臨 床 心 理 専 門 職 大 学 院 紀 要 2015 年, 第 5 号,63-71. Psychologist, 2015, No.5, 63-71. 投 稿 論 文 63 夢 フォーカシングではどのように 夢 とかかわるのか ~ 応 答 分 類 による 研 究 ~ Focusing-Oriented Dreamwork: A Study Using Response Classifications 井 野 めぐみ 関 西 大 学 臨 床 心 理 専 門 職 大 学 院 Megumi INO Graduate School of Professional Clinical Psychology, Kansai University 要 約 本 稿 では 夢 フォーカシングの 2 セッションにおけるリスナーの 応 答 を 分 類 し 加 えてドリー マーたち 自 身 が 理 解 が 進 んだと 感 じた 箇 所 の 応 答 について 検 討 した 始 めに 2 つの 夢 フォー カシングの 逐 語 記 録 を 基 にセッション 全 体 におけるリスナーの 応 答 を 分 類 した その 結 果 両 記 録 共 に 種 々のリフレクションの 応 答 割 合 が 最 も 高 く(50% ~ 59%) 次 にパーソナルレゾナンス の 応 答 割 合 が 高 かった(14% ~ 26%) このことから まずリフレクションを 多 用 していること でドリーマーの 思 考 やフェルトセンスが 促 進 されたこと 次 にパーソナルレゾナンスがリスナー とドリーマー 間 の 体 験 の 交 流 を 促 したことが 考 察 された さらに 理 解 が 進 んだ 箇 所 から 2 分 前 後 に 行 われたリスナーの 応 答 についての 表 を 作 成 し 検 討 した その 結 果 リスナーはフォーカシ ング 特 有 の 応 答 夢 フォーカシング 特 有 の 応 答 パーソナルレゾナンスの 3 種 の 応 答 を 理 解 が 深 まった 箇 所 の 直 前 に 用 い これらの 応 答 の 前 後 にはリフレクションを 用 いていた これらのこと から 直 前 に 用 いた 3 種 の 応 答 は 田 村 (2002)によって 提 唱 されている 注 意 スイッチング 機 能 を 持 つ 応 答 であり 注 意 スイッチング 機 能 を 持 つ 応 答 とリフレクションを 併 用 することが 有 効 で あると 推 察 された また 夢 の 出 来 事 と 実 際 の 状 況 が 結 びついた 時 に 理 解 が 進 んでいたことから 夢 に 対 して 現 実 場 面 の 状 況 を 照 合 させることで 新 たな 理 解 を 促 進 することができると 考 えられた キーワード: 夢 フォーカシング リフレクション パーソナルレゾナンス 注 意 スイッチング 機 能 Abstract In this study, the author classified the listener s responses in 2 sessions of focusing-oriented dreamwork to examine the frequencies of various types of responses and to determine what type of responses preceded what the dreamer considered as a major change or felt shift during the dreamwork. First, the author classified the listener s responses in 2 verbatim records of dreamwork 著 者 連 絡 先 Corresponding email address: 209qb04@gmail.com
64 臨 床 心 理 専 門 職 大 学 院 紀 要 sessions. Several types of reflection responses were observed most frequently (50% 59%) followed by personal resonance responses (14% 26%). From these results, the author discussed, first, that reflection responses engaged the felt sense of the dreamer, and, second, that, through personal resonance responses, the listener and dreamer shared the dream experience. Furthermore, the author observed the response types occurring 2 minutes before and after the points at which the dreamer reported major changes or shifts in the meaning of the dream. Three response types were observed immediately prior to the shifts: focusing responses, dream-focusing responses, and personal resonance. Reflection responses preceded the use of these 3 response types. These 3 response types have what Tamura calls attention switching functions. Thus, the author argues that the use of attention switching responses together with reflection enhances the creation of meaning in dreamwork. Moreover, it was observed that crossing real-life situations with dream expressions brought new understandings. Key Words: Focusing-Oriented Dreamwork, Reflection, Personal Resonance, Attention Switching Function. 問 題 と 目 的 1. 夢 フォーカシング ユージン ジェンドリン(1988)は 夢 解 釈 において 1 つの 理 論 にとらわれずに 全 てのア プローチを 使 う 方 法 として 夢 フォーカシングを 提 唱 した この 方 法 は 16 の 質 問 (Table 1)を からだに 感 じられる 夢 のフェルトセンスに 問 い かけて 夢 の 意 味 を 理 解 していくものである ジェンドリン(1988)によると 夢 フォーカ シングには 2 つの 段 階 がある 第 1 段 階 は 夢 についての 気 づきを 得 る 段 階 である この 段 階 では 夢 が 何 について 語 っているのかを 知 るこ とができるが 以 前 から 知 っていたことである 可 能 性 がある 第 2 段 階 では 夢 から 何 か 新 し い 理 解 を 得 る 段 階 である からだの 新 しい 存 在 の 仕 方 ( 成 長 へのステップ)を 得 ることで 今 までにはなかったような 生 き 方 ができる 第 2 段 階 において 重 要 とされるのが バイアスコン トロールである バイアスコントロールとは 夢 に 登 場 したものに 対 して 夢 を 見 た 本 人 があ る 様 式 で 関 わっている 際 に その 関 わりの 様 式 の 正 反 対 の 様 式 を 提 示 して 感 じてもらうことに より 変 化 を 促 す 技 法 である( 田 村 2005,p. 158) また 田 村 (1999a)は 第 1 段 階 では 何 かが 生 み 出 されるのではなく 自 分 に 対 する 認 知 や 自 己 像 あるいはその 問 題 に 対 して 自 分 が 感 じる 感 覚 は 変 わっていない 場 合 が 多 いと 示 唆 してい る さらに 第 2 段 階 におけるシフトの 特 徴 に ついて 以 下 に 挙 げる 仮 説 について 論 じている 1 強 烈 な 前 言 語 的 体 験 2 不 快 でない 巻 き 込 まれ 体 験 3 肯 定 的 な 感 じとも 否 定 的 な 感 じとも 表 現 しにくい 複 雑 な 体 験 4 象 徴 化 がはっきりしない ことがある5 認 知 の 逆 転 6 自 分 自 身 である 感 覚 7 解 放 感 よりむしろ 動 揺 8 布 置 の 変 化 過 去 の 変 化 自 己 受 容 感 セルフイメージの 変 化 9 自 己 への 統 合 に 時 間 がかかる10 日 常 生 活 での 行 動 認 知 感 情 における 変 化 これら 10 個 を 夢 フォーカシング 特 有 のシフトとして 挙 げ ている 2.ジェンドリンによる 夢 理 論 ジェンドリン(1988,p. 179)は 夢 について 夢 はメッセージを 隠 喩 的 な 記 号 に 隠 蔽 してい る のではなく 隠 喩 的 に 生 まれるもの であ ると 論 じている また 精 巧 な 関 連 を 持 ち 続 け る 言 葉 や 状 況 に 対 し 交 差 (crossing) と 呼 び 交 差 はあらゆる 体 験 にあてはまるとしている その 中 でも 通 常 の 体 験 では 既 に 完 了 してしま っているのに 対 し 夢 は 交 差 過 程 が 未 完 了
井 野 : 夢 フォーカシングではどのように 夢 とかかわるのか 65 であり 依 然 続 いているものであるとしている そのため その 過 程 を 見 ることができると 述 べ ている つまり 夢 は 未 完 了 であるため さら にもう 少 し 交 差 し 合 ったり 形 作 られたりする ことができる その 時 交 差 が 進 行 しているの を 見 たり 感 じたりすることができると 論 じて いる 3. 本 論 の 目 的 これまでの 夢 フォーカシングについての 研 究 は 手 順 や 特 徴 について 論 じているものであっ た( 田 村 1999a,1999b,2005) これらの 研 究 の 多 くは 16 の 質 問 に 着 目 した 研 究 であり 夢 フォーカシングにおけるセッション 全 体 の 応 答 に 着 目 した 研 究 は 筆 者 が 調 査 した 中 では 見 当 たらなかった そこで 本 稿 では 夢 フォーカシングの 実 際 の セッションにおける 応 答 を 分 類 した 実 際 のセ ッションでは リスナーは 夢 に 対 してどのよう に 応 答 しているのかを 調 べるためである さら に 夢 の 理 解 に 変 化 が 生 じている 箇 所 の 応 答 に ついても 検 討 し ドリーマー( 本 稿 では 夢 を 語 っている 人 を ドリーマー とする)の 夢 理 Table 1 質 問 早 見 表 番 号 質 問 項 目 質 問 の 役 割 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 心 に 何 が 浮 かんできますか どんな 感 じがしますか 昨 日 のことは 場 所 は 夢 のあらすじは 登 場 人 物 は それはあなたのどの 部 分 ですか その 人 になってみると 夢 の 続 きは 象 徴 は 身 体 的 なアナロジーは 事 実 に 反 するものは 子 どもの 頃 は 人 格 的 な 成 長 は 性 に 関 しては 霊 性 に 関 しては 連 想 を 導 く 3 つの 方 法 物 語 を 作 る 3 つの 要 素 登 場 人 物 とかか わる 3 つの 方 法 暗 号 を 解 読 する 3 つの 方 法 成 長 における 4 つの 次 元 解 が 推 進 されるとき リスナーはどのように 援 助 しているのかを 検 討 する 方 法 1. 夢 の 記 録 本 研 究 は 以 下 に 示 す 2 つの 夢 フォーカシング の 記 録 を 対 象 としている これらは 本 大 学 院 池 見 陽 教 授 が 本 大 学 院 生 2 名 に 夢 フォーカシン グのセッションを 行 ったものである ( 以 下 記 録 AとB) 各 記 録 の 詳 細 を 以 下 に 記 す (1) 記 録 A 実 施 期 間 :2013 年 11 月 セッション 時 間 : 約 36 分 総 応 答 数 : 92( 相 槌 の 数 は 正 確 に 算 出 できなかったため 応 答 数 には 含 んでいない) ド リ ー マ ー:20 代 男 性 夢 の 内 容 砂 漠 の 中 に 小 型 のセスナばかりが 止 まるよう な 飛 行 場 がぽつんとあった 最 初 は どこから か 滑 走 路 の 端 の 方 から 歩 いて 出 て 行 き 飛 行 機 に 乗 った Aが 飛 行 機 に 乗 ると 母 方 の 祖 母 や 見 たこともないターバンを 巻 いたアラブ 系 の 人 が 乗 っていた しばらく 飛 行 し 気 が 付 いたら 飛 行 機 の 外 に 放 り 出 され 浮 いて 落 下 しそうに なった (2) 記 録 B 実 施 期 間 :2014 年 7 月 セッション 時 間 : 約 45 分 総 応 答 数 : 84( 相 槌 の 数 は 記 録 A 同 様 に 応 答 数 には 含 んでいな い) ド リ ー マ ー:30 代 男 性 夢 の 内 容 最 初 の 場 面 は お 寺 のような 場 所 に 人 がた くさんいた それから 場 面 が 変 わり 実 家 に 多 くの 人 が 来 て 祭 り 代 を 請 求 してきた しかし 父 親 はそれを 断 ったため Bが 父 親 に 跳 び 蹴 り をした その 後 実 家 付 近 に 場 面 が 変 わり 近
66 臨 床 心 理 専 門 職 大 学 院 紀 要 所 のとある 家 族 と 話 していた その 後 再 び 場 面 が 変 わり 森 の 中 にいた たくさんの 木 の 中 に 樹 高 が 低 い ガラス 細 工 の 木 があり これは 国 宝 の 木 だ と 説 明 書 きがあった また そこ には 同 級 生 が 1 人 いて 歓 喜 の 声 を 上 げていた 2. 手 続 き (1) 応 答 分 類 における 定 義 本 研 究 では 記 録 AとBの 逐 語 記 録 をもとに セッション 中 に 見 受 けられたリスナーの 応 答 を 8 つに 分 類 した Table 2 に 各 応 答 分 類 におけ る 定 義 を 記 す 定 義 の 一 部 は 池 見 (1995) 田 村 (2005) Schmit & Mearns(2006)を 参 考 に した Table 2 応 答 分 類 における 定 義 カテゴリー 記 号 定 義 リフレクション RF 話 しの 要 点 実 感 論 理 の 展 開 や 自 己 概 念 などの 伝 え 返 し ( 表 情 夢 の 内 容 を 除 く) 表 情 のリフレク ション 夢 の 内 容 のリフ レクション パーソナルレゾ ナンス フォーカシング の 応 答 フォーカシング の 応 答 のうち 表 情 についての 伝 え 返 し RF のうち 夢 の 内 容 の 伝 え 返 し PR セラピスト 自 身 に 響 いていた 気 持 ち 願 望 など 質 問 早 見 表 に 記 載 されている 16 の 質 問 応 答 FR フォーカシング 特 有 の 応 答 オープンリード OL 答 を 限 定 せず 自 由 に 話 すこと ができる 応 答 分 類 不 能 上 記 のいずれに 当 てはならない 応 答 (2) 各 応 答 の 例 各 応 答 の 例 として 記 録 Aより 抜 粋 し 以 下 に 示 した リスナーの 応 答 を L 記 録 Aのド リーマーを A とする 1 リフレクション( 以 下 Reflection: RF) A:その 夢 を 考 えると 起 きても いつものあ れってなるぐらい 楽 しい 感 じがあります ね L: 楽 しい 感 じがある (RF) A:そんなにこう めちゃくちゃ 心 から 楽 しい とかっていうことではなくて 何 かそれを 見 ると 少 しこうあの ほんわかしたりと か ちょっと 多 少 こうホッとするような 面 白 みもあって 2 表 情 のリフレクション ( 以 下 Reflection of Facial Expressions: ) A:あ 楽 しんでます L: 何 か 今 にっこりしていたね () A:いやぁ 本 当 にそうだと 思 いました 何 かこ う 1 人 を 最 初 から 楽 しむというわけではな く みんなを 見 ながら みんなを 見 ている 時 も 楽 しいですし それを 見 ながら 浮 いて いる 自 分 も 楽 しくて 3 夢 の 内 容 のリフレクション( 以 下 Reflection of Dream Contents: ) L: 自 分 が 飛 行 機 に 乗 って それで 乗 ったら おばあちゃんも 乗 ってた?() A:おばあちゃんも 乗 ってた L: 乗 る 時 は 一 緒 じゃなくて?() A:はい 4 感 じたことを 伝 える ( 以 下 Personal Resonance: PR) A: 何 かその フワフワフワフワ 浮 いている 状 態 が そんなに しんどいことでもないし L:もう 1 つ 浮 かんだことなんだけど ( 省 略 ) 集 団 の 中 で どこか 浮 いているとか?(PR) A:あります 笑 う L: 笑 う それで 浮 いているのを 楽 しんでい たりする?(PR) 5 フォーカシングの 応 答 ( 以 下 Focusing Responses: FR) A: 何 か こんな 風 になっていて 何 か 話 して いるんですけど 何 を 話 しているのかわか らない L:( 省 略 )それをしていたら 何 が 伝 わってく る?(FR) A:( 沈 黙 10 秒 )あの 言 葉 とかこうわから なくても 何 か 共 有 というか 何 か 伝 わ るものがあるっていうような
井 野 : 夢 フォーカシングではどのように 夢 とかかわるのか 67 6 夢 フォーカシングの 応 答 ( 以 下 Dream Focusing Responses: ) 夢 フォーカシングの 応 答 とは ユージン ジェンドリン(1988)が 夢 とフォーカシ ング に 記 した 夢 解 釈 のための 16 問 のこ とを 示 す(Table 1 参 照 ) の 後 に 使 用 した 質 問 項 目 の 番 号 を 記 す A:( 省 略 )ちょっと 中 国 語 なんかをしゃべるん ですけど でもほとんど 多 分 他 の 言 葉 と かわからない 何 かそのアラブ 人 と 意 気 揚 揚 としているのは 面 白 いなぁと L:おばあちゃんになってみることはできる? ( 省 略 ) 自 分 がおばあちゃんであるかのよう に その 椅 子 に 座 ってみて (-8) A:えぇー えーっとですね どんな 感 じかな えっとそのまま 出 てきたのは おばあちゃ んはこんな 感 じですね 姿 勢 をとる 7 オープンリード( 以 下 Open Lead: OL) A:あ はい あ あ はい L: 何 か 今 浮 かびました?(OL) A: 浮 かびました あの 浮 かんだことが 今 ちょっとびっくりしていて 8 分 類 不 能 ( 以 下 Unclassifiable: ) L: 僕 の 中 ではここで 止 まってもいいかなって 気 がしているんだけど それはちょっとど うかな?() A:うーん はい 上 記 に 基 づいて 記 録 AとBを1 総 応 答 割 合 2セッション 時 間 の 前 半 中 盤 後 半 に 3 等 分 し それぞれの 応 答 割 合 を 算 出 した (3) 変 化 と 関 連 性 の 強 い 応 答 形 態 ドリーマーに 問 い 合 わせ 変 化 が 生 じたと 報 告 した 箇 所 を 記 録 AとBからそれぞれ 取 り 上 げ た その 際 変 化 の 前 にどのような 応 答 がなさ れているのか 応 答 を 記 号 化 し 表 を 作 成 した 結 果 1. 応 答 分 類 (1) 総 応 答 割 合 Figure 1 a b は 記 録 AとBそれぞれにお ける 総 応 答 割 合 を 示 したものである 両 セッシ ョンにおいて RF の 3 種 の RF の 割 合 が 60% 前 後 であった また 夢 フォーカ シングの 特 徴 である の 割 合 は 10% 以 下 であった 記 録 Aと 記 録 Bを 比 較 すると 応 答 割 合 が 異 なる 箇 所 も 見 られるが 3 種 の RF に 次 いで PR が 高 い 割 合 を 占 めていることは 共 通 していた (2)セッション 前 半 における 割 合 Figure 1 c d は 記 録 AとBそれぞれのセ ッション 前 半 における 応 答 割 合 を 示 したもので ある 両 記 録 において RF の 内 容 に 差 異 は 見 られるものの 3 種 の RF の 応 答 割 合 が 大 部 分 を 占 めていることがわかった また PR の 割 合 は 低 くかった 各 記 録 に 注 目 すると 記 録 A では の 占 める 割 合 は 著 しく 高 かった 記 録 Bでは FR の 割 合 は 22%であり と 同 程 度 の 割 合 が 示 された (3)セッション 中 盤 における 割 合 Figure 1 e f は 記 録 AとBそれぞれのセッ ション 中 盤 における 応 答 割 合 を 示 したものであ る セッション 前 半 との 共 通 点 として 両 記 録 において 3 種 の RF の 割 合 が 多 い 点 が 挙 げられ 特 に 記 録 Bでは 5と 著 しく 高 かった セッシ ョン 前 半 との 相 違 点 としては RF の 占 める 割 合 が の 割 合 に 比 べ 高 くなった 点 が 挙 げ られる また PR の 割 合 も 20% 前 後 となり RF に 次 いで 2 番 目 に 高 い 割 合 を 示 した (4)セッション 後 半 における 割 合 Figure 1 g h は 記 録 AとBそれぞれのセ ッション 後 半 における 応 答 割 合 を 示 したもので ある 両 記 録 において セッション 前 半 中 盤 と 同 様 に 3 種 の RF の 占 める 割 合 が 高 く 次 に PR が 高 かった また FR と の 割 合 は 各 記 録 において 同 程 度 見 受 けられた
68 臨 床 心 理 専 門 職 大 学 院 紀 要 2. 変 化 と 関 連 性 の 強 い 応 答 各 記 録 において 変 化 と 関 係 性 の 強 い 応 答 を 検 討 するために 変 化 が 生 じる 2 分 前 後 のリスナ ーの 応 答 を 挙 げ 表 を 作 成 した(Table 3) な お 変 化 が 生 じた 個 所 は とする Table 3 より 変 化 の 前 後 に 3 種 の RF が 最 もよく 用 いられていたことが 示 された また リスナー は 変 化 が 生 じる 前 に FR や PR の 応 答 をしてい ることが 明 らかになった このことより ドリ ーマーは RF や PR をきっかけとして 変 化 が 生 じている 可 能 性 が 示 唆 された Table 3 変 化 が 生 じる 前 後 の 応 答 の 種 類 応 答 の 種 類 記 録 A-1 RF -8 RF FR RF OL OL PR RF 記 録 A-2 PR RF PR PR PR -F PR RF -9 記 録 B-1 RF PR PR 記 録 B-2 RF PR PR PR RF 記 録 B-3 FR RF RF 各 例 に 着 目 すると 記 録 A-1 では と FR の 応 答 がなされており その 後 変 化 が 見 られた 記 録 A-2 と 記 録 B-1 では PR の 後 に 記 録 B-2 では FR と PR の 後 に 変 化 が 生 じていた 記 録 B-3 では FR の 後 に 変 化 が 見 受 けられた こ れらのことから 変 化 が 生 じる 前 には FR PR の 応 答 の 前 後 に RF が 用 いられている ことが 明 らかになった 考 察 1. 応 答 分 類 (1) 総 応 答 割 合 両 記 録 において 最 も 応 答 割 合 が 高 かったの は 3 種 の RF であった 池 見 (1995,p. 225)は RF について 聴 き 手 が 話 し 手 の 言 葉 の 中 の 要 点 実 感 論 理 の 展 開 や 自 己 概 念 を 言 い 返 し 話 し 手 のために 映 し 出 してあげる 応 答 である と 論 じている また RF により 聴 き 手 が 映 し 出 した 鏡 によって 話 し 手 自 身 の 思 考 や 実 感 が 促 進 されていくとしている このことから 両 記 録 において 3 種 の RF を 中 心 に 応 答 したこ とにより ドリーマーは 自 分 の 体 験 に 触 れる 機 会 が 多 く より 思 考 や 実 感 を 得 られていたこと が 示 唆 される RF に 続 いて 多 かった 応 答 は PR であった Schmit & Mearns(2006)は PR について ク ライエントとセラピストの 両 者 の 体 験 の 響 きで あると 論 じている また 相 互 に 交 流 を 導 くも のであり 単 に 気 持 ちを 伝 えているのではなく それは 同 時 に 相 手 との 対 話 でもある このこと から PR が 高 い 割 合 を 占 めた 両 記 録 において リスナーとドリーマーの 両 者 の 体 験 の 交 流 が 盛 んであったことが 推 察 される (2)セッション 前 半 中 盤 後 半 における 応 答 の 変 化 セッション 時 間 を 3 等 分 し 各 応 答 の 割 合 を 見 てみると 変 化 が 見 られた セッション 前 半 の 特 徴 として 3 種 の RF が 高 い 割 合 を 占 めてい たことが 挙 げられる 特 に 記 録 Aでは の 割 合 が 著 しく 高 いことが 示 された このことか ら セッション 前 半 では 夢 の 内 容 を 2 者 間 で 共 有 していく 過 程 であったといえる 夢 の 内 容 を 語 り 始 めた 時 と 比 較 し 2 者 間 で 共 有 していく 過 程 において 夢 の 内 容 を 思 い 出 したり フェ ルトセンスが 促 進 されたりすることが 推 測 され る この 過 程 は 夢 の 理 解 の 第 1 段 階 である 夢 についての 気 づきを 得 たり 夢 が 何 について 語 っているのかを 知 ることために 重 要 なプロセス であると 考 えられる セッ ショ ン 中 盤 か ら 後 半 に か け て RF
井 野 : 夢 フォーカシングではどのように 夢 とかかわるのか 69 記 録 A における 応 答 割 合 記 録 B における 応 答 割 合 7% 14% O L 8% 9% 28% 28% 1 26% 8% 24% 20% 6% (a) 総 応 答 割 合 (b) 総 応 答 割 合 6% O L 10% 6% 19% 22% 1 35% 5 26% 4% (c) 前 半 の 応 答 割 合 (d) 前 半 の 応 答 割 合 8% 18% O L 8% 5% 16% 34% 8% 21% 10% 11% 5% 5 (e) 中 盤 の 応 答 割 合 (f) 中 盤 の 応 答 割 合 4% O L 5% 18% 32% 9% 9% 5% 29% 4% 2 14% 24% 17% 7% (g) 後 半 の 応 答 割 合 (h) 後 半 の 応 答 割 合 Figure 1 2 つの 夢 の 記 録 (A/B)でのリスナーの 応 答 RF=Reflection =Reflection of Facial Expressions = Reflection of Dream Contents PR= Personal Resonance FR= Focusing Responses = Dream Focusing Responses OL= Open Lead =Unclassifiable
70 臨 床 心 理 専 門 職 大 学 院 紀 要 PR FR の 割 合 が 高 じている RF が 高 じたことは ドリーマーの 体 験 が 促 進 され 夢 の 内 容 よりも 夢 から 生 じた 体 験 がより 豊 か に 言 い 表 されていることが 示 唆 される が セッション 前 半 よりも 高 い 割 合 を 示 しているこ とからも ドリーマーが 言 い 表 していく 過 程 で 変 化 が 生 じ 表 情 に 変 化 が 見 られたことも 推 察 される また PR の 割 合 が 高 じた 要 因 として 前 半 での 夢 の 内 容 を 共 有 したことにより リス ナーがより 豊 かに 追 体 験 していることが 考 えら れる FR は フェルトセンスを 形 成 したり 問 いかけたりする 応 答 として 用 いられ ドリー マーに 変 化 をもたらしていた また フェルト センスから 象 徴 を 生 み 出 すのを 援 助 する 象 徴 化 促 進 機 能 ( 田 村 2002)も 果 たしていたと 考 えら れる これらのことから セッション 中 盤 後 半 で は セッション 前 半 においてリスナーとドリー マーの 間 に 共 有 された 夢 の 理 解 をもとに より 気 持 ちや 実 感 に 触 れる 応 答 がなされていると 考 えられる したがって 夢 の 理 解 の 第 2 段 階 で ある 成 長 のステップを 得 て 夢 から 何 かの 新 し い 示 唆 を 得 るために 非 常 に 重 要 な 過 程 であると 推 察 される 2. 変 化 と 関 連 性 の 強 い 応 答 (1) 注 意 スイッチング 機 能 を 持 つ 応 答 Table 3 から 変 化 が 生 じる 前 には FR PR の 応 答 の 前 後 に RF が 用 いられている ことが 明 らかとなった 田 村 (2002)は フォ ーカシング 教 示 技 法 の 主 な 機 能 として 先 ほど 挙 げた 象 徴 化 促 進 機 能 を 含 む 4 つの 機 能 を 挙 げて いる ここでは その 中 の 注 意 スイッチング 機 能 に 着 目 したい 注 意 スイッチング 機 能 と は 現 在 クライエントが 注 意 を 向 けている 対 象 から 別 の 対 象 へ 注 意 を 移 すことを 促 して 行 き 詰 った 状 態 を 打 破 し シフトを 狙 うものであ る また クライエントの 持 つ 認 知 的 枠 組 みや 心 的 構 えの 変 化 を 促 す 機 能 のことである 田 村 (2002)によると 夢 のフォーカシングで 変 化 が 生 じるときには かなりの 場 合 において ある 問 題 や 情 動 に 向 けていた 注 意 が 突 如 他 の 方 向 に 向 いたり 何 らかの 心 的 構 えの 変 化 が 急 激 に 生 じたりする このような 変 化 は シフトの 結 果 として 自 然 に 生 じる 場 合 もあるが セラピ スト/ガイドの 側 からの 介 入 によって 生 じる 場 合 のほうが 多 いように 思 われる と 論 じている さらに のうち 昨 日 場 所 あらすじ 登 場 人 物 について その 人 になってみると と いった 質 問 (-3 4 5 6 8)は 注 意 ス イッチングの 機 能 を 持 つと 記 している PR も 同 様 に リスナーに 響 いてきた 体 験 をドリーマ ーに 伝 えることで これまでとは 異 なる 視 点 を 提 供 する このことから 注 意 スイッチング 機 能 を 果 たし 両 者 の 相 互 交 流 により 意 味 を 創 造 すると 考 えられる また PR のどちらか 一 方 の 響 きではなく 両 者 の 体 験 の 響 き であるこ とが 夢 の 意 味 を 創 造 するにあたり 重 要 な 役 割 を 果 たすと 考 えられる FR においても それ は 何 を 伝 えていますか? と 問 うことで 焦 点 を 変 えることができると 考 えられる これらの ことから 両 記 録 において FR PR の 応 答 の 後 にドリーマーに 変 化 が 生 じたと 推 察 され る (2) 応 答 の 前 後 に 用 いられる RF の 応 答 RF の 機 能 として 思 考 や 実 感 が 促 進 される ことを 先 に 述 べた そのため RF で 一 度 そこ に 焦 点 を 当 てることで その 後 に 用 いられる 注 意 スイッチング 機 能 をもつ 応 答 が 効 果 的 になり より 体 験 が 促 進 されることで 変 化 が 生 じ 易 くな ると 考 えられる また 変 化 が 生 じた 後 にさら に RF を 行 うことで そこでの 体 験 に 触 れるこ とができると 推 察 される これらのことから 夢 フォーカシングにおいて RF と FR PR の 応 答 は 単 体 でなく 併 せて 用 いられること が 有 効 であるとことが 示 唆 される (3) 夢 と 状 況 の 交 差 両 記 録 において 夢 と 現 実 が 結 びついたところ で 変 化 が 生 じていた 岡 村 (2013)は その 状
井 野 : 夢 フォーカシングではどのように 夢 とかかわるのか 71 況 についてそのような 表 現 が 使 用 されるのはな ぜか という 状 況 の 中 の 言 語 使 用 に 対 する 問 い は フォーカサーに 感 じられる 状 況 と その 状 況 についての 表 現 を 交 差 させることによって 状 況 についての 新 たな 理 解 を 促 進 する と 論 じ ている 夢 の 意 味 を 理 解 することは 夢 に 暗 示 された 表 現 に 対 して 現 実 場 面 の 状 況 を 交 差 させ ることで その 状 況 についての 新 たな 理 解 を 促 進 することになると 考 えられる おわりに in-depth co-creative process of personalization. Person-Centered and Experiential Psychotherapies : 74-90. 田 村 隆 一 (1999a): 夢 フォーカシングにおけるシフトの 特 質 福 岡 大 学 人 文 論 叢 30(4):2361-2373. 田 村 隆 一 (1999b):フォーカシングと 夢 分 析 臨 床 上 の 有 効 性 と 留 意 点 現 代 のエスプリ 至 文 堂 382: 122-130. 田 村 隆 一 (2002):フォーカシング セッションにおけ る 治 療 関 係 フェーズとフォーカシング 技 法 の 機 能 理 論 的 構 造 化 の 試 み 福 岡 大 学 臨 床 心 理 学 研 究 1: 15-20. 田 村 隆 一 (2005): 夢 のフォーカシングにおける 治 療 関 係 と 技 法 上 の 特 徴 フォーカシングの 展 開 ナカニシ ヤ 出 版 :149-163. 本 稿 では リスナーの 応 答 を 分 類 し ドリー マーに 変 化 が 生 じる 際 の 応 答 について 検 討 した 本 研 究 におけるドリーマーは 両 者 共 にフォー カシング 経 験 者 であり 男 性 であった このこ とから 性 差 や 経 験 の 有 無 により 夢 の 理 解 につ いて 異 なる 可 能 性 がある また 1 人 のリスナ ーのセッションをもとに 検 討 を 行 った 点 から リスナーの 特 徴 が 影 響 している 可 能 性 も 考 えら れる そのため ドリーマー リスナーの 幅 を 広 げ 夢 フォーカシングにおけるバラエティと 共 通 性 を 検 討 するのが 今 後 の 課 題 であろう 謝 辞 論 文 執 筆 にあたりご 指 導 を 賜 りました 関 西 大 学 臨 床 心 理 専 門 職 大 学 院 教 授 池 見 陽 先 生 に 心 より 感 謝 申 し 上 げ ます また 貴 重 なご 意 見 をくださいました 先 輩 方 ご 協 力 いただきました 両 記 録 のドリーマーの 御 二 方 に 深 く 感 謝 いたします 加 えて 支 えてくださいました 同 級 生 の 皆 様 にも 感 謝 いたします 文 献 ユージン ジェンドリン(1988): 夢 とフォーカシング からだによる 解 釈 ( 村 山 正 治 訳 ) 福 村 出 版. 池 見 陽 (1995): 心 のメッセージを 聴 く 実 感 が 語 る 心 理 学 講 談 社 現 代 新 書. 岡 村 心 平 (2013):なぞかけフォーカシングの 試 み 関 西 大 学 臨 床 心 理 専 門 職 大 学 院 紀 要 3:1-10. Schmid, P. F. & Mearns, D. (2006): Being-with and being-counter: Person-centered psycho-therapy as an