自 動 車 ボディへのレーザ 溶 接 適 用 日 産 自 動 車 株 式 会 社 車 両 技 術 開 発 試 作 部 森 清 和 自 動 車 ボディは 軽 量 化 構 造 合 理 化 やコスト 削 減 などのニーズに 対 応 するため 多 様 な 溶 接 技 術 が 用 いられている そのなかでもレーザ 溶 接 は 1980 年 代 からテーラードブランク 連 続 一 方 向 溶 接 リモート 溶 接 ブレージングへと 様 々な 応 用 がなされてきた それらは 新 しいレーザ 発 振 器 や 加 工 技 術 の 進 歩 により 段 階 的 に 新 しい 加 工 応 用 技 術 として 実 用 化 されてきている 本 報 告 では 自 動 車 ボディの 構 造 と 材 料 の 動 向 を 解 説 し 各 社 のレーザ 加 工 応 用 の 事 例 の 分 析 を 行 った 後 それ ぞれの 加 工 事 例 の 技 術 的 な 特 徴 を 解 説 する 1.はじめに 1.1 自 動 車 ボディに 用 いられる 材 料 自 動 車 ボディは 軟 鋼 板 をプレスしてスポット 溶 接 で 組 み 立 てることを 基 本 的 な 生 産 技 術 としてき た そのうえで ボディの 強 度 や 剛 性 の 向 上 燃 費 向 上 や 運 動 性 能 向 上 を 目 的 とした 軽 量 化 等 のニー ズに 答 えるために 構 造 合 理 化 工 法 開 発 材 料 開 発 が 連 携 して 進 められている 図 1は 自 動 車 ボディの 一 例 として 日 産 リーフの 材 料 構 成 を 表 したものである 1) 図 中 の 薄 いブ ルーで 示 されている 部 分 は 引 張 強 度 で270MPa 程 度 の 軟 鋼 (Mild steel)である この 車 種 では 重 量 比 で50% 以 下 である 濃 いブルーとピンクで 示 された 部 位 は 高 張 力 鋼 板 (ハイテン:HSS/High Strength Steel, 高 強 度 ハイテンAHSS/Advanced High Strength Steel)である 紫 で 示 された 部 分 は 超 ハイテン(UHSS/Ultra High Strength Steel)と 分 類 され 980MPa 級 のプレス 材 料 や プ レスと 同 時 に 焼 き 入 れするダイクエンチ 材 ( 熱 間 プレス PHS/Press Hardened Steel またはボ ロン 鋼 とよばれることもある)が 主 な 鋼 種 であり その 比 率 はこの 車 種 では10%を 超 えている 超 ハイテンは 強 度 や 使 用 部 位 がさらに 増 加 しており 例 えば2013 年 度 に 発 表 された 日 産 Infinity Q50 では1180MPa(1.2GPa) 材 が 採 用 されている 2) 鋼 材 以 外 の 軽 量 化 材 料 としては アルミ 合 金 がカバー 部 品 (ドアやフード トランクリッドのよ うに 開 閉 する 部 品 )を 中 心 に 用 いられている 図 1ではアルミ 合 金 部 品 は 緑 色 で 表 現 されており 約 10%を 占 めている また 欧 州 車 を 中 心 に 少 数 ではあるが ボディの 主 要 構 成 部 品 をすべてアルミ 合 金 にした いわゆるオールアルミ 車 体 も 生 産 されている さらに AudiのTTやBenzのSクラス 1
のようにスチールとアルミ 合 金 を 一 台 のボディ 骨 格 の 中 で 使 い 分 けたマルチマテリアル 車 体 も 登 場 している 3) さらなる 軽 量 化 を 目 指 してCFRPをボディの 骨 格 構 造 に 用 いた 例 も 登 場 し 始 めた 2013 年 秋 には BMW i3がアルミ 合 金 のフレームとCFRPのキャビンの 組 み 合 わせとして 発 表 されている 3) 図 1 自 動 車 ボディの 材 料 構 成 の 例 ( 日 産 リーフ) 1) 1.2 自 動 車 ボディの 接 合 工 法 ボディの 材 料 が 多 様 化 していくにつれ 接 合 工 法 も 多 くの 種 類 が 用 いられている 現 在 用 いら れている 主 な 接 合 工 法 を 図 2に 示 す 材 料 を 溶 かし 合 わせる 融 接 のグループではスポット アー ク プラズマ レーザの 各 接 合 法 が 用 いられる ろう 接 としては 主 に 銅 系 のろう 材 をワイヤ 供 給 し MIGアーク レーザ プラズマが 熱 源 として 用 いられる 圧 接 機 械 的 接 合 では アルミ 合 金 やス チールとアルミ 合 金 の 異 材 接 合 において さまざまな 種 類 が 用 いられている 接 着 のグループでは 強 度 剛 性 を 目 的 にした 構 造 接 着 や 防 錆 目 的 のシーラーなどが 用 いられている 図 2 自 動 車 ボディの 主 な 接 合 工 法 2
1.3 典 型 的 な 自 動 車 ボディでの 接 合 技 術 採 用 例 接 合 工 法 によって 接 合 部 形 状 が 点 状 や 線 状 と 異 なるので 各 接 合 工 法 の 使 用 比 率 を 量 的 に 比 較 するには 換 算 が 必 要 である 表 1はドイツのACI(Automotive Circle International)が 定 義 した スポット 換 算 打 点 :WSE(WeldSpot Equivalents )である ACIが 主 催 するシンポジウムである Euro Car BodyおよびEALA(European Automotive Laser Application)では 各 社 が 公 表 したボディ 接 合 に 用 いられたWSEを 公 表 している このデータを 基 に, 特 徴 的 な 車 両 の 接 合 技 術 採 用 割 合 を 著 者 が 加 工 したものを 図 3に 示 す 3) 表 1 スポット 換 算 打 点 の 定 義 (ACI * による) 図 3 車 体 種 類 と 接 合 技 術 3) このように 絶 対 値 にとらわれずに 概 観 すると,いくつかの 特 徴 点 が 見 られる 図 3の 左 側 に 示 し たスチールベースのボディでは スポット 溶 接 が7 割 から9 割 を 占 め 次 いで 接 着 が 多 い レーザ 溶 接 は10% 程 度 で 自 動 車 メーカごとの 採 用 比 率 に 大 きなばらつきがあり ドイツ 車 の 採 用 量 が 多 い オールアルミ 車 やマルチマテリアル 車 体 ではスポット 溶 接 の 比 率 は 小 さく 接 着 やリベットの 比 率 が 大 きくなることがわかる CFRPベースのボディでは 接 着 が 中 心 であり レーザ 溶 接 が 用 いら れているのはアルミ 合 金 のフレーム 部 である 3
このように 自 動 車 ボディに 用 いられる 接 合 工 法 は ボディの 材 料 メーカごとの 考 え 方 の 違 いに よって 特 徴 があることがわかる 以 降 はこの 中 で レーザを 用 いた 接 合 にフォーカスして 解 説 する 2. 自 動 車 ボディに 用 いられるレーザ 加 工 技 術 4)6)7) 2.1 レーザ 加 工 の 適 用 の 経 緯 図 4に 自 動 車 ボディに 用 いられているレーザ 接 合 技 術 を 年 代 ごとに 並 べて 示 す エンジン 変 速 機 サスペンションといったパワートレイン 部 品 や 切 断 マーキングのような 接 合 以 外 の 加 工 は 除 いた レーザ 溶 接 の 自 動 車 ボディへの 採 用 は,1990 年 代 初 め 頃 から 先 ず 平 板 の(つまりは2 次 元 の)テー ラードブランク 溶 接 で 始 まった その 後 に 抵 抗 スポット 溶 接 の 代 替 としての 三 次 元 レーザ 溶 接 が 採 用 され 始 めた 2000 年 代 半 ばになるとリモート 溶 接 が 採 用 され 始 めてきている このような 適 用 事 例 の 経 緯 はレーザ 発 振 器 の 進 歩 と 関 連 が 深 い すなわち 鋼 材 の 高 速 溶 接 可 能 な 数 kwクラスのco 2 レーザの 開 発 と 共 にテーラードブランク 溶 接 が 開 発 された kwクラスの YAGレーザが 開 発 されると 光 ファイバー 導 光 が 可 能 となりロボットと 組 み 合 わせて 車 体 の3 次 元 溶 接 が 開 発 された さらに 集 光 性 能 が 良 く500mmを 超 えるような 長 焦 点 距 離 でも 溶 接 が 可 能 な ファイバーレーザが 開 発 されると リモートレーザが 実 用 化 された これらの 代 表 的 な 加 工 事 例 について 次 項 以 降 で 解 説 する 図 4 自 動 車 ボディへのレーザ 接 合 適 用 経 緯 2.2 テーラードブランク 溶 接 図 5に 自 動 車 車 体 のパネル 部 品 の 平 板 状 態 の 素 材 (ブランク 材 )を 突 き 合 わせ 溶 接 し 一 体 でプ レス 成 形 するいわゆるテーラードブランク 工 法 を 示 す 図 6に 示 すドアインナーでは 強 度 の 必 要 な ヒンジ 部 分 の 板 厚 を 大 きくすることにより 効 率 的 な 補 強 が 可 能 となり 部 品 の 軽 量 化 が 図 れてい る センターピラーレインフォースでは 大 きな 力 が 加 わった 際 に 変 形 を 小 さくしたい 上 部 と エ ネルギ 吸 収 をさせたい 下 部 で 違 う 鋼 種 を 接 合 して 一 体 でプレスしている 4
図 5 テーラードブランク工法 図 6 テーラードブランクの部品例 2 3 車体の3次元溶接 図7にボディへレーザ溶接が採用されている部位を示す ルーフ部はレーザ溶接の一方向から しかも狭い溝の中を溶接できるという スポット溶接では不可能な構造的なメリットを得るために 採用されている 図 7 車体の 3 次元レーザ溶接事例 5
ボディシル 部 のレーザ 溶 接 の 狙 いは ねじり 剛 性 向 上 である 良 く 知 られているように 単 純 な 閉 断 面 のフランジを 抵 抗 スポット 溶 接 した 場 合 には スポット 間 のピッチを 小 さくしていくとねじ り 剛 性 が 増 大 する しかしスポット 溶 接 では 既 打 点 への 分 流 によりピッチを 小 さくする 限 界 がある レーザ 溶 接 の 場 合 は 連 続 的 に 溶 接 可 能 なので 限 界 に 近 い 捩 じり 剛 性 値 が 期 待 できる 実 際 にはフ ランジのどの 部 位 ( 縦 壁 に 近 い 位 置 かフランジ 端 部 に 近 い 位 置 か)によって 剛 性 が 向 上 する 割 合 は 大 きく 影 響 を 受 け 数 %から 十 数 %の 幅 がある 図 8はリア シートバックのレーザ 溶 接 部 を 示 している 板 組 みの 変 化 部 を 除 いて200mmから300mmのビードを 連 続 して 接 合 している 図 8 リア シートバック 部 のレーザ 溶 接 適 用 事 例 2.4 リモートレーザ 6) 図 9にリモートレーザ 溶 接 工 法 を 示 す レーザ 溶 接 は 一 方 向 溶 接 や 剛 性 向 上 といったメリットが ある 反 面 板 間 の 隙 間 の 管 理 やコスト 等 の 大 きな 課 題 が 存 在 する ここではレーザ 溶 接 採 用 による コストメリット 増 大 の 可 能 性 としてリモートレーザ 技 術 が 開 発 された リモートレーザは 最 近 入 手 可 能 となった 集 光 性 能 の 良 いレーザ 発 振 器 を 用 いて 図 9に 示 すように 焦 点 距 離 を 従 来 の200mm 程 度 を 数 倍 大 きくし 500から1000mm 程 度 の 集 光 光 学 系 を 用 いてレーザ 溶 接 する 焦 点 距 離 が 大 きく なると 光 路 中 に 可 変 ミラー(ガルバノミラー)を 置 くことが 可 能 となりミラーの 角 度 変 更 により 瞬 時 に 照 射 位 置 を 移 動 することが 出 来 る これによって レーザ 溶 接 時 間 そのものは 変 らないものの 次 の 溶 接 点 までの 空 走 時 間 がこれまでのロボット 全 体 が 移 動 していたのに 比 べてけた 違 いに 小 さく 出 来 る 図 10はリモートレーザ 溶 接 の 事 例 である リモートレーザ 溶 接 技 術 は 現 在 も 開 発 中 の 技 術 であり 様 々なシステム 構 成 が 提 案 されている 6
図 9 リモート 溶 接 工 法 ロボットによるリモートレーザ 図 10 リモート 溶 接 の 事 例 2.5 レーザブレージング レーザブレージングは 亜 鉛 めっき 鋼 板 同 士 の 接 合 の 場 合 銅 を 主 成 分 としたワイヤ( 融 点 は 1000 強 )をレーザで 溶 融 させ スチールパネル( 融 点 は1500 強 )は 溶 かさずにろう 付 けにより 接 合 する 技 術 である 接 合 条 件 を 適 切 にコントロールすると そのまま 塗 装 して 外 板 面 にキャラク タラインとして 通 用 するほどの 安 定 した 見 栄 えのビードが 得 られる 図 11はボディサイドとルーフ の 接 合 の 概 観 と その 断 面 写 真 である 分 割 線 をなめらかに 見 せることが 可 能 となっている レー ザブレージングの 課 題 は 接 合 条 件 の 変 化 が 外 観 品 質 の 変 化 になることである 例 えば 形 状 変 化 部 で 加 工 速 度 を 減 速 したり 再 加 速 したりするとビード 幅 が 変 化 し 接 合 強 度 には 影 響 が 少 ないものの 外 観 品 質 は 大 きく 影 響 する 7
図 11 レーザブレージングの 適 用 事 例 3. 将 来 動 向 図 12にボディのレーザ 加 工 に 関 するレーダーチャートを 示 す 扇 形 の 中 心 を 現 在 として 外 側 にど のような 技 術 が 予 想 されるかを 示 している これまで 見 てきたようないくつかのトレンドがある まず レーザ 発 振 器 そのものの 開 発 は 継 続 しており 高 輝 度 で 高 出 力 小 型 で 低 コストな 発 振 器 が 実 用 化 されると 予 想 される それらの 新 開 発 された 発 振 器 や スキャナ 光 学 系 などの 周 辺 機 器 の 開 発 により さらに 新 しい 適 用 事 例 が 生 まれていくものと 考 えられる それらの 開 発 の 動 機 は さら なる 軽 量 化 のための 新 材 料 新 構 造 のニーズである さらに EV(Electric Vehicle: 電 気 自 動 車 ) やFCV(Fuel Cell Vehicle: 燃 料 電 池 車 ) HEV(Hybrid Electric Vehicle:ハイブリッド 車 )といっ た 自 動 車 の 電 動 化 技 術 の 進 展 に 伴 い これまでになかったようなレーザ 加 工 のニーズがさらに 出 て くるものと 思 われる 図 12 レーザ 加 工 のテクノロジー レーダー 8
参 考 文 献 1) 寺 島 武 志 Nissan LEAF, ACI, Euro Car Body 2011 2)Nissan Newsroom, 日 産 超 高 張 力 鋼 板 で 軽 量 化 に 挑 戦, YouTube : http://www.youtube.com/watch?v=_vnrrromfkc&feature=share&list=pleqxtnh_xp7pog5rwbeegrmiwolbyd54&index=31 3)Euro Car Body,ACI, 2002 ~ 2013 4) 森 自 動 車 製 造 におけるレーザ 加 工 技 術 の 応 用 事 例 と 展 望 第 71 回 応 用 物 理 学 会 シンポジウム, 2010 5) 吉 川 森 ら Development of New Remote Welding for All Closure Assembly, ACI, EALA2011 6) 森 樽 井 ら Quality assurance technique for body laser welding, ACI, EALA2012 7) 森 欧 州 自 動 車 業 界 のレーザ 加 工 動 向 レーザ 加 工 学 会 第 80 回 大 会 2013 < 略 歴 > 1980 年 大 阪 大 学 工 学 部 溶 接 工 学 科 卒 業 1980 年 日 産 自 動 車 ( 株 ) 入 社 試 作 部 配 属 1997 年 大 阪 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 より 博 士 ( 工 学 ) 取 得 2007 年 車 両 技 術 開 発 試 作 部 エキスパートリーダー 現 在 に 至 る 9