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国際仲裁制度の基礎知識 -JCAA 仲裁の実務 - 2018 年 3 月 2 日日本商事仲裁協会 (JCAA) 西村俊之

日本商事仲裁協会 (JCAA) 1950 年 : 日本商工会議所に国際商事仲裁委員会として設置された 1953 年 : 日本商工会議所から社団法人国際商事仲裁協会として独立した 2001 年 : 弁理士法に基づく経済産業大臣の指定を受けた 2003 年 : 名称を 日本商事仲裁協会 に改称した 2007 年 :ADR 法の基づく法務大臣の業務認証を取得した 2009 年 : 公益法人改革により 一般社団法人 に移行した

仲裁とは何か? 本日のテーマ 仲裁の利点とは? 仲裁を利用するためには? JCAA 仲裁の実務とは?

国際商事紛争の解決手段 交渉 調停 仲裁 裁判 強制力がない Alternative Dispute Resolution(ADR) 裁判外紛争解決 強制力がある それぞれに利点 欠点がある

仲裁とは法制度 仲裁法に基づく紛争解決制度 紛争当事者が 紛争の解決を第三者 ( 仲裁人 ) の判断に委ね その判断 ( 仲裁判断 ) に従う合意 ( 仲裁合意 ) に基づき行われる紛争解決手続 仲裁判断は確定判決と同一の効力

消費者仲裁合意 消費者 ( 消費者契約法第 2 条第 1 項に規定する消費者 ) と事業者 ( 同条第 2 項 ) との間の将来において生ずる民事上の紛争を対象とする仲裁合意 消費者は仲裁合意を解除することができる ( 仲裁法附則第 3 条第 2 項 )

労働者仲裁合意 将来において生ずる個別労働関係紛争 ( 個別労働関係紛争の解決と促進に関する法律第 1 条 ) を対象とする仲裁合意は無効 ( 仲裁法附則第 4 条 )

仲裁と仲裁鑑定の違い 仲裁 : 民事上の紛争を第三者が判断 仲裁鑑定 : 事実や価値を第三者が認定 評価

仲裁のメリット : 国際性 ニューヨーク条約による仲裁判断の国際的な強制執行 ニューヨーク条約の加盟国は 157 か国 台湾は非加盟国 ( 国内法に外国仲裁判断の承認 執行の手続が定められている )

その他の仲裁のメリット 中立性 ( 当事者が仲裁人を選任 ) 非公開性と守秘義務 迅速性 ( 一審制 )

裁判と仲裁の違い 判断者 裁判 裁判官 当事者が選べない 仲裁 仲裁人 当事者が紛争の事案に応じて自由に選べる 公開性対審および判決言渡しは公開仲裁手続および仲裁判断は非公開 審級性 三審制 上訴ができる反面 長期化し 非経済的である 一審制 早期解決が図れ 経済的である 国際的執行力 判決の国際的強制力に関する多数国間条約の不存在 ニューヨーク条約による仲裁判断の国際的強制力 1. 契約書においては 裁判と仲裁のどちらか一方を選択する 2. 仲裁合意があるにもかかわらず 訴訟が提起されたときは 被告の申立てにより裁判所は訴えを却下する

仲裁と調停の違い 仲裁 調停 判断者 仲裁人 当事者が紛争の事案に応じて自由に選べる 調停人 当事者が紛争の事案に応じて自由に選べる 公開性仲裁手続および仲裁判断は非公開調停手続および和解契約は非公開 手続合意 仲裁を行うためには 仲裁合意が必要 調停を行うためには 調停合意が必要 執行力仲裁判断は強制執行ができる和解契約は強制執行できない 1. 調停は 最終的な解決手段とはならない 2. 仲裁手続の中で 調停手続が行われることもある

仲裁を利用するには 当事者間に仲裁合意がなければ 紛争を仲裁で解決することができない 紛争の発生後に 仲裁合意を結ぶことは 極めて難しい 重要 : 契約書を作成し 予め 仲裁条項を定める

仲裁条項 (1) 1 この契約からまたはこの契約に関連して 当事者の間に生ずることがあるすべての紛争 論争または意見の相違は 2( 一社 ) 日本商事仲裁協会の商事仲裁規則に従って 3 日本国東京において 4 仲裁により最終的に解決されるものとする 5 仲裁の手続用語は日本語とする (6 仲裁人の数は 3 人 ( 又は 1 人 ) とする )(7 弁護士費用は各自 ( 又は敗訴者 ) の負担とする ) 1 紛争の対象 2 仲裁機関と仲裁規則 3 仲裁地 4 仲裁による終局的な解決 5 仲裁の手続用語 6 仲裁人の数 7 弁護士費用 [ 仲裁条項のポイント ] 2 3 及び 5 の項目については 交渉により 出来るだけ自社に有利なものにする

世界の主な仲裁機関 アジア 日本商事仲裁協会 (JCAA) Hong Kong International Arbitration Centre Singapore International Arbitration Centre 中国国際経済貿易仲裁委員会 (CIETAC) 大韓商事仲裁院 (KCAB) 北米 International Center for Dispute Resolution (American Arbitration Association) ヨーロッパ International Court of Arbitration of the International Chamber of Commerce London Court of International Arbitration German Institute of Arbitration (DIS) Arbitration Institute of the Stockholm Chamber of Commerce Swiss Chambers' Arbitration Institution

日本を仲裁地とできない場合 第三国地 ニューヨーク パリ ロンドン ストックホルム シンガポール 香港等 被申立人の地

被告地主義による仲裁条項 仲裁条項 (2) この契約からまたはこの契約に関連して当事者間で生じるすべての紛争は X( 外国法人 ) が仲裁を申し立てる場合は 日本商事仲裁協会の商事仲裁規則に基づき日本国東京において または Y( 日本法人 ) が仲裁を申し立てる場合には ( 仲裁機関の名称 ) の ( 仲裁規則の名称 ) に基づき ( 外国の都市名 ) において仲裁により終局的に解決されるものとする All disputes, controversies or differences which may arise between the parties hereto, out of or in relation to or in connection with this Agreement shall be finally settled by arbitration in (the name of the city in Japan) pursuant to the Commercial Arbitration Rules of the Japan Commercial Arbitration Association if X (foreign corporation) requests the arbitration or in (the name of the city in foreign country) pursuant to (the name of rules) of (the name of arbitral institution) if Y (Japanese corporation) requests the arbitration.

欠陥仲裁条項に注意 欠陥仲裁条項の例 この契約からまたはこの契約に関連して 当事者の間に生ずることがあるすべての紛争 論争または意見の相違は 日本国際仲裁センターで解決されるものとする

仲裁の種類 機関仲裁 アド ホック仲裁 ( 例 :UNCITRAL 仲裁規則による仲裁 )

JCAA の事件統計

JCAA の事件統計 ( 契約類型 ) 19% 継続的売買 34% 物品売買 3% ライセンス 7% 建設請負 合弁 16% その他 21% 2013 年から 2017 年に終結した JCAA 仲裁事件

JCAA の事件統計 ( 紛争金額 ) 7% 13% 1000 万円以下 3% 12% 1000 万円超 5000 万円以下 5000 万円超 1 億円以下 20% 12% 1 億円超 10 億円以下 10 億円超 50 憶円以下 50 憶超 経済的価値の算定ができない 又は極めて困難な請求 33% 2013 年から 2017 年に終結した JCAA 仲裁事件

JCAA の事件統計 ( 当事者上位 5 か国 ) 申立人 被申立人 所在国 / 地域 人数 所在国 / 地域 人数 日本 68 日本 60 中国 9 中国 10 韓国 6 バハマ 8 米国 5 米国 6 シンガポール 4 韓国 6

JCAA の事件統計 ( 仲裁人の国籍 ) 日本 2.5% 2.5% 1.5% 1% 0.5% 2.5% 3% 米国 ドイツ 4% 中国 英国 10% カナダ 韓国 オーストラリア シンガポール 72% フィンランド

不動産に係わる紛争 日本企業 A 社は マンションの建設 分譲 賃貸を事業とする中国企業 B 社とその販売 賃貸の募集を行う業務委託契約を締結していたが 中国企業 B 社が業務委託手数料を支払わなかっため その支払いも求めて仲裁申立てを行った 日本企業 A 社は 個人投資家 ( 複数 ) との間で不動産投資を目的とする民法所定の組合契約を締結した 日本企業 A 社 ( 業務執行組合員 ) は 個人投資家からの出資金および銀行からの借入金を使い 国内外の不動産に投資を行った 投資期間の満了後に 精算したところ 赤字となったため 日本企業 A 社は 個人投資家に対し 出資持分に応じて 損金を負担するよう求めたが 個人投資家がこれに応じなかったため その支払いを求めて仲裁申立てを行った

仲裁手続の流れの一例 仲裁合意 答弁書 手続会合 審問前会合 仲裁判断 仲裁申立て 仲裁人の選任 - 主張書面の提出 - 文書開示手続 審問 ( 証人尋問 ) 平均手続所要期間 :16.8 ヶ月 (2013 年 ~2017 年に終結した仲裁事件 )

( 事例にみる仲裁手続の流れ ) 長期供給契約の締結 日本の中堅化学メーカー X 社は ア ジアの某国にある Y 社に対し 自社 の化学製品を長期供給 販売する 契約を締結し 両者の取引は順調に維持されてきた

トラブルの発生 : Y 社による引取拒絶 ところが 契約締結後 3 年目に入った直後 Y 社は X 社に対し 突然 市場価格の下落や製品の規格違いを理由にして 販売価格を 20% 下げない限り 製品の引取はできない旨の通知をしてきた

交渉による解決の限界 X 社は Y 社に対し 製品の引取を繰り返し求めたが Y 社は販売価格の改定交渉以外の交渉には応じないとして 引取を拒絶した X 社は製品の転売を余儀なくされ その結果 1 億円の損害を被った

契約の紛争解決条項 国際取引に精通しているX 社は Y 社との長期供給契約の中に その契約に関連して生じる紛争を 東京において日本商事仲裁協会の仲裁によって解決するとの仲裁条項を定めていた

X 社による仲裁申立て X 社は Y 社を相手に 1 億円の損害賠償を求める仲裁申立てを日本商事仲裁協会に行った 1. 仲裁申立書の提出 ( 規則 14 条 1 項 ) 2. 管理料金の納付 ( 規則 14 条 5 項 )

仲裁人の選任 当事者による合意選任が出来なかった 協会は 被申立人から第三国の要請を尊重し 第三国の Z 国籍の単独仲裁人を選任した 1. 仲裁人の選任方法 ( 規則 25 条から 30 条 ) 2. 仲裁人の数は原則 1 人 ( 規則 26 条 1 項 ) 3. 単独仲裁人 第三仲裁人の国籍 ( 規則 27 条 4 項 28 条 6 項 )

優れた仲裁人の選任が重要 言語力 手続指揮能力 法的判断能力

仲裁人による言語の決定 仲裁条項に手続言語の定めがなかったため 仲裁人は契約書の言語を考慮し 英語と決定した 1. 手続言語は当事者の合意による ( 規則 11 条 1 項 ) 2. 当事者の合意がない場合は 仲裁人が契約の言語等を考慮して決定する ( 規則 11 条 1 項 ) 3. 協会と当事者または仲裁人との通信は 日本語または英語 ( 規則 11 条 3 項 )

審理手続 当事者が主張 立証を行う審理手 続は東京で行われた 1. 審問その他の審理手続は仲裁廷の指揮の下に行う ( 規則 37 条 1 項 ) 2. 仲裁廷は口頭による審問を行うか または書面に基づいて進めるか決定する ( 規則 44 条 1 項 ) もし 相手方が手続を無視したらどうなるのか?

仲裁判断 仲裁人は Y 社の主張を斥け X 社の請求を認める仲裁判断をした 仲裁廷は その成立から 6 か月以内に仲裁判断をするよう努めなければならない ( 規則 39 条 1 項 )

Y 社による仲裁判断の履行 Y 社は X 社がニューヨーク条約に基づいて 強制執行を求めてきた場合はこれを阻止することは困難であるとの弁護士の意見を踏まえ 任意に支払いに応じた

仲裁に要する費用 仲裁機関の管理報酬 仲裁人の報酬 費用 仲裁手続に要する費用 ( 例 : 会議室 通訳 速記録 ) 弁護士の報酬 費用

仲裁費用の内訳 (2015 年 4 月から 2017 年 11 月までの間に仲裁判断が出された仲裁事件のうち弁護士費用の請求のあった事件 ) 13.2% 仲裁人報償金 費用 3% 1.2% 協会管理料金 その他費用 82.6% 代理人報酬 費用

お問い合せ先 ( 東京本部 ) 101-0054 東京都千代田区神田錦町 3-17 廣瀬ビル 3 階 TEL:03-5280-5161 FAX:03-5280-5160 Email: arbitration@jcaa.or.jp ( 大阪事務所 ) 540-0029 大阪府大阪市中央区本町橋 2-8 大阪商工会議所ビル 5 階 TEL:06-6944-6164 FAX:06-6946-8865 Email: arbitral-osaka@jcaa.or.jp