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水工学論文集, 第 59 巻,205 年 2 月 角柱周辺の流れ場の組織構造と流速分布特性 COHERENT STRUCTURE AND CHARACTERISTIC VELOCITY DISTRIBUTION OF THE FLOW FIELD NEAR THE RECTANGULAR CYLINDER 佐賀孝徳 北川尊将 2 宇根拓孝 3 渡辺勝利 Takanori SAGA, Takamasa KITAGAWA, Hirotaka UNE and Katsutoshi WATANABE 正会員博士 ( 工学 ) 徳山工業高等専門学校土木建築工学科 ( 745-8585 山口県周南市学園台 ) 2 学生会員徳山工業高等専門学校専攻科環境建設工学専攻 ( 同上 ) 3 熊本大学工学部社会環境工学科 ( 860-8555 熊本市中央区黒髪 2-39-) Coherent structure and the properties of the velocity fluctuation of the flow field near the rectangular cylinder are investigated using the flow visualization techniques and PTV. In flow visualization, halogen light sheets were used in side view, plan view and streamwise view. Separation vortex are formed in shear layer on the top and side surface of rectangular cylinder. And horseshoe vortex are existed at the bottom wall outside of cylinder. The specific velocity distribution and velocity fluctuation property are shown as characteristic phenomenon by the different position.it should be noted that the relationship of coherent structure and the properties of the velocity fluctuation are cleared. Key Words : horseshoe vortex, separation vortex, velocity fluctuation characteristics, flow visualization, PTV. 緒論角柱周辺の流れ場は, その境界条件により非定常で複雑であり, 特にせん断流中の角柱は, 底壁面, 角柱前面, 側面, 上面, 背面の固体境界条件を有し, それぞれに固有の流れ場を形成している. 物体周辺の流れ場の研究は, 円柱が圧倒的に多く ), 角柱を取り扱う例は, かなり少ない事が知られている 2). また, 背圧についての理論ができたら, それこそ流体力学教科書の第 ページに載ることになるよ. と当時の土木学会基礎水理部会長の長谷川先生が, 北大名誉教授の木谷勝先生の言葉を第 2 回の流体力の評価とその応用に関するシンポジウムで紹介され, その重要性とその未解明の分野である事を指摘されている 3). 2 次元の角柱の研究は, 角柱まわりの時間平均の流れ場と定常流体力, 瞬時の非定常流線, 渦放出と変動揚力の位相関係を調べた実験的研究 4,5), 辺長比を変化させ表面圧力, 流体力, モーメント, 変動周波数を調べた実験的研究 6),2 成分 LDVによる角柱周りの平均流速, レイノルズ応力の分布やピーク値, 鞍点を求め, 円柱と比 較した実験研究 7) がある.LESを用いた 2 次元角柱周りの流れの解析的研究 8-0), さらにそれを 3 次元への発展性を示唆した研究 ),Re 数を変化させ 3 次元角柱周りの渦構造, 渦放出特性を LESで解析した研究 2) がある. 非線形 k-εモデルに乱れ強さの条件を考慮した立方体周辺の3 次元流れ場を解析した研究 3), 円柱周りの流れと局所洗掘現象の 3 次元数値解析モデルを実験と比較し検証した研究 4) がなされている. 更に, 高速度ビデオカメラとステレオ PIVを用いた 3 次元角柱の後流が調べられ, 頂部, 側面から形成されるアーチ型渦の特徴が詳察されている 5). しかしながら, 角柱底壁周りの馬蹄形渦, 側面, 上面からの前縁 後縁剥離流れ, 背面の鞍点までの形成領域, 後流領域の実験を用いた流れ構造, 詳細な流速分布特性は十分に明らかにされていない. 著者らは, これまで円柱周りの組織構造と流速分布特性 6), 高層建築物周囲の流れの組織構造と流速分布特性を調べ, 瞬時速度場では約 3 倍の速度上昇を明らかにしている 7). 水平断面視による PIVにより角柱周辺の流れ場の特徴を考察している 8).

そこで本研究では 実験で流れの詳細が求められていな 株 ライブラリ を用い 取り込み時間は/30秒毎 いアスペクト比3の3次元角柱周辺の流れ場の組織構造に に20秒間3600枚とした 誘起される流速分布特性を明らかにする事を目的とする 3 実験結果および考察 2 実験装置および実験方法 実験装置には 長さ0m 幅60cm 高さ5cm 水路 勾配/000の総アクリル製滑面開水路を用いた また 開水路の上流端には整流用ハニカムを 下流端には水位 調節用の堰を設置した 実験装置の概略を図-に示す 実験条件を表-に示す 模型は 高さ6cmのアクリル製 の直方体 2 2 6cm を用い 水路の中心に設置し 測定を行った 本文では 直方体の短辺をB 水深をH 直方体高さをh また 平均流速をUmとする 模型は 縦断 横断 水平断面視ともに流下方向に垂 直に設置した 本研究では 模型周辺の流れが 各断面 視により可視化され その形象はデジタルビデオカメラ SONY HDR-FX により撮影された ハロゲンス リット光 厚さ2mm を使用した 可視化方法は 蛍 光染料 比重.005 および微細粒子 平均粒径50μ m のトレーサーによる直接注入法で行い 粒子の画像 をPTVに用いた 縦断面視は染料および粒子ともに6断 面 図-2 で撮影した 模型底面の中心を原点とし X 軸は流れ方向 Y軸は高さ方向 Z軸は水路幅方向を表 す それぞれの流速をU,V,Wとし 代表スケールで無次 元化した値で表示する 流速抽出には Flow PTV 図- () 角柱前面の流れ場の特徴 図-3 図-4は それぞれ角柱前面領域の流れ方向流速 U/Umの平均流速分布 鉛直方向流速V/Umの平均流速分 布の特徴を示す 図-3より X/B= -.5,-.0,-0.75の断面において底壁面近 傍で逆流が生じている この事は馬蹄形渦の影響と考え られる Z/B=0では物体に近づくにつれ 物体前面領域 の平均流速U/Umが減少し 物体上端付近で 物体端部 の影響によるせん断層が形成される Z/Bが大きくなる につれ 流速低下は小さく せん断層も弱くなる 平均 流速V/Umは Y/h=0.7以下で下降流を示し Y/h=0.7以上 で上昇流を示している この特徴は 縦断面可視化形象 と一致する またZ/B=0のとき下降流の最大値はY/h=0.2 の位置で 上昇流の最大値は物体の上縁にあたる Y/h=.0の位置で形成される また上昇流はZ/B=0が Z/B=0.55 Z/B=0.75に比べ大きいことから上昇流は物体 中心から遠ざかるにつれ小さくなる傾向が認められる Z/B=0.55 Z/B=0.75の下降流の最大値はY/h=0.の位置で あり Z/B=0.0に比べ Y/hが小さくなり 負値が急激に 増加する分布を示す このことは 馬蹄形渦の下降流に より誘起されるためと考えられる 実験装置 図-3 角柱前面U/Umの平均流速分布 表-1 実験条件 可視化断面 トレーサー 流量( /s) case case2 縦断面 Re数 水深 平均流速 最大流速 h(cm) Um(cm/s) Umax(cm/s) Re=Um D/ν 染料 粒子 case3 横断面 染料 case4 水平断面 染料 3300.0 5.0 6.4 6000 Z/B=0 Y Z 図-4 角柱前面V/Umの平均流速分布 図-2 縦断面可視化の計測断面 I_554

Y/h Vmax/U * X/B 図 -5 平均的な鞍点の位置 X/B 図 -6 最大平均流速 Vmaxの X,Z 方向変化 X/B し,Z/B=0.75~.0 の鞍点の位置は,X/B の位置に関係なく一定である. それは,Z/B=0.75 以上となると角柱による影響が小さいためと考えられる. 図 -6 は,X 方向変化 (-.0<X/B<-0.6) における最大平均流速 Vmax を摩擦速度 U * で無次元化したのもであり, X/B を横軸に示した図である. Z/B 変化に関わらず,X/B が大きくなるにつれ Vmax/U * の値が増加している. しかし,Vmax/U * の増加率は Z/B の位置によって異なり,Z/B=0,0.2 の直方体前面の中央では勾配は大きく,Z/B の位置が大きくなるにつれ, 小さくなることが確認できる. このことから, 直方体中央には大きな上昇流が発生していると考えられる. 図 -7 は,X 方向変化 (-.0<X/B<-0.6) における最小平均流速 Vmin を最大流速 U 0 で無次元化したのもであり, X/B を横軸に示した図である. 角柱前面である Z/B=0~0.4 の断面では, 下降流は X/B= -0.7 で最大である. また Z/B=0.55~0.65 では,X/B が直方体に近づくほど急激に下降流が増加している.Z/B=0.75 では,X/B が直方体に近づくほど下降流は減少しており, Z/B=.0 では, 一定で最も下降流が小さく, 馬蹄形渦の上昇流により減少していると推察される. 角柱と水路床の隅角部には馬蹄形渦という縦渦の存在が知られており, その渦の下降流によって,Z/B=0.55~0.65 では下降流が増加する. 図 -8 は, 角柱周りの流れの水平断面形象を示している. Y/h=0.07,0.7 では, 馬蹄形渦 ( 図中 ) が角柱を囲むように形成されていることが顕著に認められ 8,9), 先程の下降流の形成に寄与していることが推察される. Y/h=0.5 では, 側面前縁より剥離せん断渦が形成され 8), Y/h=.02 では, 角柱上面の流れの特徴を示している. 側面からの剥離せん断渦は縮小する傾向を示しており, 上面からの剥離現象との相互作用が推察される. Y/h=0.07 Y/h=0.7 Vmin/U * 図 -7 最小流速 Vmin の X,Z 方向変化 図 -5 は, 平均流速 V=0 における鞍点の位置の X 方向変化を示した図である.Z/B=0~0.65 の断面では,X/B=-.0 の分岐点の位置が Y/h=0.6 であり, そこから角柱に近づくにしたがって鞍点の位置が 0.7 に上昇している. しか Y/h=0.5 Y/h=.02 図 -8 角柱周りの水平断面可視化形象

(2) 角柱上面 側面の流れ場の特徴図 -9, 図 -0 は, 角柱上面 側面領域における, それぞれ流れ方向流速 U/U m の平均流速分布, 鉛直方向流速 V/U m の平均流速分布である. 平均流速 U/Um の Z/B=0 では,Y/h=.0~.3 で物体上端による境界層が形成され,X/B=-0.2~0 の間では,X/B の増加に伴い, 境界層内壁面近くに負の速度分布が発生し, 負の速度の最大値が増加している. 一方,X/B=0~0.5 では, 境界層内の負の速度分布が減少し,X/B=0.5 で負の領域が確認できなくなる. これは縦断面可視化形象で確認された物体上面の剥離せん断渦の影響であると考えられる. 紙面の関係で図面を省略するが,Z/B=0 の X/B=-0. ~0.,Y/h=.0~.3 では, 乱れ強度 (u,v ) レイノルズ応力が大きい分布を示す. Z/B=0.55 では,X/B=-0.2 から Y/h=0.5~0.55 の間で負の速度分布が生じており, 流下に伴い負の流速範囲が増加している. 最大値は X/B=0.4 位置で Y/h=0.~0.9 の範囲で負の流速分布が存在する. これは縦断面可視化の逆流現象と同じ結果を示している. 平均流速 V の Z/B=0 では, Y/h=.0~.2 の区間で上昇流が強くなっており, その最大値は流下に伴い減少し,Y/h も増加している.Z/B=0.55 では, 上昇と下降の鞍点が流下するにつれ底壁面に近づいていることがわかる.Z/B=0.75 では, 上昇と下降の鞍点において流下に伴う位置の変化に変わりがないが, 上昇 図 -9 角柱上面側面 U/U m の平均流速分布 流が流下に伴い, 減少している. また, 下降流の最大値が常に Y/h=0. の位置である. この下降流が馬蹄形渦の形成に関係していることは容易に推察できる. 図 - は,X/B=0 における平均流速 U(X) を断面平均流速 U m で無次元化した平均流速分布の Z 方向変化を示した図である.Z/B=0.55 と Z/B=0.65 の流速分布は, 直方体上面に形成された境界層と同じ傾向が確認できる. その特徴として,Y/h=0.2~0.9 では, 逆流を示すマイナス及び 0 付近の一定値を保ち,Y/h=0~0.2 では, 壁面に近づくに伴い増加し,Y/h=0.9~. で Y の上昇と伴に流速の増加が認められる.Y/h=0~0.2 の高速化の原因として, 馬蹄形渦の存在が考えられる. また,Z/B=0.55 の分布において,Y/h=0.2~0.9 間の負の領域は, 角柱側面の境界層内の逆流を反映している. 一方,Z/B=0.75 の流速分布は,Y/h=0~0. で正の速度せん断が出現し,Y/h=0.~0.6 の区間で緩やかに減速し, Y/h=0.6~.0 で再び増加している. この流速分布は, 上記に示した特徴を持つ Z/B=0.65 と角柱の影響をほとんど受けていない Z/B=.0 の特徴の中間的な分布形態である. この流速分布は, アスペクト比 5 の角柱実験でも得られている. (3) 角柱背面の流れ場の特徴図 -2, 図 -3 は角柱背面領域のそれぞれ流れ方向流速 U/U m の平均流速分布, 鉛直方向流速 V/U m の平均流速分布である. 平均流速 U/U m の Z/B=0 では,Y/h=.0~. で, 強いせん断層が形成され, 流下に伴いせん断層の速度勾配が緩やかになる傾向を示す.X/B=0.75~.5 において負の領域が増加し,X/B=.5 をピークに X/B=.5~3.0 で減少していることが認められる. 負の領域は, 最大で U/Um=-0.4 程度までとなる. また,X/B=3.0 からは, 負の領域が確認できなくなったため, 背面領域の鞍点は, X/B=2.5~3.0 で形成されると推察できる. さらに X/B=2.5 では底壁面近くに大きな逆流域が形成されている. これらのことは, 円柱の結果 6) とも一致する.Z/B=0.55 では, Z/B=0 で確認された Y/h=.0~. の間のせん断層が弱まっており, 負の領域においても X/B=0.75 で負の領域が存在するが,Z/B=0 に比べ, その範囲や流速は小さい. 図 -0 角柱上面側面 V/U m の平均流速分布 図 - X/B=0 の流速分布 U/U m の Z 方向変化

Z/B=0 とは異なり,Y/h=0~.0 の間で流速が増加している.Z/B=0.75 では,X/B=.5 以降 Y/h=0~0.2 の間で変曲点が 2 つ存在する. また X/B=2.0 の底壁面近傍で逆流が存在する. 平均流速 V の Z/B=0 で X/B=0.75 において,Y/h=0.2 以上では下降流は存在しない. しかし,X/B=.0 の角柱上部で下降流が認められて以降,X/B の値が増加に伴い, 負の最大値の増加及び下降流域の拡大が確認できる. また, 上昇流が底壁面近傍以外では確認できなくなる. X/B=2.0 で下降流が最大となり, 以降減少する. 下降流の領域が拡大する一方で,X/B=.0~2.5 の Y/h=0~0.4 で上昇流が拡大していることが確認できる. しかし, 上昇流は,X/B=2.5 をピークに X/B が増加に伴い減少していくことが確認できる.Z/B=0.55 では, 底壁面近傍で, 下降流が存在し,X/B=0.75~2.0 まで流速と範囲が増加傾向にあるが,X/B=2.0 以降, 範囲を増加しながら速度が低下する.X/B=0.75 の Y/h=.0 付近で下降流が存在しており, Z/B=0 で確認された上昇流の流速が減少している. Z/B=0 に比べ X/B=.5 以降の下降流は流速も範囲も減少している.Z/B=0.75 でも底壁面近傍で, 下降流が存在し, X/B=2.0 までその流速が増加し, それ以降, 減少しているが, その範囲は Y/h=0.2 までであり, ピークの位置は Y/h=0. である.Z/B=0 に比べ,X/B=0.75 の上昇流や X/B =.5 以後の下降流の流速や範囲が Z/B=0.55 より減少して 図 -2 角柱背面 U/U m の平均流速分布 いる. 角柱中心から離れるにつれ角柱背面の上昇流や下降流が減少する. 図 -4 は,Z/B=0 における流速 V を平均流速 Um で無次元化した平均流速分布の X/B=0.6~.0 の角柱近くの X 方向変化を示した図である. この第 の特徴は,Y/h=0.4~. において,Y/h=0.9 でピークを持つ上昇流が形成され,X/B の増加に伴い, 徐々に減少し,Y/h=. で最小値が負値となり, 下降流が形成されている. さらに, 図 -3 で示したように下降流が流下方向に増大することに繋がる. 第 2 の特徴は,Y/h=0~0.4,X/B=0.6 では,Y/h=0~0.2 で下降流が確認され,X/B の増加に伴い, 下降流から上昇流に変化する. さらに, その分布形状は,Y/h=0.4 は一定で, 上昇流のピークは,Y/h=0.5~0.2 であり,X/B に比して大きくなる. この特徴から横渦の存在を示唆する. 物体後流に観察される上昇流 6) とも一致する特徴である. また, すべての X/B も Y/h=0.4 で収束する点が存在する. その座標は, 図 -2 の Z/B=0 における流速 U の逆流のピークが Y/h=0.4 であることと一致し, 興味深い. また X/B=0.8 の下降流のピーク値は 0 近傍で, ダウンウォッシュ 5) による下降流が X/B=0.7~0.8 より下流側に平均的に発生すると推察できる. 図 -5, 図 -6 は, それぞれ Z/B=0 における縦断面可視化形象,X/B=0 の横断面可視化形象の一例を示す. 図 -5 では, 角柱上面の前縁剥離の渦形象 ( 図中 ) が認められ, 壁面での逆流現象も観察される. また, 後縁部では, 背面からの上昇流との相互作用も観察される. また, 背面領域では, 流下に伴い上部の渦構造が下降する現象が認められ, これらは前述の速度分布の特徴と一致する. 図 -6 は, 流れ方向は紙面手前より奥であり, 角柱の周りに剥離せん断層が形成され ( 図中 ), 流下に伴い X/B=0.5 以降では, 河井 5) の指摘する搖動するアーチ型渦形象が認められる. 角柱側の底壁面には, 馬蹄形渦 ( 図中 2) が形成されており, それが強い下降流を誘起していることが観察される. 図 -3 角柱背面 V/U m の平均流速分布 図 -4 Z/B=0 における流速 V/U m の X 方向変化

4. 結論 図 -5 Z/B=0 における縦断面可視化 図 -6 X/B=0 における横断面可視化 さ角柱周辺の組織構造と流速分布特性について縦断面視 水平断面視 横断面視の可視化と PTV から考察を行った. 以下に, 本論における主要な結論を示す. () 角柱前面おいて, 角柱近傍では 7 割の高さにおいて流速 V の鞍点が存在する. 上昇流, 下降流の最大値は, それぞれ Y/h=.0,0.2 である. 角柱前面の下降流は, 馬蹄形渦の形成に重要な役割を果たし, 馬蹄形渦により強い下降流の流れ場が形成されている. (2) 角柱上面において, 角柱中心部 X/B=0,Z/B=0 の壁面近くでは, 流速 U の負の値が最大となり, 逆流が最も大きくなる. (3) 角柱側面において, 剥離せん断層が形成され, 壁面は逆流が発生し, 底壁近くは馬蹄形渦による速度上昇が認められ, 水深方向に一様分布でない. (4) 角柱背面において, 角柱近傍で Y/h=0.4 以上では, 上昇流が形成され,X/B=0.7~0.8 以降では下降流が徐々に領域を広げながら形成される. Y/h=0~0.4 では, 角柱近傍で下降流その後上昇流が形成される. また,Z/B=0.75 では強い下降流が形成される. 角柱の 4 割の高さにおいて流速 U が負の最大値をとり, 直方体背後近傍の高速な上昇流の形成に重要な役割を果たす. 参考文献 Flow ) C. H. K. Williamson:Vortex dynamics in the cylinder wake, Ann. Rev. Fluid Mech., Vol.28, pp.477-539, 996. 2) M. Minguez, C. Brun, R. Pasquetti, E. Serre:Experimental and 2 Flow high-order LES analysis of the flow in near-wall region of a square cylinder, International Journal of Heat and Fluid Flow 32, pp.558-566, 20. 3) 土木学会水理委員会基礎水理部会 : 流体力の評価とその 応用に関する研究論文集, 第 2 巻, 諸言, 2003. 4) 溝田武人, 岡島厚 : 角柱まわりの非定常流れに関する実 験的研究, 土木学会論文報告集, 第 32 号, pp.49-57, 98. 5) 溝田武人, 岡島厚 : 角柱まわりの時間平均流れに関する 実験的研究, 土木学会論文報告集, 第 32 号, pp.39-47, 98. 6) 鮎川恭三, 川崎則和, 大倉充, 淺野亮 : せん断流中にあ る角柱まわりの流れ, 日本機械学会論文集 (B 編 ), 5 巻, 472 号, pp.3887-3895, 985. 7) D.A.Lyn,S.Einav,W.Rodi, J.H.Park:A laser-doppler velocimetry study of ensemble-averaged characteristics of the turbulent near wake of a square cylinder, J. Fluid Mech., Vol.304, pp.285-39, 995. 8) 小垣哲也, 小林敏雄, 谷口伸行 : 角柱周りの流れのラー ジ エディ シミュレーション - メッシュ依存性について -, 生産研究, 48 巻 2 号, pp.99-02, 996. 9) 持田灯, 村上周三, 富永禎秀 :LES による 2 次元角柱周辺 流れの解析 -Dynamic Mixed SGS Model の適用 -, 生産研究, 47 巻 2 号, pp.79-84, 995. 0) 小林光, 村上周三, 持田灯, Kyle D.Squires:Lagrangian Dynamic SGS Model による 2 次元角柱周辺流れの LES 解析, 生産研究, 48 巻 2 号, pp.43-48, 996. ) 田村哲郎 : 角柱まわりの流れと空力特性 - 乱れの影響につ いて, ながれ, 22 号, pp.7-3, 2003. 2) 安藤正恵, 阿部伸之, 田代伸一 : 種々のレイノルズ数に 対する三次元角柱後流の渦形成機構, 第 23 回数値流体力学 シンポジウム B7-4, pp.-5, 2009. 3) 木村一郎, 細田尚 : 乱れ強さ非負条件を考慮した非線形 k-ε モデルによる立方体周辺の流れの三次元解析, 水工学 論文集, 第 44 巻, pp.599-604, 2000. 4) 長田信寿, 細田尚, 中藤達昭, 村本嘉雄 : 円柱周りの流 れと局所洗掘現象の 3 次元数値解析, 水工学論文集, 第 45 巻, pp.427-432, 200. 5) 河井宏允, 奥田康雄, 大橋征幹 :3 次元正四角柱の後流の流れ場の構造について, 京都大学防災研究所年報, 第 53 号 B, pp.39-402, 200. 6) 佐賀孝徳, 今本雅恵, 渡辺勝利 : せん断流中における円 柱後流の三次元構造に関する研究, 水工学論文集, 第 46 巻, pp.54-546, 2002. 7) 佐賀孝徳, 渡辺勝利, 中川雅也 : 高層建築物周囲に形成される流れ場の特性, 日本建築学会環境系論文集, 第 74 巻, 第 644 号, pp.5-22, 2009. 8) 北川尊将, 佐賀孝徳, 渡辺勝利 : 水平断面視を用いた角柱周辺の流れ場の組織構造と流速分布特性, 土木学会中国支部研究発表会 CD-ROM,203. 9) T.Saga:Study on the three dimensional vortical structure of the flow around a circular cylinder, Proceedings of 7 th International Symposium on FLCOME 03, CD-ROM, 2003. (204.9.30 受付 )