日 本 大 学 大 学 院 総 合 社 会 情 報 研 究 科 紀 要 No.10, 23-30 (2009) 企 業 通 貨 における 電 子 マネーの 現 状 と 将 来 性 安 岡 寛 道 日 本 大 学 大 学 院 総 合 社 会 情 報 研 究 科 The Present and the Future of Electronic Money in Enterprise Currencies YASUOKA Hiromichi Nihon University, Graduate School of Social and Cultural Studies Electronic money and mileage points are called Enterprise currencies. This paper surveys the present market of electronic money, and analyzes the possibilities and problems therein. The total annual value of electronic money issued in Japan in 2008 was over 1 trillion yen. Electronic money, together with the spread of credit cards and mileage points, are likely responsible for a fall in the amount of cash in circulation. Some foreign countries also make use of electronic money in their traffic systems, however, the Japanese traffic system uses significantly more electronic money than those of other countries. This paper will also consider the future possibilities for electronic money. 1.はじめに 企 業 通 貨 とは 発 行 企 業 以 外 でも 利 用 できるポイ ントやマイレージといった 電 子 的 価 値 媒 体 に Edy や Suica といった 電 子 マネーを 加 えた 疑 似 的 な 通 貨 のことをいう 企 業 通 貨 のうち 特 に 消 費 者 向 けの 電 子 マネーに 関 して 過 去 の 研 究 には Mondexなどの 失 敗 研 究 や ICカードを 用 いたサービス ビジネス 1 2 3 4 5 IC 付 携 帯 電 話 の 技 術 関 連 6 7 地 域 通 貨 8 消 費 者 意 識 の 研 究 9 などが 存 在 する また ポイント マイレージとの 比 較 研 究 10 11 12 13 もあるが 未 だ 多 くは 無 い しかし 金 融 を 絡 めた 法 律 関 連 が 最 近 は 増 えている 14 15 16 なお 日 本 の 企 業 通 貨 の 市 場 が 拡 大 し 注 目 を 浴 びていたのに 対 して 2007 年 2 月 に 経 済 産 業 省 が 企 業 ポイント 研 究 会 と 称 して 私 的 研 究 会 を 立 ち 上 げ 2007 年 7 月 初 旬 に 報 告 書 をまとめた 17 ここで は ポイント マイレージと 電 子 マネーの 区 分 を 明 確 にしている ポイントとは 主 たる 取 引 に 付 随 し て 景 品 おまけとして 発 行 される ものであり 電 子 マネーは イシュアー( 発 行 主 体 )が 電 子 マネー という 価 値 を 発 行 し 消 費 者 ( 利 用 者 )がその 価 値 に 応 じた 対 価 を 支 払 い 購 入 する ものであるとされ ている さらに 翌 年 度 には 消 費 者 保 護 に 向 けた ガイドラインも 示 された 18 一 方 で 金 融 庁 ( 金 融 研 究 研 修 センター)の 決 済 に 関 する 研 究 会 では 電 子 マネーのみならず ポイント マイレージに 関 しても 決 済 手 段 の 一 つ と 考 え 中 間 報 告 をまとめた 19 さらに 翌 年 度 の 金 融 審 議 会 では 電 子 マネーのサーバタイプは 消 費 者 保 護 の 制 度 が 全 く 無 かったが 媒 体 タイプと 同 様 にするという 今 後 の 法 整 備 に 向 けた 方 向 性 が 示 された 20 企 業 通 貨 のポイントと 電 子 マネーの 違 いは その 価 値 の 入 と 出 および 役 割 で 整 理 すると 図 1 のようになる 11 さらに 現 状 の 法 律 や 制 度 を 整 理 すると 図 2のよ うになり 包 括 的 なものが 無 く 特 にポイントの 消 費 者 保 護 の 視 点 が 欠 けている 10 11
企 業 通 貨 における 電 子 マネーの 現 状 と 将 来 性 企 業 通 貨 複 数 企 業 にまたがる ポイント マイレージ 電 子 マネー 価 値 の 入 口 原 資 負 担 者 価 値 の 性 質 企 業 販 促 費 広 告 費 消 費 者 決 済 代 金 価 値 の 出 口 特 典 の 引 換 決 済 ( 購 入 ) 情 報 取 得 行 動 購 買 履 歴 を 取 得 主 な 役 割 囲 い 込 み きめ 細 かい 施 策 図 1: 企 業 通 貨 の 主 な 価 値 と 役 割 購 買 履 歴 を 取 得 全 員 共 通 の 施 策 使 用 範 囲 広 い 狭 い 現 在 の 適 用 される 規 制 分 類 扱 い 消 費 者 保 護 競 争 政 策 会 計 処 理 電 子 マネー プリペイド ( 媒 体 タイプ) カード 電 子 マネー 未 定 義 (サーバー 上 記 と ( 個 人 情 報 保 護 法 ) タイプ) 同 様 へ 図 2: 現 状 の 企 業 通 貨 の 法 律 と 制 度 発 行 法 人 が 財 務 局 に 登 録 未 使 用 残 高 の 半 額 を 供 託 (プリペイドカード 法 ) ( 個 人 情 報 保 護 法 ) なし 発 行 時 に 売 上 計 上 し 使 用 時 に 原 価 計 上 or 発 行 時 に 預 かり 金 計 上 し 使 用 時 に 取 り 崩 し ( 会 計 原 則 ) 発 行 できるポイント 発 行 時 に 想 定 利 用 額 は 他 の 景 品 と 合 計 を 引 き 当 て 共 通 ポイント 景 品 ( 個 人 情 報 保 護 法 ) で 取 引 価 額 の20% ( 会 計 原 則 ) ( 流 通 する) 以 内 ( 景 品 表 示 法 ) 発 行 できるポイント 発 行 時 に 想 定 利 用 額 自 社 ポイント は 売 値 と 原 価 の 差 を 引 き 当 て 値 引 ( 個 人 情 報 保 護 法 ) ( 流 通 しない) 分 以 内 ( 会 計 原 則 ) ( 独 占 禁 止 法 ) 2. 企 業 通 貨 における 電 子 マネー 市 場 の 現 状 2.1 電 子 マネー 市 場 の 拡 大 日 本 銀 行 が 2006 年 4 月 4 日 に 発 表 した 2006 年 3 月 のマネタリーベースによると 硬 貨 の 流 通 量 が 前 年 同 月 比 で 0.04% 減 少 した これは 1971 年 からの 統 計 調 査 史 上 初 めての 出 来 事 である また 貨 幣 全 体 としても 流 通 量 は 2005 年 7 月 から 減 少 し 始 めて いる この 原 因 の 一 つに 電 子 マネーも 絡 んでいるだ ろう この 電 子 マネーは 企 業 通 貨 のもう 一 方 のポイン ト マイレージに 比 べて 決 済 手 段 の 色 彩 が 強 い リアルな 媒 体 をようする 電 子 マネーは 法 的 には 図 2 の 通 り プリペイドカードの 位 置 付 けであり 事 業 者 は 発 行 額 の 半 分 を 供 託 する 必 要 がある 億 円 40,000 30,000 20,000 10,000 0 31,444 27,965 7,457 23,782 6,422 19,480 5,134 14,378 3,770 10,457 2,493 23,987 21,543 6,517 1,613 18,648 1,754 15,710 691 11,885 8,844 332 1,422 5,826 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 年 度 ( 出 所 ) 野 村 総 合 研 究 所 推 計 から 抜 粋 非 接 触 ICクレジット 非 接 触 IC 電 子 マネー 図 3: 電 子 マネー( 非 接 触 型 IC)の 年 間 利 用 額 推 移 24
安 岡 寛 道 表 1: 主 な 電 子 マネーの 発 行 状 況 (2008 年 4 月 末 時 点, 但 し 一 部 それ 以 前 のデータ 含 ) ( 出 所 ) 新 聞 報 道 等 の 数 値 より 作 成 事 業 者 独 立 系 鉄 道 系 流 通 系 項 目 利 用 人 数 ( 万 人 ) 携 帯 媒 体 ( 万 台 内 数 ) 決 済 件 数 ( 万 件 / 月 ) 平 均 決 済 金 額 ( 推 定, 円 / 件 ) 決 済 金 額 ( 推 定, 億 円 / 月 ) 店 舗 数 ( 万 台 ) Edy (ビットワレット) Suica (JR 東 日 本 ) PASMO ( 関 東 の 私 鉄 ) ICOCA (JR 西 日 本 ) nanaco (7&i(IYC)) WAON (イオン) 3,960 2,177 870 368 576 422 610 107 無 し 無 し 55 有 り 2,400 2,074 526 66 2,800 620 600 300 300 200 800 1,000 144 62 16 1.3 224 62 7.4 4.7 4.1 1.9 2.5 この 市 場 規 模 は 利 用 額 で 見 ると 図 3の 通 り 2007 年 度 には5,800 億 円 を 超 えた 特 に2007 年 度 は PASMO nanaco WAONの 登 場 により SuicaやEdy などに 加 えて 規 模 が 拡 大 した さらに 2008 年 度 には 8,800 億 円 を 超 えた 模 様 である 電 子 マネーは 狭 義 には 非 接 触 IC 電 子 マネー(プ リペイド 型 )のみであるが 非 接 触 ICクレジット(ポ ストペイ 型 のJCBのクイックペイ ドコモ( 三 井 住 友 カード)のiD 三 菱 UFJニコスのVisa Touch(Smart Plus))の 市 場 も 含 める 場 合 もある これらのポイト ペイ 型 の 非 接 触 ICクレジット 決 済 は クレジットカ ード 会 社 が 中 心 となって 推 進 しているが 利 用 者 は あまり 伸 びておらず プリペイド 型 のICカードやIC 付 携 帯 電 話 による 利 用 額 が 多 い これらのプリペイド 型 の 電 子 マネーを 発 行 運 営 する 事 業 者 は 全 て 非 金 融 系 から 発 生 している つ まり 金 融 業 とは 異 なる 事 業 者 である 新 しい 分 野 であり 法 整 備 が 整 っていない 未 開 拓 な 領 域 には 利 用 者 に 近 い 業 種 が 向 いているようである これら の 事 業 者 がビジネスモデルを 創 意 工 夫 し 世 界 に 類 を 見 ないほど 普 及 させた しかし 電 子 マネー 単 体 での 収 益 では 成 功 してい るとは 言 い 難 い また 現 在 の 電 子 マネーは ポス トペイ 型 も 含 めて リーダーライター( 読 取 機 )が 各 社 でバラバラである これは クレジットカード が 普 及 した 当 初 と 似 ているが 乱 立 は 市 場 拡 大 への 阻 害 要 因 でもある 主 な 電 子 マネーにおける 利 用 人 数 決 済 件 数 金 額 などの 規 模 を 表 1に 示 す この 表 の 通 り 利 用 人 数 はEdyが 多 いが 決 済 件 数 は2007 年 に 開 始 したnanaco が 上 回 る これは 約 1 万 2 千 店 舗 のセブンイレブン のような 利 用 場 所 があり 小 額 決 済 に 向 いているの も 要 因 と 考 えられる このように プリペイド 型 電 子 マネーの 利 用 者 は 既 に8,500 万 人 にのぼり ポストペイ 型 は 同 時 期 にお いて 1,200 万 人 に 到 達 している 従 って 一 人 で 複 数 枚 も 所 有 する 者 も 多 いとは 言 え 延 べ 人 数 では1 億 人 に 手 が 届 く 状 況 であり ポイント 制 度 と 共 に 生 活 に 欠 かせないものとなってきた 2.2 電 子 マネー 市 場 の 企 業 提 携 既 にポイントから 電 子 マネーへの 交 換 は 既 に 多 くのサービスで 取 り 入 れられている 電 子 マネーやポイント 電 子 マネーの 企 業 通 貨 を 25
企 業 通 貨 における 電 子 マネーの 現 状 と 将 来 性 めぐる 提 携 を 図 示 すると 回 路 図 のように 複 雑 にな る これらの 企 業 間 の 提 携 は 2003 年 頃 から 航 空 会 社 が 提 携 企 業 とのマイレージ 交 換 や 付 与 を 増 やし たことから ここ 数 年 で 急 激 に 発 展 した こういっ た 企 業 提 携 は 資 本 関 係 を 結 ばなくとも 可 能 であり 航 空 会 社 以 外 も 盛 んに 行 われている 一 方 で TSUTAYA とローソンが 一 昨 年 度 末 に 解 消 したよう に 一 部 は 既 に 解 消 されている 提 携 関 係 の 図 は 各 種 の 雑 誌 や 書 籍 に 掲 載 されているが 図 4 のよう に 概 要 を 表 すことができる 三 菱 東 京 UFJ 銀 行 大 丸 ローソン Yahoo! 東 急 図 4: 企 業 通 貨 をめぐる 提 携 ( 概 要 ) WAON PASMO 相 互 利 用 JAL( 日 本 航 空 ) Suica ネットマイル ビックカメラ クレジットカード 会 社 ビューカード Gポイント ANA( 全 日 本 空 輸 ) ( 出 所 ) 各 社 のプレスリリース 等 から 作 成 以 上 のように 現 在 の 日 本 国 内 のポイント マイ レージ 市 場 における 企 業 提 携 は 航 空 会 社 の 日 本 航 空 (JAL)と 全 日 本 空 輸 (ANA)を 中 心 に 提 携 が 行 われており 電 子 マネーも Suica(JR 東 日 本 )と Edy (ビットワレット)がそれぞれで 交 換 できるように なっている つまり 大 きく 2 陣 営 に 分 かれている とも 言 える 3. 電 子 マネーの 発 展 状 況 3.1 国 内 の 発 展 領 域 日 本 国 内 において1990 年 代 に 海 外 事 業 者 の Mondexや 国 内 の 銀 行 系 の 電 子 マネーの 実 証 実 験 が 行 われたが 決 済 機 能 が 提 供 されるのみで 消 費 者 のメリットが 乏 しいことが 主 な 要 因 で 失 敗 した その 後 鉄 道 事 業 者 と 小 売 事 業 者 が 先 に 示 した 通 り 本 業 のメリットと 組 み 合 わせて 積 極 的 に 推 進 したことで 電 子 マネーが 普 及 した 電 子 マネーの 種 類 は 増 加 しており 特 に 鉄 道 系 が 多 い 福 岡 を 中 心 とした 西 日 本 鉄 道 がIC 乗 車 券 のみならず 電 子 マ Edy TSUTAYA nanaco 楽 天 電 子 マネー ポイント みずほ 銀 行 新 日 本 石 油 東 京 電 力 マツモトキヨシ ヤマダ 電 機 ネーでの 利 用 も 始 めた 既 にJR 西 日 本 やJR 東 海 JR 北 海 道 JR 九 州 では Suicaと 同 様 なサービスが 展 開 されており 今 後 のJR 系 では JR 四 国 も 導 入 を 予 定 している また 私 鉄 でも 増 える 予 定 である 関 西 のPiTaPaはポストペイ 型 で 既 にサービスを 開 始 して おり 関 東 のPASMOもプリペイド 型 で2007 年 度 にサ ービスを 開 始 した 今 後 は 名 古 屋 鉄 道 も 導 入 を 予 定 している この 他 香 川 県 の 琴 電 では 自 社 の 鉄 道 に 付 随 する 独 自 の 電 子 マネーを 提 供 している また 2008 年 7 月 から 首 都 圏 でも 利 用 開 始 となった taspo(たばこ 成 人 識 別 カード)に 搭 載 されているPidel も 電 子 マネー 機 能 を 持 つ この 利 用 額 は 徐 々に 増 え ていくであろう 他 に 自 治 体 が 後 押 しする 地 域 通 貨 的 な 非 接 触 型 ICカードを 用 いた 電 子 マネー( 鉄 道 系 との 連 携 など)も 検 討 されている さらに ポイント 制 度 と 同 様 に 少 子 化 で 競 争 が 激 しくなり 国 立 大 学 法 人 化 後 に 独 自 性 も 重 要 とな ってきた 大 学 で 導 入 され 始 めている 例 えば 九 州 大 学 では 全 学 共 通 ICカード 導 入 プロジェクトとし て 電 子 マネーも 導 入 している 新 キャンパス 移 転 に 伴 った 学 生 職 員 や 地 域 住 民 企 業 他 大 学 が 一 体 となった 新 技 術 活 用 の 構 想 である 中 立 的 な 国 立 大 学 が 中 心 となることで 提 携 を 容 易 にし 周 辺 の 技 術 開 発 を 促 す 狙 いもあった 2007 年 7 月 の 発 行 枚 数 は 5,000 枚 ( 全 学 5 万 人 の 約 1 割 : 特 に 工 学 系 )であ る 他 に 神 奈 川 工 科 大 学 では Edy 対 応 ICカードお よびIC 付 携 帯 電 話 の 学 生 証 を2006 年 4 月 に 開 始 した 経 緯 としては インフラが キャンパス 再 開 発 を 契 機 に 導 入 し 易 かった 点 が 挙 げられる また 工 科 大 学 という 専 科 の 性 格 上 常 に 先 端 的 なシステムを 体 験 できることも 必 要 であったため 次 世 代 のセンス を 磨 く 便 利 で 楽 しくする という 思 いが 大 学 の イメージ 差 別 化 戦 略 にも 繋 がったとされている 3.2 海 外 の 発 展 領 域 海 外 の 発 展 状 況 に 触 れると イギリスのOysterカー ドや 香 港 のオクトパス( 八 達 通 )カード 韓 国 の T-Moneyカード 中 国 の 北 京 交 通 ICカードなど 鉄 道 系 から 発 展 した 電 子 マネーが 存 在 する 21 これ らは 日 本 のSuicaのようなものであるが 百 万 枚 以 上 発 行 された 独 立 系 のEdyや 流 通 系 のnanaco WAONの 26
安 岡 寛 道 ような 電 子 マネーは 存 在 しない つまり 日 本 ほど 普 及 していないと 言 える 海 外 で 普 及 済 みなのは 鉄 道 系 のICカードである 非 接 触 ICを 用 いた 鉄 道 乗 車 券 は 多 くの 都 市 で 実 用 化 済 みであり 表 2のように 鉄 道 系 が 多 い 但 し こ の 表 の 通 り 小 売 や 公 共 カードにも 広 がっているが 小 売 での 普 及 状 況 は 日 本 ほどではない 表 2: 主 な 電 子 マネー( 前 払 式 ) 分 類 場 所 サービス 名 イギリス ロンドン Oyster 中 国 上 海 上 海 交 通 カード 中 国 北 京 北 京 公 共 交 通 カード 中 国 深 セン 深 セントランスカード 中 国 香 港 オクトパス 鉄 道 韓 国 T-Money ( 交 通 ) 台 湾 台 北 Easy Card 台 湾 高 雄 I Pass マレーシア Touch n Go シンガポール EZ-Link タイ Bangkok Metro Smart バンコク Card 台 湾 セブンイ icash レブン 小 売 シンガポール ( 流 通 ) Cash Card( 接 触 IC) NETs タイ TSCC Smart Purse 公 共 マレーシア MyKad/MEPS Cash なお 電 子 マネーの 媒 体 には 非 接 触 IC カードが 使 われている 場 合 が 多 い 主 な 非 接 触 IC カードとし て TypeA TypeB 及 び FeliCa が 存 在 する TypeA はフィリップス(オランダ)などが 開 発 し た 仕 様 であり ヨーロッパ 北 米 南 米 アジア オセアニアで 採 用 され 発 行 数 が 最 も 多 い 仕 様 であ る また TypeB は モトローラ( 米 国 )などが 開 発 した 仕 様 であり 北 米 ヨーロッパ 等 で 採 用 され ている 一 方 日 本 の 民 間 企 業 の 多 くで 採 用 されている ソニーが 開 発 した FeliCa は 高 速 処 理 が 可 能 である が OS が 規 格 化 されるために 柔 軟 性 に 欠 け かつ 高 価 である 従 って TypeA や TypeB は 国 際 規 格 の ISO/IEC7016 に 準 拠 するという 要 件 だけで OS の 自 由 度 が 高 くて 安 価 である 従 って FeliCa は TypeA や TypeB に 比 べて グローバルでは 利 用 が 少 ない なお TypeA や TypeB は 国 際 規 格 であるため 日 本 国 内 においても 住 民 基 本 台 帳 カード 運 転 免 許 証 パスポートなどの 公 的 カード 証 明 証 で 利 用 されて いる また 電 子 マネーのような 非 接 触 IC 決 済 は プリ ペイド 方 式 ( 前 払 式 )だけでなく 今 後 はポストペ イ 方 式 ( 後 払 式 )で クレジットカード 会 社 が 普 及 に 本 腰 を 入 れるはずである 特 に VISAのpayWave MasterCardのPayPassが 本 格 的 な 普 及 を 期 待 されて いる 3.3 電 子 マネーのビジネスモデル 電 子 マネーのビジネスモデルは 現 在 は 単 純 であ る 決 済 手 数 料 として 決 済 額 のうちの 数 %をイシュ アー( 発 行 主 体 )が 採 取 する これは クレジット カードの 加 盟 店 手 数 料 (カード 決 済 額 のうちの 数 %) のモデルと 同 様 である 電 子 マネーは クレジットカードよりも 決 済 額 は 小 さく かつプリペイドの 場 合 は 取 り 損 ないが 基 本 的 に 無 いため 手 数 料 も 小 さくなりがちである 従 って 電 子 マネー 事 業 の 収 益 はクレジットカード 事 業 よりも 小 さくなってしまう また クレジット カード 事 業 には キャッシングやローンのような 別 の 収 益 源 が 存 在 し 実 際 にこちらの 収 益 源 の 方 が クレジットカード 事 業 者 としては 利 益 率 が 高 い 場 合 が 多 い しかし 本 業 を 持 つ 鉄 道 系 や 流 通 系 のイシュアー は 本 業 をサポートするため この 収 益 源 の 小 ささ や 多 少 のコストはカバーできる 鉄 道 系 は 紙 の 切 符 ではなく IC 乗 車 券 に 変 更 したことで 改 札 機 のメンテナンスコストを 削 減 できた さらに 人 が 介 在 しないことによって キセル 防 止 に 繋 がったと されている 22 流 通 系 は 顧 客 の 購 買 行 動 が 把 握 でき 点 としての 情 報 ではなく 線 や 面 としての 情 27
企 業 通 貨 における 電 子 マネーの 現 状 と 将 来 性 報 が 把 握 可 能 になるため 商 圏 分 析 や 顧 客 属 性 に 応 じた 購 買 分 析 が 可 能 になり 出 店 戦 略 やクロスセル アップセルのような 新 たな 収 益 につなげることも 可 能 になる 一 方 で コストには 人 件 費 の 他 に 非 接 触 ICカ ードの 発 行 費 用 それらを 店 舗 で 読 取 るリーダーラ イター センターでデータ 管 理 を 行 うシステムなど の 投 資 運 用 コストがかかる 4. 電 子 マネーにおける 課 題 電 子 マネーは 新 たな 決 済 手 段 として 利 用 されて きた しかし その 購 買 履 歴 のようなライフログを 活 用 したビジネスは 未 だ 発 展 途 上 にある すなわ ち 購 買 分 析 によって 新 たなターゲット 広 告 や 会 員 制 などの 決 済 手 数 料 以 外 の 収 益 源 の 開 発 が 待 たれ るところである このような 新 たなビジネスを 行 う 以 前 に 日 本 全 体 の 法 整 備 の 他 発 行 企 業 利 用 企 業 に 関 わる 以 下 の 課 題 を 克 服 していく 必 要 がある 1 発 行 主 体 の 信 用 発 行 する 企 業 が 倒 産 するような 事 態 がくれば 先 に 示 した 通 り 電 子 マネーは 残 高 の 半 分 を 供 託 して いるため 全 てがなくなってしまう 訳 ではない つ まり ポイント マイレージに 比 べるとリスクは 少 ない しかし 保 有 する 個 人 企 業 の 資 産 が 減 るこ とに 繋 がるため これらは 注 意 が 必 要 である 2 情 報 システムの 安 全 性 発 行 するシステムには 情 報 処 理 スピードも 求 め られ 何 よりも 安 全 性 も 求 められる 災 害 に 対 する バックアップ 外 部 からの 不 正 アクセスの 防 止 個 人 情 報 の 漏 洩 の 防 止 等 さまざまな 安 全 対 策 が 必 要 となってくる 特 に 地 震 大 国 日 本 では 海 外 でのバ ックアップも 視 野 に 入 れる 必 要 があるかもしれない 3 個 人 情 報 の 取 り 扱 い 記 名 式 の 電 子 マネーでは 個 人 情 報 を 提 供 する 場 合 がある 信 用 のある 企 業 では 個 人 情 報 保 護 法 の 制 定 以 後 個 人 情 報 の 取 扱 いに 関 しては かなり 慎 重 になっているため 問 題 は 少 ないであろう しか し 悪 質 な 企 業 が 登 場 すると 本 件 はすぐ 問 題 視 さ れてしまう 従 って 十 分 注 意 をする 必 要 がある 但 し 個 人 情 報 を 単 に 面 倒 なものとして 捨 てるので はなく 顧 客 ニーズを 掴 む 貴 重 な 情 報 として 必 要 な 情 報 に 絞 って 活 用 すべきである つまり 今 後 の 成 長 のため 戦 略 的 な 活 用 を 検 討 する 必 要 がある 4 法 定 通 貨 との 関 係 性 電 子 マネーにポイント マイレージを 含 む 企 業 通 貨 が 法 定 通 貨 の 流 通 を 上 回 るような 事 態 は 当 面 来 な いと 思 われる しかし B to B の 企 業 通 貨 ( 電 子 債 権 等 )の 流 通 も 加 わって 数 兆 円 以 上 で 価 値 移 動 が 起 きた 場 合 には 国 の 金 融 政 策 への 影 響 も 見 逃 せな い 特 に 現 在 際 立 って 流 通 に 歯 止 めをかける 必 要 はないが 発 行 主 体 の 信 用 度 や 発 行 額 の 情 報 開 示 が 重 要 となってくる 5 税 金 の 扱 い 国 際 間 で 利 用 される 場 合 には 国 ごとの 税 金 の 問 題 をいかに 処 理 するかが 問 題 となる 税 金 の 制 度 は 国 によって 異 なる これらに 関 して 国 家 間 で 基 準 を 作 ることも 今 後 必 要 となってくる 可 能 性 がある 6 発 行 利 用 の 意 味 の 再 認 識 そもそも 小 額 決 済 用 の 電 子 マネーをなぜ 発 行 する のか 消 費 者 の 利 便 性 などのためにインフラとして 活 用 するのみでなく やはりビジネスとして 根 付 か せなくてはならない すなわち 消 費 者 の 料 金 支 払 がスピーディになり それを 消 費 者 が 利 用 すること によってポイントを 付 与 するだけでなく その 情 報 を 活 用 して 新 たなビジネスを 創 生 していかなければ 意 味 がない それは 直 接 的 な 収 益 だけでなく 間 接 的 な 収 益 にも 繋 げていかなければならない さらに 利 用 する 企 業 ( 加 盟 店 など)もそれらを 上 手 く 活 用 していかなければ 消 費 者 の 利 便 性 と 決 済 手 数 料 を 支 払 うだけのインフラになってしまう これらを 上 手 く 活 用 した 企 業 が 将 来 に 渡 って 顧 客 を しっかりと 繋 ぎとめていくことが 可 能 になるはずで ある 28
安 岡 寛 道 5. 電 子 マネーの 将 来 性 前 述 のように 課 題 も 多 々 存 在 するが 日 本 では 他 国 で 類 を 見 ないほど 電 子 マネーが 発 展 してきた しかし 特 に 電 子 マネーは 小 額 決 済 という 特 徴 が あり その 手 数 料 を 採 取 するビジネスだけでは 今 のところ 収 益 が 小 さく 単 体 で 成 り 立 つビジネスで は 無 いということも 明 らかになってきた 従 って 電 子 マネーの 利 用 で 得 られた 情 報 を 活 用 して 次 の 購 買 を 促 進 していくような 新 たなビジネス( 例 : 購 買 行 動 履 歴 のようなライフログを 活 用 したビジネ ス)が 必 要 である このような 状 況 の 中 で 単 に 電 子 マネーを 一 般 の 貨 幣 の 代 替 として 規 制 を 強 化 しす ぎてしまうと 日 本 独 自 に 発 展 してきたビジネスの 成 長 が 阻 害 され バブル 崩 壊 やリーマンショック 後 に 徐 々に 上 向 きかけた 日 本 経 済 に 水 を 差 すことにも なりかねない 一 般 的 に 規 制 が 緩 和 され 競 争 が 激 化 すると 新 たなビジネスが 創 生 される そこで このような 電 子 マネーをより 健 全 な 新 たなツールに 育 成 し 未 来 の 日 本 の 経 済 活 性 化 をさらに 促 していくべきであ ろうと 考 えられる 参 考 文 献 1 岩 田 昭 男 電 子 マネー 戦 争 Suica 一 人 勝 ちの 秘 密 魔 法 のカードの 開 発 秘 話 と 成 功 の 軌 跡 中 経 出 版 2005 年 2 月 2 岩 田 昭 男 電 子 マネー 最 終 戦 争 洋 泉 社 2007 年 4 月 3 岩 田 昭 男 図 解 電 子 マネー 業 界 ハンドブック Ver.1 東 洋 経 済 新 報 社 2008 年 4 月 4 竹 内 一 正 Suica Edy ICOCA 電 子 マネー ビ ジネスのしくみ ぱる 出 版 2006 年 4 月 5 竹 内 一 正 電 子 マネーのすべてがわかる 本 Suica PASMO Edy ICOCA PiTaPa ぱる 出 版 2007 年 6 月 6 磯 崎 マスミ 図 解 電 子 マネーの 技 術 とサービ ス ( 知 りたい!テクノロジー) 技 術 評 論 社 2006 年 6 月 7 磯 崎 マスミ 本 格 普 及 へ 向 かう 電 子 マネーのす べて 毎 日 コミュニケーションズ 2007 年 11 月 8 高 野 雅 晴 新 しいお 金 電 子 マネー ポイント 仮 想 通 貨 の 大 混 戦 が 始 まる アスキー 2007 年 3 月 9 渡 部 和 雄 岩 崎 邦 彦 非 接 触 IC カード 型 電 子 マネーに 対 する 消 費 者 の 意 識 と 普 及 の 課 題 利 用 者 と 非 利 用 者 交 通 系 と 流 通 系 地 域 によ る 意 識 の 差 異 と 利 用 者 動 向 の 分 析 経 営 情 報 学 会 誌 Vol.17 No.4 2009 年 3 月 13-36 ページ 10 野 村 総 合 研 究 所 情 報 通 信 コンサルティング 一 部 企 業 通 貨 プロジェクトチーム 2010 年 の 企 業 通 貨 グーグルゾン 時 代 のポイントエコ ノミー 東 洋 経 済 新 報 社 2006 年 9 月 11 野 村 総 合 研 究 所 企 業 通 貨 プロジェクトチー ム 企 業 通 貨 マーケティング 次 世 代 ポイン ト 電 子 マネー 活 用 のすすめ 東 洋 経 済 新 報 社 2008 年 3 月 12 野 村 総 合 研 究 所 IDビジネスプロジェクトチ ーム 2015 年 のIDビジネス 1 枚 のカードで 自 販 機 から 公 的 認 証 まで 東 洋 経 済 新 報 社 2009 年 4 月 13 安 岡 寛 道 週 刊 ダイヤモンド 2006 年 12 月 30 日 2007 年 1 月 6 日 新 年 合 併 号 特 集 総 予 測 2007 年 好 機 と 激 動 の 3 年 [ 電 子 マネー] nanaco でさらに 拡 大 郵 政 民 営 化 で 競 争 激 化 ダイ ヤモンド 社 2006 年 12 月 pp.107 14 岩 原 紳 作 電 子 決 済 と 法 有 斐 閣 2003 年 11 月 15 岩 原 紳 作 決 済 法 制 の 再 検 討 ( 総 論 ) 旬 刊 金 融 法 務 事 情 2008 年 8 月 5 15 日 号 (1842 号 ) 金 融 財 政 事 情 研 究 会 2008 年 8 月 16 片 岡 義 広 電 子 マネー 法 制 の 論 議 と 前 金 保 全 旬 刊 金 融 法 務 事 情 2008 年 8 月 25 日 号 (1843 号 ) 金 融 財 政 事 情 研 究 会 2008 年 8 月 17 経 済 産 業 省 商 務 流 通 グループ 流 通 政 策 課 企 業 ポイントのさらなる 発 展 と 活 用 に 向 け て 同 省 企 業 ポイント 研 究 会 報 告 書 2007 年 7 月 18 経 済 産 業 省 商 務 流 通 グループ 流 通 政 策 課 企 業 ポイントの 法 的 性 質 と 消 費 者 保 護 のあ り 方 に 関 する 研 究 会 の 報 告 書 及 びガイドライ 29
企 業 通 貨 における 電 子 マネーの 現 状 と 将 来 性 ン( 企 業 ポイントに 関 する 消 費 者 保 護 のあり 方 ) 同 省 2009 年 1 月 19 金 融 庁 ( 金 融 研 究 研 修 センター) 決 済 に 関 す る 論 点 の 中 間 的 な 整 理 について 同 センター 決 済 に 関 する 研 究 会 報 告 書 2007 年 12 月 20 金 融 庁 ( 金 融 審 議 会 金 融 分 科 会 第 二 部 会 ) 資 金 決 済 に 関 する 制 度 整 備 について -イノベ ーションの 促 進 と 消 費 者 保 護 - 同 部 会 報 告 書 2009 年 1 月 21 山 下 徹 世 界 のペイメントカード シーメデ ィア 2004 年 4 月 22 椎 橋 章 夫 Suicaが 世 界 を 変 える(JR 東 日 本 が 起 こす 生 活 革 命 ) 東 京 新 聞 出 版 局 2008 年 5 月 (Received:May 31,2009) (Issued in internet Edition:July 1,2009) 30