高 等 学 校 化 学 で 用 いる 用 語 に 関 する 提 案 (2) 日 本 化 学 会 化 学 用 語 検 討 小 委 員 会 本 小 委 員 会 は, 中 学 高 校 教 科 書 と 大 学 入 試 で 使 われる 用 語 の 一 部 につき, 望 ましい 姿 を 検 討 してきた 検 討 にあたっては, 学 習 者 に 過 度 な 負 担 をかけずに 教 育 効 果 が 上 がるよ う 留 意 しつつ,おもに 下 記 3 点 を 考 慮 した 1 本 来 の 意 味 が 十 分 に 伝 わるか 2 大 学 で 行 われる 教 育 研 究 との 整 合 性 がよいか 3 国 境 なき 自 然 科 学 の 一 教 科 として, 国 際 慣 行 に 合 致 するか 注 目 した 用 語 等 ( 約 30 個 )のうち 15 個 に 関 する 提 案 (1) は 2015 年 4 月, 化 学 と 工 業 誌 (68, No.4, 363-365)と 化 学 と 教 育 誌 (63, No.4, 204-206)に 公 表 した 引 き 続 き 今 回 は, 科 目 化 学 に 関 係 するもの 主 体 の 用 語 等 14 個 の 検 討 結 果 につき,2015 年 7~8 月 の 45 日 間 に 日 本 化 学 会 ホームページ 上 で 化 学 用 語 に 関 する 意 見 募 集 (その 2) を 行 い, 計 49 名 の 会 員 等 から 賛 否 とコメントを 受 領 した( 詳 細 は 末 尾 の URL 参 照 ) その 結 果, 本 小 委 員 会 の 案 には, 用 語 9 個 の 全 部 で 72% 以 上, 表 現 法 1 個 ( 反 応 熱 など) で 59%, 法 則 名 1 個 ( 質 量 作 用 の 法 則 )で 66%の 賛 同 を 得 た ただし, 法 則 名 3 個 ( 気 体 反 応 の 法 則, 定 比 例 の 法 則, 倍 数 比 例 の 法 則 )については, 約 70%が 現 状 からの 変 更 に は 賛 同 としながらも,どのような 改 訂 案 がふさわしいかで 意 見 が 割 れた そこで, 法 則 名 3 個 については 今 後 改 めて 会 員 等 の 意 見 を 徴 することとし, 用 語 9 個, 表 現 法 1 個, 法 則 名 1 個 ( 計 11 個 )につき, 下 記 のように 提 案 する 本 提 案 は,2015 年 11 月 30 日 に 日 本 化 学 会 の 理 事 会 で 承 認 された 化 学 と 工 業 誌 と 化 学 と 教 育 誌 にも 掲 載 し, 化 学 教 育 と 理 科 教 育 一 般 にかかわる 組 織 等 (メディアを 含 む) 経 由 で 社 会 にも 伝 える 最 終 的 な 提 案 が 中 学 高 校 化 学 教 育 の 改 善 につながるよう 願 う (A) 変 更 (または 不 使 用 )が 望 ましい 用 語 (7 個 ) 1.アルデヒド 基 ( 英 語 aldehyde group) 現 状 高 校 教 科 書 の 大 半 は アルデヒド 基 としている( 最 近 は ホルミル 基 を 併 記 したものもある) 案 ホルミル 基 ( 英 語 formyl group) とする アルデヒド 基 は 使 わない 理 由 背 景 IUPAC 命 名 法 ( 日 本 化 学 会 命 名 法 専 門 委 員 会 化 合 物 命 名 法, 東 京 化 学 同 人,2011 年 )が ホルミル 基 としているため,それに 合 わせるのがよい 補 足 有 機 化 合 物 の 分 類 と 官 能 基 等 との 対 応 を 示 すには, 次 のような 表 を 使 うのがよい (4.ケトン 基 の 項 も 参 照 )
1 おもな 有 機 化 合 物 の 分 類 と 官 能 基 ( 結 合 ) 分 類 官 能 基 ( 結 合 ) 化 合 物 の 例 *** アルコール CH 3 OH ヒドロキシ 基 -OH フェノール 類 C 6 H 5 OH エーテル (エーテル 結 合 )-O- CH 3 OCH 3 アルデヒド* ホルミル 基 -CH=O CH 3 CHO ケトン カルボニル 基 ** >C=O CH 3 COCH 3 カルボン 酸 * カルボキシ 基 -COOH CH 3 COOH エステル* (エステル 結 合 )-COO- CH 3 COOCH 3 ニトロ 化 合 物 ニトロ 基 -NO 2 C 6 H 5 NO 2 スルホン 酸 スルホ 基 -SO 3 H C 6 H 5 SO 3 H アミン アミノ 基 -NH 2 C 6 H 5 NH 2 * 官 能 基 の C 原 子 と 結 合 するのは C 原 子 でも H 原 子 でもよい( 他 の 分 類 で 官 能 基 と 結 合 するのは C 原 子 に 限 る) ** アルデヒドやカルボン 酸 エステルの>C=O 部 分 もカルボニル 基 に 含 めることがある *** 一 例 を 挙 げたが, 本 小 委 員 会 が 掲 載 を 推 奨 するものではない 2. 活 性 化 状 態 ( 英 語 activated state) 現 状 遷 移 状 態 を 表 すのに, 日 本 の 高 校 教 科 書 だけで 使 われている 案 遷 移 状 態 (transition state) に 変 更 する 理 由 背 景 化 学 には 活 性 化 された 状 態 が 多 いため, 一 般 社 会 でも 専 門 家 コミュニ ティでも 誤 解 を 招 きやすい 大 学 で 遷 移 状 態 を 教 わるとき,ほかの 活 性 化 された 状 態 も 遷 移 状 態 の 類 だと 誤 解 しかねない 反 応 論 の 前 に 学 んだ 遷 移 元 素 と 混 同 しないよう, 教 員 が 適 切 に 補 足 すればよい 補 足 化 学 反 応 は, 十 分 なエネルギー( 活 性 化 エネルギー に 相 当 する)を 得 て 遷 移 状 態 ( 反 応 物 から 生 成 物 へ 移 ( 遷 )れる 状 態 )に 達 する という 説 明 になる 3. 幾 何 異 性 体 ( 英 語 geometric isomers) 現 状 幾 何 異 性 体 と シス-トランス 異 性 体 が( 通 常 は 両 者 の 関 係 を 説 明 しつつ) 混 在 している 案 シス-トランス 異 性 体 ( 英 語 cis-trans isomers) に 一 本 化 する ただし, シス-ト ランス 異 性 体 ( 幾 何 異 性 体 ) のようにカッコ 書 きで 併 記 してもよい 理 由 背 景 高 校 化 学 の 幾 何 異 性 体 はシス-トランス 異 性 体 に 限 られる 4.ケトン 基 ( 英 語 ketone group) 現 状 一 部 の 高 校 教 科 書 が,>C=O を ケトン 基 と 呼 んでいる( 正 しく カルボニル 基 と 書 いた 教 科 書 は 多 い) 案 >C=O は カルボニル 基 (carbonyl group) とする ケトン 基 は 使 わない 理 由 背 景 IUPAC 命 名 法 ( 日 本 化 学 会 命 名 法 専 門 委 員 会 化 合 物 命 名 法, 東 京 化 学 同
2 人,2011 年 )が カルボニル 基 としているため,それに 合 わせるのがよい (1.アルデヒド 基 の 項 も 参 照 ) 5. 光 学 異 性 体 ( 英 語 optical isomer) 現 状 多 くの 高 校 教 科 書 には, 光 学 異 性 体 と 鏡 像 異 性 体 が( 通 常 は 両 者 の 関 係 を 説 明 しつつ) 混 在 している 案 鏡 像 異 性 体 に 一 本 化 する 理 由 背 景 光 学 異 性 体 は, 立 体 化 学 の 概 念 が 固 まる 前, 光 学 的 性 質 の 差 に 注 目 して 生 まれた 用 語 だといえる IUPAC は Gold Book で optical isomer を 時 代 遅 れ の 用 語 とし, 使 わないよう 強 く 勧 告 している 6. 沸 点 上 昇 度 凝 固 点 降 下 度 ( 英 語 boiling-point elevation,freezing-point depression) 現 状 高 校 教 科 書 の 多 くでは, 現 象 を 沸 点 上 昇, T b を 沸 点 上 昇 度 と 区 別 する 案 沸 点 上 昇, 凝 固 点 降 下 に 統 一 する 理 由 背 景 両 者 を 用 語 的 に 区 別 した 英 語 圏 の 教 科 書 は 見 当 たらない 7. 両 性 元 素 ( 英 語 amphoteric element) 現 状 高 校 でほぼ 例 外 なく 使 われる 案 両 性 は, 両 性 を 示 す 物 質 群 の 修 飾 語 として 使 う ( 例 : 両 性 金 属, 両 性 酸 化 物 ) 理 由 背 景 両 性 は 物 質 の 性 質 を 表 すため, 元 素 と 組 み 合 わせるのは 論 理 的 にお かしい 英 語 amphoteric element の element は 単 体 を 指 す( 元 素 と 訳 すのは 誤 り) 両 性 を 示 す 単 体 ( 亜 鉛,スズ, 鉛,アルミニウム 等 )はどれも 金 属 だから, 用 法 として 両 性 金 属 は 正 しい (B) 用 法 使 用 範 囲 を 見 直 すべき 用 語 (2 個 ) 8. 化 合 現 状 [ 高 校 教 科 書 ] 分 解 ( 水 水 素 + 酸 素 )と 化 合 ( 水 素 + 酸 素 水 )に 言 及 した 教 科 書 も 少 しある [ 中 学 教 科 書 ] 例 外 なく 分 解 と 化 合 ( 酸 化 は 酸 素 との 化 合,など) の 二 分 法 を 強 調 している 案 中 学 校 では, 単 体 どうしの 反 応 だけに 使 用 を 限 る 化 合 物 (この 用 語 に 問 題 はない) は 2 種 類 以 上 の 原 子 からなる 物 質 だから, 化 合 物 は 化 合 により 生 じる とい う 記 述 をやめる 理 由 背 景 中 学 校 では 酸 化 を 酸 素 との 結 合 に 限 るため, 鉄 + 硫 黄 硫 化 鉄 は 化 合 以 外 に 表 現 できない そのため, 中 学 理 科 と, 酸 化 還 元 が 未 習 段 階 の 高 校 化 学 から 化 合 を 即 座 に 排 除 するのはむずかしいが, 将 来 的 には 中 学 高 校 に 残 すべきではない 9. 二 酸 化 マンガン, 酸 化 マンガン(IV)
3 現 状 中 学 教 科 書 は 二 酸 化 マンガン (manganese dioxide)と 呼 び, 高 校 教 科 書 は(そ れを 完 全 に 排 除 して) 酸 化 マンガン(Ⅳ)(manganese(Ⅳ) oxide) と 呼 ぶ 案 両 方 の 表 記 を 認 める( 併 記 するか, 脚 注 に 記 載 ) 理 由 背 景 二 酸 化 マンガン は IUPAC も 認 める 表 記 なので, 排 除 する 理 由 はない (C) 見 直 すべき 表 現 法 (1 件 ) 10. 反 応 熱 などの 符 号 現 状 日 本 の 高 校 では,N 2 (g) + 3 H 2 (g) = 2 NH 3 (g) + 92 kj のような 表 記 を 熱 化 学 方 程 式 と 呼 び, 発 熱 を 正 値, 吸 熱 を 負 値 で 表 す 案 ( 中 長 期 的 な 視 点 に 立 てば) 化 学 反 応 で 出 入 りする 熱 は,エンタルピー 変 化 H で 表 すのが 望 ましい 理 由 背 景 大 学 の 化 学 熱 力 学 では H を 使 うため, 発 熱 吸 熱 の 符 号 が 逆 転 する 日 本 の 熱 化 学 方 程 式 は, 古 い Pauling 一 般 化 学 などの 表 記 を 引 き 継 いだものだ ろうが,いま 欧 米 では 高 校 でも H を 使 い, 日 本 と 同 じ 表 記 法 の 教 科 書 は 見 当 たら ない[ 反 応 式 (N 2 (g) + 3 H 2 (g) 2 NH 3 (g))とエンタルピー 変 化 ( H = -92 kj) のセットを thermochemical equation と 呼 ぶ] エンタルピーを 教 える 手 間 は 増 す ものの, 本 件 では 大 学 への 接 続 を 主 眼 とするのが 望 ましい 補 足 意 見 募 集 では 直 ちに 変 えるのは 時 期 尚 早 との 声 も 少 なからずあったため, さしあたり 教 科 書 では, 発 展 的 内 容 などとして 併 記 するにとどめるのもやむを 得 ないかも 知 れない (D) 変 更 が 望 ましい 法 則 名 (1 個 ) 11. 質 量 作 用 の 法 則 ( 英 語 mass action law,law of mass action) 現 状 高 校 大 学 でほぼ 例 外 なく 使 われる 案 意 訳 にはなるが, 化 学 平 衡 の 法 則 に 変 更 する 理 由 背 景 mass の 第 一 義 は 集 団 ( 第 二 義 が 質 量 )なので, 一 定 体 積 中 の 集 団 = 濃 度 の 意 味 になる( 文 字 どおりに 訳 せば 濃 度 作 用 の 法 則 ) かつて 濃 度 を 活 性 質 量 と 表 した 名 残 だとしても, 質 量 のままでは 誤 解 を 招 きやすい 補 足 すでに 化 学 平 衡 の 法 則 を 使 っている 高 校 教 科 書 もある 化 学 用 語 検 討 小 委 員 会 委 員 ( 委 員 長 ) 委 員 伊 藤 眞 人 ( 創 価 大 学 ) 井 上 正 之 ( 東 京 理 科 大 学 ) 歌 川 晶 子 ( 多 摩 大 学 附 属 聖 ヶ 丘 高 等 学 校 ) 小 坂 田 耕 太 郎 ( 東 京 工 業 大 学 ) 梶 山 正 明 ( 筑 波 大 学 附 属 駒 場 中 高 等 学 校 ) 柄 山 正 樹 ( 東 洋 大 学 )
4 下 井 守 ( 東 京 大 学 名 誉 教 授 ) 杉 村 秀 幸 ( 青 山 学 院 大 学 ) 西 原 寛 ( 東 京 大 学 ) 渡 辺 正 ( 東 京 理 科 大 学 ) 渡 部 智 博 ( 立 教 新 座 中 学 高 等 学 校 ) オブザーバー 後 藤 顕 一 ( 国 立 教 育 政 策 研 究 所 ) 化 学 用 語 に 関 する 意 見 募 集 集 計 結 果 https://event.csj.jp/form/yogo2/