257 特 集 : 新 しいエイズ 対 策 の 展 望 第 二 部 : 地 域 における 先 駆 的 エイズ 対 策 の 取 り 組 み 2006 年 度 世 界 エイズデーイベントの 舞 台 裏 橋 本 康 昭 東 京 都 総 務 局 行 政 部 区 政 課 課 務 担 当 係 長 ( 荒 川 区 福 祉 部 介 護 保 険 課 介 護 給 付 係 長 ) World AIDS Day Event 2006 Yasuaki HASHIMOTO Department of General Affairs, Tokyo 抄 録 厚 生 労 働 省 では2006 年 の 世 界 エイズデーイベントとして, 街 頭 キャンペーン,HIV 検 査,RED RIBBON LIVE 2006を 開 催 した. これらのイベントは, 行 政, 民 間 企 業, 医 療 関 係 者,NGO など,HIV エイズのまん 延 防 止 と 差 別 偏 見 の 解 消 を 願 う さまざまな 主 体 の 連 携 により 行 われた. 中 でも,RED RIBBON LIVE 2006は,ラジオ DJ の 山 本 シュウさんを 総 合 プロデューサーに 迎 え,Mr.Children の 桜 井 和 寿 さんやアンジェラ アキさん, 絢 香 さんなどのライブと,エイズ 動 向 委 員 会 からの 呼 びかけや 陽 性 者 の 手 記 紹 介 な どで 構 成 された 啓 発 ライブであり,メディアを 通 じた 啓 発 や 保 健 所 等 における HIV 検 査 相 談 の 実 績 に 大 きな 成 果 を 残 した. RED RIBBON LIVE 2006は 実 質 2 ヶ 月 という 短 期 間 で 準 備 されたが,その 背 景 には, 関 係 者 の HIV エイズのまん 延 に 対 する 危 機 意 識 と, 実 現 に 向 けた 強 い 意 思 があった. 本 文 では,RED RIBBON LIVE 2006 実 現 までの 経 過 について, 一 担 当 者 の 所 感 を 交 えて 紹 介 する. キーワード: できることを,できる 範 囲 で,あきらめないで! 1 はじめに 2006 年, 私 は 東 京 都 から 厚 生 労 働 省 健 康 局 疾 病 対 策 課 に 派 遣 されエイズ 対 策 の 普 及 啓 発 事 業 を 担 当 した.エイズ 予 防 指 針 における 普 及 啓 発 の 位 置 づけや 厚 生 労 働 省 が 実 施 する 事 業 の 内 容 については, 第 一 部 エイズ 予 防 指 針 改 正 後 のエイズ 対 策 について で 述 べられているところである ので 割 愛 し, 本 稿 では 特 に, 私 が 担 当 した 世 界 エイズデー イベントの 実 現 までの 経 過 報 告 を 通 じて,エイズ 対 策 にお ける 普 及 啓 発 のあり 方 についての 所 感 を 述 べたい. 拙 稿 の 上, 他 の 執 筆 者 とやや 趣 が 異 なり 情 緒 的 な 表 現 が 多 分 にあるが, 何 卒,ご 容 赦 いただきたい. 2 世 界 エイズデーとは WHO( 世 界 保 健 機 関 )は,1988 年 に 世 界 的 レベルのエ イズのまん 延 防 止 と HIV 感 染 者 エイズ 患 者 に 対 する 差 別 偏 見 の 解 消 を 図 ることを 目 的 として,12 月 1 日 を World AIDS Day ( 世 界 エイズデー)と 定 め,エイズに 関 する 啓 発 活 動 等 の 実 施 を 提 唱 した. 日 本 においても,そ の 趣 旨 に 賛 同 し, 毎 年 12 月 1 日 を 中 心 にエイズに 関 する 正 しい 知 識 等 についての 啓 発 活 動 を 推 進 している. 厚 生 労 働 省 では, 毎 年, 世 界 エイズデーのキャンペーン テーマを 定 めている( 表 1 ).2006 年 は 初 めてテーマの 公 募 を 行 い, Living Together ~ 私 に 今 できること~ を 選 定 した.その 趣 旨 は, 様 々なセクシャリティ( 性 行 動 の 166-8501 東 京 都 荒 川 区 荒 川 2-2-3 2-2-3 Arakawa, Arakawa-ku, Tokyo, 166-8501, Japan.
258 2006 年 度 世 界 エイズデーイベントの 舞 台 裏 対 象 の 選 択 や 性 に 関 連 する 行 動 傾 向 )の 人 々や,HIV 陽 性 の 人 々, 陰 性 の 人 々が 一 緒 に 生 きている 現 実 をありの ままに 受 け 止 め,エイズのまん 延 防 止 や 差 別 偏 見 の 解 消 のために,ひとりひとりに 何 ができるかを 国 民 全 体 で 考 え ていく 契 機 とする というものであった. HIV 感 染 者 エイズ 患 者 の 年 間 新 規 報 告 数 が 過 去 最 高 を 更 新 し 続 ける 中,2006 年 は, 感 染 者 患 者 への 理 解 と 支 援 を 示 す レッドリボン と,このキャンペーンテーマ の 下 で, 国 や 地 方 自 治 体,NGO などによる 様 々なイベン トが 開 催 された. 表 1 世 界 エイズデー キャンペーンテーマ 一 覧 ( 過 去 10ヵ 年 ) 年 度 テーマ 2006 Living Together ~ 私 に 今 できること~ 2005 エイズ あなたは 関 係 ない と 思 っていませんか? 2004 HIV と エイズ の 違 い, 知 っていますか? 2003 エイズ 知 ろう, 話 そう, 予 防 しよう 2002 エイズ 目 をそらさないで 考 えてみよう! 2001 I care Do You? 2000 エイズを 知 って あなたが 変 わる わたしも 変 わる 1999 若 い 命 のためにも, 聞 いて 学 んで,エイズのことを 1998 時 代 が 変 わる, 君 が 変 える ~ 大 切 な 人 と 生 きるために~ 1997 子 どもたちの 未 来 のために! 今,エイズを 考 えよう 3 国 の2006 年 世 界 エイズデーイベント 厚 生 労 働 省 と 財 団 法 人 エイズ 予 防 財 団 が 主 催 した2006 年 世 界 エイズデーのメインイベントは,11 月 28 日 に 渋 谷 で 行 われた 街 頭 キャンペーン,HIV 検 査,RED RIBBON LIVE 2006の 3 つである. 街 頭 キャンペーンは 学 生 を 含 む NGO やボランティアを 中 心 にハチ 公 前 で 啓 発 グッズや 予 防 に 有 効 なコンドームを 配 布 した. 特 に, 後 述 する RED RIBBON LIVE 2006の 準 備 の 過 程 でイベントに 参 画 した 松 竹 芸 能 株 式 会 社 のマネージャーのご 尽 力 があり, 所 属 タ レントのアメリカザリガニさんや T K O さんをはじめ とする 若 手 芸 人 20 名 あまりの 皆 様 にもボランティアで 参 加 していただき, 街 行 く 渋 谷 の 若 者 にエイズ 予 防 を PR し た.また HIV 検 査 は, 渋 谷 区 保 健 所 の 出 張 検 査 として, 国 立 国 際 医 療 センターエイズ 治 療 研 究 開 発 センター (ACC)を 中 心 に, 神 奈 川 県 衛 生 研 究 所 のご 協 力 を 得 なが ら 約 100 名 の 即 日 検 査 を 実 施 した. 特 設 会 場 での 検 査 は, 会 場 設 営 をはじめ,プレカウンセリングから 結 果 返 しまで の 導 線 づくり, 偽 陽 性 が 出 た 場 合 の 対 応 など, 非 常 にきめ 細 かな 準 備 が 必 要 となる. 世 界 エイズデーの HIV 検 査 は 2004 年 から 3 回 目 を 数 えるが, 毎 年 ACC の 医 師, 看 護 師 の 皆 様, 神 奈 川 県 衛 生 研 究 所 の 皆 様 の 多 大 なるご 協 力 の 下 で 行 われ, 当 日 検 査 を 受 診 された 方 々だけでなく, 報 道 等 を 通 じて 多 くの 国 民 への 検 査 受 診 の PR を 図 るイベントと して 成 功 を 収 めている.2006 年 度 は, 代 々 木 体 育 館 に 隣 接 するイベント 会 場 で 渋 谷 駅 から 距 離 があったが, 街 頭 キャンペーンを 行 っている 渋 谷 駅 周 辺 で 勧 誘 を 行 い 検 査 に 誘 導 した. 街 頭 キャンペーンと 検 査 の 模 様 は NHK などで も 報 道 され,12 月 1 日 に 先 駆 けて 全 国 の 地 方 自 治 体 の 取 組 みを 後 押 しすることができた. 街 頭 キャンペーンと HIV 検 査 は,それぞれ, 感 染 予 防 と 検 査 受 診 を 訴 える 国 のエイズデーイベントとして,ま た,エイズ 対 策 に 関 わる 各 主 体 の 連 携 を 示 す 場 として 欠 か せないものとなっている. さらにこの 年, 厚 生 労 働 省 の 主 催 としてはおそらく 過 去 に 類 を み な い 大 イ ベ ン ト が 誕 生 し た. そ れ が RED RIBBON LIVE 2006である. 4 RED RIBBON LIVE 2006 (1) 官 民 協 働 の 一 大 プロジェクト SHIBUYA-AX で 開 催 された RED RIBBON LIVE 2006 は,プロデューサー 兼 MCにラジオ DJ の 山 本 シュウさん, 出 演 は Mr.Children の 桜 井 和 寿 さん,GLAY の TERU さ んと TAKURO さん(ビデオ 出 演 ),アンジェラ アキさ ん, 絢 香 さん, 一 青 窈 さんなどのアーティスト, 在 京 FM AM ラジオ 局 の DJ,スポーツ 選 手,お 笑 い 芸 人, 俳 優, 厚 生 労 働 大 臣 (ビデオ 出 演 )も 出 演 し,まさに 組 織 や 立 場 を 超 えて 心 から HIV エイズのまん 延 防 止 を 願 う 方 々 が 集 結 した. 出 演 者 全 員 とスタッフの 大 半 はボランティア で 参 加 し, 無 料 招 待 された 観 覧 者,スタッフなどを 合 わせ て1,600 人 あまりが 参 加 する 歴 史 的 なイベントとなった. ( 図 1, 表 2 ) 今 回 のライブの 特 徴 のひとつは,エイズ 予 防 啓 発 ライブ としての 構 成 を 徹 底 した 点 にある. 陽 性 者 の 手 記 をラジオ DJ に 朗 読 していただいたり, 厚 生 労 働 省 エイズ 動 向 委 員 図 1 RED RIBBON LIVE 2006 AMUSE INC.
橋 本 康 昭 259 表 2 RED RIBBON LIVE 2006 開 催 概 要 主 催 厚 生 労 働 省, 財 団 法 人 エイズ 予 防 財 団 開 催 日 平 成 18 年 11 月 28 日 ( 火 ) 18:30 ~ 開 催 場 所 SHIBUYA-AX 総 合 プロデュース 司 会 山 本 シュウ(ラジオ DJ) 実 施 内 容 1 エイズ 予 防 啓 発 ライブ 絢 香, ア ン ジ ェ ラ ア キ, 桜 井 和 寿 (Mr.Children), SHAKALABBITS, 一 青 窈, 山 田 耕 平 with アフリカンバ ンドほか 2 日 本 の HIV エイズの 発 生 動 向 と 予 防 対 策 等 について(エイ ズ 動 向 委 員 会 委 員 長 ) 3 シンポジウム(ラジオDJ,スポーツ 選 手,お 笑 い 芸 人, 俳 優 ほか) 4 ラジオ DJ による HIV 感 染 者 等 の 手 記 紹 介 5 著 名 人 によるビデオコメントの 紹 介 ( 厚 生 労 働 大 臣,GLAY (TERU,TAKURO)ほか) 6 著 名 人 によるメッセージパネルの 展 示 7( 財 )エイズ 予 防 財 団 NGO による 啓 発 ブースの 設 置 図 2 Yahoo! JAPAN 12 月 1 日 のトップページとレッドリボン キャンペーン 図 3 エイズ 予 防 情 報 ネットの 訪 問 者 数 図 4 Yahoo!JAPAN における エイズ を 含 むブログ 件 数 の 推 移 会 委 員 長 に 動 向 委 員 会 として 国 民 に 訴 えるべく 舞 台 に 上 がっていただくなど, 事 実 や 正 確 な 情 報 を 伝 える 演 出 を 重 視 した.また, 出 演 される 方 には, 正 しい 知 識 を 持 った 上 でご 自 身 のことばでメッセージを 発 信 していただくため に, 事 前 に 発 生 動 向 や 国 の 施 策 に 関 する 資 料, 啓 発 用 映 像 などを 提 供 してご 準 備 いただいた. も う ひ と つ の 特 徴 は, メ デ ィ ア と の 連 携 で あ る. Yahoo! JAPAN の 啓 発 特 集 であるレッドリボンキャン ペーンと 連 動 し, 感 染 経 路 などの 知 識 に 関 する 情 報 や 地 方 自 治 体 の 検 査 相 談 案 内 などとともに, 多 くの 著 名 人 の 啓 発 メッセージやライブの 映 像, 陽 性 者 の 手 記 などをイン ターネット 上 で 公 開 した.Yahoo! JAPAN はレッドリボ ンキャンペーンをトップページで 告 知 し,12 月 1 日 には Yahoo! JAPAN のロゴの 直 下 に 12 月 1 日 は 世 界 エ イズデー を 掲 げて, 特 集 にダイレクトに 誘 導 した( 図 2 ).さらにエイズ 予 防 情 報 ネット( 厚 生 労 働 省 がエイズ 予 防 財 団 に 委 託 する 情 報 サイト)には,GLAY が 公 式 サ イトにリンクを 貼 ってくださったり, 他 の 何 人 ものライブ 出 演 者 が 自 身 のサイトで 紹 介 したりしてくださったことも あり,2006 年 12 月 の 訪 問 者 数 は 前 年 の 約 5 倍 となった( 図 3 ).また,ラジオでは, 在 京 FM AM10 局 でのライブの 事 前 告 知 と 同 時 に 感 染 予 防 や 検 査 受 診 のメッセージを 発 信 してリスナーへの 啓 発 を 行 ったほか, 各 局 DJ のイベント への 参 加 を 通 じてラジオメディアに 関 わる 方 々への 啓 発 を 展 開 した.さらに, 記 者 会 見 とライブは, 新 聞,テレビ, 雑 誌, 音 楽 系 のインターネットメディア 等 に 多 数 取 り 上 げ ていただいたほか,インターネット 上 では 感 染 予 防 などに 関 する 任 意 のブログが 行 き 交 った( 図 4 ). メディアと 連 携 することにより, 国 民 に 対 して 相 乗 的 に 認 知 の 機 会 が 提 供 された 結 果,2006 年 第 4 四 半 期 の 保 健 所 等 における 検 査 件 数 は 前 年 比 約 26%, 相 談 件 数 は 前 年 比 約 21%の 増 となり, 年 間 の 検 査 件 数 は 前 年 比 約 16% 増
260 2006 年 度 世 界 エイズデーイベントの 舞 台 裏 の116,550 件 となった. 行 政 だけでは 到 底 なしえないこのようなイベントがどの ような 経 緯 で 開 催 されたのか,そこに 至 るまでの 舞 台 裏 を ご 紹 介 したい. キーワードはただ 一 つ, 今 回 のライブを 通 じて 山 本 シュ ウさんに 教 えられたことば, できることを,できる 範 囲 で,あきらめないで! である. (2)それは Yahoo! JAPAN から 始 まった Yahoo! JAPAN は,1 日 約 12 億 ページビューの 閲 覧 を 有 する, 日 本 のインターネットメディアを 代 表 する 企 業 であ る.Yahoo! JAPAN が 企 業 の 社 会 的 責 任 (CSR)に 関 す る 取 組 みのひとつとしてエイズ 予 防 の 啓 発 特 集 を 始 めたの は,2004 年 の 世 界 エイズデーのときであった.レッドリ ボンキャンペーンと 銘 打 って 始 まったこの 特 集 の 中 で, 2005 年, 長 年 自 身 のトークライブなどでエイズ 予 防 の 啓 発 を 続 けていた 山 本 シュウさんのライブトーク 企 画 日 本 緊 急 事 態 宣 言 が 立 ち 上 がった.そしてそのゲストとして 招 かれたのが GLAY の TERU さんであった. 一 方, 厚 生 労 働 省 では,2006 年 の 4 月 に 改 正 エイズ 予 防 指 針 を 施 行 し,6 月 1 日 から 7 日 の HIV 検 査 普 及 週 間 が 創 設 された. 第 一 回 の 検 査 普 及 週 間 は, 東 京 都 南 新 宿 検 査 相 談 室 をお 借 りして, 厚 生 労 働 副 大 臣 と 日 本 エイズス トップ 基 金 の 運 営 委 員 である 女 優 の 田 中 好 子 さんの 記 者 会 見 を 行 い, 感 染 予 防 と 検 査 受 診 を 呼 びかけた.このときも Yahoo! JAPAN ではレッドリボンキャンペーンが 展 開 さ れ, 前 回 同 様 にホストを 山 本 シュウさんとし,アーティス トのアンジェラ アキさん,NBA の 田 臥 勇 太 さんなどが ゲ ス ト と し て 啓 発 ト ー ク を 行 っ た. こ の と き 私 は Yahoo! JAPAN の 担 当 者 からのご 相 談 をいただき, 誤 っ た 情 報 を 流 したり 不 適 切 な 表 現 を 使 ったりしないよう 助 言 させていただく 立 場 で,エイズ 予 防 財 団 の 担 当 者 とともに 収 録 に 立 ち 合 った. RED RIBBON LIVE 2006の 実 現 は,このときのシュウ さんとアンジェラさんのトークが 直 接 のきっかけである. お 二 人 ともアメリカでの 生 活 を 経 験 しており, 日 本 とアメ リカのエイズに 対 する 国 民 の 意 識 の 違 いに 大 きな 危 機 感 を 感 じていた. 国 の 責 任 に 言 及 しながらも,アーティストの ように 社 会 にメッセージを 発 信 することができる 立 場 の 人 々が 立 ち 上 がり, 曲 やライブを 通 じて 本 気 で 啓 発 してい かなければ,エイズがまん 延 して 取 り 返 しのつかないこと になる, 国 なんかに 任 せてはいられない,まずは 自 分 たち が 立 ち 上 がらなければならない,という 趣 旨 のトークが 展 開 された. 私 は 近 くでトークを 聴 いていて,お 二 人 の 社 会 的 意 識 の 高 さに 敬 服 すると 同 時 に,その 政 策 としての 効 果 を 想 像 した. 若 年 層 に 影 響 力 のあるアーティストからライ ブという 形 式 で 発 信 されるメッセージが 生 む 啓 発 効 果 は 絶 大 である.しかもそれは 民 間 の 自 発 的 な 意 思 だけで 行 われ るのではなく, 官 民 が 協 働 して 少 しでも 多 くの 組 織 や 個 人 を 巻 き 込 み,エンターテインメントを 超 えて 政 策 としての 啓 発 ライブを 開 催 することに 大 きな 意 義 があった. 厚 生 労 働 省 内 でも, 限 られた 予 算 の 中 でも 何 とかして 大 きなイベ ントを 開 催 し, 国 民 ひとりひとりの 意 識 に 届 く 啓 発 をした いという 思 いが 常 にあったため, 私 は,シュウさんやアン ジェラさん,Yahoo! JAPAN の 担 当 者 の 熱 い 思 いに 突 き 動 かされながら, 省 内 外 の 皆 様 のご 意 見 をいただきつつ 国 が 主 催 する 啓 発 ライブの 実 現 に 向 けてシュウさんへのご 相 談 を 続 けた. (3)シュウさんとの 約 束 相 談 の 過 程 でシュウさんに 言 われたこと,それは, 丸 投 げは 許 さない だった. 国 民 に 啓 発 が 行 き 届 いてない 責 任 は 国 にある,それなのに 予 算 だけ 用 意 してあとはよろし くということであれば, 自 発 的 な 意 思 で 出 演 してもらう 方 々に 申 し 訳 が 立 たない,ライブの 成 功 に 向 けて 厚 生 労 働 省 として 本 気 で 関 わらなければ,この 企 画 には 絶 対 に 乗 ら ないし,いつでも 降 りる,というのがその 趣 旨 だった. 行 政 には 委 託 の 予 算 が 組 まれており, 今 回 のようなイベント はノウハウを 有 する 企 画 会 社 に 一 括 して 事 業 委 託 される 場 合 が 圧 倒 的 に 多 い. 委 託 の 場 合, 企 画 書 の 作 成 からイベン トの 開 催 に 至 るまですべて 受 託 業 者 が 行 い, 行 政 はそのク ライアントとして 政 策 目 的 に 合 致 したイベントになるよう 受 託 業 者 に 指 示 を 出 す.これが 一 般 的 な 方 法 である.しか しシュウさんはそのような 方 法 を 許 さなかった.もちろん 契 約 上 は 事 業 委 託 の 形 式 になるが, 形 式 ではなく 実 質 にお いて, 組 織 としてではなく 同 じ 人 間 として 心 を 通 わせて 必 死 になってやる 覚 悟 がない 人 たちとは 仲 間 になれないしそ んな 啓 発 は 誰 にも 届 かない,それがシュウさんの 考 え 方 で あり,やり 方 であった. 私 個 人 としては,シュウさんにお 願 いした 時 点 で,ライ ブが 実 現 するまではしがみついて 離 すまいと 心 に 決 めてい た. 啓 発 効 果 を 一 過 性 で 終 わらせないためには, 人 々の 心 に 強 く 残 り 翌 年 の 世 界 エイズデーを 心 待 ちにするようなイ ベント, 普 及 啓 発 事 業 の 基 盤 としてのネットワークができ て 自 然 に 啓 発 が 普 及 していく 契 機 となるようなイベントを 開 催 しなければならないと 感 じていた.シュウさんとの 話 し 合 いの 段 階 で, 何 名 かの 著 名 な 方 々への 打 診 や 相 談 が 進 められていることを 伺 っており,その 錚 々たる 方 々が, 国 が 主 催 する 啓 発 ライブでエイズ 予 防 のメッセージを 発 信 し ている 映 像 を 思 い 浮 かべるにつき, 余 力 を 残 して 関 わるよ うなレベルの 話 ではないことを 私 は 強 く 認 識 していた. 水 面 下 での 調 整 を 厚 生 労 働 省 内 に 逐 次 報 告 していたが, 国 と しても 意 思 は 同 じであった. こうして, 数 回 にわたるやりとりを 通 じて 意 識 確 認 を 経 たのち,RED RIBBON LIVE の 種 がシュウさんのマネー ジャーの 来 省 というかたちで 確 実 な 芽 を 出 したのは,シュ ウさんとアンジェラさんのトークから 4 ヶ 月 あまりを 過 ぎた 頃 であった. 著 名 な 方 々にとって, 特 にメディアに 関 わる 方 にとって, 国 の 政 策 の 真 ん 中 に 立 って 采 配 を 振 るう ことに 伴 うリスクがどれだけのものかは 想 像 に 難 くない.
橋 本 康 昭 261 しかしシュウさんは, 覚 悟 を 決 めてくださった. (4)ライブへの 始 動 シュウさんのマネージャーが 厚 生 労 働 省 を 訪 れたのは 9 月 半 ばであった.この 日 を 境 に, 実 質 2 ヶ 月 という 短 期 間 でライブを 実 現 すべく 本 格 的 に 動 き 出 すこととなる. シュウさんの 所 属 事 務 所 である 株 式 会 社 アミューズで 週 一 回 行 われることになった 会 議 には,シュウさんを 信 頼 する 様 々な 立 場 の 有 志 が 集 まった. 主 要 メンバーは, 山 本 シュ ウさん,シュウさんのマネージャー,Yahoo! JAPAN の レッドリボンキャンペーン 担 当 者, 松 竹 芸 能 のマネー ジャー,ライブ 運 営 会 社 のスタッフ,デザイナー,フリー アナウンサー, 厚 生 労 働 省 とエイズ 予 防 財 団 の 職 員 等 々で ある.このメンバーを 中 心 として, 厚 生 労 働 省 が 作 成 した 企 画 書 をベースに 検 討 を 重 ね, 週 一 回 の 会 議 と 不 定 期 かつ 頻 繁 に 行 われる 分 科 会 において,メンバーが 所 属 する 組 織 の 事 情 に 配 慮 しつつ,それぞれの 価 値 観 や 方 法 論 の 違 いを 競 合 させながら, 浮 かんでは 消 えるいくつものアイデアを 収 斂 させていった. 最 終 的 に 決 まったライブの 方 向 性 は,1 完 全 無 料 招 待 制 とし, 各 ラジオ 局,Yahoo! JAPAN,エイズ 予 防 情 報 ネットで 招 待 枠 を 配 分 しそれぞれで 募 集 を 行 う,2ラジオ 局 とラジオ DJ にご 協 力 いただき, 公 開 ラジオ 番 組 風 にす る3 音 楽 アーティストだけでなく, 様 々なジャンルから 本 気 で 啓 発 する 意 思 のある 方 だけに 出 演 していただく,4 トークとライブを 組 み 合 わせ, 正 しい 知 識 と 情 報 を 発 信 す る5 陽 性 者 の 声 を 届 ける,6 厚 生 労 働 省 で 記 者 会 見 を 行 い マスコミに 協 力 を 呼 びかける,などであった.これらの 方 向 性 を 踏 まえながら, 多 岐 にわたる 懸 案 をひとつずつ 検 討 し,ライブの 全 体 像 を 固 めていった. 事 前 準 備 は 時 間 との 闘 いであった. 関 係 者 用 の 啓 発 映 像 やパンフレットの 作 成, 当 日 参 加 できない 多 数 の 著 名 人 の ビデオコメントと 写 真 の 撮 影, 後 述 するオリジナルソング の CD やジャケット 作 り, 会 場 に 展 示 するメッセージボー ドのデザインなどもすべて,シュウさんの 相 談 を 受 けて 協 力 を 買 って 出 たプロフェッショナルの 手 によって 進 められ た. 開 催 まで 1 ヶ 月 を 切 る 頃 には 舞 台 演 出 や 音 響 関 係 の 方 々も 加 わるようになり, 連 日 連 夜, 試 行 錯 誤 を 繰 り 返 し ながら 作 業 が 進 められていった.エンターテインメントの 演 出 をされている 方 々の 創 造 性 や 集 中 力 やこだわりの 強 さ には, 本 当 に 敬 服 させられた. 彼 らは,ライブとしての 娯 楽 性 と 啓 発 事 業 としての 社 会 性 の 微 妙 なバランスを 均 衡 さ せながら,それぞれが 持 ちうるプロの 能 力 をそれぞれの 部 分 で 発 揮 された.ライブ 実 現 の 裏 には,プロの 方 々の 仕 事 に 対 するプライドや, 商 業 主 義 だけに 偏 らない 公 的 な 使 命 感 があった.その 意 識 がシュウさんへの 信 頼 という 共 通 項 で 結 ばれ, 短 期 間 のうちに 成 熟 したプロジェクト チーム に 発 展 していった. また, 私 はこれらの 作 業 と 併 行 して, 事 前 にシュウさん から 協 力 を 打 診 した 在 京 AM FM ラジオ 局 にシュウさん のマネージャーとともに 伺 い, 厚 生 労 働 省 として 協 力 を 要 請 した.シュウさんからの 説 明 を 受 けていた 各 局 の 編 成 責 任 者 の 方 々も 強 い 問 題 意 識 を 持 っており, 積 極 的 に 要 請 に 応 じてくださった. こうして,それまで 関 わりのなかった 人 々が 集 まり,と きには 激 しく 議 論 しながらも 目 的 をひとつにして 密 度 の 濃 い 時 間 を 過 ごしていくうちに, 雲 をつかむような 話 が 徐 々 に 現 実 味 を 帯 び,やがて 私 たちは 啓 発 ライブとしての 成 功 を 確 信 していった. (5) 1 日 3 人 時 期 が 前 後 するが,イベントの 約 1 ヶ 月 前 に 厚 生 労 働 省 でライブの 告 知 を 兼 ねた 記 者 会 見 が 行 われた.シュウさ ん,アンジェラさん, 疾 病 対 策 課 長,エイズ 予 防 財 団 専 務 理 事 が 出 席 した 会 見 では,シュウさんから, 日 本 の HIV 感 染 者 が 毎 日 3 人 ずつ 増 え 続 けていること,その 事 実 を 85%の 人 が 知 らないこと(Yahoo! JAPAN による 調 査 ) などが 説 明 された.また,アンジェラさんからも, 国 民 に 現 状 を 知 り 予 防 してもらうために 自 分 ができることとして ライブに 参 加 する 旨 が 表 明 された.シュウさんとアンジェ ラさんは 会 見 の 後 に 厚 生 労 働 大 臣 を 訪 問 してライブへの 参 加 とエイズ 対 策 の 充 実 を 要 請 し, 大 臣 は 公 務 のためライブ に 出 席 できない 代 わりにビデオコメントを 寄 せる 約 束 を 交 わした( 図 5 ). なお,ここに 述 べたように, 今 回 のイベントでは 1 日 3 人 という 表 現 を 多 用 した.ただし, 厳 密 に 言 えば 日 本 の HIV 感 染 者 の 新 規 報 告 数 は 1 日 あたり 約 2 人,エ イズ 患 者 の 新 規 報 告 数 は 1 日 あたり 約 1 人,あわせて 1 日 あたり 約 3 人 ということになる.しかも HIV は 潜 伏 期 間 で 平 均 10 年 から15 年,エイズに 至 っては 発 症 してか ら 初 めて 分 かる 症 例 が 新 規 報 告 であがるためいつ 感 染 した かはほとんど 分 からない.つまり, 現 在 1 日 3 人 が 感 染 し 続 けているということを 事 実 としては 証 明 できないので ある.しかし, 人 の 意 識 や 行 動 を 変 えようとする 政 策 目 的 を 優 先 する 普 及 啓 発 事 業 においては, 耳 に 残 るインパクト のある 簡 潔 明 瞭 なキャッチフレーズをいかに 有 効 に 使 うか 図 5 記 者 会 見 後 の 大 臣 訪 問 の 様 子 ( 左 から アンジェラ アキさん 柳 沢 前 厚 生 労 働 大 臣 山 本 シュウさん)
262 2006 年 度 世 界 エイズデーイベントの 舞 台 裏 が 大 きなポイントになる. 実 際 に, 1 日 3 人 に 衝 撃 を 受 けて 啓 発 に 参 加 してくださる 方 々は 非 常 に 多 かった.ち なみに, 平 成 18 年 5 月 にエイズ 動 向 委 員 会 が 発 表 した 平 成 18 年 の 発 生 動 向 に 関 する 委 員 長 コメントでも 1 日 あた り3.7 件 という 表 現 が 使 われた. (6) 生 まれ 来 る 子 供 たちのために ライブへの 準 備 が 始 まってすぐにメッセージソングを 制 作 する 話 が 持 ち 上 がった.シュウさんと 出 演 アーティスト の 強 い 思 いから 選 ばれた 曲 は,この 国 と,この 国 の 子 ども たちの 将 来 を 思 い, 愛 する 人 を 守 ることの 大 切 さを 伝 える 曲 生 まれ 来 る 子 供 たちのために であった.1980 年 に 小 田 和 正 さんが 作 詞 作 曲 したこの 曲 をケツメイシのプロ デ ュ ー サ ー で あ る YANAGIMAN さ ん が ア レ ン ジ し, TERU さ ん, 桜 井 和 寿 さ ん, 絢 香 さ ん な ど に よ っ て, RED RIBBON LIVE 2006 スピリチュアルソング 生 まれ 来 る 子 供 たちのために に 生 まれ 変 わり,TERU さ んのレコーディングを 皮 切 りに,まさに 曲 が 成 長 するかの ごとく 次 々とアーティストの 本 気 の 思 いが 吹 き 込 まれて いった. 記 者 会 見 を 経 てライブの 開 催 が 公 表 されてから は, 各 ラジオ 局 でライブの 告 知 に 合 わせてこの 曲 がオンエ アされた. 私 は,シュウさんに 同 行 していくつかの 局 のオ ンエアに 立 ち 合 わせていただいたが,オンエアそのものが 啓 発 となってリスナーの 意 識 に 伝 わった.もちろんすべて がシュウさんに 共 鳴 したアーティストの 方 々, 各 ラジオ 局 の 方 々の 本 気 の 思 いから 実 現 したことである. こうして,シュウさんを 慕 い,HIV エイズのまん 延 防 止 を 願 う 多 くの 人 々が 寝 食 を 忘 れ, 汗 と 涙 にまみれた2 ヶ 月 間 を 経 て,RED RIBBON LIVE 2006は 開 催 された. 厚 生 労 働 大 臣 のビデオコメントで 幕 を 開 け,ライブとトーク が 交 互 に 展 開 されたのち,サプライズゲストとして 登 場 し た 桜 井 和 寿 さんのライブに 続 いてフィナーレとして 用 意 さ れた 生 まれ 来 る 子 供 たちのために は, 出 演 者 全 員 と, 無 料 招 待 された 一 般 の 方 々, 街 頭 キャンペーンや HIV 検 査 にご 協 力 くださった 皆 様,ボランティアで 関 わった 多 く のスタッフなど, 会 場 にいるすべての 方 々の 思 いを 乗 せた 大 合 唱 となった.シュウさんのはからいで 厚 生 労 働 省 の 主 要 なスタッフもステージに 上 げていただいた. 私 は, 愛 する 人 を 守 りたまえ と 繰 り 返 すたくさんの 温 かい 歌 声 に 向 かって 大 きく 手 を 振 りながら, 夢 と 現 実 の 間 にいるよう な 朧 げな 眼 差 しでその 光 景 を 見 つめていた. 5 できることを,できる 範 囲 で,あきらめな いで! 行 動 変 容 を 促 すことを 目 的 とする 普 及 啓 発 は,ひとりひ とりの 意 識 に 伝 わってはじめて 政 策 として 実 行 したことに なる.しかしながら 行 政 だけでは 人 の 心 に 伝 える 強 いメッ セージを 発 信 できないのも 事 実 である.だからこそ 行 政 は,メッセージを 伝 える 力 を 持 つ 民 間 の 組 織 や 個 人 と 協 働 し,その 方 々が 有 している 公 の 意 識 をお 借 りしながら, 人 々の 心 に 届 く 普 及 啓 発 事 業 を 政 策 としてコーディネート していかなければならない. 啓 発 された 結 果 として 保 健 所 や 医 療 機 関 で 検 査 を 受 診 し, 陽 性 であることが 判 明 した 方 々は,ACC, 中 核 拠 点 病 院, 拠 点 病 院 を 中 心 とした HIV 医 療 従 事 者 によって 適 切 な 医 療 を 受 け,ケア サポートを 行 う 多 くの NGO やボ ランティアの 支 援 を 受 ける. 同 時 に,たくさんの 組 織 や 個 人 によって, 様 々なセクシャリティの 方 々や HIV 陽 性 の 方 々が 一 緒 に 生 きている 現 実 をありのままに 受 け 止 める 社 会 を 築 くための 啓 発 が 繰 り 返 される.すなわち, 世 界 エイ ズデーイベントをはじめとする 普 及 啓 発 は,まさにレッド リボンの 交 差 する 部 分 に 位 置 するかのごとく, 予 防, 検 査 受 診 の 奨 励 と 検 査 体 制 の 整 備, 適 切 な 医 療 の 提 供, 差 別 偏 見 の 解 消 というエイズ 対 策 の 一 連 の 施 策 目 標 をつなぐも のであり,そのリボンを 形 成 するのは, 国, 地 方 自 治 体, 民 間 の 組 織 や 個 人, 医 療 機 関,NGO など,すべてのエイ ズ 対 策 関 係 者 の できることを,できる 範 囲 で,あきらめ ないで! 取 り 組 もうとする 真 摯 な 思 い 以 外 の 何 物 でもな い. 人 が 何 かを 憂 いて 本 気 になったとき, 組 織 の 壁 はた やすく 越 えることができる.すべてひとりでやる 必 要 はな い. 組 織 が 有 する 沈 黙 の 傘 の 下 に 隠 れるのではなく, 社 会 を 構 成 する 人 が 与 えられた 役 割 に 正 面 から 向 き 合 うこ とこそ 大 切 なのである. 私 はそのことを,シュウさんや 出 演 者 の 方 々,Yahoo! JAPAN の 担 当 者, 松 竹 芸 能 のマ ネージャーなど,たくさんの 有 志 の 方 々に 教 えられた.も ちろん 行 政 として 関 与 する 以 上 は 自 己 満 足 に 終 わってはい けない. 著 名 な 方 々に 対 しても, 参 加 していただく 以 上 は HIV エイズに 関 する 正 しい 知 識 をきちんと 伝 え, 差 別 や 偏 見, 私 利 私 欲 を 持 たずに 関 わっていただかなければなら ない.その 上 で, 今 回 のようなイベントが,HIV エイズ のまん 延 防 止 に 寄 与 する 政 策 として 有 効 でなければならな いし,その 評 価 は 一 義 的 には 厚 生 労 働 省 に 設 置 するエイズ 施 策 評 価 検 討 会 においてなされ,さらにはマスコミを 通 じ た 世 論 の 動 きによって 測 られ, 医 療 関 係 者 をはじめとする 現 場 の 方 々の 声 によって 伝 えられ, 地 方 自 治 体 の 検 査 相 談 件 数 の 実 績 として 現 れる. 今 回 のライブは, 公 費 を 投 じて 事 業 を 実 施 する 行 政 が 関 わることで,エンターテイメントの 枠 を 超 えて 大 きな 社 会 性 を 帯 び,その 運 営 には 今 回 ご 紹 介 できない 部 分 も 含 めて 様 々な 制 約 や 障 害 が 伴 った.しかし, 国 民 を HIV 感 染 か ら 守 り 陽 性 者 を 差 別 や 偏 見 から 守 る 責 任 が 行 政 にある 以 上,より 効 果 的 な 政 策 を 模 索 し, できることを,できる 範 囲 で,あきらめないで! その 政 策 を 実 現 させていくた めに 前 進 する 以 外 に 何 ら 近 道 は 存 在 しない. 私 は,RED RIBBON LIVE がわが 国 の 世 界 エイズデー の 象 徴 として,また, 生 まれ 来 る 子 どもたちのために 将 来 を 憂 う 人 たちの 立 場 を 超 えた 本 気 の 結 晶 として,これから も 真 冬 の 空 の 下 で 人 々の 心 を 赤 く 染 め 上 げる 奇 跡 であり 続
橋 本 康 昭 263 けることを 願 ってやまない. 6 おわりに PPP(パブリック プライベート パートナーシップ) という 考 え 方 がある. 行 財 政 運 営 の 制 度 論 であるが,その 底 流 にある 理 念 は, 官 民 の 対 等 な 協 働 関 係 の 下 で,できる ことをできる 範 囲 で 分 担 し 合 いながら 効 率 的 に 社 会 的 資 源 を 活 用 していくことであり,その 恩 恵 を 受 けるべき 対 象 は, 納 税 者 たる 国 民 や 住 民 であり, 消 費 者 である. 今 や 行 政 には 成 果 主 義 や 顧 客 主 義 に 基 づく 戦 略 的 経 営 が 求 められ, 民 間 企 業 は 社 会 的 責 任 の 遂 行 なくしては 市 場 の 信 頼 を 勝 ち 得 ることができなくなった.つまり,もはや 官 ( 公 )か 民 かではなく, 資 源 配 分 の 最 適 化 に 向 けて 両 者 の 連 携 のかたちをいかに 確 立 していくか, 更 に 言 えばそれぞ れの 組 織 を 構 成 する 人 が,いかに 国 民 本 位, 消 費 者 本 位 の 認 識 を 共 有 し 理 解 を 深 め 合 っていくかが 重 要 であり, それは 永 続 的 な 社 会 を 築 くために 私 たちが 解 決 すべき 命 題 でもある. 本 当 に 小 さな 一 歩 かもしれないが,2006 年 の 世 界 エイ ズデーイベントは,その 認 識 共 有 と 相 互 理 解 を 最 後 まで 貫 いて 具 現 化 されたものであったと 確 信 している. 最 後 にあらためて,イベントの 実 現 にご 尽 力 くださった 山 本 シュウさん,たくさんの 出 演 者 の 皆 様,アミューズを 始 めとするライブスタッフの 皆 様,Yahoo! JAPAN の 皆 様, 松 竹 芸 能 の 皆 様,ACC ほか 医 療 関 係 者 の 皆 様 や 多 く の NGO,ボランティアの 皆 様, 今 回 寄 稿 の 機 会 を 与 えて くださった 国 立 保 健 医 療 科 学 院 の 皆 様,そして,2006 年 の 1 年 間 を 通 じて 数 々の 得 がたい 貴 重 な 経 験 をさせてい ただいた 厚 生 労 働 省 に,この 場 をお 借 りして 心 から 感 謝 を 申 し 上 げたい. ( 参 考 ) 山 本 シュウ 1964 年 大 阪 府 門 真 市 出 身.アミューズ 所 属.ニックネー ムはレモンさん. 主 にラジオ 番 組 の DJ や,テレビ 番 組 の 司 会 などで 登 場.また, 毎 日 小 学 生 新 聞 や, 教 育 技 術 の 本 な ど で コ ラ ム を 執 筆. 現 在 は FM-FUJI SATURDAY STORM FM 大 阪 SHOO POWER REQUEST SHOO POWER CAMP の DJ や, 日 本 テ レ ビ 系 全 国 ネ ッ ト カートゥン KAT-TUN のナレーションを 担 当. 山 梨 英 和 大 学 や 大 阪 大 学 での 講 師 なども 務 める.PTA 活 動 のド キュメントとコラムをまとめた レモンさんの PTA 爆 談 が 小 学 館 から 発 売 され 話 題 となっている.