関各位 平成 27 年 8 月 18 日 東京工業大学広報センター長大谷清 鰭から四肢への進化はどうして起ったか サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす 要点 四肢への進化過程で 位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定 サメ鰭の前

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

本成果は 以下の研究助成金によって得られました JSPS 科研費 ( 井上由紀子 ) JSPS 科研費 , 16H06528( 井上高良 ) 精神 神経疾患研究開発費 24-12, 26-9, 27-

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

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( 図 ) 自閉症患者に見られた異常な CADPS2 の局所的 BDNF 分泌への影響

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2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

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研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

共同研究報告書

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

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汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

論文の内容の要旨

界では年間約 2700 万人が敗血症を発症し その多くを発展途上国の乳幼児が占めています 抗菌薬などの発症早期の治療法の進歩が見られるものの 先進国でも高齢者が発症後数ヶ月の 間に新たな感染症にかかって亡くなる例が多いことが知られています 発症早期には 全身に広がった感染によって炎症反応が過剰になり

本成果は 主に以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 日本医療研究開発機構 (AMED) 脳科学研究戦略推進プログラム ( 平成 27 年度より文部科学省より移管 ) 研究課題名 : 遺伝子改変マーモセットの汎用性拡大および作出技術の高度化とその脳科学への応用 研究代表者 : 佐々木えり

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

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図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

報道発表資料 2007 年 4 月 11 日 独立行政法人理化学研究所 傷害を受けた網膜細胞を薬で再生する手法を発見 - 移植治療と異なる薬物による新たな再生治療への第一歩 - ポイント マウス サルの網膜の再生を促進することに成功 網膜だけでなく 難治性神経変性疾患の再生治療にも期待できる 神経回

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 5 月 2 日 独立行政法人理化学研究所 椎間板ヘルニアの新たな原因遺伝子 THBS2 と MMP9 を発見 - 腰痛 坐骨神経痛の病因解明に向けての新たな一歩 - 骨 関節の疾患の中で最も発症頻度が高く 生涯罹患率が 80% にも達する 椎間板ヘルニア

Microsoft Word - 【最終】Sirt7 プレス原稿

東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

報道発表資料 2007 年 11 月 16 日 独立行政法人理化学研究所 過剰にリン酸化したタウタンパク質が脳老化の記憶障害に関与 - モデルマウスと機能的マンガン増強 MRI 法を使って世界に先駆けて実証 - ポイント モデルマウスを使い ヒト老化に伴う学習記憶機能の低下を解明 過剰リン酸化タウタ

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難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

ルス薬の開発の基盤となる重要な発見です 本研究は 京都府立医科大学 大阪大学 エジプト国 Damanhour 大学 国際医療福祉 大学病院 中部大学と共同研究で行ったものです 2 研究内容 < 研究の背景と経緯 > H5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスは 1996 年頃中国で出現し 現在までに

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

Microsoft Word - 【確定】プレスリリース原稿(坂口)_最終版

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報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

なお本研究は 東京大学 米国ウィスコンシン大学 国立感染症研究所 米国スクリプス研 究所 米国農務省 ニュージーランドオークランド大学 日本中央競馬会が共同で行ったもの です 本研究成果は 日本医療研究開発機構 (AMED) 新興 再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業 文部科学省新学術領

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報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

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概要 名古屋大学環境医学研究所の渡邊征爾助教 山中宏二教授 医学系研究科の玉田宏美研究員 木山博資教授らの国際共同研究グループは 神経細胞の維持に重要な役割を担う小胞体とミトコンドリアの接触部 (MAM) が崩壊することが神経難病 ALS( 筋萎縮性側索硬化症 ) の発症に重要であることを発見しまし

計画研究 年度 定量的一塩基多型解析技術の開発と医療への応用 田平 知子 1) 久木田 洋児 2) 堀内 孝彦 3) 1) 九州大学生体防御医学研究所 林 健志 1) 2) 大阪府立成人病センター研究所 研究の目的と進め方 3) 九州大学病院 研究期間の成果 ポストシークエンシン

Microsoft Word - 【確定】東大薬佐々木プレスリリース原稿

< 備考 > 本研究は 文科省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業 バイオメタルと生体反応の連関解明に基づいた疾患治療ファルマコメタロミクスの確立 (S20008) 文科省科学研究費補助金 基盤研究(C) (8K06940) 公益財団法人武田科学振興財団の薬学系研究助成などの支援を受けて行なわれました

神経発達障害診療ノート

名称未設定

プレスリリース 報道関係者各位 2019 年 10 月 24 日慶應義塾大学医学部大日本住友製薬株式会社名古屋大学大学院医学系研究科 ips 細胞を用いた研究により 精神疾患に共通する病態を発見 - 双極性障害 統合失調症の病態解明 治療薬開発への応用に期待 - 慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

れており 世界的にも重要課題とされています それらの中で 非常に高い完全長 cdna のカバー率を誇るマウスエンサイクロペディア計画は極めて重要です ゲノム科学総合研究センター (GSC) 遺伝子構造 機能研究グループでは これまでマウス完全長 cdna100 万クローン以上の末端塩基配列データを

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 2 月 4 日 独立行政法人理化学研究所 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の進行に二つのグリア細胞が関与することを発見 - 神経難病の一つである ALS の治療法の開発につながる新知見 - 原因不明の神経難病 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は 全身の筋

研究の背景社会生活を送る上では 衝動的な行動や不必要な行動を抑制できることがとても重要です ところが注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などの精神 神経疾患をもつ患者さんの多くでは この行動抑制の能力が低下しています これまでの先行研究により 行動抑制では 脳の中の前頭前野や大脳基底核と呼ばれる領域が

( 図 ) 顕微受精の様子

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「ゲノムインプリント消去には能動的脱メチル化が必要である」【石野史敏教授】

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背景 私たちの体はたくさんの細胞からできていますが そのそれぞれに遺伝情報が受け継がれるためには 細胞が分裂するときに染色体を正確に分配しなければいけません 染色体の分配は紡錘体という装置によって行われ この際にまず染色体が紡錘体の中央に集まって整列し その後 2 つの極の方向に引っ張られて分配され

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生物時計の安定性の秘密を解明

PowerPoint プレゼンテーション

公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研究事業 ( 平成 28 年度 ) 公募について 平成 27 年 12 月 1 日 信濃町地区研究者各位 信濃町キャンパス学術研究支援課 公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研

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2014年

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

Microsoft Word CREST中山(確定版)

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

平成16年6月  日

Microsoft Word - 【変更済】プレスリリース要旨_飯島・関谷H29_R6.docx

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

助成研究演題 - 平成 23 年度国内共同研究 (39 歳以下 ) 重症心不全の集学的治療確立のための QOL 研究 東京大学医学系研究科重症心不全治療開発講座客員研究員 ( 助成時 : 東京大学医学部附属病院循環器内科日本学術振興会特別研究員 PD) 加藤尚子 私は 重症心不全の集学的治療確立のた

記者発表資料

研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

平成 26 年 8 月 21 日 チンパンジーもヒトも瞳の変化に敏感 -ヒトとチンパンジーに共通の情動認知過程を非侵襲の視線追従装置で解明- 概要マリスカ クレット (Mariska Kret) アムステルダム大学心理学部研究員( 元日本学術振興会外国人特別研究員 ) 友永雅己( ともながまさき )

Transcription:

報道機関各位 報道機関各位 2016 年 11 月 18 日 東北大学大学院医学系研究科理化学研究所 世界初 : 一遺伝子変異の遺伝的リスクと父の加齢との関係性を説明 発達障害を理解するための遺伝子 環境因子相互作用の可能性について 研究の概要 自閉症スペクトラム障害や注意欠陥 多動性障害等の発達障害では その症状が多様であることから多数の遺伝子および遺伝子 環境相互作用が絡み合う複雑な病因が想定されています しかし 現時点ではその詳しいメカニズムについては明らかにされていません 東北大学大学院医学系研究科の大隅典子 ( おおすみのりこ ) 教授 吉崎嘉一 ( よしざき注かいち ) 助教らは 遺伝子の発現を制御する因子 Pax6 1 の変異がリスク要因となり 父親の加齢が子孫の行動に影響を及ぼすことを明らかにしました 父親の高齢化の子孫に対する影響を明らかにするため 若齢 (3 ヶ月齢 ) あるいは高齢 (12 ヶ月齢 ) の父親マウスから生まれた Pax6 変異マウスを用いて網羅的行動解析を実施しました その結果 若齢の父親マウスから生まれた Pax6 変異マウスが母子分離コミュニケーションの異常を示した一方で 高齢の父親マウスから生まれた Pax6 変異マウスは多動傾向を示すことを見出しました 以上より 同一の遺伝子変異をもつマウスでも 父親の年齢により多様な表現の行動異常を示すこと つまり 遺伝的なリスクの次世代への伝わり方が父の加齢によって異なることを世界で初めて示しました 本研究成果は 米国東部時間の 2016 年 11 月 17 日 ( 日本時間 11 月 18 日 ) に PLOS ONE の電子版に掲載されました 本研究は 理化学研究所バイオリソースセンターの若菜茂晴 ( わかなしげはる ) チームリーダー 古瀬民生 ( ふるせたみお ) 開発研究員 イタリア科学技術研究所の Valter Tucci 教授らとの共同研究であり 文部科学省科学研究補助金の支援を受けて行われました 研究のポイント 転写因子 Pax6 は自閉症スペクトラム障害との関連が示唆されている Pax6 変異仔マウスの行動異常は 父親が若齢か高齢かによって異なることが明らかになった 遺伝的なリスクの次世代への伝わり方が父の加齢によって異なることを世界で初めて示した

研究の背景 近年 自閉症スペクトラム障害や注意欠陥 多動性障害等の発達障害が増加していることが報告されており 早期の病態基盤の解明と治療法の確立が求められています 現在までに その病態基盤は十分に明らかにされていませんが 神経発生やシナプス形成等に関わる遺伝子等 800 個以上の遺伝子が関係すると考えられています 一方 環境要因の関与もあり 例えば 母親が周産期に感染した場合や 高齢あるいは肥満の父親から生まれた子どもに自閉症スペクトラム障害や注意欠陥 多動性障害等の発症率が高いことが報告されています このように 自閉症スペクトラム障害には多数の遺伝子や 遺伝子 環境相互作用が複雑に絡み合うことが想定されています 研究結果 大隅教授の研究チームは 自閉症スペクトラム障害および注意欠陥 多動性障害の病態基盤における遺伝子 環境要因相互作用について検討するために 若齢 (3 ヶ月齢 ) および高齢 (12 ヶ月齢 ) の雄マウスより得られた精子をもとにして体外受精により得られた Pax6 変異の仔マウスを用いて網羅的行動解析を実施しました注 2 その結果 若齢(3 ヶ月齢 ) の父親マウスから生まれた Pax6 変異マウスは 超音波発声注 3 の低下を示しました ( 図 1) また 高齢の父親マウスから生まれた Pax6 変異マウスは オープンフィールド試験注 4 および尾懸垂試験注 5 において自発運動量の増加を示しました ( 図 2 および 3) このような行動異常は 若齢の父親マウスから生まれた Pax6 変異マウスは観察されませんでした また 自発運動量の増加は 飼育ケージでは観察されないことから 新規環境において初めて現れる表現系であると考えられました 若齢の父親マウスから生まれた Pax6 変異マウスにおいて自発運動量の増加は観察されず 高齢の父親マウスから生まれた野生型マウスにおいても自発運動量の増加は観察されないことから Pax6 変異というリスク素因と父親の高齢化の影響が協調的に作用することにより 多動傾向が引き起こされたと考えられます ( 表 1および概念図 ) 社会的意義 今後の研究 本研究は 自閉症スペクトラム障害および注意欠陥 多動性障害の病態基盤における遺伝子 環境要因相互作用の可能性について Pax6 遺伝子 ( リスク因子 ) と父親の高齢化に着目し 実験的に実証した初めての報告になります 近年 発達障害が増加していることの生物学的背景として 晩婚化および晩産化に伴う父親の高齢化の影響が指摘されています 本研究の成果は 自閉症スペクトラム障害および注意欠陥 多動性障害の複雑な病態基盤の一端の理解に大きく貢献できると思われます 今後は 父親の高齢化がどのようにして次世代の行動様態に影響を及ぼすのか その分子メカニズムを解明したいと考えています 本研究へのご支援 本成果は 文部科学省科学研究補助金の支援により行われました

用語解説 注 1. Pax6: 転写制御因子であり 眼や脳の発生のマスター制御因子として知られている 幹細胞の維持や分化を制御することが報告されており さらに自閉症スペクトラム障害との関連が示唆されている 注 2. 今回は 父側からの影響のうち加齢以外の要因を極力減らすために 自然交配ではなく 体外受精を行った 注 3. 超音波発声 : ラットやマウス等の齧歯類 ( げっしるい ) が発する ヒトの可聴領域を超える超音波の鳴き声 特に 母マウスから離された仔マウスが発する超音波発声は 不安や体温調節との関与が示唆されており また 母子間コミュニケーションツールとして考えられるため 自閉症スペクトラム障害のモデルマウスの判定に頻用される 本実験では母マウスから離して 5 分間の間のコール数を測定した 注 4. オープンフィールド試験 : 新奇環境下での自発的な活動量を測定するテスト 多動や抑うつ 不安等の評価に用いられる 注 5. 尾懸垂試験 : 尾から吊されたされたマウスが動かなくなくなる時間 ( 無動時間 ) を測定するテスト マウスの抑うつの評価や 抗うつ薬のスクリーニングに用いられる 今回の研究成果の概念図

図 1. 若齢の父親から生まれた Pax6 変異マウスにおいて超音波発声コール数が低下した 図 2. 高齢の父親から生まれた Pax6 変異マウスにおいてオープンフィールド試験における自発運動量が増加した ( 左 ) 自発運動量 ( 右 ) 移動速度 図 3. 高齢の父親から生まれた Pax6 変異マウスにおいて尾懸垂試験における無動時間が低下した

表 1. Pax6 変異マウス (Sey/+) の表現系における父親の高齢化の影響について 発表論文名 題目 :Paternal aging affects behavior in Pax6 mutant mice: a gene/environmental interaction in understanding neurodevelopmental disorders 著者名 :Kaichi Yoshizaki, Tamio Furuse, Ryuichi Kimura, Valter Tucci, Hideki Kaneda, Shigeharu Wakana, Noriko Osumi お問い合わせ先 雑誌名 :PLOS ONE ( 研究に関すること ) 東北大学大学院医学系研究科発生発達神経科学分野教授大隅典子 ( おおすみのりこ ) 電話番号 :022-717-8201 E メール :osumi@med.tohoku.ac.jp ( 報道に関すること ) 東北大学大学院医学系研究科 医学部広報室講師稲田仁 ( いなだひとし ) 電話番号 :022-717-7891 ファックス :022-717-8187 E メール :pr-office@med.tohoku.ac.jp 理化学研究所広報室報道担当電話番号 :048-467-9272 ファックス :048-462-4715 E メール :ex-press@riken.jp