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ヤクルト容器立体商標第二次事件 Yakult bottle case: a case of registration of a bottle form as a trademark 知財高裁 ( 平 22( 行ケ )10169) 平成 22 年 11 月 16 日判決 判時 2113 号 135 頁, 判タ 1349 号 212 頁 * 堀江亜以子 Aiko HORIE 抄録乳酸菌飲料の容器として需要者の間に広く知られている立体的形状が, 市場に多数の類似商品が存在し, それに対する排除措置を執っていなくとも, 商標法 3 条 2 項に該当するものであるとして, 立体商標登録が認められた 事案の概要 原告ヤクルト本社 ( 以下 X という ) は, 乳酸菌飲料 ヤクルト の容器を立体商標として商標登録出願したところ, 拒絶査定を受けたので, これに対する不服の審判請求をした 特許庁 ( 以下 Y という ) は,1 本願商標は単に商品の収納容器 ( 形状 ) を表示するにすぎないから商標法 3 条 1 項 3 号 ( その形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標 ) に該当する,2X が使用する包装容器には ヤクルト Yakult の文字商標が入っていて立体的形状のみが独立して自他商品識別力を獲得したものとは認められないから, 商標法 3 条 2 項 ( 使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの ) には該当しない, 等として, 審判不成立の審決をした X は, この審決のうち,1 本願商標が商標法 3 条 1 項 3 号に該当するとした部分は争わないが, 2 本願商標が商標法 3 条 2 項に該当しないとした ことは誤りであるとして, 審決の取消を求めて提 訴したのが本件である 判旨 請求認容 図 商標法 3 条 2 項は, 前項第 3 号から第 5 号ま でに該当する商標であっても, 使用をされた結果 * 福岡大学法学部准教授 Associate Professor, Fukuoka University (Faculty of Law) 特許研究 PATENT STUDIES No.53 2012/3 39

需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては, 同項の規定にかかわらず, 商標登録を受けることができる 旨規定している したがって, 本願商標のように, その形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標 であって同法 3 条 1 項 3 号に該当する場合であっても, 使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる に至ったときは, 商標登録が許されることになる そして, 本願商標のような立体的形状を有する商標 ( 立体商標 ) につき商標法 3 条 2 項の適用が肯定されるためには, 使用された立体的形状がその形状自体及び使用された商品の分野において出願商標の立体的形状及び指定商品とでいずれも共通であるほか, 出願人による相当長期間にわたる使用の結果, 使用された立体的形状が同種の商品の形状から区別し得る程度に周知となり, 需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるに至っていることが必要と解される この場合, 立体的形状を有する使用商品にその出所である企業等の名称や文字商標等が付されていたとしても, そのことのみで上記立体的形状について同法 3 条 2 項の適用を否定すべきではなく, 上記文字商標等を捨象して残された立体的形状に注目して, 独自の自他商品識別力を獲得するに至っているかどうかを判断すべきである 本件容器の立体的形状に関し, 次の点を指摘することができる ( ア ) X 商品は, 本願商標の指定商品である乳酸菌飲料である ( イ ) 本件容器とほぼ同一形状の容器は, 昭和 43 年に,X 商品の容器がガラス瓶からプラスティック製のワンウェイ容器に変更された際に, 著名なデザイナーによってデザインされたものであり, 飲みやすさ, 持ちやすさ, コンベアー ラインでのガイドへの適合性, 自動包装機への適応性などの機能性が重視されたシンプルな形状ではあったものの, 当時, 乳酸菌飲料の容器としては斬新な形状であった 本件容器は, 昭和 43 年の販売開始以来 40 年以上ほとんどその形状を変えることなく, 一貫して X 商品に使用されてきた ( ウ ) X 商品の販売額は, 平成 12 年 (2000 年 ) 以降 300 億円を超えており, 特に平成 20 年 (2008 年 ) には 459 億円に達している また, 平成 10 年から平成 19 年までの間, 乳酸菌飲料における X の市場占有率は常に 50% 以上であり,X 商品のみでも, 業界の約 42% 以上のシェアを占めている ( エ ) X 商品の宣伝広告費は,X 商品 ヤクルト の販売を開始した昭和 43 年は約 9 億 6000 万円であったが, 翌年には約 20 億円に急増し, その後もほぼ年々増加傾向にあって, 昭和 57 年には約 50 億円, 平成元年には約 76 億円, 平成 17 年には約 95 億円に達しており,X 商品には毎年巨額の宣伝広告費用が費やされてきた ( オ ) 宣伝広告記事の内容は, 本件容器が採用された昭和 43 年ころから, 本件容器の形状の特徴及び利点を強調する宣伝が数多くなされ, その後,X の宣伝には, ほぼ必ず本件容器の写真若しくは図柄が掲載されており, 本件容器があたかも X のシンボルマークのように扱われて, 需要者に強く印象付けられるような態様で宣伝されてきた ( カ ) 平成 20 年及び同 21 年の各アンケート調査の結果によれば, 男女 480 人を対象とした東京及び大阪における会場テストにおいても, また男女 5000 人を対象としたインターネット調査においても, 本願商標と同一の立体形状の無色容器を示された回答者の 98% 以上が, 同容器から ヤクルト を想起すると回答している 40 特許研究 PATENT STUDIES No.53 2012/3

( キ ) 現在, 乳酸菌飲料を取り扱う市場においては, 本件容器と類似する立体的形状の容器を使用した他社商品が多数販売されており, 証拠上確認できるものだけでも本件容器と類似する立体的形状の商品が 12 種類以上存在しているが, いずれも,X が昭和 43 年に本件容器を採用した以降に登場した商品であること, インターネット上の記事によれば, 本件容器と酷似する立体的形状の商品に接した需要者は, それらの容器を ヤクルトとそっくりな容器, ヤクルトのそっくりさん, ヤクルトもどき, この容器はヤクルトを連想する というように, それらの容器が本件容器の模倣品であるとの意識を持っていることが窺われる 以上によれば, 本件容器を使用した X 商品は, 本願商標と同一の乳酸菌飲料であり, また同商品は, 昭和 43 年に販売が開始されて以来, 驚異的な販売実績と市場占有率とを有し, 毎年巨額の宣伝広告費が費やされ, 特に, 本件容器の立体的形状を需要者に強く印象付ける広告方法が採られ, 発売開始以来 40 年以上も容器の形状を変更することなく販売が継続され, その間, 本件容器と類似の形状を有する数多くの乳酸菌飲料が市場に出回っているにもかかわらず, 最近のアンケート調査においても,98% 以上の需要者が本件容器を見て ヤクルト を想起すると回答している点等を総合勘案すれば, 平成 20 年 9 月 3 日に出願された本願商標については, 審決がなされた平成 22 年 4 月 12 日の時点では, 本件容器の立体的形状は, 需要者によって X 商品を他社商品との間で識別する指標として認識されていたというべきである そして,X 商品に使用されている本件容器には, 前記のとおり, 赤色若しくは青色の図柄や X の著名な商標である ヤクルト の文字商標が大きく記載されているが, 上記のとおり, 平成 20 年及び 同 21 年の各アンケート調査によれば, 本件容器の立体的形状のみを提示された回答者のほとんどが X 商品 ヤクルト を想起すると回答していること, 容器に記載された商品名が明らかに異なるにもかかわらず, 本件容器の立体的形状と酷似する商品を ヤクルトのそっくりさん と認識している需要者が存在していること等からすれば, 本件容器の立体的形状は, 本件容器に付された平面商標や図柄と同等あるいはそれ以上に需要者の目に付きやすく, 需要者に強い印象を与えるものと認められるから, 本件容器の立体的形状はそれ自体独立して自他商品識別力を獲得していると認めるのが相当である Y は,, 取引の実情において, 他社の類似する形状の包装用容器が多数存在すること, それにもかかわらず,X が他社の類似容器の存在に対し適切な処置を講じてこなかったことを問題視する しかし, 市場に類似の立体的形状の商品が出回る理由として, 通常は, 先行する商品の立体的形状が優れている結果, 先行商品の販売の直後からその模倣品が数多く市場に出回ることが多いと認められるところ, 取引者及び需要者がそれらの商品を先行商品の類似品若しくは模倣品と認識し, 市場において先行商品と類似品若しくは模倣品との区別が認識されている限り, 先行商品の立体的形状自体の自他商品識別力は類似品や模倣品の存在によって失われることはないというべきである そして, 本件においては, 前記認定のとおり, X 商品 ヤクルト は, 乳酸菌飲料の市場における先駆的商品であり, 著名なデザイナーにデザインを依頼し, 最初に本件容器の立体的形状を乳酸菌飲料に使用したものであり, 現在市場に出回っている容器の立体的形状が類似する商品はその後 特許研究 PATENT STUDIES No.53 2012/3 41

に登場したものであると認められること, 数多くの類似品の存在にもかかわらず, 本件容器の立体的形状に接した需要者のほとんどはその形状から ヤクルト を想起する, という調査結果が存するのであるから, 本件においては, 市場における形状の独占性を過剰に考慮する必要はないというべきである Y は, インターネット上の記事に関し, 要するに,X の ヤクルト をはじめとする乳酸菌飲料の容器はどれも皆似たようなものだという, 一般的な需要者の感覚や認識が存在することからして, 本願商標は, その立体的形状のみでは自他商品識別力を獲得するに至っていないことが裏付けられると主張する しかし, 前記認定のとおり, インターネット上の記事から認められる重要な事実は,Y が主張するような 乳酸菌飲料の容器は X 商品も含めどれも皆似たようなものだ という漠然としたものではなく, むしろ乳酸菌飲料の容器には本件容器と酷似した模倣品が数多く存在するとの需要者の認識であって, この事実は,Y の主張とは逆に, 類似の形状の容器を使用する数多くの他社商品が存在するにもかかわらず, 需要者はそれら容器の立体的形状は本件容器の模倣品であると認識しているということを示していると認められるのであって, それは, 本件容器の立体的形状に自他商品識別力があることを強く推認させるというべきである 研究 1. 本判決の位置づけ 平成 8 年の商標法改正により, わが国においても立体商標の登録が認められるようになった その際, 商品及び包装の立体形状についても商標登録の対象とされることとなったが, 店頭に置かれ る人形等の立体物が容易に登録されるのに比べ, 商品及び包装の立体形状に関しては, 長年にわたり登録がほとんど認められてこなかった これは, 平成 7 年の工業所有権審議会における 商標法等の改正に関する答申 1 において, 実務上, 厳格に審査することが求められていた結果である 本件商標と同一の容器形状についても, 既に一度, 立体商標としての登録を否定されている ( 東京高判平成 13 年 7 月 17 日 ( ヤクルト容器立体商標第一次事件 )) 2 商品及び包装の形状について商標登録が許されることにより, 新規性や創作性を登録要件とする意匠登録制度の存在意義が損なわれる可能性がある以上, 商標法に, 意匠法との間の抵触規定を特におくことが望ましいが, 今日に至るまでそのような対応がなされることなく, 商品形状 立体形状についての立体商標登録を否定する事例ばかりが続いた しかし, イト事件判決( 知財高判平成 19 年 6 月 27 日 ) 3 により, 商品形状の商標登録を認める判断が下されて以降, 商品及び包装の立体形状につき, 商標登録が認められる事例が相次いだ ( 知財高判平成 20 年 5 月 29 日 ( コ コー ボトル事件判決 ) 4, 知財高判平成 20 年 6 月 30 日 ( シーシェルバー チョコレート事件 ) 5, 知財高判平成 23 年 4 月 21 日 (JEAN PAUL GAULTIER CLASSIQUE 事件 ) 6, 知財高判平 23 年 6 月 29 日 (Y チェア立体商標事件 ) 7 ) このうち, シーシェルバー チョコレート事件以外, 商標法 3 条 1 項 3 号該当性を否定して登録を認めたものはなく, いずれも商標法 3 条 2 項該当性を肯定することによって登録を認めた事例であって, 本件もまた, それに連なる判決である 本件は, 審決段階においては 3 条 1 項 3 号該当性についても争っていたが, 訴訟においては X はその主張をせず, 専ら 3 条 2 項該当性のみが争わ 42 特許研究 PATENT STUDIES No.53 2012/3

れている そして,3 条 2 項該当性を判断するに当たって考慮される要素のうち, その独占性について, 模倣品が多数市場に出回るなか, それを排除することなくして, 本件商標の識別力獲得を認めた点において, 従来判決と異なる判断を下していることが特徴であり, その妥当性が問われるものである 標と同様の飲料製品が販売されたのは原告製品よりも後のことであることを斟酌してみても, 原告の商品 ヤクルト の容器が, その形状だけで識別力を獲得していたと認めるのは困難である として,1 類似形状の商品が多数存在すること,2 つねに文字商標が付されていることを理由に,3 条 2 項該当性を否定した 2. ヤクルト容器立体商標第一次事件の概要ヤクルト容器立体商標第一次事件は, 立体商標登録制度が開始された平成 9 年 4 月 1 日付で, 本件商標と同一の容器形状につき商標登録出願がなされたものである なお, 本件商標と同一形状の容器については, 包装用容器の意匠として昭和 50 年に意匠登録され ( 登録第 409380 号 ) ており, 第一次事件における商標登録出願は, すでに意匠権保護期間が満了した後になされたものである また, このとき同時に商標登録出願がなされた, 同一形状の容器表面に文字商標が付されたものについては, 平成 10 年に立体商標として登録されている ( 登録第 4182141 号 ) 第一次事件判決は, 本件と同一の立体形状につき, 多少デザインが施されてはいるが指定商品 乳酸菌飲料 との関係において特異性があるものとは認められず, 通常採用し得る形状の範囲を超えているとは認識し得ないとして, 商標法 3 条 1 項 3 号該当性を認めた さらに,3 条 2 項該当性について, 本件出願当時, 既に本願商標の立体形状と同様に くびれ のある収納容器が原告以外の業者の乳酸菌飲料等の製品に多数使用されていたことが推認される点, 他方, 原告の商品である乳酸菌飲料 ヤクルト について, その収納容器に ヤクルト の文字商標が付されないで使用されてきたことを認めるに足りる証拠はない点などをも併せ考えると, 原告が主張するように, 本願商 3. 文字商標の存在と 同一の商標 性立体商標として出願された商品又は包装の立体形状が, 実際に使用されるに当たって, 文字商標が付されることなしに使用されたことがなく, それゆえ, 出願商標と使用されている立体形状とが同一とはいえないことを,3 条 2 項該当性を否定する論拠のひとつとして掲げる判決は, ヤクルト容器立体商標第一次事件に先立つゴルフスコア用鉛筆事件 ( 東京高判平成 12 年 12 月 21 日, 判時 1764 号 129 頁 ) に始まり, 角瓶立体商標事件判決 ( 東京高判平成 15 年 8 月 29 日, 最高裁 HP) を経て, ひよ子 立体商標事件判決( 知財高判平成 18 年 11 月 29 日, 判時 1950 号 3 頁 判タ 1226 号 50 頁 ) に至るまで連綿と続くこととなった こと, ひよ子 事件判決においては, 立体商標として出願されている商品形状自体には, 直接に文字商標が付されることはないが, 商品の包装や販売する, TV の広告等に, 常に文字商標を伴っていることをもって, 商品形状そのものの識別力を否定する理由の一つとしていた しかしながら, 実際の商品販売において, 文字商標を伴うことなしに販売することは, 通常では想定しがたい その中で, ミニ マグライト事件判決は, 商品に文字商標が付されていても目立たないものであって, 実際の識別力は商品形状にあるとして,3 条 2 項該当性を肯定した さらに, コ コ ラ トル事件判決は, 包装容器に著名な 特許研究 PATENT STUDIES No.53 2012/3 43

文字商標が目立つように大きく表示されていても, 文字商標を付さない容器形状のみを示したアンケートで, 一般消費者の6 割から8 割がコカコーラのボトルであると認識していることを挙げて,3 条 2 項該当性を肯定した この 2 つの事例については, 同一の審判部において出された判決でありながら, 商標の同一性を認める理由付けが異なっていることについて疑問の声があるものの, 特にコカコーラ ボトル事件判決について, 結論の妥当性により賛同が得られているといってよいであろう 本件商標出願が, このコカコーラ ボトル事件判決を承けてのリベンジ マッチであることは, 平成 20 年 9 月という出願時期からも明らかである 本判決も, 第一次事件判決と異なり, 立体的形状を有する使用商品にその出所である企業等の名称や文字商標等が付されていたとしても, そのことのみで上記立体形状について 商標法 3 条 2 項の適用を否定すべきではなく, 上記文字商標等を捨象して残された立体的形状に注目して, 独自の自他商品識別力を獲得するに至っているかどうかを判断すべきである と述べており, 文字商標が付されていることをもって, ただちに商標の同一性を否定する立場は採らないことを明確にしている この点は妥当な見解である しかしながら, 本判決が, ミニ マグライト事件判決, コカコーラ ボトル事件判決, 本判決 に下された JEAN PAUL GAULTIER CLASSIQUE 事件判決,Y チェア立体商標事件判決, これらに先行し, 立体商標としての登録が無効とされた ひよ子 事件判決とも大きく異なる点として, 類似商品の存在 模倣品対 と識別力とのとらえ が挙げられる もちろん, 商品又は包装の立体形状が立体商標としての識別力を獲得しているか否かについては, 当該商標の形状及び当該形状に類似した他の商品等の存否のほかにも, 当該商標の使用開始時期及び使用された期間, 使用された地域, 商品の販売数量, 広告宣伝がされた期間及び規模等の諸事情を総合考慮して判断するべきであり, 本判決も, 使用開始時期 使用期間, 販売実績 市場占有率, 宣伝広告の状況, アンケート調査の結果等から, 圧倒的な市場占有率と, 何よりも 9 割を超える 本件容器形状 =ヤクルト という想起率の高さは, コカコーラ ボトル判決を凌駕するものであったといえる それに加えて, 本判決は, 取引者及び需要者が 類似の立体形状の 商品を先行商品の類似品若しくは模倣品と認識し, 市場において先行商品と類似品若しくは模倣品との区別が認識されている限り, 先行商品の立体的形状自体の自他商品識別力は類似品や模倣品の存在によって失われることはない として,X が類似品 模倣品に対する排除措置を全く行っていなくても, 識別力を獲得し, 維持していると認めている これに対し, コカコーラ ボトル事件判決は, 類似商品の排除のみならず, 容器形状を表した図画の使用などについても排除するなど, 広義の混同の範疇に至るまで他者による容器形状の使用を排除する対応をしてきたことにより, 市場に類似の容器が存在しなくなっていることを識別力獲得の論拠の一つとして認定した点で大きく異なる 同様に,JEAN PAUL GAULTIER CLASSIQUE 事件判決では市場に類似商品が存在しないことを, ミニ マグライト事件判決では不正競争防止法 2 条 1 項 1 号に基づく訴訟により販売の差止めを行っていることを,Y チェア立体商標事件判決では模倣品販売業者に対する警告等の措置を執っ 44 特許研究 PATENT STUDIES No.53 2012/3

ていることを, 識別力を肯定する論拠としている 特に Y チェア事件では, 模倣品販売業者はいずれも模倣品であることを明示しているのであり, 本物と類似品 模倣品 という認識が需要者にもあると考えられる点で, 本件と共通していることは重要である 他方, ひよ子 事件判決においては類似商品について排除措置を行っていないことも識別力を否定する要因の一つに挙げられていた これらの判決における判断内容は, 不正競争防止法に関する事例であるギブソン ギター事件判決 ( 東京高判平成 12 年 2 月 24 日, 判時 1719 号 122 頁 ) の判断内容とも合致するものといえる ギブソン ギター事件判決では, 米国のギブソン ギター社は, その販売するレス ポールという有名なエレクトリック ギターの形態につき, 同社の商品であることを示す表示としていったんは周知性を獲得したものの, その後 20 年以上にわたって多数の類似形態の商品が市場に出回り続け, しかもその間, 何らの対抗措置を執らなかった これにより, 需要者にとって, 商品形態を見ただけで当該商品の出所を識別することは不可能な状況にあり, したがって, 需要者が商品形態により特定の出所を想起することもあり得ないものといわざるを得 ず, 需要者が, 類似商品の中には, レス ポールの模倣品も多数あることを認識しているということは, 需要者が, レス ポール型のギターを見て, ギブソン ギター社を含む複数の出所を想定することを意味するものであり, レス ポールの形態自体は特定の出所を表示するものとして機能していないこと示しているとして, 類似商品に対する販売差止を認めなかった 上に挙げた, 本判決を除く立体商標に関する判決例は, いずれも, このギブソン ギター事件判決と平仄を合わせるものであり, 識別力を獲得し ているといい得るためには, 現に類似商品が存在していないか, あるいはそれらを市場から排除するための対抗措置を執っていることが必要であるとの観点に立っているといえる ギブソン ギター判決の考え方に沿うならば, 本件商標もまた, 不正競争防止法 2 条 1 項 1 号に基づき, 類似商品に対して販売差止を求めたとしても, 請求は認められないものと判断されるのではないだろうか 本判決は, 本件容器が乳酸菌飲料市場において最初に登場したものであって, 数多くの類似品が存在するにもかかわらず, 需要者のほとんどがその形状を見て ヤクルト を想起することを理由に, 本件においては, 市場における形状の独占性を過剰に考慮する必要はないというべきである と述べているが, 本判決が識別力獲得の論拠としてあげているインターネット上の記事は, 類似の容器形状の本家は ヤクルト であると多くの人が認識しているものの, 同時に, 改めて文字商標を確認しなければ, それが ヤクルト であるか否かを判断できないことをも示しているといえるだろう X は, その主張において, 他の類似商品との間に深刻な混同は生じていないと述べているが, 文字商標が表記されていることによって混同が回避されていることも十分に考えられる 本判決の考え方に従えば, 自他商品識別力 を有するとは, 特定の商品として ( すなわち本件では ヤクルトの容器 として ) 認識され得る 状態にあることであって, 現に, その商品 の形状のみをもって, 他社の商品と 区別し得る ことまでを要しないことになる 確かに, 本件においては 形状使用の先駆性 形状の著名性により,X の容器形状が識別力を獲得 した ことは認められるであろう しかし, 需要者 取引者の間に, 本物 と 類似品 と 特許研究 PATENT STUDIES No.53 2012/3 45

いう認識があり, それが揺らぐことがないとしても, 現実に識別機能を果たしていない可能性の高い, 混同のおそれが生じているであろう形態をもって, 今も 継続して識別力を有していると認めることは妥当なのだろうか あるいは, 商標法上の 識別力の有無 と不正競争防止法上の 混同のおそれ とは別の概念であり, 必ずしも一致しないのであって, 本件商標のように 本物と類似品 模倣品 という認識が揺らがないほど著名となったものについては, 商標法 3 条 2 項に該当するものとして登録を認めるべきであり, 現実の紛争が生じた際に同法 26 条を通じて効力を認めるか否かを判断すればよい, という考え方も可能であるし, 実際, 本判決は, そのような考え方に依っているのであろう 本判決の評釈に, 商標法 26 条の抗弁などにより, 商標権侵害が否定されることのないよう, 登録に甘んじることなく, 類似品の排除を継続的に行っていくべきとの指摘がなされているが 8, そもそも, 従来何らの排除措置も行ってこなかったのであるから, この時点で商標登録が認められた以上, よほどの状況の変化が生じない限り 類似品の排除を行わなくても, 識別力の喪失は認められないと思われる あるいは, 長年にわたって類似品 模倣品が多数流通しており, 現実に他社製品からの識別機能を発揮し得ていないことを理由に, 最初から権利行使は認められないと解されるべきである しかしながら, そのような回りくどい方法をとってまで, 実際に識別に利用されているとは考え難い, しかし著名な標章の使用者にアドバンテージを与えることを, 商標法は予定しているのだろうか 特に, 本件のように, 標章の使用者が, 他社による類似品 模倣品の流通を容認してきたという事情がある場合, 商標権という非常に強い 独占権を付与することは, にわかに容認し難い 類似品 模倣品業者をこれまで長年にわたって放 置していながら, 突然, 商標権という絶対的排他 権を付与し, それを行使し得るようにするのは公 平感を欠くのではないか 他方, 従来通り, 何ら 排除措置をとらないというのであれば, 混同を生 ずる状況におかれている商品の需要者にとって, 何らメリットがない 識別力 の解釈は, 立体 商標にとどまらず, 商標登録全体のあり方に関わ る問題である 現に識別標識として機能を果たし 得ていないものについては, 識別力を喪失したも のとして扱うべきではなかろうか 本物と類似品 模倣品 といった先駆性の認 識が需要者間に存在しているとしても, 商標法 3 条 2 項該当性を認めるに当たっては, 現実に識別 機能を発揮しているか否かが判断の基準となるべ きである その点につき, 本判決は判断に誤りが あったというべきであろう 注 ) 1 工業所有権審議会 商標法等の改正に関する答申 最終回 特許ニュース9254 号 [1996] 2 判時 1769 号 98 頁 判タ1077 号 270 頁 3 判時 1984 号 3 頁 判タ1252 号 132 頁 4 判時 2006 号 36 頁 判タ1270 号 29 頁 5 判時 2056 号 133 頁 判タ1315 号 254 頁 6 判時 2114 号 9 頁 判タ1349 号 187 頁 7 判時 2122 号 33 頁 判タ1355 号 106 頁 8 山田威一郎 立体商標の識別力とアンケート調査 知財管理 61 巻 6 号 845 頁 46 特許研究 PATENT STUDIES No.53 2012/3