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法 人 等 に 対 する 課 税 際 課 税 原 則 の 帰 属 主 義 への 見 直 しのポイント 総 合 主 義 から 帰 属 主 義 への 移 行 法 人 及 び 非 居 住 者 ( 法 人 等 )に 対 する 課 税 原 則 について 従 来 のいわゆる 総 合 主 義 を 改 め OECD

所令要綱

積 み 立 てた 剰 余 金 の 配 当 に 係 る 利 益 準 備 金 の 額 は 利 益 準 備 金 1 の 増 3 に 記 載 します ⑸ 平 成 22 年 10 月 1 日 以 後 に 適 格 合 併 に 該 当 しない 合 併 により 完 全 支 配 関 係 がある 被 合 併 法 人 か

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Transcription:

帰 属 主 義 による 国 際 課 税 原 則 の 見 直 しの 意 義 と 機 能 : 半 Title 世 紀 ぶりに 改 正 された 外 国 法 人 課 税 を 中 心 にして Author(s) 赤 松, 晃 Citation 一 橋 法 学, 14(2): 387-408 Issue 2015-07-10 Date Type Departmental Bulletin Paper Text Version publisher URL http://hdl.handle.net/10086/27410 Right Hitotsubashi University Repository

45 帰属主義による国際課税原則の 見直しの意義と機能 半世紀ぶりに改正された外国法人課税を中心にして 赤 松 晃 Ⅰ はじめに Ⅱ 前史 Ⅲ 1962 年法の法構造と論点 Ⅳ 2014 年改正法の意義と法構造 Ⅴ 結論と展望 Ⅰ はじめに 平成 26 2014 年度税制改正において 非居住者 外国法人に対する日本の 国際課税原則が 総合主義 全所得主義 から 2010 年改訂の OECD モデル租 税 条 約 2010 年 OECD モ デ ル 租 税 条 約 に 定 め る OECD 承 認 ア プ ロ ー チ AOA Authorised OECD Approach 1 にそった帰属主義へ見直された 2014 年改正法 財務省 平成 26 年度税制改正の解説 は これまで 国内法と租税条約とい 一橋法学 一橋大学大学院法学研究科 第 14 巻第 2 号 2015 年 7 月 ISSN 1347-0388 駒澤大学法学部教授 1 AOA は 非居住者 外国法人が恒久的施設を通じて事業を行う場合に ①恒久的施設 の果たす機能及び事実関係に基づいて 外部取引 資産 リスク 資本を恒久的施設に帰 属させ ②恒久的施設とその本店との内部取引を認識し ③内部取引が独立企業間価格で 行われたものとして 当該恒久的施設に帰せられるべき所得を課税の対象とする 詳細に ついては 例えば 赤松晃 国際課税の実務と理論 グローバル エコノミーと租税法 税務研究会出版局 4 版 2015 年 トピックス 2010 年改訂 OECD モデル租税 条約の新 7 条 事業利得 の意義 及びその参考文献参照 387

( 46 ) 一 橋 法 学 第 14 巻 第 2 号 2015 年 7 月 う 大 別 して 二 つの 国 際 課 税 の 法 源 がある 中 で 租 税 条 約 においては 多 国 籍 企 業 が わが 国 に 子 会 社 形 態 で 進 出 する 場 合 も 支 店 形 態 で 進 出 する 場 合 も その 事 業 利 得 に 対 しては 同 様 に 課 税 する 帰 属 主 義 が 採 用 されてきたのに 対 して わが 国 の 国 内 法 においては 子 会 社 形 態 か 支 店 形 態 かによってその 取 り 扱 いを 異 にする 総 合 主 義 を 採 用 してきたところであり 国 内 法 と 租 税 条 約 を 帰 属 主 義 に 統 一 することによ って 二 元 化 されていた 課 税 原 則 が 簡 素 でかつ 国 際 的 に 調 和 のとれた 税 制 に 近 づ くこととなりました また 子 会 社 形 態 と 支 店 形 態 とで 出 来 る 眼 り 同 じ 取 扱 いに なり 課 税 上 のミスマッチが 解 消 されるととともに 本 支 店 間 の 内 部 取 引 の 認 識 等 が 諸 外 国 と 一 致 することによって 二 重 課 税 二 重 非 課 税 が 解 消 されることが 見 込 まれています 2) と 改 正 の 意 義 を 述 べる 解 説 の これまで とは 昭 和 37(1962) 年 度 税 制 改 正 で 導 入 された 現 行 法 (1962 年 法 )をいうから 2014 年 改 正 法 が 実 に 半 世 紀 ぶりの 大 改 正 であることが 理 解 される 1962 年 法 の 意 義 は 世 界 の 自 由 化 進 展 の 列 車 に きわめてタイム リーに 乗 り 込 んだということを 意 味 した 3) 昭 和 38(1963) 年 2 月 20 日 のガット 11 条 国 への 移 行 昭 和 39(1964) 年 4 月 1 日 の IMF( 国 際 通 貨 基 金 )8 条 国 へ の 移 行 による 円 の 交 換 可 能 通 貨 さらに 昭 和 39(1964) 年 の OECD 加 盟 のための 租 税 法 の 整 備 であったと 評 価 される 4) 1962 年 から 半 世 紀 この 間 日 本 は 1960 年 代 を 通 じた 高 度 成 長 期 を 謳 歌 し 2 度 にわたる 石 油 ショックを 克 服 し 変 動 相 場 制 導 入 から Japan as No. 1 の 経 済 的 地 位 を 経 て バブル 経 済 とその 崩 壊 失 われた 10 年 からの 回 復 もつかの 間 リーマン ショックに 遭 遇 する 一 方 国 内 産 業 の 空 洞 化 が 進 むなか 少 子 高 齢 化 を 本 格 的 に 迎 えている 本 稿 は 歴 史 と 法 構 造 の 視 点 から 2014 年 改 正 法 の 意 義 と 機 能 を 明 らかにすることを 目 的 としている 2014 年 改 正 法 は 平 成 28(2016) 年 4 月 1 日 以 後 に 開 始 する 事 業 年 度 の 法 人 2) 財 務 省 平 成 26 年 度 税 制 改 正 の 解 説 671 頁 3) 猪 木 武 徳 日 本 の 近 代 7 経 済 成 長 の 果 実 1955~1972 ( 中 央 公 論 新 社 2000 年 )143 頁 4) 日 本 の 国 際 租 税 法 の 発 展 を 体 系 的 に 論 じたものとして 赤 松 晃 国 際 課 税 分 野 での 立 法 日 本 の 経 済 発 展 の 軌 跡 を 背 景 として 金 子 宏 編 租 税 法 の 発 展 ( 有 斐 閣 2010 年 ) 115 頁 388

赤松晃 帰属主義による国際課税原則の見直しの意義と機能 47 税 所得税は平成 29 2017 年分以後 について適用される 本稿では 特に 断りのない限り 外国法人課税の改正について検討する5 Ⅱ 前史 所得課税は明治 20 1887 年に制定された個人に対する所得税法を嚆矢とす るが 外国人 非居住者 に対する定めがなく 明治 32 1899 年の現行の商 法 明治 32 年 3 月 9 日法律第 48 号 の制定に伴い法人に対する所得課税制度 第一種所得 が導入されたときに外国人及び外国法人に対する課税規定が定め られた6 日本の所得課税に関する最古の文献とされる上林敬次郎 所得税法講 義 明治 34 1901 年 は 非居住者又は外国法人の日本における納税義務は 所得カ税法施行地ニ於テ生スルモノナルニ因リテ納税義務ヲ発生スルモノ トス 7 と解説しており 日本における非居住者又は外国法人の納税義務は 所 得課税に関する制定当初から 当該非居住者又は外国法人が日本に恒久的施設を 有するかどうかではなく 国内源泉所得を有することに因るとされている その後 大正 2 1913 年の税制改正において 法令上 法律施行地における 資産又は営業から生ずるものに限って課税することが明らかにされ 戦前の日本 においては その後若干の改正はあったが 外国法人については 要するにこの 法律施行地における資産又は営業から生ずるものに限って課税することが明らか 8 とされる 当時 実際にどのように解釈及び適用されていたか にされていた については 事業利得の国家間の配分の原則である独立企業原則の確立に大きく 寄与した昭和 8 1933 年の国際連盟財政委員会の報告書9 に掲載の日本の報告 書から知ることができる 大蔵省による日本の報告書は 事業利得の所得源泉地 5 2014 年改正法は 内国法人の外国税額控除限度額に関連して 国外源泉所得を新たに 定義し 国外所得金額に係る所得の計算に関する各種の規定を整備する 考え方の基本は 本稿で検討する外国法人に関する改正の内容と同様である 財務省 前掲注 2 755 783 頁 6 汐見三郎 各国所得税制論 有斐閣 1934 年 259 頁 7 上林敬次郎 所得税法講義 松江税務調査会 明治 34 1901 年 武田隆二 = 白井義 雄 復刻版出版記念事業会 1999 年 35 頁 8 DHC コンメンタール法人税法 5684 頁 389

( 48 ) 一 橋 法 学 第 14 巻 第 2 号 2015 年 7 月 国 としての 課 税 管 轄 権 の 範 囲 は 日 本 に 所 在 する 恒 久 的 施 設 を 通 じて 行 う 事 業 か ら 生 ずる 所 得 (Income derived from business operations through a permanent establishment in Japan)であり 課 税 範 囲 については 外 国 法 人 の 日 本 支 店 が 当 該 外 国 法 人 が 恒 久 的 施 設 を 有 しない 第 三 国 において 販 売 を 行 った 場 合 に 当 該 外 国 法 人 は 当 該 第 三 国 における 販 売 から 生 じた 日 本 支 店 の 利 益 に 対 して 日 本 で 納 税 義 務 を 負 う 10) と 説 明 し 課 税 管 轄 権 を 属 地 的 に 制 限 せず 経 済 機 能 的 にとらえ ていた 事 業 利 得 の 計 算 方 法 について 日 本 支 店 の 分 離 会 計 記 録 (separate accounts)を 前 提 として 日 本 支 店 と 当 該 外 国 企 業 との 取 引 の 状 況 を 十 分 に 理 解 し 相 互 に 入 り 組 んだ 取 引 の 詳 細 と 会 計 記 録 の 方 法 を 分 析 し 類 似 製 品 の 独 立 市 場 取 引 価 格 (an independent market quotation) 又 は 当 該 外 国 企 業 の 日 本 におけ る 独 立 の 顧 客 に 対 する 類 似 商 品 の 販 売 価 格 を 検 討 し 同 業 他 社 と 比 較 することを 原 則 的 方 法 (general practice) 11) とし 最 後 の 方 法 として 利 益 分 割 法 (method of fractional apportionment)の 適 用 を 認 容 12) していた このように 当 時 の 日 本 は 国 際 的 な 事 業 活 動 から 生 ずる 所 得 の 配 分 に 関 する 国 際 租 税 原 則 としての 独 立 企 業 原 則 が 成 立 したときに すでに 他 の 先 進 国 と 共 通 の 水 準 に 達 していたと 評 価 し 得 るのである 13) 昭 和 20(1945) 年 から 昭 和 27(1952) 年 までの 占 領 下 の 日 本 では 昭 和 22 (1947) 年 に 所 得 税 法 及 び 法 人 税 法 の 全 文 改 正 があったが 国 際 課 税 制 度 につい ては 所 得 税 法 から 分 離 創 設 された 昭 和 15(1940) 年 の 法 人 税 法 を 継 承 した 昭 和 27(1952) 年 に 従 来 制 限 納 税 義 務 者 に 対 する 課 税 範 囲 は 極 めて 制 限 され ており 日 本 にある 資 産 又 は 事 業 の 所 得 について 納 税 義 務 のある 外 は 日 本 で 支 払 われる 給 料 利 子 等 に 限 られていた しかし 国 際 二 重 課 税 防 止 のための 租 税 協 定 9) 赤 松 晃 国 際 租 税 原 則 と 日 本 の 国 際 租 税 法 国 際 的 事 業 活 動 と 独 立 企 業 原 則 を 中 心 に の 第 3 章 国 際 的 な 事 業 活 動 に 係 る 国 家 課 税 管 轄 権 と 独 立 企 業 原 則 の 成 立 及 びそ の 参 考 文 献 参 照 10) League of Nations, Volume Ⅲ: British India, Canada, Japan, Mexico, Netherlands East India, Union of South Africa, State of Massachusetts, of New York and of Wisconsin. Geneva, 1933[C. 425(a), M. 217(a). 1933. Ⅱ A.](1933. Ⅱ. A. 19.)at 96. 11) Ibid at 93. 12) Ibid at 94. 13) 赤 松 前 掲 注 9)70 頁 390

赤松晃 帰属主義による国際課税原則の見直しの意義と機能 49 がまず米国との間に近く締結されることとなることを予想して 制限納税義務者 の課税範囲を所得発生地主義によるのが適当と考えられた 14 ことから 国内に 源泉のある所得 という アメリカ流の所得源泉地主義 所得発生地課税主義 が導入され15 日本にとって最初の租税条約として昭和 29 1954 年に発効し た日米租税条約の締結に向けた国際課税制度の整備がなされたのである Ⅲ 1962 年法の法構造と論点 1 はじめに もはや 戦後 ではない 経済企画庁昭和 31 1956 年年次経済報告 か ら 5 年 昭和 36 1961 年 12 月 7 日税制調査会答申は 昭和 37 1962 年度税 制改正に向けて 非居住者及び外国法人に対する課税についての現行所得税法及 び法人税法の規定は きわめて簡単であり 現実に税務執行に当たって法律の解 釈に疑義が生ずる点も少なくなく その規定の整備合理化の必要が感ぜられてい た さらに 最近まで の条約に盛られた考え方を参考として国内法の整備を 適当とする点 国内法と条約とが食い違った場合の法律関係につき明確化を要す る点も見受けられる これらについては 国際的経済交流のいっそうの緊密化も 考慮して できるだけ租税条約 主要諸外国の制度等国際的に受け入れられてい る制度の 型 を参考としつつ 特に従来の税務行政上の経験から合理的な立法 的解釈が要請されている問題を中心として検討を加えた その結果 非居住者等 の課税の要件 課税所得の範囲 各所得種類に対する課税方法及び税率等に関し 整備合理化を行うとともに 居住者及び内国法人の海外との経済関係の密接 化に伴い その外国発生の所得に対する国際的な二重課税排除のための制度たる 外国税額控除の制度に関しても 諸外国の同種の制度を参照しつつ所要の整備を 行う 16 ことを勧告した 具体的には ①恒久的施設概念の導入 ②総合主義 全所得主義 の採用 ③国内において行う事業から生ずる所得の計算にあたっ 14 国税庁 所得税 法人税制度史草稿 昭和 30 1955 年 345 頁 15 小松芳明 国際租税法の発展と動向 租税法研究第 10 号 昭和 57 1982 年 4 頁 16 税制調査会 昭和 36 年 12 月 7 日税制調査会答申 別冊報告書 512 頁 391

50 一橋法学 第 14 巻 第 2 号 2015 年 7 月 て独立企業原則を完全には採用しないこと ④恒久的施設を有しないときであっ ても内国法人と同じ税率による法人税の課税対象となる国内源泉所得のうち 国 内にある資産の運用又は保有による所得 及び 国内にある資産の譲渡による所 得 に関する規定の整備 ⑤国内法と租税条約との調整規定などの制定であ る17 1962 年法は 昭和 40 1965 年の所得税法 法人税法の全文改正において 非居住者 外国法人関係の規定を独立の編に集録し 居住者 内国法人関係の 規定と分かつこととした ことに伴う規定の整備に主眼を置き 昭和 37 年改正 18 後の旧法の思想は原則的にはそのまま引き継ぐこと とされ 2014 年改正法に いたるまで半世紀を超えて適用されてきたのである 留意すべきは 1962 年法 1965 年全文改正を含む は 制定当時の日本経済の世界的地位を反映して 先 進国型の OECD モデル租税条約 1963 年採択 を全面的に採用するというので はなく 後世になって発展途上国型の国連モデル租税条約 1979 年採択 に基 づいた釈明とも言うべき解説19 がなされる税収確保型20 の性格を有していたこ とである 2 1962 年法の概要 1962 年法は 事業利得については恒久的施設 PE Permanent Establishment なければ課税せずという租税条約に定める国際租税原則を国内法に導入 した21 恒久的施設として ①支店 工場その他事業を行う一定の場所 1 号 PE ②長期建設作業等 2 号 PE ③従属代理人 常習代理人 在庫保有代理 17 小松 前掲注 15 7 頁及び小松 後掲注 30 171 187 頁 18 田口勝彦 非居住者 外国法人課税の改正の概要 税経通信第 20 巻第 7 号 昭和 40 1965 年 230 231 頁 19 小松芳明 租税条約の研究 1982 年 新版 有斐閣 39 頁 20 小松 前掲注 19 11 頁 21 小松 前掲注 15 8 頁 1962 年改正前は 事業活動から生ずる所得の課税管轄権の基 礎となる 事業の所得を有する場所 について ①施行地に事業に関する事務所又は事業 所がある場合 ②法施行地に事務所又は事業所がない場合であっても法施行地において事 業に関する取引行為がなされる場合 ③法施行地において仕入だけを行っている場合のい ずれも該当するとされていた 高田正義 外国人及び外国法人に対する所得税の課税実務 の解説 税経通信第 9 巻第 6 号 昭和 29 1954 年 215 頁参照 392

赤 松 晃 帰 属 主 義 による 国 際 課 税 原 則 の 見 直 しの 意 義 と 機 能 ( 51 ) 人 及 び 注 文 取 得 代 理 人 )(3 号 PE)を 定 め 1 号 PE の 課 税 方 式 として いやし くも 日 本 に 事 業 を 持 っておれば それらの 所 得 が 日 本 の 源 泉 のものはすべて 総 合 課 税 する 総 合 主 義 を 維 持 し 2 号 PE 及 び 3 号 PE については 支 店 自 体 を 独 立 の 企 業 とみなしてその 分 だけ 総 合 してあとのものは 分 離 課 税 すべしという 22) 帰 属 主 義 を 採 用 した 総 合 主 義 (Entire income principle/force of attraction) とは 本 店 等 が 直 接 的 に 日 本 に 対 して 行 う 投 資 から 生 ずる 所 得 (= 資 産 性 所 得 )で 日 本 の 恒 久 的 施 設 に 帰 せられない 所 得 であっても 当 該 恒 久 的 施 設 の 所 得 に 総 合 して( 含 めて) 内 国 法 人 と 同 じ 税 率 による 課 税 に 服 するというものである( 全 所 得 主 義 ともいう) 23) 当 時 の 米 国 の 税 制 を 母 法 として 制 定 されたのであるが 24) 米 国 は 1966 年 に 帰 属 主 義 に 転 換 している 25) 帰 属 主 義 とは 事 業 利 得 に 対 する 所 得 源 泉 地 国 の 課 税 権 を 恒 久 的 施 設 に 帰 せられる 所 得 ( 実 質 的 な 関 連 を 有 する: effectively connected with)に 限 定 するものである 26) 1962 年 法 は すべての 国 内 源 泉 所 得 を 総 合 して 課 税 するという 総 合 主 義 の 仕 組 みのもとで 国 内 源 泉 所 得 を 定 める 法 人 税 法 138 条 一 号 所 得 として 国 内 にお いて 行 う 事 業 から 生 ずる 所 得 国 内 にある 資 産 の 運 用 又 は 保 有 による 所 得 国 内 にある 資 産 の 譲 渡 による 所 得 及 び その 他 その 源 泉 が 国 内 にある 所 得 22) 国 税 庁 非 居 住 者 外 国 法 人 及 び 外 国 税 額 控 除 に 関 する 改 正 税 法 の 解 説 8~9 頁 1962 年 法 の 責 任 者 として 法 改 正 に 当 たった 大 蔵 省 主 税 局 臨 時 税 法 整 備 室 長 ( 当 時 ) 植 松 守 雄 氏 が 国 税 庁 において 1962 年 4 月 17 日 から 21 日 までの 5 日 間 にわたって 行 った 説 明 の 速 記 録 ( 昭 和 37 年 5 月 1 日 非 居 住 者 外 国 法 人 及 び 外 国 税 額 控 除 に 関 する 改 正 税 法 の 解 説 )が 残 されており 貴 重 な 一 次 資 料 となっている 23) 小 松 前 掲 注 15)4 頁 は 当 時 のわが 国 の 国 内 租 税 法 は 実 質 的 にはエンタイア インカ ム 方 式 と 同 様 の 課 税 方 式 を 採 っていたため 特 段 の 支 障 はなかった とする なお 第 一 次 日 米 租 税 条 約 にかかる 第 三 次 議 定 書 の 批 准 (1964 年 8 月 14 日 署 名 )に 関 する 米 国 議 会 上 院 資 料 によれば 1962 年 度 税 制 改 正 前 において 日 本 は 2 号 PE を 認 定 した 上 で 総 合 主 義 に 基 づき 当 該 PE に 帰 属 しないすべての 国 内 源 泉 所 得 についても 総 合 課 税 の 対 象 として いることが 言 及 されている(88th CONGRESS 2nd Session, SENATE, Ex. Report No. 10 : TAX CONVENTION AND PROTOCOLS WITH LUXEMBOURG, THE NETHER- LANDS, SWEDEN AND JAPAN. at 79) 24) 小 松 前 掲 注 15)4 頁 25) 米 国 の 1966 年 改 正 による 帰 属 主 義 への 転 換 の 背 景 と 意 義 について 赤 松 前 掲 注 9) 258~267 頁 26) 1963 年 OECD 租 税 条 約 草 案 7 条 ( 事 業 利 得 )1 項 その 経 緯 と 意 義 について 平 尾 照 夫 租 税 条 約 の 解 説 ( 日 本 租 税 研 究 協 会 1964 年 )38~41 頁 参 照 393

52 一橋法学 第 14 巻 第 2 号 2015 年 7 月 と網羅的に課税管轄権 ソースルール を定めた上 同条第二号所得から十一号 所得として 一号所得のうち所得税の源泉徴収の対象となる国内源泉所得を抜き 出して規定するという 2 層構造27 となっていた28 1962 年法の法構造について 水野忠恒教授は 日本の国際租税法研究の記念碑的論文である 国際租税法の基 礎的考察 1985 年 において 源泉地の決定と課税方法の決定とを厳格に区別 しておらず 国内源泉所得の分類が同時に所得分類の性格をもちながら しかも 29 国内法の所得分類とも一致していないという制度上の問題点をかかえている ことを指摘されていた 3 1962 年法の論点 ⑴ 課税管轄権に対する属地制限及び源泉管轄制限 1962 年法に対しては 総合主義は すべての国内源泉所得 を総合して課税 する方式であり 総合するのはあくまでも国内源泉所得という属地制限的な課税 管轄権に留まるのに対して 帰属主義は国境を越える概念であるから 帰属主義 への改正が急務であると論じられ30 また 上述の 2 層構造により源泉管轄が 制限されるという実定法に関する解釈上の疑義31 も指摘されていた しかし 水野忠恒教授は 日本の実定法の法構造を歴史 沿革と比較法の観点 27 財務省 前掲注 2 676 頁 1962 年法の導入時における税制調査会での検討を含む総合 主義及び帰属主義に関する概括的な解説として 財務省主税局参事官補佐安河内誠 = 山田 博志 平成 26 年度の国際課税 含む政省令事項 に関する改正について 租税研究 第 778 号 2014 年 8 月号 73 81 頁 28 具体的には 法人税基本通達 20-2-12 として整理されていた 同通達は 総合主義から 帰属主義への見直しを行った 2014 年改正法を受け 平成 26 年 7 月 9 日課法 2-9 ほか 2 課 共同 法人税基本通達等の一部改正について 法令解釈通達 で廃止されている 29 水野忠恒 国際課税の制度と理論 国際租税法の基礎的考察 有斐閣 2000 年 41 頁 初出 国際租税法の基礎的考察 憲法と行政法 小島和司先生東北大学退職記念 良書普及会 1985 年 30 小松芳明 法人税法における国際課税の側面について 問題点の究明と若干の提言 西野嘉一郎 = 宇田川璋仁編 現代企業課税論 その機能と課題 東洋経済新報 社 1977 年 201 205 頁 ゲーリー トーマス 日本の法人税法上のソース ルールに ついて 租税法研究第 10 号 昭和 57 1982 年 220 頁は母法である米国租税法との比 較法の観点から論ずる 31 論点の分析と検討について 赤松 前掲注 9 274 282 頁及びその参考文献参照 394

赤 松 晃 帰 属 主 義 による 国 際 課 税 原 則 の 見 直 しの 意 義 と 機 能 ( 53 ) から 分 析 検 討 し 所 得 税 の 源 泉 徴 収 の 対 象 たりえないことをもって 法 人 税 の 課 税 管 轄 上 も 対 象 外 とするのは 不 合 理 であり 事 業 活 動 として 行 われる 場 合 において も 法 人 税 の 課 税 対 象 外 とする 理 由 は 見 いだしがたいと 指 摘 され 国 内 において 行 4 4 う 事 業 から 生 ずる 所 得 は 事 業 に 帰 属 する 所 得 を 意 味 することを 明 らかにし 制 限 的 解 釈 からの 解 放 を 行 った 32) 実 定 法 としては 昭 和 48(1973) 年 度 税 制 改 正 において 日 本 支 店 の 事 業 を 通 じて 行 う 国 外 投 融 資 所 得 は 国 内 において 行 う 事 業 から 生 ずる 所 得 であることを 法 律 の 委 任 による 政 令 レベルで 確 認 的 に 規 定 する 一 方 で 1962 年 法 が 仕 組 みと して( 外 国 法 人 が 日 本 に 子 会 社 を 設 立 した 場 合 とは 異 なり) 外 国 法 人 の 日 本 支 店 に 外 国 税 額 控 除 を 認 めていないことから 国 外 投 融 資 所 得 に 係 る 外 国 法 人 税 の 課 税 を 証 することを 条 件 として 二 重 課 税 排 除 のために 日 本 における 法 人 税 の 課 税 対 象 から 除 く 定 めを 置 いている( 法 令 176 5) このように 1962 法 年 は 対 日 進 出 における 支 店 形 態 と 子 会 社 形 態 の 選 択 に 関 する 税 制 中 立 性 を 欠 いていた ⑵ 国 際 課 税 原 則 の 二 元 化 1962 年 法 の 制 定 以 来 半 世 紀 を 超 える 現 在 いわゆる 租 税 条 約 のネットワー クは 60 か 国 地 域 を 超 えるまでに 広 がり 日 本 の 国 際 収 支 のおよそ 9 割 がそれ らの 国 地 域 との 間 で 行 われているという 実 態 のもと すべての 条 約 締 結 国 との 間 では 国 内 法 に 定 める 総 合 主 義 は 帰 属 主 義 に 修 正 され 外 国 法 人 の 課 税 原 則 は 実 質 的 には 帰 属 主 義 となる 一 方 で 条 約 非 締 結 国 との 間 では 国 内 法 に 定 める 総 合 主 義 ( 全 所 得 主 義 )が 適 用 されるという 課 税 原 則 の 二 元 化 という 現 象 が 生 じてい た 33) 国 際 課 税 原 則 の 二 元 化 に 由 来 する 具 体 的 な 課 税 問 題 は 次 の 2 つに 整 理 される 第 一 に 外 国 法 人 の 本 店 等 が 日 本 の 株 式 市 場 に 投 資 して 株 式 譲 渡 益 を 得 るよう な 場 合 日 本 の 課 税 当 局 によって 当 該 外 国 法 人 の 恒 久 的 施 設 が 存 在 すると 認 定 さ 32) 水 野 前 掲 注 29)40 頁 33) 財 務 省 主 税 局 参 事 官 国 際 課 税 原 則 の 総 合 主 義 ( 全 所 得 主 義 )から 帰 属 主 義 への 見 直 し (2013 年 10 月 )1 頁 財 務 省 前 掲 注 2)671 頁 395

( 54 ) 一 橋 法 学 第 14 巻 第 2 号 2015 年 7 月 れると 総 合 主 義 により 当 該 恒 久 的 施 設 が 当 該 投 資 活 動 にまったく 関 与 してい ない 場 合 であっても 当 該 恒 久 的 施 設 の 所 得 として 法 人 税 が 課 税 される すなわ ち 条 約 締 結 国 との 間 では 租 税 条 約 に 定 める 帰 属 主 義 により 修 正 され 日 本 での 法 人 税 の 課 税 の 対 象 とならないのであるが 非 条 約 締 結 国 とでは 国 内 法 に 従 い 課 税 される 34) また 租 税 条 約 に 定 める その 他 所 得 条 項 = 条 約 に 定 めのない 所 得 (OECD モデル 租 税 条 約 21 条 ) 35) の 適 用 がある 条 約 締 結 国 との 間 では 租 税 条 約 により 国 内 法 に 定 める 国 内 源 泉 所 得 が 修 正 され 日 本 での 法 人 税 の 課 税 の 対 象 とならないものが 非 条 約 締 結 国 とでは 国 内 法 に 定 めに 従 い 課 税 される 36) 1962 年 法 は 爾 来 半 世 紀 にわたって 国 内 源 泉 所 得 の 規 定 を 網 羅 的 に 整 備 してき たが その 中 心 は 沿 革 的 に 国 内 にある 資 産 の 運 用 又 は 保 有 による 所 得 ( 法 法 138 一 ) 及 び 国 内 にある 資 産 の 譲 渡 による 所 得 ( 法 法 138 一 )であった 37) これらの 所 得 の 性 質 は 投 資 所 得 であるが 実 定 法 上 恒 久 的 施 設 を 有 しないとき であっても 内 国 法 人 と 同 じ 税 率 による 法 人 税 の 課 税 対 象 となる 国 内 源 泉 所 得 とし て 規 定 され 対 内 投 資 の 隘 路 と 認 識 されていた 38) 第 二 に 租 税 条 約 により 帰 属 主 義 の 適 用 を 受 ける 場 合 に 恒 久 的 施 設 に 帰 属 す る 所 得 は 国 内 法 の 規 定 に 従 って 具 体 的 に 計 算 される 1962 年 法 は 国 内 におい て 行 う 事 業 から 生 ずる 所 得 について 制 定 当 時 における 従 来 の 長 い 行 政 上 の 経 験 からの 積 み 上 げを 立 法 化 し 1 棚 卸 資 産 の 購 入 販 売 業 2 棚 卸 資 産 の 製 造 販 売 業 3 建 設 作 業 4 国 際 運 輸 業 5 保 険 業 6 出 版 放 送 事 業 7その 他 の 事 業 34) 財 務 省 主 税 局 参 事 官 前 掲 注 33)3 頁 35) 条 約 中 に 課 税 管 轄 権 の 配 分 が 明 示 された 所 得 以 外 の 所 得 ( 明 示 なき 所 得 =その 他 所 得 ) に 係 る 課 税 管 轄 権 は 居 住 地 国 にあることを 包 括 的 に 定 める 規 定 具 体 的 には OECD モ デル 租 税 条 約 6 条 ( 不 動 産 所 得 )から 20 条 ( 学 生 又 は 事 業 修 習 者 )までに 掲 げる 所 得 以 外 の 所 得 (その 他 所 得 )については その 所 得 の 取 得 者 の 居 住 地 国 が 排 他 的 に 課 税 管 轄 権 を 有 すると 定 める 36) 小 松 前 掲 注 19)109 頁 37) 沿 革 について 赤 松 前 掲 注 9)199~200 頁 整 備 の 状 況 について DHC コンメンタ ール 法 人 税 5689~5693-2 頁 38) 例 えば 昭 和 45(1970) 年 度 税 制 改 正 で 国 内 にある 資 産 の 運 用 又 は 保 有 による 所 得 と して 規 定 された 組 合 員 10 人 未 満 の 匿 名 組 合 契 約 の 分 配 金 は 平 成 14(2002) 年 度 税 制 改 正 により 削 除 され 国 内 に 恒 久 的 施 設 を 有 しない 外 国 法 人 非 居 住 者 は 所 得 税 の 源 泉 徴 収 により 日 本 での 課 税 関 係 が 終 了 する( 法 法 138 十 一 141 四 所 法 161 十 二 212 1 213 1 一 ) 396

赤 松 晃 帰 属 主 義 による 国 際 課 税 原 則 の 見 直 しの 意 義 と 機 能 ( 55 ) (1~6 以 外 の 事 業 )の 類 型 に 区 分 して 具 体 的 な 計 算 方 法 ( 法 法 138 一 法 令 176 1 一 ~ 七 )を 定 め 39) 独 立 企 業 原 則 を 念 頭 に 置 きながらも 完 全 には 採 用 して いないという 特 徴 を 有 していた 40) 本 店 と 恒 久 的 施 設 の 間 の 内 部 利 子 や 内 部 使 用 料 などの 内 部 取 引 に 関 して 支 店 には 損 益 は 生 じないと 定 め( 法 令 176 3 二 法 基 通 20-1-5) 例 外 的 に 銀 行 業 においては 日 本 支 店 の 課 税 所 得 の 計 算 上 いわ ゆる 紐 付 き 利 子 ( 本 支 店 間 の 費 用 配 付 )だけでなく 本 店 が 支 店 に 供 給 する 資 金 につき 独 立 企 業 原 則 に 従 い 支 店 から 本 店 に 支 払 われる 内 部 利 子 についても 損 金 算 入 を 認 める 取 り 扱 いがなされてきた 41) また 恒 久 的 施 設 が 外 国 の 本 店 のため に 行 う 補 助 的 機 能 の 提 供 に 関 し 所 得 を 認 識 しないとする いわゆる 単 純 購 入 非 課 税 の 取 扱 いも 定 められていた( 法 令 176 2) このように 2010 年 改 訂 前 の OECD モデル 租 税 条 約 7 条 ( 旧 7 条 )でも 帰 属 主 義 を 原 則 としていたものの その 解 釈 や 運 用 が 各 国 で 統 一 されていなかったため 結 果 として 国 際 二 重 課 税 二 重 非 課 税 を 効 果 的 に 排 除 することができていないと いう 問 題 が 提 起 され 42) 2010 年 OECD モデル 租 税 条 約 の 改 訂 にかかわる 議 論 で は 国 際 二 重 課 税 二 重 非 課 税 の 排 除 のための 税 制 の 国 際 調 和 の 観 点 から 総 合 主 義 は 前 世 紀 の 遺 物 43) と 批 判 されていた(OECD モデル 租 税 条 約 7 条 コメン タリーパラ 12 参 照 ) 44) 39) この 点 につき 植 松 前 掲 注 22)に 基 づき 論 考 したものとして 赤 松 前 掲 注 9)305 ~324 頁 40) 小 松 芳 明 国 際 租 税 法 講 義 ( 税 務 経 理 協 会 増 補 版 1998 年 )61~62 頁 41) Transfer Pricing And Multinational Enterprises : Three Taxation Issues : The Taxation of Multinational Banking Enterprises, OECD, 1984 at. 58-59. なお 紐 付 き 利 子 の 場 合 は 日 本 支 店 から 外 国 本 店 に 対 する 支 払 いに 際 して 所 得 税 の 源 泉 徴 収 がなされる( 所 基 通 161-2( 注 )) 42) 財 務 省 前 掲 注 2)672 頁 43) Mary Bennett, The Attribution of Profits to Permanent Establishments : The 2008 Commentary on Art. 7 of the OECD Model Convention, European Taxation volume 48-Number 9, 2008, at. 470. 44) 日 本 では 小 松 芳 明 教 授 が 1963 年 に 採 択 された OECD モデル 租 税 条 約 が 帰 属 主 義 で あること 及 び 母 法 であるアメリカ 法 が 帰 属 主 義 に 改 正 されたことなどを 指 摘 して 総 合 主 義 から 帰 属 主 義 への 転 換 を 早 くから 提 唱 されていた 小 松 前 掲 注 15)21~25 頁 小 松 前 掲 注 30)201~206 頁 397

56 一橋法学 第 14 巻 第 2 号 2015 年 7 月 Ⅳ 2014 年改正法の意義と法構造 1 2014 年改正法の概要 2014 年改正法は 法人税法の用語に関する定義規定に恒久的施設45 を定め 改正法法 2 十二の十八 改正法令 4 の 4 恒久的施設を有する外国法人は恒久 的施設帰属所得に限って内国法人と同様に法人税の納税義務を有する 改正法法 138 ①一 141 一イ 恒久的施設を有する外国法人の恒久的施設に帰属しない国 内源泉所得 改正法法 141 一ロ 及び恒久的施設を有しない外国法人の国内源泉 所得 改正法法 141 二 は 法人税の納税義務の対象となる国内にある資産の運 用又は保有による所得 所得税の源泉徴収の対象となる所得を除く 改正法法 138 ①二 国内にある資産の譲渡による所得 改正法法 138 ①三 人的役務の 提供事業の対価 改正法法 138 ①四 国内不動産等の貸付料等 改正法法 138 ①五 及び そのほかその源泉が国内にある所得 改正法法 138 ①六 を除い て 所得税の源泉徴収のみで課税関係が終了する制度に改められた 所得税の源 泉徴収のみで課税関係が終了する国内源泉所得の区分は所得税法に定められてい 46 る 改正所法 161 ①八 十一 十三 十六 後述するように 2014 年改正法 は 源泉所得税のみで課税関係が終了する国内源泉所得については 帰属主義へ の見直しの論理的帰結として法人税の規定から削除することで 1962 年法の 2 層構造 を解消している 2014 年改正法は 各種の国内源泉所得への該当性の重複を排除せず 改正法 45 帰属主義への見直しを対象とする平成 26 2014 年度税制改正において恒久的施設の 範囲についての改正はなく 1962 年法が維持されている 複数の事業活動の拠点を有する 場合は 全体を一の恒久的施設として取り扱う 改正法基通 20-5-1 46 所得税の源泉徴収の対象とする国内源泉所得の範囲等については 帰属主義への見直し に伴う所得税法の関係条文の整備以外に変更はなく 改正所法 161 ① 212 213 恒久 的施設に帰属する利子等のように恒久的施設帰属所得という国内源泉所得としての属性 改正法法 138 ①一 と源泉徴収の対象となる国内源泉所得としての属性 改正所法 161 ①八 212 ① との双方に該当するものについては 内国法人が得る利子等に対する課税 関係と同様 利子等という国内源泉所得の属性に基づいて源泉徴収の上 恒久的施設帰属 所得という国内源泉所得の属性に基づいて申告納税で税額を精算する仕組み 恒久的施設 帰属所得の優先該当性 の適用を受ける 改正法法 138 ①一 144 財務省主税局参事 官 前掲注 33 7 頁 398

赤松晃 帰属主義による国際課税原則の見直しの意義と機能 57 法 138 ① 外国法人の課税標準である国内源泉所得に係る所得を 恒久的施設 帰属所得 とそれ以外の国内源泉所得 以下本稿において 申告対象国内源泉所 得 という の 2 区分にグルーピングし 申告対象国内源泉所得 の範囲から 恒久的施設帰属所得 に該当するものを除外する仕組みにより 改正法法 141 一イ ロ 恒久的施設帰属所得への該当性を優先させている 改正法基通 2047 4-1 表 法人税の納税義務の範囲 恒久的施設帰属所得 と 申告対象国内源泉所得 恒久的施設 帰属所得 恒久的施設 を有する外 国法人 恒久的施設 を有しない 外国法人 申告対象国 内源泉所得 法人税の納税義務 法人税の確定申告書 の提出 改正法法 141 一 143 ① 一 二 144 の 6 ① 法人税の課税対象と なる恒久的施設帰属所 得以外の申告対象国内 源泉所得を有する場合 に限り法人税の確定申 告書を提出 改正法法 141 二 143 ①三 144 の 6 ② 備 考 恒久的施設帰属所得とそ れ以外の申告対象国内源泉 所得の二区分とし これら の所得を通算しないと定め 操作性を排除 恒久的施設を有しない外 国法人が恒久的施設を有す ることとなった場合 又は 恒久的施設を有する外国法 人が恒久的施設を有しない こととなった場合に区分し て みなし事業年度が定め ら れ て い る 改 正 法 法 14 ①二十三 二十五 注 恒久的施設を有する外国法人の恒久的施設に帰属しない国内源泉所得と恒久的施設を有しな い外国法人の国内源泉所得とは同一である 改正法法 141 一ロ 二 具体的には 国内にある資 産の運用又は保有による所得 所得税の源泉徴収の対象となる国内源泉所得を除く 国内にあ る資産の譲渡による所得 人的役務の提供事業の対価 国内不動産等の貸付料等 及び そ のほかその源泉が国内にある所得 である 申告対象国内源泉所得 恒久的施設を有しない外国 法人が稼得する申告対象国内源泉所得は 内国法人と同じ法人税率による法人税の申告納税義務に 服する 2 恒久的施設帰属所得に係る所得の計算 ⑴ 恒久的施設帰属所得 2014 年改正法は 外国法人が恒久的施設を有する場合には恒久的施設帰属所 得に限って内国法人と同様に法人税の課税対象とすることとし 恒久的施設帰属 47 財務省 前掲注 2 677 頁 2014 年改正法の仕組み全般の解説として 安河内 = 山田 前掲注 27 71 133 頁 399

( 58 ) 一 橋 法 学 第 14 巻 第 2 号 2015 年 7 月 所 得 は 恒 久 的 施 設 が 外 国 法 人 から 独 立 して 事 業 を 行 う 事 業 者 であるとしたなら ば その 恒 久 的 施 設 が 果 たす 機 能 その 恒 久 的 施 設 とその 外 国 法 人 の 本 店 等 との 間 の 内 部 取 引 その 他 の 状 況 を 勘 案 して その 恒 久 的 施 設 に 帰 せられるべき 所 得 と 定 める( 改 正 法 法 138 1 一 ) 具 体 的 には 1 恒 久 的 施 設 の 果 たす 機 能 及 び 事 実 関 係 に 基 づいて 外 部 取 引 資 産 リスク 資 本 を 恒 久 的 施 設 に 帰 属 させ 2 恒 久 的 施 設 と 本 店 等 48) との 内 部 取 引 ( 内 部 債 務 保 証 取 引 及 び 内 部 再 保 険 を 除 く)を 認 識 し 3 当 該 内 部 取 引 が 独 立 企 業 間 価 格 で 行 われたものとして 計 算 する( 改 正 法 法 138 1 一 2 改 正 法 基 通 20-2-1~20-2-4) なお 国 際 運 輸 業 については 1962 年 法 と 同 じく 一 定 の 基 準 により 所 得 を 按 分 すると 定 める( 改 正 法 法 138 3) 恒 久 的 施 設 が 本 店 等 の ために 行 う 単 なる 購 入 活 動 からは 国 内 における 事 業 から 生 ずる 所 得 は 生 じない ものとする 単 純 購 入 非 課 税 の 取 扱 いに 関 する 規 定 ( 法 法 138 一 法 令 176 2)は 独 立 企 業 原 則 との 整 合 性 の 観 点 から 削 除 された また 本 店 等 から 恒 久 的 施 設 への 資 金 の 供 与 や 恒 久 的 施 設 から 本 店 等 への 剰 余 金 の 送 金 は 資 本 等 取 引 に 含 まれ 課 税 対 象 所 得 を 構 成 しないことが 明 示 的 に 規 定 されている( 改 正 法 法 142 3 三 ) 取 引 の 損 益 の 認 識 のタイミングは 恒 久 的 施 設 帰 属 外 部 取 引 の 損 益 の 実 現 時 ではなく 内 部 取 引 が 行 われたと 認 められるとき である( 改 正 法 法 138 2) ⑵ 内 部 取 引 2014 年 改 正 法 の 基 本 の 考 え 方 である 2010 年 OECD モデル 租 税 条 約 の 新 7 条 に 定 める AOA によれば 本 支 店 間 の 資 産 移 管 の 事 実 のみで 内 部 取 引 損 益 を 認 識 するのではなく 現 実 のかつ 認 識 可 能 な 事 象 が 発 生 し かつ 資 産 に 関 連 する 機 能 の 移 転 を 伴 う 場 合 に 限 り 内 部 取 引 損 益 を 認 識 し 又 は 恒 久 的 施 設 による 資 産 取 得 を 認 識 する のであるから 内 部 支 払 利 子 や 内 部 使 用 料 等 は 認 識 するが 内 部 債 務 保 証 取 引 及 び 内 部 再 保 険 は 内 部 取 引 として 認 識 されない( 改 正 法 法 138 48) 本 店 等 とは その 外 国 法 人 の 本 店 支 店 工 場 その 他 これらに 準 ずるものであってその 恒 久 的 施 設 以 外 のものと 新 たに 定 義 され( 改 正 法 法 138 1 一 改 正 法 令 176) 法 令 上 その 恒 久 的 施 設 以 外 のその 外 国 法 人 のすベての 構 成 部 分 を 意 味 する 400

赤松晃 帰属主義による国際課税原則の見直しの意義と機能 59 ② 49 なお 内部取引は税務目的で擬制された取引であり 企業に対して実際 の対価の収受は求められていないから 本支店間の内部利子等の内部取引に対し 50 て源泉徴収はされない 改正所法 178 ⑶ 文書化 恒久的施設帰属所得に係る所得の計算の前提として 外部取引 改正法法 146 の 2 ① 改正法規 62 の 2 内部取引 改正法法 146 の 2 ② 改正法規 62 の 3 及び本店配賦経費 改正法法 142 の 7 ① 改正法規 60 の 10 に関する文書化が 規定された 本店配賦経費は文書化がされていない場合は損金算入を認めないと するが 宥恕規定が定められている 改正法法 142 の 7 ② 外部取引では通常作成される契約書 領収書等の証憑類に相当するものを 本 支店間取引のため当然には作成されない内部取引にあっても帳簿保存義務の対象 と定めた 改正法法 146 の 2 ①② 150 の 2 改正法規 62 の 2 62 の 3 67 3 帰属主義による特段の定め 恒久的施設帰属所得に係る所得の金額は 恒久的施設を通じて行う事業に係る 益金の額から損金の額を控除した金額とされ 恒久的施設を通じて行う事業に係 る益金の額及び損金の額の計算については 別段の定めがあるものを除いて 内 国法人の各事業年度の所得に対する法人税の課税標準及びその計算に関する規定 に準じて計算する 改正法法 142 別段の定めとして 恒久的施設が外国法人から独立して事業を行う事業者であ るとした場合の課税所得金額を計算するという AOA を受容して ①子会社形態 で進出する場合に適用のある移転価格税制に照応する 外国法人の内部取引に係 る課税の特例 改正措法 66 の 4 の 3 ②保険契約により得た保険料を将来の 債務の履行に備えてグローバルに運用する保険会社に固有の 外国保険会社等の 恒久的施設に帰せられるべき投資資産に係る収益の益金算入 改正法法 142 の 3 ③子会社形態で進出する場合に適用のある過少資本税制に照応する 恒久的 49 財務省主税局参事官 前掲注 33 8 9 頁 50 財務省主税局参事官 前掲注 33 11 頁 401

60 一橋法学 第 14 巻 第 2 号 2015 年 7 月 施設に帰せられるべき資本に対応する負債の利子の損金不算入 改正法法 142 の 4 ④外国銀行等に固有のバーゼル銀行監督委員会が公表した基準等にそっ て規制上の資本に含められる負債 負債性資本 の利子費用に関する 外国銀行 等の規制上の自己資本に係る負債の利子の損金算入 改正法法 142 の 5 及び ⑤ 恒久的施設の閉鎖に伴う資産の時価評価損益 改正法法 142 の 8 があ る51 また 外国法人の恒久的施設帰属所得に係る所得及び税額の計算に関しては 同一法人内部での機能 資産 リスクの帰属を人為的に操作することでの調整が 容易であることから52 子会社形態で進出する場合に適用のある同族会社の行 為計算の否認規定に照応する 外国法人の恒久的施設帰属所得に係る行為又は計 算の否認 改正法法 147 の 2 規定を定める 4 帰属主義による外国法人に対する外国税額控除制度の導入 2014 年改正法は 外国法人の恒久的施設が本店所在地国以外の第三国で稼得 した所得を恒久的施設帰属所得として日本の法人税の課税対象としたことから 当該第三国との国際二重課税を調整するための外国税額控除制度を創設している 改正法法 144 の 2 恒久的施設を有する外国法人が 各事業年度において外国 法人税を納付する場合における 新たに定義された国外所得金額 恒久的施設帰 属所得に係る所得の金額のうち国外源泉所得に係るもの の範囲 租税条約の適 用がある場合の課税管轄権 ソースルール の修正 控除の対象となる外国法人 税 一括限度額方式 繰越控除等の基本的な仕組みは 内国法人における外国税 額控除と同様である53 改正法法 144 の 2 改正法令 193 199 5 帰属主義による 2014 年改正法と 旧 7 条型 の租税条約との調整規定 2014 年改正法に係る 所得税法等の一部を改正する法律 平成 26 年 3 月 31 日法律第 10 号 が成立した時は AOA を定める 2010 年 OECD モデル租税条 51 安河内 = 山田 前掲注 27 84 100 頁 52 財務省主税局参事官 前掲注 33 27 頁 53 財務省主税局参事官 前掲注 33 23 頁 402

赤松晃 帰属主義による国際課税原則の見直しの意義と機能 61 約 新 7 条型 の日本における条約例は改正イギリス条約 2013 年 12 月 17 日 署 名 2014 年 12 月 12 日 発 効 だ け で あ り 他 の 条 約 例 は 2010 年 改 訂 前 の OECD モデル租税条約 7 条 旧 7 条型 である 2014 年改正法は 恒久的施設帰属所得の計算において 当該恒久的施設の本 店所在地国が日本との租税条約の締結国及か非締結国にかかわらず AOA に従 い本店等との内部取引を認識することを定める しかしながら 内部取引を認識 しない旧 7 条型の租税条約締結国との関係では 一般事業会社の内部利子及び内 部使用料を認識しないとする明文の規定 改正法法 139 ② 改正法令 183 ① ③ を定め 国内法と異なる定めを有する旧 7 条型の租税条約との適用関係を調 整している なお 恒久的施設が本店等のために行う単なる購入活動からは国内における事 業から生ずる所得は生じないものとする単純購入非課税の取扱いに関する規定 法令 176 ② は 独立企業原則との整合性の観点から 2014 年改正法で削除され たが 単純購入非課税の取扱いを規定する旧 7 条型の租税条約の適用がある場合 には 当該租税条約に定めるところにより 単純購入非課税の取扱いとなる54 外国法人の日本にある恒久的施設に対する日本の課税が 当該恒久的施設の本 店所在地国と日本との間の租税条約 7 条に抵触する場合 日本の国内救済手続き 争訟 とは別に 租税条約に定める相互協議の申立てを当該本店所在地国の権 限のある当局にすることができる OECD モデル租税条約 7 ③ 25 ① 平成 13 年 6 月 25 日官協 1-39 ほか 7 課共同 相互協議の手続について 事務運営指針 第 3 6 課税管轄権 ソースルール に関する 2014 年改正法の意義 2014 年改正法は 経済機能的には 国内における事業から生ずる所得でなく 本店等の対日投資に係る所得であるにもかかわらず 内国法人と同様に法人税の 納税義務を有するとされる 組合事業契約利益の分配金 改正法法 138 ①一 国内にある資産の運用又は保有による所得 改正法法 138 ①二 及び 国内に ある資産の譲渡による所得 改正法法 138 ①三 の見直しを行っている 他方 54 財務省 前掲注 2 681 頁 403

( 62 ) 一 橋 法 学 第 14 巻 第 2 号 2015 年 7 月 で 帰 属 主 義 への 見 直 しに 関 係 しない 人 的 役 務 の 提 供 事 業 の 対 価 ( 改 正 法 法 138 1 四 ) 国 内 不 動 産 等 の 貸 付 料 等 ( 改 正 法 法 138 1 五 ) 及 び そのほかそ の 源 泉 が 国 内 にある 所 得 ( 改 正 法 法 138 1 六 )についての 改 正 はない ⑴ 外 国 組 合 員 に 対 する 課 税 の 特 例 日 本 に 恒 久 的 施 設 を 有 しない 外 国 法 人 が 任 意 組 合 等 の 組 合 員 である 場 合 には 組 合 契 約 の 共 同 執 行 性 という 法 的 性 質 に 照 らして 一 般 に 共 同 事 業 性 が 認 められる から 国 内 において 組 合 契 約 に 基 づいて 行 う 事 業 は それ 自 体 が 恒 久 的 施 設 を 形 成 し( 所 基 通 164-7) 法 人 税 の 納 税 義 務 を 負 う( 法 法 138 一 141 一 ) 帰 属 主 義 への 見 直 しによる 2014 年 改 正 法 は 組 合 契 約 事 業 利 益 の 配 分 を 再 定 義 し 民 法 組 合 契 約 等 に 基 づいて 恒 久 的 施 設 を 通 じて 行 う 事 業 から 生 ずる 利 益 の 配 分 で 一 定 のものをいうと 改 めた( 改 正 所 法 161 1 四 ) 2014 年 改 正 法 により 投 資 組 合 契 約 ( 投 資 事 業 有 限 責 任 組 合 契 約 及 び 外 国 におけるこれに 類 するもの) によって 成 立 する 投 資 組 合 の 有 限 責 任 組 合 員 で 組 合 に 対 して 金 銭 出 資 を 行 うの みで 組 合 の 業 務 を 執 行 せず その 実 態 が 投 資 家 に 近 い 共 同 事 業 性 が 希 薄 である と 考 えられる 一 定 の 外 国 組 合 員 (1その 投 資 組 合 の 有 限 責 任 組 合 員 であること 2その 投 資 組 合 に 係 る 特 定 の 業 務 の 執 行 を 行 わないこと 3その 投 資 組 合 契 約 に 係 る 組 合 財 産 に 対 する 持 分 割 合 又 は 損 益 分 配 割 合 のいずれか 高 い 方 の 割 合 が 25 % 未 満 であること 4その 投 資 組 合 の 無 限 責 任 組 合 員 と 特 殊 の 関 係 のある 者 でな いこと 及 び 5 投 資 組 合 契 約 に 基 づいて 国 内 において 事 業 を 行 っていないとし たならば 国 内 に 恒 久 的 施 設 を 有 しない 外 国 法 人 に 該 当 することの 5 要 件 の 充 足 が 必 要 とされる)は 国 内 に 恒 久 的 施 設 を 有 しないものとみなされ( 改 正 措 法 67 の 16 1 改 正 措 令 39 の 33) 法 人 税 及 び 源 泉 所 得 税 の 納 税 義 務 を 有 しない( 改 正 法 法 141 二 ) 55) ⑵ 国 内 にある 資 産 の 運 用 又 は 保 有 による 所 得 2014 年 改 正 法 は 1962 年 法 に 定 める 国 内 にある 資 産 の 運 用 又 は 保 有 による 55) 赤 松 前 掲 注 1)トピックス 国 外 投 資 ファンドに 対 する 法 的 安 定 性 と 予 測 可 能 性 の 確 保 のための 一 連 の 税 制 改 正 参 照 404

赤 松 晃 帰 属 主 義 による 国 際 課 税 原 則 の 見 直 しの 意 義 と 機 能 ( 63 ) 所 得 のうち 1 債 券 利 子 等 ( 改 正 所 法 161 1 八 ) 2 配 当 等 ( 改 正 所 法 161 1 九 ) 3 貸 付 金 利 子 等 ( 改 正 所 法 161 1 十 ) 4 使 用 料 等 ( 改 正 所 法 161 1 十 一 ) 5 事 業 の 広 告 宣 伝 のための 賞 金 ( 改 正 所 法 161 1 十 三 ) 6 生 命 保 険 契 約 に 基 づ く 年 金 等 ( 改 正 所 法 161 1 十 四 ) 7 給 付 補 塡 金 等 ( 改 正 所 法 161 1 十 五 ) 及 び 8 匿 名 組 合 契 約 等 に 基 づく 利 益 の 分 配 金 等 ( 改 正 所 法 161 1 十 六 )で 恒 久 的 施 設 帰 属 所 得 に 該 当 するもの 以 外 のものは 所 得 税 の 源 泉 徴 収 のみで 日 本 での 課 税 関 係 を 終 了 させている( 改 正 法 法 138 1 二 カッコ 書 ) 従 って これらの 所 得 は 法 人 税 の 国 内 源 泉 所 得 の 範 囲 を 定 める 条 文 から 削 除 され 1962 年 法 の 2 層 構 造 の 問 題 は 解 消 されている 2014 年 改 正 法 は 国 内 にある 資 産 の 運 用 又 は 保 有 による 所 得 のうち 所 得 税 の 源 泉 徴 収 になじまないものが 法 人 税 の 課 税 モレとならないよう 次 の 所 得 を 法 人 税 の 申 告 対 象 国 内 源 泉 所 得 となる 国 内 にある 資 産 の 運 用 又 は 保 有 による 所 得 として 例 示 的 に 規 定 する( 改 正 法 令 177 改 正 法 基 通 20-2-7) 1 国 債 地 方 債 内 国 法 人 の 社 債 内 国 法 人 の CP(コマーシャル ペーパ) の 償 還 差 益 又 は 発 行 差 金 56) 2 居 住 者 の 業 務 に 係 るもの 以 外 の 貸 付 金 ( 消 費 者 ローン 自 動 車 ローンなどの 一 般 消 費 貸 借 )の 利 子 等 3 日 本 国 内 の 営 業 等 を 通 じて 締 結 した 生 命 保 険 契 約 等 ( 養 老 保 険 契 約 相 続 等 保 険 年 金 )に 基 づく 保 険 金 の 支 払 いを 受 ける 権 利 ⑶ 国 内 にある 資 産 の 譲 渡 による 所 得 2014 年 改 正 法 は 1962 年 法 に 定 める 14 種 類 の 国 内 にある 資 産 の 譲 渡 による 所 得 ( 法 令 177 2)を 見 直 し 資 産 の 譲 渡 所 得 に 対 する 課 税 権 は 原 則 として 居 住 地 国 にあるとする OECD モデル 租 税 条 約 13 条 (キャピタル ゲイン)に 整 合 57) させ 法 人 税 の 申 告 対 象 国 内 源 泉 所 得 となる 国 内 にある 資 産 の 譲 渡 によ 56) 振 替 国 債 振 替 地 方 債 特 定 振 替 社 債 等 及 び 民 間 国 外 債 の 利 子 償 還 差 益 等 は 政 策 的 に 法 人 税 も 源 泉 所 得 税 も 非 課 税 とされている( 措 法 5 の 2 5 の 3 6 41 の 12 9 67 の 17) 57) 安 河 内 = 山 田 前 掲 注 27)88 頁 405

64 一橋法学 第 14 巻 第 2 号 2015 年 7 月 る所得 を ①国内不動産の譲渡 ②国内不動産関連法人の株式等及び事業譲渡 類似の株式等の譲渡 並びに ③政令で定める資産の譲渡による所得に限定する 改正法法 138 ①三 改正法令 178 具体的には 次のとおり定める ① 国内にある不動産の譲渡による所得 改正法令 178 ①一 ② 国内にある不動産の上に存する権利等の譲渡による所得 改正法令 178 ① 二 ③ 国内にある山林の伐採又は譲渡による所得 改正法令 178 ①三 ④ 内国法人の発行する株式の譲渡による所得で次のもの 改正法令 178 ①四イ ロ ⅰ 買い集めた株式の譲渡による所得 ⅱ 事業譲渡類似株式の譲渡による所得 ⑤ 国内不動産関連株式の譲渡による所得 改正法令 178 ①五 ⑥ 国内にあるゴルフ場の所有等に係る法人の株式の譲渡による所得 改正法令 178 ①六 ⑦ 国内にあるゴルフ場等の利用権の譲渡による所得 改正法令 178 ①七 換言すれば 1962 年法では国内に恒久的施設を有する場合には当該恒久的施 設に帰属しなくとも法人税の納税義務の対象となる一方で 恒久的施設を有しな い場合には法人税の納税義務の対象外とされていた特定の所得 法法 138 一 141 一 三 四イ 法令 177 ② 187 ① 法基通 20-2-12 を 2014 年改正法は 国内にある資産の譲渡による所得 から除くことで 課税管轄権 ソースルー ル を国際租税原則と整合させている 改正法法 138 ①三 改正法令 178 ① なお 恒久的施設の譲渡による所得は恒久的帰属所得と明示的に定める 改正法 法 138 ①一 Ⅴ 結論と展望 OECD モデル租税条約 新 7 条 に定める帰属主義を受容した 2014 年改正法 は 以下に要約するとおり 支店と子会社の進出形態に関する税制中立性を可能 な限り確保するとともに 国際二重課税 二重非課税を排除する仕組みを整備し 406

赤 松 晃 帰 属 主 義 による 国 際 課 税 原 則 の 見 直 しの 意 義 と 機 能 ( 65 ) ている かかる 法 整 備 により 対 日 投 資 の 促 進 が 期 待 されている 58) ⑴ 恒 久 的 施 設 を 通 じた 事 業 に 帰 属 する 所 得 ( 恒 久 的 施 設 帰 属 所 得 )に 限 り 内 国 法 人 と 同 様 に 法 人 税 の 納 税 義 務 を 負 うと 定 める 一 方 で 恒 久 的 施 設 帰 属 所 に 係 る 第 三 国 との 国 際 二 重 課 税 排 除 のための 外 国 税 額 控 除 制 度 を 創 設 ⑵ 恒 久 的 施 設 帰 属 所 得 に 係 る 所 得 は 内 国 法 人 の 各 事 業 年 度 の 所 得 に 対 する 法 人 税 の 課 税 標 準 及 びその 計 算 に 関 する 規 定 に 準 じて 計 算 するが 独 立 企 業 原 則 に 従 った 課 税 所 得 が 算 定 されるよう 別 段 の 定 めを 規 定 する 適 法 かつ 適 正 な 計 算 の 前 提 として 外 部 取 引 内 部 取 引 及 び 本 店 配 賦 経 費 に 関 する 文 書 化 を 義 務 づけ る 恒 久 的 施 設 帰 属 所 得 のうち 特 定 の 投 資 所 得 は 徴 税 の 便 宜 から 支 払 者 に 所 得 税 の 源 泉 徴 収 義 務 が 課 されているが 一 定 の 要 件 を 充 足 する 場 合 は 源 泉 所 得 税 が 免 除 59) され キャッシュフローにおいて 内 国 法 人 と 同 等 となる ⑶ 本 店 等 の 国 内 にある 資 産 の 運 用 又 は 保 有 による 所 得 のうち 国 内 にあ る 恒 久 的 施 設 に 帰 属 しないものは 所 得 税 の 源 泉 徴 収 で 日 本 の 課 税 関 係 が 終 了 す ることを 原 則 とするが 所 得 の 性 質 上 源 泉 徴 収 になじまないものを 法 人 税 の 申 告 対 象 国 内 源 泉 所 得 と 規 定 することで ボーダレスに 展 開 する 先 端 的 な 投 資 活 動 から 生 ずる 所 得 に 対 する 日 本 の 課 税 権 を 適 正 に 確 保 ⑷ 本 店 等 の 国 内 にある 資 産 の 譲 渡 による 所 得 のうち 国 内 にある 恒 久 的 施 設 に 帰 属 しないものについての 法 人 税 の 納 税 義 務 の 範 囲 を 国 際 租 税 原 則 と 整 合 する 申 告 対 象 国 内 源 泉 所 得 として 規 定 60) ⑸ 恒 久 的 施 設 に 帰 属 しない 本 店 等 による 人 的 役 務 の 提 供 事 業 の 対 価 及 び 国 内 不 動 産 等 の 貸 付 料 等 を 従 前 のとおり 法 人 税 の 申 告 対 象 国 内 源 泉 所 得 と 規 定 61) ⑹ 課 税 モレとなる 国 内 源 泉 所 得 が 生 じないよう そのほかその 源 泉 が 国 内 に 58) 財 務 省 主 税 局 参 事 官 前 掲 注 33)3 頁 59) 組 合 員 である 法 人 にあっては 組 合 契 約 に 基 づいて 行 う 事 業 に 係 る 恒 久 的 施 設 以 外 の 恒 久 的 施 設 に 帰 せられるものに 限 られる( 改 正 所 法 180 1) 60) 従 前 より 徴 収 の 確 保 の 観 点 から 一 定 の 不 動 産 の 譲 渡 対 価 の 支 払 者 に 所 得 税 の 源 泉 徴 収 義 務 を 課 している( 改 正 所 法 161 1 五 212 1 213 1 二 ) 61) 従 前 より 徴 収 の 確 保 の 観 点 から 人 的 役 務 の 提 供 事 業 の 対 価 ( 改 正 所 法 161 1 六 212 1 213 1 一 改 正 措 法 42) 及 び 国 内 不 動 産 等 の 貸 付 料 等 ( 改 正 所 法 161 1 七 212 1 213 1 一 )の 支 払 者 に 所 得 税 の 源 泉 徴 収 義 務 を 課 している 407

( 66 ) 一 橋 法 学 第 14 巻 第 2 号 2015 年 7 月 ある 所 得 を 法 人 税 の 申 告 対 象 国 内 源 泉 所 得 の catch all clause として 規 定 ⑺ 外 国 法 人 の 日 本 における 納 税 義 務 を 恒 久 的 施 設 帰 属 所 得 とそれ 以 外 の 申 告 対 象 国 内 源 泉 所 得 の 二 区 分 とし これらの 所 得 を 通 算 しないと 規 定 することで 損 益 操 作 の 可 能 性 を 排 除 ⑻ 課 税 管 轄 権 (ソースルール)に 関 し 国 内 法 と 租 税 条 約 の 定 めが 異 なる 場 合 は 租 税 条 約 の 定 めるところによるとの 従 前 からの 規 定 に 加 えて 新 7 条 に 定 める 帰 属 主 義 を 受 容 した 2014 年 改 正 法 と 旧 7 条 型 の 租 税 条 約 との 調 整 に 関 する 規 定 を 新 たに 定 め 国 内 法 と 租 税 条 約 のミスマッチを 防 止 ⑼ 同 一 法 人 内 部 での 機 能 資 産 リスクの 帰 属 の 操 作 による 租 税 回 避 を 包 括 的 に 防 止 する 外 国 法 人 の 恒 久 的 施 設 帰 属 所 得 に 係 る 行 為 又 は 計 算 の 否 認 を 規 定 ⑽ 外 国 法 人 に 対 する 日 本 の 課 税 が 当 該 外 国 法 人 の 本 店 所 在 地 国 と 日 本 との 間 の 租 税 条 約 の 規 定 (7 条 を 含 む)に 抵 触 する 場 合 日 本 の 国 内 救 済 手 続 き( 争 訟 )とは 別 に 相 互 協 議 の 申 立 てを 当 該 本 店 所 在 地 国 の 権 限 のある 当 局 にするこ とができる 2014 年 改 正 法 は 平 成 28(2016) 年 4 月 1 日 以 後 に 開 始 する 事 業 年 度 の 法 人 税 から 適 用 されるが 実 務 上 の 要 請 執 行 可 能 性 条 約 交 渉 等 のさまざまな 観 点 か ら 今 後 も 不 断 の 見 直 しを 行 っていく 必 要 がある 62) とされている 以 上 62) 財 務 省 主 税 局 参 事 官 前 掲 注 33)4 頁 408